説明

滑り止め付き吸音フロアマット裏材とその製造方法

【課題】原材料を余分に使うことなく、簡易に製造でき、軽量であり、吸音性及び通気性に優れ、しかも滑り止め機能も十分に得られる滑り止め付き吸音フロアマット裏材を提供する。
【解決手段】滑り止め付き吸音フロアマット裏材3は、最多でも90重量%のポリエチレンテレフタレート短繊維と、残部が融点200℃以下の低融点短繊維との混綿からなる目付量200〜2000g/mのニードルパンチ不織布の片面がエンボス加工により凸凹形状に成形されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り止め性に優れた自動車用吸音フロアマット裏材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転席や客座席の足位置には、通常、フロアマットが敷かれる。
【0003】
例えば図7に示すように、自動車ボディの鉄板9の上に内張り不織布10が敷かれ、その上に内装マット11でカバーされ、その上にフロアマット8が敷かれる。かかるフロアマット8は使い心地の良さを得るため保温性、感触、通気性、吸音性などとともに軽量であることが求められる。同時に内装マット11の上に敷かれる都合上、マット間の滑りが問題となる。内装マット11とフロアマット8の間に網12を挟み込んで滑り止めにしていることも多い。しかし、網12は挟み込む際にたくし上げられたり、折れたりして、うまく挟むのに手間がかかる。通常フロアマットは、内装マットと接する裏側に滑り止め加工を施す。近年、滑り止め加工の主流は、塩ビ、ゴム等の樹脂を主素材としたスパイクバッキングから吸音仕様へと移ってきた。これに伴い、吸音仕様に必須である通気性が主素材に求められている。現在、吸音仕様のフロアマット裏材の滑り止め加工として、滑り止め樹脂加工したものや毛羽焼きタイプなどがある。
【0004】
特許文献1には、自動車のフロアマットとしても使用可能な通気遮水マットが記載されている。このマットは、不織布の裏打ち面に粒状樹脂を付着させた構造となっている。しかしながら、このマットは、通気、遮水といった機能を重視しているため、構成が複雑であり、製造にも手間がかかる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−261798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のマットで滑り止め機能を備えたものは、構造が複雑であるため、重量がかさみやすく、製造にも手間がかかり高コストになるという問題点が指摘されている。本発明は、従来の問題点を解消するためになされたもので、原材料を余分に使うことなく、簡易に製造でき、軽量であり、吸音性及び通気性に優れ、しかも滑り止め機能も十分に得られる滑り止め付き吸音フロアマット裏材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の滑り止め付き吸音フロアマット裏材は、最多でも90重量%のポリエチレンテレフタレート短繊維と、残部が融点200℃以下の低融点短繊維との混綿からなる目付量200〜2000g/mのニードルパンチ不織布の片面がエンボス加工により凸凹形状に成形されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の滑り止め付き吸音フロアマット裏材は、請求項1に記載されたもので、該ニードルパンチ不織布の前記凸凹形状に成形される面が立毛加工されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の滑り止め付き吸音フロアマット裏材は、請求項1に記載されたもので、該ニードルパンチ不織布が、成型滑り止め層と吸音層とをニードルパンチ加工により貼り合わせて二層としたニードルパンチ不織布であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の滑り止め付き吸音フロアマット裏材の製造方法は、ポリエチレンテレフタレート短繊維と融点が200℃以下の低融点短繊維との混綿からなるニードルパンチ不織布の片面を、加熱しながら又は加熱した後、エンボスローラーにて凸凹形状に成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の滑り止め付き吸音フロアマット裏材は、フロアマットの裏面に貼り付けられて、凸凹形状により十分な滑り止め効果がある。滑り止め機能を付加するための構造が単純であるため、従来の塩化ビニル樹脂を使用して重量構造による滑り止め機能を付加したものに較べ、軽量化が可能となった。また原料の繊維素材を単一素材にしてあるので、安価でコストダウンになると同時に、リサイクル、再生が容易であり、再生材料の使用率を上げることができる。
【0012】
また、本発明の滑り止め付き吸音フロアマット裏材は、不織布からなるので、吸音性、通気性に優れている。さらに、滑り止め付き吸音フロアマット裏材を、成型滑り止め層と吸音層との二層構造にすることができる。これにより、滑り止め付き吸音フロアマット裏材の吸音性をより向上させることができる。
【0013】
本発明の滑り止め付き吸音フロアマット裏材の製造方法によれば、作業工程が単純であるため、滑り止め付き吸音フロアマット裏材を高効率に、安価に製造できる。本発明の方法は、溶媒を使用しないため環境に対する負荷がないし、溶媒乾燥のためのエネルギー消費もない。
【0014】
本発明の滑り止め付き吸音フロアマット裏材は、自動車のフロアマットの裏材のみならず、部屋敷きマット、玄関マット、トイレマット、キッチンマット、バスマット、航空機用マットなど、あらゆる分野に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を図面により説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の滑り止め付き吸音フロアマット裏材3は、ポリエチレンテレフタレート短繊維(PET短繊維)と融点が200度以下の低融点短繊維とのニードルパンチ不織布からなり、片面に凸部6と凹部7との凸凹形状を有する。
【0017】
本発明の滑り止め付き吸音フロアマット裏材3は、以下のように製造される。
【0018】
所定目付量のPET短繊維及び融点が200度以下の低融点短繊維を混綿したウェブにニードルパンチ加工を施し、フェルト状のニードルパンチ不織布を製造する。図5のように、ニードルパンチ不織布20を走行させ、その片面を遠赤外線ヒーター16で加熱し、管14に冷却水が通水しているエンボスローラ−15によりエンボス加工をする。以上の工程で滑り止め付き吸音フロアマット裏材が完成する。
【0019】
図2は、立毛加工した不織布21にエンボス型19による加工により凸凹形状に成形し、吸音フロアマット裏材を得る例が示してある。この加工例では、エンボス加工の際、エンボス型19は立毛13の隙間に容易に入り込み、深い凸凹形状の成形も可能である。また得られた吸音フロアマット裏材は、経時復元による凸凹形状の平坦化がしにくい。
【0020】
図3は、別のタイプの滑り止め付き吸音フロアマット裏材3の断面図を示している。この滑り止め付き吸音フロアマット裏材は、成形滑り止め層1と吸音層2とを貼り合わせて二層としたニードルパンチ不織布を、エンボス加工して凹凸の凸凹形状に成形してある。この吸音層は、使用する材料を変えることで用途に応じた性能を付加することができる。
【0021】
図4のように、本発明の滑り止め付き吸音フロアマット裏材3は、フロアマット表層材5に接着層4で貼付けられ、フロアマット8が完成する。フロアマット8は、自動車ボディの鉄板9の上の内張り不織布10をカバーする内装マット11の上に敷かれる。フロアマット表層材5の形状は、タフテッドカーペット、立毛タイプのニードルパンチ不織布などが挙げられる。
【0022】
図6は、滑り止め付き吸音フロアマット裏材の別な製造工程の例を示している。ニードルパンチ不織布20を走行させ、ヒーター17で温められた加熱エンボスローラー18によりエンボス加工を施し送風冷却して、滑り止め付き吸音フロアマット裏材3を得る。
【0023】
本発明で使用する融点が200℃以下の低融点短繊維として、ポリプロピレン短繊維(PP短繊維)、ポリ乳酸短繊維(PLA短繊維)、低融点ポリエチレンテレフタレート短繊維(低融点PET短繊維)、ポリエチレン短繊維(PE短繊維)などが挙げられる。
【0024】
エンボス加工による表面の形状は、滑り止め機能を示す凸凹形状であればよく、様々なものを使用することができる。
【0025】
前記凸凹形状として、具体的には、ピラミッド型、ダイヤ型、突起型、スパイク型のような形状が挙げられる。
【0026】
立毛加工による形状として、ベロアタイプ、コードタイプ、ディロアタイプが挙げられる。
【0027】
ニードルパンチ不織布は、エンボス加工前に熱処理加工を施してもよい。熱処理加工により、低融点短繊維は溶融し、その後固化して、それ以外の短繊維と固まった状態になる。これにより、異なる短繊維同士の結合性を向上させることができる。熱処理加工として、サクション加工、ドライヤー加工などが挙げられる。
【0028】
必要に応じて、天然繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維を混綿してもよい。
【0029】
具体的には、羊毛、獣毛、絹、木綿、麻、木材パルプ、ガラス繊維のような天然繊維;ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリ乳酸、アクリル、ビニロン、ポリエステルのような合成繊維;アセテートような半合成繊維;レーヨン、ポリノジック、リヨセル、テンセルのような再生繊維が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の滑り止め付き吸音フロアマット裏材を試作した実施例を詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
低融点ポリエステル短繊維とPET短繊維とを重量比30:70で混綿し、カード及びレイヤーを通過させてウェブを得た。このウェブをニードルパンチで接合し、650g/mニードルパンチ不織布を得た。
【0032】
このニードルパンチ不織布の片面に、フォーク針により立毛加工を施し、ベロアタイプのニードルパンチ不織布を得た。
【0033】
このベロアタイプの不織布の立毛加工面を遠赤外線ヒーターにて加熱し、中心の管に冷却水が通水してあるスパイク形状のエンボスローラ−でエンボス加工を施した。こうして加熱によって融解した低融点ポリエステル短繊維は該スパイク形状に成形され、滑り止め付き吸音フロアマット裏材を得た。
【0034】
(実施例2)
低融点ポリエステル短繊維とPP短繊維とPET短繊維とを重量比10:50:40で混綿し、カード及びレイヤーを通過させてウェブを得た。このウェブをニードルパンチで接合し、650g/mニードルパンチ不織布を得た。
【0035】
このニードルパンチ不織布を、サクションにて熱処理加工を施した。PP短繊維およびPET短繊維は、少量の低融点ポリエステル短繊維が溶融した後固化して固められた状態になって熱融着不織布を得た。
【0036】
この熱融着不織布の片面を遠赤外線ヒーターにて加熱し、中心の管に冷却水が通水してあるスパイク形状のエンボスローラ−でエンボス加工を施した。こうして加熱によって融解した低融点ポリエステル短繊維およびPP短繊維は該スパイク形状に成形され、滑り止め付き吸音フロアマット裏材を得た。
【0037】
(実施例3)
低融点ポリエステル短繊維とPP短繊維とPET短繊維とを重量比10:50:40で混綿した成型滑り止め用ウェブ300g/mと、低融点ポリエステル短繊維とPET短繊維とを重量比10:90で混綿した吸音用ウェブ350g/mとを重ね合わせたのち、ニードルパンチで接合し、650g/mのニードルパンチ不織布を得た。
【0038】
このニードルパンチ不織布を、サクションにて熱処理加工を施した。PP短繊維およびPET短繊維は、少量の低融点ポリエステル短繊維が溶融した後固化して固められた状態になって二層構造の熱融着不織布を得た。
【0039】
この二層構造の熱融着不織布の成型滑り止め用の面を遠赤外線ヒーターにて加熱し、中心の管に冷却水が通水してあるスパイク形状のエンボスローラ−でエンボス加工を施した。こうして加熱によって融解した低融点ポリエステル短繊維およびPP短繊維は該スパイク形状に成形され、滑り止め付き吸音フロアマット裏材を得た。
【0040】
(滑り止め性能テスト)
A4サイズ(210mm×290mm)に裁断した滑り止め付き吸音フロアマット裏材の凸凹形状の面を下面にして指定カーペットにのせ、その上に8kg(200mm×200mm)の荷重を加え、滑らせた時の最大荷重を測定した。その結果、十分な滑り止め性能を示した。
【0041】
(通気性能テスト)
180mm×180mmに裁断した試料を作成した。この試料をフラジール型通気試験器の円筒のフランジに取り付け、クランプにて留めた。加減抵抗器によって傾斜型気圧計が水柱12.7mmの圧力を示すように吸引ファンを調整し、そのときの垂直型気圧計の示す圧力と、空気孔の径から試料を通過する空気の量(cm/cm/Sec)を求めた。その結果、所望の通気性能が得られたことが解った。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明を適用する滑り止め付き吸音フロアマット裏材の断面図である。
【0043】
【図2】本発明を適用する別な滑り止め付き吸音フロアマット裏材の製造途中の断面図である。
【0044】
【図3】本発明を適用する別な滑り止め付き吸音フロアマット裏材の断面図である。
【0045】
【図4】本発明を適用する滑り止め付き吸音フロアマット裏材を使用したフロアマットの断面図である。
【0046】
【図5】本発明を適用する滑り止め付き吸音フロアマット裏材の製造工程を示す図である。
【0047】
【図6】本発明を適用する滑り止め付き吸音フロアマット裏材の別な製造工程を示す図である。
【0048】
【図7】本発明適用外のフロアマットの断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1は成形滑り止め層、2は吸音層、3は滑り止め付き吸音フロアマット裏材、4は接着層、5はフロアマット表層材、6は凸部、7は凹部、8はフロアマット、9は自動車ボディの鉄板、10は内張り不織布、11は内装マット、12は網、13は立毛、14は管、15はエンボスローラー、16は遠赤外線ヒーター、17はヒーター、18は加熱エンボスローラー、19はエンボス型、20はニードルパンチ不織布、21は立毛加工した不織布である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最多でも90重量%のポリエチレンテレフタレート短繊維と、残部が融点200℃以下の低融点短繊維との混綿からなる目付量200〜2000g/mのニードルパンチ不織布の片面がエンボス加工により凸凹形状に成形されていることを特徴とする滑り止め付き吸音フロアマット裏材。
【請求項2】
該ニードルパンチ不織布の前記凸凹形状に成形される面が立毛加工されていることを特徴とする請求項1に記載の滑り止め付き吸音フロアマット裏材。
【請求項3】
該ニードルパンチ不織布が、成型滑り止め層と吸音層とをニードルパンチ加工により貼り合わせて二層としたニードルパンチ不織布であることを特徴とする請求項1に記載の滑り止め付き吸音フロアマット裏材。
【請求項4】
ポリエチレンテレフタレート短繊維と融点が200℃以下の低融点短繊維との混綿からなるニードルパンチ不織布の片面を、加熱しながら又は加熱した後、エンボスローラーにて凸凹形状に成形することを特徴とする滑り止め付き吸音フロアマット裏材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−24066(P2008−24066A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196510(P2006−196510)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(504240326)トーア紡マテリアル株式会社 (9)
【Fターム(参考)】