説明

潤滑剤組成物、及び機械要素

【課題】様々な界面に対して、低摩擦性及び耐摩耗性に優れ、厳しい条件下での長時間の使用を可能にする新規な潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうける潤滑剤組成物であって、(a)メソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴い摩擦係数の最小値を発現させる少なくとも一種の有機化合物;及び(b)有機エステル、有機アルコール、有機カルボン酸、有機エーテル、有機アミン及び有機アミドからなる群から選ばれる一種又は二種以上;を含有する潤滑剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦摺動する機械要素等に用いられる、極圧高剪断条件での低摩擦性、耐摩耗性及びその長期耐久性に優れる潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トライボロジーとは、OECD用語集によれば、『相対運動をする2物体間の相互作用を及ぼしあう表面、ならびにこれに関連した諸問題と実地応用に関する科学と技術』である。トライボロジーは世の中の稼動するあらゆる産業機械・機器に共通の基盤技術であり、その産業分野は、輸送、電子機器/精密機械、産業機械/化学機械、機械・部品製造、宇宙開発、生体・健康及び家庭電化製品と非常に多岐に渉っている。しかし、いわゆる潤滑油によって軸受やエンジンなどの摺動接触部位の摩擦係数が下げられ、摩耗が低減され、機械寿命が延ばされる主要な界面の材質は鋼鉄である。
現行の潤滑剤技術は、低摩擦係数と耐摩耗性の両立を使命としているが、起動時また低荷重では低粘性基油により低摩擦係数を得、且つ高荷重では境界潤滑膜によって低摩擦係数を得ており、一方、(低粘性基油ゆえに損なう)耐摩耗性を、鋼鉄面への反応性膜の形成を基本とする境界潤滑膜技術によって補償するという機能分担が行われてきた。
【0003】
ところがこれまでの状況が最近劇的に変わろうとしている。
その原因の一つは、装置の小型化にある。装置が小型化すると、ますます高温・極圧・高剪断条件での耐性が求められる。現行の鉱油あるいはPAO(ポリ−α−オレフィン)に代表される低粘性合成油基油は、高温で揮発・分解し、また、境界潤滑膜として好ましいとされているMoS2も湿気や高温で分解する。そのため、150℃からの高温域での境界潤滑性と低摩擦性が両立する潤滑剤が求められている。
他の原因は、環境意識の高まりにある。現行の境界潤滑膜技術の多くが、環境有害(硫黄、リン、ハロゲン)もしくは懸念物質(重金属)を利用するものであるので、ELV(End of Life Vehicles)、WEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)、RoHS(Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment)などの法律が相次いで制定され、環境意識が高まっている状況下において、迅速かつ抜本的な技術改善が求められている。
【0004】
また、科学技術戦略推進機構(JCII)の「グリーントライボ材料の創製に関する調査」報告書には、保全費・部品交換費の削減、故障で生じる波及損失の削減、耐用年数の延長による設備投資の削減が、2002年度のトライボロジー改善による経済効果の多くを占めていることが指摘されており、機械要素の長寿命化とメンテナンスフリーを可能とする、極圧高剪断条件でより高性能を長期間にわたって発揮する新しい潤滑技術が必要であることが示唆されている。従って、潤滑剤に要求される性能はますます厳しくなってきている。
しかしながら、これまでの境界潤滑膜技術は、いずれも鋼への反応性が基軸にあり、そのような強い鋼に反応し、且つ無害な“新たな”材料、即ち、強い反応性と安全性を同時に満足する代替技術の開発は容易ではない。しかしその耐摩耗性技術がなければ、低粘性基油技術が活きてこないし、種々の添加剤技術も使えない。
【0005】
上記の議論から、現在、求められているものは、鋼鉄の界面が歪む(弾性変形する)ような高圧高剪断条件、又は高湿度・高温での、環境にやさしい元素で構成された、低摩擦性かつ耐摩耗性に優れ、その性能を長期間維持できる“新たな”潤滑油膜の形成技術であると言える。
【0006】
特許文献1に示されるように、柔らかい基油(合成基油、鉱物系基油等)とその高温での柔らかすぎる欠点を補う粘度指数向上剤の配合によって、低摩擦性と耐摩耗性の両立した内燃機関用潤滑油組成物が提供されている。しかし、このような欠点を補い合う素材の組み合わせによる性能が、広い温度域と圧力域で発現及び維持できるかについては示されていないし、また一般的に劣化に伴う素材の補償は難しい。
【0007】
特許文献2及び特許文献3では、トリアジン構造を有する円盤状化合物を含んだ低摩擦係数を発現する潤滑油組成物が提供されている。また、SUJ−2鋼については耐摩耗性に優れることが記載されているが、長期耐久性についての記載はない。
また、特許文献2及び3で開示された化合物は、実施例に示された範囲の低摩擦値を鋼鉄界面において実際に与えることは事実である。しかし、耐摩耗性との両立に関しては、鋼鉄においてその性能を有することは開示されているものの、鋼鉄以外の他の素材界面での記述は見られない。しかし、省エネルギーや地球温暖化防止、環境保護の観点から、潤滑剤を含む機械要素の燃費向上、高寿命化、リユース適性などの厳しい性能要求がある。したがって、あらゆる界面部材系での低摩擦係数と耐摩耗性との両立、及びその長寿命化が可能な潤滑剤技術ならびに機械要素系が、今後、非常に重要な技術であることが理解できる。
【特許文献1】特開2002−3876号公報
【特許文献2】特開2002−69472号公報
【特許文献3】特開2004−315703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、鋼鉄のみならず、鋼鉄以外の様々な界面に対しても、低摩擦性及び耐摩耗性に優れ、厳しい条件下での長時間の使用を可能にする新規な潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、環境有害又は懸念元素の不使用を可能にする、環境調和性の新規な潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、低摩擦性と耐摩耗性に優れ、耐久性に優れた機械要素を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] 互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうける潤滑剤組成物であって、下記成分(a)及び(b):
(a)メソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴い摩擦係数の最小値を発現させる少なくとも一種の有機化合物
(b)有機エステル、有機アルコール、有機カルボン酸、有機エーテル、有機アミン及び有機アミドからなる群から選ばれる一種又は二種以上
を含有する潤滑剤組成物。
[2] (a)成分を5.0質量%〜99.9質量%、及び(b)成分を0.1質量%〜95質量%含有する[1]の潤滑剤組成物。
[3] (a)成分を50.0質量%〜99.9質量%、及び(b)成分を0.01質量%〜20質量%含有する[1]の潤滑剤組成物。
[4] (b)成分として、少なくとも有機エステルを0.01質量%〜10質量%及び/又は有機アミドを0.01質量%〜10質量%含有する[1]〜[3]のいずれかの潤滑剤組成物。
[5] (b)成分として、少なくとも有機エステルを0.1質量%〜90質量%及び/又は有機アミドを0.1質量%〜10質量%含有する[1]〜[3]のいずれかの潤滑剤組成物。
[6] 互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうけている際に、前記(a)成分である有機化合物の分子が、その拡散断面積が最も大きくなる分子面を前記二面に対して平行にして配向した分子集合体薄膜を形成可能な[1]〜[5]のいずれかの潤滑剤組成物。
[7] (a)成分が、100MPa以上の圧力下で最小の摩擦係数を発現させる有機化合物である[1]〜[6]のいずれかの潤滑剤組成物。
[8] (a)成分が、0.05以下の摩擦係数を発現させる有機化合物である[1]〜[7]のいずれかの潤滑剤組成物。
[9] (a)成分が、メソゲン構造として、平板状又は円盤状構造を分子内に有するとともに、それを核として三以上の鎖状の原子団が放射状に伸びた分子構造を有する有機化合物である[1]〜[8]のいずれかの潤滑剤組成物。
[10] 前記三以上の鎖状の原子団うち、少なくとも二つは、同一又は異種の8個以上の原子が直鎖状に結合した基である[9]の潤滑剤組成物。
[11] (a)成分が、メソゲン構造として、少なくとも二つの芳香族環もしくは、少なくとも一つの縮合環、又はπ共役平面を含む有機化合物である[1]〜[10]のいずれかの潤滑剤組成物。
[12] (a)成分が、メソゲン構造として、下記一般式[1]〜[74]のいずれかで表される部分構造を有する有機化合物である[1]〜[11]のいずれかの潤滑剤組成物。
【化1】

【化2】

(式中、nは3以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は3以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。)
【0010】
[13] (a)成分が、メソゲン構造として棒状の分子構造を有する有機化合物である[1]〜[8]のいずれかの潤滑剤組成物。
[14] (a)成分が、メソゲン構造に結合した少なくとも一つの側鎖を有し、該側鎖が下記一般式(4a)又は一般式(4b)で表される基を含む有機化合物である[1]〜[13]のいずれかの潤滑剤組成物:
【化3】

式中、X0は単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基
)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;L0は、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20の、直鎖状、
分岐鎖状、又は環状のアルキレン基を表す)、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる、置換基を有していてもよい二価の連結基を表す。
【0011】
[15] 常圧で液晶相を呈する[1]〜[14]のいずれかの潤滑剤組成物。
[16] 互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうけている際に、結晶相を呈しない[1]〜[15]のいずれかの潤滑剤組成物。
[17] 極圧剤の少なくとも一種をさらに含有する[1]〜[16]のいずれかの潤滑剤組成物。
[18] (a)成分として、前記有機化合物を二種類以上含有する[1]〜[17]のいずれかの潤滑剤組成物。
[19] (a)成分として用いられる前記有機化合物の液晶相形成温度を低下させる有機化合物の少なくとも一種をさらに含有する[1]〜[18]のいずれかの潤滑剤組成物。
【0012】
[20] (a)成分が、下記一般式(1a)で表される有機化合物である[1]〜[19]のいずれかの潤滑剤組成物:
【化4】

式中、Y及びZは各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;A及びBは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表し;Tは−S−R1、−O−R2又は−NR34を表し;R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。
【0013】
[21] (a)成分が、下記一般式(2a)で表される化合物である[1]〜[20]のいずれかの潤滑剤組成物:
【化5】

式中、Y及びZは各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;R11及びR12は各々独立に置換基を表し;Tは−S−R1、−O−R2又は−NR34を表し、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表し;p及びqは、各々独立して1〜5の整数を表す。
【0014】
[22] 互いに異なる周速で運動する二面と、該二面の間に配置された[1]〜[21]のいずれかの潤滑剤組成物とを少なくとも有する機械要素。
[23] 平均圧力が10MPa以上で摩擦摺動する二面間に[1]〜[21]のいずれかの潤滑剤組成物を配置して二面間の摩擦を軽減する方法。
[24] 平均圧力が10MPa以上で摩擦摺動する二面間に用いられることを特徴とする[1]〜[21]のいずれかの潤滑剤組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鋼鉄のみならず、鋼鉄以外の様々な界面に対しても、低摩擦性及び耐摩耗性に優れ、厳しい条件下での長時間の使用を可能にする新規な潤滑剤組成物を提供することができる。また、本発明によれば、硫黄化合物、ハロゲン、りん化合物及び亜鉛やモリブデンなどの重金属類等の環境有害又は懸念元素を使用せず、環境調和性の新規な潤滑剤組成物を提供することができる。また、本発明によれば、低摩擦性と耐摩耗性に優れ、耐久性に優れた機械要素を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
[潤滑剤組成物]
本発明の潤滑剤組成物は、互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうける潤滑剤組成物であって、下記成分(a)及び(b)を含有することを特徴とする。
(a)メソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴い摩擦係数の最小値を発現させる少なくとも一種の有機化合物
(b)有機エステル、有機アルコール、有機カルボン酸、有機エーテル、有機アミン及び有機アミドからなる群から選ばれる一種又は二種以上。
【0017】
(a)成分
本発明の潤滑剤組成物は、(a)成分として、液晶相を形成し得るメソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴い摩擦係数の最小値を発現させる性質を有する、少なくとも一種の有機化合物を含有する。
上記有機化合物は、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴いより低い摩擦係数を発現し、摩擦係数の最小値を発現させる。さらに、100MPa以上の圧力下で最小の摩擦係数を発現させるのが好ましい。また、上記有機化合物は、0.07以下の低摩擦係数を発現させるのが好ましく、0.05以下の低摩擦係数を発現させるのがさらに好ましい。10MPa以上の領域の圧力下から、ガラスや鋼でもその界面に弾性歪みの影響が出始めることが分かっている。従って、本発明の潤滑剤組成物が用いられる二面は、主な運動が10MPa以上の圧力下で行われるのが好ましく、50MPa以上の圧力下で行われるのがより好ましく、100MPa以上の圧力下で行われるのがさらに好ましい。なお、前記潤滑剤組成物は、圧力上昇に伴い、混合潤滑領域まで達し、その膜界面が破壊されると考えられる。従って、前記潤滑剤組成物の摩擦係数の低下は、10MPa以上であり、且つ混合潤滑領域となる圧力以下の範囲における圧力上昇に伴って生じる。
【0018】
また、上記有機化合物は、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に従いより低摩擦係数を発現させる。ここで、粘度圧力係数はトライボロジスト 第38巻 第10号 pp927 (1993)に記載される方法によって、算出することができる。本発明の潤滑剤組成物は、40℃における粘度圧力係数が13GPa-1であるのが好ましい。
但し、40℃で固体の化合物の場合は、測定条件で液体を呈する2以上の温度で粘度圧力係数を求め、それらの値を低温側に外挿して求めた40℃の値と定義する。
【0019】
上記有機化合物は、メソゲン構造を分子内に有する。ここで、メソゲン構造とは、中間相(=液晶相)形成分子(液晶辞典、日本学術振興会、情報科学用有機材料第142委員会、液晶部会編、1989年)とも称され、液晶性分子構造とほぼ同義である。典型的メソゲンとして具体的には、棒状構造でネマティック相及びスメクティック相を呈するものでは、アゾメチン基、フェニルアゾ基、フェニルアゾキシ基、安息香酸エステル基、ビフェニル基、ターフェニル基、シクロヘキシルカルボン酸エステル基、フェニルシクロヘキサン基、ビフェニルシクロヘキサン基、ピリミジン基、ジオキサン基、シクロヘキシルシクロヘキサンエステル基、シクロヘキシルエチル基、トラン基、2,3−ジフルオロフェニレン基、アルケニル基、シクロヘキシル基又はそれらの複合、連結した基が挙げられる。コレステリック相を呈するものでは、コレステロール誘導体エステルが挙げられる。平板状及び円盤状構造でディスコティックネマティック相及びカラムナー相を呈するものでは、六置換ベンゼン、1,3,5−トリアジン、ヘキサアリールエチニルベンゼン、2,3,6,7,10,11−六置換トリフェニレン、2,3,7,8,12,13−六置換トルキセン、六置換トリオキサトルキセン、1,2,3,5,6,7−六置換アントラキノン、八置換フタロシアニン又はポルフィリン、六置換マクロサイクレン、ビス(1,3−ジケトン)銅錯体、テトラアリールビピラニリデン、テトラチアフルバレン、イノシトール等が挙げられる。
【0020】
前記有機化合物の分子は、二面間で剪断を受けている際に、拡散断面積が最も大きくなる分子面を剪断面と平行に向けて配向しているのが好ましい。棒状分子の場合、その慣性軸又は光学軸が剪断面と平行になるような配向状態での分子集合体薄膜の形成が必要である。平板状及び円盤状構造化合物の場合は、最も広い分子面を剪断面と平行になるような配向状態での分子集合体薄膜の形成が必要である。
【0021】
摩擦係数の観点からは、棒状構造の有機化合物と、平板状及び円盤状構造の有機化合物とでは、一般的には、後者の方が、小さい摩擦係数を与える。この理由は、後者の方が界面への吸着性や、隣接分子間の反発に寄与する面積が相対的に大きいことによると推察される。また、平面性と分子間反発を効率的に保持する上でも、π結合による縮合環を構成要素とする平板状及び円盤状構造の有機化合物が好ましい。しかし、縮合環の数が多くなると結晶化温度も高くなり、相対的に粘度が上昇し、室温付近での利用が困難になる傾向があるため、特殊な高温での利用以外はあまりπ−平面は大きくないほうがよい。
【0022】
平板状及び円盤状構造化合物とは、その母核に平板状あるいは円盤状の分子部分を有する化合物をいう。側鎖部を除いた母核部分の平板状あるいは円盤状の形態的特徴は、例えば、その原形化合物である水素置換体について、以下のように表現され得る。まず、分子の大きさを以下のようにして求める。
1)該分子につき、できる限り平面に近い、好ましくは平面分子構造を構築する。この場合、結合距離、結合角としては、軌道の混成に応じた標準値を用いることが好ましく、例えば日本化学会編、化学便覧改訂4版基礎編、第II分冊15章(1993年刊 丸善)を参照することができる。
2)前記1)で得られた構造を初期値として、分子軌道法や分子力場法にて構造最適化する。方法としては例えば、Gaussian98、MOPAC2000、CHARMm/QUANTA、MM3が挙げられ、好ましくはGaussian98である。
3)構造最適化によって得られた構造の重心を原点に移動させ、座標軸を慣性主軸(慣性テンソル楕円体の主軸)にとる。
4)各原子にファンデルワールス半径で定義される球を付与し、これによって分子の形状を記述する。
5)ファンデルワールス表面上で各座標軸方向の長さを計測し、それらそれぞれをa、b、cとする。
以上の手順により求められたa、b、cを用いて円盤状の形態を定義すると、c≦b<aかつa/2≦b≦a、好ましくはc≦b<aかつ0.7a≦b≦aと表すことができる。また、b/2>cであることが好ましい。
【0023】
また具体的化合物として挙げると、例えば、日本化学会編、季刊化学総説No.22「液晶の化学」第5章、第10章2節(1994年刊 学会出版センター)、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.Liq.Cryst.71巻、111頁(1981年)、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)、J.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhang、J.S.Mooreらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.,116巻、2655頁(1994年)に記載の母核化合物の誘導体が挙げられる。例えば、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、アントラセン誘導体、アザクラウン誘導体、シクロヘキサン誘導体、ヘテロ環誘導体、β−ジケトン系金属錯体誘導体、ヘキサエチニルベンゼン誘導体、ジベンゾピレン誘導体、コロネン誘導体及びフェニルアセチレンマクロサイクルの誘導体が挙げられる。さらに、日本化学会編、“化学総説No.15 新しい芳香族の化学”(1977年東京大学出版会刊)に記載の環状化合物及びそれらの複素原子置換等電子構造体を挙げることができる。また、上記金属錯体の場合と同様に、水素結合、配位結合等により複数の分子の集合体を形成して円盤状の分子となるものでもよい。これらを分子の中心の母核とし、直鎖もしくは分岐のアルキル基やアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、置換ベンゾイルオキシ基等がその側鎖として放射状に置換された構造により円盤状液晶化合物が形成される。
【0024】
平板状及び円盤状構造化合物の分子の中心の母核の好ましい例には、下記一般式[1]〜[74]のいずれかで表される構造が含まれる。なお、nは3以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は3以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表し、即ち、[5]及び[6]は中心金属を含んでいても、含んでいなくてもよい。
【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
母核は、極性元素を含むπ共役系の骨格を有するのが好ましく、上記の中で、[1],[2],[3],[4],[5],[6],[9],[11],[12],[17],[20],[21],[23],[24],[28],[29],[30],[36],[38],[42],[46],[56],[58],[67],[68],[73],[74]が好ましく、その中でも[1],[2],[3],[6],[11],[12],[21],[23],[30],[46],[58],[68],[73]が好ましく、特に好ましくは合成的に安価に入手できる[1]のベンゼン環又は[2]の1,3,5−トリス(アリールアミノ)−2,4,6−トリアジン環である。
【0028】
側鎖としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルチオ基、アシルオキシ基が挙げられ、側鎖中にアリール基、ヘテロ環基を含んでいてもよい。また、C.Hansch、A.Leo、R.W.Taft著、ケミカルレビュー誌(Chem.Rev.)1991年、91巻、165〜195ページ(アメリカ化学会)に記載されている置換基で置換されていてもよく、代表例としてアルコキシ基、アルキル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子が挙げられる。更に側鎖中に、例えばエーテル基、エステル基、カルボニル基、シアノ基、チオエーテル基、スルホキシド基、スルホニル基、アミド基のような官能基を有していてもよい。
【0029】
より詳細には、側鎖部分としては、例えば、アルカノイルオキシ基(例えば、ヘキサノイルオキシ、ヘプタノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ノナノイルオキシ、デカノイルオキシ、ウンデカノイルオキシ)、アルキルスルホニル基(例えば、ヘキシルスルホニル、ヘプチルスルホニル、オクチルスルホニル、ノニルスルホニル、デシルスルホニル、ウンデシルスルホニル)、アルキルチオ基(例えば、ヘキシルチオ、ヘプチルチオ、ドデシルチオ)、アルコキシ基(例えば、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ)、2−(4−アルキルフェニル)エチニル基(例えば、アルキル基としてメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル)、末端ルオキシ、7−ビニルヘプチルオキシ、8−ビニルオクチルオキシ、9−ビニルノニルオキシ)、4−アルコキシフェニル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、アルコキシメチル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、アルキルチオメチル基(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルキルチオメチル(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルキルチオエトキシメチル(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルコキシエトキシメル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、2−アルコキシカルボニルエチル基例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、コレステリルオキシカルボニル、β−シトステリルオキシカルボニル、4−アルコキシフェノキシカルボニル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、4−アルコキシベンゾイルオキシ基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、4−アルキルベンゾイルオキシ基(例えばアルキルシ基として、前述の2−(4−アルキルフェニル)エチニル基挙げたもの)、4−アルコキシベンゾイル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)が挙げられる。また、前述のもののうち、フェニル基は他のアリール基(例えば、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセン基)でもよいし、また前述の置換基に加えて更に置換されてもよい。また、該フェニル基はヘテロ芳香環(例えば、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、トリアゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアリル基、オキサジアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基)であってもよい。
一つの側鎖に含まれる炭素原子の数は1〜30が好ましく、1〜20がさらに好ましい。
【0030】
前記円盤状化合物は、円盤状部分構造である環状の基と、該環状の基に結合した複数個(好ましくは2〜11個)の側鎖とを有する化合物であるのが好ましい。側鎖の少なくとも一つは、エステル結合を有しているのが好ましい。特に、側鎖の少なくとも一つが、下記一般式(4a)又は一般式(4b)で表される基を含んでいるのが好ましい。なお、以下の式中、左側(−X0)がD側に結合する。
【0031】
【化8】

【0032】
【化9】

【0033】
式中、X0は単結合、NR1基(R1は、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。
0は、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20の、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキレン基を表す)、NR1基(R1は、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。二価の連結基は置換基を有していてもよい。L0はアルキレン基が好ましい。
また、X0とL0との組み合わせの基としては、−O(C=O)−アルキレン−、−O(C=O)−シクロアルキレン−が好ましい。
0は化合物の側鎖末端に位置し、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
【0034】
また、前記側鎖のうち少なくとも一つは、前記一般式(4a)で表される基を含んでいるのがより好ましい。中でも、側鎖が下記一般式(4)で表される基を含んでいるのがさらに好ましい。なお、以下の式中、左側(−L01)が環状の基側に結合する。
【0035】
【化10】

【0036】
01はX0と同義である。L01は酸素原子、硫黄原子、−(C=O)O−、−NH−(C=O)O−であるのが好ましい。R01は炭素原子数が1〜30の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、p及びqは各々整数を表す。R01の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、スルフィド基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)及びアシルオキシ基(アセトキシ、ピバロイルオキシ、バンゾイルオキシ等)や、アリール基、複素環基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、及びウレイド基等が挙げられる。pは1〜20が好ましく、2〜10がより好ましい。qは1〜10が好ましく、1〜5がより好ましい。
【0037】
また、前記側鎖のうち少なくとも一つが、下記一般式(5)又は(6)で表される基を含んでいるのも好ましい。
【0038】
【化11】

【0039】
式中、R01は炭素原子数が1〜30の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、m及びnは各々整数を表し、一般式(4)におけるR01と同じ意味の基を表す。
【0040】
【化12】

【0041】
式中、R25は置換基を表し、a24は1〜5の整数を表す。
【0042】
また、前記側鎖の少なくとも一つが、下記一般式(7)で表される基を含んでいるのも好ましい。
【0043】
【化13】

【0044】
式中、L21は、単結合、NR1基(R1は、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。好ましくは、酸素原子、オキシアルキレン基、オキシカルボニル基、アミノカルボニル基、カルボニルオキシ基及びカルボニル基であり、オキシカルボニル基及びカルボニル基がより好ましい。
【0045】
前記式中、置換基R25、R71及びR72の例には、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素)、アルキル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキル基で、例えば、メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル)、アルケニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルケニル基で、例えば、ビニル、2−ブテン−1−イル、オレイル)、アルキニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルキニル基で、例えば、プロパルギル)、アリール基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20のアリール基で、例えば、フェニル、ナフチル)、ヘテロ環基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のヘテロ環基で、例えば、2−フリル、2−チエニル、4−ピリジル,2−イミダゾリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾオキサゾリル、1−ベンゾイミダゾリル)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルコキシ基で、例えば、メトキシ、エトキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、オクタデシルオキシ)、アリールオキシ基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20のアリールオキシ基で、例えば、フェノキシ、1−ナフトキシ)、シリルオキシ基(炭素原子数3〜40の、好ましくは3〜20のシリルオキシ基で、例えば、トリメチルシリルオキシ)、ヘテロオキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のヘテロオキシ基で、例えば、2−フリルオキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ、3−ピリジルオキシ、2−イミダゾリルオキシ)、アシルオキシ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアシルオキシ基で、例えば、アセトキシ、ブタノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ドデカノイルオキシ、ベンゾイルオキシ)、カルバモイルオキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のカルバモイルオキシ基で、例えば、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ)、アルコキシカルボニルオキシ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルコキシカルボニルオキシ基で、例えば、エトキシカルボニルオキシ、ブトキシカルボニルオキシ、2−エチルへキルオキシカルボニルオキシ、ドデシルオキシカルボニルオキシ、ヘキサデシルオキシカルボニルオキシ)、アリールオキシカルボニルオキシ基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20のアリールオキシカルボニルオキシ基で、例えば、フェノキシカルボニルオキシ)、アミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは1〜20のアミノ基で、例えば、アミノ、N−メチルアミノ、N−2−エチルヘキシルアミノ、N−テトラデシルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N,N−ジオクチルアミノ)、アシルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアシルアミノ基で、例えば、アセチルアミノ、オクタノイルアミノ、ドデカノイルアミノ)、アミノカルボニルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアミノカルボニルアミノ基で、例えば、N,N−ジオクチルカルバモイルアミノ)、アルコキシカルボニルアミノ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ、テトラデシルオキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20のアリールオキシカルボニルアミノ基で、例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、スルファモイルアミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のスルファモイルアミノ基で、例えば、N,N−ジメチルスルファモイルアミノ)、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキル及びアリールスルホニルアミノ基で、例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、ドデシルスルホニルアミノ、p−トルエンスルホニルアミノ)、メルカプト基、アルキルチオ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキルチオ基で、例えば、メチルチオ、エチルチオ、2−エチルヘキシルチオ、ドデシルチオ)、アリールチオ基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20のアリールチオ基で、例えば、フェニルチオ)、ヘテロ環チオ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のヘテロ環チオ基で、例えば、4−ピリジルチオ、チアゾール−2−イルチオ、ベンゾオキサゾール−2−イルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ、1,3,4−チアジアゾール−2−イルチオ)、スルファモイル基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のスルファモイル基で、例えば、スルファモイル、N,N−ジエチルスルファモイル、N−ヘキサデシルスルファモイル)、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキル及びアリールスルフィニル基で、例えば、メチルスルフィニル、フェニルスルフィニル)、アルキル及びアリールスルホニル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキル及びアリールスルホニル基で、例えば、メチルスルホニル、ブチルスルホニル、ヘキサデシルスルホニル、p−トリルスルホニル)、アシル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアシル基で、例えば、アセチル、プロピオニル、イソブチリル、テトラデカノイル、ベンゾイル)、アリールオキシカルボニル基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20のアリールオキシカルボニル基で、例えば、フォノキシカルボニル)、アルコキシカルボニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルコキシカルボニル基で、例えば、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル)、カルバモイル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のカルバモイル基で、例えば、カルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル、N−ドデシルカルバモイル)、アリール及びヘテロ環アゾ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアリール及びヘテロ環アゾ基で、例えば、フェニルアゾ、3−メチル−1,2,4−オキサジアゾール−5−イルアゾ、2−メチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−5−イルアゾ)、イミド基(炭素原子数4〜40の、好ましくは4〜20のイミド基で、例えば、スクシンイミド、フタルイミド)、ホスフィノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィノ基)、ホスフィニル基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィニルアミノ基)、シリル基(炭素原子数3〜40の、好ましくは3〜20のシリル基で、例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル)が含まれる。さらに、置換基R71及びR72は、これらの置換基から選ばれる1種以上の置換基によって置換されたこれらの置換基も含まれる。R71の置換基としては直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換された、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基及びアシル基が好ましい。aは0あるいは1〜5の整数であり、好ましくは1〜3である。
71の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。
【0046】
また、前記m個の側鎖(R−X−)の少なくとも一つが、フッ化炭素基を含んでいるのも好ましい。すなわち、前記一般式(4a)、(4b)、(4)、(5)、(6)及び(7)の少なくとも一つが、フッ化炭素基を含んでいるのも好ましい。フッ化炭素基は、二重結合又は芳香族環を含んでいてもよく、また直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。
【0047】
本発明の潤滑剤組成物は、(a)成分が、下記一般式(1a)で表される有機化合物の少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0048】
【化14】

【0049】
式中、Y及びZは各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;A及びBは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表し;Tは−S−R1、−O−R2又は−NR34を表し;R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。
【0050】
前記一般式(1a)中、Y及びZは各々独立に、単結合、NRa基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、Raは水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基(直鎖状及び分岐鎖状のアルキル基の双方を含む)を表す。組み合わせからなる二価の連結基としては、オキシカルボニル基、アミノカルボニル基、カルバモイル基、オキシスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。Y及びZがそれぞれ単結合の場合、トリアジン環はA及びBのそれぞれによって直接置換される。Y及びZがそれぞれ単結合でA及びBがそれぞれ複素環基の場合、ピペリジンのような複素環基が遊離原子価をもった窒素原子で直接結合していてもよく、さらに遊離原子価がなくてもヘテロ原子で結合し、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩のようにオニウム塩を形成していてもよい。Y及びZはそれぞれ、NRa基、硫黄原子又は酸素原子であるのが好ましく、Y及びZは双方とも、NRa基、硫黄原子又は酸素原子であるのがより好ましい。NRa基の中でも、Raが炭素数1〜30のアルキル基であるのが好ましく、炭素数1〜12のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であるのがさらに好ましく、Raがメチル基であるのが特に好ましい。
【0051】
前記一般式(1a)中、A及びBは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。A及びBでそれぞれ表されるアルキル基は、炭素数が1〜30であるのが好ましく、2〜30であるのがより好ましく、4〜30であるのがさらに好ましく、6〜30であるのがさらに好ましい。前記アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基、フェノキシ基等)、スルフィド基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ基、プロピルアミノ基等)、アシル基(アセチル基、プロパノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基等)及びアシルオキシ基(アセトキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)や、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基及びウレイド基等が挙げられる。
【0052】
A及びBでそれぞれ表されるアルケニル基ならびにアルキニル基は、炭素数が2〜30であるのが好ましく、4〜30であるのがより好ましく、6〜30であるのがさらに好ましい。また、アルケニル基及びアルキニル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。さらに、A及びBでそれぞれ表されるアルケニル基及びアルキニル基は置換基を有していてもよく、該置換基としては上記アルキル基の置換基で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0053】
A及びBでそれぞれ表されるアリール基は、単環を含んでいても、二以上の環の縮合環を含んでいてもよい。具体的には、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基及びピレニル基等が挙げられるが、フェニル基及びナフチル基が好ましい。さらに、置換基を有していてもよく、該置換基としては、上記アルキル基の置換基として例示したものの他、アルキル基が挙げられる。前記置換基としては、炭素数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基及びアルキル残基を含む置換基が好ましく、具体的には、アルキル基(オクチル基、デシル基、ヘキサデシル基、2−エチルヘキシル基等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ基等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ基等)、オクチルカルバモイル基、オクタノイル基及びデシルスルファモイル基等の置換基が好ましい。また、これらの置換基は2つ以上置換しているのが好ましく、さらに上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等で置換されていてもよい。
【0054】
A及びBでそれぞれ表される複素環基は、5〜7員環構造の複素環残基が好ましく、5又は6員環構造の複素環残基がより好ましい。複素環基は、単環を含んでいても、二以上の環の縮合環を含んでいてもよい。前記複素環基に含まれる複素環の骨格の具体的な例については、岩波理化学辞典 第三版増補版 (岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁 及び表5.主要縮合複素環式化合物の名称 1607頁 に記載される複素環が挙げられる。また、これらはアリール基と同様、置換基を有していてもよく、該置換基としては、炭素数8以上の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル残基を含む置換基が好ましい。また、これらの置換基によって2以上置換されているのが好ましく、さらに、上記置換基の他、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等によって置換されていてもよい。
【0055】
A及びBには、総炭素数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル鎖、総炭素数4〜48の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキルエーテル鎖、又は直鎖状もしくは分岐鎖状の有機ポリシリル鎖を含む置換基を含んでいるのがより好ましい。A及びBは、直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基、より好ましくは総炭素数4〜48の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基で置換されたフェニル基であるのが特に好ましい。前記オリゴアルキレンオキシ鎖中の総炭素数は4〜24が好ましい。前記オリゴアルキレンオキシ鎖中に含まれるアルキレン基の好ましい例には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が含まれ、前記オリゴアルキレンオキシ鎖中に含まれるアルキレンオキシ基は2〜7個であるのが好ましく、2〜5個であるのがより好ましい。
【0056】
A及びBの好ましい一例として、−O(Cx2xO)ny2y+1(但し、nは、1〜10、xは1〜6、yは1〜24である)で置換されたフェニル基が挙げられる。
【0057】
前記一般式(1a)中、Tは−S−R1、−O−R2又は−NR34を表す。R1、R2、R3及びR4は各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。R1及びR2でそれぞれ表されるアルキル基は、炭素数が1〜30であるのが好ましく、2〜30であるのがより好ましく、4〜30であるのがさらに好ましく、6〜30であるのがよりさらに好ましい。R3及びR4でそれぞれ表されるアルキル基は、炭素数が1〜30であるのが好ましく、1〜24であるのがより好ましく、2〜18であるのがさらに好ましく、4〜12であるのがよりさらに好ましい。これらのアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、また置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基、フェノキシ基等)、スルフィド基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ基、プロピルアミノ基等)、アシル基(アセチル基、プロパノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基等)及びアシルオキシ基(アセトキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)や、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基及びウレイド基等が挙げられる。
【0058】
1、R2、R3及びR4でそれぞれ表されるアルケニル基ならびにアルキニル基は、炭素数が2〜30であるのが好ましく、2〜30であるのがより好ましく、4〜30であるのがさらに好ましく、6〜30であるのがさらに好ましい。また、アルケニル基及びアルキニル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。さらに、R1、R2、R3及びR4でそれぞれ表されるアルケニル基及びアルキニル基は置換基を有していてもよく、該置換基としては上記アルキル基の置換基で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0059】
1、R2、R3及びR4でそれぞれ表されるアリール基は、単環を含んでいても、二以上の環の縮合環を含んでいてもよい。アリール基としては、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基及びピレニル基等が挙げられるが、フェニル基及びナフチル基が好ましい。さらに、置換基を有していてもよく、該置換基としては、上記アルキル基の置換基として例示したものの他、アルキル基が挙げられる。前記置換基としては、炭素数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基及びアルキル残基を含む置換基が好ましく、具体的には、アルキル基(オクチル基、デシル基、ヘキサデシル基、2−エチルヘキシル基等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ基等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ基等)、オクチルカルバモイル基、オクタノイル基及びデシルスルファモイル基等の置換基が好ましい。また、これらの置換基は2つ以上置換しているのが好ましく、さらに上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等で置換されていてもよい。
【0060】
1、R2、R3及びR4でそれぞれ表される複素環基は、5〜7員環構造の複素環残基が好ましく、5又は6員環構造の複素環残基がより好ましい。前記複素環基は、単環を含んでいても、二以上の環の縮合環を含んでいてもよい。これらの骨格の具体的な例については、岩波理化学辞典 第三版増補版 (岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁 及び表5.主要縮合複素環式化合物の名称 1607頁 に記載される複素環が挙げられる。また、これらはアリール基と同様、置換基を有していてもよく、該置換基としては、炭素数8以上の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル残基を含む置換基が好ましい。また、これらの置換基によって2以上置換されているのが好ましく、さらに、上記置換基の他、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等によって置換されていてもよい。
【0061】
1、R2、R3及びR4には、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル鎖、総炭素数4〜48の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖(好ましい範囲は上記と同様である)、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキルエーテル鎖、又は直鎖状もしくは分岐鎖状の有機ポリシリル鎖を含む置換基を含んでいるのがより好ましい。R3及びR4の好ましい一例は、総炭素数 2〜18の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基であり;R1及びR2の好ましい一例は、(Cx2xO)ny2y+1(但し、nは、1〜10、xは1〜6、yは1〜24である)である。
【0062】
なお、前記一般式(1a)中、−Tは、−Y−A及び/又は−Z−Bと同一の基であってもよい。
【0063】
前記一般式(1a)で表される化合物の中でも、下記一般式(2a)で表される化合物が好ましい。
【0064】
【化15】

【0065】
式中、Y、Z及びTはそれぞれ、前記一般式(1a)中のそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同様である。R11及びR12は各々独立に置換基を表し、p及びqは、各々独立して1〜5の整数を表す。
11及びR12はそれぞれ、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等が挙げられる。R11及びR12はそれぞれ、総炭素数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル鎖、総炭素数4〜48の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキルエーテル鎖、又は直鎖状もしくは分岐鎖状の有機ポリシリル鎖を含む置換基であるのが好ましく、炭素数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル残基、又は総炭素数4〜48の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基であるのが好ましく、総炭素数4〜48の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基であるのがより好ましい。前記オリゴアルキレンオキシ鎖の好ましい範囲は、上記と同様である。
【0066】
前記一般式(2a)中、Y及びZの双方が、NRa基であるか、硫黄原子であるか、又はY及びZの双方が酸素原子であるのが好ましい。NRa基の中でも、Raは炭素数1〜 のアルキル基であるのが好ましく、Raがメチル基であるのが特に好ましい。また、前記一般式(2a)中のT、R11及びR12のうち少なくとも一つが総炭素数4〜48の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含有するのが好ましい。前記オリゴアルキレンオキシ鎖の好ましい範囲は、上記と同様である。
【0067】
ここで、液晶性にとっては、立体的要因である直線性や平面性と剛直性、及び静電的要因である分極率の異方性が重要である。ほぼすべての液晶性化合物の構造は、模式的に、剛直なコア構造とフレキシブルな側鎖とで表すことができる。メソゲン構造とは、中間相(メソフェーズ)が誘起(ジェネレート)される構造という造語であり、前者の剛直なコア構造部分を指す。液晶性化合物は、単独で、ある特定の温度、圧力範囲で熱力学的に安定な液晶相を呈するサーモトロピック液晶と、溶媒中である特定の温度、圧力、濃度範囲で液晶相を呈するリオトロピック液晶とに分類される。しかし、メソゲン構造とフレキシブルな側鎖を有する化合物でも必ずしも液晶性を呈するわけではない。従って、本発明の潤滑剤組成物に用いられる有機化合物は、メソゲン構造を分子内に有することは必須だが、液晶性化合物である必要はない。
【0068】
前記有機化合物が有するこの剛直な平面構造による剛体的斥力は液晶性発現において重要な因子となるが、同時に存在するフレキシブルな側鎖が自由に振舞える空間、すなわち自由体積が大きいことが、従来の潤滑剤組成物にない特徴を本発明の潤滑剤組成物に与えている。すなわち、液晶性化合物、より好ましくは円盤状メソゲン構造を有する化合物は、剛直な平面構造の環のまわりにフレキシブルな側鎖を数本配するがゆえに、相対的にそれら側鎖の自由体積が大きくなり、圧力がかかり、自由体積が圧縮される状況下でもその自由体積を確保し得ることが期待される。それゆえに、相対的に圧力に対する粘度の上昇率が小さくなり、動植物油脂と同等の小さな粘度圧力係数を呈する。したがって、高圧下でも、剪断方向には低い粘性係数を示し、界面方向には平面分子が高い吸着力と配向(積層)性による高い粘性係数を発現し、これまでのいわゆる等方性の油性化合物では発現し得なかった極圧下での低粘性と耐摩耗性を両立しているものと推定される。
【0069】
本発明の潤滑剤組成物は、極圧条件下すなわち弾性流体潤滑領域で、特に低摩擦係数を与えることが特徴である。そのため、常圧域でのいわゆる流体潤滑領域では一般的に平面性の高い広いπ共役平面を有する有機化合物の粘度は相対的に大きい。したがって、この領域、すなわち常圧で液晶性であることは、剪断によるミエソビッツの低粘性を発現させることが可能であり、より有利であると言える。したがって、できるだけ広い温度域で低摩擦係数を発現させるには、常圧で液晶相を呈する有機化合物を用いるのが好ましく、さらに常圧での液晶温度領域ができるだけ広く、且つ低粘性の平板状あるいは円盤状構造の有機化合物を用いるのがより好ましい。その点では、トリアリールメラミン環やヘキサ−及びペンタアリールエチニルベンゼン、さらにトリフェニレン環等の円盤状メソゲン構造を二つ以上連結し、結晶性を弱め、広い温度域で液晶相を形成し得る有機化合物も好ましい。一方、二面間に介在して剪断をうけている際は、前記有機化合物は、結晶相温度では極めて高い摩擦係数を発現することが分かっている。一方、それが明確な結晶相を形成せず無定形(アモルフォス)状態を呈したり、結晶相を形成する速度が遅い場合は過冷却状態になり見かけ上無定形(アモルフォス)状態を呈するような場合には小さな摩擦係数が維持されることが一般的に起こるので、二面間に介在して剪断をうけている際は、結晶相を呈しないのが好ましいと考えられる。
【0070】
以下に、上記(a)有機化合物の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
【0071】
【化16】

【0072】
【化17】

【0073】
【化18】

【0074】
【化19】

【0075】
【化20】

【0076】
【化21】

【0077】
【化22】

【0078】
【化23】

【0079】
【化24】

【0080】
【化25】

【0081】
【化26】

【0082】
【化27】

【0083】
【化28】

【0084】
【化29】

【0085】
【化30】

【0086】
【化31】

【0087】
【化32】

【0088】
【化33】

【0089】
【化34】

【0090】
【化35】

【0091】
【化36】

【0092】
【化37】

【0093】
【化38】

【0094】
【化39】

【0095】
【化40】

【0096】
【化41】

【0097】
【化42】

【0098】
【化43】

【0099】
【化44】

【0100】
【化45】

【0101】
【化46】

【0102】
【化47】

【0103】
【化48】

【0104】
【化49】

【0105】
【化50】

【0106】
【化51】

【0107】
【化52】

【0108】
【化53】

【0109】
【化54】

【0110】
【化55】

【0111】
【化56】

【0112】
【化57】

【0113】
本発明の潤滑剤組成物は、(a)成分として、メソゲン構造を分子内に有する有機化合物を二種類以上含有していてもよい。かかる場合は、異なるメソゲン構造を有する二種以上の化合物を含有していてもよく、同一のメソゲン構造を有し、且つ各々異なる側鎖が置換された有機化合物を複数種類用いてもよい。また、前記潤滑剤組成物は、前記有機化合物とともに、その液晶相形成温度を低下させる有機化合物を含有していてもよい。常圧におけるそのような化合物の組み合わせとしては、非特許文献 Mol.Cryst.Liq.Cryst.,1981,Vol.71,pp111.の図5.から図10.の化合物、及び特許文献 特開平9−104866号公報に記載される化合物があげられる。参照文献にも記載されるように、かかる化合物の組み合わせに関する記載は少ないが、特に構造的に除外されたり、制限される化学構造はなく、より効率的にその液晶相形成温度を低下させる構造として、用いる液晶化合物の側鎖に類似した構造であり、好ましくは、エーテル基やカルボニル基といった極性官能基が少なくとも一種類含まれる化合物、例えばオリゴエチレンオキシ基と炭素数6以上のアルキル基を含むエーテル化合物やエステル化合物等下記の具体的化合物例が挙げられる。
【0114】
【化58】

【0115】
【化59】

【0116】
(b)成分
本発明の潤滑剤組成物は、上記(a)成分とともに、(b)成分として、有機エステル、有機アルコール、有機カルボン酸、有機エーテル、有機アミン及び有機アミドからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する。以下、それぞれについて詳細に説明する。
【0117】
有機エステル:
有機エステルは、アルコールとカルボン酸とを反応させることにより得られる。アルコールとしては、一価アルコールでも多価アルコールでもよい。また、カルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。
有機エステルを構成する一価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のペンタノール、直鎖状又は分岐状のヘキサノール、直鎖状又は分岐状のヘプタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0118】
また、有機エステルを構成する多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0119】
これらの多価アルコールの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等が好ましい。更に、シリンダー鳴き防止性により優れる点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、及びこれらの混合物等がより好ましい。
【0120】
有機エステルを構成するアルコールは、上述したように一価アルコールであっても多価アルコールであってもよいが、多価アルコールであることが好ましい。
【0121】
また、有機エステルを構成する酸のうち、一塩基酸としては、通常炭素数1〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分岐状のブテン酸、直鎖状又は分岐状のペンテン酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0122】
多塩基酸としては、二塩基酸、トリメリット酸等が挙げられるが、二塩基酸であることが好ましい。二塩基酸は鎖状二塩基酸、環状二塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状二塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。鎖状二塩基酸としては、炭素数2〜16の鎖状二塩基酸が好ましく、具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸及びこれらの混合物等が挙げられる。また、環状二塩基酸としては、1、2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、安定性の点から、鎖状二塩基酸が好ましい。
【0123】
有機エステルを構成する酸としては、上述したように一塩基酸であっても多塩基酸であってもよいが、一塩基酸が好ましい。
【0124】
有機アルコール:
有機アルコールとしては、上記エステル油性剤の説明において例示されたアルコールが挙げられる。有機アルコールの炭素数は、6以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上がよりさらに好ましい。また、炭素数が大き過ぎると析出しやすくなるおそれがあることから、炭素数は24以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下がよりさらに好ましい。
【0125】
有機カルボン酸:
有機カルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でもよい。このようなカルボン酸としては、例えば、有機エステルの説明において例示された一塩基酸及び多塩基酸が挙げられる。これらの中では、一塩基酸が好ましい。また、有機カルボン酸の炭素数は、6以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上がよりさらに好ましい。また、有機カルボン酸の炭素数が大き過ぎると析出しやすくなる恐れがあることから、合計炭素数は24以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下がよりさらに好ましい。
【0126】
有機エーテル:
有機エーテルとしては、3〜6価の脂肪族多価アルコールのエーテル化物、3〜6価の脂肪族多価アルコールの二分子縮合物又は三分子縮合物のエーテル化物などが挙げられる。
3〜6価の脂肪族多価アルコールの具体例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトールなどが挙げられる。アルキル鎖としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基、フェニル基、ベンジル基などが挙げられる。また、上記エーテル化物は、アルキル鎖の代わりに一部が水素原子である部分エーテル化物も包含する。
【0127】
3〜6価の脂肪族多価アルコールの二分子縮合物,三分子縮合物の具体例としては、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ジソルビトール、トリグリセリン、トリトリメチロールプロパン、トリペンタエリスリトール、トリソルビトールなどが挙げられる。
【0128】
有機エーテルの具体例としては、グリセリンのトリヘキシルエーテル、グリセリンのジメチルオクチルトリエーテル、グリセリンのジ(メチルオキシイソプロピレン)ドデシルトリエーテル、グリセリンのジフェニルオクチルトリエーテル、グリセリンのジ(フェニルオキシイソプロピレン)ドデシルトリエーテル、トリメチロールプロパンのトリヘキシルエーテル、トリメチロールプロパンのジメチルオクチルトリエーテル、トリメチロールプロパンのジ(メチルオキシイソプロピレン)ドデシルトリエーテル、ペンタエリスリトールのテトラヘキシルエーテル、ペンタエリスリトールのトリメチルオクチルテトラエーテル、ペンタエリスリトールのトリ(メチルオキシイソプロピレン)ドデシルテトラエーテル、ソルビトールのヘキサプロピルエーテル、ソルビトールのテトラメチルオクチルペンタエーテル、ソルビトールのヘキサ(メチルオキシイソプロピレン)エーテル、ジグリセリンのテトラブチルエーテル、ジグリセリンのジメチルジオクチルテトラエーテル、ジグリセリンのトリ(メチルオキシイソプロピレン)ドデシルテトラエーテル、トリグリセリンのペンタエチルエーテル、トリグリセリンのトリメチルジオクチルペンタエーテル、トリグリセリンのテトラ(メチルオキシイソプロピレン)デシルペンタエーテル、ジトリメチロールプロパンのテトラブチルエーテル、ジトリメチロールプロパンのジメチルジオクチルテトラエーテル、ジトリメチロールプロパンのトリ(メチルオキシイソプロピレン)ドデシルテトラエーテル、トリトリメチロールプロパンのペンタエチルエーテル、トリトリメチロールプロパンのトリメチルジオクチルペンタエーテル、トリトリメチロールプロパンのテトラ(メチルオキシイソプロピレン)デシルペンタエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサプロピルエーテル、ジペンタエリスリトールのペンタメチルオクチルヘキサエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサ(メチルオキシイソプロピレン)エーテル、トリペンタエリスリトールのオクタプロピルエーテル、トリペンタエリスリトールのペンタメチルオクチルヘキサエーテル、トリペンタエリスリトールのヘキサ(メチルオキシイソプロピレン)エーテル、ジソルビトールのオクタメチルジオクチルデカエーテル、ジソルビトールのデカ(メチルオキシイソプロピレン)エーテルなどが挙げられる。これらの中でも、グリセリンのジフェニルオクチルトリエーテル、トリメチロールプロパンのジ(メチルオキシイソプロピレン)ドデシルトリエーテル、ペンタエリスリトールのテトラヘキシルエーテル、ソルビトールのヘキサプロピルエーテル、ジグリセリンのジメチルジオクチルテトラエーテル、トリグリセリンのテトラ(メチルオキシイソプロピレン)デシルペンタエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサプロピルエーテル、トリペンタエリスリトールのペンタメチルオクチルヘキサエーテルが好ましい。
【0129】
有機アミン:
有機アミンとしては、モノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられるが、これらの中でも、モノアミンが好ましい。
モノアミンとしては、具体的には例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、モノヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、モノヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、モノオクチルアミン、ジオクチルアミン、モノノニルアミン、モノデシルアミン、モノウンデシル、モノドデシルアミン、モノトリデシルアミン、モノテトラデシルアミン、モノペンタデシルアミン、モノヘキサデシルアミン、モノヘプタデシルアミン、モノオクタデシルアミン、モノノナデシルアミン、モノイコシルアミン、モノヘンイコシルアミン、モノドコシルアミン、モノトリコシルアミン、ジメチル(エチル)アミン、ジメチル(プロピル)アミン、ジメチル(ブチル)アミン、ジメチル(ペンチル)アミン、ジメチル(ヘキシル)アミン、ジメチル(ヘプチル)アミン、ジメチル(オクチル)アミン、ジメチル(ノニル)アミン、ジメチル(デシル)アミン、ジメチル(ウンデシル)アミン、ジメチル(ドデシル)アミン、ジメチル(トリデシル)アミン、ジメチル(テトラデシル)アミン、ジメチル(ペンタデシル)アミン、ジメチル(ヘキサデシル)アミン、ジメチル(ヘプタデシル)アミン、ジメチル(オクタデシル)アミン、ジメチル(ノナデシル)アミン、ジメチル(イコシル)アミン、ジメチル(ヘンイコシル)アミン、ジメチル(トリコシル)アミン等のアルキルアミン;
【0130】
モノビニルアミン、ジビニルアミン、トリビニルアミン、モノプロペニルアミン、ジプロペニルアミン、トリプロペニルアミン、モノブテニルアミン、ジブテニルアミン、トリブテニルアミン、モノペンテニルアミン、ジペンテニルアミン、トリペンテニルアミン、モノヘキセニルアミン、ジヘキセニルアミン、モノヘプテニルアミン、ジヘプテニルアミン、モノオクテニルアミン、ジオクテニルアミン、モノノネニルアミン、モノデセニルアミン、モノウンデセニル、モノドデセニルアミン、モノトリデセニルアミン、モノテトラデセニルアミン、モノペンタデセニルアミン、モノヘキサデセニルアミン、モノヘプタデセニルアミン、モノオクタデセニルアミン、モノノナデセニルアミン、モノイコセニルアミン、モノヘンイコセニルアミン、モノドコセニルアミン、モノトリコセニルアミン等のアルケニルアミン;ジメチル(ビニル)アミン、ジメチル(プロペニル)アミン、ジメチル(ブテニル)アミン、ジメチル(ペンテニル)アミン、ジメチル(ヘキセニル)アミン、ジメチル(ヘプテニル)アミン、ジメチル(オクテニル)アミン、ジメチル(ノネニル)アミン、ジメチル(デセニル)アミン、ジメチル(ウンデセニル)アミン、ジメチル(ドデセニル)アミン、ジメチル(トリデセニル)アミン、ジメチル(テトラデセニル)アミン、ジメチル(ペンタデセニル)アミン、ジメチル(ヘキサデセニル)アミン、ジメチル(ヘプタデセニル)アミン、ジメチル(オクタデセニル)アミン、ジメチル(ノナデセニル)アミン、ジメチル(イコセニル)アミン、ジメチル(ヘンイコセニル)アミン、ジメチル(トリコセニル)アミン等のアルキル基及びアルケニル基を有するモノアミン;モノベンジルアミン、(1−フェニルチル)アミン、(2−フェニルエチル)アミン(別名:モノフェネチルアミン)、ジベンジルアミン、ビス(1−フェニエチル)アミン、ビス(2−フェニルエチレン)アミン(別名:ジフェネチルアミン)等の芳香族置換アルキルアミン;モノシクロペンチルアミン、ジシクロペンチルアミン、トリシクロペンチルアミン、モノシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モノシクロヘプチルアミン、ジシクロヘプチルアミン等の炭素数5〜16のシクロアルキルアミン;ジメチル(シクロペンチル)アミン、ジメチル(シクロヘキシル)アミン、ジメチル(シクロヘプチル)アミン等のアルキル基及びシクロアルキル基を有するモノアミン;(メチルシクロペンチル)アミン、ビス(メチルシクロペンチル)アミン、(ジメチルシクロペンチル)アミン、ビス(ジメチルシクロペンチル)アミン、(エチルシクロペンチル)アミン、ビス(エチルシクロペンチル)アミン、(メチルエチルシクロペンチル)アミン、ビス(メチルエチルシクロペンチル)アミン、(ジエチルシクロペンチル)アミン、(メチルシクロヘキシル)アミン、ビス(メチルシクロヘキシル)アミン、(ジメチルシクロヘキシル)アミン、ビス(ジメチルシクロヘキシル)アミン、(エチルシクロヘキシル)アミン、ビス(エチルシクロヘキシル)アミン、(メチルエチルシクロヘキシル)アミン、(ジエチルシクロヘキシル)アミン、(メチルシクロヘプチル)アミン、ビス(メチルシクロヘプチル)アミン、(ジメチルシクロヘプチル)アミン、(エチルシクロヘプチルアミン、(メチルエチルシクロヘプチル)アミン、(ジエチルシクロヘプチル)アミン等のアルキルシクロアルキルアミン;等が挙げられる。前記具体例に異性体及び置換異性体がある場合は、具体例にはそれら異性体の全てが含まれる。また、前記モノアミンには牛脂アミン等の、油脂から誘導されるモノアミンも含まれる。
【0131】
上記したモノアミンの中でも、特にアルキルアミン、アルキル基及びアルケニル基を有するモノアミン、アルキル基及びシクロアルキル基を有するモノアミン、シクロアルキルアミン並びにアルキルシクロアルキルアミンが好ましく、アルキルアミン、アルキル基及びアルケニル基を有するモノアミンがより好ましい。
【0132】
モノアミンの炭素数については特に制限はないが、8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。また、24以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましい。
【0133】
さらに、モノアミンにおいて窒素原子に結合する炭化水素基の数についても特に制限はないが、1〜2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0134】
有機アミド:
有機アミドとしては、炭素数6〜30の脂肪酸やその酸塩化物をアンモニアや炭素数1〜8の炭化水素基又は水酸基含有炭化水素基のみを分子中に含有するアミン化合物等の含窒素化合物を反応させて得られるアミド等が挙げられる。
ここでいう脂肪酸としては、直鎖脂肪酸でも分枝脂肪酸でもよく、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよい。またその炭素数は6〜30、好ましくは9〜24が望ましい。
この脂肪酸としては、具体的には例えば、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸、ヘプタコサン酸、オクタコサン酸、ノナコサン酸、トリアコンチル基等の飽和脂肪酸(これら飽和脂肪酸は直鎖状でも分枝状でもよい);ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸を含む)、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、ペンタコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘプタコセン酸、オクタコセン酸、ノナコセン酸、トリアコンテン酸等の不飽和脂肪酸(これら不飽和脂肪酸は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である);等が挙げられるが、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、各種油脂から誘導される直鎖脂肪酸(ヤシ油脂肪酸等)の直鎖脂肪酸やオキソ法等で合成される直鎖脂肪酸と分枝脂肪酸の混合物等が好ましく用いられる。
【0135】
上記脂肪酸と反応させる含窒素化合物としては、具体的には、アンモニア;モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、モノペンチルアミン、モノヘキシルアミン、モノヘプチルアミン、モノオクチルアミン、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルブチルアミン、プロピルブチルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミン、モノヘキサノールアミン、モノヘプタノールアミン、モノオクタノールアミン、モノノナノールアミン、ジメタノールアミン、メタノールエタノールアミン、ジエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、エタノールプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールブタノールアミン、プロパノールブタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、ジヘプタノールアミン、ジオクタノールアミン等のアルカノールアミン(アルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい);及びこれらの混合物等が例示できる。
【0136】
脂肪酸アミドとしては、具体的には、ラウリン酸アミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノプロパノールアミド、ミリスチン酸アミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸モノプロパノールアミド、パルミチン酸アミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸モノプロパノールアミド、ステアリン酸アミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸モノプロパノールアミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸アミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノプロパノールアミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸アミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸ジエタノールアミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸モノプロパノールアミド、及びこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0137】
本発明の潤滑剤組成物の一態様では、(a)成分を50.0質量%〜99.9質量%、及び(b)成分を0.01質量%〜50質量%含有する。本態様では、(a)成分を80.0質量%〜99.9質量%含有し、及び(b)成分を1.0〜20質量%含有するのが好ましい。本態様では、(b)成分として、少なくとも有機エステルを0.01質量%〜10質量%及び/又は有機アミドを0.01質量%〜10質量%含有しているのが好ましい。
【0138】
本発明の潤滑剤組成物の他の態様では、(a)成分を50.0質量%〜99.9質量%、及び(b)成分を0.01質量%〜50質量%含有する。本態様では、(a)成分を5〜40質量%含有し、及び(b)成分を60〜95質量%含有するのが好ましい。本態様では、(b)成分として、少なくとも有機エステルを0.1質量%〜90質量%及び/又は有機アミドを0.1質量%〜10質量%含有しているのが好ましい。
【0139】
基油:
本発明の潤滑剤組成物は、基油さらに含有していてもよい。基油として用いられる油性物質(潤滑油)としては、従来、潤滑剤組成物の基油として用いられている一般的な鉱油及び合成油から選択することができる。基油は、特に限定されない。例えば、合成炭化水素油、パラフィン系鉱油、アルキルジフェニルエーテル油、シリコーン油、ナフテン系鉱油、ポリオキシアルキレンおよび/またはポリオキシアルキレンのエーテル誘導体、すなわちポリグリコール系合成油(特開平4−266995号公報)、及びジエステルやポリオールエステルに代表されるエステル油等が挙げられる。しかし、樹脂材の応力割れを引き起こしにくい点で、合成炭化水素油が最も好ましい。
合成炭化水素油の代表例としては、ポリαオレフィン、エチレンとαオレフィンのコオリゴマー、ポリブテンなどが挙げられる。樹脂材の応力割れを引き起こしにくい点で、合成炭化水素油に次いで好ましい基油は、パラフィン系鉱油、アルキルジフェニルエーテル油、シリコーン油である。これらの基油は2種以上を混合して使用してもよい。
例えば、鉱油、合成油、あるいはそれらの混合油のいずれも用いることができる。鉱油としては、例えば、パラフィン系、中間基系又はナフテン系原油の常圧又は減圧蒸留により誘導される潤滑油原料をフェノール、フルフラール、N−メチルピロリドンの如き芳香族抽出溶剤で処理して得られる溶剤精製ラフィネート、潤滑油原料をシリカーアルミナを担体とするコバルト、モリプデン等の水素化処理用触媒の存在下において水素化処理条件下で水素と接触させて得られる水素化処理油、水素化分解触媒の存在下において苛酷な分解反応条件下で水素と接触させて得られる水素化分解油、ワックスを異性化用触媒の存在下において異性化条件下で水素と接触させて得られる異性化油、あるいは溶剤精製工程と水素化処理工程、水素化分解工程及び異性化工程等を組み合わせて得られる潤滑油留分等を挙げることができる。特に、水素化分解工程や異性化工程によって得られる高粘度指数鉱油が好適なものとして挙げることができる。いずれの製造法においても、脱蝋工程、水素化仕上げ工程、白土処理工程等の工程は、常法により、任意に採用することができる。鉱油の具体例としては、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油及びブライトストック等が挙げられ、要求性状を満たすように適宜混合することにより基油を調整することができる。合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン、α−オレフィンオリゴマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングルコールエーテル、シリコーン油等を挙げることができる。これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。
【0140】
一方、潤滑油基油には、高粘度指数、良好な低温流動性、優れた熱酸化安定性、低揮発性等の性質等を発現させるために、ヒンダードエステル系の合成潤滑油基油が提案されている。例えば、特開平6−158079号公報には、2位に側鎖を有する炭素数4〜26の脂肪酸を必須とし、3位に側鎖を有する炭素数4〜26の脂肪酸と2位と3位に側鎖を有しない炭素数4〜54の脂肪酸を含んだエステル系潤滑油組成物が開示されている。また、特開平7−224289号公報には、ペンタエリスリトールと直鎖飽和モノカルボン酸及びα分岐鎖飽和カルボン酸とを含有した合成潤滑油基油が開示されている。これらを用いてもよい。
【0141】
シリコーン油:
本発明の潤滑剤組成物中に、基油として、シリコーン油を添加してもよい。このような場合、耐摩耗性と共に高摩擦性を要求される潤滑部、より具体的には自動車スタータのオーバーランニングクラッチ、事務機器のワンウエイクラッチおよび各種トラクション駆動機構等に使用される。シリコーン油は、オルガノポリシロキサンであり、耐熱性、酸化安定性、粘度温度特性に優れている。さらに、シリコーン油の置換基の一部をクロロフェニル基、フルオロアルキル基、長鎖アルキル基、高級脂肪酸残基等に置換した変性シリコーン油も使用することができる。
【0142】
添加剤:
その他、本発明の潤滑剤組成物には、種々の用途に適応した実用性能を確保するため、さらに必要に応じて、潤滑剤、例えば軸受油、ギヤ油、動力伝達油などに用いられている各種添加剤、すなわち摩耗防止剤、極圧剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤、固体潤滑剤等を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。但し、他の成分を含有する場合も、上記(a)成分である所定の有機化合物が、全組成物中50質量%以上であるのが好ましく、80モ質量%以上であるのがより好ましい。
【0143】
極圧剤:
本発明の潤滑剤組成物は極圧剤を含有しているのが好ましい。極圧剤を併用することにより、耐摩耗性について相乗効果が得られる。極圧剤の例には、塩素系化合物、硫黄系化合物、リン系化合物、及びヒドロキシカルボン酸誘導体が含まれる。環境の観点では、ヒドロキシカルボン酸誘導体が好ましい。中でもI/O値が0.8以下の材料を用いるのが好ましい。I/O値は、甲田善生,「有機概念図 ―基礎と応用―」,三共出版(1984)に記載された概念であり、化合物の物理化学的物性について、主にVan Der Waals力による物性の程度を「有機性」、主に電気的親和力による物性の程度を「無機性」と呼び、化合物の物性を「有機性」と「無機性」の組み合わせでとらえて計算することが可能である。
【0144】
極圧剤としては、有機金属系のものとしては、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオリン酸亜鉛、亜鉛フェネート等の有機亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸アンチモン、ジチオリン酸アンチモン等の有機アンチモン化合物、ジチオカルバミン酸セレン等の有機セレン化合物、ナフテン酸ビスマス、ジチオカルバミン酸ビスマス等の有機ビスマス化合物、ジチオカルバミン酸鉄、オクチル酸鉄等の有機鉄化合物、ジチオカルバミン酸銅、ナフテン酸銅等の有機銅化合物、ナフテン酸鉛、ジチオカルバミン酸鉛等の有機鉛化合物、マレイン酸スズ、ジブチルスズスルファイド等の有機スズ化合物、あるいは、アルカリ金属、アルカリ土類金属の有機スルホネート、フェネート、ホスホネート、金、銀、チタン等の有機金属化合物も必要なら使用できる。硫黄系化合物としては、ジベンジルジスルフィド等のスルフィドあるいはポリスルフィド化合物、硫化油脂類、無灰系カルバミン酸化合物類、チオウレア系化合物、もしくはチオカーボネート類等を使用することができる。リン酸系極圧剤としては、トリオクチルホスフェート、トリクレジルホスフェート等のリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル等のリン酸エステル系化合物を使用することができる。また、その他、塩素化パラフィン等のハロゲン系の極圧剤、あるいは、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、ポリ四フッ化エチレン、硫化アンチモン、窒化硼素などの硼素化合物等の固体潤滑剤を使用することができる。これらの極圧剤の中でジチオカルバミン酸系化合物やジチオリン酸系化合物を好適に使用できる。
【0145】
また、前記極圧剤として、重縮合カルボン酸やエステルを単独でもしくは併用して使用することも可能である。
この重縮合カルボン酸に使用するヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、脂肪族オキシ脂肪酸ではモノオキシ脂肪酸として、ヒドロキシペラルゴン酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸;モノオキシジカルボン酸として、ヒドロキシセバシン酸、ヒドロキシオクチルデカン二酸;モノオキシトリカルボン酸として、ノルカペラート酸、アガリチン酸;ジオキシモノカルボン酸として、イプロール酸、ジヒドロキシヘキサデカン酸、ジヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシオクタデセン酸、ジヒドロキシオクタデカンジエン酸;ジヒドロキシジカルボン酸として、ジヒドロキシドデカン二酸、ジヒドロキシヘキサデカン二酸、フロイオン酸、ジヒドロキシヘキサコ二酸などがあげられる。また、天然油脂より採取したひまし油脂肪酸や、硬化ひまし油脂肪酸もあげられる。これらのヒドロキシ脂肪酸のうち、モノヒドロキシ脂肪酸が好ましく、重縮合物としては、2〜6量体が好ましい。特に好ましいものは、ヒドロキシオクタデセン酸(リシノレイン酸)またはヒドロキシオクタデカン酸(12ヒドロキシステアリン酸)の2〜6量体である。
【0146】
また、上記ヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸重縮合物とエステルを形成する脂肪酸としては、カプリン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸などに代表される一塩基酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ダイマー酸、リノール酸メタアクリル酸縮合物(商品名:ハリマ化成製 DA−1550)などに代表される二塩基酸があげられる。また、不飽和結合を持つ脂肪酸に対してメタアクリル酸に代表される不飽和脂肪酸を付加させた脂肪酸などもあげられる。
また、脱水縮合の相手となる脂肪酸としては、二塩基酸が好ましく、特に、炭素原子数10〜44のものがさらに好ましく、とりわけ、炭素原子数16〜36のものが好ましい。
【0147】
重縮合物は、上記ヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸重縮合物と上記脂肪酸とを通常の重縮合反応に従って、例えば、無触媒で、または適当な触媒の存在下で、室温ないし加熱条件下で反応させることにより得られる。副生する水、アルコールは、適宜系外へ流出させる。反応の終了はヒドロキシル価がほぼなくなったところで決定する。尚、重縮合物の製造方法は上記方法に限定されるものではない。
ひまし油脂肪酸重縮合物、硬化ひまし油脂肪酸重縮合物の場合、特に、ヒドロキシ脂肪酸の2〜6量体が好ましい。また、ひまし油誘導体としては、ひまし油の重縮合物、ひまし油アルキレンオキサイド付加物、例えば、ひまし油エチレンオキサイド付加物、ひまし油プロピレンオキサイド付加物などがあげられるが、ひまし油に1〜20モルのエチレンオキサイドを付加したものが好ましい。上記ひまし油の重縮合物は、一般的な重縮合反応、例えば、無触媒で、または適当な触媒の存在下で、室温ないし加熱条件下に反応させることにより製造できる。また、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの付加は、ひまし油に、加熱加圧条件下で、酸化エチレン、酸化プロピレンを吹き込むことで達成できる。
【0148】
また、ポリオールエステルを使用することもできる。ポリオールエステルの原料となる脂肪酸としては、炭素原子数6〜36の脂肪酸が好ましく、炭素原子数6〜22の脂肪酸がさらに好ましい。特に好ましいものは、炭素原子数18の直鎖または分鎖の脂肪酸である。ポリオールエステルの脂肪酸成分の具体例としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシベヘン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、などがあげられる。
【0149】
ポリオールエステルのポリオール成分の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリエタノールアミンなどがあげられる。ポリオールエステルの例としては、エチレングリコールジエステル、ジエチレングリコールジエステル、ポリエチレングリコールジエステル、トリグリセライド、トリメチロールプロパントリエステル、ペンタエリスリトールテトラエステル、ジペンタエリスリトールテトラエステル、トリエタノールアミントリエステルなどがあげられる。また、天然油脂や、硬化ひまし油、ひまし油もあげられる。
【0150】
さらに、二塩基酸エステルを使用する場合、二塩基酸成分としては、炭素原子数10〜44のものが好ましく、16〜36のものがさらに好ましい。具体的には、セバシン酸、ドデカン二酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ダイマー酸などがあげられる。
この二塩基酸エステルのアルコール成分としては、炭素原子数が8から22で、飽和または不飽和の、直鎖または分鎖のアルコールが好ましい。原液の安定性を考慮すると、分鎖アルコール、あるいは不飽和で直鎖のアルコールがさらに好ましい。具体的には、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソステアリルアルコールなどがあげられる。
二塩基酸とアルコールのエステルは、例えば、両者を、無触媒で、または適当な触媒の存在下で、室温ないし加熱条件下で反応させることにより製造できる。副生する水は、適宜系外へ流出させる。エステル合成反応の進行程度は、反応物の酸価、水酸基価、または副生する水の量を測定することにより判断できる。通常は、酸価、ヒドロキシル価がほぼなくなったところで反応を終了する。反応時、溶媒は使用してもしなくても良く、好ましくはキシレンなどの環流条件で水を共沸させて系外へ除去するのがよい。尚、二塩基酸エステルの合成方法は上記方法に限定されるものではない。
【0151】
その他、極圧剤については、種々提案されていて、本発明にはいずれも用いることができる。例えば、特開昭60−88096号公報に提案されている水溶性切削油剤に用いられているポリヒドロキシ脂肪酸の塩;特公平2−5795号公報に提案されている水溶性切削研削油剤に用いられているリシノール酸重縮合物の塩;特開平4−202298号公報に用いられている水溶性切削油剤に用いられているジヒドロキシ脂肪酸および/またはモノヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合脂肪酸の塩;特開平7−286192号公報に提案されている水溶性加工油剤に用いられているヒドロキシ脂肪酸またはヒドロキシ脂肪酸を脱水縮合して得られる縮合ヒドロキシ脂肪酸と、脂肪族カルボン酸、脂環族脂肪酸、あるいは芳香族脂肪酸との反応により得られるエステル化物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはアミン塩;及び特開平7−97590号公報に提案されている水溶性切削研削油剤に用いられている(A)炭素原子数18のモノおよび/またはジヒドロキシ脂肪酸、(B)2〜6価のポリオール、(C)炭素原子数4〜36の脂肪族二塩基酸とするとき、(A)の重縮合物、(A)および(B)のエステル化物と(A)の重縮合物、(A)と(C)の重縮合物、(A)及び(B)のエステル化物と、(A)と(C)との重縮合物のいずれかのアルカリ金属塩又はアミン塩;などが例示できる。
【0152】
上記極圧剤の添加量は、潤滑剤組成物全体の0.01〜50質量%であるのが好ましく、0.1〜40質量%であるのがより好ましく、0.5〜25質量%であるのがよりさらに好ましい。
【0153】
固体潤滑剤:
本発明の潤滑剤組成物は、固体潤滑剤を含有していてもよい。前記固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、有機モリブデン化合物、窒化ホウ素があげられる。後述するとおり、本発明の潤滑剤組成物からなる潤滑膜を形成する場合には、前記固体潤滑剤を添加するのが好ましい。本発明の潤滑剤組成物中に、前記固体潤滑剤を分散させてもよい。固体潤滑剤の分散粒子の粒子サイズは、3μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのがより好ましい。
本発明の潤滑剤組成物中、上記固体潤滑剤の配合量は0.01〜50質量%であるのが好ましく、0.1〜40質量%であるのがより好ましく、0.5〜25質量%であるのがよりさらに好ましい。
【0154】
潤滑膜:
本発明の潤滑剤組成物は、基材等の表面に塗布して、潤滑膜として利用してもよい。その場合、その膜厚は、塗布する表面の表面粗さに影響されるが、0.5ミクロン程度の表面粗さの場合、5ミクロン程度の膜厚で良好な低摩擦性、耐摩耗性を発現し、0.02ミクロンの表面粗さの場合、0.03ミクロン程度の膜厚で同様に良好な性能を示すであろう。潤滑膜を形成する場合は、前記固体潤滑剤を添加するのが好ましい。また、結合剤ポリマーを添加するのも好ましい。結合剤ポリマーとしては、有機樹脂として、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素(ウレア)樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂が、また無機高分子として、Ti−O,Si−O,Zr−O,Mn−O,Ce−O,Ba−Oといった、金属−酸素結合が三次元架橋した構造からなる被膜形成材料が挙げられる。
【0155】
用途:
本発明の潤滑剤組成物は、種々の用途に利用できる。例えば、自動車等の車両のエンジン油、ギヤ油、自動車用作動油、船舶・航空機用潤滑油、マシン油,タービン油、軸受油、油圧作動油、圧縮機・真空ポンプ油、冷凍機油及び金属加工用潤滑油剤、また磁気記録媒体用潤滑剤、マイクロマシン用潤滑剤や人工骨用潤滑剤等に利用することができる。
【0156】
[機械要素]
本発明の機械要素は、互いに異なる周速で運動する二面と、該二面の間に配置された本発明の潤滑剤組成物とを少なくとも有する。前記機械要素は、異なる周速で運動する二面を有する限り、特にその構造については限定されない。潤滑油、グリース等を必要とする従来公知の摩擦摺動部分に組み込まれる機械要素のいずれであってもよい。異なる周速で運動する二面は、曲面であっても、平面であってもよいし、また面の全部又は一部に凹凸部を有していてもよい。例えば、すべり軸受けや、転がり軸受けの摩擦摺動部分などが挙げられる。本発明の機械要素は、さらに、伝動要素として、歯車、カム、ねじ、摩擦ドライブを備えていてもよい。また、前記潤滑剤組成物を密封するための密封要素として、オイルシール、メカニカルシール、ピストンリングなどの接触式シールを備えていてもよい。
【0157】
前記二面の周速度については特に限定されず、大きい周速度をu1(>0)、小さい周速度をu2、即ち|u1|>|u2|と定義すると、平均速度(u2+u1)/2はゼロより大きく無限に可能であるが、通常は二面の平均速度は1000m/s以下であり、好ましくは1cm/s以上50m/s以下である。2×(u2−u1)/(u2+u1)で定義される滑り率Σの絶対値もゼロより大きく無限に可能であるが、u2がゼロすなわち停止している機械要素では−2となり、−2≦Σ<0の範囲で用いられるが、通常は−2以上で−0.01以下の範囲で用いられる機械要素が多い。
【0158】
(u1−u2)/二面間の潤滑剤組成物の膜厚で定義される剪断速度は、ゼロより大きく無限に可能であるが、通常は109/s以下で用いられ、好ましくは10/s以上107/s以下で用いられる。前記潤滑剤組成物が、常圧で液晶性を呈する場合は、小さな剪断速度で所望の高秩序配向度が維持されるが、非液晶性の場合は剪断による高秩序配向化が必要であり、たとえば104/s以上の剪断速度を要することもあるが、それは潤滑剤組
成物に含有される前記有機化合物の構造や、圧力又は温度等によって変化するので、適正な範囲を一義的に定義することは困難である。潤滑剤組成物に含有される前記有機化合物の配向秩序度は、通常、液晶の配向秩序度の定義を用いると、好ましくは0.3以上0.99以下である。また、二面間の隙間は、通常10nm以上100μm以下であり、好ましくは50nm以上5μm以下である。
【0159】
具体的には、転がり軸受、すべり軸受、焼結軸受、ギャ、バブル、コック、オイルシール、電気接点等の摺動部個体間接触部の潤滑及び保護を目的として使用される。例えば、自動車のハブユニット、トラクションモータ、燃料噴射装置、オルタネータ等の耐熱性、低温性、耐荷重性などが要求される軸受、自動車の動力伝達装置、パワーウィンドゥモータ、ワイパ等の耐摩耗性、低摩擦特性、高トルク効率が要求されるギャ部、情報機器に使用されるハードディスク、フレキシブルディスク記憶装置、コンパクトディスクドライブ、光磁気ディスクドライブ等の低トルク、低アウトガス性が要求される軸受、真空ポンプ、樹脂製造装置、コンベア、木材産業機器、クロムコーティング機器等に使用される軸受やギャ等の摺動部、ブレーカ、遮断器、リレー、スイッチ等に使用されている電気機器の電気接点部に使用されている金属表面を有効に保護する。
【0160】
運動する二面の材質について特に制限されず、本発明のグリース組成物は、鋼鉄、鋼鉄以外の各種金属、金属以外の無機又は有機材料、及びこれらの混合体のいずれに対しても、低摩擦性及び耐摩耗性に優れる。
鋼鉄の例には、機械構造用炭素鋼、ニッケルクロム鋼材・ニッケルクロムモリブデン鋼材・クロム鋼材・クロムモリブデン鋼材・アルミニウムクロムモリブデン鋼材などの構造機械用合金鋼、ステンレス鋼、マルチエージング鋼などが含まれる。
鋼鉄以外の各種金属、又は金属以外の無機もしくは有機材料も広く用いられる。
金属以外の無機もしくは有機材料としては、各種プラスチック、セラミック、カーボン等、及びその混合体などが挙げられる。より具体的には、鋼鉄以外の金属材料としては、鋳鉄、銅・銅−鉛・アルミニウム合金、その鋳物及びホワイトメタルが挙げられる。
有機材料としては、すべての汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリアミド、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フッ素樹脂、四フッ化エチレン樹脂(PFPE)、ポリアリレート、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド、ポリピロメリットイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド(PI)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、ABS/ポリカーボネートアロイ等に適用される。
これらの樹脂は、各種部品や部材として成形品や樹脂層を形成し、これらが他の樹脂や金属と接触する個所にこのグリース組成物が適用される。具体的には、例えば電動パワーステアリング、ドアミラー等によって代表される自動車電装品の摺動部、軸受、樹脂ギヤ部、ラジカセ、VTR、CDプレーヤ等音響機器の樹脂ギヤ部、レーザービームプリンターによって代表されるプリンター、複写機、ファックス等のOA機器の樹脂ギヤ部、自動車用各種アクチュエータ、エアシリンダ内部の摺動部などを形成する樹脂材料と他の樹脂材料又は金属材料との接触個所に有効に適用される。
【0161】
無機材料としては、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、ジルコニア、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニア(ZrC)、窒化チタン(TiN)などのセラミックス;及びカーボン材料が挙げられる。またこれらの混合体として、プラスチックにガラス、カーボン又はアラミドなどの繊維を複合化した有機−無機複合材料、セラミックと金属の複合材料サーメットなどが挙げられる。
一部が鉄鋼以外の材料からなっている場合としては、鋼材の表面の少なくとも一部が、鉄鋼以外の金属材料、又は金属材料以外の有機もしくは無機材料からなる膜で被覆されていてもよい。被覆膜としては、ダイヤモンドライクカーボンの薄膜等の磁性材料薄膜、及び有機もしくは無機多孔質膜などが挙げられる。
【0162】
また、前記二面の少なくとも一方の面に、多孔性焼結層を形成して、かかる多孔質層に潤滑剤組成物を含浸させて、摺動時に摺動面に潤滑剤組成物が適宜供給されるように構成してもよい。前記多孔質層は、金属材料、有機材料及び無機材料のいずれからなっていてもよい。具体的には、焼結金属、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)とマグネシア(MgO)の微粒子が互いに強く結合して形成されるような多孔質セラミックス、シリカとホウ酸系成分を熱的に相分離させることにより得られる多孔質ガラス、超高分子量ポリエチレン粉末の焼結多孔質成形体、四フッ化エチレン等フッ素樹脂系多孔質膜、ミクロフィルターなどに用いられるポリスルホン系多孔質膜、予め成形体の貧溶媒とその成形体形成モノマーを重合時相分離を起こさせて形成される多孔質膜などが挙げられる。
【0163】
金属又は酸化金属焼結層としては、銅系、鉄系又はTiO2系の粉末を焼結することに
より形成される多孔質層が挙げられる。銅系金属焼結層は、鋳鉄基板の上に銅粉末(例えば、88質量%)、スズ(例えば、10質量%)及び黒鉛(例えば、2質量%)の混合物を設置し、250MPaで圧縮形成したものを還元気流中で、高温、例えば770℃程度で、約一時間焼結することによって形成することができる。また、鉄系金属焼結層は、鋳鉄基板上に、鉄粉末に銅粉末(例えば、3質量%)及び化学炭素(0.6質量%)を添加した混合物を設置して、250MPaで圧縮成形したものを還元気流中で高温、例えば770℃程度で、約一時間焼結することによって形成することができる。また、TiO2焼結層は、Ti(OC817−n)(例えば、33質量%)、TiO2の微粉末(例えば、57質量%)及びPEO(分子量MW=3000)の混合物を、鋳鉄上に設置して、UV光を照射しつつ560℃に3時間加熱焼結することによって形成される。
なお、これらの多孔質層によって被覆される材料については特に限定されず、上述したセラミックス、樹脂、有機−無機複合材料や、勿論鋼鉄であってもよい。
【0164】
前記ダイヤモンドライクカーボン薄膜等の磁性材料薄膜等の被膜は、表面処理によって形成することができる。表面処理の詳細については、日本トライボロジー学会編 トライボロジーハンドブック 第一版 (2001年)B編 第三章 表面改質 544−574頁に記載されていて、本発明の機械要素の作製にいずれも利用することができる。表面処理は、一般的に、表面改質によるトライボロジー特性の改善を目的になされるものであるが、機械要素の駆動には低摩擦や耐摩耗性だけでなく、駆動する環境の要請に応じて低騒音、耐食、化学安定、耐熱、寸法安定、低アウトガス、生体親和、抗菌など多様な材料特性が併せて要求されることが多く、従って、本発明においては、表面処理は、トライボロジー特性の改善を目的になされるものに限定されない。表面処理法としては、
1) 真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、イオン注入による物理蒸着(PhisicalVaporDeposition)法による、アルミニウム、銅、銀、金、クロム、モリブデン、タンタルまたその合金膜、窒化チタン、窒化クロム、炭化チタン、炭化クロム等のセラミックス、酸化アルミニウム、二酸化珪素、ケイ化モリブデン、酸化タンタル、チタン酸バリウム等の酸化膜の形成;
2) 熱、プラズマ、光などによる化学蒸着(ChemicalVaporDeposition)法を用いた各種金属、WC、TiC、B4Cなどの炭化物、TiN、Si34などの窒化物、TiB2、W23などのホウ化物、Al23、ZrO2などの酸化物膜、CrW、Ti金属を含有したアモルフォスカーボン膜、フッ素含有カーボン膜、プラズマ重合膜の形成;
3) 浸炭、窒化、浸硫、ホウ化処理などの拡散被覆法(化学反応法)による表層部分の耐摩耗性、耐焼きつき性などの特性を付与する方法;及び
4) 電気めっき、無電解めっきなどのめっき法による金属、複合金属膜などがあげられる。
【実施例】
【0165】
本発明について実施例及び比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0166】
実施例1〜20及び比較例1〜10にいては以下に示す化合物を用いて、表1〜表4に示す潤滑剤組成物を調製した。
【0167】
A 有機エステル:ソルビタンモノオレート
B 有機アルコール:オレイルアルコール
C 有機カルボン酸:ドデカン酸
D 有機エーテル:ペンタエリスリトールのテトラヘキシルエーテル
E 有機アミン:ドデシルアミン
F 有機アミド:オレイン酸アミド
【0168】
調製したこれらの組成物のそれぞれについて以下の条件で摩擦試験を実施し、摩擦係数を測定した。なお、実施例における摩擦係数及び摩耗試験については、往復動型摩擦試験機(SRV摩擦摩耗試験機)を用いてそれぞれ以下の条件で測定した。
[摩擦係数試験条件]
試験条件はシリンダ−オンプレートの条件で行った。
試験片(摩擦材):SUJ−2
プレート:φ24×6.9mm
シリンダ:φ15×22mm
温度:100℃
荷重:200N
振幅:1.5mm
振動数:50Hz
試験時間:試験開始30分後及び30時間後
[摩耗試験条件]
ボール−オンプレートの条件で行った。
試験片(摩擦材):SUJ−2
プレート:φ24×7.9mm
ボール:φ10mm
温度:80℃
荷重:よび摺動50N−30秒後に本荷重200N
振幅:1.0mm
振動数:50Hz
試験時間:試験開始120分間
摺動試験終了後、ボールを顕微鏡より得られた摩耗痕の長径と短径の平均値を摩耗痕径とした。
【0169】
【表1】

【0170】
【表2】

【0171】
【表3】

【0172】
【表4】

【0173】
[実施例21〜25]
さらに、極圧剤として、以下に示す化合物を用い、下記表に示す組成の実施例21〜25の潤滑剤組成物を調製した。
ZnDTP:ジアルキルジチオリン酸亜鉛
MoDTC:モリブテンジアルキルジチオカーバメート
【0174】
【表5】

【0175】
上記表5に示す結果から、(a)成分及び(b)成分とともに、極圧剤を併用することによって、(予想外に)耐摩耗性が向上することが理解できる。
【0176】
[実施例26]
円盤状構造を有する化合物として例示化合物LUB−11を用い、これにオレイアルアルコールを添加した潤滑剤LUB−11Aを調製し、往復動型(SRV)摩擦摩耗試験による評価を実施した。
【0177】
LUB−11の相転移温度
結晶相 → ディスコティックカラムナー相 → 等方性液体相
75℃ 102℃
LUB−11Aの相転移温度
結晶相 → ディスコティックカラムナー相 → 等方性液体相
35℃ 52℃
上記添加剤を添加することにより、LUB−11に対してLUB−11Aの液晶相転移温度は約40℃低下した。
【0178】
[摩擦係数試験条件]
試験条件はシリンダ−オンプレートの条件で行った。
試験片(摩擦材):SUJ−2
プレート:φ24×6.9mm
シリンダ:φ15×22mm
温度:100℃
荷重:200N
振幅:1.5mm
振動数:50Hz
試験時間:試験開始30分後
で評価した。
LUB−11Aは、LUB−11を単独で用いるよりも、高圧力下の広い温度領域でより低摩擦係数を示す傾向が明瞭に見られた。
【0179】
[実施例27〜36、及び比較例11〜12]
次に常温、低荷重下での潤滑特性として、実施例27〜36及び比較例11〜12にいては以下に示す化合物を用いて、それぞれ表6および表7に示す潤滑剤組成物を調製した。
有機エステル(1):バレリン酸、ヘプタン酸の混合トリメチロールプロパンエステル
有機エステル(2):デカン酸、ヘプタン酸の混合トリメチロールプロパンエステル
有機エステル(3):アジピン酸ジイソデシルエステル
有機エステル(4):トリメリット酸トリオクチルエステル
【0180】
調製したこれらの組成物のそれぞれについて以下の条件で摩擦試験を実施し、摩擦係数を測定した。なお、実施例における摩擦試験については、往復動型摩擦試験機(SRV摩擦摩耗試験機)を用いてそれぞれ以下の条件で測定した。
[摩擦試験条件]
シリンダ−オンプレートの条件で行った。
試験片(摩擦材):SUJ−2
プレート:φ24×7.9mm
シリンダ:φ15×22mm
温度:20℃
荷重:予備摺動30N−30秒後に本荷重50N
振幅:1.0mm
振動数:50Hz
試験時間:試験開始10分間
【0181】
【表6】

【0182】
【表7】

【0183】
このように常温、低荷重の潤滑環境下においても、本発明の潤滑剤組成物は、優れた潤滑特性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明によれば、種々の内燃機関及び工作機械等の機械器具や部品の摺動部等に用いられる潤滑剤組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうける潤滑剤組成物であって、下記成分(a)及び(b):
(a)メソゲン構造を分子内に有し、40℃における粘度圧力係数が20GPa-1以下であり、10MPa以上の圧力下で圧力上昇に伴い摩擦係数の最小値を発現させる少なくとも一種の有機化合物
(b)有機エステル、有機アルコール、有機カルボン酸、有機エーテル、有機アミン及び有機アミドからなる群から選ばれる一種又は二種以上
を含有する潤滑剤組成物。
【請求項2】
(a)成分を5.0質量%〜99.9質量%、及び(b)成分を0.1質量%〜95質量%含有する請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
(b)成分として、少なくとも有機エステルを0.1質量%〜90質量%及び/又は有機アミドを0.1質量%〜10質量%含有する請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうけている際に、前記(a)成分である有機化合物の分子が、その拡散断面積が最も大きくなる分子面を前記二面に対して平行にして配向した分子集合体薄膜を形成可能な請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
(a)成分が、100MPa以上の圧力下で最小の摩擦係数を発現させる有機化合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
(a)成分が、0.05以下の摩擦係数を発現させる有機化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
(a)成分が、メソゲン構造として、平板状又は円盤状構造を分子内に有するとともに、それを核として三以上の鎖状の原子団が放射状に伸びた分子構造を有する有機化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記三以上の鎖状の原子団うち、少なくとも二つは、同一又は異種の8個以上の原子が直鎖状に結合した基である請求項7に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
(a)成分が、メソゲン構造として、少なくとも二つの芳香族環もしくは、少なくとも一つの縮合環、又はπ共役平面を含む有機化合物である請求項1〜8のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
(a)成分が、メソゲン構造として、下記一般式[1]〜[74]のいずれかで表される部分構造を有する有機化合物である請求項1〜9のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【化1】

【化2】

(式中、nは3以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は3以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。)
【請求項11】
(a)成分が、メソゲン構造として棒状の分子構造を有する有機化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項12】
(a)成分が、メソゲン構造に結合した少なくとも一つの側鎖を有し、該側鎖が下記一般式(4a)又は一般式(4b)で表される基を含む有機化合物である請求項1〜11のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物:
【化3】

式中、X0は単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基
)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;L0は、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20の、直鎖状、
分岐鎖状、又は環状のアルキレン基を表す)、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる、置換基を有していてもよい二価の連結基を表す。
【請求項13】
常圧で液晶相を呈する請求項1〜12のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項14】
互いに異なる周速で運動する二面間に介在して剪断をうけている際に、結晶相を呈しない請求項1〜13のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
極圧剤の少なくとも一種をさらに含有する請求項1〜14のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項16】
(a)成分として、前記有機化合物を二種類以上含有する請求項1〜15のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項17】
(a)成分として用いられる前記有機化合物の液晶相形成温度を低下させる有機化合物の少なくとも一種をさらに含有する請求項1〜16のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項18】
(a)成分が、下記一般式(1a)で表される有機化合物である請求項1〜17のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物:
【化4】

式中、Y及びZは各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;A及びBは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表し;Tは−S−R1、−O−R2又は−NR34を表し;R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。
【請求項19】
(a)成分が、下記一般式(2a)で表される化合物である請求項1〜18のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物:
【化5】

式中、Y及びZは各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;R11及びR12は各々独立に置換基を表し;Tは−S−R1、−O−R2又は−NR34を表し、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表し;p及びqは、各々独立して1〜5の整数を表す。
【請求項20】
互いに異なる周速で運動する二面と、該二面の間に配置された請求項1〜19のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物とを少なくとも有する機械要素。
【請求項21】
平均圧力が10MPa以上で摩擦摺動する二面間に請求項1〜19のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物を配置して二面間の摩擦を軽減する方法。
【請求項22】
平均圧力が10MPa以上で摩擦摺動する二面間に用いられることを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2008−214603(P2008−214603A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235131(P2007−235131)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】