説明

潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法

【課題】 河川や港湾内の水の浄化処理をより少ないエネルギー消費でもって能率よく、簡単に、しかも安価に実施できるようにする。
【課題解決手段】 満潮時刻の1〜3時間前に水面上へポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤を散布し、水中の汚濁物質を凝集沈澱させると共に、凝集物が沈澱した後の上層部の清浄水を干潮時に処理域外へ流出させることを特徴とする潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性凝集剤を用いた河川の汽水域や湾内の水の浄化処理方法の改良に関するものであり、潮位差即ち潮の干満を利用して浄化処理後の清浄水のみを下流側へ流出若しくは湾外へ放出させることにより、河川や湾内の水の浄化を高能率で行えるようにした水の浄化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従前から、水環境の改善及び回復は社会の重要な課題となっており、その中でも、特に河川の汽水域や閉鎖された港湾内等の水の浄化が大きな問題となっている。
【0003】
また、上記課題に対処するため、各種の水処理剤等やこれ等を用いた水の浄化処理方法が開発され、公開されている。
本願発明者等も先に特許第3854466号に係る凝集剤及び凝集方法の開発を進め、ポリグルタミン酸架橋物を主体とする生分解性の水質浄化剤(日本ポリグル株式会社製 商品名 PGα21Ca)及びこれを用いた各種の水の浄化処理方法を公開している。
【0004】
前記特許第3854466号に係るポリグルタミン酸架橋物を主体とする水質浄化剤(凝集剤)は、自然界で容易に分解されて天然アミノ酸の一種であるグルタミン酸に変換される物質であり、分解されるとモノマーのアクリルアミドになる従前のポリアクリルアミドを主体とする高分子凝集剤とは、物性を基本的に異にするものである。そして、当該 水質浄化剤自体は無害であって、比較的早く自然に分解すると云う利点を有するものである。
【0005】
一方、凝集沈澱した凝集物の大部分は河川底や海底上に堆積されて行き、未分解の凝集物は所謂ヘドロ化して二次汚染を引き起すことになる。
【0006】
そのため、河川や海域の水浄化処理方法においては、図7に示すように、船舶等に生分解性凝集剤Bを貯留した薬剤タンク10を積載すると共に船体の後方に吸水管11を介して筒状噴射体12を取り付け、そして、回転駆動装置14に、制御弁17を通して適宜量の凝集剤Bを吸水管21内へ吸引させ、これ等を噴射口12aから被処理水W中へ噴出すると共に(特開2005−144340号)、図8に示すように、船体の後方に多数のメッシュ状薄板体を組み合せして成る回収具Eを牽引させ、先に凝集剤を散布して凝集せしめた水中の凝集物をこれに付着せしめて回収するようにしている。(特許第4381154号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3854466号
【特許文献2】特開2005−144340号
【特許文献3】特許第4381154号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記船舶により回収具Eを牽引して海中の凝集物を回収する方法は、回収効率が極めて悪いうえに多くの手数(工数)や経費を必要とし、広い面積の河川や海域では沈殿物の回収、除去が経済性の点から困難であると云う問題がある。
【0009】
また、水中の凝集物は、水内への凝集剤の散布混合から0.5〜3時間程度をかけて順次沈降し、水深2〜6m程度の滞留水中であれば略3時間以内に完全に沈降する。しかし、水に0.5m/minを越える流れのある場合や潮流がある場合には、凝集物の沈降が大幅に遅れるだけでなく、流れが激しい場合には一旦沈降した凝集沈殿物が再浮上するという問題がある。
【0010】
更に、水中の凝集沈殿物に日光が照射されると、凝集物内の有機性物質の所謂光合成によりガスを発生し、これが原因となって凝集沈殿物の沈降の停止や凝集物の解離及び再浮上が起生する。
上記現象は、特にポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤による凝集沈殿物に顕著に顕出する事象であり、ポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤を用いた水の浄化処理には、日光の照射により凝集沈澱中の凝集物の解離による再浮上が起こり易いと云う問題が存在する。
【0011】
本願発明は、ポリグルタミン酸架橋物を主体とする水処理剤を用いた汽水域や湾内の水の浄化処理に於ける上述の如き問題を解決し、広面積域の水の浄化処理を省エネルギーを図りつつ低コストで且つ高能率で行え、しかも、凝集沈殿物の解離による凝集物の再浮上に起因する汚濁物質の増加を防止できるようにした、汽水域や湾内の水の浄化処理方法を提供することを発明の主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
而して、河川床や海底上に堆積した凝集物内の有機物は、凝集物内の微生物により、時間を掛けて徐々に生物分解されて行く。そのため、一旦凝集沈降させた凝集物は、なるべく水の流れ等によって撹拌移動されないように一定箇所堆積保持させ、徐々に生物分解されるのを待つのが望ましい。何故なら、広域に亘って堆積した沈降凝集物を吸引
等により強制的に除去するのは、経済性の点で不可能に近いからであり、時間を掛けてでも生物分解させるのが最も望ましい方策である。
【0013】
本願発明者は、上記ポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤の水中に於ける汚濁物質の凝縮特性の観察及び試験研究を通して、水中で凝集過程にある水中内の凝集物の解離による再浮上を防止すると共に、河川底や海底に一旦沈降した凝集物の上方の清浄な処理済水のみを下流側へ放流又は流出させることにより、先に沈降した凝集物を可能な限り一定場所に堆積した状態に保持し、その再浮上の防止と生物分解を図ることにより、経済的な水の浄化処理の達成が可能なことを着想した。
【0014】
また、同時に本願発明者等は、上記一旦沈降した凝集物の上方の清浄水のみを下流側へ放流するエネルギー源として、潮の潮位差、即ち潮の干満による水位差を利用することを着想した。
【0015】
本願発明は、上記着想を基にして創作されたものであり、本願請求項1の発明は、満潮時刻の1〜3時間前に水面上へポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤を散布し、水中の汚濁物質を凝集沈澱させると共に、凝集物が沈澱した後の上層部の清浄水を干潮時に処理域外へ流出させることを特徴とするものである。
【0016】
また、凝集剤の散布は、満潮時刻の1〜3時間前であって且つ太陽光照射の少ない16時〜10時の間に散布するのが望ましい。
【0017】
凝集剤の散布は、ポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤と水との混合水を水面上へホース・ノズル等を用いて噴射・散布するのが望ましい。
【0018】
水の浄化処理に際しては、河川の汽水域の下流側又は湾内と外海との境界域の底面に、高さ5〜30cmの阻止体を設け、干潮時に底面へ沈降した凝集物が流出するのを防止するのが望ましい。
【0019】
本願請求項5に記載の発明は、河川の汽水域の下流側又は湾内と外海との境界域にゲートを設け、満潮時刻の前後に当該ゲートを締切りすると共に、締切りした上流側の汽水域又は締切りした湾内の水面上へポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤を散布し、水中の汚濁物質を凝集沈澱させると共に、干潮時の前後に前記ゲートを開放して凝集剤が沈澱した後の上層部の清浄水を潮位差を用いて湾内又は外海へ流出させることを特徴とするものである。
【0020】
凝集剤は、ゲートの締切りの1〜2時間前又はゲートの締切り後1〜2時間内に散布するのが望ましい。
【0021】
凝集剤の散布は、ポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤と水との混合水を水面上へ散布すると共に、混合水の散布を太陽光照射の少ない16時〜10時の間に行うようにするのが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
本願発明では、河川の汽水域や湾内へ凝集剤と水との混合液を散布すると共に、潮位差を利用して汚濁物質を凝集沈澱させた後の上層部の清浄水を湾内又は外海へ流出させるようにしているため、水の浄化処理に要する動力費が大幅に削減される。
【0023】
また、汽水域の下流側や湾内の出入口部の底面に高さ5〜30cmの阻止体を設けて、沈澱凝集物の下流側への流出を防止しているため、沈澱凝集物の自然分解が促進されると共に、ポンプ吸引等による沈澱凝集物の排出が容易となる。
【0024】
汽水域の下流側や湾内の出入口部にゲートを設けた場合には、ゲートの開閉操作時間を調整することにより、汚濁物質の凝集沈澱を高能率で行えると共に、潮位差を最大限有効に活用して清浄水の排出を能率よく行うことが可能となる。
【0025】
凝集剤をポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤とすると共に、その散布時間を、汚濁物質の凝集沈澱中に水内へ強い太陽光の入射が無い時間帯に設定することにより、凝集物の分解による再浮上をほぼ完全に防止することができ、能率の良い水の浄化処理が行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態を示す平面概要図である。
【図2】図1のイ−イ視拡大断面概要図である。
【図3】有明海近傍(佐賀県藤津群大良町大浦)の海面水位の一例を示す線図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示す平面概要図である。
【図5】図4のイ−イ断面概要図である。
【図6】仕切りゲートの概要を示す斜面図である。
【図7】従前の海水の浄化処理方法の一例を示すものである。
【図8】従前の凝集物の回収方法の一例を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の第1実施形態を示す平面概要図、図2は図1のA−A視拡大断面概要図である。
図1及び図2に於いて、1は河川の河口に近い汽水域、2は湾内、3は外海、4は防波堤、5は阻止体、Aは陸地、Dは湾内と外海との境界域(湾の出入り口)、Hは川の深さ、Wは川幅である。
【0028】
汽水域1又は湾内2の水の浄化処理に際しては、湖の潮位差を予め調査し、満潮時刻Thと干潮時刻Tlを確認する。
次に、処理すべき汽水域又は湾内域を確定する。例えば、河口近傍の所謂潮の干満により淡水と海水とが混合する汽水域内を処理する場合には、河口からの距離、川の平均深さ等を調査し、浄化処理区画を設定する。
【0029】
同様に、湾内の場合には、図1に示す如く、外海3と連通している比較的狭い幅員の境界域(出入口)Dの内方を処理対象域として設定する。
【0030】
次に、凝集剤Bの準備をする。凝集剤Bには、生分解性のポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤Bを利用する。即ち、本実施例においては、本件発明者が開発して実用に供している凝集剤B(商品名PGα21Ca・日本ポリグル株式会社製)が使用されている。
【0031】
当該凝集剤Bは粉体状を呈しており、下記の成分構成(wt%)を具備するものである。
成分構成(wt%)
PGα21Ca=14%、C=0.5%、O=45%、Na=8%、Al=0.5%、Si=12%、Cl=0.4、Ca=15%、K=0.1%、Fe=15%
【0032】
この凝集剤B(PGα21Ca)は、生分解性を有するγ−ポリグルタミン酸を主体とする新規な自然分解性の物質であり、下記の構造式で表されるものである。
【化1】

【0033】
また、凝集剤B内のO、Ca、Fe、Si等は通常2CaSO・HO、NaCO・HO、NaSO、MgSO・6HO、Al(SO)・18HO等の化学構造式で表される物質の型で当該凝集剤B内に含まれている。
【0034】
浄化処理対象が汽水域1の場合、先ず、満潮時に於ける処理対象区域の河川水量を算定する。例えば、川幅Wの平均約15m、深さH=約5m、長さ約300mとすると、処理水量は約22500mとなる。
一方、これ迄の当該凝集剤Bを用いた各種浄化処理の実施経験から、河川や沼湖の水の浄化処理に於いては、凝集剤Bの必要混合量が3〜150g/ton(被処理水)であることが判明している。
従って、凝集剤Bの必要量は、例えば混合量を10g/tとすると、22500t×0.01kg=225kgとなる。
【0035】
凝集剤Bの散布総量が決まると、浄化対象域の形態等に応じて凝集剤の散布方式を決定する。即ち散布方式としては、これ迄に(1)船舶や戔を用いる方式、(2)ポンプ自動車を用いる方式及び(3)水面上に穴あきホースを浮設する方式等が開発されている。前記(1)の方式は特許第4381154号に記載されているように船舶に搭載したエジェクター式混合装置を用いて、水と凝集剤Bの混合体を水中へ拡散・混合するものである。
【0036】
また、前記(2)の方式は、予め粉体状の凝集剤Bと水とを混合しておき、当該混合水をポンプ、ホース及びノズル等を介して所定の圧力でもって水面上へ噴射・散布するものである。
更に、前記(3)の方式は特開2006−142183号に開示されているように、水面上に予め一定間隔で小噴射口を設けたホースを浮設しておき、陸上(又は戔上)に設置した凝集剤供給装置から、前記ホースを介して水中へ水と凝集剤の混合体を噴出するものである。
【0037】
本件第1実施例に於いては、浄化対象区域が河川の汽水域1の場合には前記(2)のポンプ車散布方式を採用しており、消防ポンプ車と略同一のポンプ散水車のタンク内に所定量の水と凝集剤の混合液を貯留し、ポンプ加圧した混合液を堤上からホース及びノズルを介して水面上へ散布(噴射)するようにしている。
【0038】
また、浄水処理対象が湾内2の場合には、図4に示したような前記(1)に記載の船舶に搭載した凝集剤散布装置(特許4381154号)を用いて、所定量の凝集剤を海水中へ散布・拡散させるようにしている。
【0039】
尚、図1及び図2に於ける阻止体5は、汽水域1の河口近辺や湾内2と外海3との幅員の狭い境界Dの底面に設置された突起体であり、高さ10〜50cmの壁体である。又、この阻止体5はチューブ状の空気袋体で形成してもよく、この場合には空気加圧により突起体5を伸長させたり、或いは減圧により突起体を縮小させたりすることが可能となる。
【0040】
当該阻止体5は、後述するように底面に凝集沈澱した凝集物が、干潮時に清浄水と一緒に下流側(湾内)へ或いは外海3側へ流出しないようにするためのものであり、流出による凝集物の再浮上を防止すると共に、凝集沈澱物を滞留させてその生物自然分解作用を促進させる機能を有するものである。
また、未分解の凝集沈殿物を強制排出する場合にも、阻止体5により凝集沈殿物が溜められているため、その吸引排出を能率よく行える。
【0041】
前記本願発明の第1実施形態は、被処理区域の水面上へ凝集剤B又は凝集剤Bと水の混合液を散布すると云う点では、従前のこの種凝集剤を用いた水の浄化処理方法と同じであるが、凝集剤(若しくは凝集剤混合液)の散布を満潮時間の1〜3時間前に行う点に、特徴を有している。
【0042】
即ち、凝集剤混合液の散布は、望ましくは満潮時間の少なくとも1時間前に完了し、且つ可能な限り短時間内(望ましくは0.5〜1時間内)に散布を完了するのが望ましい。何故なら、満潮時間の前後近傍に於いては、汽水域1の上・下流側への水流が比較的小さいため、短時間内に凝集剤の混合を終えることにより、水と凝集剤との混合状態を長い時間に亘って保持し、汚濁物質の凝集沈降を促進することが出来るからである。
【0043】
凝集剤の散布、混合により水内の汚濁物質は順次凝集し、凝集物が大型化するに伴って沈降する。ホースノズルからの散布の場合、散布された凝集剤は水面から3〜5cm位の間に於いて水に強制混合され、それ以下の水深中へは自然拡散により混合される事になる。また、僅かな潮位差による上・下流方向への水流の変化が、前記凝集剤の拡散混合を促進することになる。
【0044】
汚濁物質の凝集沈澱は、水深Hが4〜5m程度の場合30〜120分で完了する。沈降した凝集物は底面に順次堆積した状態に保持されることになり、その結果凝集剤Bの散布から30〜120分後には、水の上層部は浄化された透明に近い水となる。
【0045】
前記河口側や湾内2と外海3との境界域Dに設けた阻止5は、潮位差による水の流れが生じた際に、沈降した凝集物が共に下流側へ流出するのを防止する機能を果す。また、処理区域が汽水域1の場合には、処理区画の上流側にも阻止体5aを設けるのが望ましい。上潮時における凝集沈澱物の上流側への移動が阻止されるからである。
【0046】
図3は、有明海近傍における2010年6月下旬の潮位データ表である。約6時間間隔で潮の干満が生じており、約2.5〜3.5m位の潮位差が見られる。
従って、満潮時の前後1〜2時間の間に凝集剤を散布し、約1〜3時間で凝集沈澱させることにより干潮時には上層部の浄化処理された清浄水が,潮位差によって下流側の湾内2内へ(処理区画が汽水域の場合)若しくは外海3側へ(処理区画が湾内2の場合),流出されることになる。
【0047】
また、沈降した凝集物の大部分は、阻止体5の存在によって底面上に堆積保持されることになり、時間を掛けて自然に生物分解されて行く。
【0048】
一方、汚濁物質の凝集並びに沈澱の過程で太陽光の照射があると、太陽光エネルギーの作用によって汚濁物質内の緑色植物が所謂光合成作用を奏し、COと水からデンプン等の炭水化物(C12等)を合成し、同時に酸素を放出することになる。その結果、凝集中若しくは凝集沈降中の凝集物が凝集力を喪失して解離し、分解した汚濁物質が再浮上することになる。
【0049】
そのため、水面上への凝集剤混合水の散布時間は、凝集過程で凝集物への太陽光照射量が増大する10〜14時の時間帯を避け、約0.5〜3時間ほどの必要な凝縮時間が、上記太陽光照射量の増大する時間帯に合致しないようにするのが望ましい。
【0050】
本実施例の場合、前記川幅約15m、深さ約5m、長さ約300mの汽水域(水量約22500m)へ、約250kgの凝集剤PG21Caと水との混合水(約10ton)を放水ポンプ車を用いて散布している。尚、凝集剤Bの放出圧力は約2.0kg/cmとし、ホースノズルの先端から150〜200l/minの割合で混合液を放出し、約50〜60分かけて散布した。
【0051】
また、前記混合水の放水は満潮時の約2時間前から開始し、凝集剤の散布の完了後約1時間で満潮時となるように調整した。尚、当日の満潮時は午前9時前後であった。
【0052】
凝集剤の散布後引潮の午前11時から午後2時に亘って、汽水域下流側の河口で流出する水を採取し、その水質を目視で調査した。その結果処理前には黄黒色に懸濁していた水が、ほぼ半透明に近いところまで清浄化されていることが判明した。
【0053】
また、河川底の沈澱凝集物は、阻止体5の近傍に於いては1回の凝集剤Bの散布により、その堆積厚さが約2〜5mm程度増加することが判明した。
【0054】
図4は、本発明の第2実施形態を示す平面図であり、図5は図4のA−A視断面図、図6は第2実施形態で使用するゲートの一例を示す斜面図である。尚、図4乃至図6に於いて、6はゲート、6aは枠体、6bは外扉、6cは内扉、6dは外扉の開口部、6eは外扉の下部閉鎖部である。
【0055】
当該、第2実施形態に於いては、浄化処理すべき汽水域1の河口側又は湾内2の出入口部Dにゲート6を配設し、浄化処理前に、望ましくは満潮時の前後にゲート6を全閉にすると共に、凝集剤の散布混合の完了から0.5〜3時間経過後、望ましくは干潮時の前後にゲート6を開放して、ゲート6の上流側の浄化処理した上層部の清浄水を湾内2又は外海3へ放出するようにした点のみが、第1実施形態の場合と異なっている。
【0056】
即ち、前記ゲート6は、図4に示すように浄化処理対象区域である汽水域1の下流側や湾内2と外海3の境界域Dである湾出入口に設けられており、また、場合によっては、汽水域1の上流側にも設けられている。
【0057】
当該ゲート6は、図5及び図6に示す如く外扉6bと内扉6bを枠体6aにより気密に且つ上下動自在に支持することにより構成されている。また、外扉6bの上方部には開口6dが設けられ、下方部の高さ20〜50cm程度は下部閉鎖部6eとなっている。尚、図面では省略されているが、枠体6aの上方にはモータ、ギヤー装置、制御盤等を含むゲート駆動部が配設されている。
【0058】
満潮時前後にゲート6を閉鎖すると、内扉6cと外扉6bとが面接触して開口部6dが閉鎖される。また、干潮時にゲート6を開放すると、内側6cのみが上方へ引上げられ、開口部6dが開放される。
【0059】
その結果、開口部6dを通して汽水域1の上流側の水の上層部、即ち浄化された清浄水が下流側へ流出して行く。
また、外扉6bの下方部の閉鎖部6eは、上層部の清浄水が流出する際に川底に沈降した凝集物が一緒に排出されるのを防止する機能を果すものである。
【0060】
地域や日時によって異なるが、日本国内では通常2〜5mの潮位差が見られる。従って、ゲート6の開口部6dの高さを適宜に選定することにより、対象地域の大潮や小潮時の潮位差を活用して、何時でも汽水域1や湾内2の水質浄化処理を行うことが出来る。
【0061】
また、広大な湾内域を浄化対象とする場合には、図4に示す如くブイ7を設置して区域を区画し、各区域毎に同時に凝集剤の散布を行うのが望ましい。
【0062】
更に、浄化処理対象域である汽水域1の上流側にゲート6を設けた場合には、上・下流側のゲート操作を連動させることにより、汽水域1の水をより安定して高度に浄化処理することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、河川の汽水域や湾内のみならず、海に繋がっている池や沼湖等へも適用できるものである。
【符号の説明】
【0064】
Wは川幅
Hは川の深さ
Thは満潮時間
Tlは干潮時間
Bは凝集剤
Aは陸地
Cは川
Dは境界域
1は河川の汽水域
2は湾内
3は外海
4は防波堤
5は阻止体
6はゲート
6aは枠体
6bは外扉
6cは内扉
6dは外扉の開口部
6eは外扉の下部閉鎖部
7はブイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
満潮時刻の1〜3時間前に水面上へポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤を散布し、水中の汚濁物質を凝集沈澱させると共に、凝集物が沈澱した後の上層部の清浄水を干潮時に処理域外へ流出させることを特徴とする潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法。
【請求項2】
凝集剤の散布時間を満潮時刻の1〜3時間前であって且つ太陽光照射の少ない16時〜10時の間に散布するようにした請求項1に記載の潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法。
【請求項3】
ポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤と水との混合水を水面上へ散布するようにした請求項1又は請求項2に記載の潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法。
【請求項4】
河川の汽水域の下流側又は湾内と外海との境界域の底面に、高さ5〜30cmの阻止体を設け、干潮時に清浄水が処理域外へ流出する際に、底面に沈降した凝集物が流出するのを防止するようにした請求項1、請求項2又は請求項3に記載の潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法。
【請求項5】
河川の汽水域の下流側又は湾内と外海との境界域にゲートを設け、満潮時刻の前後に当該ゲートを締切りすると共に、締切りした上流側の汽水域又は締切りした湾内の水面上へポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤を散布し、水中の汚濁物質を凝集沈澱させると共に、干潮時の前後に前記ゲートを開放して凝集剤が沈澱した後の上層部の清浄水を湾内又は外海へ流出させることを特徴とする潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法。
【請求項6】
凝集剤をゲートの締切りの1〜2時間前又はゲートの締切り後1〜2時間内に散布するようにした請求項5に記載の潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法。
【請求項7】
ポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤と水との混合水を水面上へ散布すると共に、混合水の散布を太陽光照射の少ない16時〜10時の間に行うようにした請求項5又は請求項6に記載の潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法。
【請求項8】
ゲートの開口部の下方部に高さ20〜50cmの下部閉鎖部を設け、干潮時に清浄水が処理域外へ流出する際に、沈澱した凝集物が湾内又は外海側へ流出するのを防止するようにした請求項5、請求項6又は請求項7に記載の潮位差を用いた河川や湾内の水の浄化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−12801(P2012−12801A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148922(P2010−148922)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(510132554)株式会社ポリグルインターナショナル (4)
【Fターム(参考)】