説明

潤滑油組成物の高速大量処理審査方法

【課題】潤滑油組成物とエラストマーとの適合性を決定するための高速大量処理審査方法を提供する。
【解決手段】複数の異なる潤滑油組成物の液体試料とエラストマーとの適合性を決定する方法を提供する。各試料は、一種もしくはそれ以上の潤滑粘度の基油と一種もしくはそれ以上の潤滑油添加剤を含んでいる。その方法は有利にはコンビナトリアル・ケミストリを使用して最適化することができ、それにより潤滑油組成物の組合せのデータベースが生成する。市場の状況が変化したり、および/または製品要求条件の変動または顧客側の仕様変更があっても、所望の製品を製造するのに適した条件を、中断時間無しか又は僅かな中断時間で確定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には潤滑油組成物を高速大量処理により審査(スクリーニング)する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質合成にコンビナトリアル(組み合わせ)合成を使用することは、迅速な合成及び審査(スクリーニング)方法を使用して高分子、無機又は固体物質のライブラリを構築することを目的とした、比較的新しい研究領域である。例えば、反応装置技術の進歩によって、化学者や技術者は、新規な薬品の発見を追求して別々の有機分子の大量ライブラリを迅速に作製する能力が与えられ、それによりコンビナトリアル・ケミストリと呼ばれる成長過程にある研究部門の発展に至っている。コンビナトリアル・ケミストリとは一般に、多様性のある物質または化合物の収集群−普通はライブラリとして知られている−を作製するための方法および物質、並びに所望の特性についてライブラリを評価または審査するための技術および機器を意味している。
【0003】
今日、潤滑剤産業における研究には、候補の潤滑油組成物を個々に製造すること、次に大量の候補組成物を用いて試験することにより候補の巨視的分析を行うことが含まれる。さらに、各候補組成物を試験するのに用いられる方法では人手による操作が要求される。これによって、試験して中心的な組成物と確定することができる組成物の数は順次、著しく減少する。
【0004】
従来の審査操作に関連した欠点は、次のように理解することができる。一例として、例えば客車用やヘビーデューティ用ディーゼルエンジン油として使用される潤滑油組成物のリン及び硫黄分を低減することに対する行政および自動車産業からの圧力が、例えば酸化試験、摩耗試験および適合性試験など一定の試験を満足しながら同時にリン及び硫黄を低レベルで含む油組成物を確定する新しい研究を導いている。このような状況で、米軍規格MIL−L−46152Eおよび日米自動車工業会が規定したILSAC規格は、現在、エンジン油のリン分を0.10質量%かそれ未満にするように要求していて、将来的にはリン分を更に低いレベル、例えば2004年6月には0.08質量%未満、2006年1月には0.05質量%未満にするように提案している。また、現在、エンジン油の硫黄分については工業規格要求が無いものの、2007年6月の排出ガス要求値を満たすために硫黄分を0.3質量%未満にすることが提案されている。よって、潤滑油中のリン及び硫黄の量を更にもっと減少させ、それにより将来の工業規格が提案するエンジン油のリン及び硫黄分を満たしながら、同時に高リン及び硫黄分エンジン油が有する酸化又は腐食防止性および耐摩耗性をなお保持していることが望ましい。これを達成するためには、多数の提案された潤滑油組成物を試験してどの組成物が有用であるかを決定しなければならない。
【0005】
さらに、例えば変速機液、油圧作動液、ギヤ油、船舶用シリンダ油、圧縮機油および冷凍機潤滑剤等のような他の潤滑剤用途でも、同様の仕様の変化や変わる顧客要求が再配合に向けて奮闘を促している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したように、潤滑剤産業における今日の研究では再配合を迅速なやり方で起こすことは不可能である。このように当該分野では、潤滑油組成物の製造およびそのような組成物の審査のためのより効率的で経済的で組織だった方法を必要としている。例えば、潤滑剤製造業者が直面する問題として、エンジン内のシール劣化の問題がある。全ての内燃機関はその組立装置内で、例えばバイトンシールなどのエラストマーシールを使用している。使用中に、これらエラストマーシールはエンジン作動条件下で潤滑油添加剤組成物や潤滑油組成物により重大な劣化が生じやすい。シールに生じた劣化は、結果としてシールの脆化や亀裂をもたらし、エンジンから油が漏れ出すようになる。エンジンのエラストマーシールを崩壊させる潤滑油組成物は、エンジン製造業者にとって許容できないものである。
【0007】
エラストマー適合性の別の例は、例えばケーブルや金属接触部品に取り付けられている、あるいはエルボやブッシュなど補足的な設計部品、コネクタ、スプライス、スイッチ、ヒューズ、接合部品およびその他各種の構成部品に連結しているエラストマー電気ケーブル付属品に見られる。ケーブル付属品は通常、エチレン−プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエン単量体(エチレンプロピレンジエンメチル又はEPDMとも呼ばれる)などの、エチレン−プロピレンエラストマーに基づいていて、一般にシリコーン系油及びグリースで潤滑にされている。殆どどのような設計でも、取り付けには、対応する摩擦力が掛かりながら相互に滑動するインターフェースが必要である。これら構成部品が弾性であるために、これらの摩擦力は非常に高い。よって、これらインターフェースの潤滑は不可欠である。最も一般的な潤滑剤は、油およびグリースであり、一般に潤滑を要するエラストマーの種類との適合性に基づいている。シリコーン油及びグリースは、優れた電気特性を示し、またエチレン−プロピレン系エラストマーと非常に良く適合する。これら潤滑剤は通常、ケーブル付属品とは別個のパッケージとして製造業者から高い価格で支給されている。
【0008】
一般にケーブル付属品は、寿命期間がおよそ30年乃至40年であり、多数のものに接続および取外しのために取外し可能なインターフェースが使用されている。多くの油及びグリースは高品質であり、何年間にもわたって有効に使用されるが、期間が超過するとしばしばその潤滑能を失ってしまう。これら潤滑剤に使用される油本来の可動性ゆえに、油はインターフェースから「滲み出る」および/または移動して離れる傾向にある。その結果、インターフェースは「すっかり乾き」、高い摩擦係数の弾性表面を露出させる。結果として、産業上重要な問題である部品膠着が生じる。
【0009】
従って、複数の試料候補の潤滑油組成物を、各試料を少量で用いてエラストマーとの適合性について迅速に審査することが望まれている。このようにして、莫大な数の多様性のある組成物の高速大量処理(ハイスループット)による製造及び審査を遂行して、どの組成物が実質的にエラストマーと適合性があるかを確定することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、潤滑油組成物とエラストマーとの適合性を決定するための高速大量処理審査方法を提供する。本発明の一態様に従って、潤滑油組成物のエラストマーとの適合性をプログラム制御下で審査する高速大量処理方法であって、下記の工程からなる方法を提供する:
(a)複数の異なる潤滑油組成物試料であって、各試料が(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる試料を供給する工程、(b)少なくとも一種のエラストマーを供給する工程、(c)各試料とエラストマーとの適合性を測定して、各試料についてのエラストマー適合性データとする工程、そして(d)工程(c)の結果を出力する工程。
【0011】
本発明の第二の態様では、潤滑油組成物試料のエラストマーとの適合性をプログラム制御下で決定するためのシステムであって、下記の手段を含むシステムを提供する:
a)複数の試料受け器であって、各受け器には、(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる異なる潤滑油組成物試料が含まれている、
b)試料受け器を、少なくとも一種のエラストマーと試料それぞれのエラストマー適合性を測定するための試験ステーションに別々に位置させる受け器移動手段、
c)少なくとも一種のエラストマーを、試料それぞれとのエラストマー適合性を測定するための試験ステーションに別々に位置させるエラストマー移動手段、
d)試験ステーションにて試料とエラストマーとのエラストマー適合性を測定して試料に関連したエラストマー適合性データを得て、そしてエラストマー適合性データをコンピュータ制御装置に転送する手段。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法およびシステムによって、有利なことには、多数の異なる組成物試料を効率的なやり方で審査して、試料とフルオロカーボンエラストマーシールなどのエラストマーとの適合性を決定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、様々な態様について図面を参照しながら説明する。
【0014】
本発明は、潤滑油組成物とエラストマーとの適合性を決定するための高速大量処理審査方法に関する。「高速大量処理」なる表現は、本明細書で使用するとき、比較的多数の異なる潤滑油組成物を迅速に製造して分析できることを意味すると理解されたい。本発明の審査方法の一態様の第一工程では、少なくとも一種の潤滑油組成物を複数の試料受け器それぞれに導入し、それにより各受け器は、各受け器内で混ぜ合わせた少なくとも一種の基油および/または少なくとも一種の添加剤の量百分率及び/又は種類に応じて、組成が違っている異なる潤滑油組成物を含んでいる。
【0015】
各試料の組成物に関するデータはデータライブラリに保存される。保存された組成物の各々のエラストマー適合性データに、関係した情報を加えることにより、所望の作動条件または法定要求条件でエラストマー適合性試験を行なった場合にうまくいくことが可能な候補組成物の選択が実質的に容易になる。従って、この情報をコンビナトリアル・ライブラリに保存することは、ある試験の新しい要求値に応じて多数の潤滑油組成物を迅速に選択することを可能にするだけではなく、例えばライブラリに載った組成物の貯蔵安定度、酸化安定度、摩耗安定度、分散性データ、堆積物形成データ等に加えて、情報の別の断片ともなる。また、この情報によって、必要な添加剤の変更を最低原価で算定することも可能になる。操作は、プログラム制御下で有利に遂行され、例えばマイクロプロセッサ又は他のコンピュータ制御装置により自動制御される。「プログラム制御」なる表現は、本明細書で使用するとき、本発明で複数の潤滑油組成物を供給するのに使用される装置が、マイクロプロセッサ又は他のコンピュータ制御装置により自動化され制御されることを意味すると理解されたい。
【0016】
本発明の高速大量処理審査方法に使用される潤滑油組成物は、少なくとも一種の潤滑粘度の基油と少なくとも一種の潤滑油添加剤とを含有している。一般に本発明の高速大量処理審査方法に使用される潤滑油組成物は、少なくとも一種の潤滑粘度の基油を主要量で、例えば組成物の全質量に基づき50質量%以上、好ましくは約70質量%以上、より好ましくは約80乃至約99.5質量%、そして最も好ましくは約85乃至約98質量%の量で、それと共に少なくとも一種の潤滑油添加剤を少量で含有している。
【0017】
「基油」なる表現は、本明細書で使用するとき、単一の製造者により同一の仕様で(供給原料や製造者の所在地とは無関係に)製造され、同一の製造者の仕様を満たし、そして独特の処方、製造物確認番号またはその両方により確認される潤滑剤成分である基材油または基材油のブレンドを意味すると理解されたい。本発明に使用される基油は、任意のあらゆる用途で、例えばエンジン油、船舶用シリンダ油、天然ガスエンジン油、鉄道油、二サイクルエンジン油、トラクタ油、ヘビーデューティディーゼルエンジン油、トラック油、および油圧作動油、ギヤ油、変速機液などの機能液等として潤滑油組成物を配合するのに使用される、現在知られているか、もしくは後年発見される如何なる潤滑粘度の基油であってもよい。さらに、本発明に使用される基油は任意に、高分子量アルキルメタクリレート、エチレン−プロピレン共重合体またはスチレン−ブタジエン共重合体などのオレフィン共重合体等、およびそれらの混合物のような粘度指数向上剤を含有することができる。
【0018】
当該分野の熟練者であれば容易に理解できるように、基油の粘度は用途に依存する。従って、本発明に用いられる基油の粘度は通常は、摂氏100度(℃)で約2乃至約2000センチストークス(cSt)の範囲にある。エンジン油として用いられる個々の基油は、100℃の動粘度範囲が一般に約2cSt乃至約30cStであり、好ましくは約3cSt乃至約16cSt、最も好ましくは約4cSt乃至約12cStであり、そして所望とする最終用途および完成油の添加剤に応じて選択もしくはブレンドされて、所望のグレードのエンジン油、例えばSAE粘度グレードが0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30または15W−40である潤滑油組成物とされる。ギヤ油として用いられる油の粘度は、100℃で約2cSt乃至約2000cStの範囲にある。
【0019】
基材油は、種々様々な方法を使用して製造することができ、その例としては、これらに限定されるものではないが、蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化および再精製を挙げることができる。再精製油は、製造中に、汚染により、あるいは以前の使用中に混入した物質を実質的に含むことはない。本発明の潤滑油組成物の基油は、任意の天然または合成の潤滑基油であってよい。好適な炭化水素合成油としては、これらに限定されるものではないが、エチレンの重合によりまたは1−オレフィンの重合により合成されてポリアルファオレフィン又はPAO油のような重合体とされた油、または一酸化炭素ガスと水素ガスを用いてフィッシャー・トロプシュ法などの炭化水素合成法により合成された油を挙げることができる。例えば、好適な基油は、重質留分を含む場合でもその量が僅かであり、例えば100℃粘度が20cStか、それ以上である潤滑油留分を殆ど含むことのない油である。
【0020】
基油は、天然の潤滑油、合成の潤滑油またはそれらの混合物から誘導することができる。好適な基油としては、合成ろうおよび粗ろうの異性化により得られた基材油、並びに原油の芳香族及び極性成分を(好ましくは溶剤抽出ではなく)水素化分解して製造した水素化分解基材油を挙げることができる。好適な基油としては、API公報1509、第14版、補遺I、1998年12月に規定されている全API区分I、II、III、IV及びVに含まれるものが挙げられる。IV種基油はポリアルファオレフィン(PAO)である。V種基油には、I、II、III又はIV種に含まれなかったその他全ての基油が含まれる。II、III及びIV種基油が本発明に使用するのに好ましいが、これらの好ましい基油は、I、II、III、IV及びV種基材油又は基油を一種以上混ぜ合わせることにより製造することができる。
【0021】
使用できる天然油としては、鉱油系潤滑油、例えば液体石油、パラフィン系、ナフテン系又は混合パラフィン−ナフテン系の溶剤処理又は酸処理した鉱油系潤滑油、石炭や頁岩から誘導された油、動物油および植物油(例えばナタネ油、ヒマシ油およびラード油)等を挙げることができる。
【0022】
使用できる合成潤滑油としては、これらに限定されるものではないが、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油、具体的には重合及び共重合オレフィン、例えばポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン−イソブチレン共重合体、塩素化ポリブチレン、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)等およびそれらの混合物;アルキルベンゼン、例えばドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)−ベンゼン等;ポリフェニル、例えばビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル等;アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、並びにそれらの誘導体、類似物および同族体等を挙げることができる。
【0023】
他の使用できる合成潤滑油としては、これらに限定されるものではないが、炭素原子数5以下のオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテン、ペンテンおよびそれらの混合物を重合することにより製造された油が挙げられる。そのような重合体油の製造方法も当該分野の熟練者にはよく知られている。
【0024】
別の使用できる合成炭化水素油としては、適正な粘度を有するアルファオレフィンの液体重合体が挙げられる。特に有用な合成炭化水素油は、C6−C12アルファオレフィンの水素化液体オリゴマー、例えば1−デセン三量体である。
【0025】
使用できる合成潤滑油の別の部類としては、これらに限定されるものではないが、アルキレンオキシド重合体、すなわち単独重合体、共重合体、および末端ヒドロキシル基が例えばエステル化またはエーテル化により変性したそれらの誘導体を挙げることができる。これらの油の例示としては、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により合成された油、これらポリオキシアルキレン重合体のアルキル及びフェニルエーテル(例えば、平均分子量1000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量500−1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量1000−1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、またはそれらのモノ及びポリカルボン酸エステル、例えば酢酸エステル、混合C3−C8脂肪酸エステル、またはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルがある。
【0026】
使用できる合成潤滑油の別の部類としては、これらに限定されるものではないが、ジカルボン酸、例えばフタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸等と、各種アルコール、例えばブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等とのエステルが挙げられる。これらエステルの具体例としては、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、および1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2−エチルヘキサン酸と反応させて生成した複合エステル等を挙げることができる。
【0027】
また、合成油として使用できるエステルとしては、これらに限定されるものではないが、炭素原子数約5〜約12のカルボン酸と、アルコール、例えばメタノール、エタノール等、ポリオールおよびポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール等とから製造されたものも挙げることができる。
【0028】
ケイ素系の油、例えばポリアルキル、ポリアリール、ポリアルコキシ又はポリアリールオキシ−シロキサン油及びシリケート油は、合成潤滑油の別の有用な部類を構成する。これらの具体例としては、以下に限定されるものではないが、テトラエチルシリケート、テトラ−イソプロピルシリケート、テトラ−(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ−(4−メチル−ヘキシル)シリケート、テトラ−(p−t−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル−(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、およびポリ(メチルフェニル)シロキサン等を挙げることができる。更に別の使用できる合成潤滑油としては、これらに限定されるものではないが、リン含有酸の液体エステル、例えばリン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デカンホスフィン酸のジエチルエステル等、および高分子量テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0029】
潤滑油は、天然、合成または上に開示したこれら種類のうちの任意の二種以上の混合物の未精製、精製及び再精製の油から誘導することができる。未精製油は、天然原料または合成原料(例えば、石炭、頁岩またはタール・サンド・ビチューメン)から直接に、それ以上の精製や処理無しに得られた油である。未精製油の例としては、これらに限定されるものではないが、レトルト操作により直接得られた頁岩油、蒸留により直接得られた石油、またはエステル化処理により直接得られたエステル油が挙げられ、各々その後それ以上の処理無しに使用される。精製油は、一以上の性状を改善するために一以上の精製工程で更に処理されたことを除いては、未精製油と同じである。これらの精製技術は、当該分野の熟練者には知られているが、例えば溶剤抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、ろ過、パーコレート、水素化処理、脱ろう等が挙げられる。再精製油は、使用済の油を精製油を得るのに用いたのと同様の処理で処理することにより得られる。そのような再精製油は、再生又は再処理油としても知られていて、使用された添加剤や油分解生成物の除去を目的とする技術によりしばしば更に処理される。
【0030】
ろうの水素異性化から誘導された潤滑基材油も、単独で、あるいは前記天然及び/又は合成基材油と組み合わせて使用することができる。そのようなろう異性体油は、天然又は合成ろうまたはそれらの混合物を水素異性化触媒上で水素異性化することにより製造される。
【0031】
天然ろうは一般に、鉱油を溶剤脱ろうすることにより回収された粗ろうであり、合成ろうは一般に、フィッシャー・トロプシュ法により製造されたろうである。
【0032】
本発明に係る組成物の第二成分は、少なくとも一種の潤滑油添加剤であり、潤滑油組成物を配合するのに使用される現在知られているか、もしくは後年発見される任意の添加剤であってよい。本発明に使用される潤滑油添加剤としては、これらに限定されるものではないが、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、金属清浄剤などの清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶剤、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤等、およびそれらの混合物を挙げることができる。グリースには、適当な増粘剤を添加する必要がある。各種の添加剤が知られていて市販もされている。本発明に係る種々の潤滑油組成物の製造にも、これらの添加剤またはその類似化合物を用いることができる。
【0033】
あるいは、潤滑油添加剤(類)は更に希釈油を含んで添加剤濃縮物を形成することができる。これら濃縮物は通常、希釈油を少なくとも約98質量%乃至約10質量%、好ましくは約98質量%乃至約25質量%、最も好ましくは約97質量%乃至約50質量%、および上記添加剤(類)を約2質量%乃至約90質量%、好ましくは約2乃至約75質量%、最も好ましくは約3質量%乃至約50質量%含有している。濃縮物に適した希釈剤としては任意の不活性希釈剤、好ましくは潤滑粘度の油、例えば後述する基油が挙げられ、それにより濃縮物を容易に潤滑油と混合して潤滑油組成物を製造することができる。希釈剤として使用することができる好適な潤滑油は、任意の潤滑粘度の油であってよい。
【0034】
酸化防止剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アミン型のもの、例えばジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチル−アミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン;およびアルキル化フェニレン−ジアミン;フェノール型のもの、例えばBHT、立体障害のあるヒンダードアルキルフェノール、具体的には2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、および2,6−ジ−t−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパノイック)フェノール;硫黄含有物質、例えば硫化オレフィン又はエステル等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0035】
耐摩耗性添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジアリールジチオリン酸亜鉛、例えばボーン(Born)、外著、「種々の潤滑メカニズムにおけるある種の金属ジアルキル及びジアリールジチオリン酸塩の化学構造と有効性との関係」、ルブリケーション・サイエンス(Lubrication Science)、第4−2号、1992年1月(例えばp.97−100参照)掲載の論文に記載されているもの;アリールリン酸エステル及び亜リン酸エステル、硫黄含有エステル、リン硫黄化合物、金属又は無灰ジチオカルバメート、キサントゲン酸エステル、硫化アルキル等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0036】
清浄剤の例としては、これらに限定されるものではないが、スルホネート清浄剤のような過塩基性又は中性清浄剤、例えばアルキルベンゼンと発煙硫酸から製造されたもの;フェネート(高過塩基性又は低過塩基性)、高過塩基性フェネートステアレート、フェノレート、サリチレート、ホスホネート、チオホスホネート、イオン性界面活性剤等、およびそれらの混合物を挙げることができる。低過塩基性金属スルホネートは、一般に全塩基価(TBN)が約0乃至約30、好ましくは約10乃至約25である。低過塩基性金属スルホネートおよび中性金属スルホネートが当該分野ではよく知られている。
【0037】
さび止め添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、非イオン性ポリオキシアルキレン添加剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート;ステアリン酸および他の脂肪酸;ジカルボン酸;金属石鹸;脂肪酸アミン塩;重質スルホン酸の金属塩;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル;(短鎖)アルケニルコハク酸;それらの部分エステルおよびそれらの窒素含有誘導体;合成アルカリールスルホネート、例えば金属ジノニルナフタレンスルホネート等;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0038】
摩擦緩和剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルコキシル化脂肪アミン;ホウ酸化脂肪エポキシド;脂肪亜リン酸エステル;脂肪エポキシド;脂肪アミン;ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミン;脂肪酸の金属塩;脂肪酸アミド;グリセロールエステル;ホウ酸化グリセロールエステル;および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪イミダゾリン(その開示内容も参照として本明細書の記載とする);C4−C75、好ましくはC6−C24、最も好ましくはC6−C20の脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミン、例えば米国特許出願第10/402170号(2003年3月28日出願)の明細書に開示されているもの(その開示内容も参照内容として本明細書の記載とする)からなる群より選ばれた窒素含有化合物との反応生成物から得られた摩擦緩和剤等、およびそれらの混合物を挙げることできる。
【0039】
消泡剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルキルメタクリレートの重合体;ジメチルシリコーンの重合体等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0040】
無灰分散剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ポリアルキレンコハク酸無水物;ポリアルキレンコハク酸無水物の非窒素含有誘導体;コハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、ホスホンアミド、チオホスホンアミドおよびリンアミドからなる群より選ばれる塩基性窒素化合物;チアゾール、例えば2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾールおよびそれらの誘導体;トリアゾール、例えばアルキルトリアゾールおよびベンゾトリアゾール;アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシルおよびカルボキシル等を含む一以上の追加極性官能基を持つカルボン酸エステルを含む共重合体等、例えば長鎖アルキルアクリレート又はメタクリレートと上記官能基を持つ単量体との共重合により製造された生成物;およびそれらの混合物を挙げることができる。これらの分散剤の誘導体、例えばホウ酸化コハク酸イミドなどのホウ酸化分散剤、およびエチレンカーボネート後処理コハク酸イミドも使用することができる。分散剤は、ポリアルキレンコハク酸無水物をポリアルキレンポリアミンでアミノ化して誘導されたポリアルキレンコハク酸イミドであることが好ましい。
【0041】
所望により、後述するように少なくとも一種の基油と少なくとも一種の潤滑油添加剤を分配して本発明に係る組成物とする前に、組成物(すなわち配合物)に使用することが提案された化合物の分子モデリングを行って、どの化合物が可能性のある中心的な候補組成物となるかを判断することが有利であると言える。例えば、化合物の遷移状態、結合の長さ、結合角、双極子モーメント、疎水性等のような因子を含む計算を実施することができる。これは、例えばアクセルリス(Accelrys)社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のクアンタム・メカニックス(Quantum Mechanics)のような公知のソフトウェアを使用して実施することができる。
【0042】
上記の実験プログラム(群)の入力に基づいて最初の化合物テスト・ライブラリを設計するのに、テスト・ライブラリの設計用ソフトウェアを使用することができる。このソフトウェアを使用して、所望の実験空間を包含し統計実験設計法を利用するテスト・ライブラリを効率的に設計することができる。次に、別のソフトウェアを使用して実験のデータを解析し、そしてそのデータを化合物の構造および/または化合物処理条件および/または反応条件と相関させることができる。そのような相関関係はしばしば、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のQSARソフトウェア(定量的構造活性相関)と呼ばれている。次に、ソフトウェアによりそのようなQSARプログラムを使用して、それ以後の化合物テスト・ライブラリを更なる審査に向けて設計することができる。
【0043】
そのようなQSARプログラムの使用によって審査の効率を高めることができる。より多くのデータが集まるにつれて、これらQSARプログラムは化合物ライブラリを発展させる効率がもっと良くなり、所望の化合物を見つける確率も高まる。例えば、後述するように解析した化合物を種々の潤滑油組成物に配合することができ、その後、例えば回帰及び解析技術により、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のC2−QSARなど公知のソフトウェアを使用して更に解析することができる。このように、分子モデリングから得られたデータの確認を遂行することができ、次いでこのデータもデータ収集装置に保存することができる。このようにして、当該分野の熟練者が考えた新規な化合物を、化合物の実際の合成に先立ってQSARソフトウェアで調べてその活性度を予測することができる。さらに、そのようなソフトウェアツールを利用して、合成を考えている可能な化合物の一覧表に当該分野の熟練者が成功する確率が高い順に優先順位を付けることが可能である。
【0044】
ここで図1に言及すると、複数の試料受け器それぞれに入った前記組成物を供給するためのシステムの例を、システム100として概括的に図示している。複数の試料受け器それぞれに入った前記組成物を供給するこのようなシステムと方法の代表的なものとしては、同時係属出願中の米国特許出願第10/699510号明細書(ウォレンベルグ、外、2003年10月31日出願、題名「コンビナトリアル・ライブラリのための潤滑油組成物の高速大量処理製造」、本出願と共通の譲受人を有する)に開示されているものがあり、その内容も参照内容として本明細書の記載とする。本発明がこのシステムに限定されないこと、そして複数の試料受け器それぞれに入った前記組成物を供給するための他のシステムも考えられることを理解されたい。
【0045】
一般に容器110は、前記潤滑粘度の基油Bの供給物を含んでいる。容器120は、添加剤Aの供給物を含んでいて、基油の性状を改良するのに有用な前記添加剤のうちのいずれかであってよい。当該分野の熟練者であれば容易に理解できるように、一種以上の基油および/または一種以上の添加剤をそれぞれ分配するときは、一個以上の容器110および容器120を使用することができる。
【0046】
管路111は、基油Bをノズル部分113まで導く導管であり、後述するようにノズル部分から選択した試料溜め(試験溜め)に分配することができる。分配する基油の量は計量ポンプ112で定量するが、コンピュータで制御することができる。
【0047】
管路121は、潤滑油添加剤Aをノズル部分123まで導く導管であり、後述するようにノズル部分から選択した試料溜めに分配することができる。分配する潤滑油添加剤の量は計量ポンプ122で定量するが、これもコンピュータで制御することができる。予め選択したプロトコルに従って予め決めた量の物質を自動的に計量するためのコンピュータプログラムとシステムが当該分野では知られているが、本発明でも使用することができる。
【0048】
ノズル113及び123は極めて接近していることが好ましく、それにより、基油Bと添加剤Aを同時に試料溜めに分配することができる。あるいは、基油Bと添加剤Aを順次試料溜めに添加することもできる。ノズル113及び123は、多チャンネルピペットまたは一個以上の注射針から構成することができる。
【0049】
容器110及び120は加圧することができる。任意に、二個以上の容器を用いることができる。本発明に使用するのに適した計量ポンプも知られていて市販もされている。粘性の高い潤滑基材油または添加剤を使用する場合には、容器110及び120および/または管路111及び121、計量ポンプ112及び122、および/またはノズル113及び123を加熱して液流の通過を容易にすることができる。
【0050】
試験フレーム130は、分配した基油と添加剤を受け入れる複数のくぼみ132を有する透明な材料(例えば、ガラス)でできたブロック131を包含している。くぼみは試料溜めになり、各溜めには予め決めた異なる組成の潤滑油組成物が入る、すなわち、各組成物の基油及び/又は添加剤の百分率及び/又は種類が溜め毎に互いに違うことになる。任意に溜めは、ブロックに設けられたくぼみの代わりにラックに取り付けられた別個の受け器(例えば、試験管)であってもよい。試料受け器(試験受け器)は透明なガラス管から構成されることが好ましい。図1には5個の溜め、すなわち、くぼみ132a、132b、132c、132d、132eが図示されているが、本発明には任意の個数の溜めを用いることができる。例えば、要求次第でシステムは20個、50個、100個又はそれ以上の試料受け器と試料を用いることができる。
【0051】
個々の溜めは、比較的少量の潤滑油試料を保持するように作られている。各溜めの試料サイズは、一般には約50mL以下であってよく、好ましくは約20mL以下、好ましくは約15mL以下、より好ましくは約10mL以下、そして更に好ましくは約5mL以下である。
【0052】
試験フレーム130および分配ノズル113及び123は、互いに相対的に移動できる。装置操作者による手動での装置移動も本発明の範囲に含まれるが、プログラム可能な移動を伴うロボット機構が好ましい。ある態様では試験フレーム130は、選択したくぼみが分配ノズル113及び123の下に順次位置するように、横及び/又は縦方向に移動できる滑り移動可能なキャリジに取り付けられている。別の態様では、ノズル113及び123および任意に容器110及び120が横及び/又は縦に滑り移動できて、ノズル113及び123の位置決めを遂行する。
【0053】
試験の操作では、容器110及び120をそれぞれ選択した潤滑油基油および添加剤(類)で満たす。システム100の装置が、分配ノズル113及び123がくぼみ132aの上部一直線上に位置するように移動させる。計量した量の基油Bと計量した量の添加剤Aが、同時にくぼみ132aに分配される。その後、分配ノズル113及び123は次のくぼみ132bの一直線上に再び位置させて、そして予め決めた変動計画に従ってくぼみ132bの潤滑油がくぼみ132aの潤滑油とは添加剤の組成百分率が異なるように、添加剤Aおよび/または基油Bの計量する量が変わる。ノズル113及び123が順次、連続したくぼみ132c、132d及び132eの一直線上にあるようにしながらこのパターンが繰り返されて、各くぼみには予め決めた組成の潤滑油が含まれることになる。
【0054】
成分AとBは、混合することにより、例えばフレーム131の撹拌、静的混合、溜めの内容物個々の撹拌(機械的または磁気的撹拌)により、および/または溜めに窒素などのガスを吹き込むことにより、溜め内で混ぜ合わせることが好ましい。任意に、基油Bと添加剤(類)Aを溜めそれぞれに分配する前に混ぜ合わせることもできる。例えば、混合室を有する単一の分配ノズルを使用することができ、基油Bと添加剤(類)Aは計量されて混合室に入ったのちノズルより溜めに分配される。
【0055】
一旦潤滑油組成物を含む複数の受け器が供給されたら、次に複数の液体試料をエラストマーとの適合性、例えばエラストマーの引張強さ測定、エラストマーの伸び測定等について分析することができる。本発明に使用されるエラストマーは、任意のあらゆるそのような用途で現在知られているか、もしくは後年発見される如何なるエラストマーであってもよい。そのようなエラストマーの例としては、これらに限定されるものではないが、オレフィン系エラストマー、例えばエチレンとプロピレンの共重合体(EP)、例えばエチレンとプロピレンとジエンの三元共重合体(EPDM)から製造されたポリオレフィンエラストマー等;スチレン系エラストマー;ポリアクリレート系エラストマー;ポリ(エーテル/エステル)系エラストマー;天然ゴムまたは合成ゴム、例えばニトリルゴム、シリコーンゴム、ネオプレンゴム等;エラストマーシール、例えばバイトン(商品名、Viton)ポリマー(フルオロカーボンエラストマー)、バマック(商品名、Vamac)ポリマー等;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0056】
ここで図2に言及すると、複数の液体試料のエラストマー適合性を順次分析するためのシステムを概略的に図示している。試料としては、前述したもののような一種以上の基油と一種以上の潤滑油添加剤とを含む潤滑油組成物が挙げられる。整列した試料受け器212がホルダ215に取り付けられているシステム200を概略的に図示している。システム200は、任意の数の試料受け器212(と試料)を収納できるように作られている。各試料は、例えばホルダ215内に規則正しく整列したその試料受け器の位置によって、より好ましくは、試料に関連した識別の印を有することにより識別できる。例えば、各試料受け器212は、その外側表面に付けられた識別バーコード213を有することができる。バーコード読取装置225は、試料受け器212それぞれの個々のバーコードを読み取って、バーコードデータ信号をデータ送信回線226を介してコンピュータ制御装置230に送信することができるように位置して、試料を電子的に識別する。バーコード読取装置225は、選択した個々の試料受け器212と一直線上に配置するように、コンピュータ制御装置230からの信号に応答してホルダ215に対して移動できることが好ましい。
【0057】
ロボット装置250は、把握機構252を備えた可動アーム251を包含している。ロボット装置は、コンピュータ制御装置230からの選択命令に従って個々の試料受け器212をしっかり掴んで、試料受け器を試験ステーション220の位置に移動させるように作られていて、それにより受け器内の試料のエラストマー適合性データを測定することができる。また、ロボット装置は、コンピュータ制御装置230からの選択命令に従って、潤滑油試料と一緒に試験されるエラストマー(図示無し)をしっかり掴んで、エラストマーを試験ステーション220の位置に移動させるようにも作られていて、それによりエラストマーと試料の試験を実施することができる。コンピュータ制御装置230は、制御信号送信回線231を介してロボット装置の制御に操作的に関与して、予め測定の決まった試料受け器とエラストマーを選択的に取り出したのちホルダの定められた位置それぞれに再び配置する。
【0058】
試験ステーション220は、試料のエラストマーとの適合性を試験する手段を有している。試験のエラストマー適合性データ結果は、電気又は光信号に変換され、信号送信回線223を介してコンピュータ制御装置230に送信される。エラストマー適合性を試験する種々の手段が知られているが、一般的には、試料をエラストマー崩壊条件に置いて予め決めた期間にわたって試料のエラストマー適合性、例えばエラストマー引張強さ測定、エラストマー伸び測定等を測定することが含まれる。
【0059】
例えば、本発明に使用される試験法の一態様(例えば、フォルクスワーゲンPV3344バイトンシール適合性試験)では、エラストマー試験片を充分な量の試験用潤滑油組成物試料に、例えば試料の容量:エラストマーの体積が約50:1乃至約90:1で、予め決めた温度で予め決めた時間浸漬する。所望により、この試験を実施する前に、エラストマー試験片を約100℃乃至約200℃の温度で、約20時間乃至約60時間の範囲の時間をかけて熱的に状態を調節して、当該分野では知られているように、エラストマーの充填剤成分が安易に吸収した如何なる湿気も取り払うことができる。
【0060】
予め決めた温度は、シミュレートするエラストマーと試料の特定の環境に応じて広範囲に変えることができるが、通常は約100℃乃至約400℃、好ましくは約125℃乃至約200℃の範囲にある。試験は通常、約100時間乃至約400時間、好ましくは約200時間乃至約300時間の期間で行う。所望により、試験を幾つかの区間に分けて、特定の時間経過後に潤滑油試料を新しい試料と交換することができる。次いで試験時間の終了時点で、エラストマー試験片についてエラストマー引張強さ測定値、エラストマー伸び測定値などエラストマー適合性データの評価を行う。
【0061】
一般的には、ASTM D2671又はASTM D412と同様の試験などの引張強さ試験を行う引張強さ試験ステーションにエラストマー試験片を移動させて、エラストマー試験片の破断点引張強さを試験する。例えば、試験片の各端部を(ロボット装置に関して上述したような)把握機構で保持し、予め決めた力を掛けて、例えば試験片が裂けるまで引っ張り、そして引張強さ測定値を測定する。この測定値を、実質的に同じ引張強さ試験条件で予め求めた同一材料のエラストマー試料の(破断点)引張強さ測定値と比較する(そして、この予め求めた測定値をコンピュータ・ライブラリに保存して基準点を確立し、この基準点により、種々の潤滑油組成物についてのその後のエラストマー適合性データを評価することができる)。
【0062】
さらに、上記の同じ試験条件で同一潤滑油組成物に浸漬した同一材料のエラストマー試験片について、破断点伸びの試験をして更なるエラストマー適合性データとする。一般的には、ASTM D2671又はASTM D412と同様の試験などの伸び試験を行う伸び試験ステーションに、エラストマー試験片を移動させることになる。例えば、試験片の各端部を(ロボット装置に関して上述したような)把握機構で保持し、例えば試験片が裂けるまで引っ張り、そして伸び測定値を測定する。この測定値を、実質的に同じ伸び試験条件で予め求めた同一材料のエラストマー試料の(破断点)伸び測定値と比較する(そして、この予め求めた測定値をコンピュータ・ライブラリに保存して基準点を確立し、この基準点により、種々の潤滑油組成物についてのその後のエラストマー適合性データを評価することができる)。
【0063】
所望により、「合格/不合格」決定のためにコンピュータ制御装置にエラストマー適合性の指定値をプログラムしておく。合格/不合格指定値は、特定の潤滑剤用途に対する性能要求条件および予測される作動環境に基づいて選択することができる。試験試料が特定のエラストマーと過度に不充分なエラストマー適合性値を示すことで不合格であるのであれば、試験試料に電子的に印を付けることができ、そしてその試料と同じ組成を有する潤滑油配合物を他の性能特性についてそれ以上試験することから除外することができる。不合格試料を再試験しないことで、システムを更に効率良く稼働させて、所望の製品仕様を満たすと予測される試料だけにエネルギーと時間を費やすことができる。
【0064】
所望により、本発明の方法の結果を遠隔地、すなわち本発明の方法を実施するシステムと直接の接触がない、あるいは少なくとも目に見える接触がない場所から監視することができる。遠隔地は、例えば本発明に使用されるシステム全体の一部として、システムを監視し制御すると共に実施した試験の結果の各々の出力を記録する中央プロセス制御システム又は室であってよい。このようにして、システムの場所に配置された職員とあまり相互接触がなくても監視することが可能になる。制御コマンドのみならず出力した結果も送信できる好適なデータ回線も知られている。
【0065】
上述した組成物の各々に関するエラストマー適合性データを関係データベースに保存して、コンビナトリアル潤滑油組成物ライブラリとすることができる。あるいは、システム操作と制御用のコンピュータ・マイクロプロセッサを含む信号データ収集装置にシステムを電気的に接続して、長期間にわたって種々の試験のデータを収集し、コンビナトリアル潤滑油組成物ライブラリにコンパイルしてもよい。データベースは、所望される製品の動向に最適な組合せを見つけるのに使用することができ、特に所望される製品の動向が市場要因によって変わる場合に役立つと言える。製品要求条件が変更になったときに、適切な組合せを選択して所望の製品を製造することができる。
【0066】
添加剤(類)および/または潤滑油組成物の識別点とそれから得られたエラストマー適合性の分析データとを相関させるのに、関係データベース・ソフトウェアを使用することができる。多数の市販の関係データベース・ソフトウェア・プログラムが、例えばオラクル(Oracle)、トリポス(Tripos)、MDL、オックスフォード・モレキュラー(Oxford Molecular)(「ケミカル・デザイン」)、IDBS(「アクティビティ・ベース」)、および他のソフトウェア業者から入手できる。
【0067】
関係データベース・ソフトウェアは、上述した方法の過程で得られたデータを管理するための好ましいタイプのソフトウェアである。しかし、上述した添加剤および組成物の各々の「メモリマップ」を作製して、その情報をエラストマー適合性測定値から得られた情報と相関させることができる任意のソフトウェアを使用することができる。このタイプのソフトウェアも当該分野の熟練者にはよく知られている。
【0068】
以上の記述には数多くの詳細事項が含まれているが、これら詳細事項は、本発明を限定するものとみなすべきではなく、単に本発明の好ましい態様の例示とみなすべきである。例えば、上述したもの以外のエラストマー適合性試験を使用して、複数の異なる試験試料のエラストマー適合性データとすることができる。当該分野の熟練者であれば、添付した特許請求の範囲で規定したように本発明の範囲および真意内でその他多数の態様を思い描くであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】複数の異なる潤滑油組成物を製造するためのシステムを示す概略図である。
【図2】複数の潤滑油組成物の試料のエラストマー適合性を測定するためのシステムを示す概略図である。
【符号の説明】
【0070】
100 システム
110 基油の容器
111 管路
112 計量ポンプ
113 ノズル(部分)
120 添加剤の容器
121 管路
122 計量ポンプ
123 ノズル(部分)
130 試験フレーム
131 フレーム
132 くぼみ
200 システム
212 試料受け器
213 識別バーコード
215 ホルダ
220 試験ステーション
223 信号送信回線
225 バーコード読取装置
226 データ送信回線
230 コンピュータ制御装置
231 制御信号送信回線
250 ロボット装置
251 可動アーム
252 把握機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物試料のエラストマーとの適合性をプログラム制御下で審査する高速大量処理方法であって、下記の工程からなる方法:
(a)複数の異なる潤滑油組成物試料であって、各試料が(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる試料を準備する工程、
(b)少なくとも一種のエラストマーを準備する工程、
(c)各試料のエラストマー適合性を測定して、各試料についてのエラストマー適合性データとする工程、そして
(d)工程(c)の結果を出力する工程。
【請求項2】
少なくとも一種の潤滑粘度の基油が天然油または合成油である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一種の潤滑油添加剤が、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶剤、パッケージ相溶剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも一種のエラストマーが、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリ(エーテル/エステル)系エラストマー、ポリアクリレート系エラストマー、天然ゴム、合成ゴム、エラストマーシールおよびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも一種のエラストマーがエラストマーシールである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
各試料のエラストマー適合性を測定する工程が、少なくとも一種のエラストマーを予め決めた温度で予め決めた時間にて試料に浸漬し、そしてエラストマーの引張強さおよび/または伸びを測定して試料のエラストマー適合性を決定することからなる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
予め決めた温度が約100℃乃至約400℃であり、そして予め決めた時間が約100時間乃至約400時間である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程(c)のエラストマー適合性測定が引張強さ測定または伸び測定を含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
引張強さ測定値を予め求めたエラストマーの引張強さ測定値と比較する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
伸び測定値を予め求めたエラストマーの伸び測定値と比較する請求項8に記載の方法。
【請求項11】
潤滑油組成物試験試料の容量が約50mL以下である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
潤滑油組成物試験試料の容量が約20mL以下である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
潤滑油組成物試験試料の容量が約15mL以下である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
潤滑油組成物試験試料の容量が約10mL以下である請求項1に記載の方法。
【請求項15】
さらに、エラストマーを試料に浸漬する前にエラストマーを熱的に状態調節することを含む請求項6に記載の方法。
【請求項16】
エラストマーを約100℃乃至約200℃の温度で、約20時間乃至約60時間熱的に状態調節する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ロボット組立装置が、整列した試料受け器から個々の試料受け器を選択的に取り出し、少なくとも一種のエラストマーを選択的に取り出し、そして試料受け器および少なくとも一種のエラストマーを、エラストマー適合性を決定するための試験ステーションに別個に位置させる請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ロボット組立装置をコンピュータで制御する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
出力工程が、工程(c)の結果をデータ媒体に保存することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項20】
さらに、工程(d)の結果を、更なる算定の結果を得るための基礎として使用する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項21】
潤滑油組成物の少なくとも一種の潤滑油添加剤が、更に希釈油を含んで添加剤濃縮物を形成している請求項1に記載の方法。
【請求項22】
潤滑油組成物試料のエラストマーとの適合性をプログラム制御下で決定するためのシステムであって、下記の手段を含むシステム:
a)複数の試料受け器であって、各受け器には、(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなり、互いに異なる潤滑油組成物試料が含まれている、
b)試料受け器を、少なくとも一つのエラストマーに対する試料それぞれのエラストマー適合性を測定するための試験ステーションに別々に位置させる受け器移動手段、
c)少なくとも一種のエラストマーを、試料それぞれとのエラストマー適合性を測定するための試験ステーションに別々に位置させるエラストマー移動手段、
d)試験ステーションにて試料とエラストマーとのエラストマー適合性を測定して試料に関連したエラストマー適合性データを得て、そしてエラストマー適合性データをコンピュータ制御装置に転送する手段。
【請求項23】
受け器移動手段が可動キャリジから構成される請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
受け器移動手段が、選択した個々の受け器を把持して移動させる可動アームを有するロボット組立装置から構成される請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
エラストマー移動手段が可動キャリジから構成される請求項22に記載のシステム。
【請求項26】
エラストマー移動手段が、エラストマーを把持して移動させる可動アームを有するロボット組立装置から構成される請求項22に記載のシステム。
【請求項27】
各試料受け器の外側表面にバーコードが付けられている請求項22に記載のシステム。
【請求項28】
さらに、バーコード読取装置を含む請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
潤滑粘度の基油が天然油または合成油である請求項22に記載のシステム。
【請求項30】
少なくとも一種の潤滑油添加剤が、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶剤、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項22に記載のシステム。
【請求項31】
エラストマー適合性を測定する手段が引張強さを測定する手段を含む請求項22に記載のシステム。
【請求項32】
エラストマー適合性を測定する手段が伸びを測定する手段を含む請求項22に記載のシステム。
【請求項33】
(a)主要量の潤滑粘度の基油と(b)少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる複数の異なる潤滑油組成物についての、潤滑油組成物エラストマー適合性データを含むコンビナトリアル潤滑油組成物ライブラリ。
【請求項34】
潤滑油組成物エラストマー適合性データが、引張強さ測定値、伸び測定値およびそれらの組合せからなる群より選ばれる請求項33に記載のコンビナトリアルライブラリ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−526937(P2007−526937A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553235(P2006−553235)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/004261
【国際公開番号】WO2005/079277
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】