説明

潤滑油組成物

【課題】摩擦低減効果に優れ、省燃費効果に優れる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(A)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油と、(B)モリブデン換算で250〜2000ppmの、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、(C)硫黄換算で20〜250ppmの、テトラベンジルチウラムジスルフィドとを含有する潤滑油組成物であり、潤滑油基油(A)が、(A1)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の混合鉱油基油、(A2)100℃の動粘度が2〜8mm/秒の、ポリアルファオレフィン、アルファオレフィンオリゴマー又はそれらの混合物、(A3)100℃の動粘度が1.4〜12mm/秒の、ヒンダードエステル、ジエステル又はそれらの混合物、及び(A4)100℃の動粘度が8〜50mm/秒の潤滑油基油からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、さらに詳しくは、摩擦低減効果に優れ、省燃費効果に優れた潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境問題への取り組みが盛んに行われているが、エンジン油(潤滑油組成物)に対しても燃費低減効果が求められてきている。例えば、有機モリブテン化合物が配合されることによって境界潤滑領域における摩擦係数が低減された、低粘度潤滑油組成物が見出されている(例えば、特許文献1を参照)。潤滑油組成物の摩擦係数が低減されることにより、エンジンの省燃費効果が発現される。また、有機モリブテン化合物が配合されることにより境界潤滑領域における摩擦係数が低減され、更に、特定のエステル系潤滑油基油が配合されることにより流体潤滑領域においても省燃費効果を発現する低粘度潤滑油組成物が見出されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0003】
更に、特定の酸化防止剤を組み合わせて配合することにより、有機モリブテン化合物を配合しなくても優れた省燃費効果を発現することができる、低粘度潤滑油組成物が見出されている(例えば、特許文献3を参照)。また、省燃費油として販売されている市販のエンジン油としては、例えば、SAE粘度グレード5W−30、5W−20及び0W−20のような低粘度油、有機モリブテン化合物を配合した低粘度油、等を挙げることができる。
【0004】
これらの他にも、有機モリブデンが含有されるとともに、硫黄分が供給されるように配合された潤滑油組成物が開示されている(例えば、特許文献4〜6を参照)。また、モリブデン化合物及びジチオカ−バメイト(チオカルバモイル化合物)を含有する潤滑油組成物が開示されている(例えば、特許文献7,8を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−371292号公報
【特許文献2】特開2005−041998号公報
【特許文献3】特開2005−146010号公報
【特許文献4】特開平08−253785号公報
【特許文献5】特開2004−149762号公報
【特許文献6】特開平09−104888号公報
【特許文献7】特開平10−121079号公報
【特許文献8】特開平10−130680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機モリブデン化合物は、主として、いわゆるジアルキルジチオリン酸モリブデン(以下、MoDTPということがある)と、いわゆるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(以下、MoDTCということがある)と、モリブデンがアミン錯体となった化合物との、3つに分類される。最近では、MoDTPは、リンを含むため、ほとんど使用されていない。それは、MoDTPがシリンダー内で燃料と共に燃焼したときに、MoDTP由来のリンを含む排気ガスが排出され、当該リンを含む排気ガスが下流側に設けられた3元触媒を通過する時に、当該3元触媒を被毒させるためである。
【0007】
一方、MoDTCは、リンを含まないため、エンジン油の摩擦調整剤として利用されている。MoDTCは、エンジン内の摺動表面に被膜を形成し、当該被膜は、元素組成比が二硫化モリブデンに近い「二硫化モリブデン化合物」を含むことが知られている。MoDTCは、分子内に硫黄及びモリブデンを含むため、摺動表面で分解し二硫化モリブデン化合物を含む被膜が形成され、この二硫化モリブデン化合物が、摩擦を低減していると考えられる。
【0008】
MoDTCは、分子内に硫黄及びモリブデンを含むが、モリブデンの量に対して硫黄の量が相対的に少ないため、MoDTCだけでは、二硫化モリブデン化合物を十分に生成させることが容易ではなかった。被膜生成(二硫化モリブデン化合物の生成)活性を、より高めるためには、より多くの硫黄分が必要であった。そのため、外部から硫黄分を供給することが行われていた(例えば、特許文献4,5及び6を参照)。しかし、硫黄分を増やすことは、触媒被毒を加速させるため好ましくはない。
【0009】
また、同様に、モリブデンがアミン錯体となった化合物は、分子内に硫黄を持たないため、MoDTC以上に二硫化モリブデン化合物を作り難い。そのため、摩擦低減効果が非常に小さくなっている。したがって、アミン錯体の場合は、必ず硫黄分を外部から供給することが必要であった。
【0010】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、摩擦低減効果に優れ、省燃費効果に優れる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下の潤滑油組成物を提供する。
【0012】
[1] (A)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油と、(B)モリブデン換算で250〜2000ppmの、下記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、(C)硫黄換算で20〜250ppmの、下記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィドとを含有する潤滑油組成物。
【0013】
【化1】

(式(1)において、R〜Rはアルキル基を示す。)
【0014】
【化2】

【0015】
[2] 前記潤滑油基油(A)が、(A1)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の混合鉱油基油、(A2)100℃の動粘度が2〜8mm/秒の、ポリアルファオレフィン、アルファオレフィンオリゴマー又はそれらの混合物、(A3)100℃の動粘度が1.4〜12mm/秒の、ヒンダードエステル、ジエステル又はそれらの混合物、及び(A4)100℃の動粘度が8〜50mm/秒の潤滑油基油からなる群から選択される少なくとも1種を含有する[1]に記載の潤滑油組成物。
【0016】
[3] (D)亜リン酸エステルをリン換算で10〜2000ppm含有する[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
【0017】
[4] 金属清浄剤、無灰分散剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、防錆剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤及び消泡剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有する[1]〜[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0018】
[5] ASTM−D−7589に準拠する省燃費性試験のステージ4において、省燃費性が、基準油より2.0%以上高い値である[1]〜[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の潤滑油組成物は、(B)モリブデン換算で250〜2000ppmの、上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、(C)硫黄換算で20〜250ppmの、上記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィドとを含有し、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンからモリブデンが供給されるとともに、テトラベンジルチウラムジスルフィドの分解により硫黄分が供給されて、エンジン内の摺動表面に、二硫化モリブデン化合物による被膜を形成することが可能となる。更に、テトラベンジルチウラムジスルフィドは、熱分解温度が高いため、エンジン内でも少しずつしか分解せずに潤滑油組成物内に長期間滞留する。これにより、長期間に亘り、潤滑油組成物内の硫黄の消失を防止することができ、持続的に二硫化モリブデン化合物による被膜を形成することが可能となる。そして、それにより、優れた摩擦低減効果及び優れた省燃費効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0021】
(1)潤滑油組成物:
本発明の潤滑油組成物の一の実施形態は、(A)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油(以下、「(A)成分」ということがある)と、(B)モリブデン換算で250〜2000ppmの、下記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(以下、「(B)成分」ということがある)と、(C)硫黄換算で20〜250ppmの、下記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィド(以下、「(C)成分」ということがある)とを含有する潤滑油組成物である。尚、単位「ppm」は、質量基準である。
【0022】
【化3】

(式(1)において、R〜Rは、アルキル基を示す。)
【0023】
【化4】

【0024】
このように、本実施形態の潤滑油組成物は、(B)成分と(C)成分とを含有するため、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンからモリブデンが供給されるとともに、テトラベンジルチウラムジスルフィドの分解により硫黄分が供給されて、エンジン内の摺動表面に、二硫化モリブデン化合物による被膜を形成することが可能となる。更に、テトラベンジルチウラムジスルフィドは、熱分解温度が高いため、エンジン内でも少しずつしか分解せずに潤滑油組成物内に長期間滞留する。これにより、長期間に亘り、潤滑油組成物内の硫黄の消失を防止することができ、持続的に二硫化モリブデン化合物による被膜を形成することが可能となる。そして、それにより、優れた摩擦低減効果及び優れた省燃費効果を発揮することができる。
【0025】
また、本実施形態の潤滑油組成物は、特に、潤滑油組成物が高温の状態で、エンジンが低回転で運転されているときに(負荷:1.5kw)、油膜が薄くなり金属接触が多くなるにも関わらず、省燃費性能が高いものであることが好ましい。具体的には、ASTM−D−7589に準拠する省燃費性試験のステージ4(負荷:1.5kw、エンジン回転数:695rpm、潤滑油組成物の温度:115℃)において、省燃費性が、基準油より2.0%以上高い値となるものであることが好ましい。
【0026】
(1−1)(A)成分:
(A)成分は、100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油であり、100℃の動粘度は、1.4〜5.0mm/秒が好ましく、1.4〜3.5mm/秒が更に好ましい。100℃の動粘度が1.4mm/秒より低いと、蒸発量が多くなるため好ましくない。100℃の動粘度が6mm/秒より高いと、省燃費効果が低減するため好ましくない。動粘度は、JIS K2283に準拠する方法で測定した値である。
【0027】
(A)成分は、(A1)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の混合鉱油基油(以下、「(A1)成分」ということがある)、(A2)100℃の動粘度が2〜8mm/秒のポリアルファオレフィン、アルファオレフィンオリゴマー又はそれらの混合物(以下、「(A2)成分」ということがある)、(A3)100℃の動粘度が1.4〜12mm/秒のヒンダードエステル、ジエステル又はそれらの混合物(以下、「(A3)成分」ということがある)、及び(A4)100℃の動粘度が8〜50mm/秒の潤滑油基油(以下、「(A4)成分」ということがある)からなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであることが好ましい。ポリアルファオレフィン及びアルファオレフィンオリゴマーは、それぞれ、1種単独であってもよいし、複数種が混合されたものであってもよい。
【0028】
本実施形態の潤滑油組成物で使用される潤滑油基油((A)成分)は、以下の基油((A1)〜(A4))を、単独で、又は必要に応じて混合して使用することが好ましい。
【0029】
(1−1−1)(A1)成分;
上記のように、(A1)成分は、100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の混合鉱油基油である。具体的には、グループ2の基油、グループ3の基油、又は、グループ2の基油とグループ3の基油との混合基油であることが好ましい。ここで、「グループ2」及び「グループ3」は、API(米国石油協会)規格における基油の分類である。
【0030】
グループ2の基油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろう等の精製手段を適宜組合せて適用することにより得られたパラフィン系鉱油を挙げることができる。また、ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2の基油は、全硫黄分が10ppm未満であるとともに芳香族分が5%以下であり、本実施形態の潤滑油組成物に配合される基油として好適に用いることができる。グループ2の基油は、粘度指数が「100以上、120未満」であることが好ましく、「105以上、120未満」であることが更に好ましい。また、グループ2の基油は、全硫黄分が500ppm未満であることが好ましく、300ppm未満であることが更に好ましく、10ppm未満であることが特に好ましい。また、グループ2の基油は、全窒素分が10ppm未満であることが好ましく、1ppm未満であることが更に好ましい。また、グループ2の基油は、アニリン点が80〜150℃であることが好ましく、100〜135℃であることが更に好ましい。硫黄分は、ICP(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)の分析装置を用いて測定した値である。また、窒素分は、JISK2609(原油及び原油製品−窒素分試験方法)の化学発光法により測定した値である。
【0031】
グループ3の基油としては、例えば、「原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製手段を適用することにより得られたパラフィン系鉱油」、「天然ガスの液体燃料化技術であるフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)ワックス、又は、更に脱ろうプロセスを経由して生成されるワックス」が、「溶剤脱ろう後に、更にイソパラフィンに変換して脱ろうするプロセスであるイソデワックス(ISODEWAX)プロセスにより、精製された基油」、「モービルワックス(WAX)異性化プロセスにより精製された基油」等を挙げることができる。グループ3の基油の粘度指数は120以上であり、120〜150であることが好ましい。また、グループ3の基油の全硫黄分は、100ppm未満であることが好ましく、10ppm未満であることが更に好ましい。また、グループ3の基油の全窒素分は、10ppm未満であることが好ましく、1ppm未満であることが更に好ましい。さらに、グループ3の基油のアニリン点は、80〜150℃であることが好ましく、110〜135℃であることが更に好ましい。
【0032】
(1−1−2)(A2)成分;
(A2)成分は、100℃の動粘度が2〜8mm/秒の基油であり、ポリアルファオレフィン(ポリ−α−オレフィン)、アルファオレフィンオリゴマー(α−オレフィンオリゴマー)、又はそれら(ポリアルファオレフィン及びアルファオレフィンオリゴマー)の混合物である。ポリアルファオレフィンは、各種アルファオレフィン(モノマー)の重合物である。また、ポリアルファオレフィンは、複数種の「アルファオレフィン(モノマー)の重合物」を混合した混合物であってもよい。また、アルファオレフィンオリゴマーは、各種アルファオレフィン(モノマー)のオリゴマーであり、水素化されたアルファオレフィン(モノマー)のオリゴマーも含まれる。また、アルファオレフィンオリゴマーは、複数種の「アルファオレフィン(モノマー)のオリゴマー」を混合した混合物であってもよいし、複数種の「水素化されたアルファオレフィン(モノマー)のオリゴマー」を混合した混合物であってもよい。また、アルファオレフィンオリゴマーは、「アルファオレフィン(モノマー)のオリゴマー」と「水素化されたアルファオレフィン(モノマー)のオリゴマー」との混合物であってもよい。
【0033】
アルファオレフィン(モノマー)としては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のアルファオレフィンなどが挙げられる。ポリアルファオレフィン、又はアルファオレフィンオリゴマーの製造にあたっては、上記アルファオレフィン(モノマー)の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記ポリアルファオレフィンは、1種のアルファオレフィンを単独重合して製造してもよいし、2種以上のアルファオレフィンを共重合させて製造してもよい。つまり、上記ポリアルファオレフィンは、1種のアルファオレフィン(モノマー)の単独重合体(ホモポリマー)であってもよいし、2種以上のアルファオレフィンの共重合体(コポリマー)であってもよい。
【0034】
(1−1−3)(A3)成分;
(A3)成分は、100℃の動粘度が1.4〜12mm/秒の基油であり、ヒンダードエステル、ジエステル又はそれら(ヒンダードエステル及びジエステル)の混合物である。
【0035】
ヒンダードエステルは、ヒンダードアルコールと脂肪酸とのエステルである。
【0036】
ヒンダードアルコールは、分子中に第4級炭素原子を含むネオペンチル基を有する多価アルコールであり、炭素数5〜30のものが好ましい。また、ヒンダードアルコールは、炭素数5〜20であることが更に好ましく、炭素数10〜20であることが特に好ましい。
【0037】
ヒンダードアルコールとしては、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチルプロパン−1,3ジオール、2,2−ジブチルプロパン−1,3ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3ジオール、2−エチル−2−ブチルプロパン−1,3ジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、テトラトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、テトラペンタエリスリトール、ペンタペンタエリスリトール等を挙げることができる。そして、ヒンダードエステルを形成するヒンダードアルコールとしては、これらの中の1種であってもよいし、2種以上であってもよい。また、ヒンダードアルコールは高粘度であることが好ましく、具体的には、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等であることが好ましい。
【0038】
脂肪酸としては、炭素数4〜20の直鎖状または分岐状の脂肪酸が好ましい。また、脂肪酸は、炭素数4〜12であることが更に好ましく、炭素数5〜9であることが特に好ましい。直鎖状脂肪酸としては、例えば、n−ブタン酸、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、n−ノナン酸、n−デカン酸、n−ウンデカン酸、n−ドデカン酸、n−トリデカン酸、n−テトラデカン酸、n−ペンタデカン酸、n−ヘキサデカン酸、n−ヘプタデカン酸、n−オクタデカン酸等が挙げられる。そして、ヒンダードエステルを形成する直鎖状脂肪酸としては、これらの中の1種であってもよいし、2種以上であってもよい。また、分岐状脂肪酸としては、例えば、2−メチルプロパン酸、2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、2,2−ジメチルプロパン酸、2−エチルブタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,3−ジメチルブタン酸、2−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2−エチル−2−メチルブタン酸、3−メチルヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、2−プロピルペンタン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチル−2−メチルペンタン酸、2−メチルオクタン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、2−エチルヘプタン酸、2−メチルノナン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、2−エチルオクタン酸、2−メチルノナン酸、2,2−ジメチルノナン酸、炭素数11以上の分岐状脂肪酸等が挙げられる。そして、ヒンダードエステルを形成する分岐状脂肪酸としては、これらの中の1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0039】
また、ヒンダードエステルを形成する脂肪酸として、2種以上が使用されている場合には、ヒンダードエステルを構成する「脂肪酸由来の炭化水素基」の炭素数の平均値(「脂肪酸由来の炭化水素基」の炭素数(モル数)を、ヒンダードエステルの数(モル数)で除した値)が4〜8になるように、炭素数4未満の脂肪酸(例えば、n−プロパン酸等)が用いられてもよい。
【0040】
ヒンダードエステルは、従来の製造方法で製造することができる。例えば、(a)ヒンダードアルコールと脂肪酸とを、無触媒又は酸性触媒の存在下において、脱水縮合することにより直接エステル化する方法を挙げることができる。また、(b)脂肪酸塩化物を調製し、得られた脂肪酸塩化物とヒンダードアルコールとを反応させる方法を挙げることができる。更に、(c)低級アルコールと脂肪酸とのエステルと、ヒンダードアルコールとのエステル交換反応により製造する方法を挙げることができる。具体的には炭素数5〜30のヒンダードアルコールと炭素数4〜20の脂肪酸とを用いて、上記(a)〜(c)のいずれかの方法で、ヒンダードエステルを製造することが好ましい。
【0041】
ジエステルとしては、ジカルボン酸のジエステル、2価アルコールのジエステル等を挙げることができる。これらの中でも、ジカルボン酸のジエステルが好ましい。ジエステルとしては、1種のジエステルを単独で使用しても良いし、2種以上のジエステルを組み合わせて(混合して)使用してもよい。
【0042】
ジカルボン酸のジエステルとしては、脂肪族ジカルボン酸と1価のアルコールとのジエステルが好ましい。また、2価アルコールのジエステルとしては、脂肪族モノカルボン酸と2価アルコールとのジエステルが好ましい。
【0043】
脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、メチルマロン酸、ジメチルマロン酸、エチルマロン酸、ジエチルマロン酸、グルタル酸、ジメチルグルタル酸、ジエチルグルタル酸、ジ−n−プロピルグルタル酸、ジイソプロピルグルタル酸、ジブチルグルタル酸、アジピン酸、ジメチルアジピン酸、ジエチルアジピン酸、ジプロピルアジピン酸、ジブチルアジピン酸、コハク酸、メチルコハク酸、ジメチルコハク酸、エチルコハク酸、ジエチルコハク酸、ジプロピルコハク酸、ジブチルコハク酸、ピメリン酸、テトラメチルコハク酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ブラシル酸等を挙げることができる。
【0044】
1価のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール等を挙げることができる。尚、ジカルボン酸分子中の2つのカルボン酸とエステルを形成する1価のアルコールは、同一種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0045】
脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、n−プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−バレリン酸、n−ヘキサン酸、α−メチルヘキサン酸、α−エチルバレリン酸、イソオクチル酸、ペラルゴン酸、n−デカン酸、イソデカン酸、イソトリデカン酸、イソヘキサデカン酸等を挙げることができる。
【0046】
2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、2−ブチル−2−エチルプロパンジオール、2,4−ジエチル−ペンタンジオール等を挙げることができる。
【0047】
ジエステルは、分子全体の炭素数が20〜42であることが好ましく、分子内の炭素数が22〜30であることが更に好ましく、分子内の炭素数が22〜28であることが特に好ましい。さらには、炭素数3〜18のカルボン酸と炭素数5〜20のアルコールの組み合わせからなるジエステルが好ましい。なお、カルボン酸とアルコールのエステル化は、公知の方法により行うことができる。
【0048】
(1−1−4)(A4)成分;
(A4)成分は、100℃の動粘度が8〜50mm/秒の潤滑油基油である。そして、(A4)成分は、API(米国石油協会)規格の基油分類において、グループ1、グループ2、グループ3又はグループ4に該当する潤滑油基油であることが好ましい。また、これら(グループ1〜4)の中の2〜4種の混合物であってもよい。(A4)成分は、粘度調整、添加剤の溶解補助等の目的で、潤滑油組成物に含有されるもので、ASTM D3238で規定される%Cが少なくとも4.0以上、好ましくは4.5以上、更に好ましくは4.9以上である。
【0049】
(A4)成分としては、具体的には、ブライトストック等を挙げることができる。
【0050】
(1−2)(B)成分:
(B)成分は、下記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンである。
【0051】
【化5】

(式(1)において、R〜Rは、アルキル基を示す。)
【0052】
ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、モリブデンの元素分析値が9.5〜10.5質量%であり、硫黄の元素分析値が7.0〜14.0質量%であることが好ましい。
【0053】
(B)成分は、本実施形態の潤滑油組成物中に、モリブデン換算で250〜2000ppm含有されており、300〜1800ppm含有されていることが好ましく、350〜1600ppm含有されていることが更に好ましい。250ppmより少ないと、二硫化モリブデン化合物の皮膜生成量が少なくなるため、摩擦低減効果及び省燃費効果が低下するため好ましくない。2000ppmより多いと、非鉄金属を腐食させるため好ましくない。また、高価なモリブデンを無駄に使用することになり、省資源化、低コスト化という観点からも好ましくない。尚、潤滑油組成物中の(B)成分の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)の分析装置を用いて元素分析を行うことにより(以下、「ICPの方法で」ということがある。)測定することができる。また、潤滑油組成物中のモリブデン量についても、ICPの方法で測定することができる。
【0054】
上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンに含有されるアルキル基R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30の親油基であって、これら4つの親油基のうち、少なくとも1つが第2級親油基であることが好ましい。
【0055】
(1−3)(C)成分:
(C)成分は、下記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィドである。
【0056】
【化6】

【0057】
テトラベンジルチウラムジスルフィドは、硫黄の元素分析値が23.5±1.0質量%であり、窒素の元素分析値が5.1±0.5質量%であることが好ましい。
【0058】
(C)成分は、本実施形態の潤滑油組成物中に、硫黄換算で20〜250ppm含有されており、50〜250ppm含有されていることが好ましく、80〜250ppm含有されていることが更に好ましく、150〜250ppmが特に好ましい。20ppmより少ないと、(B)成分からの硫黄の供給量が少なくなるため、二硫化モリブデン化合物の皮膜生成量が少なくなり、摩擦低減効果及び省燃費効果が低下するため好ましくない。250ppmより多いと、(B)成分からの硫黄の供給量が多くなりすぎ、エンジンから排出される排気ガス中の硫黄量が増加し、エンジンの排気ガスを浄化するための触媒が当該硫黄により被毒するため好ましくない。尚、潤滑油組成物中の(C)成分の含有量は、ICPの方法で測定することができる。
【0059】
(C)成分は、テトラアルキルチウラムジスルフィドと比較して蒸気圧が低いため、使用量が少量であっても、エンジン内で揮発し難く、確実に硫黄分を摺動表面に供給することができる。これにより、摺動表面に、二硫化モリブデン化合物の被膜を形成することを促進し、当該被膜を維持することができる。また、(C)成分の使用量を少なくすることができるため、硫黄による、排ガス浄化用触媒の被毒を抑制することができる。尚、蒸気圧が高いものは、エンジン内で揮発し、無くなってしまうため、摺動表面で二硫化モリブデン化合物の被膜を形成し難いため好ましくない。
【0060】
(1−4)(D)成分:
本実施形態の潤滑油組成物は、(D)亜リン酸エステル(以下、「(D)成分」ということがある)をリン換算で10〜2000ppm含有することが好ましく、10〜1000ppm含有することが更に好ましく、10〜500ppm含有することが特に好ましく、10〜200ppm含有することが最も好ましい。「(D)成分」は、「P(OR)(OR)(OR)」の式で表され、R、R及びRは、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基であることが好ましい。また、R、R及びRの中の、少なくとも2つは、芳香族環を有していることが更に好ましく、ベンゼン環を有していることが特に好ましい。ベンゼン環を有することで、加水分解が起きにくくなり、安定性が増す為である。具体的には、下記式(3)で示される構造であることが特に好ましい。
【0061】
【化7】

【0062】
亜リン酸エステルは、リン(P)の元素分析値が7.6±0.5質量%であることが好ましい。
【0063】
(D)成分を含有することにより、テトラベンジルチウラムジスルフィドの潤滑油組成物に対する溶解性を向上させることができる。
【0064】
(D)成分の具体例としては、上記(3)式で示される化合物の他に、ADEKA(アデカ)社が販売しているアデカスタブシリーズのホスファイト系酸化防止剤等を挙げることができる。
【0065】
(1−5)その他の添加剤:
本実施形態の潤滑油組成物は、必要に応じて、その他の添加剤として、金属清浄剤、無灰分散剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、防錆剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤及び消泡剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。更に、本実施形態の潤滑油組成物は、その他の添加剤として、抗乳化剤及びゴム膨潤剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有してもよい。上記各種その他の添加剤は、単独で配合されていてもよいし、複数種類が混合されて配合されていてもよい。
【0066】
(1−5−1)金属清浄剤;
金属清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属清浄剤が好ましい。金属清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、金属含有量が1.0〜20質量%のものを用いることが好ましく、金属含有量が2.0〜16質量%のものを用いることが更に好ましい。
【0067】
金属清浄剤(アルカリ土類金属清浄剤)の塩基価は、特に限定されないが、500mgKOH/g以下が好ましく、150〜450mgKOH/gが更に好ましい。ここで、塩基価は、JISK2501の「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の「9.」(過塩素酸法)に準拠して測定される塩基価を意味する。潤滑油組成物中の金属清浄剤の含有量は、特に限定されないが、潤滑油組成物全体に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜8質量%であることが更に好ましく、1〜5質量%であることが特に好ましい。10質量%を超えると、その含有量に見合うだけの清浄効果が得られないことがある。
【0068】
(1−5−2)無灰分散剤;
無灰分散剤としては、一般に潤滑油組成物に用いられる任意の無灰分散剤を使用することができる。例えば、炭素数40〜400の「直鎖状又は分枝状」の「アルキル基又はアルケニル基」を分子中に少なくとも1個有する「モノコハク酸イミド又はビスコハク酸イミド」、炭素数40〜400の「アルキル基又はアルケニル基」を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、炭素数40〜400の「アルキル基又はアルケニル基」を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、これらの化合物の「ホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等」による変成品、等を挙げることができる。使用に際しては、これらの中から任意に選ばれる1種類又は2種類以上を配合することができる。特に、無灰分散剤としては、ビスタイプのポリブテニルコハク酸イミド、ビスタイプのポリブテニルコハク酸イミドの誘導体、又は、これらの混合物が好ましい。
【0069】
無灰分散剤の重量平均分子量は、3000以上であることが好ましく、6500以上であることが更に好ましく、7000以上であることが特に好ましく、8000以上であることが最も好ましい。重量平均分子量が3000未満では、非極性基であるポリブテニル基の分子量が小さいためスラッジの分散性に劣り、また、酸化劣化の活性点となる恐れのある極性基であるアミン部分が相対的に多くなって酸化安定性に劣る可能性がある。このような観点から、無灰分散剤に含まれる窒素含有量は、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。また、無灰分散剤に含まれる窒素含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましい。一方、低温粘度特性の悪化を防止する観点から、重量平均分子量は、20000以下であることが好ましく、15000以下であることが更に好ましい。
【0070】
本実施形態の潤滑油組成物中の無灰分散剤の含有量は、窒素元素換算で、潤滑油組成物全体に対して0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが更に好ましく、0.05質量%以上であることが特に好ましい。また、無灰分散剤の含有量は、窒素元素換算で、潤滑油組成物全体に対して0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることが更に好ましく、0.15質量%以下であることが特に好ましい。無灰分散剤の含有量が0.005質量%未満の場合は、十分な清浄性効果が発揮できないことがある。また、無灰分散剤の含有量が0.3質量%を超える場合は、低温粘度特性及び抗乳化性が悪化することがある。尚、重量平均分子量が6500以上のコハク酸イミド系無灰分散剤を使用する場合、十分なスラッジ分散性を発揮し、低温粘度特性に優れるため、当該無灰分散剤の含有量は、窒素元素換算で、潤滑油組成物全体に対して0.005〜0.05質量%とすることが好ましく、0.01〜0.04質量%とすることが更に好ましい。
【0071】
また、ホウ素化合物で変性された無灰分散剤を用いる場合、当該無灰分散剤の含有量は、ホウ素元素換算で、潤滑油組成物全体に対して0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが更に好ましく、0.02質量%以上であることが特に好ましい。また、当該無灰分散剤の含有量は、ホウ素元素換算で、潤滑油組成物全体に対して0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。ホウ素化合物で変性された無灰分散剤の含有量が0.005質量%より少ないと、十分な清浄性効果が発揮できないことがある。また、ホウ素化合物で変性された無灰分散剤の含有量が0.2質量%を超える場合は、低温粘度特性及び抗乳化性が悪化することがある。
【0072】
(1−5−3)ジアルキルジチオリン酸亜鉛;
ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛等を挙げることができる。ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有することにより、摩耗防止や酸化防止の効果を得ることができる。ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量は、亜鉛換算で潤滑油組成物全体に対して0.02〜0.15質量%、好ましくは0.05〜0.12質量%、さらに0.07〜0.10質量%以上であることが特に好ましい。
【0073】
(1−5−4)防錆剤;
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0074】
(1−5−5)金属不活性剤;
金属不活性剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等を挙げることができる。
【0075】
(1−5−6)粘度指数向上剤;
粘度指数向上剤としては、非分散型粘度指数向上剤、分散型粘度指数向上剤等を挙げることができる。非分散型粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体、ポリイソブチレン、ポリスチレン等のオレフィンポリマー類を挙げることができる。また、分散型粘度指数向上剤としては、上記非分散型粘度指数向上剤を形成するモノマーと、含窒素モノマーとが共重合してなるポリマーを挙げることができる。粘度指数向上剤は、潤滑油組成物の粘度特性を向上させることができるため好ましい。粘度指数向上剤は、潤滑油組成物全体に対して、0.05〜20質量%含有することが好ましい。
【0076】
(1−5−7)流動点降下剤;
流動点降下剤としては、潤滑油基油の性状に応じて、公知の流動点降下剤を任意に選択することができるが、ポリメタクリレートが好ましい。流動点降下剤として使用するポリメタクリレートの重量平均分子量は、1万〜30万が好ましく、5万〜20万が更に好ましい。流動点降下剤は、潤滑油組成物の低温流動性を向上させることができるため好ましい。流動点降下剤は、潤滑油組成物全体に対して、0.05〜20質量%含有することが好ましい。
【0077】
(1−5−8)消泡剤;
消泡剤としては、潤滑油組成物用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能である。例えば、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系消泡剤、フッ素変性シリコーンであるフルオロシリコーン等のフッ素系消泡剤を挙げることができる。また、これらの中から任意に選ばれた1種類又は2種類以上の化合物を任意の量で配合して、消泡剤として使用することができる。
【0078】
(1−5−9)抗乳化剤;
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等を挙げることができる。
【0079】
(1−5−10)ゴム膨潤剤;
ゴム膨潤剤としては、各種アミン化合物、エステル類等を挙げることができる。
【0080】
(2)潤滑油組成物の製造方法:
次に、本発明の潤滑油組成物の一実施形態の製造方法について説明する。
【0081】
本発明の潤滑油組成物の一の実施形態の製造方法は、(A)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油((A)成分)と、(B)モリブデン換算で250〜2000ppmの、上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン((B)成分)と、(C)硫黄換算で20〜250ppmの、上記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィド((C)成分)とを混合して潤滑油組成物を得る方法である。
【0082】
(2−1)
上記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を混合する方法としては、例えば、(C)成分の融点付近(又は、融点以上)の温度で、(C)成分を(A)成分に溶解させ、冷却後に、(A)成分と(C)成分との混合物に(B)成分を混合する方法が挙げられる。これは、(C)成分が、(A)成分(潤滑油基油)に溶解し難いため、(C)成分の融点付近(又は、融点以上)の温度まで加熱することにより、(C)成分の溶解を促進させた方法である。尚、(B)成分はあらかじめ、(A)成分(潤滑油基油)に溶解させておいてもよいが、(A)成分(潤滑油基油)が(C)成分を溶解させるために加熱されるため、(A)成分(潤滑油基油)に(C)成分を溶解して冷却した後に、(A)成分と(C)成分との混合物に(B)成分を溶解させることが好ましい。
【0083】
(2−2)
また、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を混合する方法としては、以下の方法が更に好ましい。すなわち、120〜140℃の温度範囲で上記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィドを亜リン酸エステルに溶解して亜リン酸エステル溶液(以下、「溶液(X)」ということがある)を作製し、当該亜リン酸エステル溶液(溶液(X))と、100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油と、上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとを50〜70℃の温度範囲で混合して、「(A)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油と、(B)モリブデン換算で250〜2000ppmの、上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、(C)硫黄換算で20〜250ppmの、上記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィドとを含有する潤滑油組成物(本発明の潤滑油組成物)」を作製する方法が更に好ましい。
【0084】
(2−2−1)溶液(X);
上記のように、テトラベンジルチウラムジスルフィドは、(A)成分(潤滑油基油)に溶解し難い。そのため、従来、テトラベンジルチウラムジスルフィドは、用途、目的に係らず、潤滑油組成物の添加物としてはあまり使用されていなかった。これに対し、例えば、上記のようにテトラベンジルチウラムジスルフィドの融点付近の温度まで昇温することにより、テトラベンジルチウラムジスルフィドを(A)成分(潤滑油基油)に溶解させることが可能となる。しかし、潤滑油基油や添加物は、その種類によっては熱によって劣化するものもあり、可能であれば、潤滑油基油や添加物を必要以上に加熱することは避けることが好ましい。
【0085】
上記のような問題点に対し、本発明者らは、テトラベンジルチウラムジスルフィドを亜リン酸エステルに溶解して得られた亜リン酸エステル溶液(溶液(X))が、(A)成分(潤滑油基油)に溶解し易いことを見出した。これにより、「テトラベンジルチウラムジスルフィドが(A)成分(潤滑油基油)に溶解し難い」という問題点を解決し、テトラベンジルチウラムジスルフィドが溶解された潤滑油組成物を、容易に且つ成分の劣化を防止しながら作製することが可能になった。
【0086】
溶液(X)は、テトラベンジルチウラムジスルフィドを亜リン酸エステルに溶解して得られた、「テトラベンジルチウラムジスルフィド及び亜リン酸エステルを含有する亜リン酸エステル溶液」である。亜リン酸エステルとしては、上記本実施形態の潤滑油組成物を構成する(D)成分が好ましい。また、テトラベンジルチウラムジスルフィドは、上記本実施形態の潤滑油組成物を構成する(C)成分である。
【0087】
溶液(X)中のテトラベンジルチウラムジスルフィドの含有率は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることが更に好ましく、50〜66質量%であることが特に好ましい。30質量%より少ないと、潤滑油組成物中のテトラベンジルチウラムジスルフィドの濃度を所望の値にするために、多量の溶液(X)を添加する必要があるため、亜リン酸エステルの添加量が多くなりすぎるため好ましくない。また、80質量%より多いと、テトラベンジルチウラムジスルフィドが溶解し難くなるため好ましくない。
【0088】
溶液(X)中には、テトラベンジルチウラムジスルフィドが均一に溶解されていることが好ましい。この場合、目視で、沈殿が無ければ、「均一」であると判断することができる。
【0089】
(2−2−2)溶液(X)の製造方法;
亜リン酸エステル溶液(溶液(X))の製造方法は、上記のように、120〜140℃の温度範囲で、上記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィド(融点:130℃)を、亜リン酸エステルに溶解して亜リン酸エステル溶液を作製する方法である。
【0090】
テトラベンジルチウラムジスルフィドを、亜リン酸エステルに溶解した後に、溶液(X)を0〜30℃まで冷却することが好ましく、15〜25℃まで冷却することが更に好ましい。溶液(X)は、このような温度まで冷却しても、テトラベンジルチウラムジスルフィドが析出することはない。
【0091】
テトラベンジルチウラムジスルフィドを亜リン酸エステルに溶解する方法は、特に限定されないが、テトラベンジルチウラムジスルフィドを亜リン酸エステルに添加し、撹拌する方法が好ましい。撹拌の方法としては、テトラベンジルチウラムジスルフィド及び亜リン酸エステルを容器(溶解槽、等)に入れ、撹拌翼、撹拌子等を用いて撹拌する方法が好ましい。また、テトラベンジルチウラムジスルフィド及び亜リン酸エステルを入れた容器の外部にポンプを設置し、容器内の液体をポンプにより循環させることにより、撹拌する方法でもよい。
【0092】
(2−2−3)潤滑油組成物の製造;
溶液(X)を作製した後に、当該溶液(X)と、「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」と、「上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン」とを、50〜70℃の温度範囲で混合して、本発明の潤滑油組成物を作製する。
【0093】
「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」としては、上記本実施形態の潤滑油組成物を構成する(A)成分が好ましい。また、「上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン」としては、上記本実施形態の潤滑油組成物を構成する(B)成分が好ましい。
【0094】
溶液(X)と、「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」と、「上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン」とを混合する温度は、50〜70℃である。50℃より低いと、「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」に、溶液(X)及び「上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン」を、均一に溶解し難くなるため好ましくない。70℃より高いと、熱劣化が生じるおそれがあるため好ましくない。
【0095】
溶液(X)と、「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」と、「上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン」とを混合する方法は、特に限定されないが、溶液(X)及びジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンを、「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」に添加し、撹拌する方法が好ましい。撹拌の方法としては、溶液(X)、「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」及び「上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン」を、容器(撹拌槽)に入れ、撹拌翼、撹拌子等を用いて撹拌する方法が好ましい。また、容器の外部にポンプを設置し、容器内の液体をポンプにより循環させることにより、撹拌する方法でもよい。
【0096】
溶液(X)は、「潤滑油組成物全体に対するテトラベンジルチウラムジスルフィドの配合量が、硫黄換算で20〜250ppmとなる」ように、「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」に添加することが好ましい。更に、溶液(X)の添加量は、上記硫黄換算で50〜250ppmであることが更に好ましく、上記硫黄換算で80〜250ppmであることが特に好ましく、150〜250ppmであることが最も好ましい。
【0097】
「上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン」は、潤滑油組成物全体に対してモリブデン換算で250〜2000ppmとなるように、「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」に添加することが好ましい。更に、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの添加量は、モリブデン換算で300〜1800ppmであることが更に好ましく、モリブデン換算で350〜1600ppmであることが特に好ましい。
【0098】
また、溶液(X)と、「100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油」と、「上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン」とを混合する際に、更に、「その他の添加剤」を添加してもよい。「その他の添加剤」としては、上記本発明の潤滑油組成物の一の実施形態に配合することができる「その他の添加剤」を挙げることができる。「その他の添加剤」のそれぞれの添加量は、上記本発明の潤滑油組成物の一の実施形態に配合される「その他の添加剤」のそれぞれの好ましい配合量となるように、決定することが好ましい。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0100】
(実施例1)
上記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィド100gと、上記式(3)で示される亜リン酸エステル50gとをコニカルビーカー内で混合し、130℃に昇温し、撹拌子で15分間撹拌して均一な黄色液体(溶液(X))を得た。これにより、上記テトラベンジルチウラムジスルフィドを上記亜リン酸エステルに溶解させて、溶液(X)を得ることができた。その後、溶液(X)を室温(20℃)まで放冷した。溶液(X)を室温まで冷却しても、結晶(テトラベンジルチウラムジスルフィドの結晶)は析出しなかった。また、亜リン酸エステルとしては、ADEKA社製の「アデカスタブ135A」を用いた。また、テトラベンジルチウラムジスルフィドとしては、三新化学社製の「サンセラーTBZTD」を用いた。
【0101】
次に、コニカルビーカーに、9.0gのGF5用ガソリンエンジンオイルパッケージ添加剤、0.129gの溶液(X)、0.3gの「上記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン」、9.0gの粘度指数向上剤、及び0.04gの消泡剤を加え、最後に、74.9gの「基油2」、6.0gの「基油3」及び0.6gの「基油4」を加えた。
【0102】
GF5用ガソリンエンジンオイルパッケージ添加剤(GF−5パッケージ)としては、オロナイト社製、市販パッケージを使用した。その中味は、金属清浄剤、コハク酸イミドおよびホウ素変性したコハク酸イミド、ジアルキルジチリン酸亜鉛、酸化防止剤、金属不活性剤および防錆剤などが配合されている。溶液(X)は、潤滑油組成物中のテトラベンジルチウラムジスルフィドの含有量が硫黄換算で202ppmになるように、添加した。このとき、潤滑油組成物中の亜リン酸エステルの含有量は、リン(P)換算で35.5ppmであった。また、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、潤滑油組成物中のジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量がモリブデン換算で300ppmになるように、添加した。また、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとしては、ADEKA社製、商品名:「アデカサクラルーブ525」を使用した。また、粘度指数向上剤としては、PMA系非分散型粘度指数向上剤を使用した。また、消泡剤としては、ポリジメチルシロキサンの灯油3%濃縮液(ポリジメチルシロキサン:灯油=3:97(質量比))(ダウコーニング社製、商品名:SHF12500)を使用した。尚、単位「ppm」は、質量基準である。
【0103】
また、基油1(表1参照)は、フィッシャートロプシュ由来基油である(100℃の動粘度:4.0mm/秒、VI(粘度指数):131)。基油2は、グループ3の基油である(100℃の動粘度:4.1mm/秒、VI(粘度指数):134)。基油3は、グループ2の基油である(100℃の動粘度:3.1mm/秒、VI(粘度指数):111)。基油4は、グループ1の基油である(100℃の動粘度:31mm/秒、VI(粘度指数):95)。基油1は、潤滑油基油(A)における(A3)成分であり、基油2及び基油3は、潤滑油基油(A)における(A1)成分であり、基油4は、潤滑油基油(A)における(A4)成分である。
【0104】
尚、表1における「基油動粘度」の欄は、各実施例、比較例において使用される基油1〜基油4を混合したときの混合基油(潤滑油基油)の100℃の動粘度を示している。
【0105】
次に、コニカルビーカー中の混合物を70℃まで昇温し、撹拌子で20分間撹拌して潤滑油組成物を得た。潤滑油組成物は、100℃の動粘度が7.2mm/秒であった。動粘度は、JIS K2283に準拠する方法で測定した。
【0106】
得られた潤滑油組成物について、以下に示す方法で、「摩擦試験」を行った。結果を表1に示す。
【0107】
表1において、「有機モリブデン」の欄は、潤滑油組成物全体に対するジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン全体の質量(g)、及び潤滑油組成物全体に対するジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの「モリブデン換算の添加量(ppm)」を示している。また、溶液(X)の欄は、潤滑油組成物全体に対する溶液(X)全体の質量(g)、潤滑油組成物全体に対する「溶液(X)中のテトラベンジルチウラムジスルフィド(チウラム)」の添加量、及び潤滑油組成物全体に対する「溶液(X)中の亜リン酸エステル」の添加量を示している。そして、「チウラム」の欄は、テトラベンジルチウラムジスルフィドの、潤滑油組成物全体に対するテトラベンジルチウラムジスルフィド全体の質量(g)、及び潤滑油組成物全体に対するテトラベンジルチウラムジスルフィドの「硫黄換算の添加量(ppm)」を示している。また、「亜リン酸エステル」の欄は、潤滑油組成物全体に対する亜リン酸エステル全体の質量(g)、及び潤滑油組成物全体に対する亜リン酸エステルの「リン(P)換算の添加量(ppm)」を示している。また、「基油動粘度」の欄は、各実施例、比較例に含有される基油全体(含有される基油を混合した混合基油)の100℃における動粘度を示す。また、「GF−5パッケージ」は、GF5用ガソリンエンジンオイルパッケージ添加剤を意味する。また、「動粘度」の欄は、得られた潤滑油組成物の、100℃における動粘度(mm/秒)を示している。また、表1において、「摩擦低減率」は、比較例1,2の潤滑油組成物の摩擦係数の平均値を基準にして、摩擦係数が何パーセント(%)低減したかを示している。数値がマイナスの値になっているのは、摩擦係数が低減したことを意味している。
【0108】
(摩擦試験)
得られた潤滑油組成物について、ASTM−D−2714−94に準拠する方法(LFW−1摩擦試験)で、摩擦係数を測定する。摩擦係数を測定する条件としは、試験荷重1069(N)、試験油温度100(℃)、試験時間30(分)、試験回転数546(rpm)(1(m/秒))とする。
【0109】
【表1】

【0110】
(実施例2〜5、比較例1〜5)
各条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして潤滑油組成物を作製した。得られた潤滑油組成物について、上記方法で「摩擦試験」を行った。結果を表1に示す。また、実施例4の潤滑油組成物については、以下に示す方法で、「省燃費性試験」を行った。結果を表1に示す。
【0111】
(省燃費性試験)
省燃費性は、得られた潤滑油組成物について、ASTM−D−7589に準拠する方法で測定する。そして、ASTM−D−7589に準拠する省燃費性試験のステージ4(負荷:1.5kw、エンジン回転数:695rpm、潤滑油組成物の温度:115℃)における省燃費性を、「省燃費性試験」の結果とする。また、測定対象とする潤滑油組成物の測定結果と基準油の測定結果との差の、基準油の測定結果に対する比率(%)を、「省燃費性」の値とする。
【0112】
表1より、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの添加量が同じ場合には、テトラベンジルチウラムジスルフィドが更に添加されている潤滑油組成物のほうが、摩擦係数が低くなることがわかる(実施例2,4、比較例4,5)。また、実施例3及び実施例4の結果より、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの存在下、テトラベンジルチウラムジスルフィドの添加量を増やすことにより、摩擦係数を低下させることができることがわかる。また、実施例1,2,4及び5の結果より、テトラベンジルチウラムジスルフィドの存在下、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの添加量を増やすことにより、摩擦係数を低下させることができることがわかる。また、実施例1(実施例2)の潤滑油組成物は、テトラベンジルチウラムジスルフィドとジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとを併用しているため、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの添加量が比較例4(比較例5)の潤滑油組成物より少ないにもかかわらず、実施例1(実施例2)の潤滑油組成物の摩擦低減率が比較例4(比較例5)の潤滑油組成物と同じ値になっている。これにより、テトラベンジルチウラムジスルフィドを併用することにより、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの添加量を低減することができることがわかる。尚、比較例1,2より、亜リン酸エステルには、摩擦低減効果がないことがわかる。
【0113】
表1より、実施例1〜5の潤滑油組成物は、摩擦係数が低く摩擦低減効果に優れるため、省燃費効果に優れたものである。
【0114】
また、ASTM−D−2714−94のLFW−1摩擦試験は、リングとブロックの、実験室での摩擦試験(実験室摩擦試験)である。
【0115】
また、上記「省燃費性試験」は、米国の試験機関において実施された(米国の試験機関に依頼した)試験であり、実際のエンジンを用いた燃費試験である。尚、全ての実施例の潤滑油組成物について米国の公的試験機関で「省燃費性試験」を実施すると、膨大な費用が掛かるため、そのうちの実施例4の潤滑油組成物について「省燃費性試験」を行った。その結果、表1の最下段に記載したように、ステージ4の条件下で、基準油に比べて、2.43%の燃費の向上が認められた。これにより、LFW−1摩擦試験(実験室摩擦試験)での摩擦低減効果の有効性を裏付けることが出来た。
【0116】
また、本発明の潤滑油組成物に含有されるテトラベンジルチウラムジスルフィドが、テトラアルキルチウラムジスルフィドに対して、蒸発し難く、硫黄の残存率が高いことを、以下のようにして確認した。
【0117】
(蒸発性試験)
ASTM D5800に規定される、エンジン油の蒸発量を測定する試験方法(NOACK蒸発損失試験)で、硫黄系の添加剤(テトラベンジルチウラムジスルフィド等)の蒸発量を測定する。更に具体的には、100℃の動粘度が4mm/秒のグループ3の基油に、硫黄系の添加剤を溶解し、NOACK蒸発損失試験を行う。試験前後の硫黄質量を測定し、硫黄の残存率(100×(試験後の硫黄質量)/(試験前の硫黄質量))を算出する。
【0118】
蒸発性試験は、テトラベンジルチウラムジスルフィド(三新化学社製、商品名:サンセラーTBZTD)及びテトラアルキルチウラムジスルフィド(テトラエチルチウラムジスルフィド(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーTET)、テトラブチルチウラムジスルフィド(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーTBT)、及びテトラオクチルチウラムジスルフィド(大内新興化学社製、商品名:ノクセラーTOT−N))について行った。
【0119】
蒸発試験の結果、テトラベンジルチウラムジスルフィドの硫黄残存率は12.18%であり、テトラエチルチウラムジスルフィドの硫黄残存率は、8.04%であり、テトラブチルチウラムジスルフィドの硫黄残存率は、7.67%であり、テトラオクチルチウラムジスルフィドの硫黄残存率は、10.45%であった。
【0120】
以上より、テトラベンジルチウラムジスルフィドが、他のテトラアルキルチウラムジスルフィドよりも、硫黄残存率が高いことがわかる。これにより、テトラベンジルチウラムジスルフィドを用いることにより、高い摩擦低減効果が発揮されるとともに、触媒機能を劣化させる硫黄分の排出が少なくなることがわかる。
【0121】
ここで、本発明の潤滑油組成物は、D成分(亜リン酸エステル)を含有することが好ましいが、亜リン酸エステルには、リン(P)が含有されている。しかし、以下に説明するように、D成分の亜リン酸エステルは、潤滑油組成物中の含有量が少ないため、触媒被毒の観点からは問題のないものである。
【0122】
MoDTP(例えば、アデカサクラルーブ300)は、Moが9質量%、Sが9.9質量%、Pが3.5質量%含有されている。また、MoDTC(例えば、アデカサクラルーブ515)はMoが10質量%、Sが11質量%含有されている。そして、例えば、実施例4では、アデカサクラルーブ515が0.7質量%添加されることにより、潤滑油組成物中のMo含有量が、700ppmとなっている。同じMo量を、アデカサクラルーブ300で賄おうとすると、アデカサクラルーブ300を0.78質量%添加する必要がある。そうすると、アデカサクラルーブ300の添加によるPの増加分は、「3.5×0.0078=273ppm」となる。これは、実施例4におけるD成分(亜リン酸エステル)によるPの増加量が、35.5ppmであるのと比較して、非常に大きな値である。実施例4の潤滑油組成物と、アデカサクラルーブ300を用いて作製された潤滑油組成物とで、同等の「モリブデンによる省燃費効果」を得ようとする場合、実施例4の潤滑油組成物におけるD成分(亜リン酸エステル)によるPの増加量は、アデカサクラルーブ300を用いた場合のPの増加量に対して、約13%(100×35.5ppm/273ppm)で済むため、実施例4の潤滑油組成物におけるD成分(亜リン酸エステル)によるPの増加量が触媒に与える影響は、ほとんど無いことが分かる。具体的には、実施例4で使用されるGF−5パッケージに由来するPの量は600ppmである。一方、ILSACのGF−5規格における潤滑油組成物中のPの含有量は、触媒被毒の観点から、0.08質量%が上限である。従って、MoDTP(例えば、アデカサクラルーブ300)を使用すると、Pの合計含有量は0.08質量%を越えてしまう(600ppm+273ppm)という問題点があったが、実施例4の潤滑油組成物は、P量の合計量は635.5ppm(600ppm+35.5ppm)と少なく、省燃費効果もあり、触媒被毒の問題もないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の潤滑油組成物は、自動車エンジン等の内燃機関に用いる潤滑油組成物として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の潤滑油基油と、
(B)モリブデン換算で250〜2000ppmの、下記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、
(C)硫黄換算で20〜250ppmの、下記式(2)で示されるテトラベンジルチウラムジスルフィドとを含有する潤滑油組成物。
【化1】

(式(1)において、R〜Rは、アルキル基を示す。)
【化2】

【請求項2】
前記潤滑油基油(A)が、
(A1)100℃の動粘度が1.4〜6mm/秒の混合鉱油基油、(A2)100℃の動粘度が2〜8mm/秒の、ポリアルファオレフィン、アルファオレフィンオリゴマー又はそれらの混合物、(A3)100℃の動粘度が1.4〜12mm/秒の、ヒンダードエステル、ジエステル又はそれらの混合物、及び(A4)100℃の動粘度が8〜50mm/秒の潤滑油基油からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
(D)亜リン酸エステルをリン換算で10〜2000ppm含有する請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
金属清浄剤、無灰分散剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、防錆剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤及び消泡剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
ASTM−D−7589に準拠する省燃費性試験のステージ4において、省燃費性が、基準油より2.0%以上高い値である請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−197393(P2012−197393A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63731(P2011−63731)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】