説明

漏洩磁束探傷装置

【課題】被検体から磁化器を容易に脱離させることができ、また大きな電力の供給が困難な環境下でも被検体の健全性を評価することができる漏洩磁束探傷装置を提供すること。
【解決手段】漏洩磁束探傷装置を構成する磁化器は、被検体とN極とが接するように設けられる第1の永久磁石と、第1の永久磁石と間隔をあけて配され被検体とS極とが接するように設けられる第2の永久磁石と、第1の永久磁石及び第2の永久磁石における被検体と接しない側の磁極同士を連結する第3の永久磁石とからなり、第3の永久磁石は、該第3の永久磁石のN極及びS極と第1の永久磁石及び第2の永久磁石との相対位置関係を変化可能に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩磁束探傷装置に関し、特には、磁化性能を可変可能な磁化器を有する漏洩磁束探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被検体の健全性(被検体の内部欠陥、表面欠陥)を探傷する方法として漏洩磁束探傷方法が知られており、当該方法では磁化器と磁気センサとから構成され、被検体を磁化器により磁化(励磁)させたのち被検体から漏洩する磁束を磁気センサにより検出することで被検体の健全性を探傷可能な漏洩磁束探傷装置が広く用いられている。磁化器により被検体を磁化させる方法としては、磁化器として永久磁石を用いて被検体を磁化させる永久磁石方式(例えば、特許文献1)や、磁化器として電磁石を用いて被検体を磁化させる電磁石方式(例えば、特許文献2)が挙げられる。
【0003】
永久磁石方式は、外部電源等を用いることなく予め永久磁石が有する磁化性能により被検体を磁化させることができることから、外部電源等を用いることができない環境において好適に用いることができる。しかしながら、永久磁石は磁化性能の調整ができないことから、磁化性能の強い永久磁石を用いた場合には被検体からの脱離に大規模な脱離装置が必要となる。脱離を容易にするために磁化性能の弱い永久磁石を用いることも考えられるが、被検体の肉厚が厚い場合には、正確に被検体の健全性を評価できない問題が生じてしまう。
【0004】
一方で、例えば、磁性材料の芯の回りに巻きつけられたコイルに通電することで被検体を磁化させることができる電磁石方式の磁化器では、通電を止めることによって磁力を調節することができることから、永久磁石方式のように脱離装置を用いることなく、被検体から容易に脱離することが可能となる。
【0005】
しかしながら、電磁石方式ではオンオフで脱離が容易であるものの、被検体を磁化させるには大きな電力が必要となり、大きな電力を供給することができない環境(現地計測)には向かない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−156363号公報
【特許文献2】特開2004−279245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、容易に被検体から磁化器を脱離させることができる漏洩磁束探傷装置を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、被検体を磁化する磁化器と、該磁化器によって磁化された被検体からの漏洩磁束を検知する磁気センサとを備えた漏洩磁束探傷装置であって、前記磁化器は、被検体とN極とが接するように設けられる第1の永久磁石と、前記第1の永久磁石と間隔をあけて配され、被検体とS極とが接するように設けられる第2の永久磁石と、前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石における前記被検体と接しない側の磁極同士を連結する第3の永久磁石とからなり、前記第3の永久磁石は、該第3の永久磁石のN極及びS極と前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石との相対位置関係が変化可能となるように設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、前記第3の永久磁石は、その中心を起点として水平方向に回転させることで前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石との相対位置関係を変化可能であってもよく、前記第3の永久磁石が略円筒状の永久磁石であってもよい。
【0010】
また、前記磁化器は、被検体を磁化するための磁化性能を可変可能な磁化器であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被検体から磁化器を容易に脱離させることができ、また大きな電力の供給が困難な環境下でも被検体の健全性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の漏洩磁束検出装置の一例を示す概要図ある。
【図2】本発明の漏洩磁束検出装置における測定時の第3の永久磁石と第1の永久磁石及び第2の永久磁石との相対位置関係を示す図である。
【図3】本発明の漏洩磁束検出装置における脱離時の第3の永久磁石と第1の永久磁石及び第2の永久磁石との相対位置関係を示す図である。
【図4】第3の永久磁石の構成例を示す図である。
【図5】第3の永久磁石の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の漏洩磁束検出装置について図面を用いて具体的に説明する。図1は、本発明の一実施形態における漏洩磁束検出装置の例を示す概要図である。
【0014】
図1に示すように、本発明の漏洩磁束検出装置10は、被検体を磁化する磁化器20と、該磁化器20によって磁化された被検体30からの漏洩磁束を検知する磁気センサ40とから構成される。特に、本発明の漏洩磁束探傷装置10を構成する磁化器20は、被検体30とN極(21a)とが接するように設けられる第1の永久磁石21と、前記第1の永久磁石21と間隔をあけて配され、被検体30とS極(22b)とが接するように設けられる第2の永久磁石22と、前記第1の永久磁石21及び前記第2の永久磁石22における前記被検体と接しない側の磁極同士(21b、22a)を連結する第3の永久磁石23とからなり、前記第3の永久磁石は、該第3の永久磁石のN極23a及びS極23bと前記第1の永久磁石21及び前記第2の永久磁石22との相対位置関係が変化可能となるように設けられていることに特徴を有する。本発明の漏洩磁束探傷装置10はこの要件を具備するものであれば特に限定されるものではなく、磁化器20により磁化させることが可能なあらゆる被検体30に適用することができる。また、磁化器20形状についても図1の形状(門型の形状)に限定されることはない。
【0015】
(磁化器)
磁化器20は本発明の漏洩磁束探傷装置10における必須の構成であり、被検体30とN極(21a)とが接するように設けられる第1の永久磁石21と、第1の永久磁石21と所定の間隔をあけて配され、被検体30とS極(22b)とが接するように設けられる第2の永久磁石22と、第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22における被検体30と接しない側の磁極同士(第1の永久磁石のS極21b、第2の永久磁石のN極22a)を連結する第3の永久磁石23とからなる。さらに、第3の永久磁石は、該第3の永久磁石23のN極(23a)及びS極(23b)と前記第1の永久磁石21及び前記第2の永久磁石22との相対位置関係が変化可能となるように設けられている。
【0016】
第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22は、少なくとも被検体30と対向する磁極が第1の永久磁石21と第2の永久磁石22とで異なるように設けられていればよく、この要件を具備すれば第1の永久磁石21及び第2の永久磁石の形状についていかなる限定もされない。また、第1の永久磁石21と第2の永久磁石22との間隔についても特に限定はなく適宜設定することが可能である。
【0017】
上記のように第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22を設けることにより磁化器20により被検体30を磁化させる際の磁束の流れは、「第1の永久磁石21のN極(21a)→被検体30→第2の永久磁石22のS極(22b)→第2の永久磁石22のN極」・・・となる(以下、被検体30を磁化させる際の磁束の流れを正方向の磁束の流れ(符号X)という場合がある。)
【0018】
(第3の永久磁石)
第3の永久磁石23は第1の永久磁石21のS極(21b)と第2の永久磁石のN極(22a)との間に、第3の永久磁石23のN極(23a)及びS極(23b)と第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22との相対位置関係が変化可能となるように設けられる。
【0019】
まず初めに、第3の永久磁石のN極(23a)及びS極(23b)と第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22との相対位置関係を変化させた場合の動作について図2、図3を用いて具体的に説明する。図2は測定時の第3の永久磁石23と第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22との相対位置関係を示す図であり、図3は脱離時の第3の永久磁石23と第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22との相対位置関係を示す図である。
【0020】
(1)測定時の動作
上記のように、磁化器20により被検体30を磁化させる際の磁束の流れは「第1の永久磁石21のN極(21a)→被検体30→第2の永久磁石22のS極(22b)→第2の永久磁石22のN極」(正方向の流れ(符号X)となる。ここで、図2に示すように第3の永久磁石23のS極(23b)と第2の永久磁石22のN極(22a)とが対向するような相対位置関係(換言すれば、第3の永久磁石23のN極(23a)と第1の永久磁石21のS極(21b)とが対向するような相対位置関係)となるように第3の永久磁石23を設けた場合には、第3の永久磁石23における磁束方向(着磁方向)は正方向の流れ(符号X)と同方向の流れ(符号Y)となる。
【0021】
このように、第3の永久磁石23のN極(23a)及びS極(23b)と第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22との相対位置関係が、磁束の流れ(符号X)=(符号Y)となるように第3の永久磁石23を設けることで、「第1の永久磁石21→被検体30→第2の永久磁石22→第3の永久磁石23→第1の永久磁石・・・」の磁気回路を形成することができる。これにより、第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22の磁化性能を妨げることなく、被検体30を磁化させることができる。
【0022】
(2)脱離時の動作
一方で、磁束の流れ(符号X)=(符号Y)となるように第3の永久磁石23を設けた場合には、第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22に応じた磁力で被検体30と磁化器20とは吸着することとなり、強い磁化性能の第1の永久磁石21、第2の永久磁石22を用いた場合には被検体30から磁化器20を脱離させることが困難となる。
【0023】
この場合においても、第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22との相対位置関係が変化可能となるように設けられた第3の永久磁石23によれば、上記の測定時における正方向の磁束の流れと反対方向の流れ(逆方向の磁束の流れ(符号Z))となるように第3の永久磁石23を変化させることで被検体30と磁化器20との吸着力を低下させることができ、被検体30から磁化器20を容易に脱離させることができる。
【0024】
具体的には、図3に示すように、第3の永久磁石23のN極(23a)と第2の永久磁石22のN極(22a)とが対向するような相対位置関係(換言すれば、第3の永久磁石23のS極(23b)と第1の永久磁石21のS極(21b)とが対向するような相対位置関係)となるように第3の永久磁石23を変化させることで、第3の永久磁石23における磁束の流れ(着磁方向)は上記正方向の流れ(符号X)とは異なる逆方向の流れ(符号Z)となる。
【0025】
このように磁化器20と被検体30とで形成される磁気回路中(「第1の永久磁石21→被検体30→第2の永久磁石22→第3の永久磁石23→第1の永久磁石・・・」)に、第3の永久磁石23により逆方向の磁束の流れ(符合Z)を発生させることで磁化器20内部に磁気抵抗を発生させることができ、磁化器20の磁化性能を低下させることが可能となる。
【0026】
第3の永久磁石23の構成は、上記のように第3の永久磁石23のN極(23a)及びS極(23b)と第1の永久磁石21及び第2の永久磁石22との相対位置関係が変化可能となるように設けられていればよく、この要件を具備する構成であれば限定はされない。
【0027】
例えば、図4に示すように略円筒状の永久磁石を第3の永久磁石23として用い、該永久磁石の中心を基点として水平方向に回転させることにより、相対位置関係を変化させることが可能な(換言すれば、第3の永久磁石23の磁束の流れを変化させることが可能な)構成であってもよい。なお、図4は、図1のT方向からみた磁化器20を示す図である。
【0028】
また、図5に示すように第1の永久磁石21のS極(21b)及び第2の永久磁石22のN極(22a)を連結するように第3の永久磁石23が埋設された磁性体25を設けてもよい。埋設された第3の永久磁石23を該永久磁石の中心を基点として水平方向に回転させることで第3の永久磁石23の磁束の流れ(第3の永久磁石23が埋設された磁性体全体の磁束の流れ)を変化させることができる。なお、磁性体25は第3の永久磁石23により磁化される材料であって、第1の永久磁石21のS極(21b)及び第2の永久磁石22のN極(22a)とを連結可能な形状であればよい。なお、図5は当該形態における第3の永久磁石の断面図である。
【0029】
第3の永久磁石23を回転させる方法について特に限定はなく、例えば、図4、図5に示すように第3の永久磁石23の表面に回転機構としてのハンドル26を設け該ハンドル26を手動で回すことにより第3の永久磁石23を回転させる方法や、機械的に第3の永久磁石23を回転させる方法等が挙げられる。なお、第3の永久磁石23の表面に設けられるハンドル26は、例えば従来公知のマグネットベースとクランプ等により構成することができる。
【0030】
また、21の永久磁石21は、予め磁気性能を有する機能を有するものであれば、いずれの材料からなる永久磁石21であってもよく、例えば、アルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石などが挙げられる。
【0031】
(磁気センサ)
図1に示すように、磁化器20の中心近傍には磁気センサ40が設けられている。磁気センサ40は被検体30からの漏洩磁束を検出するために設けられ、漏洩磁束を検出する機能を有するものであれば従来公知の磁気センサを適宜選択して用いることができる。磁気センサ40の設置位置について特に限定はなく、図1に示すように磁化器20側に設けてもよく、被検体を挟んで磁化器20と対向する位置に設けてもよい。また、複数の磁気センサ40を設けることとしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
10・・・漏洩磁束探傷装置
20・・・磁化器
21・・・第1の永久磁石
22・・・第2の永久磁石
23・・・第3の永久磁石
30・・・被検体
40・・・磁気センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を磁化する磁化器と、該磁化器によって磁化された被検体からの漏洩磁束を検知する磁気センサとを備えた漏洩磁束探傷装置であって、
前記磁化器は、被検体とN極とが接するように設けられる第1の永久磁石と、
前記第1の永久磁石と間隔をあけて配され、被検体とS極とが接するように設けられる第2の永久磁石と、
前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石における前記被検体と接しない側の磁極同士を連結する第3の永久磁石とからなり、
前記第3の永久磁石は、該第3の永久磁石のN極及びS極と前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石との相対位置関係が変化可能となるように設けられていることを特徴とする漏洩磁束探傷装置。
【請求項2】
前記第3の永久磁石は、その中心を起点として水平方向に回転させることで前記第1の永久磁石及び前記第2の永久磁石との相対位置関係を変化可能であることを特徴とする請求項1に記載の漏洩磁束探傷装置。
【請求項3】
前記第3の永久磁石が略円筒状の永久磁石であることを特徴とする請求項1または2に記載の漏洩磁束探傷装置。
【請求項4】
前記磁化器は、前記被検体を磁化するための磁化性能を可変可能な磁化器であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の漏洩磁束探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−7565(P2011−7565A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149946(P2009−149946)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】