説明

潤滑油の水素異性化系

本発明は、平均直径が0.50〜0.65nmであり、最大直径と最小直径の差が≦0.05nmであるほぼ円形の孔構造を有する一次元の中間細孔のモレキュラーシーブ、次いでモレキュラーシーブ・ゼオライト・ベータ触媒を使用して、重質成分を有するワックスを高品質潤滑基油に転化する方法に関する。両方の触媒は、1種以上の第VIII族金属を含んでなる。例えば、第1床のPt/ZSM−48触媒と、それに続く第2床のPt/ゼオライト・ベータ触媒よりなるカスケードの2床触媒系は、重質潤滑油の処理を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス質原料を粘度の低い潤滑油基油に転化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワックスを高品質潤滑基油に、特に、ポリアルファオレフィン(PAO)の特性および性能に相当する、またはそれより優れた特性および性能を有する基油に転化しようという本質的な経済的動機が存在する。ワックスの品質向上は、線状パラフィンを多分岐イソパラフィンに選択的に変形するワックス異性化技術の進歩に大いに依存している。
【0003】
ワックスをパラフィン性潤滑基油に転化する方法は公知である。典型的な方法は、2段階方法であり、第1工程でワックスをワックス質イソパラフィン混合物に水素異性化し、続けて第2工程でワックス質イソパラフィン混合物を溶剤脱ロウまたは接触脱ロウして、残留ワックスを除去し、目標の潤滑油流動点を達成する。
【0004】
非晶質のアルミノケイ酸塩やゼオライト・ベータ(ベータ)に担持されたPtなどの、以前に開示された水素異性化触媒は通常、パラフィン異性化中に枝分れ構造の生成を可能にする大きい細孔を有する。他の大きい細孔のモレキュラーシーブの例には、ZSM−3、ZSM−12、ZSM−20、MCM−37、MCM−68、ECR−5、SAPO−5、SAPO−37およびUSYが含まれる。しかし、これらの大きい細孔の触媒は、多分岐イソパラフィン分子の存在下で、ノルマルおよび少し分岐したパラフィン・ワックスを優先して転化できるほど選択的ではない。その結果、ワックスから誘導されるイソパラフィン生成物は、しばしば残留ワックスを含み、目標の潤滑油曇り点または流動点を満たすために脱ロウすることが必要になる。潤滑油の曇り点は、最初の微量のワックスが分離し始める温度であり、潤滑油が濁る、または曇る原因となる(例えば、ASTM D2500)。潤滑油の流動点は、潤滑油およびワックスが全体として一緒に結晶化し、注いだとき流れない温度である(例えば、ASTM D97)。脱ロウは、溶剤脱ロウ法または接触脱ロウ法のいずれかを追加として使用することによって達成することができる。
【0005】
接触脱ロウ法において使用される最も選択的な脱ロウ触媒は、比較的小さい孔構造を有し、ノルマルおよび少し分岐したパラフィン・ワックスを選択的に分解することによって、潤滑油の流動点低下に触媒作用を及ぼす。かかる脱ロウ触媒は、通常パラフィン異性化選択性が低い。
【0006】
パラフィン・ワックスの水素異性化と脱ロウの両方を効率よく触媒し、流動点の低い潤滑油とする触媒はわずかしか報告されていない。またかかる触媒は、高分子量の成分を有する原料を転化するのが難しく、その結果として、潤滑油生成物は、しばしばヘイズのかかった(または曇った)外観を有する。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,075,269号明細書
【特許文献2】米国特許第3,354,078号明細書
【特許文献3】米国特許第6,090,989号明細書
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・カタリシス(Journal of Catalysis)、第4巻、527ページ(1965)
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・カタリシス、第6巻、278ページ(1966)
【非特許文献3】ジャーナル・オブ・カタリシス、第61巻、395ページ(1980)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、潤滑油の異性化脱ロウ選択性を犠牲にせずに、高分子量ワックスの転化率および十分に低い流動点を達成するニーズが依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ワックスを、平均直径が0.50〜0.65nmであり、最大直径と最小直径の差が≦0.05nmであるほぼ円形の孔構造を有する一次元のモレキュラーシーブ触媒(例えばZSM−48)、次いで第2のモレキュラーシーブ触媒(例えばゼオライト・ベータ)と接触させることによって、ワックスを高品質潤滑基油に転化する方法に関する。両方の触媒は、1種以上の第VIII族金属(即ちFe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Pd、Pt、Ni)を含んでなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、潤滑油を生成するための、平均直径が0.50〜0.65nm(5.0〜6.5オングストローム)であり、最大直径−最小直径≦0.05nm(0.5オングストローム)であるほぼ円形の孔構造を有する一次元の触媒上、次いでモレキュラーシーブ触媒上における、ワックスの高度の異性化および脱ロウ選択性を提供する。この2種の触媒上では第VIII族金属が好ましく、白金が最も好ましい。
【0011】
本発明は、潤滑基油生成物およびそれらの特性(例えば、流動点、曇り点)を改良する。本方法は、潤滑油収率を犠牲にせずに、平均の潤滑油分子量を効果的に低減し、かつ潜在的に潤滑油生成物の曇り点を低下させる。この方法は、潤滑油のうちの重質留分の使用を改善するのを可能にし、特に1,000°F+留分、好ましくは1,100°F+留分を有するワックスに適する。これらの留分は、原料の高分子量または高沸点テールを含んでもよい。上記触媒の1種だけを使用する場合、非常に大きい分子量の原料にとって、最小限のクラッキングで十分な分岐を作り出すことが難しいだろう。本発明は、重質成分を有する(例えば、>5重量%重質ラフィネートを有する)重質潤滑油または潤滑油を処理するのに使用するのが好ましく、その場合、ベータ触媒が、重質留分を選択的に分解する。本発明により、ZSM−48単独上で得た収率と同様の収率で軽質潤滑油を得ることができる。
【0012】
ワックス原料は、最初にZSM−48触媒上に通すことが好ましい。次いで、得られた中間生成物を単一のゼオライト・ベータ触媒上に通して、最終の潤滑油を生成する。これらの第1および第2のステージは、分離することができ、または、統合したプロセス工程とする(例えば、カスケードにする)のが好ましい。
【0013】
ほぼ円形の孔構造を有する一次元のモレキュラーシーブ触媒が大部分の脱ロウをする。この細孔は、大細孔径モレキュラーシーブの場合より小さく、それによってかさ高い(例えば、高度に分岐した)分子が排除される。一次元は、細孔が実質的に互いに並列であることを意味する。
【0014】
触媒の細孔は、0.50nm〜0.65nmの平均直径を有し、この場合、最小直径と最大直径の間の差異は≦0.05nmである。この細孔は、必ずしも完全な円形状または楕円形状の断面を有していない。最小直径および最大直径は、概ね平均細孔の断面積に等しい断面積の楕円の寸法にすぎない。代わりとして、細孔断面の中心を見出し、この中心から、最小直径の半分および最大直径の半分を使用して、平均断面積の細孔形状を掃引することによって、細孔を定めることができる。
【0015】
好適な一次元のモレキュラーシーブ触媒は、中程度の細孔のモレキュラーシーブ触媒であり、そのうち、好適な種類はZSM−48である。特許文献1は、ZSM−48を製造する手順を記載しており、参照により本明細書に援用されるものとする。ZSM−48は、およそ65%のゼオライト結晶および35%のアルミナである。結晶のうち、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは98〜99%が、完全結晶である。ZSM−48は、ある程度のナトリウムを受け入れ可能であるが、プロトン化された形が好ましい。ZSM−48は、同様の機能を有する他の触媒に比べて堅牢であり、第2の触媒(例えば、ゼオライト・ベータ)を保護する助けとなる。
【0016】
プロセスの第1ステージでは、一次元の中間細孔のモレキュラーシーブ触媒(例えば、Pt/ZSM−48)を、500〜800°F(260〜427℃)に、より好ましくは600〜700°F(316〜371℃)に、最も好ましくは630〜660°F(332〜349℃)に保持することが好ましい。本発明に使用するZSM−48触媒は、第VIII族金属充填の前は約10〜約50のアルファ値を有することが好ましい。
【0017】
ゼオライト・ベータ触媒は、ホウ素(アルミニウム原子の一部を置換する)の有無に関係ない12員環の酸性シリカ/アルミナ・ゼオライトである。ゼオライトY(USY)も、ベータより好適でないとはいえ、本発明の範囲に企図される。多少の残留硫黄が生成物中に許容可能である場合、予め硫化したゼオライト・ベータが好ましい。
【0018】
本発明に使用するゼオライト・ベータは、少なくとも金属充填の前に、15未満、より好ましくは10未満のアルファ値を有することが好ましい。アルファ値は、酸性度測定基準であり、標準の触媒と比較して、触媒の接触クラッキング活性の近似的な示度である。アルファ値は、相対的な速度定数(単位時間あたり触媒体積あたりのノルマルヘキサン転化率の速度)である。アルファ値は、高度に活性なシリカ−アルミナ・クラッキング触媒の活性を基準にしており、これを、特許文献2(参照により援用される)ではアルファ1にとり、非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3に記載されているように、538℃で測定する。最低の窒素含有量を有する原料では、この触媒の低いアルファ値が必要になるだろう。対照的に、高いアルファ値を有する触媒は、選択的なクラッキングが小さい場合に使用される。アルファ値は、水蒸気処理によって低減することができる。
【0019】
ベータ触媒(例えば、Pt/ベータ)は、中間生成物と接触するとき、400〜700°F(204〜371℃)、より好ましくは500〜650°F(260〜343℃)、最も好ましくは520〜580°F(271〜304℃)の温度に保持することが最も好ましい。
【0020】
それぞれの触媒の温度は、独立して制御することが好ましい。温度の選択は、液時空間速度に部分的に依存し、そのうち、0.1〜20h−1が好ましく、0.5〜5h−1がより好ましく、0.5〜2h−1が最も好ましい。
【0021】
両方の触媒の接触時間は、互いにほぼ同じことが好ましい。空間速度が異なる場合があることは理解されよう。両方の触媒の圧力は、互いにほぼ同じことが好ましい。水素共供給流速は、100〜10,000scf/bbl(17.8〜1,780n.L.L−1)、より好ましくは1,000〜6,000scf/bbl(178〜1,068n.L.L−1)最も好ましくは1,500〜3,000scf/bbl(267〜534n.L.L−1)である。
【0022】
それぞれの触媒は、0.01〜5重量%の少なくとも1種の第VIII族金属(即ちFe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Pd、Pt、Ni)を含んでなる。白金およびパラジウムが最も好適である。互いにまたは他の第VIII族金属とブレンドした白金またはパラジウムの選択があとに続く。ニッケルもまた、第VIII族貴金属とブレンドすることができ、第VIII族とのブレンド、合金または混合物に言及するときはいつでも本発明の範囲に含まれる。白金が最も好適な金属である。両方の触媒上への好適な金属充填量は、0.1〜1重量%であり、約0.6重量%が最も好ましい。
【0023】
原料は、50℃より上の融点、7,000ppm未満の硫黄、および50ppm未満の窒素を有するワックスであることが好ましい。窒素は、水素圧力が500psig(34atm)未満の場合、10ppm未満の窒素であることがより好ましい。例えば、(例えば、硫黄および/または窒素レベルを下げるために)重質ラフィネートを、フィッシャー−トロプシュ・ワックスまたは同様のクリーンなワックス質原料とブレンドすることができる。
【0024】
原料は、第1の触媒によって転化されて、中間生成物が生成され、次いで、それを、第1の触媒から第2の触媒に直接通すことが好ましい。本発明の好適な実施形態では、第1の床触媒、続けて第2の床触媒よりなるカスケードの2床触媒系により、最小のガス生成で、ワックス異性化および潤滑油水素化脱ロウのための高度に選択的なプロセスが可能になる。カスケードにする際、中間生成物を、軽質生成物の段間除去なしで、第1の床から第2の床まで直接通すことが好ましい。場合により、軽質副生物(例えばメタン、エタン)を、第1および第2の触媒間で除去することができる。
【0025】
原料で枝分れが多いことは、本発明を助け、最終の潤滑油収率を改善する。特許文献3は、代表的な枝分れ指数を記載しており、これは参照により援用される。原料は、水素と混合され、それを第1の触媒と接触させる前に予熱することが好ましい。ワックスの少なくとも95%は、それを第1の触媒と接触させる前、液体状態にあることが好ましい。
【0026】
規格により教示されているように、好適な測定法はこの段落に記載される。2つの値がある場合、括弧内の値は、第1の値のおよそのメートル法換算値である。パラフィンの重量パーセントは、高分解能のH−NMRによって、例えば、GC−MSと併用してASTM規格D5292に記載されている方法によって、測定することができる。この手法はまた、不飽和化合物、アルコール、酸素化物、および他の有機成分の重量百分率を定めるのに使用することができる。イソ対ノルマルパラフィンの比は、13C−NMRと併用してガスクロマトグラフィ(GC)またはGC−MSを行うことによって測定することができる。硫黄は、例えば、ASTM規格D2622に記載されているように、XRF(蛍光X線)によって測定することができる。窒素は、シリンジ/入口酸化性燃焼および化学ルミネセンス検出によって、例えば、ASTM規格D4629に記載されている方法によって、測定することができる。芳香族化合物は、下記のように測定することができる。規格により教示されているように、オレフィンは、電量分析により定められる臭素指数を使用することによって、例えば、ASTM規格D2710を使用することによって、測定することができる。合計酸素の重量パーセントは、高分解能のH−NMRと併用して中性子活性化によって測定することができる。必要に応じて、合計酸素含量を、含水量を測定することによって水のない基準に設定することができる。約200重量ppm未満であると知られている含水量を有するサンプルの場合、公知の誘導体化法(例えば、アセチレンを生成するために、カルシウムカーバイドを使用することによって)、続けてGC−MSを使用することができる。約200重量ppmを超えると知られている含水量を有するサンプルの場合、例えば、ASTM規格D4928に記載されている方法により、カール−フィッシャー法を使用することができる。合計アルコール含量は、高分解能のH−NMRによって定めることができ、主にC12〜C24第1級アルコールとして存在する百分率は、GC−MSによって定めることができる。セタン価は、例えば、ASTM規格D613を使用することによって定めることができる。芳香族化合物のレベルは、高分解能のH−NMRを使用することによって、例えば、ASTM規格D5292を使用することによって定めることができる。二原子酸素化物は、赤外線(IR)吸光度分光法を使用することによって測定される。イソ−パラフィンの枝分れ特性は、高分解能の13C−NMRと高分解能のMSを備えたGCとの組合せによって測定することができる。
【実施例】
【0027】
第1ステージのPt/ZSM−48触媒、その直後に続けて第2ステージのPt/ベータ触媒よりなるカスケードの2床触媒系は、高い分子量成分を有するワックスの水素異性化および脱ロウにとって、高度に活性かつ選択的であることが示された。
【0028】
実施例の運転条件、物質収支データ、潤滑油収率、および特性を、表1にまとめた。TBP x%は、炭化水素サンプルのx重量%がその温度より下で沸騰する温度を示す。通油時間(TOS)は、その間原料が触媒と接触している時間である。IBPは、初留点である。TBPは、終沸点である。原料1バレルあたりの水素の標準立方フィートに相当するベストS.I.(SCF/バレル)は、原料1リットルあたりの水素ガスの標準リットルである(n.1.l−1、またはn.L.L−1、あるいはn.L(ガス)/L(原料))。LHSVは、液時空間速度として定義される。WHSVは、重量時空間速度として定義される。
【0029】
【表1−1】

【0030】
【表1−2】

【0031】
望ましいワックス異性化結果を得るためには、潤滑油水素処理の間、マイルドな(例えば、500〜630°F(260〜332℃))Pt/ベータ温度を使用するべきである。目標の潤滑油流動点を達成するためには、Pt/ZSM−48温度を変化させながら、マイルドなPt/ベータ温度を使用するべきである。最高の潤滑油収率を達成するためには、低い運転圧力(<2,000psi(272atm)水素圧力)を使用するべきである。
【0032】
Pt/ZSM−48単独についても、C80ワックスの700°F+(371℃+)潤滑基油への異性化および脱ロウを評価した(表2)。2種の触媒系についての潤滑油収率の比較を図1に示す。図1は、カスケードのPt/ZSM−48、続くPt/ベータは、Pt/ZSM−48単独と比較して、実質的に同じ潤滑油収率を与えたことを示す。Pt/ベータを追加しても、Pt/ZSM−48の運転温度範囲に及ぶ影響は最小であった(表1および2)。
【0033】
【表2−1】

【0034】
【表2−2】

【0035】
公称700°F+(371℃+)C80ワックス異性体の粘度および粘度指数対水素処理過酷度をそれぞれ、図2および3にプロットした。2つの図で比較した2組のデータは、Pt/ZSM−48、続けてPt/ベータ、およびPt/ZSM−48単独を使用して調製したワックス異性体に対応する。
【0036】
図2に示すように、Pt/ZSM−48−Pt/ベータ異性体は、おそらくPt/ベータ触媒の多分岐イソパラフィンに対するクラッキング活性が相対的に高いために、粘度が著しく低かった。従って、この二元触媒系は、ワックス水素異性化プロセスの間の潤滑油収率を犠牲にせずに、ワックス原料の平均分子量を低減して、より低い粘度の潤滑油基材油を製造する有効な方法を提供する。
【0037】
図3は、Pt/ZSM−48−Pt/ベータ・ワックス異性体の場合に観察される高い粘度指数が、Pt/ZSM−48異性体の粘度指数よりわずかに低いが、これを示す。本発明の生成物としては、−20℃の潤滑油流動点で少なくとも150の粘度指数、および−50℃以下の流動点で少なくとも130の粘度指数が好ましい。
【0038】
Pt/ZSM−48−Pt/ベータの場合、潤滑油の曇り点と流動点の間の広がりは、大部分は15℃未満である(表1)。一般に、潤滑油の曇り点と流動点の間の広がりは、流動点の低下と共に狭くなる。
【0039】
2種の触媒系に対して、全体としての軽質副生物の選択性は同等である(図4〜6)。予期されるように、ガス、ナフサ、およびディーゼル油の収率は、水素化分解を助長するプロセス過酷度の増大(潤滑油流動点を低下させる)に伴い、両方の系で増加する。
【0040】
次の実施例は、本発明を例示するのに役立つだろう。
【0041】
実施例1
原料油
水素化処理したサゾール(SASOL)(登録商標)パラフリント(PARAFLINT)(登録商標)C80ワックス(C80)原料を、ムーア・アンド・ムンガー社(Moore and Munger,Inc.)(コネティカット州シェルトン(Shelton))から入手し、追加の前処理なしで受領状態のまま使用した。C80ワックスは、主に線状のパラフィンと、非常に低い含量のオレフィンおよび酸素化物との混合物であった。サゾール(登録商標)は、3種の商用品位のワックスを上市されている:パラフリント(登録商標)H1の全種類揃った700°F+(371℃+)ワックス、並びに、パラフリント(登録商標)C80およびC105それぞれの700〜1100°F(371〜593℃)および1100°F+(593℃+)留出液留分。ワックスの(沸点で表した)分子量分布を、表3に簡単に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
実施例2
Pt/ベータ触媒の調製
Pt/ベータ触媒を、ゼオライト・ベータ65部およびアルミナ(無水ベース)35部を含む水含有混練混合物またはペーストを押出し成形することによって調製した。乾燥後、触媒を含むゼオライト・ベータを、900°F(482℃)で窒素下でカ焼し、周囲温度で、ゼオライト・チャネル中の残留ナトリウムを除去するのに十分な量の硝酸アンモニウムで交換した。次いで、押出し品を脱イオン水で洗浄し、空気中1000°F(538℃)でカ焼した。空気カ焼の後、65%のゼオライト・ベータ/35%のアルミナ押出し品を、1020°F(549℃)で水蒸気処理して、カ焼した触媒のアルファ値を10未満まで低下させた。水蒸気処理した酸性度が低い65%のベータ/35%のアルミナ触媒を、イオン交換条件の下でテトラアンミン塩化白金溶液でイオン交換して、Pt0.6%を含む触媒を均一に製造した。残留塩化物を除去するために脱イオン水で洗浄した後、触媒を、250°F(121℃)で乾燥し、続けて680°F(360℃)で最終の空気カ焼を行った。
【0044】
実施例3
Pt/ZSM−48触媒の調製
Pt/ZSM−48触媒を、65部のZSM−48および35部のアルミナ(無水ベース)を含む水含有混練混合物またはペーストを押出し成形することによって調製した。乾燥後、触媒を含むZSM−48を、窒素下で900°F(482℃)でカ焼し、周囲温度で、ゼオライト・チャネル中の残留ナトリウムを除去するのに十分な量の硝酸アンモニウムで交換した。次いで、押出し品を脱イオン水で洗浄し、空気中1000°F(538℃)でカ焼した。空気カ焼の後、65%のZSM−48/35%のアルミナ触媒を、初期濡れ条件の下でテトラアンミン白金硝酸塩溶液に含浸して、Pt0.6%を含む触媒を均一に製造した。最後に、触媒を250°F(121℃)で乾燥し、続けて680°F(360℃)で空気カ焼を行った。
【0045】
実施例4
ワックスの水素処理
2つの3帯域炉、および、カスケードの(第2の反応器をバイパスする選択の自由がある)2つのダウンフロー細流床管型反応装置(1/2インチID)を備えたマイクロユニットを使用して、ワックス水素異性化実験を行った。高融点のC80ワックスの凝固を回避するため、ユニットを注意深く外部加熱した。原料のバイパスを低減するため、および、ゼオライトの細孔拡散抵抗を下げるため、触媒押出し品を粉砕して、60〜80メッシュの大きさに合わせた。次いで、反応器1および2それぞれに、60〜80メッシュのPt/ZSM−48触媒15ccと60〜80メッシュのPt/ベータ触媒を入れた。また触媒充填中に、ボイドスペースを充満させるため、80〜120メッシュの砂5ccを両方の触媒床に加えた。ユニットの圧力実験後、触媒を乾燥させ、1気圧(atm)、255cc/分の水素流れ下で400°F(204℃)で1時間還元した。この過程の終わりに、純粋水素の流れを停止し、HS(水素中2%)の流れを100cc/分で開始した。HS破過の後、反応器1および2を700°F(371℃)に徐々に加熱し、700°F(371℃)で1h(時間)維持した。触媒の事前硫化完了の後、ガス流れを、255cc/分速度の純粋水素に切替えて戻し、2つの反応器を冷却した。
【0046】
カスケードのPt/ZSM−48、続けてPt/ベータ上でのC80ワックスの水素異性化を、それぞれの触媒に対して1.0h−1LHSV、並びに、1000psig(68atm)および5500scf/bbl(979n.L.L−1)の水素循環速度で行った。ワックス異性化実験は、まず、400°F(204℃)で触媒床を原料で飽和させることによって始め、次いで、反応器を初期の運転温度まで加熱した。物質収支を一晩16〜24h間行った。次いで、反応器温度を徐々に変えて、流動点を変化させた。
【0047】
Pt/ZSM−48単独の性能は、第2の反応器中のPt/ベータ触媒を冷却し、かつバイパスすることによって評価した。この実験は、カスケードのPt/ZSM−48とPt/ベータとの組合せをテストするのに使用したのと同じプロセス条件下で(1.0LHSV、1000psig(68atm)、5500scf/bbl(979n.L.L−1)H)、かつ同様の手順に従って行った。
【0048】
実施例5
生成物分離および分析
オフガス・サンプルは、FID検出器を備えた、60mDB−1(0.25mmID)キャピラリーカラムを使用したGCによって分析した。合計の液体生成物(TLP)を秤量し、かつ高温度GCを使用したシミュレーション蒸留(D2887などのSimdis)によって、分析した。TLPは、IBP〜330°F(IBP〜166℃)ナフサ、330〜700°F(166〜371℃)留出液、および700°F+(371℃+)潤滑油留分に蒸留された。実際の蒸留操作の正確さを確実にするため、700°F+(371℃+)潤滑油留分を、Simdisによってもう一度分析した。700°F+(371℃+)潤滑油の流動点および曇り点は、D97およびD2500法によって測定し、それらの粘度は、それぞれD445−3およびD445−5法に従って40℃および100℃で定めた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】C80ワックスの異性化について、Pt/ZSM−48、続けてPt/ベータの触媒系上で、および、Pt/ZSM−48単独の触媒系上での潤滑油収率対潤滑油流動点のプロットである。
【図2】C80ワックスの異性化について、Pt/ZSM−48、続けてPt/ベータ触媒系上で、および、Pt/ZSM−48単独の触媒系上での潤滑油粘度対潤滑油流動点のプロットである。
【図3】C80ワックスの異性化について、Pt/ZSM−48、続けてPt/ベータ触媒系上で、および、Pt/ZSM−48単独の触媒系上での粘度指数(VI)対潤滑油流動点のプロットである。
【図4】C80ワックスの異性化について、Pt/ZSM−48、続けてPt/ベータ触媒系上で、および、Pt/ZSM−48単独の触媒系上での軽質ガス収率対潤滑油流動点のプロットである。
【図5】C80ワックスの異性化について、Pt/ZSM−48、続けてPt/ベータ触媒系上で、および、Pt/ZSM−48単独の触媒系上でのナフサ収率対潤滑油流動点のプロットである。
【図6】C80ワックスの異性化について、Pt/ZSM−48、続けてPt/ベータ触媒系上で、および、Pt/ZSM−48単独の触媒系上でのディーゼル油収率対潤滑油流動点のプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄または窒素を実質的に含まない、主としてC24〜C110の範囲の炭化水素を有するワックスの、イソパラフィン性潤滑基油への転化方法であって、
第一に、前記ワックスおよび水素共原料を、平均直径が0.50〜0.65nmであり、最大直径と最小直径の差が≦0.05nmであるほぼ円形の孔構造を有する一次元の中間細孔のモレキュラーシーブ、および1種以上の第VIII族金属を含んでなる一次元のモレキュラーシーブ触媒上を通して、中間生成物を生成する工程;および
第二に、前記中間生成物を、ゼオライト・ベータおよび1種以上の第VIII族金属を含んでなるベータ触媒上に通して、イソパラフィン性潤滑基油を生成する工程
を含んでなることを特徴とする転化方法。
【請求項2】
前記ワックスは、その総重量を基準にして5重量%〜80重量%の1,100°F+留分を含んでなり、
前記一次元のモレキュラーシーブ触媒は、500〜800°F(260〜427℃)の温度に保持され、
前記ベータ触媒は、400〜700°F(204〜371℃)の温度に保持され、
前記ワックスは、0.1〜10h−1の液時空間速度で前記一次元のモレキュラーシーブ触媒上に通され、
前記中間生成物は、0.1〜10h−1の液時空間速度で前記ベータ触媒上に通され、
前記方法は、1,500psig(102atm)未満の水素を更に含んでなり、前記水素は、100〜10,000scf/bbl(18〜1780n.L.L−1)で循環される
ことを特徴とする請求項1に記載の転化方法。
【請求項3】
前記一次元のモレキュラーシーブ触媒は、600〜700°F(316〜371℃)の温度に保持され、
前記ベータ触媒は、500〜600°F(260〜316℃)の温度に保持され、
前記ワックスは、0.5〜2h−1の液時空間速度で前記一次元のモレキュラーシーブ触媒上に通され、
前記中間生成物は、0.5〜2h−1の液時空間速度で前記ベータ触媒上に通され、
前記方法は、1,500psig(102atm)未満の水素を更に含んでなり、前記水素は、1,000〜6,000scf/bbl(178〜1068n.L.L−1)で循環される
ことを特徴とする請求項2に記載の転化方法。
【請求項4】
前記触媒上の第VIII族金属は、PtおよびPdよりなる群から選択される少なくとも1種の構成要素であり、
前記一次元のモレキュラーシーブ触媒は、金属導入前のアルファ値が10〜50のZSM−48である
ことを特徴とする請求項3に記載の転化方法。
【請求項5】
前記ワックスは、1,000°F+高温テールを有し、
前記ZSM−48は、その総重量を基準にして0.5重量%〜1重量%の第VIII族金属を充填され、
第VIII族金属充填前の前記ゼオライト・ベータのアルファ値は、15未満であり、
前記ゼオライト・ベータは、その総重量を基準にして0.5重量%〜1重量%の第VIII族金属を充填され、
前記第VIII族金属は、PtおよびPdよりなる群から選択される少なくとも1種の構成要素である
ことを特徴とする請求項3に記載の転化方法。
【請求項6】
前記ベータ触媒は、Pt/ゼオライト・ベータであり、
前記Pt/ZSM−48およびPt/ゼオライト・ベータは、第1の床とそれに続く第2の床を含んでなるカスケードの2床触媒系をなし、前記第1の床は、Pt/ZSM−48触媒を含んでなり、前記第2の床は、Pt/ベータ触媒を含んでなる
ことを特徴とする請求項5に記載の転化方法。
【請求項7】
前記第1の床温度および前記第2の床温度は、独立して制御され、
前記中間生成物は、第2の床に直接カスケードされる、
ことを特徴とする請求項6に記載の転化方法。
【請求項8】
−20℃の潤滑油流動点で少なくとも150の粘度指数、または−50℃以下の潤滑油流動点で少なくとも130の粘度指数を有することを特徴とする請求項1に記載の転化方法によって製造されるイソパラフィン性潤滑基油。
【請求項9】
1重量%未満の芳香族含量を有することを特徴とする請求項1に記載の転化方法によって製造されるイソパラフィン性潤滑基油。
【請求項10】
請求項1に記載の転化方法によって、−20℃の潤滑油流動点で少なくとも150の粘度指数、または−50℃以下の潤滑油流動点で少なくとも130の粘度指数を有することを特徴とする潤滑油。
【請求項11】
請求項6に記載の転化方法によって、−20℃の潤滑油流動点で少なくとも150の粘度指数、または−50℃以下の潤滑油流動点で少なくとも130の粘度指数を有することを特徴とする潤滑油。
【請求項12】
前記触媒上にワックスおよび中間生成物を通す前記工程は、−20℃の潤滑油流動点で少なくとも150の粘度指数、または−50℃以下の潤滑油流動点で少なくとも130の粘度指数を有するイソパラフィン性潤滑基油を生成するのに十分な条件下で行われることを特徴とする請求項1に記載の転化方法。
【請求項13】
前記触媒上にワックスおよび中間生成物を通す前記工程は、−20℃の潤滑油流動点で少なくとも150の粘度指数、または−50℃以下の潤滑油流動点で少なくとも130の粘度指数を有するイソパラフィン性潤滑基油を生成するのに十分な条件下で行われることを特徴とする請求項5に記載の転化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−502295(P2006−502295A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−543636(P2004−543636)
【出願日】平成15年10月7日(2003.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/032098
【国際公開番号】WO2004/033592
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】