説明

潤滑油組成物

【課題】低摩擦性、位置きめ性、熱安定性、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させない潤滑油組成物を提供することにあり、さらには、耐腐食性能にも優れた潤滑油組成物をも提供すること。
【解決手段】粘度指数が105以上、飽和炭化水素成分が70質量%以上、硫黄分が0.2質量%以下の潤滑油基油、並びに、組成物全量基準で、(A)特定の酸性リン酸エステル0.01〜0.5質量%と、(B)アルキルアミン0.01〜2質量%と、の混合物及び/又は反応物を含有し、(A)成分に由来する酸価が0.1〜1.0mgKOH/gであることを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の加工テーブルなどのすべり案内面用の潤滑油には、加工精度を向上させるために低摩擦性能やスティックスリップの防止、貯蔵安定性、耐腐食性等が要求されている。また、工作機械ではすべり案内面用潤滑油が工作物の加工液に混入してしまう構造になっているものが多い。特に、加工液として水溶性切削液を用いている場合、このすべり案内面用潤滑油の混入が水溶性切削液の劣化(切削性能の低下、腐敗の促進、鉱油寿命の短縮、廃液処理コストの上昇など)の原因の1つとなっている。従って、すべり案内面用潤滑油の性能としては、すべり案内面での摩擦係数の低減やスティックスリップの防止といった潤滑特性に優れていることに加えて、水溶性切削液が混入した場合を考慮して水溶性切削液との分離性に優れ、かつ該水溶性切削液あるいはすべり案内面用潤滑油の諸性能に悪影響を与えないことが要求されている。
【0003】
摩擦低減剤として、これまでさまざまな極圧剤や油性剤が用いられてきた。昨今の工作機械においては特に精度に対する要求が高まっており、精度に重要な影響を与える低速領域における摩擦低減を実現するために、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、カルボン酸、イオウ化合物、アミン類等が用いられている(例えば、特許文献1,2,3,4を参照)。また、酸性リン酸エステルをアルキルアミンで中和することにより安定性を向上させることが試みられていた(例えば、特許文献5を参照)。
【特許文献1】特開平8−134488号公報
【特許文献2】特開2001−104973号公報
【特許文献3】特開2003−171684号公報
【特許文献4】特開2003−430949号公報
【特許文献5】特開2007−238764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの従来技術においては、添加剤の環境に対する負荷は高く、かつこのような添加剤では初期の摩擦性能および工作機械の位置決め性能は優れるものの、すべり案内面用潤滑油に水溶性切削液が混入した場合、当初の低摩擦性能を著しく阻害し、またリン酸などの酸性成分が鉄を使用する摺動面に腐食を発生させるなど、工作機械における加工精度を悪化させる原因となり、装置の使用が進むにつれて位置決め精度が悪化する傾向にあった。
【0005】
これまで酸性リン酸エステルをアルキルアミンで中和することにより安定性を向上させることが試みられていたが、従来の添加剤の組み合わせにおいては長期にわたって低摩擦を維持し続けることは困難であった。そのため長期間に亘って優れた摩擦性能を維持し続ける油剤が必要とされていた。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低摩擦性、位置きめ性、熱安定性、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させない潤滑油組成物を提供することにあり、さらには、耐腐食性能にも優れた潤滑油組成物をも提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、潤滑油基油に、特定の酸性リン酸エステルと特定の脂肪族アミンとの混合物及び/又は反応物を特定の割合で含有し、該酸性リン酸エステルに由来する酸価が特定条件を満たす潤滑油組成物により上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の潤滑油組成物は、粘度指数が105以上、飽和炭化水素成分が70質量%以上、硫黄分が0.2質量%以下の潤滑油基油、並びに、組成物全量基準で、(A)下記一般式(1)又は下記一般式(2)に示す酸性リン酸エステルの中から選ばれる少なくとも1種0.01〜0.5質量%と、(B)下記一般式(3)に示すアルキルアミン0.01〜2質量%と、の混合物及び/又は反応物を含有し、前記(A)成分に由来する酸価が0.1〜1.0mgKOH/gであることを特徴とする。
【化1】


[式(1)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基であり;
式(2)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数13〜18の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基であり;
式中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数4〜30の分岐鎖アルキル基を表し、R及びRの少なくとも一方は分岐鎖アルキル基である。]
【0009】
上記潤滑油基油の窒素分は10質量ppm以下であることが好ましく、また、上記潤滑油基油の引火点は250℃以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の潤滑油組成物は、組成物全量基準で、(C)硫黄化合物0.01〜5質量%を更に含有することが好ましい。
【0011】
また、本発明の潤滑油組成物は、各種用途に使用可能であるが、工作機械に用いられることが好ましく、工作機械のすべり案内面に使用されることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の潤滑油組成物によれば、低摩擦性、位置きめ性、熱安定性、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させることなく、加工精度を維持することが可能であり、さらには、耐腐食性能にも優れる。したがって、本発明の潤滑油組成物は、工作機械の動作の安定化、長寿命化などの点で非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明の潤滑油組成物は、粘度指数が105以上、飽和炭化水素成分が70質量%以上、硫黄分が0.2質量%以下の潤滑油基油(以下、「本発明に係る潤滑油基油」という。)を含有する。本発明に係る潤滑油基油としては、粘度指数、飽和炭化水素成分及び硫黄分が上記の要件を満たすものであれば特に制限されないが、好ましくは、鉱油、ノルマルパラフィンを含有する原料油について水素化分解/水素化異性化を行った潤滑油基油(以下、ワックス異性化基油ともいう)、合成系炭化水素油、又はそれらの群より選ばれる2種以上の混合物であって、粘度指数が105以上、飽和炭化水素成分が70質量%以上、硫黄分が0.2質量%以下の基油である。
【0015】
潤滑油基油の粘度指数を105以上とすることにより、油膜形成能力と流体抵抗低減能力をより両立できる潤滑油組成物を得ることが可能となる。また、飽和炭化水素成分が70質量%未満であると、酸化安定性の低下が著しく、スラッジを発生しやすい。さらに、硫黄分が0.2を超えると熱安定性が劣るとともに、摩擦係数に対する悪影響が大きくなってくるため好ましくない。
【0016】
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。また、飽和炭化水素成分含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0017】
また、本発明に係る潤滑油基油の窒素分は、10質量ppm以下であることが好ましい。窒素分が10質量ppmを超えると、酸化安定性や熱安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0018】
さらに、本発明に係る潤滑油基油の引火点は、250℃以上であることが好ましい。引火点が250℃以上であると、消防法の危険物第4類「引火性液体」の適用外であり、指定可燃物「可燃性液体類」に分類され、貯蔵や取り扱いが危険物第4類と比べて大幅に緩和されている。なお、本発明でいう引火点とは、JIS K 2265に準拠して測定された引火点を意味する。
【0019】
なお、本発明の潤滑油組成物は、本発明に係る潤滑油基油以外の基油、例えば油脂及び/又は粘度指数が105以上、飽和炭化水素成分が70質量%以上、硫黄分が0.2質量%以下の潤滑油基油本願の潤滑油基油には、油脂及び/又は本発明以外の合成油を配合することも出来る。
【0020】
本発明で使用可能な鉱油系基油の製法に特に制限はないが、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系またはナフテン系の鉱油を挙げることができる。
【0021】
本発明で使用可能なワックス異性化基油とは、以下に記載するノルマルパラフィンを含有する原料油について水素化分解/水素化異性化を行った潤滑油基油である。
【0022】
本発明のワックス異性化基油の製造方法の好ましい態様としては、例えば、ノルマルパラフィンを含有する原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が130以上、且つ、NOACK蒸発量が15質量%以下となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程を備えるワックス異性化基油の製造方法が挙げられる。
【0023】
なお、本発明でいう尿素アダクト値は以下の方法により測定される。秤量した試料油(ワックス異性化基油)100gを丸底フラスコに入れ、尿素200g、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に尿素アダクト物として白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた尿素アダクト物の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。
【0024】
また、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
【0025】
また、本発明の潤滑油基油の製造方法の他の好ましい態様としては、ノルマルパラフィンを含有する原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下、粘度指数が130以上、−35℃におけるCCS粘度が2000mPa・s以下、且つ、40℃における動粘度(単位:mm/s)とNOACK蒸発量(単位:質量%)との積が250以下となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程を備えるワックス異性化基油の製造方法が挙げられる。
【0026】
さらに、本発明のワックス異性化基油の製造方法においては、原料油がワックス異性化基油の溶剤脱ロウによって得られるスラックワックスを50質量%以上含有することが好ましい。
【0027】
本発明のワックス異性化基油の尿素アダクト値は、粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、上述の通り4質量%以下であることが必要であり、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。また、ワックス異性化基油の尿素アダクト値は、0質量%でも良い。しかし、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高いワックス異性化基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
【0028】
本発明のワックス異性化基油の粘度指数は、粘度−温度特性の観点から、上述の通り105以上であることが必要であり、好ましくは110以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上、特に好ましくは140以上である。
【0029】
本発明のワックス異性化基油を製造するに際し、ノルマルパラフィン、またはノルマルパラフィンを含有するワックスを含有する原料油を用いることができる。原料油は、鉱物油又は合成油のいずれであってもよく、あるいはこれらの2種以上の混合物であってもよい。
【0030】
また、本発明で用いられる原料油は、ASTM D86又はASTM D2887に規定する潤滑油範囲で沸騰するワックス含有原料であることが好ましい。原料油のワックス含有率は、原料油全量を基準として、好ましくは50質量%以上100質量%以下である。原料のワックス含有率は、核磁気共鳴分光法(ASTM D5292)、相関環分析(n−d−M)法(ASTM D3238)、溶剤法(ASTM D3235)などの分析手法によって測定することができる。
【0031】
ワックス含有原料としては、例えば、ラフィネートのような溶剤精製法に由来するオイル、部分溶剤脱ロウ油、脱瀝油、留出物、減圧ガスオイル、コーカーガスオイル、スラックワックス、フーツ油、フィッシャー−トロプシュ・ワックスなどが挙げられ、これらの中でもスラックワックス及びフィッシャー−トロプシュ・ワックスが好ましい。
【0032】
スラックワックスは、典型的には溶剤またはプロパン脱ロウによる炭化水素原料に由来する。スラックワックスは残留油を含有し得るが、この残留油は脱油により除去することができる。フーツ油は脱油されたスラックワックスに相当するものである。
【0033】
また、フィッシャー−トロプシュ・ワックスは、いわゆるフィッシャー−トロプシュ合成法により製造される。
【0034】
さらに、ノルマルパラフィンを含有する原料油として市販品を用いてもよい。具体的には、パラフィリント(Paraflint)80(水素化フィッシャー−トロプシュ・ワックス)およびシェルMDSワックス質ラフィネート(Shell MDS Waxy Raffinate)(水素化および部分異性化中間留出物合成ワックス質ラフィネート)などが挙げられる。
【0035】
また、溶剤抽出に由来する原料油は、常圧蒸留からの高沸点石油留分を減圧蒸留装置に送り、この装置からの蒸留留分を溶剤抽出することによって得られるものである。減圧蒸留からの残渣は、脱瀝されてもよい。溶剤抽出法においては、よりパラフィニックな成分をラフィネート相に残したまま抽出相に芳香族成分を溶解する。ナフテンは、抽出相とラフィネート相とに分配される。溶剤抽出用の溶剤としては、フェノール、フルフラールおよびN−メチルピロリドンなどが好ましく使用される。溶剤/油比、抽出温度、抽出されるべき留出物と溶剤との接触方法などを制御することによって、抽出相とラフィネート相との分離の程度を制御することができる。さらに原料として、より高い水素化分解能を有する燃料油水素化分解装置を使用し、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を用いてもよい。
【0036】
上記の原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下且つ粘度指数が100以上となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程を経ることによって、本発明のワックス異性化基油を得ることができる。水素化分解/水素化異性化工程は、得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数が上記条件を満たせば特に制限されない。本発明における好ましい水素化分解/水素化異性化工程は、
ノルマルパラフィンを含有する原料油について、水素化処理触媒を用いて水素化処理する第1工程と、
第1工程により得られる被処理物について、水素化脱ロウ触媒を用いて水素化脱ロウする第2工程と、
第2工程により得られる被処理物について、水素化精製触媒を用いて水素化精製する第3工程と
を備える。
【0037】
なお、従来の水素化分解/水素化異性化においても、水素化脱ロウ触媒の被毒防止のための脱硫・脱窒素を目的として、水素化脱ロウ工程の前段に水素化処理工程が設けられることはある。これに対して、本発明における第1工程(水素化処理工程)は、第2工程(水素化脱ロウ工程)の前段で原料油中のノルマルパラフィンの一部(例えば10質量%程度、好ましくは1〜10質量%)を分解するために設けられたものであり、当該第1工程においても脱硫・脱窒素は可能であるが、従来の水素化処理とは目的を異にする。かかる第1工程を設けることは、第3工程後に得られる被処理物(ワックス異性化基油)の尿素アダクト値を確実に4質量%以下とする上で好ましい。
【0038】
上記第1工程で用いられる水素化触媒としては、6族金属、8−10族金属、およびそれらの混合物を含有する触媒などが挙げられる。好ましい金属としては、ニッケル、タングステン、モリブデン、コバルトおよびそれらの混合物が挙げられる。水素化触媒は、これらの金属を耐熱性金属酸化物担体上に担持した態様で用いることができ、通常、金属は担体上で酸化物または硫化物として存在する。また、金属の混合物を用いる場合は、金属の量が触媒全量を基準として30質量%以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。金属酸化物担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナまたはチタニアなどの酸化物が挙げられ、中でもアルミナが好ましい。好ましいアルミナは、γ型またはβ型の多孔質アルミナである。金属の担持量は、触媒全量を基準として、0.5〜35質量%の範囲であることが好ましい。また、9−10族金属と6族金属との混合物を用いる場合には、9族または10族金属のいずれかが、触媒全量を基準として、0.1〜5質量%の量で存在し、6族金属は5〜30質量%の量で存在することが好ましい。金属の担持量は、原子吸収分光法、誘導結合プラズマ発光分光分析法または個々の金属について、ASTMで指定された他の方法によって測定されてもよい。
【0039】
金属酸化物担体の酸性は、添加物の添加、金属酸化物担体の性質の制御(例えば、シリカ−アルミナ担体中へ組み入れられるシリカの量の制御)などによって制御することができる。添加物の例には、ハロゲン、特にフッ素、リン、ホウ素、イットリア、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類酸化物、およびマグネシアが挙げられる。ハロゲンのような助触媒は、一般に金属酸化物担体の酸性を高めるが、イットリアまたはマグネシアのような弱塩基性添加物はかかる担体の酸性を弱くする傾向がある。
【0040】
水素化処理条件に関し、処理温度は、好ましくは150〜450℃、より好ましくは200〜400℃であり、水素分圧は、好ましくは1400〜20000kPa、より好ましくは2800〜14000kPaであり、液空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1〜10hr−1、より好ましく0.1〜5hr−1であり、水素/油比は、好ましくは50〜1780m/m、より好ましくは89〜890m/mである。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第1工程における水素化処理条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0041】
第1工程において水素化処理された後の被処理物は、そのまま第2工程に供してもよいが、当該被処理物についてストリッピングまたは蒸留を行い、被処理物(液状生成物)からガス生成物を分離除去する工程を、第1工程と第2工程との間に設けることが好ましい。これにより、被処理物に含まれる窒素分及び硫黄分を、第2工程における水素化脱ロウ触媒の長期使用に影響を及ぼさないでレベルにまで減らすことができる。ストリッピング等による分離除去の対象は主として硫化水素およびアンモニアのようなガス異物であり、ストリッピングはフラッシュドラム、分留器などの通常の手段によって行うことができる。
【0042】
また、第1工程における水素化処理の条件がマイルドである場合には、使用する原料によって残存する多環芳香族分が通過する可能性があるが、これらの異物は、第3工程における水素化精製により除去されてもよい。
【0043】
また、第2工程で用いられる水素化脱ロウ触媒は、結晶質又は非晶質のいずれの材料を含んでもよい。結晶質材料としては、例えば、アルミノシリケート(ゼオライト)またはシリコアルミノホスフェート(SAPO)を主成分とする、10または12員環通路を有するモレキュラーシーブが挙げられる。ゼオライトの具体例としては、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、フェリエライト、ITQ−13、MCM−68、MCM−71などが挙げられる。また、アルミノホスフェートの例としては、ECR−42が挙げられる。モレキュラーシーブの例としては、ゼオライトベータ、およびMCM−68が挙げられる。これらの中でも、ZSM−48、ZSM−22およびZSM−23から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、ZSM−48が特に好ましい。モレキュラーシーブは好ましくは水素形にある。水素化脱ロウ触媒の還元は、水素化脱ロウの際にその場で起こり得るが、予め還元処理が施された水素化脱ロウ触媒を水素化脱ロウに供してもよい。
【0044】
また、水素化脱ロウ触媒の非晶質材料としては、3族金属でドープされたアルミナ、フッ化物化アルミナ、シリカ−アルミナ、フッ化物化シリカ−アルミナ、シリカ−アルミナなどが挙げられる。
【0045】
脱ロウ触媒の好ましい態様としては、二官能性、すなわち、少なくとも1つの6族金属、少なくとも1つの8−10族金属、またはそれらの混合物である金属水素添加成分が装着されたものが挙げられる。好ましい金属は、Pt、Pdまたはそれらの混合物などの9−10族貴金属である。これらの金属の装着量は、触媒全量を基準として好ましくは0.1〜30質量%である。触媒調製および金属装着方法としては、例えば分解性金属塩を用いるイオン交換法および含浸法が挙げられる。
【0046】
なお、モレキュラーシーブを用いる場合、水素化脱ロウ条件下での耐熱性を有するバインダー材料と複合化してもよく、またはバインダーなし(自己結合)であってもよい。バインダー材料としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカとチタニア、マグネシア、トリア、ジルコニアなどのような他の金属酸化物との二成分の組合せ、シリカ−アルミナ−トリア?(イットリア)、シリカ−アルミナ−マグネシアなどのような酸化物の三成分の組合せなどの無機酸化物が挙げられる。水素化脱ロウ触媒中のモレキュラーシーブの量は、触媒全量を基準として、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは35〜100質量%である。水素化脱ロウ触媒は、噴霧乾燥、押出などの方法によって形成される。水素化脱ロウ触媒は、硫化物化または非硫化物化した態様で使用することができ、硫化物化した態様が好ましい。
【0047】
水素化脱ロウ条件に関し、温度は好ましくは250〜400℃、より好ましくは275〜350℃であり、水素分圧は好ましくは791〜20786kPa(100〜3000psig)、より好ましくは1480〜17339kPa(200〜2500psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1〜10hr−1、より好ましくは0.1〜5hr−1であり、水素/油比は好ましくは45〜1780m/m(250〜10000scf/B)、より好ましくは89〜890m/m(500〜5000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第2工程における水素化脱ロウ条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0048】
第2工程で水素化脱ロウされた被処理物は、第3工程における水素化精製に供される。水素化精製は、残留ヘテロ原子および色相体の除去に加えて、オレフィンおよび残留芳香族化合物を水素化により飽和することを目的とするマイルドな水素化処理の一形態である。第3工程における水素化精製は、脱ロウ工程とカスケード式で実施することができる。
【0049】
第3工程で用いられる水素化精製触媒は、6族金属、8−10族金属又はそれらの混合物を金属酸化物担体に担持させたものであることが好ましい。好ましい金属としては、貴金属、特に白金、パラジウムおよびそれらの混合物が挙げられる。金属の混合物を用いる場合、金属の量が触媒を基準にして30質量%もしくはそれ以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。触媒の金属含有率は、非貴金属については20質量%以下、貴金属については1質量%以下が好ましい。また、金属酸化物担体としては、非晶質または結晶質酸化物のいずれであってもよい。具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナまたはチタニアのような低酸性酸化物が挙げられ、アルミナが好ましい。芳香族化合物の飽和の観点からは、多孔質担体上に比較的強い水素添加機能を有する金属が担持された水素化精製触媒を用いることが好ましい。
【0050】
好ましい水素化精製触媒として、M41Sクラスまたは系統の触媒に属するメソ細孔性材料を挙げることができる。M41S系統の触媒は、高いシリカ含有率を有するメソ細孔性材料であり、具体的には、MCM−41、MCM−48およびMCM−50が挙げられる。かかる水素化精製触媒は15〜100Åの細孔径を有するものであり、MCM−41が特に好ましい。MCM−41は、一様なサイズの細孔の六方晶系配列を有する無機の多孔質非層化相である。MCM−41の物理構造は、ストローの開口部(細孔のセル径)が15〜100Åの範囲であるストローの束のようなものである。MCM−48は、立方体対称を有し、MCM−50は、層状構造を有する。MCM−41は、メソ細孔性範囲の異なるサイズの細孔開口部で製造することができる。メソ細孔性材料は、8族、9族または10族金属の少なくとも1つである金属水素添加成分を有してもよく、金属水素添加成分としては、貴金属、特に10族貴金属が好ましく、Pt、Pdまたはそれらの混合物が最も好ましい。
【0051】
水素化精製の条件に関し、温度は好ましくは150〜350℃、より好ましくは180〜250℃であり、全圧は好ましくは2859〜20786kPa(約400〜3000psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1〜5hr−1、より好ましくは0.5〜3hr−1であり、水素/油比は好ましくは44.5〜1780m/m(250〜10,000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第3工程における水素化生成条件は、原料や処理装置の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0052】
また、第3工程後に得られる被処理物については、必要に応じて、蒸留等により所定の成分を分離除去してもよい。
【0053】
上記の製造方法により得られる本発明のワックス異性化基油においては、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たせば、その他の性状は特に制限されないが、本発明のワックス異性化基油は以下の条件を更に満たすものであることが好ましい。
【0054】
本発明のワックス異性化基油における飽和分の含有量は、ワックス異性化基油全量を基準として、70質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜40質量%、更に好ましくは1〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤をワックス異性化基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、ワックス異性化基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0055】
なお、飽和分の含有量が70質量%未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる傾向にある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、ワックス異性化基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が50質量%を超えると、ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0056】
本発明において、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1〜50質量%であることは、飽和分に占める非環状飽和分が99.9〜50質量%であることと等価である。ここで、非環状飽和分にはノルマルパラフィン及びイソパラフィンの双方が包含される。本発明のワックス異性化基油に占めるノルマルパラフィン及びイソパラフィンの割合は、尿素アダクト値が上記条件を満たせば特に制限されないが、イソパラフィンの割合は、ワックス異性化基油全量基準で、好ましくは50〜99.9質量%、より好ましくは60〜99.9質量%、更に好ましくは70〜99.9質量%、特に好ましくは80〜99.9質量%である。ワックス異性化基油に占めるイソパラフィンの割合が前記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性をより向上させることができ、また、当該ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能を一層高水準で発現させることができる。
【0057】
なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0058】
また、本発明でいう飽和分に占める環状飽和分及び非環状飽和分の割合とは、それぞれASTM D 2786−91に準拠して測定されるナフテン分(測定対象:1環〜6環ナフテン、単位:質量%)及びアルカン分(単位:質量%)を意味する。
【0059】
また、本発明でいうワックス異性化基油中のノルマルパラフィンの割合とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により分離・分取された飽和分について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行い、当該飽和分に占めるノルマルパラフィンの割合を同定・定量したときの測定値を、ワックス異性化基油全量を基準として換算した値を意味する。なお、同定・定量の際には、標準試料として炭素数5〜50のノルマルパラフィンの混合試料が用いられ、飽和分に占めるノルマルパラフィンは、クロマトグラムの全ピーク面積値(希釈剤に由来するピークの面積値を除く)に対する各ノルマルパラフィンに相当に相当するピーク面積値の合計の割合として求められる。
(ガスクロマトグラフィー条件)
カラム:液相無極性カラム(長さ25mm、内径0.3mmφ、液相膜厚さ0.1μm)昇温条件:50℃〜400℃(昇温速度:10℃/min)
キャリアガス:ヘリウム(線速度:40cm/min)
スプリット比:90/1
試料注入量:0.5μL(二硫化炭素で20倍に希釈した試料の注入量)
【0060】
また、ワックス異性化基油中のイソパラフィンの割合とは、前記飽和分に占める非環状飽和分と前記飽和分に占めるノルマルパラフィンとの差を、ワックス異性化基油全量を基準として換算した値を意味する。
【0061】
飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0062】
なお、本発明のワックス異性化基油において、原料として、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を用いた場合には、飽和分の含有量が90質量%以上、該飽和分に占める環状飽和分の割合が、30〜50質量%、該飽和分に占める非環状飽和分の割合が50〜70質量%、ワックス異性化基油中のイソパラフィンの割合が40〜70質量%、粘度指数が100〜135、好ましくは120〜130の基油が得られるが、尿素アダクト値が上記条件を満たすことで、本発明の効果、特に−40℃におけるMRV粘度を20000mPa・s以下、特に10000mPa・s以下という優れた低温粘度特性を有するワックス異性化組成物を得ることができる。また、本発明のワックス異性化基油において、原料としてワックス含有量が高い原料(例えばノルマルパラフィン含有量が50質量%以上)であるスラックワックス、フィッシャー−トロプシュワックスを用いた場合には、飽和分の含有量が90質量%以上、該飽和分に占める環状飽和分の割合が、0.1〜40質量%、該飽和分に占める非環状飽和分の割合が60〜99.9質量%、ワックス異性化基油中のイソパラフィンの割合が60〜99.9質量%、粘度指数が100〜170、好ましくは135〜160の基油が得られるが、尿素アダクト値が上記条件を満たすことで、本願発明の効果、特に−40℃におけるMRV粘度を12000mPa・s以下、特に7000mPa・s以下という高粘度指数と低温粘度特性に極めて優れた特性を有するワックス異性化組成物を得ることができる。
【0063】
また、20℃における屈折率をn20、100℃における動粘度をkv100で表すとき、本発明のワックス異性化基油についてのn20−0.002×kv100は、好ましくは1.435〜1.450、より好ましくは1.440〜1.449、更に好ましくは1.442〜1.448、一層好ましくは1.444〜1.447である。n20−0.002×kv100を前記範囲内とすることにより、優れた粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤をワックス異性化基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、n20−0.002×kv100を前記範囲内とすることにより、ワックス異性化基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0064】
なお、n20−0.002×kv100が前記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となり、更には、ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、n20−0.002×kv100が前記下限値未満であると、ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、ワックス異性化基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。
【0065】
本発明でいう20℃における屈折率(n20)とは、ASTM D1218−92に準拠して20℃において測定される屈折率を意味する。また、本発明でいう100℃における動粘度(kv100)とは、JIS K 2283−1993に準拠して100℃において測定される動粘度を意味する。
【0066】
また、本発明のワックス異性化基油における芳香族分は、ワックス異性化基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05〜3質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明のワックス異性化基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0067】
なお、ここでいう芳香族分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0068】
また、本発明のワックス異性化基油の%Cは、好ましくは80以上、より好ましくは82〜99、更に好ましくは85〜98、特に好ましくは90〜97である。ワックス異性化基油の%Cが80未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、ワックス異性化基油の%Cが99を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0069】
また、本発明のワックス異性化基油の%Cは、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは1〜12、特に好ましくは3〜10である。ワックス異性化基油の%Cが20を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%Cが1未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0070】
また、本発明のワックス異性化基油の%Cは、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1〜0.5である。ワックス異性化基油の%Cが0.7を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、本発明のワックス異性化基油の%Cは0であってもよいが、%Cを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0071】
更に、本発明のワックス異性化基油における%Cと%Cとの比率は、%C/%Cが7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。%C/%Cが7未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%C/%Cは、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、25以下であることが特に好ましい。%C/%Cを200以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0072】
なお、本発明でいう%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、及び芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%C及び%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まないワックス異性化基油であっても、上記方法により求められる%Cが0を超える値を示すことがある。
【0073】
また、本発明のワックス異性化基油のヨウ素価は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.15以下であり、また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点及び経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.05以上である。ワックス異性化基油のヨウ素価を0.5以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。なお、本発明でいうヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価及び不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0074】
また、本発明のワックス異性化基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まないワックス異性化基油を得ることができる。また、ワックス異性化基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られるワックス異性化基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明のワックス異性化基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることが更に好ましい。
【0075】
また、コスト低減の点からは、原料としてスラックワックス等を使用することが好ましく、その場合、得られるワックス異性化基油中の硫黄分は50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう硫黄分とは、JIS K 2541−1996に準拠して測定される硫黄分を意味する。
【0076】
また、本発明のワックス異性化基油における窒素分の含有量は、10ppm以下、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下である。窒素分の含有量が10質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0077】
また、本発明のワックス異性化基油の動粘度は、その100℃における動粘度は、好ましくは1.5〜20mm/s、より好ましくは2.0〜11mm/sである。ワックス異性化基油の100℃における動粘度が1.5mm/s未満の場合、蒸発損失の点で好ましくない。また、100℃における動粘度が20mm/sを超えるワックス異性化基油を得ようとする場合、その収率が低くなり、原料として重質ワックスを用いる場合であっても分解率を高めることが困難となるため好ましくない。
【0078】
本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にあるワックス異性化基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
100℃における動粘度が4.5〜20mm/s、より好ましくは4.8〜11mm/s、特に好ましくは5.5〜8.0mm/sのワックス異性化基油。
【0079】
また、本発明のワックス異性化基油の40℃における動粘度は、好ましくは6.0〜80mm/s、より好ましくは8.0〜50mm/sである。本発明においては、40℃における動粘度が下記の範囲にあるワックス異性化留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
40℃における動粘度が28〜50mm/s、より好ましくは29〜45mm/s、特に好ましくは30〜40mm/sのワックス異性化基油。
【0080】
また、上記ワックス異性化基油は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度−温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、更には揮発防止性、熱・酸化安定性及び潤滑性に優れる。
【0081】
また、本発明のワックス異性化基油の15℃における密度(ρ15)は、ワックス異性化基油の粘度グレードによるが、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (1)
[式中、kv100はワックス異性化基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0082】
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0083】
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0084】
また、本発明のワックス異性化基油のアニリン点(AP(℃))は、ワックス異性化基油の粘度グレードによるが、下記式(2)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.3×kv100+100 (2)
[式中、kv100はワックス異性化基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0085】
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、ワックス異性化基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0086】
例えば、上記ワックス異性化基油のAPは、好ましくは125℃以上、より好ましくは128℃以上である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
【0087】
また、上記ワックス異性化基油のNOACK蒸発量は、好ましくは0質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。NOACK蒸発量が前記下限値の場合、低温粘度特性の改善が困難となる傾向にある。また、NOACK蒸発量がそれぞれ前記上限値を超えると、ワックス異性化基油を内燃機関用潤滑油等に用いた場合に、ワックス異性化の蒸発損失量が多くなり、それに伴い触媒被毒が促進されるため好ましくない。
【0088】
また、上記ワックス異性化基油の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは440〜480℃、より好ましくは430〜470℃、更に好ましくは420〜460℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは450〜510℃、より好ましくは460〜500℃、更に好ましくは460〜480℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは470〜540℃、より好ましくは480〜530℃、更に好ましくは490〜520℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは470〜560℃、より好ましくは480〜550℃、更に好ましくは490〜540℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは505〜565℃、より好ましくは515〜555℃、更に好ましくは525〜565℃である。また、T90−T10は、好ましくは35〜80℃、より好ましくは45〜70℃、更に好ましくは55〜80℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは50〜130℃、より好ましくは60〜120℃、更に好ましくは70〜110℃である。また、T10−IBPは、好ましくは5〜65℃、より好ましくは10〜55℃、更に好ましくは10〜45℃である。また、FBP−T90は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは5〜50℃、更に好ましくは5〜40℃である。
【0089】
ワックス異性化基油において、IBP、T10、T50、T90、FBP、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP、FBP−T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP及びFBP−T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、ワックス異性化基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましくない。
【0090】
なお、本発明でいう、IBP、T10、T50、T90及びFBPとは、それぞれASTM D 2887−97に準拠して測定される留出点を意味する。
【0091】
本発明で使用可能な合成系炭化水素油とは、例えば、ポリ−α−オレフィン(エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、およびこれらの水素化物など)、アルキルベンゼン及びアルキルナフタレン等が挙げられ、これらの製造方法については特に制限されないが、通常に製造されている方法であればいずれでもよい。
【0092】
また、前記の合成系炭化水素油以外の合成油としては、例えば、モノエステル(ブチルステアレート、オクチルラウレートなど)、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセパケートなど)、ポリエステル(トリメリット酸エステルなど)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなど)、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、リン酸エステル(トリクレジルホスフェートなど)、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィンなど)、シリコーン油などが例示できる。
【0093】
また、油脂としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、あるいはこれらの水素添加物などが挙げられる。
【0094】
本発明の潤滑油基油においては、上記した油脂及び/又は前記の合成系炭化水素油以外の合成油のうちの1種を単独で又は2種以上組み合わせて配合してもよい。
【0095】
本発明で用いられる基油の粘度は特に制限されないが、40℃における動粘度が10〜700mm /sの範囲にあるものが好ましく、15〜500mm/sの範囲にあるものがより好ましい。また、基油の含有量は特に制限されないが、組成物全量基準で50〜99.98質量%の範囲であることが好ましい。
【0096】
(A)成分は、具体的には、下記一般式(1)および一般式(2)で表される化合物である。
【化2】


[式中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基である。]
【化3】


[式中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数13〜18の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基である。]
【0097】
及びRの直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基としては、具体的には、直鎖ヘキシル基、直鎖ヘキセニル基、直鎖ヘプチル基、直鎖ヘプテニル基、直鎖オクチル基、直鎖オクテニル基、直鎖ノニル基、直鎖ノネニル基、直鎖デシル基、直鎖デセニル基、直鎖ウンデシル基、直鎖ウンデセニル基、直鎖ドデシル基、直酸ドデセニル基、また、R及びRのアルキル基又は直鎖アルケニル基としては、具体的には、直鎖トリデシル基、直鎖トリデセニル基、直鎖テトラデシル基、直鎖テトラデセニル基、直鎖ペンタデシル基、直鎖ペンタデセニル基、直鎖ヘキサデシル基、直鎖ヘキサデセニル基、直鎖ヘプタデシル基、直鎖ヘプタデセニル基、直鎖オクタデシル基、直鎖オクタデセニル基、オレイル基等が挙げられる。
【0098】
本発明で用いられる(A)成分には、上記一般式(1)中のR及びR、あるいは上記一般式(2)中のR及びRのうち一方が水素原子であり、他方が直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基である化合物(リン酸モノエステル)、並びにR及びRあるいはR及びRの双方が直鎖アルキル基及び/又は直鎖アルケニル基である化合物(リン酸ジエステル)が包含される。本発明では、リン酸モノエステル又はリン酸ジエステルの一方を単独で用いてもよく、あるいはリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの混合物を用いてもよいが、摩擦特性の点からは、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの混合物を用いることが好ましい。混合物を用いる場合、リン酸モノエステル/リン酸ジエステルの混合比はモル比で10/90〜90/10であることが好ましく、20/80〜80/20であることがより好ましく、30/70〜70/30であることが更に好ましい。
【0099】
本発明の潤滑油組成物において、(A)成分の含有量は、通常、組成物全量基準で0.01〜0.5質量%であり、低摩擦性能に優れる点から、組成物全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。また、得られる潤滑油組成物の耐腐食性に優れる点から、(A)成分の含有量は、組成物全量基準で、0.5質量%以下であり、好ましくは0.4質量%以下である。また、(A)成分のリン元素換算量での含有量は、(A)成分の分子量により異なってくるが、通常、組成物全量基準で、リン元素換算量で、0.0005〜0.06質量%、好ましくは0.003〜0.06質量%、特に好ましくは0.005〜0.05質量である。
【0100】
本発明の潤滑油組成物において、(A)成分由来の酸価は0.1〜1.0mg/KOHであり、0.1未満であると、添加剤の摩擦低減効果が低いため好ましくなく、また、1.0を超えるとしゅう動材料への腐食が増加することと、摩擦性能的には、長期にわたり低摩擦を維持できないために好ましくない。
【0101】
本発明における(B)成分は、下記一般式(3)で表されるアルキルアミンである。
【化4】


[式(3)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数4〜30の分岐鎖アルキル基であり、R及びRの少なくとも一方は分岐鎖アルキル基である。]
【0102】
通常、式(3)で表されるアミンは、炭素数4〜30、好ましくは炭素数4〜20の分岐鎖アルキル基を1つ又は2つ以上有するモノアミン、ジアミン、ポリアミンのいずれであっても良いが、炭素数4〜20の分岐鎖アルキル基を有するモノアミンが好ましく、また、炭素数4〜20の分岐鎖アルキル基を2個有するモノアミンの2級アミンが好ましい。これらの分岐鎖アルキル基の中でも、(A)成分と混合した場合の低温貯蔵安定性、切削油が混入した場合の低摩擦性能に優れる点から、これら分岐鎖アルキル基の炭素数は6以上であることがより好ましい。また、潤滑油基油に対する溶解性の点からは、これら分岐鎖アルキル基の炭素数は、20以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましく、14以下であることがさらに好ましい。
【0103】
上記の好ましい炭素数4〜20の分岐鎖アルキル基としては、具体的には、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソノナデシル基、イソイコシル基等の分岐鎖アルキル基が挙げられる。
【0104】
本発明の潤滑油組成物において、(B)成分の含有量は、通常、組成物全量基準で0.01〜2質量%であり、(A)成分と混合した場合の耐腐食性に優れる点から、組成物全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。また、低温貯蔵安定性と、切削油が混入した場合の低摩擦性能に優れる点から、(B)成分の含有量は、組成物全量基準で、2質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。また、(B)成分の窒素元素換算量での含有量は、(B)成分の分子量により異なってくるが、通常、組成物全量基準で、窒素元素換算量で、0.0002〜0.4質量%、好ましくは0.001〜0.2質量%、特に好ましくは0.002〜0.1質量%である。
【0105】
なお、本発明の潤滑油組成物において、(A)成分と(B)成分の最適な組合せとしては、炭素数6〜18の直鎖アルキル基を有する酸性リン酸エステルと炭素数4〜30の分岐鎖アルキル基を有するアミンとの組合せであり、特に、モノn−オクチルアシッドホスフェート及び/又はジn−オクチルアシッドホスフェートあるいはモノオレイルアシッドホスフェート及び/又はジオレイルアシッドホスフェートと、ジ2−エチルヘキシルアミン及び/又はジイソトリデシルアミンの組合せが最も好ましい。
【0106】
本発明の潤滑油組成物は、上記特定の潤滑油基油と(A)成分と(B)成分とを含有することにより、低摩擦性、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させることなく、加工精度を維持することが可能である。
【0107】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を高めるために、あるいは各種用途の潤滑油組成物、特に工作機械の摺動面用潤滑油組成物として必要な性能を付与するために、(C)硫黄化合物あるいは潤滑油分野において公知のその他添加剤を配合することができる。
【0108】
本発明の潤滑油組成物は、耐腐食性能に優れ、摩擦係数をより低く維持することができ、加工精度を長期に渡り維持し得る点で、(C)硫黄化合物を更に含有させることが好ましい。
【0109】
(C)硫黄化合物としては、例えば硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。このような化合物を単独で用いてもよく、2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0110】
ここで、硫化油脂は、硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)を反応させて得られるものであり、その硫黄含有量は特に制限はないが、一般に5〜30質量%のものが好適である。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油およびこれらの混合物などを挙げることができる。
【0111】
硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルおよびこれらの混合物などを挙げることができる。
【0112】
硫化オレフィンとしては、例えば、下記の一般式(4):
−S−R (4)
(式中、Rは炭素数2〜15のアルケニル基、Rは炭素数2〜15のアルキル基またはアルケニル基を示し、aは1〜8の整数を示す)
で表される化合物などを挙げることができる。この化合物は、炭素数2〜15のオレフィンまたはその二〜四量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られ、該オレフィンとしては、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましい。
【0113】
また、ジヒドロカルビルポリサルファイドは、下記の一般式(5):
−S−R10 (5)
(式中、RおよびR10は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基または環状アルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、bは1〜8の整数を示す)
で表される化合物である。ここで、RおよびR10がアルキル基の場合、硫化アルキルと称される。
【0114】
上記一般式(5)におけるRおよびR10の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
【0115】
このジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、例えば、ジベンジルポリサルファイド、各種ジノニルポリサルファイド、各種ジドデシルポリサルファイド、各種ジブチルポリサルファイド、各種ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドおよびこれらの混合物などを好ましく挙げることができる。
【0116】
チアジアゾール化合物としては、例えば、下記一般式(6)、(7)および(8):
【化5】


(式中、R11およびR12はそれぞれ水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、cおよびdはそれぞれ0〜8の整数を示す)
で表される1,3,4−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール化合物、1,4,5−チアジアゾールなどが好ましく用いられる。このようなチアジアゾール化合物の具体例としては、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾールおよびこれらの混合物などを好ましく挙げることができる。
【0117】
アルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、下記一般式(9):
【化6】


[式中、R13〜R16は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基を示し、eは1〜8の整数を示す]
で表される化合物が挙げられる。このようなアルキルチオカルバモイル化合物の具体例としては、ビス(ジメチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジアミルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジオクチルチオカルバモイル)ジスルフィドおよびこれらの混合物などを好ましく挙げることができる。
【0118】
アルキルチオカーバメート化合物としては、例えば、下記一般式(10):
【化7】


[式中、R13〜R16は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基を示し、R17は炭素数1〜10のアルキル基を示す]
で示される化合物が挙げられる。このようなアルキルチオカーバメート化合物の具体例としては、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)、メチレンビス[ジ(2−エチルヘキシル)ジチオカーバメート]などを好ましく挙げることができる。
【0119】
さらに、チオテルペン化合物としては、例えば、五硫化リンとピネンの反応物を、ジアルキルチオジプロピオネート化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートおよびこれらの混合物などを挙げることができる。
【0120】
本発明の潤滑油組成物において、(C)硫黄化合物の含有量は、得られる潤滑油組成物の摩擦特性の点から、組成物全量基準で0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらにより好ましい。また、得られる潤滑油組成物が水溶性切削液との分離性により優れること、それ以上含有させてもさらなる摩擦特性の向上は期待できない場合があることなどから、硫黄系添加座剤の含有量は組成物全量基準で5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0121】
公知のその他の添加剤としては、例えば、1価アルコール又は多価アルコール、1塩基酸又は多塩基酸、前記アルコールと前記酸とのエステル、本願請求項1以外のアミン、アルカノールアミン等のアミン化合物等の油性剤、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール系化合物、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N’−ジ(2−ナフチル)−p−フェニレンジアミン等のアミン系化合物等の酸化防止剤;ベンゾトリアゾールやアルキルチアジアゾール等の金属不活性化剤;シリコーン油、フルオロシリコン油等の消泡剤;酸性リン酸エステル以外のリン系添加剤(正リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性(亜)リン酸エステルのアミン塩など);カルボン酸等の油性剤;アルケニルコハク酸、ソルビタンモノオレート等のさび止め添加剤;ポリメタクリレート等の流動点降下剤;ポリメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、オレフィンコポリマー、スチレン−ジエンコポリマー、スチレン−無水マレイン酸コポリマー等の粘度指数向上剤などが挙げられる。
【0122】
上記構成を有する本発明の潤滑油組成物は、低摩擦性能、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させることのないものであり、さらには耐腐食性にも優れる。従って、低摩擦性、低温貯蔵安定性及び耐腐食性の要求される潤滑油分野の様々な用途で好適に使用される。中でも、工作機械等のすべり案内面(摺動面)用の潤滑油として使用した場合に、本発明の効果がより一層発揮される。
【実施例】
【0123】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0124】
[実施例1〜8、比較例1〜3]
実施例1〜8および比較例1〜3においては、それぞれ表1、2に示すような組成を有する潤滑油組成物を調製した。各潤滑油組成物の調製に用いた成分は、以下のとおりである。
潤滑油基油:
基油1:ポリα−オレフィンVG32(粘度指数:138、硫黄分:1質量ppm未満、40℃における動粘度:31.00mm/s、引火点:246℃、15℃における密度:0.827g/cm、窒素分:3ppm未満)
基油2:ワックス異性化基油VG32(粘度指数:154、硫黄分:1質量ppm未満、飽和炭化水素分:99.1質量%、40℃における動粘度:31.10mm/s、100℃における動粘度:6.215mm/s、アニリン点:124.9℃、引火点:258℃、15℃における密度:0.827g/cm、窒素分:3ppm未満)
基油3:水素化精製基油VG32(粘度指数:135、硫黄分:0.01質量%、飽和炭化水素分:97.4質量%、40℃における動粘度:31.11mm/s、引火点:246℃、15℃における密度:0.840g/cm、窒素分:3ppm未満)
基油4:ポリα−オレフィンVG68(粘度指数:150、硫黄分:1質量ppm未満、40℃における動粘度:69.90mm/s、引火点:270℃、15℃における密度:0.842g/cm、窒素分:3ppm未満)
基油5:水素化精製基油VG68(粘度指数:110、硫黄分:0.08質量%、飽和炭化水素分:76.9質量%、40℃における動粘度:66.09mm/s、引火点:258℃、15℃における密度:0.869g/cm、窒素分:10ppm)
基油6:ポリα−オレフィンVG220(粘度指数:141、硫黄分:1ppm未満、40℃における動粘度:216.0mm/s、引火点:262℃、15℃における密度:0.842g/cm、窒素分:3ppm未満)
基油7:溶剤精製鉱油VG32(粘度指数:102、硫黄分:0.27質量%、飽和炭化水素分:67.0質量%、40℃における動粘度:31.54mm/s、引火点:220℃、15℃における密度:0.844g/cm、窒素分:30ppm)
基油8:溶剤精製基油VG68(粘度指数:98、硫黄分:0.62質量%、飽和炭化水素分:63.9質量%、40℃における動粘度:68.69mm/s、引火点:252℃、15℃における密度:0.885g/cm、窒素分:40ppm)
基油9:溶剤精製鉱油VG220(粘度指数:95、硫黄分:0.56質量%、飽和炭化水素分:60.1質量%、40℃における動粘度:215.9mm/s、引火点:270℃、15℃における密度:0.894g/cm、窒素分:110ppm)
なお、前記の基油のVG32、VG68、VG220の表記は、JIS K 2001「工業用潤滑油−ISO粘度分類」による粘度グレードを意味する。
(A)酸性リン酸エステル:
A1:モノn−オクチルアシッドホスフェートとジn−オクチルアシッドホスフェートの混合物(リン含有量:11.6質量%)
A2:モノオレイルアシッドホスフェートとジオレイルアシッドホスフェートの混合物(リン含有量:6.6質量%)
(B)アルキルアミン:
B1:ジ2−エチルヘキシルアミン
その他の添加剤:
C1:ポリサルファイド(硫黄含有量:22.0質量%)。
【0125】
次に、実施例1〜8及び比較例1〜3の各潤滑油組成物について以下の試験を行った。
【0126】
(摩擦特性評価試験)
図1は摩擦特性評価試験に用いた摩擦係数測定システムを示す概略構成図である。図1中、ベッド6上にはロードセル5を介して連結されたテーブル1及び可動治具4が配置されており、さらにテーブル1上には、加工工具の代用物としての重鎮9が配置されている。テーブル1及びベッド6はいずれも鋳鉄からなるものである。また、可動治具4は軸受部を有するもので、当該軸受部は送りネジ3を介してA/Cサーボモータ2に連結されている。A/Cサーボメータ2により送りネジ3を動作させることで、可動治具4を送りネジ3の軸方向(図中の矢印方向)に往復運動させることができる。さらに、ロードセル5はコンピュータ7と、コンピュータ7及びA/Cサーボメータ2はそれぞれ制御板8と電気的に接続されており、これにより可動治具4の往復運動の制御及びテーブル1と可動治具4との間の荷重の測定を行うことができる。
このような摩擦係数測定システムにおいて、ベッド6の上面に潤滑油組成物を滴下し、テーブル重鎮9の選定によりテーブル1とベッド6との間を面圧200kPaに調整した後、送り速度0.1mm/min、送り長さ15mmで可動治具4を往復運動させた。このときのテーブル1と可動治具4との間の荷重をロードセル5(荷重計)により測定し、得られた測定値に基づいて案内面(テーブル1/ベッド6=鋳鉄/鋳鉄)の摩擦係数を求めた。なお、上記試験は慣らし運転を3回行った後に行った。各潤滑油組成物の摩擦係数を表1、2に示す。
【0127】
(切削油混入時の摩擦特性評価試験)
潤滑油組成物500mLと水溶性切削液(エマルション型切削液、新日本石油(株)製、JISK 2241「切削油剤」のW1種1号相当品、希釈率10倍)25mLとを1000mLビーカーに採取した。ビーカー中で、室温にて1分間磁気性回転子を用いて緩やかに撹拌した。撹拌後1時間静置し上層を測定試料とした。前記摩擦特性評価試験を行った結果を表1、2に示す。切削油混入時の摩擦係数が、0.110を越えた場合は許容範囲外(×)、0.110以下であれば許容範囲内(○)、0.09以下であれば極めて優れるもの(◎)として判定した。
【0128】
(切削液混入時のリン残存率)
潤滑油組成物500mLと水溶性切削液(エマルション型切削液、新日本石油(株)製、JISK 2241「切削油剤」のW1種1号相当品、希釈率10倍)25mLとを1000mLビーカーに採取した。ビーカー中で、室温にて1分間磁気性回転子を用いて緩やかに撹拌した。撹拌後1時間静置し上層(油層)を測定試料として用い、社団法人石油学会のJPI試験法5S−38−03「潤滑油−添加元素試験方法−誘導結合プラズマ発光分光分析法」に基づきP分の定量分析を行った。(試験前のリン分/試験後のリン分)X100を算出して、リン残存率(%)とした。得られた結果を表1、2に示す。
【0129】
(切削液混入時の耐腐食性試験)
潤滑油組成物500mLと水溶性切削液(エマルション型切削液、新日本石油(株)製、JISK 2241「切削油剤」のW1種1号相当品、希釈率10倍)25mLとを1000mLビーカーに採取した。ビーカー中で室温において1分間、磁気性回転子を用いて緩やかに撹拌した。撹拌後1時間静置し測定試料として用い、ガラス製ビーカーに200mL採取し、メタノールにより脱脂した7cm四方のSPC材(厚さ0.2mm、80番ダル仕上げ)を容器内に常温で浸漬した。20日経過後の試片を溶剤で洗浄した後、外観を目視により観察し気液境界における変色の有無により耐腐食性を評価した。評価基準は以下の通りである。得られた結果を表1、2に示す。
○:変色なし
△:やや変色する傾向あり
×:明らかに変色あり
【0130】

【表1】

【0131】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実施例で用いた摩擦係数測定システムを示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0133】
1…テーブル、2…A/Cサーボメータ、3…送りネジ、4…可動治具、5…ロードセル、6…ベッド、7…コンピュータ、8…制御盤、9…重鎮。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度指数が105以上、飽和炭化水素成分が70質量%以上、硫黄分が0.2質量%以下の潤滑油基油、並びに、
組成物全量基準で、(A)下記一般式(1)又は下記一般式(2)に示す酸性リン酸エステルの中から選ばれる少なくとも1種0.01〜0.5質量%と、(B)下記一般式(3)に示すアルキルアミン0.01〜2質量%と、の混合物及び/又は反応物
を含有し、前記(A)成分に由来する酸価が0.1〜1.0mgKOH/gであることを特徴とする潤滑油組成物。
【化1】


[式(1)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基であり;
式(2)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数13〜18の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基であり;
式中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数4〜30の分岐鎖アルキル基を表し、R及びRの少なくとも一方は分岐鎖アルキル基である。]
【請求項2】
前記潤滑油基油の窒素分が10質量ppm以下であり、前記潤滑油基油の引火点が250℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
組成物全量基準で、(C)硫黄化合物0.01〜5質量%を更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
工作機械に用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−235268(P2009−235268A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84377(P2008−84377)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】