説明

潤滑油及び潤滑油組成物

【課題】フルオロエラストマーエンジンシール材料と適合性であり、銅腐食性能に合致する、クランクケース潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】無灰TBN原料として有用なテトラアルキル化フェニレンジアミン化合物、すなわち、ヒドロカルビル基(例えば、アルキル基)の1から3がα炭素原子において分岐して3個から12個の炭素原子を有し、ヒドロカルビル基(例えば、アルキル基)の1から3がβ炭素原子において分岐して4個から12個の炭素原子を有するN,N’−テトラ−脂肪族ヒドロカルビルフェニレンジアミンを含有する潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物用の無灰TBN(全塩基価)ブースターとして有用なフェニレンジアミン化合物、及び潤滑油組成物、特に低減されたレベルの硫酸灰分(SASH)を有し、上記のものを含有し、シール適合性試験及び腐食試験の要求に合致するクランクケース潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境への関心は、圧縮点火(ディーゼル燃料を供給された)小型車両内燃エンジン及び火花点火(ガソリン燃料を供給された)小型車両内燃エンジンの、CO、炭化水素、及び窒素酸化物の排出を低減させるための継続した努力につながった。更に、圧縮点火内燃エンジンの粒子状物質の排出を低減する努力が続いている。やがて適用される大型ディーゼル車両の排出基準に合致させるため、他社製品製造会社(OEM)は、追加の排出ガス後処理装置を必要とするかもしれない。そのような排出ガス後処理装置としては、1以上の酸化触媒、NOx貯蔵触媒、及び/又はNH3還元触媒を含みうる触媒コンバーター;並びに/又は粒子状物質トラップが挙げられる。
酸化触媒は、エンジン排出ガスに存在する特定の元素/化合物に曝されることにより、特にリンを含有する潤滑油添加剤の分解により排出ガスに導入されるリン及びリン化合物に曝されることにより汚染され、効力が低下しうる。還元触媒は、潤滑油を混合するために使用された基油及び硫黄含有潤滑油添加剤の両者の分解により導入される、エンジン排出ガス中の硫黄及び硫黄化合物に感受性である。粒子状物質トラップは、分解した金属含有潤滑油添加剤の生成物である金属灰により遮断され得る。
長い耐用年数を確保するため、例えば後処理装置に最小の負の影響しか有さない潤滑油添加剤と特定しなければならず、「新規の供給充填(new service fill)」及び「初回充填(first fill)」の大型車両用ディーゼル(HDD)潤滑油についてのOEM規格は、0.4質量%の最大硫黄レベル;0.12質量%の最大リンレベル、及び1.1質量%未満の硫酸灰分含量を要求し、このような潤滑油は「mid−SAPS」潤滑油(ここで、「SAPS」とは「硫酸灰分、リン、硫黄」の頭字語である)と呼称される。将来的には、OEMは更にこれらのレベルを、0.08質量%のリン、0.2質量%の硫黄、及び0.8質量%の硫酸灰分の最大レベルにまで制限する可能性があり、そのような潤滑油は「low−SAPS」潤滑油組成物と呼称される。
排出ガス後処理装置と相性のよいmid−及びlow−SAPS潤滑油を提供するために、リン、硫黄、及び灰分を含む潤滑油添加剤の量が低減されつつあるため、潤滑油組成物は、大型車両エンジン潤滑油についてのACEA E6及びMB p228.51(欧州)及びAPI CI-4+及びAPI CJ-4(米国)規格のような、OEMの「新規の供給(new service)」及び「初回充填」規格で指定される、十分な清浄力を含む高いレベルの潤滑特性を提供し続けなければならない。上記の工業基準に合致する潤滑油組成物として分類されるための基準は、当業者に知られている。
組成物の全塩基価(TBN)を増加させることで、排気再循環(EGR)システム、特に、排出ガスが再循環に先立って冷却される凝縮(condensed)EGRシステムを備えるエンジンでその量が増加する、酸性の燃焼副生成物を潤滑油が中和する能力は改善でき、潤滑油の排出間隔(drain interval)を延長することができる。これまで、TBNは、組成物に硫酸配分を導入する過塩基性の清浄剤により調整されてきた。硫酸灰分を増加させず、TBNを増大させる成分を使用して、高いレベルのTBNを有する潤滑油組成物を提供することが好ましいだろう。高度に塩基性の成分は腐食を引き起こし、一部の場合では、潤滑油組成物とエンジンに使用されるフルオロエラストマーシールとの間の適合性を低下させることが知られているため、腐食を引き起こさず、シール適合性に悪影響を与えない成分を提供することが好ましい。燃料経済性を改善する要求のため、例えば0W及び5W 20及び30グレード潤滑油のような粘性の低い潤滑油がより普及した。そのような潤滑油のより容易な調製を可能にするため、添加剤により導入されるポリマーの量が好ましくは最小化される。それ故、非重合性の無灰TBN源を提供することが更に好ましい。
【0003】
米国特許第5,525,247号、第5,672,570号、及び第6,569,818号は、過塩基性清浄剤を中性清浄剤と置き換えることにより硫酸灰分含量が低減された「低灰分」潤滑油組成物に向けられている。これらの特許は、十分な清浄力を有する潤滑油を記載しているが、それらが、例えばHDDエンジンに使用される十分なTBNを提供することは記載していない。米国特許出願2007/0203031号は、無灰TBN源として高TBNの窒素含有分散剤を使用することを記載している。
米国特許第5,232,614号は、潤滑油組成物に効果的な抗酸化剤としての置換されたパラ−フェニレンジアミン化合物について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,525,247号
【特許文献2】米国特許第5,672,570号
【特許文献3】米国特許第6,569,818号
【特許文献4】米国特許出願2007/0203031号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、シール適合性及び腐食試験要求に合致する潤滑油組成物において、特定のテトラアルキル化フェニレンジアミン化合物を無灰TBNブースターとして供することによって上記課題に対処する。
【0006】
本発明の第一の側面によれば、ヒドロカルビル基(例えば、アルキル基)の1から3がα炭素原子において分岐して3個から12個の炭素原子を有し、ヒドロカルビル基(例えば、アルキル基)の1から3がβ炭素原子において分岐して4個から12個の炭素原子を有するN,N’−テトラ−脂肪族ヒドロカルビルフェニレンジアミンが提供される。
本発明の第二の側面によれば、多量の潤滑粘度の油、及び少量の、第一の態様の1以上のフェニレンジアミン化合物を含む、又はこれらを混合することにより作製される大型車両用ディーゼル潤滑油のような、クランクケース潤滑油組成物が提供される。
本発明の第三の側面によれば、同時に組成物のSASH含量を増大させることなく、ASTM D4739により測定される潤滑油組成物のTBNを高める方法であって、当該方法は組成物が、API CJ-4及びACEA E6規格の制限の範囲内である、高温腐食ベンチテスト(ASTM D6594)における銅の腐食性能を有し、MB p228.51規格の制限の範囲内である、MB-AK6試験におけるフルオロエラストマー系エンジンシール材料との適合性を有するように、組成物に少量の、本発明の第一の側面において規定される1以上のフェニレンジアミン化合物を添加することを含む方法が提供される。
【0007】
本発明の第四の側面によれば、以下の工程を含む運転中の圧縮点火内燃エンジンの表面を潤滑する方法が提供される:
(a)多量の潤滑粘度の油に、少量の、本発明の第一の側面において規定される1以上のフェニレンジアミン化合物を供して、同時にSASHを増大させることなく、ASTM D4739により測定される組成物のTBNがそれにより高められ、API CJ-4及びACEA E6規格の制限の範囲内である、高温腐食ベンチテスト(ASTM D6594)における銅の腐食性能を有し、MB p228.51規格の制限の範囲内である、MB-AK6試験におけるフルオロエラストマー系エンジンシール材料との適合性を有する潤滑油組成物を作製する工程;
(b)エンジンクランクケースに潤滑油組成物を供する工程;及び
(c)エンジンを運転する工程。
本発明の第五の側面によれば、大型車両ディーゼルエンジン用のACEA E6、MB p228.51、API CI-4+、及びAPI CJ-4規格の1以上の性能基準に適合する、第二の側面と同様の潤滑油組成物が提供される。
本発明の第六の側面によれば、排出ガス循環(EGR)システム、好ましくは凝縮EGRシステム及び微粒子とラップを備え、そのエンジンのクランクケースが第二の側面の潤滑油組成物により潤滑される大型車両用ディーゼルエンジンが提供される。
本発明の第七の側面によれば、低減されたSASH含量を有する、高いTBNの潤滑油を形成する方法であって、上記潤滑油組成物に第一の側面の1以上のフェニレンジアミン化合物を添加する工程を含む方法が提供される。
【0008】
本明細書において、以下の語及び表現は、使用される場合、以下に記載される意味を有する:
「活性成分」又は「(a.i.)」は、希釈剤又は溶媒ではない添加剤材料を示す;
「を含む」又は任意の同類の語は、述べられた特徴、工程、又は整数若しくは成分の存在を特定し、1以上の他の特徴、肯定、整数、成分、又はそれらの群の存在又は添加を排除しない;「からなる」若しくは「基本的にからなる」又は同類の表現は、「含む」又は同類の表現に包含されていてもよく、ここで、「基本的にからなる」は、それが適用される組成物の特性に実質的に影響を与えない物質を包含することを許容する;
「多量の」は組成物の50質量%を超えることを意味する;
「少量の」は組成物の50質量%に満たないことを意味する;
「TBN」は示されるところに従って、ASTM D2896又はASTM D4739により測定される全塩基価を意味する。
更に本発明においては:
「リン含量」はASTM D5185により測定され;
「硫酸灰分含量」はASTM D874により測定され;
「硫黄含量」はASTM D2622により測定され;
「KV100」はASTM D445により測定される10℃における動粘度を意味し;
「ヒドロカルビル」及び同類の語は、炭素原子及び水素原子を有し、炭素原子を介して直接、分子の残部に結合する基を示す。それらは、ヘテロ原子を含んでいてもよいが、その場合、そのようなヘテロ原子がヒドロカルビル基の基本的にヒドロカルビルな性質に影響を与えないことが条件となる。
同様に、使用される様々な成分は、必須のものであれ、好適なもの及び慣用のものであれ、製剤、貯蔵、又は使用の条件下で反応してもよいことが理解され、本発明は、任意のそのような反応の結果、得られる又は得られた生成物をも提供する。
【0009】
更に、本明細書に記載される量、範囲、及び比率の上限及び下限は、独立に組み合わされてもよいことが理解される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のN,N’−テトラ−脂肪族ヒドロカルビルフェニレンジアミン化合物は、ASTM D2896及びまたASTM D4739により測定される潤滑油のTBNに寄与することが見出されている。更に、この明細書の実施例に示されるように、特定のフェニレンジアミン化合物は、潤滑油が、例えばMBSEAL-2/AK6試験におけるもののような任意のシール適合性試験に不合格になる原因とならず、潤滑油がASTM D6594に記載される任意のHTCBT試験、特にその銅の腐食試験に不合格となる原因とならない。
この発明に有用なN,N’−テトラ−脂肪族ヒドロカルビルフェニレンジアミン化合物は、以下の式で示される:
【化1】

【0011】
(式中、R1、R2、R3、及びR4のそれぞれは、独立して3個から12個の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビル基、好ましくはアルキル基であり、R1、R2、R3、及びR4のうち少なくとも1つは、結合する窒素原子に対してα位で分岐し、3個から12個の炭素原子を有するアルキル基であり、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1つは、結合する炭素原子に対してβ位で分岐し、4個から12個の炭素原子を有するアルキル基であり;
5又はそれぞれのR5は、独立に水素原子又は1個から12個の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビル基、好ましくはアルキル基であり;及び
nは0から4である。)
好ましいものは、上記式のフェニレンジアミンであって、R1及びR3のそれぞれが独立に、結合した窒素原子に対してα位で分岐し、3個から12個の炭素原子を有するアルキル基であるものであり;及びR2及びR4のそれぞれが独立に、結合した窒素原子に対してβ位で分岐し、4個から12個の炭素原子を有するアルキル基であるものである。
好ましくは、この発明に有用なフェニレンジアミン化合物は、(ASTM D-2896及び/又はASTM D4739、好ましくはASTM D4739で測定される)少なくとも50mg KOH/g、例えば少なくとも100mg KOH/g、好ましくは少なくとも120mg KOH/gのTBNを有する。
【0012】
本発明のフェニレンジアミンは、単一の化合物を形成していてもよく、上記式で示される化合物群の混合物であってもよい。
好ましくは、本発明のフェニレンジアミン化合物は、450から700、例えば450から650、好ましくは500から600の分子量を有するか、平均して有する。
好ましくは、窒素原子は互いにパラ位に配向している。
本発明において有用なフェニレンジアミン化合物は、当業者に知られた方法により製造することができる。
【0013】
本発明の潤滑油組成物は、多量の潤滑粘度の油と、少量の、1以上の特定のフェニレンジアミン化合物を有する。
本発明との関連で有用な潤滑粘度の油は、天然潤滑油、合成潤滑油、及びそれらの混合物から選択されてもよい。潤滑油は、その粘度において、例えば、ガソリンエンジン油、ミネラル潤滑油、及び大型車両用ディーゼル油等、軽質留分ミネラル油から重質潤滑油に及ぶ。一般的に、油の粘度は、100℃で測定して、2mm2-1から40mm2-1、特に4mm2-1から20mm2-1に及ぶ。
天然油は、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油);液体石油、並びに、パラフィンタイプ、ナフテンタイプ、及び混合パラフィン−ナフテンタイプの水素化精製、溶媒処理、又は酸処理ミネラル油を含む。石炭又は頁岩由来の潤滑粘度の油もまた有用な基油として働く。
合成潤滑油は、重合及び共重合オレフィン類(例えば、ポリブチレン類、ポリプロピレン類、プロピレン−イソブチレン共重合体類、塩素化ポリブチレン類、ポリ(1−ヘキセン)類、ポリ(1−オクテン)類、ポリ(1−デセン)類);アルキルベンゼン類(例えば、ドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン類);ポリフェノール類(例えば、ビフェニル類、テルフェニル類、アルキル化ポリフェノール類);並びにアルキル化ジフェニルエーテル類及びアルキル化ジフェニルスルフィド類及びそれらの誘導体、類似体、及び同族体等の炭化水素油及びハロ置換炭化水素油を含む。また、有用な合成油はフィッシャー−トロプシュ合成炭化水素からのガス ツー リキッドプロセス(gas to liquid process)から得られる合成油であり、これは一般的にガス ツー リキッド、即ち「GTL」基油と示される。
末端のヒドロキシル基がエステル化、エーテル化等により修飾されたアルキレンオキシドポリマー及び共重合体、並びにそれらの誘導体は知られた合成潤滑油のもう1つのクラスを構成する。これらは、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの重合により調製されるポリオキシアルキレンポリマー類、並びにポリオキシアルキレンポリマー類のアルキル及びアリールエーテル(例えば、分子量1000のメチル−ポリiso−プロピレングリコールエーテル又は分子量1000から1500のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル);及び、例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3−C8脂肪酸エステル、及びC13オキソ酸ジエステル等、それらのモノ−及びポリカルボン酸エステルにより例示される。
合成潤滑油のもう1つの好適なクラスは、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸2量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)の、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステル類を含む。そのようなエステルの特定の例には、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノレイン酸2量体の2−エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2−エチルヘキサン酸と反応させて形成された複合エステルが含まれる。
【0014】
合成油として有用なエステルには、C5からC12のモノカルボン酸、並びにネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びトリペンタエリスリトール等のポリオール類及びポリオールエステル類から作られたものも含まれる。
例えば、ポリアルキルシリコーン油、ポリアリールシリコーン油、ポリアルコキシシリコーン油、又はポリアリーロキシシリコン油、及びシリケート油等のシリコン系油ももう1つの有用な合成潤滑油のクラスを構成する;そのような油には、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ(4−メチル−2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ−(p−tert−ブチル−フェニル)シリケート、ヘキサ−(4−メチル−2−エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン類、及びポリ(メチルフェニル)シロキサン類が含まれる。他の合成潤滑油には、リン酸を含有する酸(例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デシルホスホン酸のジエチルエステル)の液体エステル及び重合性のテトラヒドロフランが含まれる。
【0015】
潤滑粘度の油はグループI、グループII、若しくはグループIIIのベースストック、又は上記のベースストックの基油混合物を含んでいてもよい。好ましくは、潤滑粘度の油は、グループII若しくはグループIIIのベースストックであり、又はそれらの混合物であり、又はグループIのベースストックと、グループII及びグループIIIのベースストックの1以上との混合物である。好ましくは、多量の潤滑粘度の油は、グループII、グループIII、グループIV、若しくはグループVのベースストック、又はそれらの混合物である。ベースストック、又はベースストック混合物は、好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも75%、例えば少なくとも85%の飽和分を有する。より好ましくは、ベースストック、又はベースストック混合物は、90%を超える飽和分を有する。好ましくは、油又は油の混合欝は、1質量%未満、好ましくは0.6質量%未満、最も好ましくは0.4質量%未満の硫黄含量を有する。
好ましくは、油又は油混合物の揮発度は、Noack揮発度試験(ASTM D5880)で測定して、30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、最も好ましくは16%以下である。好ましくは、油又は油混合物の粘度指数(VI)は、少なくとも85、好ましくは少なくとも100、最も好ましくは約105から約140である。
本発明におけるベースストック及び基油の定義は、米国石油協会(API)の刊行物"Engine Oil Licensing and Certification System", Industry Services Department, Fourteenth Edition, 1996年12月, 補遺1, 1998年12月に見出されるものと同一である。当該刊行物は、ベースストックを以下のように分類する。
a)グループIのベースストックは、90%未満の飽和分及び/又は0.03%を超える硫黄を含み、表1で特定される試験方法を使用して、80以上120未満の粘度指数を有する。
b)グループIIのベースストックは、90%以上の飽和分と、0.03%以下の硫黄を含み、表1で特定される試験方法を使用して、80以上120未満の粘度指数を有する。
c)グループIIIのベースストックは、90%以上の飽和分と、0.03%以下の硫黄を含み、表1で特定された試験方法を使用して、120以上の粘度指数を有する。
d)グループIVのベースストックは、ポリアルファオレフィン類(PAO)である。
e)グループVのベースストックは、グループI、II、III、又はIVに含まれない他の全てのベースストックを含む。
【0016】
【表1】

【0017】
金属含有又は灰形成性清浄剤は、沈着物を低減し又は除去する清浄剤としても、酸中和剤又は防錆剤としても作用し、それにより磨耗及び腐食を低減し、エンジン寿命を延ばす。清浄剤は、一般的に極性の頭部と長い疎水性の尾部を有し、極性の頭部には酸性有機化合物の金属塩を有する。塩は、実質的に化学量論量の金属を含んでいてもよく、その場合それらは通常、普通の又は中性の塩として記載され、典型的には0から80の全塩基価、即ちTBN(ASTM D2896で測定できる)を有していよう。過剰の金属化合物(例えば、酸化物又は水酸化物)と酸性ガス(例えば、二酸化炭素)を反応させることにより、大量の金属塩基が導入されてもよい。結果として得られる過塩基性の清浄剤は、金属塩基(例えば、炭酸塩)のミセルの外層として、中和された清浄剤を有する。そのような、過塩基性の清浄剤は、150以上のTBNを有し、典型的には250から450、或いはそれ以上のTBNを有するであろう。本発明のヒドロカルビル化されたフェニレンジアミン化合物の存在下では、過塩基性の清浄剤の量を低減でき、又は低減された過塩基性を有する清浄剤(例えば、100から200のTBNを有する清浄剤)か中和された清浄剤を使用でき、これに対応して、その酸中和性能を低減させることなく、潤滑油組成物のSASH含量を低減することとなる。
使用できる清浄剤は、油溶性の中性及び過塩基性のスルフォネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、及びナフテネート、並びに他の、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウム等の金属の油溶性のカルボキシレートを含む。最も一般的に使用される金属は、カルシウム及びマグネシウムであり(その両者が潤滑油中で使用される清浄剤中に存在していてもよい)、並びにカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムとの混合物である。特に使用しやすい金属清浄剤は、中性及び過塩基性の、20から450のTBNを有するカルシウムスルフォネート、並びに中性及び過塩基性の、50から450のTBNを有するカルシウムフェネート及びカルシウム硫化フェネートである。過塩基性であれ、中性であれ、その両者であれ、清浄剤を組み合わせて使用することもできる。
スルフォネートは、典型的には、例えば石油の分画により又は芳香族炭化水素のアルキル化により得られるもののようなアルキル置換芳香族炭化水素のスルホン化により得られるスルホン酸から調製できる。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ビフェニル、又は、例えば、クロロベンゼン、クロロトルエン、及びクロロナフタレン等のそれらのハロゲン化誘導体を挙げることができる。アルキル化は触媒の存在下、3から70を越える炭素原子を有するアルキル化剤を使用して行うことができる。アルカリールスルフォネートは、通常、アルキル基に置換された芳香族部分あたり、約9から約80以上の炭素原子、好ましくは約16から約60の炭素原子を有する。
油溶性スルフォネート又はアルカリールスルホン酸は、金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、カルボン酸塩、硫化物、水硫化物、硝酸塩、ホウ酸塩、及びエーテルを使用して中和することができる。金属化合物の量は、最終生成物の所望のTBNを考慮して選択することができるが、典型的には化学量論的に要求される量の約100質量%から220質量%(好ましくは、少なくとも125質量%)の範囲である。
【0018】
フェノール及び硫化フェノールの金属塩は、例えば、酸化物又は水酸化物等の適切な金属化合物との反応により調製することができ、当業者に周知の方法により、中性又は過塩基性の生成物を得ることができる。硫化フェノールは、フェノールを硫黄、又は、例えば、硫化水素、モノハロゲン化硫黄、若しくはジハロゲン化硫黄等の硫黄含有化合物と反応させて、一般的には2以上のフェノールが硫黄を含有する架橋により架橋された化合物の混合物である生成物を形成することにより調製することができる。
【0019】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油に添加された場合、ガソリンエンジン及びディーゼルエンジンに使用されることで効果的に沈着物の形成を低減する、1以上の無灰分散剤を更に含んでいてもよい。本発明の組成物において有用な無灰分散剤は、分散させる所望の粒子と結合可能な官能基を有する、油溶性で重合された長鎖骨格を有する。典型的には、斯かる分散剤は、重合された骨格に、しばしば架橋性基を介して結合した、アミン、アルコール、アミド、又はエステル極性部分を有する。無灰分散剤は、例えば、長鎖炭化水素置換モノカルボン酸及びポリカルボン酸又はそれらの無水物の、油溶性塩、エステル、アミノエステル、アミド、イミド、及びオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体;ポリアミン部分が直接結合している長鎖脂肪族炭化水素;並びに長鎖置換フェノールとホルムアルデヒド及びポリアルキレンポリアミンとを縮合することにより形成されるマンニッヒ縮合生成物から選択されてもよい。使用される最も一般的な分散剤は、ヒドロカルビル置換コハク酸無水物とポリ(アルキレンアミン)との縮合生成物である周知のスクシンイミド分散剤である。モノ−スクシンイミド分散剤及びビススクシンイミド分散剤の両者(及びそれらの混合物)が周知である。
好ましくは、無灰分散剤は、4,000以上、例えば4,000から20,000の数平均分子量(Mn)を有する「高分子量」分散剤である。正確な分子量の範囲は、分散剤を形成するために使用されるポリマーの種類、存在する官能基の数、及び採用される極性官能基の種類に依存するであろう。例えば、ポリイソブチレンから得られる分散剤については、高分子量の分散剤は、1680から5600の数平均分子量を有する重合体骨格から形成されたものである。典型的な商業的に入手可能なポリイソブチレン系の分散剤は、約900から約2300に及ぶ数平均分子量を有し、マレイン酸無水物(MW=98)により官能化され、100から350の分子量を有するポリアミンにより誘導体化されたポリイソブチレン重合体を有する。低分子量のポリマーもまた、複数のポリマー鎖を分散剤に組み込むことにより、高分子量の分散剤を形成するために使用することができ、これは、当業者に知られた方法を使用して達成することができる。
分散剤の好ましいグループには、ポリアミンにより誘導体化されたポリα−オレフィン分散剤、具体的にはエチレン/ブテンα−オフェレイン及びポリイソブチレン系分散剤が含まれる。特に好ましくは、コハク酸無水物基により置換され、ポリエチレンアミン(例えば、ポリエチレンジアミン、テトラエチレンペンタアミン);又はポリオキシアルキレンポリアミン(例えば、ポリオキシプロピレンジアミン、トリメチロールアミノメタン);ヒドロキシ化合物(例えば、ペンタエリスリトール);及びそれらの組み合わせと反応させたポリイソブチレンから誘導される無灰分散剤が挙げられる。1つの特に好ましい分散剤の組み合わせは、コハク酸無水物基で置換され、(B)ヒドロキシ化合物(例えば、ペンタエリスリトール)、(C)ポリオキシアルキレンポリアミン(例えば、ポリオキシプロピレンジアミン)、又は(D)ポリアルキレンジアミン(例えば、ポリエチレンジアミン及びテトラエチレンペンタアミン)と反応させた(A)ポリイソブチレンであって、(A)1モルあたり、約0.3モルから約2モルの(B)、(C)、及び/又は(D)を使用したものが挙げられる。別の好ましい分散剤の組み合わせには、(A)ポリイソブテニルスクシンイミド無水物と(B)ポリアルキレンポリアミン(例えば、テトラエチレンペンタアミン)、及び(C)多価アルコール又はポリヒドロキシ置換脂肪族第1級アミン(例えば、米国特許第3,632,511号に記載されたペンタエリスリトール又はトリスメチロールアミノメタン)の組み合わせが含まれる。
【0020】
無灰分散剤の別のクラスは、マンニッヒ塩基縮合生成物を含む。一般的に、これらの生成物は、例えば、米国特許第3,442,808号に開示されるように、約1モルのアルキル置換モノ−又はポリヒドロキシベンゼンを、1モルから2.5モルのカルボニル化合物(例えば、ホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒド)及び0.5モルから2モルのポリアルキレンポリアミンと縮合することにより調製できる。そのようなマンニッヒ塩基縮合生成物は、ベンゼン基の置換基として、メタロセン触媒重合のポリマー生成物を含んでいてもよく、米国特許第3,442,808号に記載された方法と類似の方法で、コハク酸無水物を置換するそのようなポリマーを含む化合物と反応されていてもよい。メタロセン触媒系を使用して合成される官能化された及び/又は誘導体化されたオレフィンポリマーの例には、上記の刊行物に記載されている。
上記の分散剤は、例えば、米国特許第3,087,936号及び第3,254,025号に一般的に教示されるホウ素化等の慣用の様々な後処理により、更に後処理することもできる。分散剤のホウ素化は、アシル窒素含有分散剤を、アシル化窒素化合物1モルあたり、0.1から20の原子比のホウ素とするのに十分な量で、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ素酸、及びホウ素酸のエステル等のホウ素化合物で処理することにより容易に行うことができる。有用な分散剤は、0.05質量%から2.0質量%、例えば、0.05質量%から0.7質量%のホウ素を含む。生成物中で脱水ホウ酸ポリマー(主として(HBO23)として存在するホウ素は、例えば、ジイミドのメタホウ酸塩等、アミン塩として分散剤のイミド及びジイミドに結合すると考えられる。ホウ素化は、(アシル窒素化合物の質量に基づいて)0.5質量%から4質量%、例えば1質量%から3質量%のホウ素化合物、好ましくはホウ酸を、通常はスラリーとしてアシル窒素化合物に添加し、撹拌しながら135℃から190℃、例えば140℃から170℃で1時間から5時間加熱し、次いで、窒素ストリッピングを行うことにより行うことができる。或いは、ホウ素処理は、水を除去しながら、ジカルボン酸材料とアミンの加熱された反応混合物にホウ酸を添加することにより行うこともできる。当業者に一般的に知られた他の後処理も、適用することができる。
分散剤は、いわゆる「キャッピング剤」を使用した反応により、更に後処理されてもよい。通常、窒素を含有する分散剤は、そのような分散剤がフルオロエラストマーエンジンシールに対して有する悪影響を低減させるため、「キャップ」されている。多数のキャップ剤及びキャップ方法が知られている。知られている「キャップ剤」の中では、塩基性分散剤のアミノ基を、非塩基性部分(例えば、アミド基又はイミド基)に変換するものが最も好適である。窒素含有分散剤及びアセト酢酸アルキル(例えば、アセト酢酸エチル(EAA))との反応が、例えば、米国特許第4,839,071号、第4,839,072号、及び第4,579,675号に記載されている。窒素含有分散剤と蟻酸との反応は、例えば、米国特許第3,185,704号に記載されている。窒素含有分散剤と他の好適なキャッピング剤との反応生成物は、米国特許第4,663,064号(グリコール酸);第4,612,132号、第5,334,321号、第5,356,552号、第5,716,912号、第5,849,676号、第5,861,363号(炭酸アルキル及び炭酸アルキレン、例えば炭酸エチレン);第5,328,622号(モノ−エポキシド);第5,026,495号、第5,085,788号、第5,259,906号、第5,407,591号(ポリ(例えば、ビス)−エポキシド);及び第4,686,054号(マレイン酸無水物又はコハク酸無水物)に記載されている。前述のリストは完全なものではなく、窒素含有分散剤をキャップする他の方法も当業者に知られている。
【0021】
ピストンにおける十分な沈着物の制御のため、窒素含有分散剤を、0.03質量%以上0.15質量%以下、好ましくは0.07質量%以上0.12質量%以下の窒素を含む潤滑油組成物を提供する量で添加することができる。
無灰分散剤は、本質的には塩基性であり、それ故、極性基の性質により、分散剤がホウ酸化されていてもキャッピング剤で処理されていても、そのTBNが5mg KOH/g以上200mg KOH/g以下であってもよい。しかしながら、塩基性分散剤の窒素が高レベルで含有される場合、エンジンシールを形成するために慣用的に使用されているフルオロエラストマー材料に悪影響を及ぼすことが知られており、それ故、ピストンへの沈着物の制御を行ううえで必要な最低量の分散剤を使用することが好ましく、5mg KOH/mgを超えるTBNを有する分散剤を、実質的に使用しないことが好ましく、又は、そのような分散剤を使用しないことが好ましい。好ましくは、採用される分散剤の量は、潤滑油組成物中において、TBNが4mg KOH/g以下、好ましくは3mg KOH/g以下の寄与となることが好ましい。分散剤により、潤滑油組成物の全体のTBNが、30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下となることが更に好ましい。
【0022】
本発明の組成物には、特定の要求に合致可能にするため、追加の添加剤を添加してもよい。潤滑油組成物に含有されうる添加剤の例は、金属防錆剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、他の分散剤、消泡剤、耐磨耗剤、及び流動点降下剤を挙げることができる。それらのうちの一部については、以下で更に詳細に議論される。
【0023】
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩は耐磨耗剤及び抗酸化剤として頻繁に使用される。当該金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、錫、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、又は亜鉛であってもよく、亜鉛であることが好ましい。亜鉛塩は、潤滑油組成物の全質量に基づいて、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上2質量%以下の量で、潤滑油において最も一般的に使用される。それらは、まず通常は1以上のアルコール又はフェノールを、P25と反応させることにより、ジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、次いで、形成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することにより、公知の技術により調製することができる。例えば、ジチオリン酸は、第1級アルコールと第2級アルコールの混合物を反応させることにより製造することができる。或いは、一のジチオリン酸上のヒドロカルビル基がその特性において全て2級であり、他のジチオリン酸上のヒドロカルビル基がその特性において全て1級である複数のジチオリン酸を調製することができる。亜鉛塩を形成するためには、塩基性又は中性の亜鉛化合物を使用することができるが、酸化物、水酸化物、及び炭酸塩が最も一般的に採用される。市販の添加剤は、中和反応に過剰の塩基性亜鉛化合物を使用するため、度々、過剰な亜鉛を含んでいる。
好ましいジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛はジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、以下の式で示される:
【化2】

【0024】
式中、R及びR’は同一の又は異なった、1以上18以下、好ましくは2以上12以下の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリール、及び脂環式基等の基を含む。R基及びR’基として特に好ましいものは、2以上8以下の炭素原子を有するアルキル基である。それ故、上記基は、例えば、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、アミル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、n−オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2−エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであってもよい。油溶性を獲得するためには、ジチオリン酸における炭素原子の全炭素数(即ち、R及びR’)は、一般的には約5以上である。ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛は、それ故、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含んでいてもよい。本発明は、組成物の全質量に基づいて、約0.02質量%から約0.12質量%、例えば約0.03質量%から約0.10質量%、又は例えば約0.05質量%から約0.08質量%のリンのレベルを有する潤滑油組成物に用いられる場合、特に有用である。一の好ましい実施態様では、本発明の潤滑中組成物は、主に(例えば、50モル%を超える量、例えば60モル%を超える量の)第2級アルコールから得られるジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む。
【0025】
酸化防止剤又は抗酸化剤は、使用中にミネラル油が劣化する傾向を低減する。酸化的劣化は潤滑油中のスラッジ、金属表面上でのワニス様沈着物、粘度の増加により明らかになる。そのような酸化防止剤は、ヒンダードフェノール、好ましくはC5からC12のアルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステル類のアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、油溶性フェノラート及び硫化フェノラート、ホスホ硫化炭化水素又は硫化炭化水素、リンエステル類、金属チオカルバメート類、米国特許第4,867,890に記載されるような油溶性銅化合物、及びモリブデン含有化合物を含む。
アミン窒素に直接結合する、少なくとも2つの芳香族基を有する典型的な油溶性芳香族アミンは、6個から16個の炭素原子を有する。当該アミンは2より多い芳香族基を有していてもよい。全体で少なくとも3つの芳香族基を有し、2つの芳香族基が共有結合、又は原子若しくは基(例えば、酸素原子若しくは硫黄原子、又は−CO−、−SO2−、又はアルキレン基)により連結され、2つがアミン窒素に直接結合している化合物もまた、窒素に直接結合した、少なくとも2つの芳香族基を有する芳香族アミンであると考えられる。芳香族環は、典型的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシルアミノ基、ヒドロキシ基、及びニトロ基から選択される、1以上の置換基で置換されていてもよい。
一般的に、複数の抗酸化剤が組み合わせて採用される。1の好ましい実施態様においては、本発明の潤滑油組成物は、0.1質量%以上1.2質量%以下のアミン系抗酸化剤、及び0.1質量%以上3質量%以下のフェノール性抗酸化剤を含む。別の好ましい実施態様においては、本発明の潤滑油組成物は、0.1質量%以上1.2質量%以下のアミン系抗酸化剤、0.1質量%以上3質量%以下のフェノール系抗酸化剤、及び潤滑油組成物に10ppm以上1000ppm以下のモリブデンを提供する量のモリブデン化合物を含む。
【0026】
好適な粘度調整剤の代表例としては、ポリイソブチレン、エチレン及びプロピレンの共重合体、ポリメタクリレート、メタクリレート共重合体、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物との共重合体、スチレンとアクリル酸エステルとの共重合体、スチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン、及びイソプレン/ブタジエンの部分的に水素化された共重合体、並びにブタジエン及びイソプレンの部分的に水素化されたホモポリマーを挙げることができる。
最終的な油における他の成分と相溶性である摩擦調整剤及び燃料節約剤もまた、含有できる。そのような材料の例としては、高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えば、モノオレイン酸グリセリル;長鎖ポリカルボン酸とジオールとのエステル、例えば2量体化不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;並びにアルコキシル化アルキル置換モノアミン、ジアミン、及びアルキルエテールアミン、例えばエトキシル化獣脂アミン及びエトキシル化獣脂エーテルアミンを挙げることができる。
他の知られた摩擦調整剤は、油溶性オルガノモリブデン化合物を含む。そのようなオルガノモリブデン摩擦調整剤は、抗酸化特性及び抗磨耗特性も潤滑油組成物に付与する。そのような油溶性オルガノモリブデン化合物の例は、ジチオカルバミン酸、ジチオリン酸、ジチオホスフィン酸、キサンテート、チオキサンテート、スルフィド等、及びそれらの混合物を含む。特に好ましいものは、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、モリブデンアルキルキサンテート、及びモリブデンアルキルチオキサンテートを挙げることができる。
更に、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってもよい。これらの化合物は、ASTM試験D−664又はD−2896滴定法で測定されるように、塩基性窒素化合物と反応して、典型的には6価となる。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、及び他のアルカリ金属モリブデン酸塩及び他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo23Cl6、三酸化モリブデン又は類似の酸性モリブデン化合物が含まれる。
【0027】
モリブデン化合物のうち、式
Mo(ROCS24 及び Mo(RSCS24
のオルガノモリブデン化合物が本発明の組成物において有用である。
【0028】
式中、Rはアルキル、アリール、アラルキル、及びアルコキシアルキルからなる群から選択され、一般的に1個から30個の炭素原子、好ましくは2個から12個の炭素原子、及び最も好ましくは2個から12個の炭素原子を有する有機基である。特に好ましいものは、モリブデンのジアルキルジチオカルバミン酸である。
本発明の潤滑油組成物において有用なオルガノモリブデン化合物の別の群は、3核のモリブデン化合物であり、式Mo3knzで表されるもの、及びそれらの混合物であって、ここでLが独立して、当該化合物を油中に溶解し又は分散させるために十分な数の炭素原子を有する有機基を有するリガンドから選択され、nは1以上4以下であり、kは4以上7以下で変化し、Qは、例えば、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテル等、中性の電子供与性化合物の群から選択され、並びにzは0から5であり、非化学量論的値も含む。全てのリガンドとなる有機基の中に、少なくとも、合計21個の炭素原子が存在しているべきであり、例えば少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個の炭素原子が存在する。
【0029】
分散剤粘度指数向上剤は、粘度指数向上剤としても分散剤としても機能する。分散剤粘度指数向上剤の例としては、アミン、例えばポリアミンと、ヒドロカルビル置換モノ−又はジ−カルボン酸との反応生成物であって、ヒドロカルビル置換基が、化合物に粘度指数向上特性を付与するのに十分な長さの鎖を含むものを挙げることができる。一般的には、粘度指数向上分散剤は、例えば、ビニルアルコールのC4からC24の不飽和エステル、C3からC10の不飽和モノカルボン酸、又はC4からC10のジカルボン酸と、4個から20個の炭素原子を有する不飽和の窒素含有モノマーとのポリマー;C2からC20のオレフィンと、アミン、ヒドロキシルアミン、又はアルコールで中和された不飽和のC3からC10のモノ−若しくはジ−カルボン酸のポリマー;エチレンと、C3からC20のオレフィンのポリマーであって、C4からC20の不飽和の窒素含有モノマーをそこにグラフト重合するか、不飽和酸をポリマー骨格にグラフト重合させることにより反応させ、次いで、グラフト重合された酸のカルボン酸基をアミン、ヒドロキシアミン、又はアルコールと反応させたものであってもよい。
流動点降下剤は潤滑油流動性向上剤(LOFI)とも知られているが、流体が流動し始め、注げるようにある最低の温度を低下させる。そのような添加剤は、よく知られている。流体の低温での流動性を改善するそのような添加剤の典型は、フマル酸のC8からC18ジアルキル/酢酸ビニルのコポリマー、及びポリメタクリレートである。例えば、シリコン油又はポリジメチルシロキサンのような、ポリシロキサンタイプの消泡剤により泡制御がなされる。
上記の添加剤のうちの一部は、多様な効果を提供できる;それ故、例えば、単一の添加剤が分散剤酸化防止剤として作用できる。このやり方は周知であり、本明細書において更に詳細に述べられる必要はない。
【0030】
本発明においては、混合物の粘度安定性を維持する添加剤を含有することも好ましい。それ故、極性基を有する添加剤は、混合前の段階で好適な低粘度を実現するが、長期間保存した場合、一部の組成物においては粘度の増大が観察されている。この粘度の増大を制御するのに効果的な添加剤には、本明細書中において、上記で開示された無灰分散剤の調製で使用されるモノカルボン酸若しくはジカルボン酸又は無水物との反応により官能化された長鎖炭化水素が挙げられる。
潤滑油組成物が1以上の上記の添加剤を含有する場合、それぞれの添加剤は、典型的には、当該添加剤が所望の機能を提供できる量で基油に混合される。
潤滑油組成物が1以上の上記の添加剤を含有する場合、それぞれの添加剤は、典型的には、当該添加剤所が所望の機能を提供できる量で基油に混合される。クランクケース潤滑油に使用される場合、そのような添加剤の代表的な有効量は、以下に列挙される。列挙された全ての値は、活性成分の質量%で記載される。
【表2】

【0031】
完全に製剤化された本発明の潤滑油組成物は、好ましくは少なくとも6mg KOH/g、例えば6mg KOH/g以上20mg KOH/g以下、好ましくは少なくとも8.5mg KOH/g、例えば8.5mg KOH/g以上13mg KOH/g以下、より好ましくは9mg KOH/g以上13mg KOH/g以下のTBNを有する(ASTM D4739)。
完全に製剤化された本発明の潤滑油組成物は、好ましくは1.1質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下の硫酸灰分(SASH)含量(ASTM D-874)を有する。
好ましくは、完全に製剤化された本発明の潤滑油組成物は、少なくとも5%、例えば少なくとも10%、例えば少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%、例えば少なくとも25%の組成物のTBNを、少なくとも1のフェニレンジアミン化合物を含むTBN原料から得る。より好ましくは、完全に製剤化された本発明の潤滑油組成物は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、例えば少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%の組成物のTBNを、少なくとも1のフェニレンジアミン化合物から得て、25%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満の組成物のTBNを、塩基性分散剤を含め、フェニレンジアミン化合物以外の無灰TBN原料から得る。
完全に製剤化された本発明の潤滑油組成物は、更に好ましくは0.4質量%未満、より好ましくは0.35質量%未満、より好ましくは約0.03質量%未満、例えば0.15質量%未満の硫黄含量を有する。好ましくは、完全に製剤化された潤滑油組成物(潤滑粘度の油に全ての添加剤と添加剤の希釈剤を加えたもの)のNoack揮発度(ASTM D5880)は、13以下、例えば12以下、好ましくは10以下である。完全に製剤化された本発明の潤滑油組成物は、好ましくは1200ppm以下、例えば1000ppm以下、又は800ppm以下のリンを有する。
【0032】
必須ではないが、添加剤を含む1以上の添加剤濃縮物(添加剤パッケージとも言及される濃縮物)を調製することが望ましく、それによって数種の添加剤を油に同時に添加し、潤滑油組成物を形成することができる。本発明の潤滑油組成物を調製するための濃縮物は、例えば、1質量%以上、例えば1質量%以上30質量%以下の1以上のフェニレンジアミン化合物;10質量%以上40質量%以下の窒素含有分散剤;2質量%以上20質量%以下のアミン系抗酸化剤、フェノール系抗酸化剤、モリブデン化合物、又はそれらの混合物;5質量%以上40質量%以下の清浄剤;及び2質量%以上20質量%のジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩を含む。
最終的な組成物は、5質量%以上25質量%以下、好ましくは5質量%以上18質量%以下、典型的には10質量%以上15質量%以下の濃縮物を使用し、残りは潤滑粘度の油と粘度調整剤となる。
本明細書で記載される全ての重量(及び質量)百分率は(別様に示唆されない限り)、添加剤、及び/又は添加剤パッケージの活性成分(A.I.)の含有量に基づいており、付随する如何なる希釈剤も排除される。しかしながら、清浄剤は、通常は、製品から除去されない希釈油中で形成され、清浄剤のTBNは通常は、付随する希釈油中の活性清浄剤について供される。それ故、清浄剤に関する場合、重量(及び質量)百分率は(別様に示唆されない限り)、活性成分と付随する希釈油の総重量(又は質量)の百分率である。
【0033】
本発明は、以下の実施例を参照することにより、更に理解され、ここで、別様に記載されない限り、全ての部は重量部(又は質量部)である。
【実施例】
【0034】
本発明は、以下の実施例により説明されるが、決して、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
<TBN性能>
潤滑油組成物の塩基性は、酸滴定により決定できる。結果として得られる中和価を全塩基価、即ちTBNとして表し、様々な方法を使用して測定できる。通常、無灰塩基原料を評価するために選択される2種の方法は、ASTM D4739(電位差塩酸滴定)及びASTM D2896(電位差過塩素酸滴定)である。ASTM D2896は、ASTM D4739よりも強い酸を使用し、より極性の溶媒系を使用する。より強い酸とより極性の溶媒との組み合わせにより、強い塩基及び弱い塩基の両方の存在を測定する、より再現性のある方法となる。ASTM D2896により決定されるTBN値は、未使用油の規格で度々使用される。ASTM D4739法はエンジン試験において好まれ、使用済み油を使用してTBNの枯渇/残留が測定される。より強い塩基性種のみが滴定されるため、一般的に、ASTM D4739法ではより低いTBNの測定値となる。
<成分>
以下のアルキル化フェニレンジアミン類(「PDA」)が使用された:
PDA1:N,N’−ジ−sec−ブチル−N,N’−ジ−(2−エチルヘキシル)−p−フェニレンジアミン
PDA2:N,N’−ジ−(1,3−ジメチルブチル)−N,N’−ジ−(2−エチルヘキシル)−p−フェニレンジアミン
PDA3:N,N,N’N’−テトラ−n−ヘプチル−p−フェニレンジアミン(比較)
PDA4:N,N,N’N’−テトラ−n−ペンチル−p−フェニレンジアミン(比較)
PDA5:N,N’−ジ−sec−ブチル−N,N’−ジ−n−ペンチル−p−フェニレンジアミン(比較)
PDA1から2は、本発明のものである;PDA3から5は比較のためのものである。それぞれのPDAは、アルデヒド又はケトン及びトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムを使用し、Adbel-Majid, A. F. et al, 61 J. Org. Chem. 3849-62 (1996)の方法を修正して、フェニレンジアミンの還元的アルキル化を使用して製造された。当業者であれば、様々な出発原料を使用して所望の反応を達成するために、化学量論、反応時間、及び反応温度の調整が必要であることを認識するだろう。
【0036】
[合成例]
PDA1:N,N’−ジ−sec−ブチル−N,N’−ジ−(2−エチルヘキシル)−p−フェニレンジアミン
ジクロロメタン(500mL)中のN,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン(20.8g、94mmol)及びトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(60.0g、283mmol)を2−エチルヘキサナール(30.3g、236mmol)で処理し、室温で15時間撹拌した。TLCにより反応の完了を確認し、反応混合物をビーカーに移して、飽和NaHCO3水溶液を添加して反応を止め、沸騰が止むまで撹拌した。有機相を分離し、水で2回、飽和食塩水で1回洗浄して乾燥し(MgSO4)、濾過し、減圧下で濃縮して赤い油を得た。生成物をクロマトグラフィーにかけた(溶離液:ヘプタン中の5%酢酸エチル)。関係する画分を収集し、濃縮して赤い油を得た(36.16g、収率82%)。
PDA2:N,N’−ジ−(1,3−ジメチルブチル)−N,N’−ジ−(2−エチルヘキシル)−p−フェニレンジアミン
N,N’−ジ−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(17g、61.5mmol)及び2−エチルヘキサナール(18.53g、144.5mmol)をジクロロメタン(500mL)中に溶解し、室温で、液化装置及び磁気撹拌装置を取り付けた1リットルの丸底フラスコで共に撹拌して、その間、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(30.63g、144.5mmol)を、1時間かけて小分けにして添加した。混合物を合計18時間放置した。粗生成物を150mLの水で数分間撹拌し、次いで炭酸ナトリウム水溶液(250mLの水中60g)を小分けにして添加した。これを50%加えた後には、沸騰はほとんど落ち着いていた。混合物を更に100mLの水で撹拌し、分離漏斗を用いて分離した。有機相を水(500mL+750mL)、及び飽和食塩水(500mL)で洗浄した。それを次いで、硫酸マグネシウムで乾燥し、セライト521で濾過し、蒸発させて濃い茶色の油を得た。生成物をクロマトグラフィー(溶離液:ヘプタン中の5%EtOAc)にかけた。関係する画分を合わせて、濃縮し、生成物を濃色の油として得た(28.6g、収率93%)。
PDA3、4、及び5は、類似の方法により調製した。
【0037】
<潤滑油>
油中に存在する塩基性の成分の量は、酸滴定により決めることができる。結果として得られる中和価を、全塩基価、即ちTBNとして表示する。添加されたPDAによりもたらされる追加のTBNを測定するため、試料は、ASTM方法D2896及びD4739の両者において、参照油中、1%及び2%の処理率(treat rate)で試験された。方法D4739は、D2896よりも極性の低い溶媒及び弱い酸を使用し、それ故より強い塩基のみが滴定された。D4739は、酸を中和する油の性能及びこの属性に関連したよりよい特性をより正確に測定するための基準として度々使用される。
使用されたアルキル化フェニレンジアミン化合物は、上記に列挙された5種である。
【0038】
[実施例1]
基油中に分散剤、清浄剤混合物、抗酸化剤、ZDDP耐磨耗剤、流動点降下剤、及び粘度調整剤を含む、完全に製剤化された潤滑油組成物を調製した。市販のクランクケース潤滑油を代表する潤滑油組成物を、参照潤滑油として使用した。
上記のフェニレンジアミン化合物の特性を調べるため、1.00質量%及び2.00質量%のPDA1をそれぞれ別々の参照潤滑油の試料に添加した。増加分の基油をそれぞれの試料に添加し、同程度の総量とした。結果として得られた試料のTBNをASTM D4739及びASTM D2896のそれぞれに従って決定した(単位はmg KOH/g)。結果を表IIIに示す。
【表3】

【0039】
表IIIのデータによれば、PDA1が、SASH含量を増加させることなく、ASTM D2896及びD4739により測定される潤滑油組成物のTBNを、効果的に増大させていることが分かる。
【0040】
[実施例2−5]
PDA2から5をPDA1の代わりに使用して、実施例1の方法を繰り返した。
(実施例2(PDA2))
PDA2により達成された結果を表IVに示す。
【表4】

【0041】
表IVのデータは、PDA2が、SASH含量を増大させることなく、ASTM D2896及びASTM D4739により測定される潤滑油組成物のTBNを、効果的に増大させることを示す。
【0042】
(実施例3(PDA3))
PDA3により達成された結果を表Vに示す。
【表5】

【0043】
表Vのデータは、PDA3が、SASH含量を増大させることなく、ASTM D2896及びASTM D4739により測定される潤滑油組成物のTBNを、効果的に増大させることを示す。
【0044】
(実施例4(PDA4))
PDA4により達成された結果を表VIに示す。
【表6】

【0045】
表VIのデータは、PDA4がSASH含量を増大させることなく、ASTM D2896及びASTM D4739により測定される潤滑油組成物のTBNを、効果的に増大させることを示す。
【0046】
(実施例5(PDA5))
PDA5により達成された結果を表VIIに示した。
【表7】

【0047】
表VIIのデータは、PDA5が、SASH含量を増大させることなく、ASTM D2896及びASTM D4739により測定される潤滑油組成物のTBNを、効果的に増大させることを示す。
【0048】
[実施例6]
上記の種類の完全に製剤化された潤滑油のそれぞれについて、更に試験して、PDA1から5それぞれの腐食及びシール適合性に対する効果を決定した。腐食は、製剤化された潤滑油がAPI CJ-4及びACEA E6規格を取得するために合格しなければならない、高温腐食ベンチテスト(HTBCT)(ASTM D6594)を使用して試験した。シール適合性は、MB p228.51潤滑油としての保証を取得するために合格しなければならない、工業基準MB-AK6試験を使用して評価した。シール適合性及び腐食は、参照油のTBNに対して、(D4739で測定して)2のTBNの上昇を与える量のフェニレンジアミン化合物の存在下で試験された。結果を表VIIIに示した。
【表8】

【0049】
表VIIIのデータは、(本発明の)PDA1及びPDA2は、(D4739で測定して)2のTBNの上昇をもたらす量で参照油に添加された場合、腐食及びシール適合性に悪影響を与えないことを示す。PDA PDA3及びPDA4は、D2896及びD4739のそれぞれで測定した潤滑油組成物のTBNを効果的に増大させるが、シール適合性を低減させる。PDA5の添加により、D2896及びD4739のそれぞれにより測定される潤滑油組成物のTBNが効果的に増大したが、潤滑油のHTCBT試験への不合格及びシール適合性の低減にはつながった。
本明細書及び添付の特許請求の範囲に提示される、複数の特定の成分を含む、からなる、又は実質的にからなる組成物の記載は、上記複数の特定の成分を混合することにより製造される組成物を包含するとも解釈されるべきである。本発明の原理、好ましい実施態様、及び本発明の実施の形態は、前述の明細書に記載されている。出願人が提出したものは、彼らの発明であるが、開示された実施態様は限定よりも例示であるとみなされるので、開示された特定の実施態様に限定されるものと解釈されるものではない。当業者により、本発明の精神から逸脱することなく、変更を加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多量の潤滑粘度の油、及び少量の、1以上のN,N’−テトラ−脂肪族ヒドロカルビル−フェニレンジアミン類を含む、又は混合して作られるクランクケース潤滑油組成物であって、前記ヒドロカルビル基の1又は2がα炭素原子において分岐して3個から12個の炭素原子を有し、前記ヒドロカルビル基の1又は2がβ炭素原子において分岐して4個から12個の炭素原子を有し;他の全てのアルキル基も1個から12個の炭素原子を有するクランクケース潤滑油組成物。
【請求項2】
前記ヒドロカルビル基がアルキル基である請求項1の組成物。
【請求項3】
ASTM D4739で測定して少なくとも6mg KOH/gのTBNを有する請求項1の組成物。
【請求項4】
ASTM D4739で測定して約6mg KOH/gから約20mg KOH/gのTBNを有する請求項3の組成物。
【請求項5】
0.8質量%以下のSASH含量を有する請求項1の組成物。
【請求項6】
ASTM D4739により測定される組成物のTBNの少なくとも10%が、前記フェニレンジアミン化合物に由来し、組成物のTBNの25%未満が前記フェニレンジアミン化合物以外の無灰TBN源に由来する請求項1の組成物。
【請求項7】
ASTM D4739により測定される組成物のTBNの、例えば少なくとも15%が前記フェニレンジアミン化合物に由来する請求項6の組成物。
【請求項8】
ASTM D4739により測定される組成物のTBNの少なくとも25%が前記フェニレンジアミン化合物に由来する請求項7の組成物。
【請求項9】
組成物のTBNの20%未満が前記フェニレンジアミン化合物以外の無灰TBN源に由来する請求項6の組成物。
【請求項10】
ASTM D4739により測定される組成物のTBNの少なくとも25%が前記フェニレンジアミン化合物に由来し、組成物のTBNの20%未満が前記フェニレンジアミン化合物以外の無灰TBN源に由来する請求項6の組成物。
【請求項11】
大型車両用ディーゼル(HDD)エンジン用のクランクケース潤滑油である請求項1の組成物。
【請求項12】
API CJ-4及びACEA E6規格の制限の範囲内である、高温腐食ベンチテスト(ASTM D6594)における銅の腐食性能を有し、MB p228.51規格の制限の範囲内である、MB-AK6試験におけるフルオロエラストマー系エンジンシール材料との適合性を有する請求項1の組成物。
【請求項13】
約1質量%から約30質量%の1以上の前記フェニレンジアミン化合物;約10質量%から約40質量%の窒素含有分散剤;約2質量%から約20質量%のアミン性抗酸化剤、フェノール性抗酸化剤、モリブデン化合物、又はそれらの混合物;約5質量%から約40質量%の清浄剤;及び約2質量%から約20質量%のジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩を含む、請求項1の潤滑油組成物の調製のための濃縮物。
【請求項14】
(a)多量の潤滑粘度の油に、少量の、請求項1の1以上のN,N’−テトラ−脂肪族ヒドロカルビル−フェニレンジアミン類を供して、同時にSASHを増大させることなく、ASTM D4739により測定される組成物のTBNがそれにより高められ、API CJ-4及びACEA E6規格の制限の範囲内である、高温腐食ベンチテスト(ASTM D6594)における銅の腐食性能を有し、MB p228.51規格の制限の範囲内である、MB-AK6試験におけるフルオロエラストマー系エンジンシール材料との適合性を有する潤滑油組成物を作製する工程;
(b)エンジンクランクケースに潤滑油組成物を供する工程;及び
(c)前記エンジンを運転する工程
を有する運転中に圧縮点火内燃エンジンの表面を潤滑する方法。
【請求項15】
以下の式のN,N’−テトラ−脂肪族ヒドロカルビルフェニレンジアミン。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、及びR4のそれぞれは、独立して3個から12個の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビル基であり、R1、R2、R3、及びR4のうち少なくとも1つは、結合する窒素に対してα位で分岐し、3個から12個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1つは、結合する窒素に対してβ位で分岐し、4個から12個の炭素原子を有するヒドロカルビル基であり;R5又はそれぞれのR5は、独立に水素原子又は1個から12個の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビル基であり;nは0から4である。)
【請求項16】
5がヒドロカルビル基である場合に、R1、R2、R3、及びR4の1以上のヒドロカルビル基、並びにR5がアルキル基である請求項15のフェニレンジアミン。
【請求項17】
5がヒドロカルビル基である場合に、R1、R2、R3、及びR4のそれぞれのヒドロカルビル基、並びにR5がアルキル基である請求項16のフェニレンジアミン。
【請求項18】
1及びR3のそれぞれが独立に、結合した窒素原子に対してα位で分岐し、3個から12個の炭素原子を有するアルキル基であり;及びR2及びR4のそれぞれが独立に、結合した窒素原子に対してβ位で分岐し、4個から12個の炭素原子を有するアルキル基である請求項15のフェニレンジアミン。
【請求項19】
約450から約700の平均分子量を有する請求項15のフェニレンジアミン。
【請求項20】
約450から約600の平均分子量を有する請求項19のフェニレンジアミン。
【請求項21】
約500から約600の平均分子量を有する請求項20のフェニレンジアミン。
【請求項22】
窒素原子が互いにパラ位に配向している請求項15のフェニレンジアミン。
【請求項23】
N,N’−ジ(s−ブチル)−N,N’−ジ(2−エチルヘキシル)−p−フェニレンジアミン。
【請求項24】
N,N’−ジ(1,3−メチルブチル)−N,N’−ジ(2−エチルヘキシル)−p−フェニレンミアミン。
【請求項25】
ASTM D4739で測定して少なくとも50mg KOH/gのTBNを有する請求項15のフェニレンジアミン。
【請求項26】
ASTM D4739で測定して少なくとも120mg KOH/gのTBNを有する請求項25のフェニレンジアミン。
【請求項27】
請求項15のフェニレンジアミン化合物の混合物。

【公開番号】特開2011−94144(P2011−94144A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−257262(P2010−257262)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【出願人】(510164223)ケムチュラ コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】