説明

潜在捲縮性複合繊維及びこれを用いた繊維構造物、吸収性物品

【課題】梱包、貯蔵、輸送の各物流段階ではスパイラル捲縮が発現していないので場所を取らず、使用する段階で水分と接触することにより本来求められるスパイラル捲縮を発現し、伸縮性、嵩高性、風合い等の優れた繊維となる潜在捲縮性繊維及びこれを用いた繊維構造物、吸収性物品を提供する。
【解決手段】異なる2種類の水不溶性熱可塑性樹脂成分(それぞれA成分およびB成分という)から構成される複合繊維であって、
複合の形態は並列型もしくはA成分を鞘とする偏心比0.1以上の偏心鞘芯型であり、
該複合繊維の20℃における水分接触10秒後の横断面積変化率が下記関係にあることを特徴とする潜在捲縮性複合繊維、それを用いた繊維構造物および吸収性物品。
A2/A1 > B2/B1
ここで
A1:A成分の水分接触前の横断面積
A2:A成分の水分接触10秒後の横断面積
B1:B成分の水分接触前の横断面積
B2:B成分の水分接触10秒後の横断面積

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜在捲縮性を有する複合繊維及びこれを用いた繊維構造物、吸収性物品に関する。更に詳しくは、水との接触によりスパイラル捲縮を発現する新規な潜在捲縮性複合繊維及びこれを用いた繊維構造物、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱収縮性の異なる2成分が、繊維の横断面において偏心的に複合されてなる複合繊維は潜在捲縮性を有し、熱処理によりスパイラル捲縮を発現することは従来より公知である(例えば特許文献1、特許文献2)。更に、これら潜在捲縮性を有する繊維はスパイラル捲縮を発現することにより伸縮性、嵩高性、風合い等の優れた繊維となること、また、潜在捲縮性を有する繊維で作られた織布、或いは不織布がスパイラル捲縮の発現により伸縮性、嵩高性、風合い等の優れた織布、不織布となることもよく知られている(例えば、特許文献3)。
【0003】
しかし、スパイラル捲縮を発現させた繊維或いは不織布は、それ自身嵩高な為、梱包、貯蔵、輸送の各段階で場所を取り不経済であるばかりでなく、圧縮梱包して貯蔵するとせっかくの嵩高性が失われるという問題があった。
【0004】
このような問題点を解決する試みとして、湿度により可逆的捲縮率が変化することを特徴とした、特定の条件を満たす5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を共重合させた変性ポリエチレンテレフタレートとナイロン6とのサイドバイサイド型複合繊維が提案されている(例えば、特許文献4)。
【0005】
しかしながら、この複合繊維は実質的に顕在捲縮繊維であり、この繊維が吸湿で発生する捲縮率の変化は小さく、スパイラル捲縮の発現は起こらない。
【0006】
【特許文献1】特公昭52−35776号公報
【特許文献2】特公昭53−6263号公報
【特許文献3】特開平1−118617号公報
【特許文献4】特公昭63−44843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、梱包、貯蔵、輸送の各物流段階ではスパイラル捲縮が発現していないので場所を取らず、使用する段階で水分と接触することにより本来求められるスパイラル捲縮を発現し、伸縮性、嵩高性、風合い等の優れた繊維となる潜在捲縮性繊維及びこれを用いた繊維構造物、吸収性物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、下記構成を有することで、前記課題を解決することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 異なる2種類の水不溶性熱可塑性樹脂成分(それぞれA成分およびB成分という)から構成される複合繊維であって、
複合の形態は並列型もしくはA成分を鞘とする偏心比0.1以上の偏心鞘芯型であり、
該複合繊維の20℃における水分接触10秒後の横断面積変化率が下記関係にあることを特徴とする潜在捲縮性複合繊維。
A2/A1 > B2/B1
ここで
A1:A成分の水分接触前の横断面積
A2:A成分の水分接触10秒後の横断面積
B1:B成分の水分接触前の横断面積
B2:B成分の水分接触10秒後の横断面積
[2] 20℃の水分接触10秒後のスパイラル捲縮数が8個/25.4mm以上発現する前記[1]項記載の潜在捲縮性複合繊維。
[3] 複合繊維は、20℃における水分率が1%以上である前記[1]項又は[2]項記載の潜在捲縮性複合繊維。
[4] A成分がポリエーテル・ポリアミドブロック共重合体またはポリアミドとポリエチレングリコールとのブロック共重合体である前記[1]項〜[3]項のいずれか1項記載の潜在捲縮性複合繊維。
[5] B成分がポリオレフィン、ポリアミド及びポリアミドアロイから選ばれた少なくとも1種である前記[1]項〜[3]項のいずれか1項記載の潜在捲縮性複合繊維。
[6] 前記[1]項〜[5]項のいずれか1項記載の潜在捲縮性複合繊維を少なくとも一部に用いた繊維構造物。
[7] 繊維構造物が、潜在捲縮性複合繊維の繊維接点が熱接着もしくは繊維間が交絡によって、固定された不織布、ネット状物、編物及び織物から選ばれる少なくとも一種の布帛で構成された構造である前記[6]項[記載の繊維構造物。
[8] 前記[1]項〜[5]項のいずれか1項記載の潜在捲縮性複合繊維、又は前記[6]項〜[7]いずれか1項記載の繊維構造物を少なくとも一部に用いた吸収性物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、使用時に水分との接触によるスパイラル捲縮を発現するので、優れた伸縮性、嵩高性、風合い等を有している。
また、本発明の潜在捲縮性複合繊維を用いた繊維構造物及び吸収性物品は、梱包、貯蔵、輸送の各物流段階では、嵩による貯蔵場所を取らず、使用時に水分と接触することにより捲縮が発現し、伸縮性、嵩高性を有する良好な風合いの繊維構造物、吸収性物品となり、これらの繊維構造物、吸収性物品は良好な水分保持性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、水分との接触によりスパイラル捲縮を発現する潜在捲縮性を有する複合繊維であり、詳しくは水不溶性の熱可塑性樹脂であるA成分と、前記A成分とは成分が異なる水不溶性の熱可塑性樹脂であるB成分とが、並列型もしくはA成分を鞘とする偏心比0.1以上の偏心鞘芯型に配置されている。ここで、偏心比(E)とは、図1に示すごとく複合繊維の中心点(O)と芯成分の中心点(O)との距離(d)と複合繊維の半径(R)との比(式1)で表される。
E=d/R (式1)
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、A成分とB成分とが並列型でなかったり、偏心比が0.1未満であると、スパイラル捲縮を発現する潜在捲縮性能(発現捲縮数)が低下し、嵩高性、伸縮性、風合い等の性能を充分満足させることが困難になる。
【0012】
次に、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、A成分とB成分の横断面積変化率が下記関係式(式2)を満たしていることが重要である。
A2/A1 > B2/B1 式2
ここで
A1:A成分の水分接触前の横断面積
A2:A成分の水分接触10秒後の横断面積
B1:B成分の水分接触前の横断面積
B2:B成分の水分接触10秒後の横断面積
【0013】
A成分とB成分の横断面積変化率がこの関係を満たしていれば目的とする潜在捲縮性が得られる。このA成分とB成分の横断面積変化率の関係は、後述する吸水率とも関係するが、この前記両者関係の差異が大きくなるほど捲縮発現は顕著になる。この差違により、水分接触で発現する捲縮の数を調節することができる。また、この捲縮数の調節を行うためにA・B成分の複合比を変えることを併せて行ってもよい。
【0014】
なお、本発明でいう「水分接触」および「吸水率」とは、常温における液体状の水分との接触およびそれによって短時間(数秒〜数十秒程度)に吸水する場合を意味し、空気中の湿気との接触(吸湿)によって膨潤してしまう樹脂を用いる場合は本発明の対象としない。また、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、水分接触により捲縮が発現した場合、捲縮は乾燥後にも保持され、乾燥により可逆的に捲縮が消失するものではなく、上記式2の条件を満たしていれば乾燥後にも捲縮は保持される。このことは、本発明の「実施例」によって支持される。なお、乾燥後の捲縮の保持に関しては、乾燥後にも伸縮性、嵩高性、風合い等の効果が損なわれない程度に捲縮が保持されていれば良い。しかしながら、もしも乾燥後に捲縮が消失し、十分な効果が得られない樹脂の組み合わせがあるならば、本発明の対象から除外されるべきものである。
【0015】
次に本発明の潜在捲縮性複合繊維は、上記式2の横断面積変化率の差を変化させることにより、20℃の水分接触10秒後に発現するスパイラル捲縮(単に発現する潜在捲縮という)の数を調節することができる。発現する潜在捲縮の数は、8個/25.4mm以上である場合、本発明の効果が顕著に現れ好ましい。本発明の潜在捲縮性複合繊維は、水分接触による捲縮を発現させる前にカード処理などを行う場合、あらかじめ機械捲縮を付与しておき、後の工程でさらに水分接触によるスパイラル捲縮を発現させることもできる。このような場合、あらかじめ付与された機械捲縮(単に機械捲縮という)は、通常10個〜15個/25.4mmとすることが多く、後の工程で潜在捲縮を発現させた場合、総捲縮数は機械捲縮と発現する潜在捲縮の数の合計になる。機械捲縮と発現する潜在捲縮の合計としては、18個〜25個/25.4mm程度になる場合が本発明の最も好ましい態様の範囲であり、機械捲縮の数に応じて発現する潜在捲縮の数を調整すればよい。本発明では、必要に応じてそれ以上の潜在捲縮を発現するように構成することもでき、不織布化時のカード通過性が低下したり、得られる不織布の風合いが低下しない限り、発現する潜在捲縮数を増やしてもよい。
【0016】
また、上記式2の関係を満たすように構成された本発明の潜在捲縮性複合繊維は、下記式3で表される20℃における吸水率(重量%)も通常1重量%以上を示すようになる。言い換えれば、この吸水率が1重量%以上を示すことが、式2の関係も満たすことの目安となると考えてよい。
吸水率(重量%)=[(水切り後の繊維重量)/(初期繊維重量)]×100 式3
吸水率が1%以上であると、水分接触から短時間で膨潤過程による伸張差が生じてスパイラル発生に至り、通常10秒以内にスパイラル捲縮が発現する。
【0017】
吸水率は、A、B各成分それぞれについても原料樹脂の段階で測定することができ、B成分より高い吸水率を持ったA成分を選択することができる。そのような樹脂の組み合わせを選択すれば、式2の関係を満たす構成となる。
このようにしてA、B各成分を選択するとき、吸水率(重量%)の差が6重量%以上となるようにすれば、さらに好ましい態様になる。
【0018】
A成分とB成分の吸水率の差が6重量%以上であると、吸水率の高いA成分と一方の吸水率の低いB成分との両者間の水分接触から膨潤過程による伸張差が十分に生じるので、顕著なスパイラルが発生し、捲縮発現性も向上する。
【0019】
本発明の潜在捲縮性複合繊維を構成するA、B各成分は、前記したように水不溶性の熱可塑性樹脂で構成される。潜在捲縮性複合繊維の片成分もしくは両成分が水溶性であると水分との接触時に、求めるスパイラル捲縮が発現しない。ここで使用される水不溶性の熱可塑性樹脂とは、前述の条件を満たすようなものであれば特に限定する必要はなく、後述する熱可塑性樹脂の単独重合体、共重合体のいずれであってもよい。また、単独で用いても2種以上混合したものであっても良い。
【0020】
更に、本発明で用いられる熱可塑性樹脂には、本発明の効果を妨げない範囲内で、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤、親水剤の他、A、B成分の接着性改良の為に相溶化剤等の添加剤を必要に応じて適宜添加してもよい。
【0021】
本発明で用いる水不溶性熱可塑性樹脂のメルトマスフローレイト(以下、「MFR」という)は、溶融紡糸可能な範囲、すなわち溶融状態の樹脂を紡糸したとき樹脂が固化するまでの間に切れたり伸びすぎたりしないよう適当な粘性を保つ範囲であればよい。MFRが紡糸に適した範囲になるよう樹脂の物性に合わせて紡糸温度や押出器の圧力等の紡糸条件を変更してもよい。具体的には、樹脂の性質に見合った温度・荷重の下で繊維成形後のMFRが10〜100g/10分の範囲内になることが好ましく、より好ましくは、10〜70g/10分である。繊維成形後のMFRが10〜100g/10分の範囲であれば、並列型断面構造または偏心鞘芯型断面構造を維持しやすく、曳糸性も良好になる。
【0022】
本発明の潜在捲縮性複合繊維のA、B成分の組み合わせ例としては、例えばA成分としてポリエーテル・ポリアミドブロック共重合体、ポリアミドとポリエチレングリコールとのブロック共重合体等の熱可塑性樹脂を挙げることができ、また、B成分としてはポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂およびポリアミドアロイ等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0023】
A成分に使用されるポリアミドとポリエチレングリコールとのブロック共重合体、ポリエーテル・アミドブロック共重合体としては種々のものが使用できるが、ポリエチレングリコールとのブロック共重合体として例えばATOFINA社製のPEBAX(商品名)、ポリエーテル・アミドブロック共重合体として例えばAllied Signal社製のHydrofil(商品名)が販売されており、本発明に利用して好ましい結果を得ることができる。
【0024】
B成分に使用されるポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、1、2−ポリブタジエン及び1、4−ポリブタジエンの他、エチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1等のホモポリオレフィンまたは脂肪族α−オレフィンとの結晶性共重合体である。例えばエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン三元共重合体等の共重合ポリオレフィンも使用できる。また前記α−オレフィンに他のオレフィンまたは少量の他のエチレン系不飽和モノマー、例えばブタジエン、イソプレン、1、3−ペンタジエン、スチレン及びα−メチルスチレン等のスチレン系不飽和モノマーと共重合されていてもよく、また上記ポリオレフィン樹脂の混合物であってもよい。更に通常のチーグラーナッタ触媒から重合されたこれらポリオレフィンだけでなく、メタロセン触媒から重合されたポリオレフィン及びそれらの共重合体も例示することができる。更に、その他のポリオレフィンとしては、立体規則性ポリスチレンを挙げることができる。
【0025】
立体規則性ポリスチレンは、13C−NMR法により測定されるタクティシティーとして、連続する複数個の構造単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアット、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンダッドによって示すことができるが、本発明で用いてよい該立体規則性ポリスチレンは、通常ペンダッド分率が85%以上、好ましくは95%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリエチルスチレン、ポリイソプロピルスチレン等のポリアルキルスチレン、ポリクロロスチレン、ポリブロモスチレン、ポリフルオロスチレン等のポリハロゲン化スチレン、ポリクロロメチルスチレン等のポリハロゲン化アルキルスチレン、ポリメトキシスチレン、ポリエトキシスチレン等のポリアルコキシスチレン、ポリ安息香酸エステルスチレン等であり、これらは単独または混合して使用することができる。更に、これら重合体を構成するモノマー相互の共重合体またはこれらモノマーを主成分とする共重合体も使用できる。
【0026】
すなわち、前記共重合体は、上述の立体規則性ポリスチレンを構成するモノマーから選択される少なくとも1種のモノマーと、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、デセン等のオレフィン系モノマー、ブタジエン、イソプレン等のジエン系モノマー、環状オレフィンモノマー、環状ジエンモノマーまたはメタクリル酸メチル、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の極性ビニル系モノマーとのシンジオタクティックスチレン構造を有する共重合体である。これらは、市販の単独重合体及び共重合体を使用することができる。
【0027】
B成分に使用されるポリオレフィン系樹脂としては、これらのものが挙げられるが、特にポリプロピレン、ポリエチレンが好ましい。
【0028】
また、B成分に使用されるポリアミド系樹脂としては、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−46、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−12、ポリメタキシレンアジパミド(MXD−6)、ポリパラキシレンデカンアミド(PXD−12)、ポリビスシクロヘキシルメタンデカンアミド(PCM−12)が利用できる。更にこれらのポリアミド樹脂に用いられている単量体を構成単位とするアミドの共重合体およびそのアロイも利用できる。
【0029】
B成分に使用されるポリアミド系樹脂としては、これらのものが挙げられるが、特にナイロン−6、ナイロン−66が好ましい。また、ポリアミドアロイとしては、例えばATOFINA社製ORGALLOY(商品名)が販売されており、本発明に利用して好ましい結果を得ることができる。
【0030】
A成分とB成分の複合比は、20:80〜80:20の範囲内であることが好ましく、30:70〜70:30の範囲内であることがより好ましい。両成分の複合比がこの範囲にある場合、曳糸性が良好で、求めるスパイラル捲縮を容易に発現させることができる。
【0031】
本発明の潜在捲縮性複合繊維の製造に使用する並列型または偏心鞘芯型複合紡糸装置は、特殊なものでなく、通常のものでよい。得られた未延伸糸は、延伸を行ってもまた行わなくてもよく、通常の繊維と同様に機械的に捲縮加工してもよい。このようにして得られる本発明の潜在捲縮性複合繊維は、ステープルファイバー、フィラメント等種々の形態で用いることができ、水分との接触によりスパイラル捲縮を発現する潜在捲縮性を有している。
【0032】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、発明の効果を妨げない範囲において、他種繊維と混合し繊維構造物にすることが出来る。他種繊維は、特に限定されない。例えば、木綿、羊毛のような天然繊維、ビスコースレーヨン、酢酸繊維素繊維のような半合成繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリルニトリル繊維、アクリル系繊維、ポリビニールアルコール繊維のような合成繊維、更にはガラス繊維等の無機物繊維等の一種または二種以上の繊維が適宣に選択して用いられる。
【0033】
他種繊維の使用量は、潜在捲縮性複合繊維との総量に対して、70重量%以下の割合で混合するのが好ましい。本発明の潜在捲縮複合繊維の量が30重量%以上であれば、水分接触時に捲縮が発現して不織布が嵩高になるという本発明の効果が顕著に発揮される。
【0034】
本発明の潜在捲縮複合繊維100%或いは他種繊維と混合した繊維は目的に応じパラレルウェブ、クロスウェブ、ランダムウェブ、トウーウェブ等の適当な形態に集束して不織布化できる。
【0035】
本発明の潜在捲縮複合繊維ウェブを不織布化する方法は、ニードルパンチング法、高圧液体流処理等の繊維の交絡を利用する方法、或いは接着剤を使用する方法または繊維自身の熱接着による方法、更には接着成分または溶着成分を併用して、その成分により更に強固に一体化することができる。これらの成分としては、熱可塑性樹脂からなる繊維を混綿するとよい。このとき、潜在捲縮性複合繊維を接着して不織布とするために、熱可塑性樹脂からなる繊維が潜在捲縮性複合繊維を構成している熱可塑性樹脂と同種類の熱可塑性樹脂を含む繊維であることが好ましい。また混綿した繊維を熱処理により溶融し、接着加工する場合には、潜在捲縮性複合繊維の低融点樹脂よりも低い温度で溶融する熱可塑性樹脂を接着成分とすることで、潜在捲縮性複合繊維を溶融することなく不織布を成形でき、更に分割細繊化も進み易くなるために好ましい。また接着繊維として複合型の繊維を用いることで不織布の強度を更に高くすることができる。
【0036】
接着剤使用または繊維自身の熱接着による場合は、接着点が水玉模様を形成し、その面積が不織布面積の15%以下となるように、プリント法で接着剤を塗布するとか、熱ロールでエンボス加工する。接着点の面積が15%以下であれば繊維の捲縮発生が妨げられずに嵩高性の発現が十分となる。接着点の面積の下限は特に限定されないが、不織布の実用上の強度を満たすためには3%以上が好ましい。
【0037】
本発明の潜在捲縮性複合繊維及びこれを用いた繊維構造物の製造方法を例示する。通常の溶融複合紡糸機を用いて、A成分とB成分とからなる潜在捲縮性を有する複合繊維を紡出する。紡糸に際し、紡糸温度は120〜330℃の範囲で紡糸することが好ましく、引き取り速度は40m/分〜1500m/分程度とするのがよい。延伸は必要に応じて行うか、または行わなくてもよく、多段延伸を行ってもよい。延伸倍率は通常1.2〜9.0倍程度とするのがよく、延伸温度は、通常、複合繊維が融着しない程度の温度で加熱するのがよい。更に前記加工を経た複合繊維に対し、必要に応じてスタッフィングボックス等のクリンパーで捲縮を付与した後、所定長に切断して短繊維とし、公知のカード法、エアレイド法、乾式パルプ法、湿式抄紙法等によりウェブとすることができる。
【0038】
また、複合繊維を所定長に切断せずにトウの状態で分繊ガイド等によりウェブとすることもできる。更に公知のスパンボンド法やメルトブロー法により紡糸工程から直接ウェブにしてもよい。得られたウェブは必要に応じてニードルパンチ法、高圧液体流処理等の公知の高次加工工程、熱風または熱ロール等の公知の熱処理工程を経て、使い捨てオムツなどの吸収性物品をはじめとする衛生材料、あるいは吸音材、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材等の産業資材など、種々の用途に応じた繊維構造物に成形される。
【0039】
また、紡糸延伸後、フィラメント糸条として巻き取り、これを編成または織成して編織物とし、熱処理工程を通して繊維構造物としてもよい。また、前記短繊維を紡績糸とした後、これを編成または織成して編織物とし、熱処理工程を通して繊維構造物に成形してもよい。更にカード法、エアレイド法、スパンボンド法、抄紙法等の方法で均一にしたウェブ、織物、編物、不織布、フィルム等からなる他の構造物を、本発明の潜在捲縮性複合繊維からなる前記ウエブまたは繊維構造体に対して種々積層し、熱処理工程を通して繊維構造物としてもよい。
【0040】
上記熱処理工程では、熱風ドライヤー、サクションバンドドライヤー、ヤンキードライヤー等のドライヤーを用いる方法や、フラットカレンダーロール、エンボスロール等の加圧ロールを用いる方法が使用できる。熱処理温度は、潜在捲縮複合繊維のA・B両成分の融点の間の温度(低い融点を持つ成分の方だけが溶融する温度)が好ましく、用いる熱可塑性樹脂の種類にもよるが、60〜165℃の範囲が適当である。また、処理時間は前記ドライヤー等を用いる場合は約5秒以上が、前記加圧ロールを用いる場合は5秒以下が一般的である。
【0041】
このように本発明の潜在捲縮性複合繊維は、使用時に水分との接触によるスパイラル捲縮発現により、良好な伸縮性、嵩高性、風合い等を発現する。また、本発明の潜在捲縮性複合繊維を用いた繊維構造物及び吸収性物品は、梱包、貯蔵、輸送の各段階では捲縮がないので場所を取らず、使用時水分と接触することにより、捲縮が発現し、優れた伸縮性、嵩高性を有する良好な風合いの繊維構造物、吸収性物品となる。
【0042】
これらの繊維構造物、吸収性物品は良好な水分保持性を有しており、吸音材、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材等の産業資材分野をはじめ、衛生材料分野、医療分野などにも好適に使用することができる。特に、使い捨てオムツ等の吸収性物品に使用した場合は、水分接触前の販売用パックに多くの製品を詰め込むことができ、使用時には尿等との水分接触により嵩が出、多くの水分を保持できるという効果を示す。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例及び比較例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例における用語と物性の測定方法は以下の通りである。
【0044】
(MFR)
JIS K 7210、ASTM D638等に準拠して測定した。各種樹脂のMFR測定条件を示す。
ポリエーテル・ポリアミドブロック共重合体:測定温度235℃/公称荷重1kgf
ポリプロピレン:測定温度230℃/公称荷重2.16kgf(JIS K 7210附属書A表1の条件M)
ポリエチレン:測定温度230℃/公称荷重2.16kgf(JIS K 7210附属書A表1の条件D)
ポリアミドアロイ:測定温度235℃/公称荷重5kgf
【0045】
(融点)
デュポン社製熱分析装置DSC10(商品名)を用い、JIS K 7122に準拠して測定を行った。
【0046】
(偏心比)
偏心比(E)は図1に示すごとく複合繊維の中心点(O)と芯成分の中心点(O)との距離(d)と複合繊維の半径(R)の値を使用し、式1にて求めた。
E=d/R (式1)
【0047】
(吸水率)
測定試料10gを20℃の水に60秒間浸漬後、濾紙(東洋濾紙(株) NO.2濾紙)3枚重の間にはさみ0.5kg/cm2の圧力をかけ水切りを行う。濾紙を新しいものに取替えて、この水切り操作を更に2回繰返した後重量を測定し、式2により吸水率を求めた。
吸水率(重量%)=((水切り後重量−初期重量)/初期重量)×100 (式2)
【0048】
(横断面積変化率)
複合繊維の20℃における水分接触10秒後の横断面積変化率(V)を下記式3で求め、百分率(%)として表した。
A1:A成分の水分接触前の横断面積
A2:A成分の水分接触10秒後の横断面積
B1:B成分の水分接触前の横断面積
B2:B成分の水分接触10秒後の横断面積

V(%)= A2/A1×100 又はV(%)= B2/B1×100 式3

水浸漬前の各成分の断面積及び20℃の水に10秒間浸漬後の各成分の横断面積を測定し、式3にて求めた。
【0049】
(捲縮数)
水分接触前(初期)及び20℃における水分接触10秒後について、繊維束(10本)あたりの25.4mmにおける山数を数え、その平均値を捲縮数とした。
【0050】
実施例に記号で示した樹脂は次の通り。(商品名およびグレード番号を記す。)
PX:ポリエーテル・ポリアミドブロック共重合体
ATOFINA社製 PEBAX MV1074
MFR:14g/10min MP:158℃
NP:ポリエチレングリコール・ポリアミドブロック共重合体
Allied Signal社製 Hydrofil CFX−6809
PP:ポリプロピレン
日本ポリプロ(株)製 ノバテックPP SA2E
MFR:14g/10min MP:160℃
PE:ポリエチレン
京葉ポリエチレン(株)製 S6900
MFR:16g/10min MP:132℃
Ny6:ナイロン6
宇部興産(株)製 UBEナイロン6 1011FB
Ny66:ナイロン66
旭化成ケミカルズ(株)製 レオナ FR200
PAA:ポリアミドアロイ
ATOFINA社製 ORGALLOY RS60E10
MFR:13g/10min MP:220℃
【0051】
実施例1
並列型複合紡糸用口金を取り付けた、2機の押出機を有する複合紡糸装置を使用し、並列型複合繊維を製造した。ホッパーのA成分側にPXを投入し、B成分側にPEを投入して、230℃の紡糸温度で、第1成分と第2成分との容積比率が50/50の並列型の繊維断面形状となるように複合繊維を吐出し、ワインダーによってこれを引き取った。なお、前記引き取り工程において、吐出された複合繊維の表面に、界面活性剤としてアルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。次に、ワインダーで巻き取った複合繊維(未延伸糸)を延伸機によって、2.0倍(延伸温度90℃)に延伸した後、スタッフィングボックスに通して機械捲縮を付与させ、次いで長さ51mmに切断し、捲縮が施された1.0デシテックスのスフを得た。次に各繊維を20℃の水に浸しスパイラル捲縮を発現させた。得られた繊維の水分接触によるスパイラル捲縮の発現は表1に示した。
【0052】
実施例2〜9
実施例1に準拠した製造方法により、表1に示した原料樹脂の組合せ、繊維の断面形状、製造条件で、潜在捲縮性複合繊維を製造した。但し、実施例5では、第2成分の紡糸温度を実施例1よりも50℃高く設定して紡糸を行った。得られた繊維の水分接触によるスパイラル捲縮の発現は表1に示した。
【0053】
実施例10
実施例1で用いた第1成分及び第2成分を使用し、並列型の断面形状を有する潜在捲縮性複合長繊維を紡糸した。紡糸温度条件は第1成分側、第2成分側共に240℃である。紡糸された長繊維群をスロット型エアーサッカーで牽引し、捕集装置にウェブを捕集した。吹き付けたエアーは捕集装置に備えた吸引装置から吸引しウェブをコンベアに密着させた。得られたウェブを熱圧着装置に移送し、エンボスロール温度130℃、フラットロール130℃、線圧50N/mmの条件で熱圧着処理し、目付31g/m2、比容積10cm/gの長繊維不織布(繊維構造物)を得た。次にこの不織布を20℃の水に浸しスパイラル捲縮を発現させたところ、比容積が25cm/gまで増加した。
【0054】
比較例1〜3
実施例1に準拠した製造方法により、表2に示した原料樹脂の組合せ、繊維の断面形状、製造条件で、複合繊維を製造した。次に得られた各繊維を20℃の水に浸し、その挙動を観察した。得られた繊維の捲縮数は表2に示した。比較例1〜3で得られた繊維は、20℃の水に浸しても大きな変化は確認できなかった。
【0055】
比較例4
比較例3で用いた第1成分及び第2成分を使用し、芯成分に第1成分が、並列型の断面形状を有する複合長繊維を紡糸した。紡糸温度条件は第1成分側、第2成分側共に240℃であった。紡糸された長繊維群をスロット型エアーサッカーで牽引し、捕集装置にウェブを捕集した。吹き付けたエアーは捕集装置に備えた吸引装置から吸引しウェブをコンベアに密着した。ウェブを熱圧着装置に移送し、エンボスロール温度130℃、フラットロール130℃、線圧50N/mmの条件で熱圧着処理し、目付30g/m2、比容積11cm/gの長繊維不織布(繊維構造物)を得た。次にこの不織布を20℃の水に浸しその挙動を観察したが、大きな変化は確認できなかった。
【0056】
実施例1〜9で得られたデータを表1に、比較例1〜3で得られたデータを表2に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1から明らかなように、実施例1〜9の本発明の潜在捲縮性複合繊維は、水分接触後に良好な捲縮発現を示した。また、実施例10で得られた長繊維不織布は、水分との接触により、比容積が増加するという新規な特徴を持った不織布であった。
【0060】
これに対し、表2から明らかなように、比較例1〜3の複合繊維は、水分接触後もその捲縮数の変化に大きな差はなく、比較例4の長繊維不織布は、水分との接触後もその比容積には変化のないものであった。
【0061】
実施例11
実施例1で得られたスフをカード機でカーディングしてウェブとし、該ウェブを熱風貫通型ドライヤーで、温度110℃、処理時間1分40秒の条件で熱処理して、複合繊維の交点が熱融着された不織布(繊維構造物)を得た。この不織布をセカンドシート層に使用し、吸収材と共にトップシート層及びバックシート層で挟み込んで吸収性物品を作製した。得られた吸収性物品は液体吸収性に優れ、吸収性物品として非常に有用なものであり、実用性が高いと判断できた。
【0062】
比較例5
比較例1で得られたスフをカード機でカーディングしてウェブとし、該ウェブを熱風貫通型ドライヤーで、温度110℃、処理時間1分40秒の条件で熱処理して、複合繊維の交点が熱融着された不織布(繊維構造物)を得た。この不織布をセカンドシート層に使用し、吸収材と共にトップシート層及びバックシート層で挟み込んで吸収性物品を作製した。得られた吸収性物品は液体吸収するものの、その吸収性は一般的な吸収性物品と同等なものであった。
【0063】
実施例11で得られた吸収性物品は、液体吸収性に優れ吸収性物品として良好な性能を持ち合わせており、実用性に優れているのに対して、比較例5で得られた吸収性物品は、その吸収性は一般的な吸収性物品と同等で、特徴のあるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、使用時に水分との接触によるスパイラル捲縮を発現するので、優れた伸縮性、嵩高性、風合い等を有している。
また、本発明の潜在捲縮性複合繊維を用いた繊維構造物及び吸収性物品は、梱包、貯蔵、輸送の各物流段階では、嵩による貯蔵場所を取らず、使用時に水分と接触することにより捲縮が発現し、伸縮性、嵩高性を有する良好な風合いの繊維構造物、吸収性物品を形成する。なお、これらの繊維構造物、吸収性物品は良好な水分保持性を有する。
本発明の潜在捲縮性複合繊維の特性を利用して、紙おむつ、生理用品などの衛生材料分野、吸音材、ワイピング材、フィルター、クッション材、油吸着材等の産業資材分野をはじめ、医療分野などにも好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例で使用した偏心鞘芯型複合繊維の断面図である。
【符号の説明】
【0066】
:複合繊維の中心点
:芯成分の中心点
d:OとOの距離
R:複合繊維の半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる2種類の水不溶性熱可塑性樹脂成分(それぞれA成分およびB成分という)から構成される複合繊維であって、
複合の形態は並列型もしくはA成分を鞘とする偏心比0.1以上の偏心鞘芯型であり、
該複合繊維の20℃における水分接触10秒後の横断面積変化率(V)が下記関係にあることを特徴とする潜在捲縮性複合繊維。
A2/A1 > B2/B1
ここで
A1:A成分の水分接触前の横断面積
A2:A成分の水分接触10秒後の横断面積
B1:B成分の水分接触前の横断面積
B2:B成分の水分接触10秒後の横断面積
【請求項2】
20℃の水分接触10秒後のスパイラル捲縮数が8個/25.4mm以上発現する請求項1記載の潜在捲縮性複合繊維。
【請求項3】
複合繊維は、20℃における吸水率が1%以上である請求項1又は2記載の潜在捲縮性複合繊維。
【請求項4】
A成分がポリエーテル・ポリアミドブロック共重合体またはポリアミドとポリエチレングリコールとのブロック共重合体である請求項1〜3のいずれか1項記載の潜在捲縮性複合繊維。
【請求項5】
B成分がポリオレフィン、ポリアミド及びポリアミドアロイから選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項記載の潜在捲縮性複合繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の潜在捲縮性複合繊維を少なくとも一部に用いた繊維構造物。
【請求項7】
繊維構造物が、潜在捲縮性複合繊維の繊維接点が熱接着もしくは繊維間が交絡によって、固定された不織布、ネット状物、編物及び織物から選ばれる少なくとも一種の布帛で構成された構造である請求項6記載の繊維構造物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項記載の潜在捲縮性複合繊維又は請求項6〜7いずれか1項記載の繊維構造物を少なくとも一部に用いた吸収性物品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−97157(P2006−97157A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282319(P2004−282319)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(399120660)チッソポリプロ繊維株式会社 (41)
【Fターム(参考)】