説明

潤滑性水性組成物

少なくとも1つの増粘剤と、少なくとも1つの、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物とを含む潤滑性水性組成物が開示される。このような潤滑性水性組成物は、性行為用潤滑剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、性行為用潤滑剤として使用される組成物の分野に関する。より具体的には、本発明は、少なくとも1つの増粘剤と、少なくとも1つの、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物とを含む潤滑性水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナル・ルブリカント(personal lubricant)と表されることもある性行為用潤滑剤(sex lubricant)は、性交または自慰行為の際の膣中の、および陰茎による分泌物を補うために使用される。性行為用潤滑剤は、水、ケイ素または油ベースであってもよい。当該技術分野の水ベースの性行為用潤滑剤は、典型的には、15〜85重量%の水分含量、すなわち、水に加えてかなりの含有量(15重量%以上)の成分を有し、これは、性交の後に膣の中に留まることになり、膣の中の微生物の自然の細菌叢に影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
現在の水ベースの性行為用潤滑剤の中の水は、皮膚へと吸収され、蒸発することになる。従って、最後には、この性行為用潤滑剤は乾燥し、潤滑剤の中の他の成分由来の残渣が残る。特に、糖類(またはグリセリン)および他の化学物質および保存剤は、粘着性のある残渣および関連する感覚を生成し、不快な味および臭いを伴うことが多い。
【0004】
示したように、典型的に水ベースの性行為用潤滑剤の中に存在する成分の例は、グリセロール、プロピレングリコールおよびセルロース誘導体であり、すべて、微生物によって分解可能であり、従って微生物の増殖を促す。結果として、性行為用潤滑剤は、典型的には保存剤を含む。しかしながら、保存剤は、性器を刺激する可能性がある。グリセリンを含有する潤滑剤は、敏感な人においては、膣内酵母感染を促進または悪化させる可能性もある。
【0005】
さらに、マッサージの最中の体(例えば背中)とマッサージ師の手との間の摩擦を減らすための潤滑剤として、オイルまたはローションが一般に使用される。
【0006】
マッサージオイルは、典型的には、ヤシ油などの植物油を含む親油性成分の混合物を含む。さらには、マッサージオイルは、香料および皮膚に対して湿潤効果を有する成分を含んでもよい。マッサージオイルは、局所的な薬学的効果を有する薬剤、例えばカンファー、弱い局所麻酔を有する薬剤および皮膚に対して冷却感覚を与える薬剤も含んでよい。
【0007】
同様に、マッサージローションも、親油性の成分を含む。
【0008】
一般に使用されるマッサージオイルおよびローションは潤滑性であり、皮膚に対して湿潤効果を有する可能性があるが、それらはいくつかの欠点を抱えている。
【0009】
現在の親油性のマッサージオイルおよびローションは、着ている衣服ならびに/またはマッサージの間に使用される敷布およびタオルに染みをつける傾向があり、事実上、物質の損傷に、および/または少なくとも洗濯の必要性の増大につながる。さらには、マッサージの間に使用される潤滑剤の一部は皮膚に吸収されるが、マッサージ後に油性の残渣が皮膚の上に残ることになり、さらなる望まれない効果につながる。例えば、この残渣は、典型的には、油っぽい感覚を取り除くために、および衣服に染みがつくことを防ぐために、石鹸を使用して洗い流される必要がある。これは、心地よいリラックスさせるマッサージを受けた後に行うには、明らかに煩わしいプロセスである。さらには、このようなオイルおよびローションを頻繁に使用すると、ざ瘡を誘発するか、または悪化させる可能性がある。
【0010】
特許文献1は、クレーを含む洗剤組成物に関する。
【0011】
特許文献2は、整髪用ジェルに関する。
【0012】
特許文献3は、界面活性剤を含む洗剤組成物に関する。同様に、特許文献4は、界面活性剤を含む化粧料用および皮膚科用の洗浄剤調製物に関し、特許文献5は、クレンザーとしての役割を果たすアミノ酸の脂肪酸アミドを含む透明な、水性の発泡性のスキンクレンザーに関する。
【0013】
特許文献6は、角質組織を処置する方法に関する。
【0014】
特許文献7は、化粧料用エマルションの浮遊液滴を有する透明な水相に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0249541号明細書
【特許文献2】国際公開第07/004200号パンフレット
【特許文献3】独国特許第10 2005 014 423号明細書
【特許文献4】国際公開第05/030163号パンフレット
【特許文献5】欧州特許第1 055 425号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0220828号明細書
【特許文献7】独国特許第10 2004 029 328号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、上記の欠点を持たずかつ性行為用潤滑剤として好適である潤滑性組成物に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従って、本発明の実施形態は、好ましくは、当該技術分野の上記の欠陥および不都合のうちの1以上を、単独にまたはいずれかの組み合わせにおいて軽減、緩和、排除および/または回避しようとし、少なくとも1つの増粘剤と、少なくとも1つの、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物とを含む潤滑性水性組成物であって、この組成物は少なくとも95重量%の水を含む潤滑性水性組成物を提供することにより、上記の問題のうちの少なくとも1つを解決する。
【0018】
本発明の別の態様は、性行為用潤滑剤としての、このような潤滑性水性組成物の使用に関する。このような使用では、当該組成物は、精子運動能を妨げるという目的を果たしてもよい。さらに、このような潤滑性水性組成物は、精子運動能を妨げるために使用されてもよい。
【0019】
本発明の別の態様は、精子運動能妨害性組成物の製造のための、このような潤滑性水性組成物の使用に関する。
【0020】
本発明のさらなる有利な特徴は、独立請求項において、および本願明細書に開示される実施形態に関して明記される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の記載は、性行為用潤滑剤としての、例えば、性交および自慰行為などの性的行為のための潤滑剤としての使用についての本発明の1つの実施形態に焦点を当てる。このような使用では、当該性行為用潤滑剤は、哺乳動物、例えばヒトの膣に、哺乳動物、例えばヒトの陰茎に、および/または性具に施用されてもよい。しかしながら、本発明は、この応用例に限定されず、他の使用にも適用されうるということは分かるであろう。一例として、当該性行為用潤滑剤は、マッサージの際の薬学的潤滑剤として使用されてもよい。
【0022】
ニュートン流体では、せん断応力とせん断との関係は線形である。対照的に、せん断応力とせん断速度との間の関係が非線形であれば、その流体は「非ニュートン」流体と表される。少なくとも4つの、非ニュートン流体の下位分類があり、そのうちの2つは、ダイラタント流体としても知られるずり粘稠化流体であり、そして擬塑性流体としても知られるずり流動化流体である。
【0023】
呼び名から明らかなように、ずり流動化流体の粘度は、せん断応力の増加とともに低下する。反対に、ずり粘稠化流体の粘度は、せん断応力の増加とともに上昇する。
【0024】
ずり流動化流体の一般的な例は、ケチャップおよび最近の塗料である。水の中のトウモロコシデンプンは、ずり粘稠化流体の一般に触れられる例である。
【0025】
少なくとも1つの増粘剤と、少なくとも1つの、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物とを含む、高水分含量を有する水性組成物、例えば少なくとも95重量%の水を含む組成物は、以下でさらに詳細に説明するように、性行為用潤滑剤として使用するのに好適であることが示された。従って、1つの実施形態は、このような潤滑性水性組成物に関する。
【0026】
当該増粘剤および水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物はともに、好ましくは、薬学的に許容できるものであるべきである。「薬学的に許容できる」は、当該化合物は、用いられる投与量および濃度において、望まれない効果を何ら引き起こさないということを意味することが意図されている。好ましくは、薬学的に許容できる化合物は、薬学的賦形剤として使用が承認されている化合物、例えば皮膚への局所投与のための医薬品としての使用が承認されている賦形剤である。
【0027】
上記のように、当該潤滑性水性組成物の水分含量は、少なくとも95重量%、例えば少なくとも98、99、または99.5重量%であってもよい。当該潤滑性組成物の高水分含量は、いずれの残渣も、性交、自慰行為またはマッサージの後で、例えばタオルを用いて容易に拭き取られるということを暗に含んでいる。さらには、水はいずれ蒸発し少量のポリマー残渣しか残らないので、少量の残渣を拭き取ることはさえ必要ではない可能性がある。この残渣は、皮膚に乾燥した柔らかいコーティングをもたらすということが判明した。当該潤滑性水性組成物が性行為用潤滑剤として使用されるとき、高水分含量は、重要な利点である。なぜなら、非常に限られた量の外来性の物質しか膣に投与されないからである。
【0028】
増粘剤は、典型的には、その増粘剤が添加された液体の粘度を高め、これによりこのような溶液を増粘させる化合物である。
【0029】
増粘剤の存在は、当該潤滑性水性組成物に粘度の上昇をもたらすであろう。これにより、当該潤滑性水性組成物は性器に、またはマッサージされる対象の人に効果的に分散されうる。さらに、増粘剤の存在は、当該組成物は投与の領域に留まるであろうということを暗に含んでいる。一例として、この組成物は、マッサージされる対象の人の背中を流れ落ちることはないであろう。増粘剤の存在がなければ、その組成物は、性行為用潤滑剤としての使用に好適なほどに十分粘性が高くない、少なくとも、性行為用潤滑剤として制御されてストレスなく使用されるのに好適なほどに十分粘性が高くないであろう。
【0030】
好ましくは、この増粘剤は、水と混合されたときにずり流動化流体を形成する化合物であってもよい。あらゆる増粘させる薬剤の中でも、水と混合されたときにずり流動化流体を形成する増粘剤を有することにより、この潤滑性水性組成物は、例えば陰茎にまたはディルド(張形)に施用されるときに、より容易に薄層へと広げられることになろう。
【0031】
水と混合されたときにずり流動化流体を形成しない増粘剤を含む組成物は、1つの実施形態によれば、あまりにゲル様すぎるか、または粘性が高すぎ、効率的に広げられない可能性がある。
【0032】
さらには、この増粘剤は、好ましくは、水溶性であるか、または水の存在下で膨潤してゲルを形成する化合物のいずれかであってもよい。溶解または膨潤は、形成されるべき溶液または分散液のpHを調整するために、塩基または酸の添加を必要としてもよい。最も好ましくは、この増粘剤は、水の存在下で膨潤してゲルを形成する水不溶性の親水性化合物である。
【0033】
上記のように、この増粘剤が薬学的に許容できるものである場合が好ましい。これに関して、この増粘剤が、ヒトの皮膚に浸透することができないような高分子量を有することが好ましい。局所的および全身的に可能性のある副作用は、増粘剤が決して身体に侵入しなければ、最小である。
【0034】
本願明細書に開示される潤滑性水性組成物で使用されるべき増粘剤の好ましい群の1つの例は、架橋ポリアクリレートのポリマー、例えば架橋ポリアクリレートの高分子量ポリマーである。
【0035】
架橋ポリアクリレートは、基本的に、細菌によっては非分解性である。従って、架橋ポリアクリレートは、膣の中での細菌の増殖を促進しないであろうし、自然の細菌性細菌叢を乱しもしないであろう。1つの実施形態によれば、細菌によっては非分解性である、すなわち非生分解性であることは、細菌がその化合物またはポリマーを分解することができないということを意味することが意図されている。このように、この化合物またはポリマーは栄養分としての働きをしない。
【0036】
対照的に、RFSU(the Swedish national federation for sexual guidance)によって製造される性行為用潤滑剤「Klick」などの現在の性行為用潤滑剤は、典型的には、増粘剤として作用する(細菌にとっての栄養素としても作用しうる)セルロース誘導体を含む。さらには、「Klick」は、セルロース誘導体であるヒドロキシエチルセルロースに加えて、同じく細菌にとっての栄養素の役割を果たすグリセリンおよびプロピレングリコールを含む。結果として、微生物にとっての栄養素としての役割を果たす成分を含む性行為用潤滑剤は、典型的には、保存剤をも含む。一例として、「Klick」は、メチルパラベンおよびプロピルパラベンを含む。明らかに、保存剤の存在は、膣の自然の細菌叢に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0037】
少量の、架橋ポリアクリレートのポリマーなどの非生分解性増粘剤を使用することにより、保存剤を添加する必要性はなくてすむ可能性がある。
【0038】
架橋ポリアクリレートの高分子量ポリマーの一例は、Carpopol(登録商標)ポリマーである。1つのとりわけ好ましいCarbopol(登録商標)ポリマーは、Carbopol(登録商標) Ultrez 21(INCI名:アクリレート/C10−30アルキルアクリレートクロスポリマー)であり、このポリマーは、ベルギーのLubrizol Advanced Materials Europe BVBAから入手してもよい。
【0039】
架橋ポリアクリレートは、水の中で膨潤するために水酸化ナトリウムなどの塩基の添加を必要とする増粘剤の群の一例である。プロトン化されたポリマーは水の中で容易には膨潤しないが、一方で脱プロトン化された架橋ポリアクリレートは水の中で容易に膨潤するようである。
【0040】
1つの実施形態によれば、架橋ポリアクリレートの高分子量ポリマーは、個々のポリアクリレートポリマー鎖がその架橋ポリマーと同じ条件下で、および架橋モノマーをまったく含まないことを除いて架橋グレードと同じ配合表を使用して重合された場合には、個々の架橋ポリアクリレートポリマー鎖が、線状ポリアクリル酸を基準として使用するゲル透過クロマトグラフィによって測定される、少なくとも100,000、例えば少なくとも250,000の平均分子量を有するポリマーを意味することが意図されている。
【0041】
本願明細書に開示される潤滑性水性組成物の中の増粘剤の量は、2.5重量%以下、例えば1.0重量%、0.5重量%、0.1重量%、0.05重量%、0.01重量%、または0.005重量%以下であってもよい。増粘剤は、水とは対照的に、蒸発しないであろうから、低含有量の増粘剤が好ましい。しかしながら、この含有量は、組成物の粘度に著しく影響を及ぼし上記の所望の効果を与えるために十分高くある必要がある。従って、当該潤滑性水性組成物は、少なくとも0.005重量%、例えば少なくとも0.01重量%または0.1重量%の増粘剤を含んでもよい。
【0042】
水溶性であるかまたは水の存在下で膨潤してゲルを形成する増粘剤は、油性の残渣をまったく残さずに、皮膚から容易に洗い流されるかまたは拭き取られるであろう。さらには、そのような増粘剤は、マッサージの最中もしくはマッサージの後に着用もしくは使用される衣服、敷布またはタオルの上に油性の汚点または染みを生じさせないであろう。
【0043】
少なくとも1つの、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物の存在は、当該水性組成物に潤滑特性をもたらすであろうから、従って、より少ない増粘剤(これも潤滑特性を有してもよい)が使用されてもよい。どの理論にも結びつけられずに、このずり粘稠化流体の潤滑特性は、水性組成物の2つの実質的に不動の薄層が互いの上を滑る表面の上に形成されることに起因すると考えられる。この想定される、このような実質的に不動の層の存在は、この水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物によってもたらされる非ニュートン特性、すなわちずり粘稠化特性によって説明される可能性がある。このような層は、互いの上に接触しているかまたは性具と接触している敏感な皮膚領域を効果的に保護し、同時に非常に密な相互作用のための手段を提供する。
【0044】
1つの実施形態によれば、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物は、水溶性のポリマーである。さらに、このようなポリマーは、典型的には、高分子量、例えば少なくとも100,000ダルトン(Da)、例えば少なくとも500,000、少なくとも1,000,000Daまたはさらには少なくとも5,000,000Daの分子量を有する。加えて、このようなポリマーは、典型的には、線状、すなわち非分枝状のポリマーである。
【0045】
このような特性を有するポリマーの1つの好ましい例は、少なくとも100,000Daの分子量を有する非イオン性の高分子量の、水溶性のポリ(エチレンオキシド)ポリマー(PEO−ポリマー)である。このようなポリマーは、Dow Chemical Companyによって、商標PolyOxとして販売されている。好ましいタイプのPolyOxは、PolyOx WSR 301である。
【0046】
上記のように、当該水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物が薬学的に許容できるものであることが好ましい。これに関して、この水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物が、それがヒトの皮膚を浸透することができないような高分子量を有することが好ましい。水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する当該化合物が決して人体に侵入しないならば、あらゆる可能性のある副作用は防止される。
【0047】
架橋ポリアクリレートと同様に、高分子量の水溶性のポリ(エチレンオキシド)ポリマーは、原則として、細菌によっては非分解性である。従って、この高分子量の水溶性のポリ(エチレンオキシド)ポリマーは、膣の中の細菌の増殖を促進したり、または自然の細菌の細菌叢を乱したりすることはないであろう。水溶性のポリ(エチレンオキシド)ポリマーなどの少量の非生分解性の、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物を使用することにより、保存剤を添加する必要性はなくてすむ可能性がある。さらに、この組成物は、細菌増殖をまったく促進しない可能性がある。
【0048】
本願明細書に開示される潤滑性水性組成物の中の、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物の量は、2.5重量%以下、例えば1.0重量%、0.5重量%、0.1重量%、0.05重量%、0.01重量%、または0.005重量%以下であってもよい。この水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物は、水とは対照的に蒸発しないであろうから、この組成物の水が蒸発してしまった場合/ときに最小の化合物しか残らないように、低含有量の、当該水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物が好ましい。しかしながら、この含有量は、当該組成物の粘度に著しく影響を及ぼすほどに高くある必要がある。従って、当該潤滑性水性組成物は、少なくとも0.005重量%の、例えば少なくとも0.01重量%または0.1重量%の、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物を含んでもよい。
【0049】
水と混合されたときに異なる非ニュートン特性(すなわちずり粘稠化 対 ずり流動化)を有する流体を生じる2つの異なる化合物の存在は、当該潤滑性水性組成物を、上記のように性交、自慰行為およびマッサージのための潤滑剤として有用なものにする特性を当該潤滑性水性組成物に与えるであろう。しかしながら、当該増粘剤が非ニュートン性である必要はないということを理解されたい。
【0050】
加えて、当該潤滑性水性組成物は、1つの実施形態によれば、保存剤を含んでもよい。この保存剤は、薬学的に許容できる保存剤から選択されてもよい。当該潤滑性水性組成物のpHは、典型的には、わずかに酸性、例えば4〜5であるように調整されるが、当該組成物に長期の貯蔵寿命を与えるために保存剤を加えることがなお好ましい場合がある。
【0051】
保存剤の量は、保存効果をもたらすのに十分高くあるべきである。当業者は容易に理解するように、保存剤の有効性が変わるにつれて、保存効果を得るために必要とされる特定の保存剤効果の量は変わる。保存剤の量は、少なくとも0.1重量%、例えば少なくとも0.2重量%、0.5重量%または1.0重量%であってもよい。
【0052】
好ましい保存剤の1つの例は、安息香酸ナトリウムおよびソルビン酸カリウムの混合物である。保存剤の量は、保存効果をもたらすのに十分高くあるべきである。このような組み合わせを使用する場合、それらの化学種の各々が少なくとも0.01重量%、例えば少なくとも0.1重量%、の量で使用される場合が好ましい。安息香酸ナトリウムおよびソルビン酸カリウムの混合物は、商標Euxyl(登録商標) K 712のもとで水性組成物として入手できる。Euxyl(登録商標) K 712は、約15重量%のソルビン酸カリウムおよび約30重量%の安息香酸ナトリウムを含む水溶液である。
【0053】
あまりに多い量の保存剤は副作用を生じるか、またはさらには(可能性は非常に低いが)当該潤滑性水性組成物のレオロジー特性に影響を及ぼす可能性があるので、当該組成物が、5重量%未満、例えば2.5重量%未満、1.0重量%未満またはさらには0.5重量%未満の保存剤を含むことが好ましい。さらに、保存剤の量は、規制する法規によっても影響を受ける可能性がある。
【0054】
1つの実施形態によれば、当該潤滑性水性組成物は、実質的に非生分解性の成分および水から実質的になり、従って、微生物の増殖を促進しない。
【0055】
上記のように、当該潤滑性水性組成物が本質的に非生分解性である成分だけを含む場合は、保存剤を加える必要性はなくてすむ可能性がある。水は少量の有機化合物を含有する可能性があり、この少量の有機化合物は微生物の増殖を促進する可能性があるので、当該潤滑性水性組成物を製造するために使用される水は精製水であってもよい。精製水の例としては、蒸留水、逆浸透によって精製された水が挙げられる。1つの実施形態によれば、潤滑性水性組成物を得るために使用される水は、20μg/L以下、例えば5μg/L以下の全有機炭素(TOC)含有量を有する。
【0056】
全有機炭素(TOC)は、COおよび炭酸塩、炭酸水素塩などの関連物質を除く炭素原子を含有するあらゆる化合物として一般に定義される。炭酸塩は完全に酸化されていると考えられるので、炭酸塩は、TOCの構成要素の一部を形成しない。TOCの定義に対するこの例外を考慮すると、TOCの別の定義は、全酸化可能炭素(total oxidizable carbon)であるかもしれない。
【0057】
実施形態によれば、TOCは、本願明細書で使用する場合、オハイオ州シンシナティのNational Exposure Research Laboratory Office of Research and Development U.S. Environmental Protection Agency(EPA)によって発行された「DETERMINATION OF TOTAL ORGANIC CARBON AND SPECIFIC UV ABSORBANCE AT 254 nm IN SOURCE WATER AND DRINKING WATER」(EPA文書番号:EPA/600/R−05/055)に開示される方法415.3に従って決定されるものとする。
【0058】
当該潤滑性水性組成物のpHは、好ましくはわずかに酸性、すなわち7.0未満であるべきである。酸性のpHは、製品の貯蔵寿命を延ばすであろう。さらには、レオロジー特性は、とりわけ架橋ポリアクリレートが増粘剤として使用される場合は、潤滑性水性組成物のpHに依存する可能性がある。架橋ポリアクリレートを含む水溶液は、さらには、低pHで乳白色を呈する可能性がある。従って、当該組成物のpHが3〜5、例えば3〜4または4〜5、例えば4.7〜4.9である場合が、好ましい。透明な組成物はマッサージの際の良好な可視性を可能にし、かつ最小の目に見える跡しか残さないので、透明な組成物が典型的には望ましい。
【0059】
上記のように、pHは、架橋ポリアクリレートを増粘剤として含む潤滑剤のレオロジー特性に影響を及ぼす可能性がある。pHの上昇は、潤滑剤の粘度を上昇させるであろう。
【0060】
健康な女性の膣のpHは3.8〜4.5であるのに対して、精液のpHは、典型的には7.2〜8.0である。従って、精液が膣の中へと射精されると、膣内のpHは上昇することになる。このpHの上昇は、潤滑剤の粘度の上昇を伴うであろう。それゆえ、精子運動能は妨げられることになる。
【0061】
3〜5のpHを得るために、酸または塩基を加えることにより、当該潤滑性水性組成物のpHを調整することが必要である可能性がある。好ましくは、水酸化ナトリウムが、pHを調整するために使用される。ナトリウムは好適な対イオンであり、中和されるときに、水酸化物は水を与えることになる。
【0062】
当該潤滑剤が性行為用潤滑剤として使用される場合、膣の自然のpHに近いpHが好ましい。正常な膣内pHは3.8〜4.5である。従って、当該潤滑性水性組成物のpHは、1つの実施形態によれば、3.5〜4.5であってもよい。
【0063】
本願明細書に開示されるこのような潤滑性水性組成物は、マッサージ用に使用される潤滑剤としても有用である可能性がある。
【0064】
さらに、本願明細書に開示されるこのような潤滑性水性組成物は、避妊特性を有する性行為用潤滑剤として有用である可能性があると予想される。本願明細書でこれまでに開示されたpHに関連する効果に加えて、ずり粘稠化特性を有する組成物、例えば本願明細書に開示される潤滑性水性組成物は、精子が移動することを効率的に防止すると考えられる。なぜなら、何らかの動きが精子の近くで組成物の上昇した粘度を生じさせることになるからである。
【0065】
また、(上記の上昇した粘度と比べて)組成物の全体としてより低い粘度のため、その組成物は比較的容易に膣の中に分散できるようになり、精子が膣の中のどこで動くことも防止される。このように、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物を含む潤滑性水性組成物が膣の中に存在すれば、精子は、射精された後に膣から卵巣へと泳ぐことが妨げられる。従って、受胎が回避される可能性がある。従って、本願明細書に開示されるこのような潤滑剤は、精子運動能を妨げるために使用されてもよい。性行為用潤滑剤の有用な特性であることに加えて、精子運動能妨害特性は、生きた精子を顕微鏡の中で研究するときにも有用である可能性がある。
【0066】
本願明細書に開示される性的行為のためのこのような性行為用潤滑剤は、単独で使用されてもよい。しかしながら、当該性行為用潤滑剤は、好ましくは、コンドームまたはペッサリーなどの他の避妊具と組み合わされてもよい。
【0067】
1つの好ましい実施形態は、
少なくとも96重量%、例えば少なくとも98重量%、99重量%または99.5重量%の水と、
0.01〜2重量%、例えば0.05〜1.0重量%の架橋ポリアクリレートと、
0.01〜2重量%、例えば0.05〜1.0重量%の、少なくとも100,000Da、例えば少なくとも500,000、1,000,000または5,000,000Daの分子量を有する高分子量の水溶性のポリ(エチレンオキシド)ポリマーと、
保存効果をもたらす薬学的に許容できる保存剤であって、この保存剤はソルビン酸カリウムおよび安息香酸ナトリウムを含む保存剤と、
水酸化ナトリウムと
を含み、当該組成物は4〜5、例えば4.7〜4.9のpHを有する、潤滑性水性組成物に関する。
【0068】
別の好ましい実施形態は、性行為用潤滑剤として使用するための潤滑性の水性組成物であって、98〜99.9重量%の水と、1〜0.05重量%の、実質的に非生分解性の増粘剤、例えば架橋ポリアクリレートの高分子量ポリマー、例えばCarbopol(登録商標) Ultrez 21と、1〜0.05重量%の、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する実質的に非生分解性の化合物、例えば少なくとも100,000Daの分子量を有する高分子量の水溶性のポリ(エチレンオキシド)ポリマー、例えばPolyOx WSR 301とから実質的になる水性組成物に関する。このような組成物は、3.8〜4.5のpHを有してもよい。さらに、この組成物を得るために使用される水は、20μg/L以下、例えば5μg/L以下の全有機炭素含有量(TOC)を有してもよい。このような組成物は実質的に非生分解性成分のみを含むので、微生物の増殖を促進しないであろう。加えて、保存剤がまったく存在しないことは、女性の自然の泌尿生殖器の細菌叢への影響を最小にするであろう。さらに、この組成物のpHはヒトの膣の通常のpHに相当するので、およびこの組成物は保存剤をまったく含まないので、この組成物は、女性の自然の泌尿生殖器の細菌叢と干渉しないであろうし、女性の自然の泌尿生殖器の細菌叢に影響を及ぼさないであろう。従って、このような潤滑性水性組成物は、性行為用潤滑剤として有利に使用されうる。
【0069】
特定の実施形態を参照して本発明をこれまで記載してきたが、本発明は、本願明細書に示された具体的な形態に限定されることは意図されていない。むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、具体的にこれまで記載された実施形態以外の他の実施形態は、この添付の特許請求の範囲の範囲内で等しく可能である。
【0070】
特許請求の範囲では、用語「を含む」は、他の要素または工程の存在を排除しない。加えて、個々の特徴が異なる請求項および/または実施形態に含まれてもよいが、これらは、可能であれば有利に組み合わされてもよく、異なる請求項および/または実施形態に含まれていることは、特徴の組み合わせが実行可能ではなくかつ/または有利でないということを暗に含むものではない。加えて、単数形の指示対象は、複数形を排除しない。
【0071】
用語「1つの」、「第1の」、「第2の」などは複数形を除外しない。請求項の中の引用符号は、明快にする例としてのみ提供され、請求項の範囲をいくらかでも限定するとは解釈されるべきではない。
【実施例】
【0072】
以下で本発明は具体例を参照してされに説明されるが、本発明は、以下に記載される具体的な形態に限定されることは意図されていない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0073】
実施例1 − 非イオン性の、高分子量の水溶性ポリ(エチレンオキシド)ポリマー(PolyOx(商標))の水への溶解
PolyOx WSR 301粉末(6.5kg;The Dow Chemical Company)をふるいにかけ、粉末用容器へと充填した。バイブレーションフィーダーを使用して、PolyOxを、水をディスペンサーに供給することによって得られる水膜へと供給した。1000Lの脱イオン水に溶解させたPolyOx WSR 301を含む混合物を撹拌し、ずり粘稠化溶液の製造のために使用されるのに好適な溶液を得た。
【0074】
実施例2 − 潤滑性水性組成物の調製
約235Lの脱イオン水を水用容器に充填し、3kgのCarbopol Ultrez 21粉末(Lubrizol Advanced Materials Europe BVBA)を水表面にわたって広げた。約30分後、この粉末が湿ったら、水およびCarbopolの混合物を、泡沫の形成を避けて、慎重に約2分間撹拌した。次いで、250Lの実施例1のずり粘稠化溶液を慎重に加え、この混合物を撹拌して、増粘したポリマー溶液を形成した。その後、4.39kgの、安息香酸ナトリウムおよびソルビン酸カリウムを含む水溶液であるEuxyl(登録商標) K 712(Schylke & Mayr)を、この撹拌した増粘したポリマー溶液に加えた。最後に、10Lの水に溶解させた0.46kgのNaOHを、この撹拌した増粘したポリマー溶液に加え、そのpH値を調整した。次に、このpH調整した溶液を、液体/ゲルが透明になるまで約60分間、撹拌した。この溶液のpHは、約4.7〜4.9であるべきであるが、次に、このことを、濾布を通してこの液体/ゲルを濾過して、塊がなくマッサージ用の潤滑剤としてすぐに使用できる潤滑性水性組成物を得た後の測定によって検証した。
【0075】
実施例3 − 長期保存
PolyOx WSR 301およびUltrez 21を含むが保存剤を含まない潤滑性水性組成物を調製した。この組成物のpHを約4に調整した。この組成物をプラスチックのチューブに詰めた。1年を超えて保存した後、この組成物中の微生物の含有量を分析した。この組成物は少量の生きた細菌を含むことが判明した。しかしながら、保存剤が存在しないにもかかわらず、コロニー形成単位の数は保存の間に増加していないと結論することができたため、このゲルの非生分解性が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの増粘剤と、少なくとも1つの、水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物とを含む潤滑性水性組成物であって、前記組成物は少なくとも95重量%の水を含む、潤滑性水性組成物。
【請求項2】
前記増粘剤および前記水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物は薬学的に許容できるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、少なくとも98重量%の水、例えば少なくとも99重量%または99.5重量%の水を含む、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記増粘剤は、水と混合されたときにずり流動化流体を形成する化合物である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記増粘剤は、水の存在下で膨潤してゲルを形成する水不溶性の親水性化合物である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記増粘剤は架橋ポリアクリレートである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記潤滑性水性組成物は0.01〜1重量%の前記増粘剤を含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物は、少なくとも100,000ダルトン(Da)、例えば少なくとも500,000、少なくとも1,000,000Daまたは少なくとも5,000,000Daの分子量を有する水溶性のポリマーである、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物は線状ポリマーである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物は、少なくとも100,000Daの分子量を有する非イオン性の、高分子量の水溶性ポリ(エチレンオキシド)ポリマーである、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記潤滑性水性組成物は、0.01〜1重量%の前記水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物を含む、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、薬学的に許容できる保存剤をさらに含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記潤滑性水性組成物を得るために使用される水は、20μg/L以下、例えば5μg/L以下の全有機炭素含有量を有する、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物のpHは3〜5である、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物のpHは3〜4である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物のpHは4〜5である、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記潤滑性水性組成物は、98〜99.9重量%の水と、1〜0.05重量%の前記増粘剤と、1〜0.05重量%の、前記水と混合されたときにずり粘稠化流体を形成する化合物とから実質的になる、請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記潤滑性水性組成物は、実質的に非生分解性の成分と水とから実質的になる、請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
性行為用潤滑剤としての、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項20】
性行為用潤滑剤の製造のための、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項21】
精子運動能を妨げるための、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項22】
精子運動能妨害性組成物の製造のための、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2013−512232(P2013−512232A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540459(P2012−540459)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068504
【国際公開番号】WO2011/064383
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512138699)
【Fターム(参考)】