説明

滑り止め性を改善した包装用フィルム

【課題】包装用フィルムからなる包装体の被包装物と接する面側全体の滑り止め性を発現させることにより、包装体内の場所による滑り止め性能の偏りを受けることのなく、袋詰め品の生産効率上昇に寄与でき、しかも製造工程数の少ない滑り止め性を改善した包装用フィルムを提供する。
【解決手段】被包装物と接する内接触面11側となる内側表面層10と包装外面31となる外側表面層30とこれらの間の中間層20とを有する積層フィルム1Sであって、内側表面層は融点を135℃以下とするプロピレン−αオレフィンランダム共重合体50〜100重量%と水添スチレン系エラストマー0〜50重量%とからなり、かつ該内側表面層にはコロナ処理が施されていると共に、中間層は実質的に帯電防止剤を含有していないプロピレン単独共重合体からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り止め性を改善した包装用フィルムに関し、特に被包装物と接する側のフィルム表面を滑りにくくしたことにより被包装物の位置ずれを抑制できる包装資材としての適性を向上させた包装用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、煎餅、あられ、かき餅等の米菓子や、クッキー、ビスケット、ラスク等の焼き菓子の多くは、個々の菓子を所定量ずつ樹脂製フィルムからなる小袋に封入され、個別包装されている。これは、菓子本来の風味、食感の低下を製造後に晒される湿気から保護するためである。個別包装された菓子類の被包装物は、さらにこれらをひとまとめにする樹脂製フィルムの包装体の中に充填され、袋詰め品として流通、陳列、販売される。
【0003】
現在では、被包装物を包装体に充填する工程は機械化が進み省力化されている。図5(a)のように、被包装物の包装体への充填において、はじめに被包装物110はトレー105に所定数載せられ、両端が開口している円筒体の包装体101にトレーごと搬入される。続いて、図5(b)のとおり、両端が開口している包装体101の一側の開口部がヒートシール等により封止される。その後、図5(c)に示すように、包装体の他側の開口部がヒートシール等により封止され、袋詰め品102が出来上がる。図示のトレー105の目的は、被包装物が包装体の内部で不用意に動かなくするためである。しかしながら、環境負荷の軽減に伴う包装資材の省資源化、併せて資材のコスト削減の要請から、前記のトレーは省略されつつある。図中、符号Kは内容物である。
【0004】
トレーを省略して被包装物を包装体に充填する工程の概略は図6として示すことができる。はじめに図6(a)のとおり、両端が開口している円筒体の包装体106の中に被包装物110が所定数搬入される。しかし、図6(b)のように、両端が開口している円筒体の包装体106において、一側の開口部がヒートシールされるとき、包装体106は上下に押されるため被包装物は内部で位置ずれを起こしやすい。そのため、図(c)のように、包装体の他側の開口部に被包装物の一部が達して開口部のヒートシール不良を生じさせる問題があった。このようなヒートシールの不良は「噛み込み」と称され、袋詰め品の生産効率を低下させる要因である。包装体内部での被包装物の位置ずれの原因は、包装体が樹脂フィルムでありその表面は滑りやすいためである。図中、符号Hsはヒートシール装置である。
【0005】
そこで、上記の噛み込みに対処すべく包装体の内部側の滑りやすさの改善を図った包装体が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の包装体によると、包装体の内側、つまり被包装物と接する面側の印刷面に、適宜接着剤(防滑コーティング剤)からなる防滑部が形成されている。包装体内部の被包装物は防滑部の抵抗により位置ずれを生じにくくなった。しかしながら、防滑部の形成は外観上の理由から包装袋の印刷面に制約されていた。
【0006】
また、包装袋のフィルムの樹脂組成を改善したラミネートフィルム等も提案されている(例えば、特許文献2等参照)。ただし、ラミネート化による工程数の増加が避けられない。
【特許文献1】特許第3070052号公報
【特許文献2】特開2003−311895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者は、包装体の被包装物と接する面側の滑り止め性には改善の余地があるとして、鋭意検討を続けた結果、包装体内部における被包装物の位置ずれ抑制作用を向上させた包装用フィルムを得るに至った。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、包装用フィルムからなる包装体の被包装物と接する面自体に滑り止め性を発現させることにより、包装体内の場所による滑り止め性能の偏りを受けることのなく、袋詰め品の生産効率上昇に寄与でき、しかも製造工程数の少ない滑り止め性を改善した包装用フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、請求項1の発明は、被包装物と接する側となる内側表面層と包装外面となる外側表面層とこれらの間の中間層とを有する積層フィルムであって、前記内側表面層はプロピレン−αオレフィンランダム共重合体50〜100重量%と水添スチレン系エラストマー0〜50重量%とからなり、かつ該内側表面層にはコロナ処理が施されていると共に、前記中間層は実質的に帯電防止剤を含有していないプロピレン単独共重合体からなることを特徴とする滑り止め性を改善した包装用フィルムに係る。
【0010】
請求項2の発明は、前記プロピレン−αオレフィンランダム共重合体が、融点を135℃以下とするプロピレン−エチレンランダム共重合体もしくは融点を135℃以下とするプロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体のいずれか一方あるいは両方である請求項1に記載の滑り止め性を改善した包装用フィルムに係る。
【0011】
請求項3の発明は、前記積層フィルムが、二軸延伸フィルムである請求項1又は2に記載の滑り止め性を改善した包装用フィルムに係る。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る滑り止め性を改善した包装用フィルムによると、被包装物と接する側となる内側表面層と包装外面となる外側表面層とこれらの間の中間層とを有する積層フィルムであって、前記内側表面層はプロピレン−αオレフィンランダム共重合体50〜100重量%と水添スチレン系エラストマー0〜50重量%とからなり、かつ該内側表面層にはコロナ処理が施されていると共に、前記中間層は実質的に帯電防止剤を含有していないプロピレン単独共重合体からなるため、滑り止め性を改善した包装用フィルムの内側表面層の表面自体が滑り止め性を有する。しかも、ラミネートによる複層化によらず滑り止め性を改善した包装用フィルムとすることができるため、製造工程数が少なくコスト面で有利である。
【0013】
特に、滑り止め性を改善した包装用フィルムを用いて袋状の包装体とし、袋詰め品を生産する場合に、被包装物の不用意な偏りが低減できるため、被包装物の充填、包装作業が円滑になり、袋詰め品の生産効率上昇に寄与できる。
【0014】
請求項2の発明に係る滑り止め性を改善した包装用フィルムによると、請求項1の発明において、前記プロピレン−αオレフィンランダム共重合体が、融点を135℃以下とするプロピレン−エチレンランダム共重合体もしくは融点を135℃以下とするプロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体のいずれか一方あるいは両方であるため、内側表面層において適度なべたつき感を発揮しやすく滑り止め性の向上に効果的である。
【0015】
請求項3の発明に係る滑り止め性を改善した包装用フィルムによると、請求項1又は2の発明において、前記積層フィルムが、二軸延伸フィルムであるため、フィルムの配向性、熱収縮性が安定し、包装用フィルムとしての強度維持に効果を発揮すると共に、フィルムに「こし」が生じ、感触が良くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下添付の図面に従って本発明を説明する。図1は本発明に係る滑り止め性を改善した包装用フィルムの概略断面図、図2は他の例に係る滑り止め性を改善した包装用フィルムの概略断面図、図3は本発明に係る滑り止め性を改善した包装用フィルムの使用例の斜視図、図4は充填の様子を示す断面模式図である。
【0017】
本発明の滑り止め性を改善した包装用フィルムは、例えば袋状に当該フィルムを成形したときに、その内部に封入された被包装物の不用意な動きを抑制可能とすることを目的にした樹脂製の包装用フィルム(滑り止め性を改善した袋状包装体用フィルム)である。また、必ずしも本フィルムは袋状に成形される場合に限らず、表面の滑りにくさを利用した各種包装用途等も勘案される。
【0018】
この明細書を含め、滑り止め性の改善とは、包装用フィルム表面に生じる摩擦の程度を向上させて滑りにくくすることである。実施例では滑り止め性の改善の客観的評価として静摩擦係数を計測指標に採用した。
【0019】
請求項1の発明に規定し、図1の示すように、滑り止め性を改善した包装用フィルム1は、被包装物(図示せず)と接する側(内接触面11側)となる内側表面層10と、この包装用フィルム1の包装外面31となる外側表面層30と、これら内側表面層10及び外側表面層30の間の中間層20とを有する積層フィルム1Sからなる。
【0020】
積層フィルム1Sを構成する各層の樹脂組成を順に説明する。被包装物と接する側(内接触面11側)となる内側表面層10の組成は、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体のみとすることができる。プロピレン−αオレフィンランダム共重合体は、積層フィルムを形成した際の表面に発現するべたつき感に起因する摩擦力を備えると共に、加工性、取り扱いやすさを考慮したことによる。また、中間層の樹脂種との親和性がよいためでもある。そこで、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体の樹脂として、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体等が例示できる。
【0021】
上記のプロピレン−αオレフィンランダム共重合体において、請求項2の発明に規定し、後述の実施例から明らかなとおり、特には、融点を135℃以下のプロピレン−エチレンランダム共重合体、融点を135℃以下のプロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体のいずれか一方あるいは両方が用いられる。融点が135℃以下に制限される理由としては、低融点の樹脂種ほど柔軟であり、滑り止め性能を向上させる上で適度な粘弾性を発揮しやすいとされるためである。
【0022】
加えて、内側表面層10は、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体に水添スチレン系エラストマーを加えた組成とすることもできる。水添スチレン系エラストマーは粘弾性を有している樹脂であり、内側表面層10のプロピレン−αオレフィンランダム共重合体に添加、配合して、滑り止め性の改善により好適となる。そこで、内側表面層10に占める両樹脂種の重量比は、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体50〜100重量%、水添スチレン系エラストマー0〜50重量%の配合とすることにより、いっそうの滑り止め性の改善効果が生ずる。
【0023】
水添スチレン系エラストマーの添加は選択的ではあるものの、配合により内側表面層の滑り止め性は向上する。そのため、水添スチレン系エラストマーは0重量%(無添加)から最大50重量%までとなる。内側表面層に占める水添スチレン系エラストマーが50重量%を超える場合、過度に粘弾性が高まるため、製袋したときに内側表面層同士は張り付きやすくなり、取り扱い時の利便性が後退することが考えられる。この水添スチレン系エラストマーとして、スチレン−ブタジエンゴム等が例示できる。
【0024】
図1に示した積層フィルム1Sの中間層20の樹脂組成には、プロピレン系単独重合体が用いられ、特にプロピレン系単独重合体は帯電防止剤を実質的に含有していないことが必要である。プロピレン系単独重合体としては、ホモポリプロピレン、1−ブテンホモポリマー、ランダムポリプロピレン等の樹脂種である。一般的に、前記のプロピレン系単独重合体には、帯電防止目的より、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミン等の脂肪族アミン化合物、ラウリルジエタノールアミド、ミリスチルジエタノールアミド、オレイルジエタノールアミド等の脂肪族アミド化合物、多価アルコール等をはじめ各種の帯電防止剤が適度に添加されている。
【0025】
ところが、中間層のプロピレン系単独重合体に帯電防止剤が含有されていると、後述する積層フィルムに対するコロナ処理に伴い、帯電防止剤が内側表面層に染み込み、さらに帯電防止剤が内側表面層の表面に浮き出る(ブリードアウトとも言われる)。帯電防止剤は界面活性剤としても作用するため、摩擦抵抗を低減し内側表面層表面を滑りやすくしてしまう。これは本発明の目的と相反する。ゆえに、製造時の静電気対策よりも包装用フィルムとしての内側表面層表面の滑り止め性を重視し、あえて帯電防止剤を実質的に含有しないこととする。
【0026】
中間層のプロピレン系単独重合体が帯電防止剤を実質的に含有しないとは、プロピレン系単独重合体に帯電防止剤を含有しない樹脂を選択することを意味する。ただし、プロピレン系単独重合体樹脂の製造に際し不可抗力として極微量の帯電防止剤が混入するおそれもあるためである。
【0027】
外側表面層30の樹脂組成は、当該滑り止め性を改善した包装用フィルム1(積層フィルム1S)の構造安定性を確保可能な樹脂であれば特に限定されず、被包装物の性質に応じて適宜選択される。通常、経済的に安価であり、取り扱いやすく、適当な強度を備えていることから、エチレン単独重合体、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルとの1種または2種以上のランダムまたはブロック共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外のエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、1−ブテン単独重合体、アイオノマー樹脂、さらに前記したこれら重合体の混合物等のポリオレフィン系樹脂である。
【0028】
なお、外側表面層に関しては、用途、目的に応じ、アンチブロッキング剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を含有していてもよい。
【0029】
これまでに述べてきた内側表面層10、中間層20、外側表面層30を有する積層フィルム1Sは、無延伸とすることも可能であるが、適宜の延伸を経て製膜される。延伸に際しては、一軸延伸法、二軸延伸法等が用いられる。ここで、請求項3の発明に規定するように、積層フィルムは二軸延伸フィルムとすることが好ましい。二軸延伸フィルムの場合、フィルムのいずれの方向(幅方向:TD,機械方向:MD)の配向性、熱収縮性が安定し、包装用フィルムとしての強度維持に効果的である。結果としてフィルムに「こし」が生じ、感触が良くなるためである。
【0030】
二軸延伸法はTダイによるテンター二軸延伸法を意味し、具体的には逐次二軸延伸、または同時二軸延伸である。逐次二軸延伸、同時二軸延伸は、厚薄精度、機械的物性等の点で優れているためである。積層フィルム1Sは、内側表面層10、中間層20、外側表面層30の各層の組成樹脂が同時にTダイから吐出(共押出し)され、各種ローラーやテンター内における延伸、熱固定、徐冷等を経て製造される。
【0031】
こうして製造された積層フィルム1Sの内側表面層10に対してコロナ処理(コロナ放電処理)が施されることによって、滑り止め性を改善した包装用フィルムとなる。通常、コロナ処理は印刷時のインクの塗着性を向上させるために用いられる。コロナ処理を施すことにより、内側表面層表面は粗面化されると共に当該表面に存在する極性基も増加する。このため、フィルム表面の改質に伴い摩擦抵抗が増加すると考えられる。そこで、包装用フィルムの内側表面層において必要とされる条件は、濡れ張力(JIS−K−6768に準拠)において36〜40mN/mである。この濡れ張力を満たす程度にコロナ処理が行われる。特に、内側表面層に用いる融点を135℃以下とするプロピレン−αオレフィンランダム共重合体では、コロナ処理に伴う適度なべたつき感が生じ、摩擦力の差となって現れる。このことは、包装用フィルムとしての滑り止め性改善の好要因とされる(後記実施例参照)。
【0032】
積層フィルム全体の厚さは一般的な包装用フィルムと同様の25〜70μmである。内側表面層は滑り止め性が発揮できる程度でよく、層の厚さ0.5〜30μmである。内側表面層、中間層、外側表面層の層の厚さは被包装物の種類、大きさ、重量、包装用フィルムの構造強度、その他用途等により適宜設定される。
【0033】
コロナ処理が施された内側表面層10の表面には、必要に応じてグラビア印刷等による印刷部40が形成される。滑り止め性を改善した包装用フィルムを用いて袋状物等にヒートシールにより加工する場合、適宜ヒートシール用の接着剤がコートされる。このため、積層フィルム同士のヒートシール強度は補強される。
【0034】
既述のとおり、積層フィルムによって滑り止め性を改善した包装用フィルムは完成する。この包装用フィルムにあっては、ラミネート加工をしなくとも滑り止め性を発揮する内側表面層と、フィルムの構造体をなす中間層及び外側表面層が得られるため、比較的安価かつ簡便に生産でき、コスト面において有利である。なお、この包装用フィルムの用途、被包装物の性質いかんにより、外側表面層のさらに外側にガスバリア性樹脂をはじめとする機能性樹脂の塗工や、必要に応じて他の樹脂フィルムのラミネート積層をしてもよい。
【0035】
図2に示す別形態の滑り止め性を改善した包装用フィルム2は、内側表面層10と外側表面層30との間の中間層をさらに複層化した構造である。図示の積層フィルム2Sは4層構造であり、2層の中間層21,22が含まれている。この包装用フィルム2においてもいずれの中間層21,22の樹脂組成は、実質的に帯電防止剤を含有しないプロピレン共重合体からなる。中間層を複層化することにより、包装用フィルムの強度向上(こしの強さ)に有利となる。各中間層の組成樹脂は、互いに異ならせることも可能である。また、各中間層の厚さ、層の数も適宜である。図1と共通箇所は同一符号とした。
【0036】
図3は本発明の滑り止め性を改善した包装用フィルム1のひとつの使用例を開示する斜視図である。図示のとおり、この包装用フィルム(特には、滑り止め性を改善した袋状包装体用フィルムである。)は被包装物60の集積包装袋である包装体50に加工されている。包装体50には、上ヒートシール部51、下ヒートシール部52、貼り合わせヒートシール部53が設けられ、これらの各ヒートシール部により袋状に形成される。よって、複数個の被収容物60が包装体50の内部に封入、包装される。図中、符号55は包装体の表示部であり図1の印刷部40に対応する。被収容物60はポリプロピレン等の樹脂製袋内に適宜の内容物(図示せず)を封入したいわゆる小袋物品である。この内容物としては、例えば、煎餅、あられ、かき餅等の米菓子、クッキー、ビスケット、ラスク等の焼き菓子、その他カステラ、どら焼き、おこし等が例示される。
【0037】
図4は、図3の包装体50内へ被包装物60を充填する際の様子を示した概略図である。図4(a)のとおり、両端が開口している円筒体の包装体50の中に被包装物60が所定数搬入される。続く図4(b)に示すように、両端が開口している円筒体の包装体50において、一側の開口部がヒートシールされるとき、包装体60は上下に押される。しかし、包装体50の内接触面54は前述の内側表面層で構成されていることから、その表面の滑り止め性は改善されており、被包装物60と包装体50(その内接触面54)が接している限り、被包装物は包装体内部で位置ずれを起こしにくくなる。そのため、図4(c)のように、包装体50の他方側をヒートシール装置70によりヒートシールする際に、被包装物60が包装体50の開口部56に滑り込みにくくなる。従って、背景技術の図6にて示した被包装物60の噛み込みによるヒートシール不良が低減される。ゆえに、ヒートシール装置の稼働を停止させる頻度の減少につながり、単位時間当たりの袋詰め製品の製造個数は増加する。図中、符号Cは内容物である。
【0038】
以上のとおり開示する滑り止め性を改善した包装用フィルムの用途は、主に図3の説明にて述べた菓子類の個別包装物を被包装物とし、これを収容する集積包装袋を形成するためのフィルムに用いられる。なお、被包装物は菓子類とするのみならず、広汎に袋詰めで流通する物品を集積して包装する包装体用のフィルムに適する。例えば、IC、LED、スイッチ、小型の基板等の電子部品、クリップ、ペン、輪ゴム、附箋等の各種小物品の個別包装物を収容するための集積包装袋に適用可能である。他に、滑り止め性の改善が図られているため、その滑り止め性を利用して、被包装物を保護、梱包する目的の包装用フィルムとすることもできる。
【実施例】
【0039】
[滑り止め性を改善した包装用フィルムの試作]
試作例1ないし11のフィルムについて、下記の表1、表2に示した配合比率に基づき、原料樹脂を溶融、混練して三層共押出Tダイフィルム成形機、テンター逐次二軸延伸機により製膜した。出来上がった各試作例のフィルム全体の膜厚は50μm、内側表面層の膜厚は1μmであった。併せて既存品である従来例のフィルムの配合も示す。従来例のフィルムも試作例と同じく三層共押出Tダイフィルム成形機、テンター逐次二軸延伸機により製膜した。従来例のフィルムも全体の膜厚は50μm、内側表面層の膜厚は1μmであった。
【0040】
表中に記載の使用した原料樹脂は次のとおりである。MFRはメルトフローレートである。
原料1:プロピレン単独重合体(融点160℃,MFR2.5)
原料2:プロピレン単独重合体(融点160℃,MFR2.5)+富士シリシア化学株式会社製「アンチブロッキング剤サイリシア550(原料2において0.6重量%配合)」
原料3:プロピレン単独重合体(融点160℃,MFR2.5)+東邦化学工業株式会社製「帯電防止剤SA300E(原料3において6.0重量%配合)」
原料4:プロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体(融点132℃,MFR5)
原料5:プロピレン−エチレンランダム共重合体(融点130℃,MFR7)
原料6:プロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体(融点137℃,MFR7)
原料7:プロピレン−エチレンランダム共重合体(融点142℃,MFR7)
原料8:水添スチレン系エラストマー(JSR株式会社製)
これらの原料において、原料1は日本ポリプロ株式会社製「F203T」、原料4は日本ポリプロ株式会社製「FX4E」である。
【0041】
表において、外側表面層(30)、中間層(20)、内側表面層(10)の各層毎に原料を示した。表中の各原料は重量%である。内側表面層の原料には融点も併せて付した。各層に付記の番号は図1の層構造に対応する。
【0042】
[コロナ処理]
各試作例のフィルムのうち、試作例9を除いて他のフィルムの内側表面層側にコロナ処理を施した。コロナ処理に際し、コロナ放電装置(春日電機株式会社製)を用い、内側表面層における濡れ張力(JIS−K−6768に準拠)が36〜40mN/mとなる程度にコロナ処理を行った。従来例も同様の条件にてコロナ処理を施した。表中、コロナ処理を施したフィルムについては、濡れ張力の数値を付した。同処理のないフィルムについては、「なし」として示した。
【0043】
[測定条件 ヘイズ,静摩擦係数の測定]
各試作例並びに従来例のヘイズ、静摩擦係数の測定は、23℃,50%RH(相対湿度)の条件下で行った。ヘイズの測定に際し、日本電色工業株式会社製の曇り度計(Haze Meter NDH2000)を用い、JIS−K−7105(1981)に準拠して計測した。
【0044】
また、静摩擦係数(μs)の測定に際し、株式会社東洋精機製作所製の摩擦測定機(SLIP ANGLE TYPE FRICTION TESTER AN)を用いた。静摩擦の測定は、フタムラ化学株式会社製片面ヒートシーラブルフィルム FOH(以下、フィルム(A)とする。)と、各試作例、従来例のフィルム(以下、フィルム(B)とする。)との間の摩擦により評価した。それぞれのフィルムについて、製膜後、35℃,65%RH(相対湿度)環境下に24時間静置し養生した。フィルム(A)から6cm(MD)×10cm(TD)のフィルム片(Aa)を切り出し、フィルム(B)から10cm(TD)×20cm(MD)のフィルム片(Bb)を切り出した。まず、フィルム片(Bb)のコロナ処理面が測定できるように、同フィルム片(Bb)を上記の摩擦測定機の傾斜面に張り付けた。次に、測定機に附属の錘200gに残りのフィルム片(Aa)のコロナ処理面が測定できるように張り合わせた。そして、フィルム片(Aa)及びフィルム片(Bb)のMD方向同士を互いに一致させて密着させた後に摩擦測定機の傾斜面を傾斜させ、錘が動き出した時点の傾斜面の傾斜角度から静摩擦係数を算出した。
【0045】
[包装適性試験]
発明者は、試作例1ないし11のフィルムのそれぞれ、並びに従来例のフィルムについて、それぞれ所定部位にグラビア印刷により同一の製品表示等の印刷を行った。ここで、従来例については、防滑剤として接着剤(大日精化工業株式会社製パートコート剤「セイカダイン」)を用いた。背景技術に示した特許文献1の手法に従い、当該接着剤を印刷部に帯状に塗布し、滑り止め性を向上させた。なお、各試作例のフィルム及び従来例のフィルムとも包装体に加工した際、全内側表面積の80%が印刷部であった。従来例のフィルムの包装体では、この印刷部が防滑部位となる。
【0046】
グラビア印刷後の試作例1ないし11のフィルム、グラビア印刷と防滑剤を塗布した従来例のフィルムについて、裁断後、底部と側面の2箇所をヒートシールにより圧着して前出の図3、図4に開示した袋状の包装体に作成した。各試作例及び従来例の包装体は、被包装物の未充填時、つまり袋を平たく押し広げた状態において縦方向31.5cm、幅方向25.5cmである。なお、グラビア印刷時には、所定の圧着部位にヒートシール用接着剤もコートした。
【0047】
各試作例及び従来例の包装体内に充填する被包装物には、未充填時の平たく押し広げた状態において縦方向13.0cm、幅方向12.0cmとするポリプロピレンフィルム製の小袋に、K製菓株式会社製の米菓(2枚入り、1枚当たり約7.5g)を内容物として封入した個別包装品を用いた。この被包装物を計10個、2列にして各試作例及び従来例の包装体内に充填し、ヒートシール機により包装体の開口部を封止して袋詰め品を製造した(図4参照)。ひとつの試作例につき5〜6時間の連続包装を実施し、ヒートシール時の不具合発生頻度、すなわち図6(c)に示すような噛み込み発生の頻度を求めた。
【0048】
包装適性の評価は、従来例の包装用フィルムと試作例のフィルムを用いたときのヒートシール時の不具合発生頻度を対比した。従来例の包装用フィルムと比較して有意にヒートシール時の不具合発生頻度に改善が見られた優良品の試作例については“◎”とし、従来例の包装用フィルムと比較してヒートシール時の不具合が多少改善された良品の試作例については“○”とした。従来例の包装用フィルムと比較して有意差が認められない、あるいは悪化した試作例については“×”として表中に示した。ちなみに、試作例1のフィルムを用いた場合のヒートシール時の不具合発生頻度は、従来例フィルムによる場合の1/4以下にまで減少した。
【0049】
総合評価は、包装適性にヘイズ(見栄え)、滑り止め性が極端に強くも弱くもないこと、フィルムとしての取り扱いやすさ等を加味して商品とした場合の実需要上の適性評価とした。優良品の試作例のフィルムは“◎”とし、良品の試作例のフィルムは“○”とした。従来例の包装用フィルムと比較して不良品の試作例のフィルムは“×”として表中に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
[結果と考察]
表1及び表2の結果より、試作例1ないし試作例7の包装適性及び総合評価は、試作例8ないし11及び従来例よりも優れている。とりわけ、試作例1ないし試作例5の包装適性及び総合評価は実需要上の点から試作例8ないし11及び従来例よりも、より優れている。以下、対比して詳細を述べる。
【0053】
〈プロピレン−αオレフィンランダム共重合体の融点〉
内側表面層における樹脂種とその配合に着目すると、原料であるプロピレン−αオレフィンランダム共重合体の融点の差が評価を左右する要因となる。試作例1、試作例2、試作例6、試作例7と試作例8との原料の融点を比較した場合、融点が高くなるほど静摩擦係数は低下し、結果的に評価は下がった。総じて低温度域の融点であるほど良い評価であった。おそらく、低融点の樹脂種ほど、適度なべたつき感を発現すると考えることができる。
【0054】
次に、試作例1の原料4であるプロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体(融点132℃)と試作例6の原料6であるプロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体(融点137℃)の比較から、試作例1の低温度域の融点であるほどさらに良い評価となった。同様に、試作例2の原料5であるプロピレン−エチレンランダム共重合体(融点130℃)と試作例7の原料7であるプロピレン−エチレンランダム共重合体(融点142℃)の比較から、試作例2の低温度域の融点であるほどさらに良い評価となった。より好適な評価、つまり優良品を得るため、試作例における良品と優良品のフィルムに用いる樹脂種の融点の差を勘案すると、内側表面層に用いるプロピレン−αオレフィンランダム共重合体において、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体は、共にその融点を135℃以下とする樹脂種であることが適切である。
【0055】
発明者は、内側表面層に用いるプロピレン−αオレフィンランダム共重合体において、プロピレン−エチレンランダム共重合体とプロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体の両方を含む場合についても、両樹脂種の相溶性等の性質から、共にその融点を135℃以下とする樹脂種同士であれば同様に好適な評価を得ることが可能であると考えている。
【0056】
〈水添スチレン系エラストマーの配合量〉
内側表面層中の水添スチレン系エラストマー(原料8)の配合量に着目すると、試作例3、試作例4、試作例5の順に配合量が増すほど静摩擦係数も上昇した。水添スチレン系エラストマーの配合は、内側表面層表面における滑り止め性の改善に有効であることを示した。しかし、試作例11のように水添スチレン系エラストマーの配合量が内側表面層の過半数を超過した場合、粘性、べたつき感、ブロッキング性が強まりすぎて取り扱いに支障を来し商品としての評価を下げた。従って、適度な滑り止め性の改善を発揮し、実際の使用を考慮すると、内側表面層において、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体50〜100重量%、水添スチレン系エラストマー0〜50重量%の配合比率となる。
【0057】
なお、発明者は、内側表面層中に水添スチレン系エラストマー添加のフィルムを試作する前に、スチレン系エラストマーを添加したフィルムも試作した。しかし、フィルムは荒れた外観に仕上がり、かなり曇りがかっていた。包装目的として好ましくないと判断しスチレン系エラストマーを除外した。
【0058】
水添スチレン系エラストマーの配合量は、包装体自体の大きさ、被包装物の種類、大きさ、量等の条件に合わせて、所望の滑り止め性の改善に応じて調整することができる。
【0059】
〈コロナ処理の有無〉
試作例1と試作例9の対比から明らかであるように、内側表面層へのコロナ処理は必要である。試作例1と試作例9は同一の原料であるものの、コロナ処理の有無が静摩擦係数の差に影響を与えた。コロナ処理は内側表面層表面に適度なべたつき感を与えるため摩擦力の上昇要因となる。
【0060】
〈帯電防止剤の影響〉
中間層における樹脂種とその配合に着目すると、試作例1と試作例10の対比から明らかであるように、中間層は帯電防止剤(原料3参照)を含有しないことが必要である。中間層に帯電防止剤が配合されることにより、静摩擦係数を押し下げた。この原因として、コロナ処理に伴う帯電防止剤の内側表面層への浸透、内側表面層の表面への浸みだし(ブリードアウト)がある。コロナ処理は内側表面層表面の滑り止め性の改善に加え、印刷適性を向上させるため不可欠である。そのため、あえて中間層に帯電防止剤を含有しないことにより、滑り止め性を低下させる要因を排除することとした。
【0061】
〈静摩擦係数,ヘイズの検討〉
静摩擦係数については、試作例1ないし試作例7の包装適性及び総合評価、並びに測定結果から自明であるように、静摩擦係数0.45以上であることが好ましい。特に、良好な滑り止め性の評価を考慮すると試作例1ないし試作例5が示すとおり静摩擦係数0.50以上となる。ただし、試作例11の静摩擦係数1.00の場合、滑り止め性が強くなりすぎて包装適性及び総合評価を下げた。そのため、静摩擦係数は1.00未満とする必要がある。ヘイズ値の測定によると、いずれの試作例のヘイズ値も包装用フィルムとして一般的なヘイズ値である3.0〜5.0%に含まれている。このため、現状の包装用フィルムと何ら見栄えの良さにおいて遜色ない。
【0062】
〈従来例からの改善〉
従来例の包装体は、その加工工程から明らかであるように、印刷部のみに防滑剤を塗布しているため、袋状の包装体とした場合にその一部分でしか滑り止め性を発揮し得ない。包装体の印刷部は、商品、用途、内容物、外観デザイン等の影響を受け、これらにより印刷面積が大きく異なる。特に、被包装物やその内容物の見栄えを良くするため包装体の印刷部は縮小され、これに伴って滑り止め性を発揮し得る部位の面積も縮小される。そのため、従来例の防滑剤を用いた包装体にあっては、滑り止め性の改善においては必ずしも十分とはいえない。
【0063】
これに対し、試作例1ないし試作例7、特には試作例1ないし試作例5の包装体は、内側表面層表面自体が滑り止め性を発現している。内側表面層表面への印刷による滑り止め性への影響はあるものの、包装体とした場合、たいていどの場所にあっても被包装物に対し滑り止め性を発揮することができる。この違いが包装適性、総合評価の差である。すなわち、本発明の特徴を備えた包装用フィルムは、従来例のフィルムよりも滑り止め性を改善している。とりわけ、本発明の特徴を備えた包装用フィルムは、被包装物やその内容物の見栄えを重視し印刷部を縮小して形成した包装体において有効である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の滑り止め性を改善した包装用フィルムの概略断面図である。
【図2】他の滑り止め性を改善した包装用フィルムの概略断面図である。
【図3】本発明の滑り止め性を改善した包装用フィルムの使用例の斜視図である。
【図4】充填の様子を示す断面模式図である。
【図5】従来の包装体への充填の様子を示す断面模式図である。
【図6】従来の包装体へのトレーを省略して充填する様子を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1,2 滑り止め性を改善した包装用フィルム
1S、2S 積層フィルム
10 内側表面層
11 内接触面
20 中間層
30 外側表面層
31 包装外面
40 印刷部
50 包装体
55 包装体の表示部
60 被包装物
C 内容物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被包装物と接する側となる内側表面層と包装外面となる外側表面層とこれらの間の中間層とを有する積層フィルムであって、
前記内側表面層はプロピレン−αオレフィンランダム共重合体50〜100重量%と水添スチレン系エラストマー0〜50重量%とからなり、かつ該内側表面層にはコロナ処理が施されていると共に、
前記中間層は実質的に帯電防止剤を含有していないプロピレン単独共重合体からなる
ことを特徴とする滑り止め性を改善した包装用フィルム。
【請求項2】
前記プロピレン−αオレフィンランダム共重合体が、融点を135℃以下とするプロピレン−エチレンランダム共重合体もしくは融点を135℃以下とするプロピレン−1ブテン・αオレフィンランダム共重合体のいずれか一方あるいは両方である請求項1に記載の滑り止め性を改善した包装用フィルム。
【請求項3】
前記積層フィルムが、二軸延伸フィルムである請求項1又は2に記載の滑り止め性を改善した包装用フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−307779(P2008−307779A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157495(P2007−157495)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(592184876)フタムラ化学株式会社 (60)
【Fターム(参考)】