説明

潤滑油組成物

硫黄含有量が0.1質量%以下に調製されてなる潤滑油基油に(A)3位及び5位に炭素数1〜40の炭化水素基を有するサリシレートの構成比が10mol%以上に調製されてなるアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリシレート及び/又は(B)モノアルキルサリシレートの構成比が85mol%以上であり、かつ3位に炭素数10〜20未満の第2級アルキル基を有するモノアルキルサリシレートの構成比が50mol%以上に調製されてなるアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリシレートを組成物全量基準で、金属元素換算量で、0.005〜5質量%含有する潤滑油組成物を提供することで、水分混入下における酸化寿命を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は潤滑油組成物に関し、詳しくは、水分混入下での酸化安定性に優れる、内燃機関用に好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
従来、潤滑油の酸化劣化は、高温の条件下で促進されるものと考えられていたが、近年、水分が共存する条件下では比較的低温においても劣化が促進されることが注目されている(五十嵐、トライボロジスト、第45巻第11号、(2000)p801−808)。内燃機関用潤滑油における低温での酸化劣化は、エンジン内での燃焼で生成した水蒸気や気中水分が凝縮により潤滑油に混入し、これが蒸発せずに潤滑油中に残留・蓄積される場合に促進され、燃焼ガスに含まれる硫黄酸化物や潤滑油に含まれるジチオリン酸亜鉛等の硫黄化合物及びその分解生成物等と水が反応して硫酸等の強酸を生成することが原因であると考えられる。金属系清浄剤は、このような強酸を中和する作用があり、潤滑油の高温清浄性を高めるために使用されているが、中和により金属系清浄剤自体が消耗してしまうと潤滑油の酸化劣化が急激に起こり、潤滑油の初期の性能を長期間維持することは困難となっている。
通常の内燃機関の運転条件では、クランクケース内の潤滑油は高温となるため上記のように潤滑油に混入した水分は蒸発しやすく、また、潤滑油基油自体は水分の溶解性が低いため、その含有量は通常数十質量ppm程度となる。しかしながら、油温が低く油中水分が蒸発しにくい状態での運転、例えば冷態時から油温が100℃程度あるいは100℃を超えるまでの運転や、低油温、例えば油温80℃以下での長時間時間の運転、アイドリングストップ運転、短距離運転の繰り返し等が行われると、水分がクランクケース内に蓄積されてしまう。そして、近年の、コハク酸イミド等の分散剤が多量に配合された内燃機関用潤滑油においては、水分を潤滑油中に抱き込みやすく、従来以上に潤滑油中の水分含有率が高くなりやすい。特に燃焼による水蒸気発生量が多く、また、気化熱により水分の凝縮を招きやすいガソリンやLPG、天然ガス等を燃料とする内燃機関において、上記のような条件で運転された場合、その使用油中の水分含有量を分析すると、多い場合で200〜500質量ppm、特にガスエンジンでは1000質量ppm以上、場合により10000質量ppm、さらにそれ以上の水分が潤滑油に溶解した状態で含有されることもある。また、水上で運転されるモーターボート用船外機等の船舶用内燃機関の場合は、さらに低油温(例えば50〜70℃)、高湿度条件にさらされ、潤滑油の酸化劣化条件としてはより厳しい条件となる。
一方、本発明者は、金属系清浄剤の消耗を抑制するためには、酸化防止性及び摩耗防止性に優れるジチオリン酸亜鉛を低減あるいは使用しない低硫黄分の潤滑油組成物が、金属系清浄剤の消耗を抑制し、高温清浄性や高温での酸化安定性等を高めることができ、さらに内燃機関に使用される燃料の硫黄含有量が50質量ppm以下、特に10質量ppm以下の場合に、燃料起因の硫黄酸化物の潤滑油中への混入量が著しく低減され、潤滑油の塩基価維持性等をより高めることができることを見出している(特願2002−015351号)。
しかし、潤滑油への硫黄起因の強酸混入量が著しく低減されたこのような場合であっても、上記のような水分が多量に存在する条件下においては、金属系清浄剤、中でも高温清浄性や高温酸化安定性に優れるサリシレート系清浄剤の酸化防止性能等が著しく阻害されたり、場合により沈殿が生じてしまう等の問題が明らかになり、その解決が求められていた。
【発明の開示】
本発明は、上記のような事情に鑑み、水分混入下での酸化安定性に優れる潤滑油組成物を提供することを課題とする。さらには、酸化劣化促進の他の原因であるNOx存在下における酸化安定性にも優れた潤滑油組成物を提供することを課題とする。
本発明者は、金属系清浄剤として、サリシレートの構造に着目し、鋭意検討を行った結果、特定の性状を有する潤滑油基油に、特定の構造を有するサリシレートを配合した潤滑油組成物が、水分混入下での酸化安定性を大幅に改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、硫黄含有量が0.1質量%以下に調製されてなる潤滑油基油に下記(A)及び/又は(B)を組成物全量基準で、金属元素換算量で、0.005〜5質量%含有することを特徴とする潤滑油組成物である。
(A)一般式(1)で表わされるサリシレートの構成比が10mol%以上に調製されてなるアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩。
(B)モノアルキルサリシレートの構成比が85mol%以上であり、かつ一般式(2)で表されるモノアルキルサリシレートの構成比が50mol%以上に調製されてなるアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩。

(一般式(1)において、R、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜40の炭化水素基を示し、当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有していても良い。一般式(2)において、Rは炭素数10〜20未満の第2級アルキル基を示す。また、一般式(1)及び(2)において、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、nは金属の価数により1又は2を示す。)
また、前記一般式(1)におけるR及びRのいずれか一方が炭素数10〜40のアルキル基、残りの一方が炭素数10未満の炭化水素基(当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有してもよい)であることが好ましい。
また、前記一般式(1)におけるR及びRのいずれか一方が炭素数10〜20未満のアルキル基、残りの一方が炭素数10未満の炭化水素基(当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有してもよい)であることが好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物は、全硫黄含有量が0.2質量%以下であることが好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物は、ジチオリン酸亜鉛を含有しないことが好ましく、硫黄含有添加剤を実質的に含有しないことが特に好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物は、潤滑油中の水分含有量が200質量ppm以上となるような条件で使用される場合に特に有効である。
また、本発明の潤滑油組成物は、内燃機関用であることが好ましく、当該内燃機関が、硫黄分が50質量ppm以下の燃料を使用する内燃機関であることが特に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油は、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油、合成系基油を使用することができる。
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
また、鉱油系基油中の硫黄含有量は、0.1質量%以下であり、0.05質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以下であることがさらに好ましく、0.002質量%以下であることが特に好ましい。鉱油系基油の硫黄分を低減することで、水分混入下における酸化安定性により優れる低硫黄潤滑油組成物を得ることができる。
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、及びジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、及び芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
本発明では、全硫黄含有量が0.1質量%以下に調製されている限りにおいて、上記鉱油系基油、上記合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
潤滑油基油の全芳香族含有量は、特に制限はないが、10質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。基油の全芳香族含有量が10質量以下%とすることで酸化安定性により優れる組成物を得ることができる。なお、上記全芳香族含有量とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、及びこれらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、又はピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、低温粘度特性を良好に保つという観点から20mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは10mm/s以下である。一方、その動粘度は、潤滑箇所で十分な油膜を形成して潤滑性を保ち、また潤滑油基油の蒸発損失を低く抑えるという観点から、1mm/s以上であることが好ましく、より好ましくは2mm/s以上である。
潤滑油基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量を20質量%以下に保つことにより、潤滑油の蒸発損失を低く抑えることができるのみならず、内燃機関用潤滑油として使用する場合は、組成物中の硫黄化合物やリン化合物、あるいは金属分が潤滑油基油とともに排ガス浄化装置へ堆積することを防止して、排ガス浄化性能への悪影響を未然に防ぐことができる。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、CEC L−40−T−87に準拠し、潤滑油試料60gを250℃、20mmHO(196Pa)の減圧下にて1時間保持した後の蒸発量を測定したものである。
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は、80以上であることが好ましく、更に好ましくは100以上であり、更に好ましくは120以上である。
本発明における(A)成分は、一般式(1)で表されるサリシレートの構成比が10mol%以上に調製されてなるアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩である。

一般式(1)におけるR、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜40の炭化水素基を示し、これらは酸素、窒素を含有していても良い。また、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等、好ましくはカルシウム、マグネシウム、特にカルシウムが望ましく、nは金属の価数により1又は2を示す。
上記炭素数1〜40の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ペプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等の炭素数1〜40のアルキル基(これらは直鎖状であっても分枝状であっても良い)、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜10のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基等の炭素数7〜10のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等の炭素数7〜10のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
また、上記R、Rの組み合わせとしては、特に制限はないが、好ましいものとしては、以下に示す▲1▼〜▲4▼の組み合わせが挙げられる。
▲1▼ R及びRが同一であり、それぞれ炭素数10〜20未満、好ましくは14〜18の炭化水素基
▲2▼ R及びRが同一であり、それぞれ炭素数20〜40、好ましくは20〜30の炭化水素基
▲3▼ R及びRの一方が炭素数10〜20未満、好ましくは炭素数14〜18の炭化水素基、残りの一方が炭素数10未満、好ましくは5未満、特に好ましくは1の炭化水素基
▲4▼ R及びRの一方が炭素数20〜40、好ましくは炭素数20〜30の炭化水素基、残りの一方が炭素数10未満、好ましくは5未満、特に好ましくは1の炭化水素基
これらの中では、上記▲1▼又は▲3▼が特に好ましく、▲3▼が最も好ましいものとして挙げられ、特にRが炭素数10〜20未満の炭化水素基、Rが炭素数10未満の炭化水素基であることが好ましい。
なお、炭素数10〜40の炭化水素基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等の重合体又は共重合体等から誘導される、下記一般式(3)で表わされる第2級アルキル基が好ましい。

ここでx、yは0〜37、かつx+yは7〜37、好ましくはx、yは0〜27、かつx+yは7〜27、さらに好ましくはx、yは0〜16、かつx+yは7〜16、又は、x、yは0〜23、かつx+yは17〜23、特に好ましくはx、yは0〜15、かつx+yは11〜15の整数を示す。
また、炭素数10未満の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜10未満のアルキル基が挙げられ、これらは酸素又は窒素を含有していても良く、例えば−COOH基が挙げられる。これらの中ではt−ブチル基、メチル基が好ましく、メチル基が最も好ましい。
(A)成分の製造方法としては、特に制限はなく、特公昭48−35325号公報、特公昭50−3082号公報等に開示される公知の方法を用いることができるが、例えば、R、Rの一方が炭素数10〜20未満又は炭素数20〜30のアルキル基で、残りの一方がメチル基の場合、オルトクレゾール又はパラクレゾールを出発原料として、パラ位又はオルト位に炭素数10〜20未満又は炭素数20〜30のオレフィンを用いてアルキレーション、次いでカルボキシレーションし、さらにアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。
本発明の(A)成分において、一般式(1)で表わされるサリシレートの構成比は10mol%以上であるが、好ましくは20mol%以上であり、さらに好ましくは40mol%以上であり、100mol%が最も好ましい。特に、上記▲1▼又は▲3▼、あるいは▲3▼のサリシレートの構成比が10mol%以上であることが好ましい。(A)成分に含有される一般式(1)で表わされるサリシレート以外のサリシレートとしては、炭素数1〜40のアルキル基を有する3−アルキルサリシレート、4−アルキルサリシレート及び5−アルキルサリシレート等のモノアルキルサリシレート等が挙げられる。これらの構成比に何ら制限はなく、通常一般式(1)で表わされる化合物の残りの部分である。
本発明の潤滑油組成物における(B)成分は、モノアルキルサリシレートの構成比が85mol%以上であり、かつ一般式(2)で表されるモノアルキルサリシレートの構成比が50mol%以上に調製されてなるアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩である。

一般式(2)において、Rは炭素数10〜20未満の第2級アルキル基であり、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等、好ましくはカルシウム、マグネシウム、特にカルシウムが望ましく、nは金属の価数により1又は2を示す。
上記炭素数10〜20未満の第2級アルキル基としては、第2級のデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基が挙げられ、エチレン、プロピレン、ブチレン等の重合体又は共重合体等から誘導される炭素数10〜20未満、好ましくは炭素数14〜18の分布を有する第2級アルキル基である。なお、ここでいう第2級のアルキル基とは、上記(A)成分の項の第2級アルキル基の項と同義である。
(B)成分の製造方法としては、特に制限はなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法を用いて、モノアルキルサリシレートの構成比が85mol%以上となるように調製して得ることができるが、一般式(2)のサリシレート(3−アルキルサリシレート)の構成比が50mol%以上となるようにするには、具体的には、例えば、フェノール出発原料としてオルト位に選択的に当量の炭素数10〜20未満、好ましくは14〜18のオレフィンを用いてアルキレーションし、次いでカルボキシレーションしたもの、サリチル酸の3位に選択的に上記オレフィンを用いてアルキレーションしたもの、モノアルキルサリチル酸を主成分とする混合物から選択的に3−アルキルサリチル酸を単離・濃縮したもの、あるいはこれら高濃度の3−アルキルサリチル酸をその構成比が50mol%以上となるようにモノアルキルサリチル酸混合物に追添したもの等に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。
このようにして得られる(B)成分は、通常、における一般式(2)で表わされるサリシレート(炭素数10〜20未満の第2級アルキル基を有する3−アルキルサリシレート)以外に、炭素数10〜20未満のアルキル基を有する、4−アルキルサリシレート、5−アルキルサリシレート、3,5−ジアルキルサリシレート、5−アルキル4−ヒドロキシイソフタレート等がその副生物として得られるが、モノアルキルサリシレート(炭素数10〜20未満の第2級アルキル基を有する3−アルキルサリシレート、4−アルキルサリシレート、5−アルキルサリシレート等)の合計の構成比は85mol%以上、好ましくは90mol%以上であり、100mol%が最も好ましいが、製造コストの点からその構成比は96mol%以下であっても良い。そして、一般式(2)で表わされるサリシレートの構成比は、50mol%以上であり、好ましくは55mol%以上、より好ましくは60mol%以上、さらに好ましくは80mol%以上、最も好ましくは100mol%であるが、製造コストの点から96mol%以下であっても良い。
なお、炭素数10〜20未満のアルキル基を有するモノアルキルサリシレートは、炭素数20〜40のアルキル基を有するモノアルキルサリシレートに比較して、水分混入下における酸化安定性の点で優れ、炭素数1〜10未満のアルキル基を有するモノアルキルサリシレートに対しては、油溶性の点で優れる。(B)成分において一般式(2)で表わされるサリシレートの構成比を50mol%以上とした場合、それを50mol%未満とした場合に比較して、水分混入下での酸化安定性、及び、油溶性に優れる。
なお、本発明の(A)成分及び(B)成分としては、上記のようにして得られた中性塩だけでなく、さらにこれら中性塩と過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものが得られる。
本発明において(A)成分、(B)成分としては、その金属比に特に制限はなく、通常20以下、好ましくは5以下であるが、水分混入下における酸化安定性をより向上させるという観点から、好ましくは金属比が2.3以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.3以下のサリシレートからなることが好ましく、その場合、金属比が2.3以下となる限りにおいて、中性、塩基性、過塩基のサリシレート系清浄剤を1種又は2種以上混合して用いることができる。なお、ここでいう金属比とは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートにおける金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはアルキルサリチル酸基を意味する。
本発明の潤滑油組成物においては、(A)成分と(B)成分を併用しても良い。(A)成分と(B)成分を併用した場合、明らかに水分混入下における酸化安定性向上の相乗効果が認められる。その場合の(A)成分と(B)成分の混合比は、一般式(1)で表わされるサリシレートが10mol%以上、好ましくは25mol%以上、さらに好ましくは40mol%以上となるように混合すれば良い。また、一般式(1)で表わされるサリシレート、特にR又はRが、一方が炭素数10〜40の炭化水素基で、他方が炭素数10未満の炭化水素基であるサリシレートと一般式(2)で表わされるサリシレートとの合計の構成比が、好ましくは60mol%以上、より好ましくは65mol%以上、さらに好ましくは70mol%以上、特に好ましくは80mol%以上であることが望ましい。これは一般式(1)で表わされるサリシレートの構成比が増加すること及び(B)成分を主として構成するモノアルキルサリシレートのうち、5−アルキルサリシレートの構成比が減少することによるものと考えられ、すなわち、少なくとも3位にアルキル基、特に炭素数10〜20未満の第2級アルキル基を有するサリシレートの構成比が高いものを含有させた潤滑油組成物が、水分混入下における酸化安定性をより向上させることができると考えられる。なお、炭素数が20以上の炭化水素基を有するサリシレートの場合であっても、少なくとも3位に炭化水素基を有するサリシレートの合計の構成比が65mol%以上、好ましくは70mol%以上、特に好ましくは80mol%以上となるように調製すれば、同様に水分混入下における酸化安定性を向上させることができる。
本発明の潤滑油組成物において、(A)成分及び/又は(B)成分の含有量は、組成物全量基準で、金属元素換算量で、その下限値は水分混入下における十分な酸化防止効果を得るという観点から、0.005質量%であり、好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0.02質量%である。また、その上限値としては、配合量に見合うだけの効果が得られるという観点から5質量%、好ましくは1質量%、より好ましくは0.5質量%、さらに好ましくは0.3質量%、特に好ましくは0.15質量%、最も好ましくは0.1質量%である。
本発明の潤滑油組成物は、硫黄含有量が0.1質量%以下に調製されてなる潤滑油基油に(A)成分及び/又は(B)成分を配合してなる潤滑油組成物であるが、その性能をさらに向上させる目的で、あるいは、その他の必要な性能を向上させる目的で、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、無灰分散剤、摩耗防止剤、(A)成分以外の金属系清浄剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等から選ばれる1種以上の添加剤を任意に配合することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤、金属系酸化防止剤等の潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。酸化防止剤の添加により、潤滑油組成物の酸化防止性をより高められるため、水分混入下における酸化安定性向上効果や、塩基価維持性並びに高温清浄性をより高めることができる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。上記フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤は組み合せて配合しても良い。
本発明の潤滑油組成物において酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、配合に見合うだけの十分な酸化防止効果を得るという観点から、通常潤滑油組成物全量基準で5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。一方、その含有量は、水分混入下での酸化安定性をより高めるためには潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上である。
無灰分散剤としては、コハク酸イミド系無灰分散剤、ベンジルアミン系無灰分散剤、ポリブテニルアミン系無灰分散剤及びこれらをホウ素化合物、含酸素有機化合物、リン化合物、硫黄化合物等による変性化合物等が挙げられる。
摩耗防止剤としては、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等の硫黄含有化合物、(亜)リン酸エステル類及びその金属塩又はアミン塩等が挙げられる。
(A)成分以外の金属系清浄剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、フェネート等が挙げられる。
摩擦調整剤としては、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、脂肪酸エステル、脂肪族アミン、脂肪酸アミド、脂肪族エーテル等が挙げられる。
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。
またこれらの粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。粘度指数向上剤の含有量は、通常潤滑油組成物基準で0.1〜20.0質量%である。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油の硫黄含有量の低減や上記に挙げた添加剤のうち、ジチオリン酸亜鉛等の硫黄含有添加剤の含有量を低減し、又はこれを含有させないことで、組成物の全硫黄含有量が0.2質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以下とすることがより好ましく、0.05質量%以下とすることがさらに好ましい。特に、自己の分解や酸化劣化により硫酸等の強酸を生成し、水分混入下での酸化安定性を損なう恐れのあるジチオリン酸亜鉛を含む硫黄含有添加剤の含有量を、硫黄元素換算量で0.15質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以下とすることがより好ましく、これを実質的に含有させないことが特に好ましい。この場合、全硫黄含有量が0.01質量%以下、0.001質量%以下あるいは実質的に硫黄を含有しない潤滑油組成物を得ることも可能である。
本発明の潤滑油組成物は、水分が混入した状態で使用される場合に有効であり、そのような状態は、使用中の潤滑油を採取し、潤滑油中の水分含有量を測定することで確認され、具体的には、潤滑油中の水分含有量が、200質量ppm以上、好ましくは300質量ppm以上、より好ましくは500質量ppm以上、さらに好ましくは1000質量ppm以上、特に好ましくは3000質量ppm以上となるような条件で使用される場合に有効である。なお、ここでいう潤滑油中の水分含有量とは、JIS K 2275の5.「カールフィッシャー式電量滴定法」(水分気化装置使用)で規定される方法により測定される水分を意味する。
本発明の潤滑油組成物は、水分混入下における酸化安定性に優れるものであり、また、高温清浄性や、NOxガス雰囲気下でも優れた酸化安定性を示すことを確認している。従って、本発明の潤滑油組成物は、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができ、しかも低硫黄の潤滑油のため、特に排ガス浄化触媒を装着した内燃機関に好適である。また、水上において低油温、高湿度条件で運転されるモーターボート用船外機等のような船舶の内燃機関用潤滑油としても好ましく使用することができる。また、低硫黄燃料、例えば、硫黄分が50質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下のガソリンや軽油や灯油、LPG、天然ガス、あるいは硫黄分を実質的に含有しない水素、ジメチルエーテル、アルコール、GTL(ガストゥリキッド)燃料等を用いる内燃機関、すなわち、潤滑油への燃料起因の硫黄酸化物混入量が著しく低減された内燃機関、特に、ガスエンジン用潤滑油として特に好ましく使用することができる。
また、本発明の潤滑油組成物は、上記のように酸化安定性の向上が要求されるような潤滑油、例えば自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、グリース、湿式ブレーキ、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等としても好適に使用することができる。
【実施例】
以下に本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
実施例1〜6、比較例1
表1に示されるように本発明の潤滑油組成物(実施例1〜6)、比較用の潤滑油組成物(比較例1)をそれぞれ調製した。なお、ここで使用したカルシウムサリシレートは、予めゴム膜透析等により油分及びサリシレート合成時の未反応物あるいは不純物(フェノール、クレゾール、オレフィン、水等)を除去したものであり、本発明の組成物は、これらカルシウムサリシレートを潤滑油基油と共に100℃で1時間加熱攪拌し、潤滑油組成物中の水分が100質量ppm以下となるように調製した。

また、各潤滑油組成物に配合したカルシウムサリシレートの、カルシウム含有量、アルキル基、サリチル酸構造の構成等を表2に示した。

得られた組成物について、JIS K 2514の6.に規定される「回転ボンベ式酸化安定度試験方法」(RBOT)に規定される装置を用い、(1)水分が実質的に存在しない条件(試料及びボンベに水を全く加えない)及び(2)水分が過剰に供給される条件(試料に水を加えず、ボンベに水を5ml加える:試料100質量%に対し水10質量%(100,000質量ppm))とする以外は同法に規定される条件に従い、酸化寿命を測定した。
上記(1)の条件においては、いずれのサリシレートを使用しても酸化寿命が511〜590分の間であり、優れた酸化安定性を示す。
上記(2)の条件においては、25℃の状態で620kPaに酸素で加圧され、その後150℃に加熱されるため、水分は150℃の加圧水蒸気として系内に存在して試料と充分接触する状態であり、内燃機関における燃焼に伴う水蒸気がクランクケースに多量に混入し、かつ水分がクランクケース内に残留・蓄積された条件が再現されている。水分は試料中に飽和状態あるいは過飽和状態で溶解することとなり、本試験条件では、少なくとも200質量ppm以上の水分を含有する潤滑油の酸化寿命が測定されているものと考えられる。その試験結果を表3に示す。

表3から明らかな通り、上記のような水分混入条件下において、炭素数20以上のアルキル基を有するモノアルキルサリシレートを使用した場合(比較例1)には、酸化寿命がわずか40分となり、水分を実質的に含有しない条件下に比べ90%以上も悪化し、サリシレートが水分混入下において酸化防止性能を発揮しにくいことがわかる。それに対し、(A)成分を使用した本発明の潤滑油組成物(実施例1及び2)、(B)成分を使用した場合(実施例3、4)、(A)成分と(B)成分とを併用した場合(実施例5)、(A)成分を炭素数20以上のアルキル基を有するモノアルキルサリシレートと併用した場合(実施例6)では、比較例1の組成物の酸化寿命を基準にすると、2〜7倍程度の酸化寿命の改善が図れ、特に、同じ構造を有するサリシレートで比較すると、炭素数が14〜20未満のアルキル基を有するサリシレートを使用した場合(実施例1、3、4及び5)には炭素数が20以上のアルキル基を有する場合と比べ(実施例2、6及び比較例1)、水分混入下における酸化寿命が著しく改善されていることがわかる。なお、実施例5の組成物では、カルシウムサリシレートAとカルシウムサリシレートDのそれぞれの含有量が半分であるにもかかわらず、カルシウムサリシレートAを使用した実施例1の結果とほぼ同等となっており、相乗効果が得られていることがわかる。これは、(A)成分(3−アルキル−5−メチルサリシレート)と(B)成分(3−アルキルサリシレート)(いずれのアルキル基も第2級C14〜18)との合計の構成比が84mol%と高く、5−アルキルサリシレートの構成比が低い(14mol%)ためであると考えられる。また、水分混入下における酸化寿命の短いカルシウムサリシレートGにカルシウムサリシレートBの構成比が30mol%となるように調製した組成物(実施例6:(A)成分と3−アルキルサリシレートの合計の構成比が73mol%)は、明らかにその酸化寿命が向上しており、(A)成分を少量配合することでアルキル基の炭素数を問わず、モノアルキルサリシレートの水分混入下における酸化寿命を改善できることが明らかである。
なお、(A)成分として、3,5−ジアルキルサリシレートを同様に使用した場合も比較例1の組成物と比べ水分混入下における酸化寿命を向上できることを確認している。
また、本発明の潤滑油組成物、特に(A)成分を含有する潤滑油組成物(例えば実施例2の組成物)は、比較例1の組成物と比べ、NOx吹き込み試験(150℃、NOx:1198ppm)における全酸価増加抑制性能に優れていることを確認している(新油→25時間後の全酸価;実施例2:1.0→1.4mgKOH/g、比較例1:1.0→1.8mgKOH/g)。
なお、本発明の潤滑油組成物にジチオリン酸亜鉛を含有させた場合、比較例1の組成物にジチオリン酸亜鉛を含有させた場合と比べれば酸化寿命は改善されるが、ジチオリン酸亜鉛を含有させない組成物と比べればその酸化寿命は短いため、ジチオリン酸亜鉛等の硫黄含有添加剤を含有させないことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
本発明の潤滑油組成物は、水分混入下における酸化安定性に優れ、また、NOx存在下における酸化安定性にも優れるものであり、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好ましく使用することができ、しかも低硫黄の潤滑油のため、特に排ガス浄化触媒を装着した内燃機関に好適であるとともに、例えば硫黄分が50質量ppm以下の低硫黄燃料を用いる内燃機関、すなわち、潤滑油への硫黄酸化物混入が極めて低減された内燃機関、特に、ガスエンジン用潤滑油として特に好ましく使用すれば、よりその効果を発揮することができる。
また、本発明の潤滑油組成物は、上記のような酸化安定性の向上が要求される潤滑油、例えば、自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、グリース、湿式ブレーキ、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油としても好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有量が0.1質量%以下に調製されてなる潤滑油基油に下記(A)及び/又は(B)を組成物全量基準で、金属元素換算量で、0.005〜5質量%含有することを特徴とする潤滑油組成物。
(A)一般式(1)で表わされるサリシレートの構成比が10mol%以上に調製されてなるアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩
(B)モノアルキルサリシレートの構成比が85mol%以上であり、かつ一般式(2)で表されるモノアルキルサリシレートの構成比が50mol%以上に調製されてなるアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属サリシレート、及び/又はその(過)塩基性塩。

(一般式(1)において、R、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜40の炭化水素基を示し、当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有していても良い。一般式(2)において、Rは炭素数10〜20未満の第2級アルキル基を示す。一般式(1)及び(2)において、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、nは金属の価数により1又は2を示す。)
【請求項2】
硫黄含有量が0.1質量%以下に調製されてなる潤滑油基油に前記(A)及び/又は(B)を組成物全量基準で、金属元素換算量で、0.005〜5質量%含有する潤滑油組成物であって、当該潤滑油に含まれる全てのサリシレートの構成において、少なくとも3位にアルキル基を有するサリシレートの合計の構成比が65mol%以上に調整されてなることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
一般式(1)におけるR及びRのいずれか一方が炭素数10〜40のアルキル基、残りの一方が炭素数10未満の炭化水素基(当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有してもよい。)であることを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるR及びRのいずれか一方が炭素数10〜20未満のアルキル基、残りの一方が炭素数10未満の炭化水素基(当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有してもよい。)であることを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
組成物の全硫黄含有量が0.2質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
ジチオリン酸亜鉛を含有しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
硫黄含有添加剤を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
潤滑油中の水分含有量が200質量ppm以上となるような条件で使用されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
内燃機関用であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
前記内燃機関が、硫黄分が50質量ppm以下の燃料を使用する内燃機関であることを特徴とする請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれかに記載の潤滑油組成物を、組成物の水分含有量が200質量ppm以上となるような条件で使用することを特徴とする、潤滑油の酸化寿命向上方法。

【国際公開番号】WO2004/013263
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【発行日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−525843(P2004−525843)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009952
【国際出願日】平成15年8月5日(2003.8.5)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】