説明

潤滑剤組成物

【課題】 印刷機、製本機、紙加工機及びこれらに付随する周辺機器等に好適に使用でき、いったん適用した後は、摺動部の洗浄を不要とし、飛び散ることなく摺動部の潤滑を行うことができる澗滑剤組成物を提供する。
【解決手段】 油性向上剤、及び無定形炭素で被覆された平均粒径約5nmのダイヤモンド粒子の集合体である平均粒径約15nmのダイヤモンド粒子クラスターを、脂肪酸エステルと、有機イオウ化合物と、リン酸エステルとからなる第1の分散溶媒中に分散してなる潤滑剤を、炭化水素系有機溶剤と低級アルコールからなる第2の分散溶媒中に分散し、エアゾール化し。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば印刷機、製本機、紙加工機及びこれらに付随する周辺機器等の摺動部に好適に用いることのできる潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷機、製本機、紙加工機及びこれらに付随する周辺機器等の摺動部では、その焼付を防ぐ目的から、何らかの手段を講じる必要があった。従来、このために、油性潤滑剤(例えば、特許文献1)をこのような摺動部に塗布していた。
【0003】
しかし、このように油性潤滑剤を用いると、潤滑剤が飛散するおそれがあった。このように潤滑剤が飛散すると、それが原因となって、例えば、印刷機では、印刷不良を引き起こしやすくなる。そこで、塗布量の微調整、塗布後のウエスによるふき取り・油受けの設置等が必要となり、その対策に手間と時間がかかるという不都合があった。さらに、このような油性潤滑剤には、紙粉が付着しやすく、摺動部の洗浄を頻繁に行う必要があった。加えて、洗浄の後には、再度、潤滑剤を塗布する必要がある。
【0004】
以上のように、手間のかかる潤滑剤の塗布を行わないと摺動部が焼付を起こし、潤滑剤を塗布するとそれが飛び散り、不良の原因となるといったように、相反する難題を抱えていた。そして、このような現状に対して、有効な対応策が講じられていなかった。
【特許文献1】特開平6−100879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、印刷機、製本機、紙加工機及びこれらに付随する周辺機器等に好適に使用でき、いったん適用した後は、摺動部の洗浄を不要とし、飛び散ることなく摺動部の潤滑を行うことができる澗滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、潤滑剤組成物であって、油性向上剤、及び無定形炭素で被覆された平均粒径約5nmのダイヤモンド粒子の集合体である平均粒径約15nmのダイヤモンド粒子クラスターを、脂肪酸エステルと、有機イオウ化合物と、リン酸エステルとからなる第1の分散溶媒中に分散してなる潤滑剤を、炭化水素系有機溶剤と低級アルコールからなる第2の分散溶媒中に分散し、エアゾール化してなることを特徴とする(第1の形態)。
【0007】
本発明に係る潤滑剤組成物は、別の形態で、油性向上剤、及び無定形炭素で被覆された平均粒径約5nmのダイヤモンド粒子の集合体である平均粒径約15nmのダイヤモンド粒子クラスターを、脂肪酸エステルと、有機イオウ化合物と、リン酸エステルとからなる第1の分散溶媒中に分散してなる潤滑剤、並びに耐磨耗剤を、炭化水素系有機溶剤と低級アルコールからなる第2の分散溶媒中に分散し、エアゾール化してなることを特徴とする(第2の形態)。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、印刷機、製本機、紙加工機及びこれらに付随する周辺機器等に好適に使用でき、いったん適用した後は、摺動部の洗浄を不要とし、飛び散ることなく摺動部の潤滑を行うことができる澗滑剤組成物が提供される。本発明に係る潤滑剤組成物は、一度塗布するだけで、摺動部の洗浄と、潤滑剤の塗布が完了する利点を有する。したがって、大幅な作業時間の短縮を期待することができ、作業上の負担も大きく軽減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明に係る潤滑剤組成物について、さらに詳細に説明する。
【0010】
第1の形態に係る潤滑剤組成物
本発明の第1の形態に係る潤滑剤組成物は、油性向上剤、及び無定形炭素で被覆された平均粒径約5nmのダイヤモンド粒子の集合体である平均粒径約15nmのダイヤモンド粒子クラスターを、脂肪酸エステルと、有機イオウ化合物と、リン酸エステルとからなる第1の分散溶媒中に分散してなる潤滑剤を、炭化水素系有機溶剤と低級アルコールからなる第2の分散溶媒中に分散し、エアゾール化して調製される。
【0011】
上記固体潤滑剤を構成するダイヤモンド粒子クラスターとしては、特開2002−265968号に開示されたものを用いることが好適である。
このダイヤモンド粒子クラスターとは、複数の単位粒子の集合体であり、平均粒径約15nmの超微粒子である。単位粒子は、真正なダイヤモンド粒子を核として、その外殻に疑似ダイヤモンド構造の炭素質物質を有し、さらにその外殻が無定形炭素で被覆されている。疑似ダイヤモンド構造の外殻を含むダイヤモンド粒子は、平均粒径が約5nmであり、ほぼ86%C,0.1%H,2,5%N,11.4%Oの元素で構成されている。
【0012】
このような構成のダイヤモンド粒子クラスターは、TNT火薬を密閉容器内で爆発させて得られるが、このとき、高圧高温で発生するTNTからの遊離炭素が結晶して生成したダイヤモンドを核として形成される。このダイヤモンド粒子クラスターは商業的に入手可能である。
【0013】
上記油性向上剤としては、例えば、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、エイコサン酸、ベヘン酸、テトラコサン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、その他変性脂肪酸等の脂肪酸、脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、高級アルコール脂肪酸エステル、多アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸ニトリル、脂肪酸アミン、脂肪酸アルカノールアミド、これらの変性物等の脂肪酸誘導体、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、マーガリルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコールセリルアルコール、メリシルアルコール等の高級アルコール、及びその他の常温で固体ないし半固体の石油より得られるろう類、その他の化合物を用いることができる。これらは、本発明の目的に反しない限り、単独で又は二以上のものを併せて使用することができる。
また、油性向上剤は、本発明の目的に反しない限り、半固体状のもの、固体状もものの一方又は双方を混合して用いることができる。また、半固体状のもの、固体状もものの一方又は双方を混合したものに液状の油性向上剤を混合したものも、半固体状であれば用いることができる。
ここで固体状とは、摺動部での使用状態で固体であることを意味する。常温(20〜25℃)の使用状態を想定した場合、融点が20℃以上200℃未満を意味する。係る融点は、好ましくは、20℃以上150℃未満である。係る融点は、さらに好ましくは、30℃以上110℃未満である。固体状の油性向上剤として、最も好適なものは、脂肪酸アミドである。
また、半固体状の油性向上剤とは、摺動部での使用状態で典型的な固体状態を呈しないものの、ペースト状、又は軟質のワックス状態を呈する油性向上剤をいう。なお、本発明では、摺動部での使用状態で液体状態を呈するもののみを含む素材は、油性向上剤として不適当である。すなわち、本発明で採用される油性向上剤は、摺動部での使用状態で液体状態を呈するもののみを含む形態は除かれる。もちろん、摺動部での使用状態で気体状態を呈するものも除かれる。
【0014】
第1の分散溶媒は、極性の高い脂肪酸エステルと、有機イオウ化合物と、リン酸エステルによってダイヤモンド粒子クラスターをナノレベルで分散させる機能を果たす。また、有機イオウ化合物と、リン酸エステルは、極圧性を向上させるといった役割も果たす。
【0015】
油性向上剤、及びダイヤモンド粒子クラスター(固体潤滑剤)を分散する第1の分散溶媒としては脂肪酸エステルと、有機イオウ化合物と、リン酸エステルからなり、これらを重量比で(40〜70):(1〜30):(10〜40)で配合してなるものを用いる。
【0016】
上記脂肪酸エステルとしては、天然の動物油脂及び植物油脂から精製された脂肪酸と、1価又は多価アルコールとの脂肪酸エステルを好適に用いることができる。さらに、好適なものは炭素数が8〜18の脂肪酸と多価アルコールとの脂肪酸エステルである。さらに、より好適なものは、炭素数が8〜12の脂肪酸とトリメチロールプロパンとの脂肪酸エステルである。
【0017】
上記有機イオウ化合物としては、天然の動物油脂、植物油脂又は魚系油脂にイオウを付加又は架橋させたもの、天然の動物油脂、植物油脂又は魚系油脂を精製して得られる脂肪酸とアルコールとの脂肪酸エステルにイオウを反応させたもの、及び鉱物油又は合成炭化水素油にイオウを反応させたものからなるグループから選択される少なくとも一種が好適である。イオウを反応させるための反応としては、付加反応又は架橋反応が好適である。
これらの有機イオウ化合物のうち、最も好適なものはイオウ架橋ポリマーエステルである。
【0018】
上記リン酸エステルとしては、リン酸のヒドロキシル基の水素を全て炭化水素基で置換したものを好適に用いることができる。このうちより好適なものは、炭化水素基が芳香族炭化水素基のリン酸エステルである。
【0019】
炭素数が8〜12の脂肪酸とトリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、イオウ架橋エステルポリマー、及び芳香族炭化水素基のリン酸エステルを配合して第1の分散溶媒を調製する場合、これらの3成分を重量比で、(55〜65):(10〜20):(20〜30)で用いることが好適である。この配合では、油性向上剤とダイヤモンド粒子クラスター(固体潤滑剤)の分散が、特に良好になる。
【0020】
上記第1の分散溶媒中に油性向上剤及びダイヤモンド粒子クラスターを分散してなる潤滑剤を、分散するための第2の分散溶媒としては、炭化水素系有機溶剤と低級アルコールからなる第2の分散溶媒を用いる。
第2の分散溶媒は、炭化水素系有機溶剤と低級アルコールとを重量比で(100〜1):(1〜100)で配合してなるものである。
【0021】
使用することのできる炭化水素系有機溶剤としては、沸点範囲が0〜250℃未満までのパラフィン、イソパラフィン、ナフテン、アロマ、及びそれらの混合物、変性物を挙げることができる。炭化水素系有機溶剤としては、沸点範囲が50〜250℃未満のものが、より好ましい。炭化水素系有機溶剤として、さらに好ましくは、沸点範囲が80〜150℃未満である。
【0022】
使用することができる低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール及びこれらの混合物、変性物である。
【0023】
炭化水素系溶剤としては、沸点範囲が110〜140℃のイソパラフィンが最も好適で、低級アルコールとしては、ノルマルプロパノール変性エタノールが最も好適である。これらの2成分を配合して第2の分散溶媒を調製する場合、これらの2成分を重量比で、(90〜50):(10〜45)で用いることが好適である。
【0024】
溶媒中に分散した油性向上剤、及び固体潤滑剤をエアゾール化することによって第1の実施の形態に係る潤滑剤組成物を得ることができる。
エアゾール化する充填剤としては、LPG(液化プロパンガス)又はDME(ジメチルエーテル)が好適である。
【0025】
エアゾール化は専用耐圧容器に上記固体状油性向上剤、固体潤滑剤、溶媒の混合物を充填後、バルブで密栓し、バルブの噴口より圧縮空気の力でLPG又はDME(充填剤)の噴射剤を充填することによって実施することができる。また固体潤滑剤等を成分に含む場合は分散性向上のために、専用耐圧容器に直径1cm程度の球形のガラス球、樹脂球、鉄球等を入れることが望ましい。
【0026】
なお、ダイヤモンド粒子クラスターは、超微粒子でありかつ物理的及び化学的に極めて安定であるので、他の固体潤滑剤を採用しても悪影響を及ぼすことはない。特に、他の固体潤滑剤と併用する場合には、各潤滑剤の性能と相乗的な効果を示す。用いることができる他の固体潤滑剤としては、PTFE、グラファイト、二硫化モリブデン、窒化硼素、メラミンシアヌレート、及びZnO等の金属酸化物等を挙げることができる。
【0027】
本第1の実施の形態では、一般的には、1〜5重量部の油性向上剤に対し、0.01〜1重量部のダイヤモンド粒子クラスターを配合し、これらを合わせた1〜6重量部に対し、5〜20重量部の第1の分散溶媒を加える。そして、これらを合わせた6〜26重量部に、第2の分散溶媒を10〜50重量部加える。さらに、これらを合わせた16〜526重量部をエアゾール化するにあたっては、160〜526重量部(原液)と噴射ガス(LPGまたはDME)を重量比で、原液:噴射ガス=7:3〜5:5の間で調整することが最適である。
【0028】
さらに、具体的には、上記した固体状油性向上剤とダイヤモンド粒子クラスターとを合わせたものと、第1の分散溶媒の重量比は、(1〜5):(5〜15)が好適である。上記第1の分散溶媒までを合わせたものと、第2の分散溶媒との重量比は、(5〜30):(70〜95)が好適である。
【0029】
なお、本実施の形態の潤滑剤組成物では、さらにその目的に反しない限り、別の添加物を配合することができる。例えば、潤滑剤組成物のエアゾール缶内部での分散性及び塗布時の濡れ性(レべリング性)を向上させる手段として、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、又はアニオン界面活性剤を分散溶媒100重量部に対し0.01〜1重量部配合することができる。
【0030】
本第1の実施の形態に係る潤滑剤組成物を、例えば、印刷機の摺動部に吹き付けると、まず、摺動部に付着している汚れを、第2の分散溶媒中の分散溶媒の炭化水素系有機溶剤と低級アルコールの相乗効果によって洗い落とす。
【0031】
摺動部及びその周辺の汚れは、機械から滲み出したグリース、油剤、紙粉、埃、付着防止パウダーが混ざり合っている。これを炭化水素系有機溶剤と低級アルコールで溶解させ、さらにエアゾールの噴射圧力により相乗効果で汚れを落とす。炭化水素系有機溶剤と低級アルコールを第2の分散溶媒の成分としているので、低粘度で浸透力が高い。このため本発明に係る潤滑剤組成物は、容易に20μm以下のクリアランスの摺動部へも入り込み、汚れを洗い出すことができる。
【0032】
そして、速やかに低級アルコールと炭化水素系有機溶剤が揮発し、摺動部に潤滑被膜が形成される。
形成された潤滑皮膜は半固体状又は固体状の油性向上剤を含有しているため、液体ないし半固体の潤滑皮膜を形成し、ダイヤモンド粒子クラスターを潤滑面に保持する効果がある。半固体状又は固体状の油性向上剤の結晶性により従来の油性潤滑剤の様に、滲み出しや余分な浸透がない。
【0033】
潤滑皮膜を形成後、ダイヤモンド粒子クラスターは、摺動部を穴埋めし、平坦化させ潤滑性を向上させる。半固体状又は固体状の油性向上剤、第1の分散溶媒はダイヤモンド粒子クラスターを摺動部に保持させる役割と、潤滑時に一部分が境界潤滑になり金属接触は起き熱を発した場合、金属表面と反応膜を形成し、極圧性を出す役割を持つ。
【0034】
さらに、ダイヤモンド粒子クラスターは、摺動面でマイクロベアリングとして働き、潤滑性を発揮することができる。
なお、半固体状又は固体状の油性向上剤はnm単位のダイヤモンド粒子クラスターを均一に分散させるために、上記したように第1の分散溶媒、第2の分散溶媒及びLPG等の充填剤に溶解しなければならない。さらには、潤滑時に一部分が境界潤滑になり金属接触が起き熱を発した場合、液体ないし半固体状の膜は、固体状の油性向上剤の融点が上記した範囲、好適には30℃以上110℃未満であるため、完全に溶解し、動粘度が低下するため、ダイヤモンド粒子と共に金属接触部に浸透し、金属が疑着磨耗するのを防ぐことができる。
【0035】
また、分散溶媒中の潤滑成分濃度を少量とすることができ、過剰に塗布してもべた付きの原因とはならず、飛び散り、紙粉の付着は起こらない。
さらに、本第1の実施の形態では、エアゾールの形態を取っており、さらに直径1cm程度の球形のガラス球、樹脂球、鉄球等を入れているため、ダイヤモンド粒子クラスターがエアゾール缶内部で一部凝集しても再分散が容易である。
【0036】
第2の形態に係る潤滑剤組成物
本発明の第2の形態に係る潤滑剤組成物は、第1の形態の潤滑剤組成物に対し、さらに耐磨耗剤を加えている。
耐磨耗剤としては、アルコール又はフェノール、五二硫化リン及び酸化亜鉛を反応させて得られるジチオリン酸亜鉛(特開平10−45771号公報、特開平11−322771号公報等に記載のもの)を好適に用いることができる。
【0037】
本第2の実施の形態に係る潤滑剤組成物はこのように耐摩耗剤を配合するので、境界潤滑において第1の形態に係る潤滑剤組成物と同じく金属表面により低温で分解し反応膜を形成し潤滑性を向上させる。
なおここで他の添加剤、例えば、有機モリブテンも用いることが出来るが、反応後に固体潤滑剤を生成するものや、金属、特に銅合金を腐食・変質させる場合があり、ダイヤモンド粒子クラスターのマイクロベアリング効果阻害する場合があるので、本発明の目的に反しないかどうか見極めて採用することが必要である。
【0038】
そして、耐摩耗剤と形成された潤滑皮膜は半固体状又は固体状の油性向上剤を含有しているため、液体ないし半固体の潤滑皮膜を形成し、ダイヤモンド粒子クラスターを潤滑面に保持する効果がある。半固体状又は固体状の油性向上剤の結晶性により従来の油性潤滑剤の様に、滲み出しや余分な浸透がない。
【0039】
本第2の実施形態では、一般的には、1〜5重量部の油性向上剤に対し、0.01〜1重量部のダイヤモンド粒子クラスターを配合し、これらを合わせた1〜6重量部に対し、5〜20重量部の第1の分散溶媒を加える。そしてこれらを合わせた6〜26重量部に対し、耐摩耗剤を0.1〜2重量部配合し、さらにこれらを合わせた16〜28重量部に第2の分散溶媒を10〜500重量部加える。さらにこれらを合わせた16〜528重量部をエアゾール化するにあたっては、16〜528重量部(原液)と噴射ガス(LPGまたはDME)を重量比で、原液:噴射ガス=7:3〜5:5の間で調整することが最適である。
【0040】
さらに具体的には、上記した固体状油性向上剤とダイヤモンド粒子クラスターとを合わせたものと、第1の分散溶媒の重量比は、(1〜5):(5〜15)が好適である。上記第1の分散溶媒までを合わせたものと、耐磨耗剤との重量比は、(1〜10):(10〜100)が好適である。耐磨耗剤までを合わせたものと、第2の分散溶媒との重量比は、(5〜30):(70〜95)が好適である。
【0041】
なお、本実施の形態の潤滑剤組成物では、さらにその目的に反しない限り、別の添加物を配合することができる。例えば、潤滑剤組成物のエアゾール缶内部での分散性及び塗布時の濡れ性(レべリング性)を向上させる手段として、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、又はアニオン界面活性剤を分散溶媒100重量部に対し0.01〜1重量部配合することができる。
【実施例1】
【0042】
油性向上剤として炭素数18の脂肪酸を用いた脂肪酸アミドと炭素数18の脂肪酸を用いたモノグリセライドの混合物を3.3g配合し、これに固体潤滑剤として、東洋ドライルーブ株式会社のダイヤモンド粒子クラスター(平均粒径約15nm)を0.11g配合した。さらにこれらに、第1の分散溶媒として、カプリル酸とトリメチロールプロパンとの脂肪酸エステル及びカプリン酸とトリメチロールプロパンとの脂肪酸エステルから成る混合物を17.8g、40℃における動粘度が約2000mm2/sのイオウ架橋エステルポリマーを3.4g、トリフェニルリン酸エステルとトリアリールイソプロピルリン酸エステルとの混合物を7g配合して調製したものを加えた。さらにこれに第2の分散溶媒として、沸点範囲110〜140℃の複数の炭化水素系有機溶剤を構成成分とするエクソンモービル有限会社製のアイソパーE(炭化水素系有機溶剤)を96g、日本アルコール販売(株)製ソルミックスAP−7(低級アルコール)を36g配合して調製したものを加えた。そして充填剤として116gの0.34Mpa、LPGを用いてエアゾール化した。
【0043】
得られたエアゾール潤滑剤を用い、爪受け試験を行った。
この試験は、三菱社製印刷機に実際に使用している部品(爪軸及び爪受け及びその周辺部品)を用い、潤滑状況を実機18000rpm/時間に設定して行った。動力は状況を再現できる能力のある電動モーターを用いた。
【0044】
試験条件:
初期塗りこみ: 爪受けのかしめを緩め、横にずらし、爪軸に塗布した後、爪受けを元の場所に戻し、かしめた。
運転条件: 連続運転〔ただし潤滑剤塗布時及び爪軸を動かすために必要な力(kgf)測定時には停止した。〕
回転数: 18,000rpm/時間
スライド量: 1mm(爪の下部分で測定)
塗布間隔: 無給油(但しトルク値上昇が見られた場合給油)
塗布量: 爪受けのかしめ部分と左右より0.5秒間ずつ噴射
比較対象: 有機モリブテン配合油剤エアゾール(従来品)
ブランク(初期より無塗布)
【0045】
塗布面は薄膜状を呈し、指での感触は、半乾燥状態であった。2ヶ月経過でも無給油で爪受けの動きは円滑であり、トルク値上昇も見られない。ブランクは1時間で焼き付き、従来品は焼きついていないが爪受けからの滲み出し及び飛び散りが見られた。試験後の爪受けメタル部分と爪軸表面を目視、及びLSM〔走査型共焦点レーザー顕微鏡〕で観察したが腐食・変色は見られなかった。
【実施例2】
【0046】
油性向上剤として炭素数18の脂肪酸を用いた脂肪酸アミドと炭素数18の脂肪酸を用いたモノグリセライドの混合物を3.3g、耐磨耗剤としてジチオリン酸亜鉛を1.7g配合し、これに固体潤滑剤として、東洋ドライルーブ株式会社のダイヤモンド粒子クラスター(平均粒径約15nm)を0.11g配合した。さらにこれらに、第1の分散溶媒として、カプリル酸とトリメチロールプロパンとの脂肪酸エステル及びカプリン酸とトリメチロールプロパンとの脂肪酸エステルから成る混合物を17.8g、40℃における動粘度が約2000mm2/sのイオウ架橋エステルポリマーを3.4g、トリフェニルリン酸エステルとトリアリールイソプロピルリン酸エステルとの混合物を7g配合して調製したものを加えた。さらにこれに第2の分散溶媒として、沸点範囲110〜140℃の複数の炭化水素系有機溶剤を構成成分とするエクソンモービル有限会社製のアイソパーE(炭化水素系有機溶剤)を96g、日本アルコール販売(株)製ソルミックスAP−7(低級アルコール)を36g配合して調製したものを加えた。そして充填剤として116gの0.34Mpa、LPGを用いてエアゾール化した。
【0047】
得られたエアゾール潤滑剤を用い、上記した爪受け試験を行った。
塗布面は薄膜状を呈し、指での感触は、半乾燥状態であった。2ヶ月経過でも無給油で爪受けの動きは円滑であり、トルク値上昇も見られない。ブランクは1時間で焼き付き、従来品は焼きついていないが爪受けからの滲み出し及び飛び散りが見られた。試験後の爪受けメタル部分と爪軸表面を目視、及びLSM〔走査型共焦点レーザー顕微鏡〕で観察したが腐食・変色は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る潤滑剤組成物は、印刷機、製本機、紙加工機及びこれらに付随する周辺機器等の摺動部に採用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性向上剤、及び無定形炭素で被覆された平均粒径約5nmのダイヤモンド粒子の集合体である平均粒径約15nmのダイヤモンド粒子クラスターを、脂肪酸エステルと、有機イオウ化合物と、リン酸エステルとからなる第1の分散溶媒中に分散してなる潤滑剤を、炭化水素系有機溶剤と低級アルコールからなる第2の分散溶媒中に分散し、エアゾール化してなることを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
油性向上剤、及び無定形炭素で被覆された平均粒径約5nmのダイヤモンド粒子の集合体である平均粒径約15nmのダイヤモンド粒子クラスターを、脂肪酸エステルと、有機イオウ化合物と、リン酸エステルとからなる第1の分散溶媒中に分散してなる潤滑剤、並びに耐磨耗剤を、炭化水素系有機溶剤と低級アルコールからなる第2の分散溶媒中に分散し、エアゾール化してなることを特徴とする潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2008−195797(P2008−195797A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31170(P2007−31170)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(501101187)
【出願人】(000211145)中京化成工業株式会社 (15)
【出願人】(505307116)三菱重工印刷紙工機械販売株式会社 (2)
【Fターム(参考)】