説明

滑り防止剤

【課題】フッ素ゴムや撥剤の新たな用途を提供する。
【解決手段】フッ素ゴム及び/又は撥剤からなることを特徴とする滑り防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り防止剤及び該滑り防止剤を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素重合体は、耐熱性、耐油性、耐溶剤性、耐薬品性、機械的性質、耐侯性等に優れており、シール材等の成形品やコーティングとして従来より広く利用されている。含フッ素重合体は、更に、撥水性が高いので、ガラス、屋根材、繊維や織布等に撥水性を付与するコーティングの材料、いわゆる撥剤としても使用されている。
【0003】
含フッ素重合体のうち、フッ素ゴムは、成形品やコーティングとして利用できることに加え、プラスチックの加工助剤として適用できることも知られている。
例えば、ビニリデンフルオライド〔VDF〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕系フッ素ゴムは、プラスチックの成形性を向上することができ、また、ラテックスとして、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕コーティングの可撓性を向上させることができる。
【0004】
フッ素ゴムは、用途に応じ低温性や加工性を改良することやコスト削減を目的として、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム等の他のゴムとブレンドして使用できることが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、フッ素ゴムや撥剤の新たな用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フッ素ゴム及び/又は撥剤からなることを特徴とする滑り防止剤である。
本発明は、上記滑り防止剤と、天然ゴム、合成ゴム又は樹脂とを含有することを特徴とする組成物である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の滑り防止剤は、ゴムや樹脂に添加することにより、特に、雨、雪、氷や汗等の水に濡れる環境下において滑りにくい成形品やコーティング被膜を得ることができる。このような成形品等は、例えば、ゴム床、ゴム手袋、靴底、屋根材等として好適に使用することができる。
【0008】
本発明の滑り防止剤がこのような優れた効果を奏する理由は明らかでないが、成形品材料にフッ素ゴムや撥剤を加えた場合、得られる成形品は、表面の撥水性が高くなることによって水との摩擦抵抗が大きくなることから、水に濡れた表面で滑りにくくなることが推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、上記フッ素ゴムは、炭素原子に結合しているフッ素原子を有し且つゴム弾性を有する非晶質の含フッ素重合体であれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0010】
本発明の滑り防止剤は、1種のフッ素ゴムのみからなるものであってもよいし、2種以上のフッ素ゴムからなるものであってもよい。
上記フッ素ゴムとしては、例えば、TFE/パーフルオロ(ビニルエーテル)系共重合体、VDF/HFP系共重合体、VDF/CTFE系共重合体、VDF/TFE共重合体、VDF/TFE/HFP系共重合体、VDF/CTFE/TFE系共重合体、TFE/プロピレン系共重合体、TFE/プロピレン/VDF系共重合体、エチレン/HFP系共重合体等の含フッ素共重合体等が挙げられ、なかでも、VDF系共重合体が好ましい。
上記VDF系共重合体としては、VDF/HFP共重合体、VDF/TFE/HFP共重合体が好ましく、VDF/HFP共重合体がより好ましい。
【0011】
上記フッ素ゴムは、ディスパージョン中に分散したものであってもよいし、粉末、塊状、板状、ペレット等、何れの形態であってもよいが、塊状又は板状であることが好ましく、凝析物であることがより好ましい。
上記凝析物は、後述のフッ素ゴムのディスパージョンを直接加熱、乾燥する方法で得られるものであってもよいし、凝析剤を添加し、混合することにより得られるものであってもよい。
上記フッ素ゴムは、凝析物である場合、その平均粒径はハンドリングが行える範囲であれば特に限定されない。
【0012】
上記フッ素ゴムは、従来公知の方法で調製することができ、例えば、上述のフッ素含有オレフィン、フッ素含有ビニルエーテル及び所望により炭化水素オレフィンを、パーフルオロオクタン酸アンモニウム等の界面活性剤の存在下、水性媒体中で重合することにより得ることができる。
【0013】
上記重合において、含フッ素化合物等の単量体、界面活性剤、重合開始剤や連鎖移動剤等の添加剤の使用量や反応条件は、所望のフッ素ゴムの組成や収量に応じ、適宜設定することができる。
【0014】
上記調製は、重合後、必要に応じ、得られたフッ素ゴムのディスパージョンを後処理する工程や、更に、該後処理後に凝析及び乾燥する工程を含むものであってもよい。
上記後処理工程としては、例えば、希釈、濃縮、精製等が挙げられる。
上記後処理、凝析及び乾燥の条件は、使用する各材料及び所望のフッ素ゴムの種類、量等に応じて適宜選択することができる。
【0015】
本発明の滑り防止剤としての撥剤は、(a)炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、(b)炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルケニル基、又は、(c)−CO−、−CO−及び−CFO−よりなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位を合計数1〜200で有するフルオロエーテル基を有する含フッ素重合体であることが好ましい。
【0016】
上記フルオロアルキル基(a)の炭素数、フルオロアルケニル基(b)の炭素数、及び、フルオロエーテル基(c)における上記繰り返し単位の合計数の炭素数がそれぞれ上述の範囲を超えるものであると、重合性に劣る傾向にある。
本明細書において、以下、上記(a)〜(c)の各置換基を、それぞれ、「フルオロアルキル基(a)」、「フルオロアルケニル基(b)」及び「フルオロエーテル基(c)」と称し、これらを総称して「含フッ素置換基」と称することがある。
【0017】
撥剤である含フッ素重合体の好ましい構成は、国際公開パンフレット第2006/101089号パンフレットに記載の含フッ素重合体(P)と同様である。
【0018】
上記含フッ素置換基は、一般に、含フッ素単量体(p)に由来するものであり、上記含フッ素重合体において含フッ素単量体(p)単位が有するものである。
上記含フッ素単量体(p)単位とは、上記含フッ素単量体(p)に由来する含フッ素重合体の構成部分を意味する。
【0019】
上記含フッ素単量体(p)は、上述のフッ素置換基を有する重合可能な化合物である。
上記含フッ素単量体(p)は、含フッ素アクリレートであることが好ましい。
本明細書において、上記含フッ素アクリレートは、α位の水素が置換されているものであってよい。
上記α位の置換基としては、例えば、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX基(X及びXは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のハロゲン含有アルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、置換若しくは非置換のフェニル基等が挙げられる。
【0020】
上記含フッ素単量体(p)としては、例えば、下記一般式(I)
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、Xは、上記α位の置換基として例示した置換基又は水素原子を表し、Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、置換若しくは非置換の炭素数6〜10の芳香族基又は環状脂肪族基、−O−Ar−CH−基、−O−Ar−COOCHCH(OY)CH−基、−CHCHN(R)SO−基、−SO−N(R)R−基、−CON(R)R−基、又は、−CHCH(OY)CH−基を表す。Arは、上述の置換基を有してもよいアリール基を表し、Rは、水素又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、炭素数1〜10のアルキレン基を表す。Rxは、上述の含フッ素置換基を表す。Yは水素原子又はアセチル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で表される含フッ素アクリレートエステルが挙げられる。
上記一般式(I)におけるY、R、R及びRの炭素数がそれぞれ上記範囲を超えるものであると、重合性に劣る傾向にある。
上記含フッ素単量体(p)としては、上述の(a)フルオロアルキル基を有するものが好ましい。
【0023】
上記含フッ素重合体は、分散性の点で、含フッ素単量体(p)単位と(メタ)アクリル酸エステル類に由来するフッ素非含有単量体単位とを有するものが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、ステアリルメタアクリレート等が挙げられる。
【0024】
上記撥剤としての含フッ素重合体は、上述の含フッ素単量体(p)等の単量体を従来公知の方法で重合を行うことにより調製することができる。
【0025】
本発明の滑り防止剤は、上述のように天然ゴム、合成ゴムや樹脂に添加すると、水に接する環境下において滑りにくい成形品を得ることができる。
上記滑り防止剤と、天然ゴム、合成ゴム又は樹脂とを含有する組成物もまた、本発明の一つである。
【0026】
上記合成ゴムは、一般にフッ素を含有しない点で、上述のフッ素ゴムとは異なる概念である。
上記合成ゴムとしては、例えば、ポリイソプレンゴム〔IR〕、スチレン−ブタジエンゴム〔SBR〕、ブタジエンゴム〔BR〕、アクリロニトリルブタジエンゴム〔NBR〕等のジエン系ゴム;ブチルゴム〔IIR〕;エチレン−プロピレンゴム;シリコーンゴム;エピクロロヒドリンゴム;多硫化ゴム;ウレタンゴムが挙げられる。
上記合成ゴムとしては、ジエン系ゴムが好ましい。
【0027】
上記樹脂としては、フッ素非含有樹脂が好ましい。
上記フッ素非含有樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロンMXD6等のポリアミド〔PA〕樹脂;ポリエチレンテレフタレート〔PET〕、ポリブチレンテレフタレート〔PBT〕、ポリアリレート、芳香族系ポリエステル(液晶ポリエステルを含む)、ポリカーボネート〔PC〕等のポリエステル;ポリアセタール〔POM〕樹脂;ポリフェニレンオキシド〔PPO〕、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン〔PEEK〕等のポリエーテル樹脂;ポリアミノビスマレイミド等のポリアミドイミド〔PAI〕樹脂;ポリスルホン〔PSF〕、ポリエーテルスルホン〔PES〕等のポリスルホン系樹脂;ABS樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1(TPX樹脂)等のビニル重合体のほか、ポリフェニレンスルフィド〔PPS〕、ポリケトンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリイミド〔PI〕等が挙げられる。上記ナイロンMXD6は、メタキシレンジアミン〔MXD〕とアジピン酸とから得られる結晶性重縮合体である。
上記樹脂は、溶融成形し易い点で、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0028】
本発明において、上述の天然ゴムや合成ゴムは、粉末、顆粒、ペレット、塊状、板状の何れの形状であってもよいが、加工し易い点で、塊状や板状であることが望ましい。
上記樹脂は、粉末、顆粒、ペレット、液状等の何れの形状であってよいが、加工し易い点で、粉末、液状又はペレットであることが望ましい。
【0029】
本発明の組成物は、上述の効果を充分に発揮する点で、上述の滑り防止剤と天然ゴム又は合成ゴムとを含有するものが好ましく、上記滑り防止剤と合成ゴムとを含有するものがより好ましい。
【0030】
本発明の組成物は、上述の滑り防止剤、天然ゴム、合成ゴム及び樹脂に加え、必要に応じて、その他の成分を配合したものであってもよい。
このような成分としては、例えば、補強性充填剤、老化防止剤、導電剤、潤滑剤、顔料、オゾン劣化防止剤、着色剤、帯電防止剤、分散剤、滑剤、酸化防止剤、軟化剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、その他のポリオレフィン等衛生協議会で自主基準として制定されているポジティブリストに記載の添加剤が挙げられる。
上記組成物が天然ゴムや合成ゴムを含有する場合、上記成分として、更に、加硫剤、架橋剤、受酸剤等も挙げられる。
上記その他の成分の添加量は、本発明の組成物の特徴を損なわない範囲であれば特に限定されない。
【0031】
本発明の組成物は、上述の滑り防止剤の含有量が0.1〜20質量%であることが好ましい。
上記含有量は、0.1質量%未満であれば、充分に滑りにくい成形体が得られないことがあり、20質量%を超えると、本来の物性(天然ゴム、合成ゴム、樹脂)を大きく損なう場合がある。
上記含有量は、より好ましい下限が0.5質量%、特に好ましくは1質量%であり、より好ましい上限が10質量%、特に好ましくは5質量%である。
【0032】
本発明の組成物は、粉末、顆粒、ディスパージョン、ペレット、塊状、板状等、何れの形態であってもよいが、樹脂への添加の場合、上述の滑り防止剤を効率的に分散させることができる点で、粉末、ディスパージョンであることが好ましい。
【0033】
本発明の組成物は、公知の方法で成形することにより成形を行うことができる。
上記組成物は、チューブ状;シート状;フィルム状;ロッド状;パイプ状;タイヤ状等の種々の形状の成形品にすることができる。
【0034】
本発明の組成物は、粉末又は顆粒である場合、例えば、上記滑り防止剤を粉末状にしたものと樹脂粉末又はゴム凝集物とを混合することにより調製することができる。
上記組成物は、ディスパージョンである場合、例えば、(1)上記滑り防止剤のディスパージョンと樹脂又はゴムのディスパージョンとを混合する、(2)上記滑り防止剤を粉末状にしたものを樹脂又はゴムのディスパージョンに添加することにより調製することができる。
上記組成物は、塊状若しくは板状の天然ゴム又は合成ゴムと、塊状又は板状の滑り防止剤とを混合することにより調製することもできる。
上述の各混合において、各材料は、含有量が上述の範囲内となる量で使用することができる。
【0035】
本発明の組成物は、粉末、顆粒又はディスパージョンである場合、従来公知の塗装方法でコーティングすることができる。
上記組成物は、ディスパージョンである場合、布やガラスクロス等を含浸させることもできる。
【0036】
本発明の組成物は、ペレット、塊状又は板状である場合、天然ゴム、合成ゴムや樹脂に、上述の滑り防止剤及び必要に応じて各種添加剤を添加した後、混練、熱入れ及び押出を行うことにより調製することができる。
上記混合において、各材料は、含有量が上述の範囲内となる量で使用することができる。
上記混練、熱入れ及び押出は、それぞれ、一般に成形品の調製に使用される装置を用いて行うことができる。
上記混練装置としては、バンバリーミキサー、インターミックス、ニーダー等が、上記熱入れ装置としては、ロール機等が挙げられる。
上記混練、熱入れ及び押出の各条件は、使用する材料の種類や量に応じて適宜選択することができる。
【0037】
本発明の組成物は、天然ゴム及び/又は合成ゴムを含有する場合、加硫成形等により成形を行うことができる。
上記加硫成形を行う場合、加硫前に予備成形を行ってもよい。上記加硫成形における成形は、押出成形、射出成形、カレンダー成形等の従来公知の方法で行うことができる。
上記加硫条件は、使用する材料の種類や量に応じて適宜選択することができる。
【0038】
本発明の組成物は、樹脂を含有するペレットである場合、押出成形、圧縮成形、回転成形、ブロー成形等により成形を行うことができる。
これらの各成形は、使用する樹脂組成物の組成や量、所望の成形品の形状、サイズ等に応じて、条件を適宜設定することができる。
上記成形温度は、一般に、樹脂の融点以上、且つ、上記滑り防止剤及び上記樹脂の各分解温度のうち低い方の温度未満の温度で行い、100〜300℃の範囲であることが好ましい。
【0039】
本発明の組成物から得られる成形品は、雨、雪、氷や汗等の水に濡れる環境下であっても滑りにくい。
上記成形品は、例えば、車両、体育館等の床;運動靴等の靴底;ゴルフクラブ、杖等のグリップ;ボール等の運動用品;ベルトコンベアー等の工業機器の部材;ゴム手袋;屋根材;として使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の滑り防止剤は、ゴムや樹脂に添加することにより、雨、雪、氷や汗等の水に濡れる環境下において滑りにくい成形品やコーティング被膜を得ることができる。このような成形品等は、例えば、ゴム床、靴底、屋根材等として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴム及び/又は撥剤からなることを特徴とする滑り防止剤。
【請求項2】
フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライド〔VDF〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体及び/又はVDF/テトラフルオロエチレン〔TFE〕/HFP共重合体である請求項1記載の滑り防止剤。
【請求項3】
撥剤は、(a)炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、(b)炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルケニル基、又は、(c)−CO−、−CO−及び−CFO−よりなる群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位を合計数1〜200で有するフルオロエーテル基を有する含フッ素重合体である請求項1又は2記載の滑り防止剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の滑り防止剤と、天然ゴム、合成ゴム又は樹脂とを含有する
ことを特徴とする組成物。
【請求項5】
滑り防止剤と合成ゴムとを含有する請求項4記載の組成物。
【請求項6】
滑り防止剤は含有量が0.1〜20質量%である請求項4又は5記載の組成物。

【公開番号】特開2008−201961(P2008−201961A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41428(P2007−41428)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】