説明

潤滑剤組成物

【課題】アルキルシクロペンタン油に対する極性添加剤の溶解性が改善された潤滑剤を提供する。
【解決手段】アルキルシクロペンタン油と極性添加剤とを含有する潤滑剤組成物に、クラウンエーテル類を、モル比で、極性添加剤を1としたときに0.1〜10となる比率で配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク、スイングアーム、事務機用モータ、真空ポンプ、真空搬送装置、半導体デバイス製造装置などで使用される転がり軸受は、発塵性が低く、ガスの放出も少ない潤滑剤で潤滑される必要がある。アルキルシクロペンタン油は、40℃で蒸気圧が1.0×10-5Pa以下であるため、このような用途に好適な潤滑剤である。
下記の特許文献1には、転がり軸受用の樹脂多孔体からなる保持器に、アルキルシクロペンタン油(アルキル化したシクロペンタン油)を含浸させることが記載されている。
下記の特許文献2には、導電性付与剤としてカーボンブラックに代えてクラウンエーテルを含有する導電性グリースが記載されている。
【特許文献1】特開2005−351373号公報
【特許文献2】特開2002−194373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アルキルシクロペンタン油はその分子構造に極性基を含まないため、潤滑剤に通常添加される酸化防止剤や極圧添加剤などの極性添加剤(分子構造に極性基を含む添加剤)が溶解し難く、極性添加剤の添加による効果が期待したほどは得られないことが多い。
本発明の課題は、アルキルシクロペンタン油に対する極性添加剤の溶解性が改善された潤滑剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は、アルキルシクロペンタン油と、クラウンエーテル類と、極性添加剤と、を含有する潤滑剤組成物を提供する。
本発明で使用できるクラウンエーテル類としては、クラウンエーテル、酸素を硫黄で置換したチアクラウンエーテル、含窒素クラウンエーテルであるアザクラウンエーテル、2環式のクラウンエーテルであるクリプタンド等が挙げられる。これらの中でもクラウンエーテルおよびアザクラウンエーテルが好ましい。
【0005】
クラウンエーテルの例としては、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、21−クラウン−7、24−クラウン−8、30−クラウン−10、ジベンゾ−14−クラウン−4、ベンゾ−15−クラウン−5、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−21−クラウン−7、ジベンゾ−24−クラウン−8、ジベンゾ−30−クラウン−10、トリベンゾ−24−クラウン−8等が挙げられる。
【0006】
アザクラウンエーテルの例としては、1−アザ−15−クラウン−5−エーテル、1−アザ−18−クラウン−6−エーテル、4,10−ジアザ−12−クラウン−4−エーテル、4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテル、4,13−ジアザ−18−クラウン−6−エーテル、N,N’−ジベンゾイル−4,13−ジアザ−18−クラウン−6−エーテル、N−フェニルアザ−15−クラウン−5−エーテル等が挙げられる。
【0007】
窒素原子または酸素原子を5個有するクラウンエーテル類は、その他のクラウンエーテル類と比較して、アルキルシクロペンタン油に対する極性添加剤の溶解性が高いため、これらを使用することが好ましい。その例としては、15−クラウン−5、ベンゾ−15−クラウン−5、1−アザ−15−クラウン−5−エーテル、4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテル、N−フェニルアザ−15−クラウン−5−エーテル等が挙げられる。
【0008】
本発明で使用できる極性添加剤のうち、金属基を有する極性添加剤としては、亜鉛ジチオフォスフェート、亜鉛ジチオカルバメ−ト、モリブデンジチオフォスフェート、モリブデンジチオカルバメ−ト等からなる摩耗防止剤および極圧添加剤や、亜鉛スルフォネート、バリウムスルフォネート、カルシウムスルフォネート等の防錆剤が挙げられる。
本発明で使用できる極性添加剤のうち、リン酸基を有する極性添加剤としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、次亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル等の極性添加剤が挙げられる。
【0009】
本発明の潤滑剤組成物においては、クラウンエーテル類を、モル比で、極性添加剤を1としたときに0.1〜10となる比率で含有することが好ましい。この比率が0.1未満であると、クラウンエーテル類の添加による極性添加剤の溶解性向上効果が実質的に得られない。この比率が10を超えると、アルキルシクロペンタン油に対するクラウンエーテル類の配合比率が高くなるため、潤滑性能の低下が懸念される。
本発明の潤滑剤組成物には、アルキルシクロペンタン油と、クラウンエーテル類と、極性添加剤と、増ちょう剤とを含有するグリースも含まれる。増ちょう剤としては、リチウム石けん等の金属石けん、ウレア化合物、パーフルオロポリエチレン等が使用できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑剤組成物によれば、クラウンエーテル類を含有することで、アルキルシクロペンタン油に対する極性添加剤の溶解性が改善される。この潤滑剤組成物は、発塵性が低く、ガスの放出も少ないため、ハードディスク、スイングアーム、事務機用モータ、真空ポンプ、真空搬送装置、半導体デバイス製造装置などで使用される転がり軸受用の潤滑剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
基油として、40℃における動粘度が107mm2 /sであるアルキルシクロペンタン油(NYE Synthetic Oil 2001)を、極圧添加剤として亜鉛ジチオフォスフェートを、クラウンエーテル類として15−クラウン−5(東京化成工業(株)より入手)および18−クラウン−6(東京化成工業(株)より入手)を用意して、下記の割合で混合することにより、No. 1〜8の潤滑剤組成物を得た。
【0012】
No. 1では、質量比で、アルキルシクロペンタン油:亜鉛ジチオフォスフェート:「15−クラウン−5」=99.5:0.5:0とした。
No. 2では、質量比で、アルキルシクロペンタン油:亜鉛ジチオフォスフェート:「15−クラウン−5」=99.3:0.5:0.2とした。すなわち、このサンプルの潤滑剤組成物は、「15−クラウン−5」と亜鉛ジチオフォスフェートをモル比で1:1となる比率で含有している。
【0013】
No. 3では、質量比で、アルキルシクロペンタン油:亜鉛ジチオフォスフェート:「15−クラウン−5」=99.49:0.5:0.01とした。すなわち、このサンプルの潤滑剤組成物は、「15−クラウン−5」と亜鉛ジチオフォスフェートを、モル比で「15−クラウン−5」:亜鉛ジチオフォスフェート=0.05:1となる比率で含有している。
【0014】
No. 4では、質量比で、アルキルシクロペンタン油:亜鉛ジチオフォスフェート:「15−クラウン−5」=99.48:0.5:0.02とした。すなわち、このサンプルの潤滑剤組成物は、「15−クラウン−5」と亜鉛ジチオフォスフェートを、モル比で「15−クラウン−5」:亜鉛ジチオフォスフェート=0.1:1となる比率で含有している。
No. 5では、質量比で、アルキルシクロペンタン油:亜鉛ジチオフォスフェート:「15−クラウン−5」=98.5:0.5:1.0とした。すなわち、このサンプルの潤滑剤組成物は、「15−クラウン−5」と亜鉛ジチオフォスフェートを、モル比で「15−クラウン−5」:亜鉛ジチオフォスフェート=5:1となる比率で含有している。
【0015】
No. 6では、質量比で、アルキルシクロペンタン油:亜鉛ジチオフォスフェート:「15−クラウン−5」=97.5:0.5:2.0とした。すなわち、このサンプルの潤滑剤組成物は、「15−クラウン−5」と亜鉛ジチオフォスフェートが、モル比で「15−クラウン−5」:亜鉛ジチオフォスフェート=10:1となる比率を含有している。
No. 7では、質量比で、アルキルシクロペンタン油:亜鉛ジチオフォスフェート:「15−クラウン−5」=96.5:0.5:3.0とした。すなわち、このサンプルの潤滑剤組成物は、「15−クラウン−5」と亜鉛ジチオフォスフェートを、モル比で「15−クラウン−5」:亜鉛ジチオフォスフェート=15:1となる比率で含有している。
【0016】
No. 8では、質量比で、アルキルシクロペンタン油:亜鉛ジチオフォスフェート:「18−クラウン−6」=99.26:0.5:0.24とした。すなわち、このサンプルの潤滑剤組成物は、「18−クラウン−6」と亜鉛ジチオフォスフェートを、モル比で1:1となる比率で含有している。
これらの潤滑剤組成物の発塵性(No. 1〜7)と、これらの潤滑剤組成物を用いて潤滑を行った転がり軸受の耐摩耗性(No. 1〜8)を、下記の方法で測定した。
【0017】
発塵性については、図1に示す真空発塵試験装置を用いて、下記の方法で発塵量を測定した。
この装置では、一対の試験軸受1を、間にスプリング2を介装した状態で、軸3とハウジング4の間に取り付けるようになっている。ハウジング4は、容器5内に配置された台6の上に設置される。この台6にはパーティクルカウンタ7が取り付けられている。容器5の蓋8に、軸3を通す穴81が形成され、その上に設置されたシールユニット9で容器5内が密閉される。軸3の上端は、カップリング10を介してモータ11に接続されている。
【0018】
試験軸受1としては、呼び番号608(外径22mm、内径8mm、幅7mm、玉の直径3.969mm)の玉軸受を使用した。この玉軸受の外輪、内輪、および玉は、炭素含有率が0.45質量%、クロム含有率が13.0質量%、窒素含有率が0.14質量%のマルテンサイト系ステンレス鋼で形成されている。また、波型プレス保持器を備えている。
試験軸受1を各サンプルの潤滑剤組成物で潤滑して、この装置に取り付け、面圧:1.2GPa、回転速度:1000min-1、真空度:10-4Pa以下、試験環境:室温の条件で、軸3を回転させて、パーティクルカウンタ7により、転がり軸受1からの発塵粒子(粒径0.21μm以上の粒子)の数を計測した。
【0019】
そして、各サンプルの潤滑剤組成物を用いた時の発塵量を、No. 1の潤滑剤組成物を用いた時の値で除算して、発塵量比を算出した。その結果を図2に、「各サンプルの潤滑剤組成物を構成する、極圧添加剤(亜鉛ジチオフォスフェート)を1としたときのクラウンエーテルの含有比率(モル比)」を横軸、発塵量比を縦軸としたグラフで示す。
耐摩耗性については、「ASTM D 2596」に準拠した四球試験機による摩耗試験を、潤滑剤としてサンプルNo. 1〜8の各潤滑剤組成物を用いて行った。
この四球試験機では、先ず、3個の球(SUJ2製、直径1/2インチ(1.27mm))を、全ての球が接触し、各球が正三角形の頂点となるように配置して固定し、これらの固定球で形成される窪みの上に、固定球と同じ球(回転球)を潤滑剤を塗布した状態で置いた。
【0020】
次に、この回転球を、面圧:1.5GPa、滑り速度:0.38m/sの条件で1時間回転させた。次に、試験機から球を外し、各サンプル毎に、3個の固定球に生じた摩耗痕の直径をX方向とY方向のそれぞれで測定し、両者の平均値を算出した。各平均値をNo. 1のサンプルの平均値で除算することで、No. 1の潤滑剤組成物を「1」とした比摩耗量を算出した。その結果を図3に、「各サンプルの潤滑剤組成物を構成する、極圧添加剤(亜鉛ジチオフォスフェート)を1としたときのクラウンエーテルの含有比率(モル比)」を横軸、比摩耗量を縦軸としたグラフで示す。
図2および図3のグラフから、極圧添加剤(亜鉛ジチオフォスフェート)を1としたときのクラウンエーテルの含有比率(モル比)を0.1以上10以下とすることで、発塵量比をクラウンエーテルを含まない場合と同等以上にしながら、極圧添加剤の溶解性が改善されることで比摩耗量を向上できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態で発塵量を測定するために使用した真空発塵試験装置を示す図である。
【図2】実施形態の試験の結果から得られた、極圧添加剤(亜鉛ジチオフォスフェート)を1としたときのクラウンエーテルの含有比率(モル比)と、発塵量比との関係を示すグラフである。
【図3】実施形態の試験の結果から得られた、極圧添加剤(亜鉛ジチオフォスフェート)を1としたときのクラウンエーテルの含有比率(モル比)と、比摩耗量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0022】
1 試験軸受
2 スプリング
3 軸
4 ハウジング
5 容器
6 台
7 パーティクルカウンタ
9 シールユニット
10 カップリング
11 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルシクロペンタン油と、クラウンエーテル類と、極性添加剤と、を含有する潤滑剤組成物。
【請求項2】
クラウンエーテル類を、モル比で、極性添加剤を1としたときに0.1〜10となる比率で含有する請求項1記載の潤滑剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−203381(P2009−203381A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48725(P2008−48725)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】