説明

潤滑剤組成物

【課題】潤滑剤組成物の粘度指数と剪断安定性を向上させるとともに、摩擦係数を低減することを課題とする。
【解決手段】メソゲン構造を側鎖に含む重合体を含有する潤滑剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソゲン構造部位を繰り返し単位として含む重合体からなる潤滑剤組成物に関し、より詳細には、基油の粘度指数向上能及び極圧下での剪断安定性、省燃費性及び低摩擦性の発現にも寄与する重合体を含む潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の機運が高まり、産業機械や自動車の省燃費性がよりいっそう要求されてきている。省燃費性の向上には、潤滑油の粘性に関する特性改良、及び駆動部分の摩擦抵抗の減少が望まれている。これは潤滑油膜の流体潤滑過程における主要素材の因子である粘性に関する改良と、界面に境界潤滑膜として形成されその直接接触時の界面同士の融着を避け、摩擦抵抗を低減する境界潤滑過程における主要素材要因である油性剤、極圧剤及び摩擦調整添加剤の改良が望まれていることを意味する。
前者の機能は低粘性潤滑油基油とその高温時のより低粘性化することによる膜破壊を抑えるための粘度指数向上剤により改善されている。その機能の尺度として粘度指数(VI:viscosity index)が用いられ、粘度指数が大きいほど温度変化に対する安定性が高い。粘度指数は、ある種の重合体を基油及び/又は潤滑油に添加することにより向上できることが知られている。
粘度指数向上剤の添加により潤滑油の粘度の温度依存性が小さくなる理由は、以下のように考えられている。すなわち、低温(通常40℃)では粘度指数向上剤が低粘性オイルに溶解し難くオイルの粘度は上昇しないが、高温(通常100℃)ではオイル自身の粘度低下より、温度上昇によって粘度指数向上剤のオイル溶解性が向上しその増粘効果でオイル全体の粘度が上昇する。
【0003】
そのような重合体は粘度指数向上剤とよばれ、例えばポリメタクリレート(PMA)(特許文献1)、オレフィン共重合体(OCP)(特許文献2)、水素化スチレン/ジエン共重合体(SDC)(特許文献3)、ポリイソブチレン(PIB)等が使用されている。SDCにおける重合形態としては、ランダム共重合体の他に、ブロック共重合体(特許文献4)や星型重合体(特許文献5)が開発されている。これらの重合体を添加した潤滑油にはそれぞれ特徴がある。すなわち、PMAは粘度指数向上性に優れていて流動点降下作用もあるが、増粘効果が劣る。増粘効果を向上させるためには分子量を大きくすればよいが、この場合、潤滑油の攪拌などに伴う剪断力に対する安定性が極端に悪くなる。PIBは増粘効果が大きいが、粘度指数向上性に劣る。OCP及びSDCは増粘効果が大きく、低温における粘度も低いが、粘度指数向上性はPMAに劣る。また、PMAは極性単量体を共重合することにより、他のものに比べてスラッジを潤滑油中に分散させる清浄分散性能を容易に付与することができる(特許文献6)。現在、潤滑油としては粘度指数向上性能の優れたマルチグレード油が一般に用いられているが、最近燃費向上等の要求から、さらに高性能な粘度指数向上剤が望まれるようになってきた。この要求を満足させる組成物として、PMAとOCP又はSDCを混合して用いることが考えられる。しかし、これらを単純に混合しただけでは相溶性が悪いため、潤滑油は二相に分離してしまう。そこで、この分離を防ぐために、異なる2種の重合体のグラフト共重合体が提案されている(特許文献7、特許文献8など)。
【0004】
一方、このような粘度指数向上剤には、粘度指数を向上する性能とは別に、剪断安定性が要求される。本明細書において「剪断安定性」とは、剪断を加える前の粘度に対する、剪断が加えられた後の粘度の低下率を意味する。従って、剪断断安定性が良好であるとは、剪断が加えられた後の粘度の低下率が小さいことを意味する。自動車のエンジンオイルは駆動系潤滑油なので、オイルに添加された粘度指数向上剤はクランク軸やギアによって強い剪断力(又は物理的な剪断応力)を受ける。この剪断応力によって、粘度指数向上剤のベースポリマーであるポリアルキル(メタ)アクリレートは剪断方向に配向し(即ち、向きを揃え伸び)、ポリマー鎖が切断され、ポリマーの分子量低下を生じ得る。その結果、粘度指数の低下を生じ易くなる。この傾向は、分子量が大きくなるほど強くなる。従って、剪断安定性を向上させるためには、粘度指数向上剤の重量平均分子量を低くすることが必要である。しかし、粘度指数向上剤の重量平均分子量を低くすると、粘度指数を十分に向上するために、粘度指数向上剤の潤滑油への添加量を増やすことが必要である。この根本的原理に関わる課題に対して、ビニル系モノマーの重合法(特許文献9)、オレフィン共重合体組成の最適化(特許文献10)及び基油とアルキルメタアクリレート組成の最適化(特許文献11、特許文献12など)の技術が提案され、それによって同時に低温流動性の確保が可能であることが開示されている。
また、特許文献13にはアルキルメタアクリレート組成の最適化によってシャダー防止能が、特許文献14にはアルキルフェノールを含有させて酸化防止能が、また特許文献15にはポリアルキレンチオエーテルを含有させて耐コーキング性が付与できることが開示されている。
【0005】
従来、一般にオイルのVIを向上させる粘度指数向上剤のために、短鎖アルキル(メタ)アクリレートを特定の比率で共重合したベースポリマーが用いられてきた(例えば、短鎖アルキル(メタ)アクリレートは、5〜30重量%である)。これは、低温において潤滑油中でのベースポリマーの溶解性を低下させるためである。更に、せん断安定性を確保しつつ、粘度指数を向上することを目的として、ベースポリマーの分子量を小さくしながら、その添加量を増加することが試みられた。しかし、粘度指数向上は不十分であった。また、PMA系粘度指数向上剤を使用したエンジン油は、コーキング量が多いという問題点があり、この点を改良すべく各種の提案がなされている。しかしながら、スラッジの分散性には優れるが、コーキング量低減には十分な効果は示さないという問題がある。
すなわち剪断安定性を確保しつつ粘度指数向上性をいかに確保するか、素材的には紐のような重合体構造物を剪断場でいかに引きちぎられないようにするかという課題とみなすことができる。
【0006】
一方、冒頭に述べた産業機械や自動車の省燃費性のため境界潤滑過程での直接的摩擦低減に機能する境界潤滑膜技術にも重大な環境問題からの懸念が生じている。現在の潤滑油技術の主流は、冒頭にも述べたように、低粘性基油と境界潤滑膜の併用技術である。それは、低粘性基油膜が低圧力域での低摩擦係数を実現し、高圧力、高剪断力によってその油膜が破壊し互いに摺動する面が直接的に接触しあう境界潤滑過程では、その接触界面が鋼鉄の場合にその表面をリン、硫黄、塩素系化合物やその金属錯体によって腐食を起こさせた層(境界潤滑膜)によって低摩擦化と、界面同士が直接的にふれあい、融着(焼きつき)することを回避させる耐摩耗性の機能を持たせる技術である。
【0007】
ところが、現在までのこれらの境界潤滑膜を構成する元素は全て環境負荷物質か又は環境有害物質であり、欧州などELV(End of Life Vehicles)、WEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)、RoHS(Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment)などの法律が相次いで制定されるような環境意識の高まりの状況下、世界規模で、産業を支える潤滑技術の迅速かつ抜本的な技術改善が求められている。
【0008】
本発明者らは、放射状に数本の側鎖を配する円盤状化合物が極圧下、低摩擦を示し、潤滑剤の要素として好ましいことを見出し、報告した(特許文献16〜18)さらに、それら円盤状化合物の粘度圧力係数αが動植物油に匹敵するほどの小さな値を呈することを報告した。(非特許文献1)
この技術は現行の境界潤滑膜技術とは全く異なり、所定の円盤状化合物を用いることにより、低粘性潤滑油では発現し難い高圧力下の弾性流体潤滑過程の特性を、従来では境界潤滑過程に入る極めて厳しい条件においても発現させ、そのことにより、低摩擦と耐摩耗性を確保している。さらに、上記技術で用いられる素材は、環境有害物質を含まずに調製可能であり、現行の境界潤滑膜技術に替わる高性能かつ環境調和技術としての可能性をもっている。
【0009】
しかし、現行の低粘性基油に匹敵するような低粘性液体はいまだ得られておらず、これら単独で現状の潤滑油の性能を全て満足し、置き換えるには至っていない。
【特許文献1】特開平7−62372号公報
【特許文献2】特公昭46−34508号公報
【特許文献3】特公昭48−39203号公報
【特許文献4】特開昭49−47401号公報
【特許文献5】特開昭52−96695号公報
【特許文献6】特公昭51−20273号公報
【特許文献7】特公平4−50328号公報
【特許文献8】特開平6−346078号公報
【特許文献9】特開2002−12883号公報
【特許文献10】特開2003−48931号公報
【特許文献11】特開2004−307551号公報
【特許文献12】特開2004−149794号公報
【特許文献13】特開2001−234186号公報
【特許文献14】特開平6−17077号公報
【特許文献15】特開2002−3873号公報
【特許文献16】特開2002−69472号公報
【特許文献17】特開2003−192677号公報
【特許文献18】特開2004−315703号公報
【非特許文献1】濱口正法,大野信義,立石賢司,河田憲.トライボロジー会議予稿集(東京 2005-11)p.175.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、粘度指数向上剤が機能する高圧/高剪断場における耐久性を、従来とは異なる化学構造を有する高分子を用いることで向上させ、粘度指数向上性、増粘効果、低温流動性及び剪断安定性、耐コーキング性、シャダー防止性能の維持性といった従来の課題を解決し、さらに従来の粘度指数向上剤の機能にはなかった、極圧下での耐摩耗性と低摩擦係数の機能を有する潤滑剤組成物を提供することである。そして、本発明の他の目的は、長期間の使用においてもそれらの性能を保持できる潤滑剤組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、メソゲン構造を繰り返し単位として含む重合体を存在(例えば、溶解及び/又は分散形態で水あるいは有機溶剤に存在)させることによって、潤滑油の粘度指数を向上させるのみならず、低温流動性、剪断安定性、耐コーキング性及びシャダー防止性能の維持性を向上させ、高圧高剪断条件下での低摩擦性、耐摩耗性を同時に発現し、さらに環境負荷あるいは有害物質を含まない、新規で環境調和性の良い潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、メソゲン構造を主鎖に含む重合体を用いることにより、優れた粘度指数向上能を発現するとともに、従来の粘度指数向上剤にはなかった新規かつ高性能の低摩擦性、耐摩耗性の発現を可能にすることを見出し、この知見に基づきさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] メソゲン構造を主鎖に含む重合体を含有する潤滑剤組成物。
[2] メソゲン構造が円盤状である[1]の潤滑剤組成物。
[3] 前記重合体が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも有する重合体である[1]又は[2]の潤滑剤組成物:
【0013】
【化1】

一般式(1)において、Chainは少なくともLを置換基とする、主鎖を構成するモノマー由来の繰り返し単位であり、Dは環状のメソゲン基を表し、R0は各々独立に、環状のメソゲン基Dに置換可能な最大数以下のk個の置換基を表し、Lは各々独立に二価の連結基を表し、但し、R0及びLの少なくとも一つは、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含み、kは0以上の整数を表す。
[4] 前記重合体が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を少なくとも有する重合体である[1]〜[3]のいずれかの潤滑剤組成物:
【0014】
【化2】

一般式(2)において、Chainは少なくともLを置換基とする、主鎖を構成するモノマー由来の繰り返し単位であり、R1は各々独立に水素原子又はアルキル基を表し、R2は各々置換基を表し、mは0〜4の整数及びnは0〜5の整数を各々表し、式中の複数のnは各々同一であっても異なっていてもよく、m及びnが2以上の時、複数のR2は各々同一であっても異なっていてもよく、Lは各々二価の連結基を表し、但し、R2及びLの少なくとも一つは、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含む。
【0015】
[5] 前記重合体が、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を少なくとも有する重合体である[1]〜[3]のいずれかの潤滑剤組成物:
【0016】
【化3】

一般式(3)において、Chainは少なくともLを置換基とする、主鎖を構成するモノマー由来の繰り返し単位であり、R3は各々置換基を表し、m’は0〜3の整数及びn’は0〜4の整数を各々表し、式中に複数存在するn’は同一であっても異なっていてもよく、m’及びn’が2以上の時、複数のR3は同一であっても異なっていてもよく、Lは二価の連結基を表し、但し、R3及びLの少なくとも一つは、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含む。
【0017】
[6] 前記重合体の重量平均分子量が、5,000〜200,000である[1]〜[5]のいずれかの潤滑剤組成物。
[7] 前記重合体が、エステル結合で縮合された繰り返し単位を有するポリエステルである[1]〜[6]のいずれかの潤滑剤組成物。
[8] 前記重合体を、全質量中0.1〜30質量%含有する[1]〜[7]のいずれかの潤滑剤組成物。
[9] さらに潤滑油を含有し、該潤滑油を基油を、全質量中70〜99.9質量%含有する[1]〜[8]のいずれかの潤滑剤組成物。
[10] 前記重合体を、平均粒径10ナノメートル〜10ミクロンの分散粒子として含有する[1]〜[9]のいずれかの潤滑剤組成物。
[11] 前記重合体とは異なる重合体の少なくとも一種をさらに含有する[1]〜[10]のいずれかの潤滑剤組成物。
【0018】
[12] 下記一般式(4)−a,b,c,d,e,f又はgで表される少なくとも一種類の化合物をさらに含有する[1]〜[11]のいずれかの潤滑剤組成物:
【0019】
【化4】

式中、R4は置換アルキル基、フェニル基又は複素環基を表し、それらは少なくとも一つの、二価のC8以上のアルキレン基、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖、オリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖又はジスルフィド基を含む置換基によって置換されている。
【0020】
[13] [1]〜[12]のいずれかの潤滑剤組成物からなる粘度指数向上剤。
[14] [1]〜[12]のいずれかの潤滑剤組成物からなる摩擦調整剤。
[15] 前記重合体が、水あるいは有機溶剤中100質量部に対し2質量部以上溶解している[1]〜[7]のいずれかの潤滑剤組成物。
[16] 前記重合体が、10ナノメートル以上10ミクロン以下の平均粒径でポリマーコロイド状に分散されている重合体分散物からなる[1]〜[7]のいずれかの潤滑剤組成物。
[17] 前記重合体分散物が剪断による重合体の分散法を経由して得られる[16]の潤滑剤組成物。
[18] 前記重合体分散物が乳化分散法を経由して得られ、水性である[16]の潤滑剤組成物。
[19] 前記重合体分散物が分散重合法を経由して得られ、油性である[16]の潤滑剤組成物。
[20] 前記重合体分散物が、両親媒性グラフトポリマー又はブロックコポリマーの存在下で分散重合法を経由して得られ、油性である[16]の潤滑剤組成物。
[21] 前記重合体の少なくとも一種が、10ナノメートル以上10ミクロン以下の平均粒径でポリマーコロイド状に分散されており、同時にあるいは別の少なくとも一種が水あるいは有機溶剤中100質量部に対し2質量部以上溶解している[1]〜[7]のいずれかの潤滑剤組成物。
[22] [1]〜[21]のいずれかの潤滑剤組成物を表面に塗布して形成された膜。
[23] メソゲン構造を主鎖に有する重合体を含有する固体潤滑剤。
[24] さらに前記一般式(4)−a,b,c,d,e,f及びgのいずれかで表される少なくとも一種類の化合物を含有する[15]の潤滑剤組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、メソゲン構造を含む繰り返し単位を有する重合体を用いることよって、剪断安定性に優れた粘度指数向上剤を提供することができる。さらに、メソゲン構造を含む重合体を利用することによって、メソゲン構造を含む素材特有の機能である極圧下での低摩擦性の発現と耐摩耗性の維持を可能としている。
本発明の一態様によれば、前記重合体を基油に溶解させることにより、その側鎖の剛直性と側鎖表面の油溶性によって優れた粘度指数向上能を発揮する。さらに、メソゲン基に比較的極性の高い化学構造を導入することで、分散性、耐コーキング性、シャダー防止性などの機能を付与することもできる。即ち、本発明の一態様によれば、潤滑油の粘度指数向上に寄与するのみならず、低温流動性、剪断安定性、耐コーキング性及びシャダー防止性能の維持性の改善にも寄与する、新規な潤滑剤組成物を提供することができる。
また、本発明の他の態様によれば、前記重合体を基油へ分散することによって、低粘性基油の特性である低温流動性、駆動開始時、低負荷時の低摩擦性を維持しつつ、同時に極圧下での耐摩耗性の改善が改善され、且つ摩擦係数が低減された新規な潤滑剤組成物を提供することができる。
さらに、本発明の潤滑剤組成物は、リン、硫黄、塩素や重金属が必須元素ではなく、環境調和性にも優れている。
【発明の実施の形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲について、「〜」はその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
[メソゲン構造]
本発明は、液晶相を形成しうるメソゲン構造を含む少なくとも一種の繰り返し単位を有する重合体を含有する潤滑剤組成物に関する。前記重合体は、メソゲン構造を側鎖に有する。液晶性にとっては、立体的要因である直線性や平面性と剛直性、及び静電的要因である分極率の異方性が重要である。ほぼすべての液晶性化合物の構造は、模式的に、剛直なコア構造とフレキシブルな側鎖で表すことができる。メソゲン構造とは、中間相(メソフェーズ)が誘起(ジェネレート)される構造という造語であり、前者の剛直なコア構造部分を指す。液晶性化合物は、単独で、ある特定の温度、圧力範囲で熱力学的に安定な液晶相を呈するサーモトロピック液晶と、溶媒中である特定の温度、圧力、濃度範囲で液晶相を呈するリオトロピック液晶に分類される。しかし、メソゲン構造とフレキシブルな側鎖を有する化合物でも必ずしも液晶性を呈するわけではない。したがって、本発明で用いられる重合体は、繰り返し単位にメソゲン構造を有するが、液晶性ポリマー(高分子液晶)である必要はない。もしくは、用いられる温度域において液晶性を呈する必要はない。
【0023】
液晶相を形成しうるメソゲン構造は、環構造、結合基及び側方置換基に分けられる。環構造としては、ベンゼン環やシクロヘキサン環などの六員環構造をもったもの;ビフェニルやターフェニルなどのように環構造が直結しているもの;トランやフキサフェニルエチニルベンゼンのように環が結合基を介して連結しているもの;ナフタレン、キノリン、アントラセン、トリフェニレンやピレンなどの縮合環;環のなかに窒素、酸素あるいは硫黄元素などを含むヘテロ環から構成されるアザクラウン、ポルフィリン及びフタロシアニン;がある。また、結合基としては単結合、エステル、アミド、ウレイド、ウレタン、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、イミノ、アゾメチン及びビニル、アセチレンなどがある。側方置換基はその大きさ、双極子モーメント及び置換位置が液晶性に影響し、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキル基や複素環基などがある。メソゲン構造についての上記の内容の詳細は、液晶便覧 第三章「分子構造と液晶性」pp259 液晶便覧編集委員会編 丸善株式会社発行 (2000)に解説されている。
【0024】
[メソゲン−円盤状母核]
前記環構造は、円盤状であることが好ましい。メソゲン構造が円盤状の環構造を有すると、粘度指数向上機能を維持するための剪断時の破断耐久性が低摩擦性の効果で向上し、同時に潤滑油の極圧下での耐摩耗性の改善と、摩擦係数の低減に寄与するので好ましい。
円盤状構造の形態的特徴は例えば、その原形化合物である水素置換体について、以下のように表現され得る。まず、分子の大きさを以下のようにして求める。
1)該分子につき、できる限り平面に近い、好ましくは平面分子構造を構築する。この場合、結合距離、結合角としては、軌道の混成に応じた標準値を用いる事が好ましく、例えば日本化学会編、化学便覧改訂4版基礎編、第II分冊15章(1993年刊 丸善)を参照することができる。
2)前記1)で得られた構造を初期値として、分子軌道法や分子力場法にて構造最適化する。方法としては例えば、Gaussian98、MOPAC2000、CHARMm/QUANTA、MM3が挙げられ、好ましくはGaussian98である。
3)構造最適化によって得られた構造の重心を原点に移動させ、座標軸を慣性主軸(慣性テンソル楕円体の主軸)にとる。
4)各原子にファンデルワールス半径で定義される球を付与し、これによって分子の形状を記述する。
5)ファンデルワールス表面上で各座標軸方向の長さを計測し、それらそれぞれをa、b、cとする。
以上の手順により求められたa、b、cを用いて円盤状の形態を定義すると、c≦b<aかつa/2≦b≦a、好ましくはc≦b<aかつ0.7a≦b≦aと表すことができる。また、b/2>cであることが好ましい。また具体的化合物として挙げると、例えば日本化学会編、季刊化学総説No.22「液晶の化学」第5章、第10章2節(1994年刊 学会出版センター)、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.Liq.Cryst.71巻、111頁(1981年)、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)、J.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhang、J.S.Mooreらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.,116巻、2655頁(1994年)に記載の母核化合物の誘導体が挙げられる。例えば、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、アントラセン誘導体、アザクラウン誘導体、シクロヘキサン誘導体、β−ジケトン系金属錯体誘導体、ヘキサエチニルベンゼン誘導体、ジベンゾピレン誘導体、コロネン誘導体及びフェニルアセチレンマクロサイクルの誘導体がメソゲン構造として挙げられる。さらに、日本化学会編、"化学総説No.15 新しい芳香族の化学"(1977年東京大学出版会刊)に記載の環状化合物及びそれらの複素原子置換等電子構造体を挙げることができる。また、上記金属錯体の場合と同様に、水素結合、配位結合等により複数の分子の集合体を形成して円盤状の分子となるものでもよい。これらを分子の中心の母核とし、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等がその側鎖として放射状に置換された構造によりディスコティック液晶化合物が形成される。
【0025】
平板状及び円盤状構造の分子の中心の母核の好ましい化合物例には、下記一般式[1]〜[74]のいずれかで表される構造が含まれる。なお、nは3以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は3以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表し、即ち、[5]及び[6]は中心金属を含んでいても、含んでいなくてもよい。
【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
母核は、極性元素を含むπ共役系の骨格を有するのが好ましく、上記の中で、[1]、[2]、[3]、[6]、[11]、[12]、[21]、[23]、[28]、[56]が好ましく、その中でも[1]、[2]、[3]、[11]、[21]が好ましく、特に好ましくは一般式(2)及び一般式(3)に相当する、合成的に安価に入手できる[2]の1,3,5−トリス(アリールアミノ)−2,4,6−トリアジン環及び[3]のトリフェニレン環である。
【0030】
[メソゲン基に置換する側鎖構造]
後述する一般式(1)中のR0、一般式(2)中のR2及び一般式(3)中のR3に相当する、メソゲン基に置換する側鎖としては一般的に、例えばアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルチオ基、アシルオキシ基が挙げられ、側鎖中にアリール基、ヘテロ環基を含んでいてもよい。また、C.Hansch、A.Leo、R.W.Taft著、ケミカルレビュー誌(Chem.Rev.)1991年、91巻、165〜195ページ(アメリカ化学会)に記載されている置換基で置換されていてもよく、代表例としてアルコキシ基、アルキル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子が挙げられる。更に側鎖中に、例えばエーテル基、エステル基、カルボニル基、シアノ基、チオエーテル基、スルホキシド基、スルホニル基、アミド基のような官能基を有していてもよい。
【0031】
より詳細には、側鎖部分としては、例えば、アルカノイルオキシ基(例えば、ヘキサノイルオキシ、ヘプタノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ノナノイルオキシ、デカノイルオキシ、ウンデカノイルオキシ)、アルキルスルホニル基(例えば、ヘキシルスルホニル、ヘプチルスルホニル、オクチルスルホニル、ノニルスルホニル、デシルスルホニル、ウンデシルスルホニル)、アルキルチオ基(例えば、ヘキシルチオ、ヘプチルチオ、ドデシルチオ)、アルコキシ基(例えば、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、メトキシエトキシ、エトキシエトキシ、メトキシジエチレンオキシ、トリエチレンオキシ、ヘキシルオキシジエチレンオキシ)、2−(4−アルキルフェニル)エチニル基(例えば、アルキル基としてメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル)、2−(4−アルコキシフェニル)エチニル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、末端ビニルオキシ(例えば、7−ビニルヘプチルオキシ、8−ビニルオクチルオキシ、9−ビニルノニルオキシ)、4−アルコキシフェニル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、アルコキシメチル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、アルキルチオメチル基(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルキルチオメチル(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルキルチオエトキシメチル(例えばアルキルチオ基として、前述のアルキルチオ基で挙げたもの)、2−アルコキシエトキシエチル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、2−アルコキシカルボニルエチル基例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、コレステリルオキシカルボニル、β−シトステリルオキシカルボニル、4−アルコキシフェノキシカルボニル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、4−アルコキシベンゾイルオキシ基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、4−アルキルベンゾイルオキシ基(例えばアルコキシ基として、前述の2−(4−アルキルフェニル)エチニル基で挙げたもの)、4−アルコキシベンゾイル基(例えばアルコキシ基として、前述のアルコキシ基で挙げたもの)、パーフルオロアルキル基(例えば、アルキル基として、前述のアルキル基で挙げたもの)、ポリシロキサン基が挙げられる。
また、前述のもののうち、フェニル基は他のアリール基(例えば、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセン基)でもよいし、また前述の置換基に加えて更に置換されてもよい。また、該フェニル基はヘテロ芳香環(例えば、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、トリアゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアリル基、オキサジアゾリル基、キノリル基、イソキノリル基)であってもよい。
一つの側鎖に含まれる炭素原子の数は1以上30以下が好ましく、1以上20以下がさらに好ましい。
【0032】
[メソゲンを連結するスペーサー構造]
一般式(1)〜一般式(3)の連結基Lに相当する、メソゲンを連結するスペーサーとしては、一般的に、アルキレン基、パーフルオロアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、ポリシロキサン基及びそれらの組み合わせられた二価の連結基が挙げられる。それらはさらに、例えばオキシ基、カルボニル基、エチニレン基、アゾ基、イミノ基、チオエーテル基、スルホニル基及びそれらの組み合わせられたジスルフィド基やエステル基、アミド基、スルフォンアミド基などの二価の連結基によって連結されてもよい。またスペーサーへの置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基などの芳香族環、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、チオ基、スルホ基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0033】
また、メソゲンと上記のスペーサー構造を連結する基としては、オキシ基、カルボニル基、エチニレン基、アゾ基、イミノ基、チオエーテル基、スルホニル基及びそれらの組み合わせられたジスルフィド基やエステル基、アミド基、スルフォンアミド基などの二価の連結基があげられる。
【0034】
また、メソゲン基の摺動方向への配向はミエソビッツ低粘性の効果が期待できるので、使用する温度域において液晶性を呈することが好ましい。そのためには、
上記のメソゲン間のスペーサーを構成する最短の元素数は、特に円盤状メソゲンによる液晶相の形成には8以上15以下が好ましい。また、液晶相の発現には、さらにスペーサー構造が比較的柔軟であるウンデシレン基などのアルキレン基やパーフルオロアルキレン基、トリエチレンオキシ基、ジプロピレンオキシ基などのオリゴアルキレンオキシレン基及びオリゴパーフルオロアルキレン基、オリゴシロキサン基などの二価の基が好ましい。
【0035】
この剛直な平面構造による剛体的斥力が液晶性の発現にとって重要な因子であるが、同時に存在するフレキシブルな側鎖が自由に振舞える自由体積が大きいことが、これまで用いられてきた潤滑剤組成物にない特徴を有することを見出した。すなわち、円盤状メソゲン構造を繰り返し単位中に有する重合体は、剛直な平面構造の環のまわりに、フレキシブルな側鎖を数本配するがゆえに、相対的にそれら側鎖の自由体積が大きく確保されており、より厳しい圧力がかかり自由体積が圧縮される状況下でも剛直部分の斥力によって生じる自由体積がある一定値以下にはなり難いことが期待される。さらに積層するように配向している剛直な平面が剪断方向に再配向する場合には、ポリマー鎖にかかる剪断力を緩和することが期待される。それゆえに、本発明の潤滑剤組成物による粘度指数向上機能は、高圧下での粘度の上昇率が相対的に小さくなり、従来の粘度指数向上剤ではその高分子鎖が剪断力で破壊されてしまう程の高圧で且つ高剪断の場においても、高い剪断安定性を発現するであろうことが推定できる。
【0036】
前記重合体の一例として、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体が挙げられる。
【0037】
【化8】

一般式(1)において、Chainは少なくともLを置換基とする、主鎖を構成するモノマー由来の繰り返し単位であり、Dは環状のメソゲン基を表し、R0は各々独立に、環状のメソゲン基Dに置換可能な最大数以下のk個の置換基を表し、Lは各々独立に二価の連結基を表し、但し、R0及びLの少なくとも一つは、C5以上(好ましくはC5〜C20)のアルキレン鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含み、好ましくは、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含む。kは0以上の整数を表す。
前記繰り返し単位が有するオリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖の炭素数は、6〜20であるのが好ましく、含まれるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられ、鎖中に含まれるアルキレンオキシ基は2〜7個であるのが好ましく、3〜5個であるのが好ましい。
また、Chainは、主鎖を構成するモノマー残基であり、具体的には、(メタ)アクリル系モノマーの残基、メチルシロキ酸の残基、オキシシランが開環してできるエチレンオキシ残基等が挙げられる。
【0038】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体の中でも、下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0039】
【化9】

一般式(2)において、Chainは少なくともLを置換基とする、主鎖を構成するモノマー由来の繰り返し単位であり、R1は各々独立に水素原子又はアルキル基(好ましくC3以下のアルキル基)を表し、R2は各々置換基を表し、mは0〜4の整数及びnは0〜5の整数を各々表し、式中の複数のnは各々同一であっても異なっていてもよく、m及びnが2以上の時、複数のR2は各々同一であっても異なっていてもよく、Lは各々二価の連結基を表し、但し、R2及びLの少なくとも一つは、C5以上(好ましくはC5〜C20)のアルキレン鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含み、好ましくは、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含む。
【0040】
【化10】

一般式(3)において、Chainは少なくともLを置換基とする、主鎖を構成するモノマー由来の繰り返し単位であり、R3は各々置換基を表し、m’は0〜3の整数及びn’は0〜4の整数を各々表し、式中に複数存在するn’は同一であっても異なっていてもよく、m’及びn’が2以上の時、複数のR3は同一であっても異なっていてもよく、Lは二価の連結基を表し、但し、R3及びLの少なくとも一つは、C5以上(好ましくはC5〜C20)のアルキレン鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含み、好ましくは、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含む。
【0041】
前記重合体の中でも、下記一般式(2)’又は下記一般式(3)’で表される繰り返し単位を含む重合体がより好ましい。なお、下記式中のそれぞれの符号の意義は、前記一般式(2)及び(3)中の符号の意義と同義である。またR5は水素原子又はメチル基を表す。
【0042】
一般式(2)’
【化11】

【0043】
一般式(3)’
【化12】

【0044】
本発明に利用可能な、メソゲン基を有する重合体の具体例を以下に挙げるが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
【0045】
【化13】

【0046】
【化14】

【0047】
【化15】

【0048】
【化16】

【0049】
【化17】

【0050】
【化18】

【0051】
【化19】

【0052】
【化20】

【0053】
[重合体の合成方法]
メソゲン基を有する繰り返し単位を少なくとも一種有する重合体は、従来公知の有機合成方法及び重合法を組み合わせることで製造することができる。前記メソゲン構造は、重合によりポリマーを得た後、ポリマー分子に導入したブロックコポリマーやグラフトポリマーのような様式でもよい。また、メソゲン構造を有するモノマーを重合して前記重合体を製造することもできる。例えば、(メタ)アクリレート類を重合した後、重合体のカルボン酸部分に前記メソゲン構造をエステル反応を利用して導入したり、ヒドロシロキサンポリマーにハイドロしリレーションによってメソゲンを有するビニル基を付加的に導入してもよい。また、(メタ)アクリレートのエステル類のエステル部分にメソゲン構造を導入し、該モノマーを重合してもよい。反応様式としては、ポリ(メタ)アクリレートやビニルエーテルによるラジカル付加重合、オキシラン、シクロブテンやノルボルネンによる開環付加重合やより具体的には、Macromol.Chem.,Rapid Commun.4,807-815(1983)、Macromol.Chem.,Rapid Commun.6,367-373(1985)、及びMacromol.Chem.,Rapid Commun.6,577(1985)、J.Chem.Soc. Perkin Trans.,I 1995 pp829. Liquid Crystals,1995,Vol.18,No.2,pp191. Liquid Crystals,1998,Vol.25,No.1,pp47. J. Mater.Chem.,1998,8(1),pp47. Maclomolecules 1997,30,pp6430-6437.などに記載の合成方法が挙げられる。
【0054】
前記重合体の重量平均分子量は、5,000〜400,000であるのが好ましく、5,000〜200,000であるのがより好ましく、20,000〜200,000であるのがさらに好ましく、50,000〜150,000であるのがよりさらに好ましい。前記重合体の重量平均分子量が前記範囲であると、高温・高圧力での剪断安定性が高い点で好ましい。なお、前記重合体の重量平均分子量は、GPCで測定した値である。
【0055】
[トリアリールメラミンポリマーとの錯体形成]
本発明の潤滑剤組成物は、下記一般式(4)−a,b,c,d,e,f又はgで表される少なくとも一種類の化合物をさらに含有していてもよい。
【0056】
【化21】

【0057】
式中、R4は置換アルキル基、フェニル基又は複素環基を表し、それらは少なくとも一つの、二価のC8以上のアルキレン基、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖、オリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖又はジスルフィド基を含む置換基によって置換されている。
【0058】
前記一般式(2)に示したトリアリールメラミン母核の少なくとも一つのR1が水素原子の場合には、一般式(4)に示す化合物と水素結合を介して錯合体を形成し(Liquid Crystals,1998,Vol.24,No.3,pp407-411参照)、ポリマーの溶解性、ガラス転移点、液晶の場合は相転移温度が著しく変化するものと考えられる。従って、粘度指数向上能や低摩擦化、耐摩耗性についてもさらに向上させられると推察される。前記一般式(4)−a〜gのいずれかで表される化合物を含有する態様では、該化合物は、前記重合体のメソゲン基に対して0.1〜6当量含有されるのが好ましく、0.5〜1.5当量含有されるのがより好ましい。
【0059】
前記一般式(4)−a〜gで表される化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
【化22】

【0061】
【化23】

【0062】
[粘度指数向上機能]
粘度指数向上機能は、従来技術でも述べたように、温度上昇による粘度指数向上剤のオイル溶解性が向上し、低温で絡まりあっていたポリマー鎖がほどけて大きな拡散断面積を呈するようになることでその増粘効果が発現し、オイル全体の粘度を上昇させるものと考えられる。
【0063】
粘度指数が高いほどは、粘度指数向上剤の性能が高いことを示す。例えば、基油として鉱油を用い、特定の剤を5質量%〜30質量%の範囲で添加したサンプルの粘度指数が、100以上であれば、該剤は、粘度指数向上剤であるといえる。前記重合剤を粘度指数向上剤として用いる場合は、上記条件で測定した粘度指数が120以上であるのが好ましく、140以上であるのがより好ましく、160以上であるのが更に好ましい。なお、粘度指数はJISに定められた方法(JIS K2283)に従って測定される。
【0064】
これまでの技術では、粘度指数向上剤の溶解性の温度差は比較的剛直な主鎖となりうるメタアクリレートが、オイル溶解性は側鎖の長鎖アルキル基が担ってきた。本発明においては、メソゲン構造が部分的に主鎖を担うので剛直性は維持され、さらにそれらが剪断時に配向しミエソビッツ低粘性によりさらに剪断耐久性が向上するものと期待される。後述する通り、基油と併用する場合は、メソゲンに置換する末端鎖は、用いられる基油によって溶解性の観点からその好ましい種類が決定され、一般的にはその基油と類似の化学構造が好ましく用いられる。一般的には、鉱油やポリ−α−オレフィンのような化学合成油の場合は、側鎖としては長鎖アルキル基が用いられる。放射状構造の側鎖を有する液晶性化合物の場合、一般的にその親疎水性は側鎖末端基の親疎水性が表れる傾向が多いため、末端部に長鎖アルキル基を連結させて溶解性を制御することができるが、粘度指数向上機能の観点では同様の性能発現が可能である。
フッ素系の基油の場合には、パーフルオロアルキル基やオリゴパーフルオロアルキレンオキシ基が好ましく用いられる。
水系基油の場合には、オリゴアルキレンオキシ基が好ましい。
この溶解性の観点での側鎖置換基の選択は、主鎖構造にも同様に適用することが好ましい。
【0065】
[潤滑性能(摩擦調性能)の発現技術]
本来の潤滑機能である低摩擦性、耐摩耗性の発現には、特に放射状に側鎖構造を有する円盤状又は平板状メソゲン構造が好ましい。しかし、これらの機能は、互いに摺動する界面の近傍により多く存在することが効果的であり、粘度指数向上機能の発現の条件とは異なり、溶解せず、かつ微粒子で基油中に均質に分散した状態のほうが、基油に対してより少量で効果的に機能する。従って、前記重合体を、例えば炭化水素系の基油に混合せず単独で用いることも可能である。かかる態様では、前記重合体が、潤滑剤組成物の主成分となり、例えば、本発明の潤滑剤組成物は、前記重合体のみからなっていてもよい。一方、以下に記載する通り、潤滑油等の基油と併用する態様では、前記重合体の含有量は、全質量中0.1〜30質量%であるのが好ましく、0.5〜15質量%であるのがより好ましく、1〜5質量%であるのがさらに好ましい。
【0066】
また、本発明の潤滑剤組成物は、前記重合体とともに、基油である潤滑油を含有していてもよい。さらに潤滑油を含有する態様では、該潤滑油を、全質量中70〜99.9質量%含有するのが好ましい。
[基油]
本発明の潤滑剤組成物の基油として用いられる油性物質(潤滑油)としては、従来、潤滑剤組成物の基油として用いられている一般的な鉱油及び合成油から選択される一種又は二種以上を用いることができる。例えば、鉱油、合成油、あるいはそれらの混合油のいずれも用いることができる。鉱油としては、例えば、パラフィン系、中間基系又はナフテン系原油の常圧又は減圧蒸留により誘導される潤滑油原料をフェノール、フルフラール、N−メチルピロリドンの如き芳香族抽出溶剤で処理して得られる溶剤精製ラフィネート、潤滑油原料をシリカーアルミナを担体とするコバルト、モリプデン等の水素化処理用触媒の存在下において水素化処理条件下で水素と接触させて得られる水素化処理油、水素化分解触媒の存在下において苛酷な分解反応条件下で水素と接触させて得られる水素化分解油、ワックスを異性化用触媒の存在下において異性化条件下で水素と接触させて得られる異性化油、あるいは溶剤精製工程と水素化処理工程、水素化分解工程及び異性化工程等を組み合わせて得られる潤滑油留分等を挙げることができる。特に、水素化分解工程や異性化工程によって得られる高粘度指数鉱油が好適なものとして挙げることができる。いずれの製造法においても、脱蝋工程、水素化仕上げ工程、白土処理工程等の工程は、常法により、任意に採用することができる。鉱油の具体例としては、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油及びブライトストック等が挙げられ、要求性状を満たすように適宜混合することにより基油を調整することができる。合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン、α−オレフィンオリゴマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングルコールエーテル、シリコーン油等を挙げることができる。これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
本発明の潤滑剤組成物は、メソゲン構造を繰り返し単位とする重合体を分散状態で含有する場合は、該重合体を0.01〜30質量部と、油性物質を99.99〜70質量部とを含有しているのが好ましく、前記重合体を5〜20質量部と、油性物質を95〜80質量部含有しているのがより好ましい。前記重合体の含有量が前記範囲であると、省燃費性、低摩擦性の広出力範囲での発現の点で好ましい。一方、本発明の潤滑剤組成物が、メソゲン構造を繰り返し単位とする重合体を溶解状態で含有する場合は、該重合体を基油100質量部に対して、1質量部以上含有しているのが好ましく、前記重合体を5質量部以上含有しているのがより好ましい。前記重合体の含有量が前記範囲であると、粘度指数向上性、その剪断安定性の広出力範囲での発現の点で好ましい。
【0068】
[微分散化技術]
しかし、通常基油は安価に入手できるため、また基油は低粘性であり摺動機械の駆動時のトルクはより小さく、また低負荷時の流体潤滑での摩擦係数は極めて低いので、基油に前記重合体を少量用いることが好ましい。但し、摺動する界面に偏析させるために基油に溶解させない状態で用いると、一般的に摺動部位に偏析する効率が劣ることが多い。また近傍に存在しても、摺動する狭い間隙に重合体が入り込むためには、一般的に重合体の平均粒径は50ミクロン以下が好ましく、10ミクロン以下がさらに好ましい。従ってそのような平均粒径の重合体が基油中に均質に分散していることが好ましい。そうすれば、真実接触部位に限りなく近づき、そこで両面からの剪断力によって、薄膜状に展延され、摺動面を覆い、なおかつ界面粗さを低減する効果も発現することで、低摩擦、耐摩耗性を促進することが可能になる。
【0069】
前記重合体を、有機溶剤あるいは水中に分散させてもよい。具体的には、前記重合体を基油及び分散剤の共存下、ホモジナイザー等の流体膜状態での剪断力で微細化し分散させる方法、超音波によって微分散化させる方法、前記重合体のモノマーを分散剤共存下、有機溶剤あるいは水中で分散重合させて、重合体の微細粒子を基油中に均質分散させる方法がある。この場合、基油あるいは水中に分散する重合体は、それらに溶解しないことが好ましいので、上記粘度指数向上機能発現のための分子設計とは全く逆の要素を用いることが必要である。炭化水素系溶剤を基油とする場合には、側鎖あるいは主鎖部分には長鎖アルキレン基よりは、相溶性の低いパーフルオロアルキレン基やオリゴパーフルオロアルキレンオキシ基、またオリゴアルキレンオキシ基を相対的に多く用いることが好ましい。一方、水系では、相溶性の低いパーフルオロアルキレン基やオリゴパーフルオロアルキレンオキシ基、長鎖アルキレン基、ポリシロキサン基を相対的に多く用いることが好ましい。
【0070】
いずれの場合も、共存させる分散剤が重要である。この技術の詳細は、K.J.Barrett著 Dispersion Polymerization in Organic Media JOHN WILEY&SONS出版 に記載されている。溶剤とそれに非相溶性の微細粒径の重合体が共存すると、通常重合体の微細粒子が凝集して沈殿する傾向が強いので、分散剤としては両親媒性の分散剤すなわち互いに非相溶の部分構造を両方もった重合構造が必要である。
さらに好ましくは、それらの部分構造のオリゴマーあるいはポリマーがブロック共重合又はグラフト共重合体である。例えば、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート−g−ビニルアセテート)、ポリ(12−ヒドロキシステアリン酸−g−グリシジルメタアクリレート)、ポリ(ラウリル メタアクリレート−b−メタアクリル酸)、ポリ(スチレン−b−ジメチルシロキサン)、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート−g−メチルメタアクリレート)、ポリ(スチレン−b−メタアクリル酸)、ポリ(ブタジエン−b−メタアクリル酸)、ポリ(スチレン−b−t−ブチルスチレン)、ポリ(ラウリル メタアクリレート−b−ヘキサエチレンオキシエチル−メタアクリレート)、ポリ(ラウリル メタアクリレート−b−ヘキサ(パーフルオロエチレンオキシ)エチル−メタアクリレート)、ポリ(3−ヘキシルデシル メタアクリレート−b−3−ウレイドプロピル−メタアクリレート)などがあげられる。
【0071】
前記重合体を水系溶媒に分散させてもよい。水系分散技術は、通常乳化分散後に重合する乳化重合法が用いられるが、界面活性剤の共存下、水−水溶性有機溶剤混合溶剤に溶解したモノマーが微細粒径で重合し、不溶化析出した状態で界面活性剤で安定に分散させ、必要に応じ、水溶性有機溶剤を除去するいわゆる分散重合法も用いられる。
【0072】
[添加剤]
その他、本発明の潤滑剤組成物には、種々の用途に適応した実用性能を確保するため、さらに必要に応じて、潤滑剤、例えば軸受油、ギヤ油、動力伝達油などに用いられている各種添加剤、すなわち摩耗防止剤、極圧剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤等を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。
【0073】
[潤滑膜]
本発明の潤滑剤組成物を、表面に塗布して、潤滑膜として利用してもよい。その場合、その膜厚は、塗布する表面の表面粗さに影響されるが、0.5ミクロンの表面粗さの場合、5ミクロン程度の膜厚で良好な低摩擦性、耐摩耗性を発現し、0.02ミクロンの表面粗さの場合、0.03ミクロン程度の膜厚で同様に良好な性能を示す。
また、結合剤ポリマーに固体潤滑剤を添加して潤滑膜を形成させる技術と同様に、本発明の潤滑剤組成物に固体潤滑剤を添加して、前記潤滑膜を形成してもよい。
前記固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、有機モリブデン化合物、窒化ホウ素があげられる。
また、結合剤ポリマーを添加することも可能である。結合剤ポリマーとしては、有機樹脂として、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素(ウレア)樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂が、また無機高分子として、Ti−O,Si−O,Zr−O,Mn−O,Ce−O,Ba−Oといった、金属−酸素結合が三次元架橋した構造からなる被膜形成材料があげられる。
【0074】
[基体]
前記潤滑膜は、種々の基体の表面に形成することができる。前記基体の材質としては、炭化珪素・窒化珪素・アルミナ・ジルコニアなどのセラミックス、鋳鉄、銅・銅−鉛・アルミニウム合金とその鋳物、ホワイトメタル、高密度ポリエチレン(HDPE)・四フッ化エチレン樹脂(PFPE)・ポリアセタール(POM)・ポリフェニレンサルファイド(PPS)・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)・ポリアミドイミド(PAI)・ポリイミド(PI)などの各種プラスチック、プラスチックにガラス・カーボン・アラミドなどの繊維を複合化した有機−無機複合材料、セラミックと金属の複合材料サーメットなどが挙げられる。
また、上記の樹脂やセラミック材料の他、機械構造用炭素鋼、ニッケルクロム鋼材・ニッケルクロムモリブデン鋼材・クロム鋼材・クロムモリブデン鋼材・アルミニウムクロムモリブデン鋼材などの構造機械用合金鋼、ステンレス鋼、マルチエージング鋼などの表面にダイヤモンドライクカーボンの薄膜が被覆されている材料も好ましく用いられる。
また、銅系の金属粉を焼結することにより多孔質層を表面に形成させ潤滑剤組成物を含浸させた焼結金属やジルコン酸カルシウム(CaZrO3)とマグネシア(MgO)の微粒子が互いに強く結合して形成されるような多孔質セラミックス、シリカとホウ酸系成分を熱的に相分離させることにより得られる多孔質ガラス、超高分子量ポリエチレン粉末の焼結多孔質成形体、四フッ化エチレン等フッ素樹脂系多孔質膜、ミクロフィルターなどに用いられるポリスルホン系多孔質膜、予め成形体の貧溶媒とその成形体形成モノマーを重合時相分離を起こさせて形成される多孔質膜などが挙げられる。
【0075】
[固体潤滑剤]
前記重合体のうち、ガラス転移点の高い重合体については、粉末状に成形して固体潤滑剤として使用できる。単独で使用することも可能であるし、結合剤に分散あるいは溶解させて用いることも可能である。
さらに重合体100質量部に対して基油を20〜40質量部添加し、両者が溶解した状態で使用しても低摩擦性、耐摩耗性が発現する。
【0076】
[用途]
本発明の潤滑剤組成物は、種々の用途に利用できる。例えば、自動車等の車両のエンジン油、ギヤ油、自動車用作動油、船舶・航空機用潤滑油、マシン油,タービン油、軸受油、油圧作動油、圧縮機・真空ポンプ油、冷凍機油及び金属加工用潤滑油剤、また磁気記録媒体用潤滑剤、マイクロマシン用潤滑剤や人工骨用潤滑剤等に利用することができる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例に制限されるものではない。
【0078】
[実施例1:メソゲン構造(円盤状構造を含む)を側鎖に有する重合体の調製]
メソゲン構造としての一般的なトリフェニレン環(例示化合物DSP−1〜13)の合成方法は、Liquid Crystals.,第31巻8号,1037頁(2004年)及びその引用文献に詳細に記述されているが、側鎖型ポリマーの連結様式でその合成方法は様々である。
例えば、例示化合物DSP−1〜18、DSP−26〜42、DSP−49〜55については、メソゲン環の連結方法として、J.Mater.Chem.,第8巻,1号,47頁(1998年))に記載の方法に準じて合成した。
例示化合物DSP−19〜25、DSP−47、48、DSP−56及び57については、メソゲン環の連結方法として、Makromol.Chem.Rapid Commun.,第14巻,329頁(1993年))に記載の方法に準じて合成した。
例示化合物DSP−43〜46、及びDSP−58については、メソゲン環の連結方法として、Macromolecules 第29巻,6143頁(1997年))に記載の方法に準じて合成した。
六置換ベンゼン環(例示化合物DSP−55)の合成方法は、Makromol.Chem.Rapid Commun.,第6巻,367頁(1985年))に記載の方法に準じて合成した。三置換ベンゼン環(例示化合物DSP−56及び57)の合成方法は、Liquid Crystals.,第26巻10号,1501頁(1999年))に記載の方法に準じて合成した。
トリアリールメラミン環(例示化合物DSP−31〜48)の合成方法は、Liquid Crystals.,第24巻3号,407頁(1998年)に記載の方法に準じて合成した。
ヘキサエチニルベンゼン環(例示化合物DSP−49〜51)の合成方法は、Angew.Chem.Int.Ed.,第39巻17号,3140頁(2000年)記載の方法に準じて合成した。
フタロシアニン環(例示化合物DSP−52〜54)の合成方法は、特開2000−119652号明細書記載の方法に準じて合成した。
【0079】
1.高溶解性円盤状ポリマーの粘度指数向上機能評価
〔実施例2〜23、比較例1〜3、参考例1及び2:潤滑剤組成物の調製と高溶解性円盤状ポリマーの粘度指数向上機能評価〕
実施例1で得られたメソゲン基を有する重合体(円盤状ポリマー)について、その5質量部と潤滑油基油スーパーオイルN−32(新日鐵化学製)95質量部を400倍で拡大した顕微鏡下(メトラー社製顕微加熱装置FP−80HTホットステージ及びニコン社製OPTIPHOT−POL)で100℃に加熱した際、完全に溶解した潤滑剤組成物を形成することを確認した化合物(DSP−3,10,15,26,30,35,44,51,52,55,56,59,6,61,62,63,64,65,66,67,68)、及び100℃でも微細固体の分散状態にほとんど変化の見られなかった化合物(DSP−8,39)について、その15質量部とN−32の85質量部を混合した潤滑剤組成物を調製した。
また、比較例として、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤(CP−1)及びエチレン無水マレイン酸グラフトアミン変性物粘度指数向上剤(CP−2)を用いて、同様の方法で潤滑剤組成物をそれぞれ調製した。
【0080】
調製した前記潤滑油について、以下の評価をそれぞれ行った。
(粘度指数向上機能)
JIS K2283に基づいて、実施例2〜23、比較例1〜3、参考例1及び2の潤滑油の動粘度(100℃と40℃)をウベローデ粘度計を用いて測定し、粘度指数を算出した。なお、潤滑剤組成物を調製するために用いたスーパーオイルN−32(新日鐵化学製)(すなわち、円盤状ポリマー添加前の潤滑油)の粘度は、40℃で30.6mm2/s、100℃で5.31mm2/s、粘度指数は106であった。
【0081】
(剪断安定性( 粘度低下率))
社団法人自動車技術会による自動車規格JASO M347−95に基づいて、実施例2〜23、比較例1〜3、参考例1及び2の潤滑剤組成物に、100℃ において規定時間超音波を照射した。照射後の粘度を測定し、照射前後の粘度から、潤滑剤組成物の粘度低下率を算出した。潤滑剤組成物の粘度低下率の値が小さいほど粘度指数向上剤のせん断安定性は高い。
【表1】

【0082】
表1に示す結果から、メソゲン構造を側鎖に有する円盤状ポリマーのうち、100℃で基油に溶解度の大きいもの(実施例2〜23)は、一般的粘度指数向上剤と同等の高い粘度指数を示し、一方、溶解性に乏しいもの(参考例1及び2)は、基油そのものの粘度指数とあまり変わらない値を示すことが理解できる。すなわち、円盤状ポリマーの温度による溶解・不溶解の差を利用する粘度指数向上剤の機能が、前記円盤状ポリマーを含有する潤滑剤組成物でも同様の機構で機能している
可能性を示唆する結果となった。
剪断安定性についても、前記円盤状ポリマーは粘度低下率が小さく、粘度指数向上剤として好ましい性質を有していることが理解できる。
【0083】
2.高溶解性試料の粘度指数向上機能に付随する諸性能評価
〔実施例24〜27、比較例6及び7:高溶解性試料の粘度指数向上機能に付随する諸性能評価〕
円盤状ポリマーDSP−26、DSP−44及び比較としてCP−1,CP−2について、各々その15質量部とN−32の85質量部を混合した潤滑剤組成物を調製した。
上記実施例と同様にこれらの粘度指数向上能に付随する諸性能を評価した。結果を表2及び表3に示す。
(低温粘度特性)
調製した潤滑剤組成物について、MRV(ミニ・ロータリー・ビスコメーター)、CCS(コールド・クランキング・シュミュレーター)及びTP−1をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。なお、上記MRV、CCS及びTP−1は、油組成物の低温粘度特性を表示するものである。
MRV(ミニ・ロータリー・ビスコメーター)は、ASTM−D3829に記載の方法を使用して測定され、粘度をセンチポイズ単位で測定するものである。測定温度は−25℃である。
CCS(コールド・クランキング・シュミュレーター)は、SAE J300Appendixに記載の方法を使用して測定され、高せん断粘度値をセンチポイズ単位で測定するものである。この試験は、冷間のエンジン始動に対する潤滑油の抵抗性に関係する。CCSが高くなる程、冷間のエンジン始動に対する油の抵抗性が大きくなる。
さらに、TP−1は、ASTM−D4684に記載の方法を使用して測定される。これはMRVと本質上同じであるが、但し、徐冷却サイクルが使用される。このサイクルは、SAE Paper No.85 0443(ケイ・オー・ヘンダーソン)に規定されている。
【0084】
(スラッジ分散)
調製した潤滑油について、スラッジの分散性を試験した。判定基準を以下に示す。
○…スラッジの沈積が認められない
△…スラッジの沈積がやや認められる
×…スラッジの沈積が認められる
上記試験結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2に示す結果から、実施例24〜27の潤滑剤組成物は、比較例6及び7の潤滑剤組成物に比べ、MRV、CCS及びTP−1のいずれの低温粘度特性も優れていることが理解できる。
さらに、スラッジの分散性についても、実施例24〜27の潤滑剤組成物が、比較例6及び7の潤滑剤組成物に比べ何れも優れていることが理解できる。
【0087】
〔実施例28〜31及び比較例8及び9:潤滑剤組成物の調製と評価〕
(抗酸化性試験の方法)
100ニュートラルの鉱物油90重量部に、DSP−26,44,59及び60を各々10重量部均一に溶解させて潤滑剤組成物をそれぞれ調製した。CP−1及びCP−2を用いて、同一の方法で潤滑剤組成物をそれぞれ調製した。
調製した潤滑剤組成物について、JIS−K2514に従い、165.5℃で98時間抗酸化性試験を行ない、B法によるスラッジ発生量をそれぞれ測定した。ここでB法とは、試験後の潤滑油にスラッジ凝集剤を加え遠心分離し沈降するスラッジ量を測定したものであり、B法によるスラッジ量が抗酸化性を示す。
【0088】
(カーボンブラック分散性試験)
抗乳化性試験用試料容器(JISK2839)にカーボンブラック0.3gを入れ、60ニュートラルの鉱物油に実施例1で合成したDSP−26及びDSP−44、並びに比較例6及び7の添加剤(CP−1)及び(CP−2)を各々3重量%添加した溶液を加え、全液量80mlになるようにそれぞれ調製した。抗乳化性試験器(JISK2520)で30℃、1500rpmで5分間攪拌後、75mlを100mlの遠心沈降管に取り2000rpmで20分間遠心分離した後、上澄みを60ニュートラルの鉱物油で1/60に希釈し750nmの波長の吸光度を測定した。吸光度が大きい程、分散性が良好であることを示し、酸化により発生するスラッジ量が少なく、且つ清浄分散性と相関する。結果を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
表3に示す結果から、DSP−26,44,59及び60は、従来の粘度指数向上剤であるCP−1及びCP−2と比較して、はるかに分散性がよいこと、すなわち抗酸化性、清浄分散性に優れることが理解できる。
【0091】
メソゲン基を側鎖に有する重合体は、従来粘度指数向上剤として用いられていたメタクリレート重合体系粘度指数向上剤に比べ、優れた低温粘度特性と耐酸化特性を有する。従って、前記重合体を含有する本発明の潤滑剤組成物は、低温での流動特性や高温時の酸化安定性に優れ、過酷な環境でも使用することができる。
【0092】
〔実施例32〜35及び比較例10〜11:潤滑剤組成物の調製と評価(トラクション係数)〕
DSP−26及びDSP−44を各々8.3%、これにエンジン油用パッケージ(SH規格油用)11%、通常の100ニュートラル鉱物油を各々80.7%配合し、エンジン油に必要な100℃粘度を10.0〜10.4cStに合わせてそれぞれ潤滑剤組成物を調製した。比較例として前記粘度指数向上剤CP−1を各々4.3%、モリブデンジチオカーバメート系FM剤(モリバンA、バンダービルト社製)を1%添加したものと、添加しないものをそれぞれ調製し、これにエンジン油用パッケージ(SH規格油用)11%、通常の100ニュートラル鉱物油を配合し、各々エンジン油に必要な100℃粘度を10.0〜10.4cStに合わせて潤滑剤組成物をそれぞれ調製した。これらのサンプルをSRV社の摩擦摩耗試験機で、温度80℃、荷重50ニュートン、周波数50Hzの条件で摩擦係数を測定し、表4の結果を得た。
【0093】
【表4】

【0094】
表4に示す結果から、メソゲン基を有する重合体(円盤状ポリマー)DSP−26及びDSP−44の添加により、有意のトラクション低減効果を確認できた。このため、本発明の潤滑剤組成物は省燃費性に優れたものとなりうることが理解できる。
【0095】
〔実施例36〜39及び比較例12:潤滑剤組成物の調製と評価〕
エチレン・プロピレン共重合体からなるOCP系粘度指数向上剤(三井石油化学工業製、オルフュースM−1210)をCP−3として用いた。
円盤状ポリマーDSP−26及びDSP−44、粘度指数向上剤CP−3をそれぞれ5%、及びCDグレードディーゼルエンジンオイル用DIパッケージ5%を、溶剤精製油A(粘度指数100の150ニュートラル油)及び溶剤精製油B(粘度指数100の200ニュートラル油)に加え、下表5に示す実施例及び比較例に相当するエンジン油(潤滑剤組成物)を調製した。その際、100℃動粘度を10.0〜10.4cStにして、且つ−20℃のCCS粘度を3000cPになるよう溶剤精製油AとBの配合量を調整した。これらのエンジン油を以下の方法でパネルコーキング試験及び酸化安定試験を実施した。その結果を表5に示した。また、省燃費性に関係するTBS粘度(150℃、せん断速度106/秒)及び粘度指数を表5に示した。
【0096】
(パネルコーキング試験の方法)
上記三種類のエンジン油をパネルコーキング試験法Fed−791Bに従い、パネル温度300℃、エンジン油温度100℃で4時間パネルコーキング試験を実施した。試験後、パネルをペンタンで洗浄後、コーキング量を重量法で測定した。
【0097】
(酸化安定性試験の方法)
上記三種類のエンジン油をJIS−K2514に従い、165.5℃で96時間酸化安定性試験を実施した。試験前後でのエンジン油の全酸価の増加量を測定した。
【0098】
【表5】

【0099】
表5に示す結果から、メソゲン基を有する重合体を使用したエンジン油は、従来コーキング量が少ないといわれているOCP系粘度指数向上剤を使用した場合(比較例12)と比べコーキング量が低くなっていることが理解できる。また、TBS粘度も低く、粘度指数が同等以上であることが理解できる。
【0100】
3.基油への低溶解性試料の低摩擦性機能評価
[実施例40〜57及び比較例13〜16:基油への微粒子分散化された円盤状ポリマーの低摩擦と耐摩耗機能]
実施例1で得られた円盤状ポリマーについて、その5質量部と潤滑油基油スーパーオイルN−32(新日鐵化学製)95質量部を400倍で拡大した顕微鏡下(メトラー社製顕微加熱装置FP−80HTホットステージ及びニコン社製OPTIPHOT−POL)で100℃に加熱した際、40℃でも100℃でも微細固体の分散状態にほとんど変化の見られなかった基油に難溶性の化合物(DSP−6,7,8,12,21,22,24,27,28,29,38,41,45,47,48,53,57)について、いずれかの5質量部とN−32の95質量部を混合した潤滑剤組成物を調製した。これに、0.5質量部のブロックコポリマーを添加し、超音波ホモジナイザーで平均粒径0.5ミクロンの微細分散状態で円盤状ポリマーが安定化された潤滑剤組成物を調整した。
オプチモール社製往復摺動摩擦摩耗試験機(SRV)を用い、シリンダー・オン・ディスク法により、周波数50Hz,振幅1.5mm幅、荷重400Nの条件でその摩擦係数を測定した。シリンダーは15mmΦ、長さ22mm、ディスクは25mmΦ、厚さ6.9mm、表面粗さは、0.45〜65ミクロンで、材質はいずれもSUJ−2鋼である。
ディスク上に前記の潤滑剤組成物120mgをのせ、シリンダーに荷重をかけ、上記条件での往復摺動下、40℃から110℃の摩擦係数を測定した。
比較として、N−32基油、N−32基油+BCP−1、N−32基油+CP−1+BCP−1について上記の同条件で摩擦係数を測定した。
分散剤ポリマーとして、
BCP−1:ポリ(ラウリル メタアクリレート−b−ヘキサエチレンオキシエチル−メタアクリレート)、
BCP−2:ポリ(ラウリル メタアクリレート−b−ヘキサ(パーフルオロエチレンオキシ)エチル−メタアクリレート)、
BCP−3:ポリ(ラウリル メタアクリレート−b−メタアクリル酸)、ポリ(3−ヘキシルデシル
BCP−4:メタアクリレート−b−3−ウレイドプロピル−メタアクリレート)
を用いた。
その結果を表6に示す。
【0101】
また、摩擦試験後のディスク表面の摩耗状態を下記の3段階で評価した。
○・・・・・・ 摺動痕が見えない
△ ・・・・・ 摺動した痕は見えるが摩耗していない
×・・・・・・ 摺動痕と磨耗痕が明瞭に見える
結果を表6に合わせて示す。
【0102】
【表6】

【0103】
表6に示す結果から、基油中で溶解せず、微粒子分散状態にある円盤状ポリマーを含む潤滑剤組成物は、その摩擦係数を顕著に低減することができることが理解できる。
また、表6に示す結果から、微粒子分散された円盤状ポリマーの潤滑剤組成物は相対的に高い耐摩耗性を示すことが理解できる。すなわち、微粒子分散された円盤状ポリマーを含む潤滑剤組成物は好ましい低摩擦性と耐摩耗性を示す良好な潤滑油となりうる。
なお、基油に対して溶解する円盤状ポリマーDSP−3及び36を用いて同様に試験したところ、70〜100℃の平均摩擦係数は0.12〜0.13程度であった。
【0104】
4.試料の分散方法による低摩擦化機能評価
[水系微分散及び乳化分散技術]
[実施例58〜61及び比較例18:水への微粒子分散化された円盤状ポリマーの低摩擦と耐摩耗機能の評価]
円盤状ポリマーDSP−14,37,55について、そのいずれかの5質量部とN−32の95質量部を混合した潤滑剤組成物を調製した。これに、0.5質量部のブロックコポリマーを添加し、超音波ホモジナイザーで平均粒径0.5ミクロンの微細分散状態で円盤状ポリマーが安定化された潤滑剤組成物を調製した。
オプチモール社製往復摺動摩擦摩耗試験機(SRV)を用い、シリンダー・オン・ディスク法により、周波数50Hz,振幅1.5mm幅、荷重400Nの条件でその摩擦係数を測定した。シリンダーは15mmΦ、長さ22mm、ディスクは25mmΦ、厚さ6.9mm、表面粗さは、0.9ミクロンで、材質はいずれもアルミナである。
ディスク上に前記の潤滑剤組成物120mgをのせ、シリンダーに荷重をかけ、上記条件での往復摺動下、40℃から110℃の摩擦係数を測定した。
分散剤ポリマーとして、
BCP−3:ポリ(ラウリル メタアクリレート−b−メタアクリル酸)、
を用いた。
また、乳化分散用の界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)を用いた。
その結果を表7に示す。
【0105】
また、摩擦試験後のディスク表面の摩耗状態を下記の3段階で評価した。
○ ・・・・・ 摺動痕が見えない
△ ・・・・・ 摺動した痕は見えるが摩耗していない
× ・・・・・ 摺動痕と磨耗痕が明瞭に見える
その結果を、表7に合わせて示す。
【0106】
【表7】

【0107】
表7に示す結果から、水中で溶解せず、微粒子分散状態にある円盤状ポリマーを含む潤滑剤組成物は、その摩擦係数を顕著に低減することが理解できる。
また、表7に示す結果から、微粒子分散された円盤状ポリマーを含有する潤滑剤組成物は相対的に高い耐摩耗性を示すことが理解できる。すなわち、水中に微粒子分散された円盤状ポリマーを含有する潤滑剤組成物は、セラミック上でも鋼鉄上と変わらない好ましい低摩擦性と耐摩耗性を示す良好な潤滑組成物となりうるので、人工骨の潤滑液など幅広い分野への応用が期待される。
【0108】
[有機溶剤系分散重合]
[実施例62:円盤状ポリマーDSP−32の基油中の分散重合による微粒子分散化された潤滑剤組成物の調製]
DSP−39を、DSP−39のモノマーのラジカル付加重合反応を基油N−32中で行うことにより得た。より具体的には、新日鐵化学製スーパーオイルN−32 100g及び2−ブタノン 15g中に、5.23gのDSP−39モノマーと、0.2gのAIBNと、0.1gのポリ(ヘキサデシル メタアクリレート−b−メタアクリル酸)とを溶解分散させ、60℃で10時間加熱した後、2−ブタノンを減圧下除去し、DSP−39を分散粒子として得た。DSP−39の平均粒径は0.88μmであった。
【0109】
[実施例63:円盤状ポリマーDSP−7の基油中の分散重合による微粒子分散化された潤滑剤組成物の調製]
【0110】
DSP−7を、上記DSP−39と同様に基油N−32中でラジカル付加重合を行うことにより、分散粒子として得た。DSP−7の平均粒径は0.77ミクロンであった。
【0111】
[実施例64〜65:円盤状ポリマーDSP−39及びDSP−7の潤滑剤組成物の低摩擦性及び耐摩耗機能の評価]
オプチモール社製往復摺動摩擦摩耗試験機(SRV)を用い、シリンダー・オン・ディスク法により、周波数50Hz,振幅1.5mm幅、荷重400Nの条件でその摩擦係数を測定した。シリンダーは15mmΦ、長さ22mm、ディスクは25mmΦ、厚さ6.9mm、表面粗さは、0.45〜0.65ミクロンで、材質はいずれもSUJ−2鋼である。
ディスク上に前記の潤滑剤組成物120mgをのせ、シリンダーに荷重をかけ、上記条件での往復摺動下、40℃から110℃の摩擦係数を測定した。
その結果を表8に示す。
【0112】
また、摩擦試験後のディスク表面の摩耗状態を下記の3段階で評価した。
○ ・・・・・ 摺動痕が見えない
△ ・・・・・ 摺動した痕は見えるが摩耗していない
× ・・・・・ 摺動痕と磨耗痕が明瞭に見える
その結果を表8に合わせて示す。
【0113】
【表8】

【0114】
表8に示す結果から、微粒子分散状態にある円盤状ポリマーを含む潤滑剤組成物は、その摩擦係数を顕著に低減することが理解できる。
また、表8に示す結果から、微粒子分散された円盤状ポリマーの潤滑剤組成物に、良好な耐摩耗性が見られる。
【0115】
5.試料の薄膜化による低摩擦化機能評価
[基体と表面粗さの影響]
[実施例66〜83:基体に薄膜塗布された円盤状ポリマーの低摩擦機能の評価]
オプチモール社製往復摺動摩擦摩耗試験機(SRV)を用い、シリンダー・オン・ディスク法により、周波数50Hz,振幅1.5mm幅、荷重400Nの条件でその摩擦係数を測定した。シリンダーは15mmΦ、長さ22mm、ディスクは25mmΦ、厚さ6.9mm、基体の材質は表9に示す。
ディスク上に円盤状ポリマー 3.0mgをのせ、ジクロロメタンに溶解してディスク上に均一にのばし、約6ミクロンの薄膜を得た。シリンダーに荷重をかけ、上記条件での往復摺動下、40℃から110℃の摩擦係数を測定した。
その結果を表9に示す。
【0116】
【表9】

【0117】
表9に示す結果から、本発明の薄膜状態にある円盤状ポリマーは、これまでの摺動部材についてその材質によらず、摩擦係数を顕著に低減することができることがわかった。また、表面粗さが相対的に小さな樹脂製基体ではさらに好ましい低摩擦性を示しているので、樹脂製摺動部材や人工骨の潤滑膜など幅広い分野への応用が期待される。
【0118】
6.固体分散
[実施例84及び比較例19:円盤状ポリマー粉末の結合剤への分散]
窒素気流下、コップ状のガラス容器に、ε−カプロラクタム 20.0gを150℃で融解させ、攪拌している融液に、予めε−カプロラクタム 10.0gとDSP−54 2.0gをボールミルで微細粉末とした混合物を添加し、さらにトリレンジイトシアネート 0.51mLと添加した。一方、別途ε−カプロラクタム 20.0gを70℃で融解させ、これにNaH 0.10gを添加し攪拌した融液を、前記DSP−54の入った融液に添加、混合した。2分後攪拌を止め、そのまま、150℃で5分間放置後、室温まで冷却し、DSP−54の微粉末が分散された円柱状の6,6−ナイロン樹脂を得た。
比較例19として、DSP−54を入れないこと以外はすべて同様の操作を行い、円柱状の6,6−ナイロン樹脂を得た。
各々の試料から70mm50mm3mmの平板を切削により成形した。
それらの摺動特性をみるために、往復摺動摩擦摩耗試験機(東測精密製AFT−15MS型、荷重2kg、線速度30mm/sec、往復距離20mm、23℃、往復動30000回)で測定した。
摩耗性については、30000回後の最大摩耗深さを表面粗さ計(東京精密サーフコム570−A−3D)で測定した。
その結果を表10に示す。
【0119】
【表10】

【0120】
表10に示す結果から、DSP−54を含む樹脂は、より低摩擦、耐摩耗性を示すことが理解できる。すなわち、表面に存在する極微量の円盤状ポリマーが、摺動の過程で被膜化することで低摩擦とそれゆえの耐摩耗性の向上に寄与しているものと推察される。
【0121】
7.錯形成化合物の潤滑能
[実施例85:円盤状ポリマーの錯形成化合物の潤滑能]
一般式(2)の円盤状ポリマーのメソゲンに対して0.5当モル量の表1に示す前記一般式(4)の錯形成性化合物又は下記に示す比較化合物(XA−1)を、表11に示す組み合わせで、ジクロロメタン中で混合し、濃縮後、120℃で30分加熱し、空冷後24時間放置した。それらの試料 3.0mgをディスク上にのせ、ジクロロメタンに溶解してディスク上に均一にのばし、約6ミクロンの薄膜を得た。シリンダーに荷重をかけ、実施例51と同条件での往復摺動下、40℃から110℃の摩擦係数を測定した。40℃での摩擦係数と摺動痕の有無についての結果を表11に示す。
次に実施例2と同様の条件で、粘度指数を評価した。その結果を表11に示す。
【0122】
【表11】

【0123】
【化24】

【0124】
表11に示す結果から、DSP−36は比較的高粘性であるため、その被膜の摩擦係数は40℃では高いが、錯形成化合物を添加すると顕著に低下することが理解できる。これは、錯体の形成により低粘度化し、その結果、顕著な低摩擦化効果を発現していると考えられる。一方、CP−1と類似する構造の錯形成能のないXA−1を用いた組成物では、その希釈効果によってある程度摩擦係数は低下しているが、その溶媒効果によって膜強度が低下し、耐摩耗性が低下している。また、錯形成によってさらに増粘効果が生じて粘度指数も向上したと考えている。このように錯形成が潤滑能に対して効果的に機能していることがわかった。
【0125】
本発明の潤滑剤組成物は、現行粘度指数向上剤同等の性能とさらに好ましい剪断安定性及びモリブデン系FM剤を添加したものと同等以上の摩擦低減効果を発揮させる。さらに本発明の潤滑剤組成物は界面との相互作用は本質的要請ではないため、表面粗さ以外の材質を選ばないので、あらゆる界面の潤滑に適用できる。このため、本発明の潤滑油は総合的に省燃費性に優れたものとなる。
【0126】
以上の実施例から、本発明の潤滑剤組成物をエンジン油として用いた場合に、従来のOCP系粘度指数向上剤を添加したエンジン油と比べ、コーキング量が同等以下に低減でき、かつ、OCP系粘度指数向上剤を使用した場合と比べ、TBS粘度が低く、粘度指数が高く、剪断安定性を有していること、及び現行技術で最も低摩擦係数を与える有機モリブデン化合物に匹敵する低摩擦係数と耐摩耗性を広出力、温度範囲で発現することが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明によれば、今後の自動車の省燃費性の要求に対応できる優れたエンジン油、さらに軸受油など多様な用途に利用可能な、環境調和性に優れた潤滑剤組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソゲン構造を側鎖に有する重合体を含有する潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記メソゲン構造が円盤状である請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記重合体が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも有する重合体である請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物:
【化1】

一般式(1)において、Chainは少なくともLを置換基とする、主鎖を構成するモノマー由来の繰り返し単位であり、Dは環状のメソゲン基を表し、R0は各々独立に、環状のメソゲン基Dに置換可能な最大数以下のk個の置換基を表し、Lは各々独立に二価の連結基を表し、但し、R0及びLの少なくとも一つは、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含み、kは0以上の整数を表す。
【請求項4】
前記重合体が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を少なくとも有する重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物:
【化2】

一般式(2)において、Chainは少なくともLを置換基とする、主鎖を構成するモノマー由来の繰り返し単位であり、R1は各々独立に水素原子又はアルキル基を表し、R2は各々置換基を表し、mは0〜4の整数及びnは0〜5の整数を各々表し、式中の複数のnは各々同一であっても異なっていてもよく、m及びnが2以上の時、複数のR2は各々同一であっても異なっていてもよく、Lは各々二価の連結基を表し、但し、R2及びLの少なくとも一つは、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含む。
【請求項5】
前記重合体が、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を少なくとも有する重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物:
【化3】

一般式(3)において、Chainは少なくともLを置換基とする、主鎖を構成するモノマー由来の繰り返し単位であり、R3は各々置換基を表し、m’は0〜3の整数及びn’は0〜4の整数を各々表し、式中に複数存在するn’は同一であっても異なっていてもよく、m’及びn’が2以上の時、複数のR3は同一であっても異なっていてもよく、Lは二価の連結基を表し、但し、R3及びLの少なくとも一つは、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖又はオリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖を含む。
【請求項6】
前記重合体の重量平均分子量が、5,000〜200,000である請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記重合体が、(メタ)アクリレート系重合体、ポリエチレンオキシド系重合体又はポリシロキサン系重合体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記重合体を、全質量中0.1〜30質量%含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
さらに潤滑油を含有し、該潤滑油を全質量中70〜99.9質量%含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
前記重合体を、平均粒径10ナノメートル〜10ミクロンの分散粒子として含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項11】
前記重合体とは異なる重合体の少なくとも一種をさらに含有する請求項1〜10のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項12】
下記一般式(4)−a,b,c,d,e,f又はgで表される少なくとも一種類の化合物をさらに含有する請求項1〜11のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物:
【化4】

式中、R4は置換アルキル基、フェニル基又は複素環基を表し、それらは少なくとも一つの、二価のC8以上のアルキレン基、オリゴアルキレンオキシ鎖、オリゴシロキシ鎖、オリゴパーフルオロアルキレンオキシ鎖又はジスルフィド基を含む置換基によって置換されている。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物からなる粘度指数向上剤。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物からなる摩擦調整剤。

【公開番号】特開2006−307202(P2006−307202A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93621(P2006−93621)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】