説明

澱粉加水分解物またはその誘導体を含有する植物組織の分子圧縮脱水剤

本発明は、澱粉加水分解物またはその誘導体を含有する植物組織の分子圧縮脱水剤に関するものである。本発明において、澱粉加水分解物は、好ましくはマルトデキストリンであってもよい。澱粉加水分解物の誘導体は、具体的にオクテニルコハク酸ナトリウム澱粉を主成分とする変性澱粉であってもよい。本発明の分子圧縮脱水剤は、低分子カゼインナトリウムをさらに含有することができる。本発明の脱水剤は、植物組織に混合すると、サイトリシス(cytorrhysis)現象を起こして植物組織を脱水させる。本発明の脱水剤は、既存の脱水剤と類似した程度の優れた脱水および乾燥効果を示しながらも、食用への使用に法的・社会的・経済面での制限がなく、大量供給が可能である。したがって、本発明の分子圧縮脱水剤を用いて得た脱水滲出液および脱水乾燥組織は、食料および飲料、飼料、美容材料、医薬品、香料、農薬または色素の製造など様々な方面で有用に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子圧縮脱水剤(molecular press dehydrating agent)およびこれを用いる植物組織の分子圧縮脱水方法に関するものである。植物を脱水乾燥させる方法は、食料および飲料、飼料、化粧品および医薬品の産業分野において非常に有用に用いられる技術である。
【背景技術】
【0002】
植物組織を脱水し乾燥させる伝統的な方法には、浸透圧脱水(osmotic dehydration)法、熱風乾燥法、凍結乾燥法などがある。浸透圧脱水法としては、脱水剤として食塩などの塩類を用いる塩蔵法や、砂糖などの糖類を用いる糖蔵法などが挙げられる。
【0003】
この方法は、初期脱水速度が速いという長所はあるが、最終脱水量が少なく、脱水過程中に細胞壁を介して移動した多量の脱水剤が細胞内に残留するようになるので、脱水した組織の味と品質に悪い影響を及ぼす。さらに、脱水剤が脱水中に細胞壁成分の変性をきたして乾燥後の組織の再水和を低下させるという短所がある。
【0004】
熱風乾燥法は、加熱された乾燥空気によって植物組織を脱水乾燥させる伝統的な方法であって、コストが低いという長所はあるが、熱による脱色、香味の損失など脱水乾燥された組織の品質が劣悪で、高級製品の製造への適用には困難である。
【0005】
凍結乾燥法は、他の方法と比較して食品成分の変化が少ないため、食品の品質が高く保持される。ところが、凍結によって細胞組織が破壊され組織の手ざわりが大きく損傷するうえ、加工費が高いため一部の高級製品にのみ使用されている。
【0006】
このため本発明者は、植物組織を脱水する新規の技術である分子圧縮脱水法を開発して特許出願したことがある。分子圧縮脱水法は、サイトリシス(cytorrhysis)現象を利用したものである。サイトリシスとは、植物細胞が細胞壁の細孔より大きい水溶性高分子物質の高濃度溶液中に置かれているとき、高分子物質が細胞壁内には浸透できず、細胞壁の外部に加えられる高分子の分子の拡散圧力により、細胞を収縮させて脱水を引き起こす現象である。
【0007】
分子圧縮脱水法は、浸透圧脱水より多量の水分を脱水させながらも、細胞壁を始めとした細胞内成分を変性させずに脱水後の乾燥を速くし、組織の味と香りに与える影響を少なくする。また、分子圧縮脱水乾燥組織は、水を用いた復元の際に殆ど新鮮な組織状態に復元される。分子圧縮脱水法において、脱水過程中に滲出する多量の脱水物は、水で希釈されていない状態なので、有用成分の濃度が高く、天然の香味をほぼそのまま保っており、高濃度脱水剤のため、微生物による損傷と酸化による変質が高度に抑制され有用性を高める。
【0008】
分子圧縮脱水法において、脱水剤として使用する物質は、細胞壁の細孔より大きい水溶性高分子物質でなければならず、細胞外のみから分子拡散圧力を加えて細胞内外の脱水剤の濃度の勾配を持続的に保つべきである。
【0009】
本発明者は、このような分子圧縮脱水法の脱水剤として使用できる様々な水溶性高分子を韓国特許出願第10−2001−69777号で提示している。
【0010】
例えば、PEG、アラビアガム(gum Arabic)、アラビノガラクタン(arabinogalactan)、卵白、乳蛋白または大豆蛋白などの水溶性高分子物質を用いて各種植物組織を効率的に分子圧縮脱水することができたが、これらは次のような固有の問題点を抱えている。
【0011】
合成高分子物質PEGは、水に対する溶解度が大きくかつ水溶液の粘度が低いため、分子圧縮脱水法で使用される前記脱水剤の中で最も適した物質であるが、純粋な化学的合成品であるので、食用に使うには、一部法的な制約を受けているだけでなく、一般消費者の拒否感を生み出すおそれもある。
【0012】
アラビアガム、アラビノガラクタンおよび卵白は、水によく溶解され、粘度が低く、天然物であるので食用の分子圧縮脱水剤として適するが、PEGと比較すると、脱水効果が低く脱水製品の品質が相当劣っており、高価であるため経済性が低い。特にアラビアガムとアラビノガラクタンは、大量使用の際に供給不足のおそれが大きく、卵アルブミンの場合には脱水中に、または脱水後の貯蔵中に得た滲出液が微生物によって変敗が起こり得る。
【0013】
乳蛋白および大豆蛋白は、大量供給が可能な天然物であるという長所はあるが、現在一般的に購入可能な商品は、水に対する溶解度が低く、水溶液の粘度が大きい方であるため、実用化するには問題点が多い。
【0014】
したがって、前記分子圧縮脱水剤のみを用いて、植物性の食品材料を脱水乾燥させるには、法的、社会的認識、経済的な問題だけでなく、供給に関しても問題がある。従って、天然素材を利用しながらも大量供給が可能な分子圧縮脱水剤を開発する課題が残っている実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明では、脱水効率に優れているだけでなく、使用にあたり法的・社会的・経済的問題がなく、大量供給が円滑に行われる分子圧縮脱水剤およびこれを用いる植物組織の分子圧縮脱水方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、澱粉加水分解物(starch hydrolysater)またはその誘導体(derivative)を含有する植物組織の分子圧縮脱水剤を提供する。
【0017】
本発明において分子圧縮脱水剤として用いる澱粉加水分解物とは、天然澱粉を物理的・化学的に分解して得た澱粉断片の集合体を意味する。
【0018】
天然澱粉は、基本的にブドウ糖からなる高分子物質であり、直鎖状のグルコース鎖からなるアミロース(amylase)と、分枝状のグルコース鎖からなるアミロペクチン(amylopectin)の2つの成分から成っている。天然澱粉は、加水分解すれば無作為にブドウ糖間の結合が切れて様々な大きさの澱粉断片を得るが、このような大きさの差異により、澱粉断片は元々の天然澱粉とは異なる物性を示す。
【0019】
加水分解されていない状態の天然澱粉は、植物細胞の細胞壁の細孔に比べて大きさが大き過ぎてサイトリシスをよく誘発することができない。これに対し、本発明で使用する澱粉加水分解物には、一般的に大きさ3.5nm以上の澱粉断片が多量含有されており、それより小さい澱粉断片も一部存在する。直径3.5nmは、植物細胞の細胞壁の細孔より少し大きい大きさであって、サイトリシスを誘発するに最も適した大きさである。したがって、本発明の澱粉加水分解物は、植物組織と混合すると、サイトリシスを誘発して植物組織を効果的に脱水させる。
【0020】
本発明において、澱粉分解方法としては、当業界で通常用いられる方法であればいずれも使用可能であり、具体的に酸処理、α−アミラーゼ(α−amylase)などによる酵素反応、または熱処理などを挙げることができる。本発明では、必要に応じて、前記方法のいずれか一つを単独で使用することができ、あるいはいくつかの方法を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
その一例として、本発明の澱粉加水分解物は、原料である天然澱粉を35〜40%程度のスラリー状に液化させた後、酸処理またはα−アミラーゼにより処理し、その後精製・乾燥過程を経て得ることができる。
【0022】
本発明の脱水剤として使用可能な澱粉加水分解物は、各種デキストリン(dextrins)の中から選ばれた一つ以上であってもよい。
【0023】
本発明の脱水剤として最も好ましい澱粉加水分解物は、マルトデキストリン(maltodextrin)である。
【0024】
マルトデキストリンは、デキストロース当量が(Dextrose Equivalent:DE)25以下のデキストリンであって、DE1程度まで商品化されている。DEが低いほど平均分子量が大きく、DEが高いほど分子サイズが小さくてブドウ糖や麦芽糖などの低分子糖の含量が高い。低分子糖の含量があまり高ければ、浸透が進行して分子圧縮脱水に支障を来たすことがある。
【0025】
本発明の脱水剤として使用可能な澱粉加水分解物の誘導体とは、前記澱粉加水分解物を還元させたり、あるいは澱粉加水分解物の鎖にソルビトール、クエン酸、コハク酸などのいろいろな機能基(functional group)を化学的に結合または重合させた物質を意味する。
【0026】
本発明の脱水剤として使用可能な澱粉加水分解物の誘導体は、ポリデキストロース(polydextrose);アミロペクチン誘導体やアミロース誘導体の画分;イミノアルキル、アンモニウムアルキル、アミノアルキル基などで置換された陽性澱粉;エチリジン、メチレンなどで置換された架橋澱粉;カルバミルエチル、ベンジル、アリル、メチル、スルホアルキル、シアノエチル、カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル基などで置換されたエーテル化澱粉;スルホン酸エステル、芳香族エステル、脂肪酸エステル、カルバメートなどで置換されたエステル化澱粉;ジアルデヒド澱粉およびその誘導体;糊化澱粉などから選ばれた一つ以上が例示される。
【0027】
本発明の脱水剤として最も好ましい澱粉加水分解物の誘導体は、具体的に、オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉を主成分とする変性澱粉である。
【0028】
オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉は、低分子デキストリンに疎水性のオクテニル(C)基を結合させたエステル化澱粉の一種であって、油脂成分や油溶性香料成分などのカプセル化および噴霧乾燥するのに使用するよう製造された変性澱粉である。
オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉は、溶解度が高く、その溶液は不透明な懸濁液ではあるが、粘度がアラビアガムに比べて低いので、使用量を十分増やすことができる。オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉も、マルトデキストリンと同様に低分子糖の含量が高ければ、分子圧縮脱水に支障を来たすことがある。
【0029】
また、本発明では、脱水剤として低分子カゼインナトリウムをさらに使用することができる。
【0030】
低分子カゼインナトリウムは、ミルクカゼインを加水分解した後、ナトリウムを添加して得た物質であり、可溶性を高め、気泡性を増大させた気泡剤である。
【0031】
低分子カゼインナトリウムは、溶解性が比較的優れるうえ、粘度が低く分子圧縮脱水を効果的に行うことができるが、低分子ペプチドの苦味と異臭が激しく、泡が立つという短所がある。
【0032】
前述した本発明の脱水剤、代表的な水溶性高分子脱水剤PEG4000およびアラビアガムの溶解度、透明性および粘度を下記表1に比較して示した。
【表1】

【0033】
表1に示した通り、本発明の脱水剤は、水に対する溶解度が大きくて高濃度水溶液を作ることができ、水溶液として作られた際に粘度が低くて分子の拡散が容易に起きるので、分子圧縮脱水乾燥のための水溶性高分子物質としての要件を全て備えている。
【0034】
実際、本発明の分子圧縮脱水剤は、既存の分子圧縮脱水剤のうち最も優れたものと知られているPEG4000またはアラビアガムとほぼ類似した水準の脱水効率を有し、優れた品質の滲出液および乾燥された生成物を得ることを可能にする。同時に、食用としての利用性が低いPEG4000とは異なり、法的・社会的制約なしに利用が可能であり、長い脱水時間を必要とするアラビアガムに比べて脱水時間を著しく短縮させることができる。
【0035】
本発明の分子圧縮脱水剤が含む成分は、全て澱粉または乳蛋白に由来したもので、資源が無限であり枯渇のおそれがなく、既存の脱水剤に比べて価格も低いので費用節減効果も得られる。
【0036】
本発明の分子圧縮脱水剤は、前記成分以外に分子圧縮脱水効率を高めるために、これと機能が類似した成分をさらに含有することができる。
【0037】
本発明の分子圧縮脱水剤は、必要に応じて、前記成分と異なる機能を行う成分をさらに含有することができる。
【0038】
また、本発明は、前記脱水剤を用いる植物材料の分子圧縮脱水方法をさらに提供する。
【0039】
本発明の分子圧縮脱水方法では、本発明の脱水剤を固体状態または濃い溶液状態で準備し、薄く切った植物組織と混合し、薄く切った植物組織の脱水後、濾過または遠心分離を行って脱水された液体などの滲出液と脱水した組織を分離する。
【0040】
本発明において、固体状態とは、飽和溶液であるのに必要以上の高分子物質が水と混合されており、一部の高分子が結晶または粉末等の固体状で分散している懸濁液、または結晶状態、または粉末状態を意味する。
【0041】
本発明の脱水剤を固体状態で使用すると、非常に少ない量、すなわち植物材料と同量以下または20〜30%に相当する量のみでも効率的に植物体を脱水させることができ、滲出液および脱水された組織の品質を改良し、性質を維持することができる。
【0042】
本発明の分子圧縮脱水方法では、高分子物質に低分子脱水補助剤を混合して使用することにより、植物組織の膨圧(turgor pressure)を無くし、脱水の初期で水分滲出を促進させることができる。ところが、本発明の脱水剤は、それ自体内に低分子物質を一部含んでいるため、初期脱水を促進する目的で食塩、糖類、糖アルコール類などの脱水補助剤を別途に添加する必要はない。
【0043】
また、本発明の分子圧縮脱水方法では、高分子物質にpH調節剤を混合して使用することにより、脱水中に起こり得るpHの変化、または脱水剤の添加に起因したpH変化により発生し得る変色などの品質変化を減らすことができる。本発明の分子圧縮脱水方法では、pH調節剤として、塩酸や硫酸、苛性ソーダなどの無機酸、アルカリや酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸、およびこれらの塩類を使用することができる。
【0044】
本発明の分子圧縮脱水方法では、脱水温度を45〜65℃に調整することにより、脱水速度と脱水量を増加させることができる。
【0045】
本発明の分子圧縮脱水方法では、脱水させる植物材料を薄く切り高分子物質と接触できる表面積を最大限に大きくしたり、あるいは高分子物質の移動が容易な方向に切断することにより、脱水速度、脱水率および再水和速度を高めることができる。
【0046】
本発明の分子圧縮脱水方法では、脱水した組織を濾過あるいは遠心分離し、脱水した組織と滲出液とを分離する。また、本発明の分子圧縮脱水方法では、脱水した組織をそのまま、または挽いてペースト状にして使用することもできる。
【0047】
本発明の分子圧縮脱水方法では、脱水した組織を濾過または遠心分離した後、脱水組織を水、粘度を低くした高濃度脱水溶液、低粘度の高濃度糖溶液、または塩溶液で迅速に洗浄することにより、脱水組織の表面に残留する脱水剤を相当量除去する。脱水乾燥させた組織をさらに水などで洗浄することはまるで本来の目的に相反するかの如く見えるが、洗浄の際に組織に水分が浸透することはその浸透速度が遅く、一部浸透した水分も組織の表面にのみ残留するので容易に乾燥する。
【0048】
したがって、本発明の分子圧縮脱水方法において、洗浄過程は、組織の乾燥には大きい影響を与えないで、組織の表面に残留した脱水剤を相当量除去することにより、乾燥過程中に組織同士が付着し合うことを防止し、乾燥中に組織の表面に脱水剤の皮膜が形成されることを防止してむしろ速く乾燥させるようにする。更に、洗浄過程を通して、乾燥した組織の表面に生成される脱水剤の結晶を除去することで外観を良くし、乾燥組織内の脱水剤の残留量を減少させて品質を向上させることができる。
【0049】
本発明の脱水方法によって得られた組織は、温風乾燥、熱風乾燥または自然乾燥などの方法によって容易に乾燥される。大規模な方法では、遠心分離、洗浄、脱水および乾燥を連続的に行える機械を使用することにより、乾燥速度を速くすることができ、別途の工程なしに室温に放置する場合でも、乾燥速度が速くはないが容易に乾燥させることができる。大部分の水分が細胞組織の損傷なしに細胞の外に脱水されて組織中には少量の水分のみが残っており、細胞による水分移動の抵抗が小さいため、残余水分が容易に蒸発される。また、組織に残留した高分子物質が、空気中に組織が直接晒されることを防ぐため、褐変現象を防止するうえ、微生物による変質も起こらない。
【0050】
したがって、本発明の分子圧縮脱水方法は、最小量の高分子物質を使用しながらも最大の脱水効果を得ることができ、脱水された組織だけでなく、脱水された滲出液の品質と保存性を高めることができる。
【0051】
本発明の脱水剤を用いる分子圧縮脱水方法は、高分子物質が細胞内に浸透しないため、細胞内の有用成分の変化を防ぐことができ、脱水中または乾燥中に高分子物質が組織に塗布されるので組織成分が空気に直接晒されることを防止し、酸化や褐変などを防止することができる。また、滲出液中の、高濃度の脱水剤により微生物の生育を抑制して腐敗を遅延させるので、脱水された組織だけでなく、脱水された滲出液の品質と保存性を高めることができる。
【0052】
また、本発明の分子圧縮脱水剤を用いた分子圧縮脱水方法は、既存の熱風乾燥または凍結乾燥と比較すれば短時間に脱水が可能であり、滲出液を共に活用することができ、品質も一層優れている。
【0053】
本発明の脱水剤を用いる分子圧縮脱水乾燥方法により得た脱水された組織および脱水された滲出液は、既存の方法から得たものより色、香りおよび手ざわりなどの品質が一層優れているので、様々な種類の植物に適用できる。また、本発明の脱水剤は、食用に使用することにおいて社会的・法的制約を受けない成分を含有するので、その活用度は一層広範囲になる。
【0054】
したがって、本発明の分子圧縮脱水剤を用いて得た脱水した組織および脱水した滲出液は、食料および飲料、飼料、美容材料、医薬品、香料、農薬または色素の製造など様々な方面で有用に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、実施例を通して本発明の分子圧縮脱水剤およびこれを用いた植物体の分子圧縮脱水方法をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は下記実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1:本発明の分子圧縮脱水剤を用いた大根の脱水
本発明の分子圧縮脱水剤を用いて大根を脱水させた。
【0057】
本発明の分子圧縮脱水剤は、マルトデキストリン(DE15)、オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉を主成分とする変性澱粉(HI−CAP100、National Starch & Chemical)および低分子カゼインナトリウムを主成分とする気泡剤(Hyfoama DS、Quest)を使用した。
【0058】
本発明の分子圧縮脱水剤の分子圧縮脱水能力を確認するために、既存の分子圧縮脱水剤であるPEG4000とアラビアガムを用いて大根の脱水実験も行った。
【0059】
1mmの厚さに切った大根組織に大根組織の40〜80%量の脱水剤を混合してそれぞれ1〜8時間放置して脱水させた。脱水後、5分間脱水機で遠心分離して脱水残留量を測定し、その結果を図1に示した。図1に示した通り、本発明の脱水剤であるマルトデキストリン(MD−15)またはオクテニルコハク酸ナトリウム澱粉(HC−100)を用いて脱水した場合は、PEG4000(P4)を用いて脱水した場合と同様に、大根組織と混合されてから2時間後には脱水が殆ど完了した。
【0060】
一方、低分子カゼインナトリウム(HF)は、2時間までは急激に脱水が行われ、それ以後には緩やかに脱水が行われたが、8時間に亘ってゆっくり脱水現象が行われるアラビアガム(GA)と比較しては脱水速度が速いものと確認された。
【0061】
したがって、本発明の分子圧縮脱水剤は、PEG4000と類似した水準の脱水率を示し、アラビアガムと比較してはより速い速度でさらに多くの量を脱水させることができるので、実用的な分子圧縮脱水剤として使用できる。
【0062】
実施例2:本発明の分子圧縮脱水剤を用いた材料別脱水実験
本発明の分子圧縮脱水剤の活用度を確認するために、アロエ、胡瓜、じゃが芋、リンゴなどの様々な植物材料に対して脱水実験を行った。
【0063】
前記実施例1と同様の方法によって脱水実験を行った後、その結果を表2に示した。
【表2】

【0064】
表2に示した通り、本発明の脱水剤であるマルトデキストリンおよびオクテニルコハク酸ナトリウム澱粉は、既存の脱水剤PEG4000よりやや低いかあるいはほぼ類似した水準の脱水率を示した。
【0065】
また、脱水時間においても、本発明の脱水剤であるマルトデキストリンおよびオクテニルコハク酸ナトリウム澱粉は、じゃが芋以外は、既存の脱水剤PEG4000と同程度の短時間内に脱水を完了させた。
【0066】
低分子カゼインナトリウムの場合には、アラビアガムと類似した脱水率を示しており、脱水速度も類似しているが、脱水した組織重量に対する乾燥重量の比は相当高いので、低分子カゼインナトリウムの実際の脱水率はアラビアガムより高いものと考えられる。
したがって、本発明の分子圧縮脱水剤は、様々な植物組織を優れた脱水率で短時間内に脱水をさせることができることを確認した。
【0067】
実施例3:本発明の分子圧縮脱水剤を用いて得た脱水された製品の品質の同定
本発明の分子圧縮脱水剤を用いて得た脱水した製品の品質を、脱水した滲出液と脱水され/乾燥された組織物について別々に同定した。
【0068】
1)脱水した滲出液
前記実施例1と同様の方法によって本発明の分子圧縮脱水剤を用いてアロエ、胡瓜、リンゴおよびじゃが芋を脱水させ、7日貯蔵後に得られた滲出液の色相、匂い、味などを比較し、その結果を表3に示した。
【表3】

(P4:PEG4000、GA:アラビアガム、D15:マルトデキストリン、HC100:オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉、HF:低分子カゼインナトリウム)
【0069】
表3に示した通り、本発明の脱水剤であるマルトデキストリンを用いて得た脱水された滲出液は、既存の脱水剤であるPEG4000を用いて得た滲出液と類似した程度の優れた品質を示した。
【0070】
アロエの色は、一般に酸化によりピンク色に変わるが、マルトデキストリンを用いて得たアロエ滲出液は、アロエ固有の淡緑色がそのまま維持され、無臭に近く、味も甘味と苦味が調和し食用への使用に適している。
【0071】
リンゴの場合も、マルトデキストリンを用いて得た滲出液の色、匂い、味が新鮮な状態に維持された。
【0072】
じゃが芋の場合は、マルトデキストリンを用いて得た滲出液の褐変現象が激しく濃い黒色の滲出液を得たが、香りや味は無臭、無味に近く食品に灰色またはカラメルの自然色を出すのに用い得る。
【0073】
本発明の別の分子圧縮脱水剤であるオクテニルコハク酸澱粉を用いて得た滲出液は、マルトデキストリンを用いて得た滲出液と比較しては色相、香味などがやや劣るが、食用への使用には十分な水準の品質を示した。
【0074】
本発明でさらに使用することが可能な低分子カゼインナトリウムは、ソーダの匂いがするため、食用への使用には難しいものと見られる。
【0075】
一方、本発明の脱水剤を用いて得た滲出液を長期間冷蔵または常温保管した結果、容易に腐敗または変質しないなど保存性が高いものと確認された。
【0076】
2)脱水し乾燥した組織
本発明の分子圧縮脱水剤を用いてアロエ、胡瓜、リンゴおよびじゃが芋を脱水させた後、脱水し乾燥した組織に対して色相、形態、匂い、味および復元性の項目を評価してその結果を表4に示した。
【表4】

【0077】
表4に示した通り、本発明の脱水剤であるマルトデキストリンまたはオクテニルコハク酸ナトリウム澱粉を用いて得た脱水乾燥物は、既存の脱水剤であるPEG4000を用いて得た脱水乾燥物よりやや低いが、ほぼ同じ位に優れた品質を示した。アラビアガムを用いた場合と比較すると、色相の面で一層優れるうえ、匂いと味も類似した水準であった。
【0078】
一方、マルトデキストリンを用いて得たじゃが芋の脱水乾燥物は、滲出液と同様に褐変が非常に激しく、天然着色原料として活用できるかもしれない。
【0079】
リンゴなど糖分の多い果実類では、脱水中に多量の糖分が滲出液とともに除去されるので組織中に甘味成分が少なくなり、乾燥物の味は劣るが、ダイエット繊維として用いられる場合には穀物からのダイエット繊維に比べて味が良いので、活用度がさらに高いものと見られる。
【0080】
本発明でさらに使用できる低分子カゼインナトリウムを用いて得た脱水および乾燥した組織は、果菜類の元の匂いとは異なる、穀物を焼いた匂いがして利用度が多少劣るが、匂いのむかつき感が少なく、復元性に優れるという長所がある。
【0081】
以上で、本発明の分子圧縮脱水剤を用いて得た滲出液および脱水乾燥物は、既存の脱水剤を用いた場合と類似した程度の優れた品質を示すことが分かる。
【0082】
本発明の分子圧縮脱水剤は、既存の脱水剤と類似した脱水効率を有する。それらは食用としての活用度が低いPEG4000とは異なり法的、社会的制約なしに広く活用が可能であるうえ、長い脱水時間を必要とするアラビアガムと比較して脱水時間を著しく短縮させることができる。
【0083】
本発明の分子圧縮脱水剤は、澱粉または乳蛋白に由来したもので、資源が無限定であって枯渇のおそれがなく、既存の脱水剤と比べて安価であるため、コスト節減効果がある。
また、本発明の分子圧縮脱水剤を用いた分子圧縮脱水方法は、既存の分子圧縮脱水剤を用いて得た滲出液および乾燥物と同様に、微生物による腐敗と酸化による変質を著しく低下させ優れた保存性を有している。
【0084】
本発明の分子圧縮脱水剤を用いた分子圧縮脱水方法は、既存の熱風乾燥または凍結乾燥と比較すれば短時間に脱水が可能であり、滲出液を共に活用できるという長所があり、品質も特別な性状では一層優れている。
【0085】
したがって、本発明の分子圧縮脱水剤を用いて得た脱水滲出液および脱水乾燥組織は、食料および飲料、飼料、美容材料、医薬品、香料、農薬または色素の製造など様々な方面で有用に使用できる。
【0086】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、当業者であれば、本発明は添付の特許請求の範囲の精神および範疇内において変形実施が可能であると理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は大根組織に対する本発明の分子圧縮脱水剤の脱水量および脱水速度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉加水分解物またはその誘導体を含有する植物組織の分子圧縮脱水剤。
【請求項2】
澱粉加水分解物は、各種デキストリンの中から選ばれた一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の分子圧縮脱水剤。
【請求項3】
澱粉加水分解物は、マルトデキストリンであることを特徴とする、請求項2に記載の分子圧縮脱水剤。
【請求項4】
澱粉加水分解物の誘導体は、ポリデキストロース(polydextrose)、アミロペクチン誘導体、アミロース誘導体などの画分、イミノアルキル、アンモニウムアルキル、アミノアルキル基などで置換された陽性澱粉、エチリデン、メチレンなどで置換された架橋澱粉、カルバミルエチル、ベンジル、アリル、メチル、スルホアルキル、シアノエチル、カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル基などで置換されたエーテル化澱粉、スルホン酸エステル、芳香族エステル、脂肪酸エステル、カルバメートなどで置換されたエステル化澱粉、ジアルデヒド澱粉およびその誘導体、糊化澱粉などから選ばれた一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の分子圧縮脱水剤。
【請求項5】
澱粉加水分解物の誘導体は、オクテニルコハク酸ナトリウム澱粉を主成分とする変性澱粉であることを特徴とする請求項4に記載の分子圧縮脱水剤。
【請求項6】
低分子カゼインナトリウムをさらに含有することを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の分子圧縮脱水剤。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか1項に記載の分子圧縮脱水剤を用いることを特徴とする植物組織の分子圧縮脱水方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のうちいずれか1項に記載の分子圧縮脱水剤を用いて得た脱水された組織およびその加工品。
【請求項9】
請求項1ないし6のうちいずれか1項に記載の分子圧縮脱水剤を用いて得た脱水された滲出液およびその加工品。

【図1】
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【公表番号】特表2006−525802(P2006−525802A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507839(P2006−507839)
【出願日】平成16年5月8日(2004.5.8)
【国際出願番号】PCT/KR2004/001069
【国際公開番号】WO2004/099255
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(503243173)
【氏名又は名称原語表記】YOO Myung−Shik
【Fターム(参考)】