説明

澱粉貯蔵植物粉末の製造方法

【課題】流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末を製造する技術を提供することを課題とした。
【解決するための手段】澱粉貯蔵植物加工物に澱粉分解酵素を添加、反応させた後、噴霧乾燥することによって、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は澱粉貯蔵植物を粉末化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食の多様化及び健康志向に伴い、果実、穀類、野菜などの植物を用いた食品又は飲料の需要は増加している。しかし、果実、穀類、野菜などは、収穫時期が限定され、生鮮状態では、年間を通しての使用が難しい。その為、様々な加工品が製造されている。中でも、粉末品は、取り扱いの便宜性や良好な保存性などの利点を持つことから幅広く食品又は飲料に使用されている。
【0003】
イモ類、かぼちゃ、栗、トウモロコシ、バナナ、豆類などの澱粉を豊富に貯蔵している植物は、栄養価が高く、良好な風味を持つ為、様々な食品又は飲料に使用されるが、その粉末化に当たっては、澱粉由来の粘性が加工工程を阻害するという問題点がある。その為、様々な方法が工夫され提案、実施されてきた。
【0004】
特許文献1では、煮た紅芋をミンチ状態にして薄く広げて乾燥させた後、微粉末状に製粉する方法が提案されている。
【0005】
特許文献2では、ペースト状の野菜とおからとを混合した後、熱風乾燥する方法が提案されている。
【0006】
特許文献3では、果実・野菜のピューレに、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガムの各分解物の群から選ばれた1種または2種以上の水溶性食物繊維を含有させた後、ドラム乾燥機にて乾燥する方法が提案されている。
【0007】
特許文献4では、乾燥状態での粒径が500μm以下であるポテトパウダーを90%以上含み、かつ、乾燥状態での粒径が180μm以下であるポテトパウダーが10%未満である乾燥ポテトパウダーが提案されている。
【特許文献1】特開平6−141814号公報
【特許文献2】特開平10−286074号公報
【特許文献3】特許第3593196号
【特許文献4】特開2008−11733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来から行われてきた澱粉貯蔵植物粉末の製造法では、得られた粉末の流動性が悪く、液状物質に添加した時に分散性が悪い、或いは、食感が滑らかではないという問題がある。
【0009】
前述の、煮た紅芋を乾燥させた後微粉末状に製粉する方法では、得られた粉末の流動性が悪く、液状物質に添加した時分散性が悪いという問題がある。
【0010】
また、前述の、ペースト状の野菜とおからとを混合した後熱風乾燥する方法では、粉末中におからを含むため、野菜本来の風味を阻害するという問題がある。
【0011】
また、前述の、果実・野菜のピューレに、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガムの各分解物の群から選ばれた1種または2種以上の水溶性食物繊維を含有させた後、ドラム乾燥機にて乾燥する方法では、得られた粉末の流動性が悪く、液状物質に添加した時分散性が悪いという問題がある。
【0012】
また、前述の、乾燥状態での粒径が500μm以下であるポテトパウダーを90%以上含み、かつ、乾燥状態での粒径が180μm以下であるポテトパウダーが10%未満である乾燥ポテトパウダーは、粒径が大きいため、製菓等に練り込みを行う際、粒子が目立ち、食感が滑らかではないという問題がある。
【0013】
そこで本発明者は、上記のような従来の澱粉貯蔵植物粉末の問題点を解決する為に、流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末を製造する技術を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、澱粉貯蔵植物を粉末化する方法において、流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末を製造する技術を提供することを目的として鋭意検討を行った結果、澱粉貯蔵植物加工物に、澱粉分解酵素を添加、反応させた後、噴霧乾燥する方法によって課題を解決できることを知るに至り、さらに実用化に最適条件を求めた結果として、本課題を解決するための具体的な手段の各態様として以下の通り提供した。
【0015】
まず、澱粉貯蔵植物加工物に澱粉分解酵素を添加、反応させた後、噴霧乾燥することを本課題を解決するための手段の第1の態様とした。
【0016】
さらに、上記第1の態様において、噴霧乾燥の前に植物組織崩壊酵素を添加、反応させることを本課題を解決するための手段の第2の態様とした。
【0017】
さらに又、上記第1又は2の態様において、酵素反応の前又は後に、均質化を行うことを本課題を解決するための手段の第3の態様とした。
【0018】
さらに又、上記第1乃至3のいずれかの態様において、澱粉貯蔵植物粉末100重量部中に、粒径10〜150μmの粉末が50〜100重量部であることを本課題を解決するための手段の第4の態様とした。
【0019】
さらに又、上記第1乃至4のいずれかの態様において、澱粉貯蔵植物が、馬鈴薯、甘藷、里芋、トウモロコシ、かぼちゃ、栗、バナナ及び豆類で構成される群から選ばれた1種以上で構成されていることを本課題を解決するための手段の第5の態様とした。
【0020】
さらに又、上記第1乃至5のいずれかの態様における手段に基づく方法によって製造された澱粉貯蔵植物粉末を本課題を解決するための第6の態様とした。
【0021】
そして最後に、上記第6の態様の澱粉貯蔵植物を使用した食品又は飲料を本課題を解決するための手段の第7の態様とすることによって本課題を具体的に解決する手段を提供し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0022】
本発明者が、澱粉貯蔵植物を粉末化する方法において、流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末を製造する技術を提供することを目的として鋭意検討を行い、課題を解決するために提供した手段によりもたらされた効果は次の通りである。
【0023】
本発明において、澱粉貯蔵植物加工物に澱粉分解酵素を添加、反応させることにより、澱粉貯蔵植物加工物の粘性が下がる為、噴霧乾燥における噴霧が容易になり、均一な球形の粉末を得ることができ、又、噴霧乾燥設備への付着が減少するという効果が得られる。また、噴霧乾燥法により粉末化することで、球形の粉末を得ることができ、粉末の流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末を得るという効果がもたらされた。又、噴霧乾燥法は、加熱時間が短い為、風味劣化が少ないという効果ももたらされる。
【0024】
或いは、本発明において、噴霧乾燥の前に植物組織崩壊酵素を添加、反応させることにより、更に流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末が得られるという効果がもたらされた。
【0025】
或いは又、本発明において、酵素反応の前又は後に、均質化を行うことにより、流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末が得られるという効果がより顕著にもたらされた。
【0026】
或いは又、本発明において、澱粉貯蔵植物100重量部中に、粒径10〜150μmの粉末が50〜100重量部であることにより、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末が得られるという効果がもたらされた。
【0027】
或いは又、本発明において、澱粉貯蔵植物が馬鈴薯、甘藷、里芋、トウモロコシ、かぼちゃ、栗、バナナ及び豆類で構成される群から選ばれた1種以上で構成されていることにより、風味豊かで、流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末が得られるという効果がもたらされた。
【0028】
或いは又、本発明において、本発明に基づく方法によって製造された、流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末を提供するという効果がもたらされた。
【0029】
そして最後に、本発明により得られた、流動性が良く、液状物質に添加した時の分散性が良く、且つ、食感が滑らかな澱粉貯蔵植物粉末を用いた食品又は飲料を提供するという効果がもたらされた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本説明は本発明を具体的に説明し、発明の内容の的確な理解に資するという趣旨に基づいて行うものであり、本説明の記述内容は本発明の一例に過ぎず、かつ本説明により本発明の範囲を限定する趣旨でもない。
【0031】
まず、本発明で用いられる澱粉貯蔵植物とは、澱粉を多く含有する植物を指し、小麦、米などの穀類、大豆、小豆、インゲン豆、エンドウ豆、ソラ豆などの豆類、馬鈴薯、甘藷、里芋、山芋、蒟蒻芋などの芋類、片栗、茸、蕨などの山菜類、栗、アーモンド、ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、トチ、胡麻などの種実類、バナナなどの果物類、かぼちゃ、トウモロコシなどの果菜類、レンコンなどの茎菜類、ゴボウなどの根菜類、アーティチョークなどの花菜類、その他の野菜などが挙げられる。より好ましくは、馬鈴薯、甘藷、里芋、かぼちゃ、栗、バナナ及び豆類で構成される群から選ばれた1種以上を用いることにより、風味豊かで様々な食品又は飲料に使用可能な澱粉貯蔵植物粉末を得ることができる。
【0032】
澱粉貯蔵植物加工物とは、澱粉貯蔵植物を生または加熱した後、細かく砕く、すりつぶす、又は裏ごしにかけるなどの工程により、塊のない滑らかな状態にしたものを指す。澱粉貯蔵植物加工物の製造方法は公知の方法で行えばよく、一例として、ハンマーミル、カッターミルなどの破砕機、ハンマークラッシャーなどの粉砕機、グラインダーなどの磨砕機などを用いて微粒化した後、篩過を行う方法が挙げられる。
【0033】
澱粉分解酵素は、澱粉などのグリコシド結合を加水分解する酵素で、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼなどが挙げられる。植物組織崩壊酵素は、セルラーゼ、キシラナーゼ、マンナーゼ、ペクチナーゼなどが挙げられる。酵素は、精製された単品を用いてもよいし、その他の酵素を含有する粗酵素を用いてもよい。澱粉分解酵素と植物組織崩壊酵素は、同時に反応させてもよいし、それぞれ単独で反応させてもよい。反応条件は、使用する酵素の適性に応じて選択すればよい。
【0034】
均質化工程は、公知の方法で行えばよく、一例として、エマルダー、ホモゲナイザーなどが挙げられる。
【0035】
噴霧乾燥工程は、特に限定するものではなく、公知の方法で行えばよい。又、澱粉、化工澱粉、デキストリン、環状デキストリンやそれ以外の粉末化基材を単用又は併用してもよいし、使用しなくてもよい。
【0036】
澱粉貯蔵植物粉末の粒径は、特に限定するものではないが、澱粉貯蔵植物粉末100重量部中に、粒径10〜150μmの粉末が50〜100重量部であることが望ましい。粒径10μm以下の粉末が50重量部より多いと、澱粉貯蔵植物粉末の流動性が悪く、液状物質に添加した時にだまになりやすくなる。又、粒径が150μmより大きい粉末が50重量より多いと、粘性の高いスープやチョコレート液に添加した時に均一に分散せず、得られた澱粉貯蔵植物粉末を使用した食品又は飲料の食感が悪くなる。
【0037】
澱粉貯蔵植物粉末を使用した食品又は飲料は、特に限定するものではないが、ビスケット、クッキーなどの焼き菓子類、チョコレート、キャンディー、アイスクリーム、プリン、饅頭などの製菓類、パン、麺類、スープ、ベビーフードなどの食品、ジュースなどの飲料が例示できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
甘藷を洗浄、剥皮後、約1cm角にカットし、90℃で20分蒸し、1mmメッシュで裏ごしした甘藷ペースト500gに水500gを混合し、60℃に加温後、α−アミラーゼ(スミチームL;新日本化学工業株式会社製)0.5gを添加し、60℃で60分間反応させた。90℃まで加熱し、10分間保持することで酵素を失活させた後、高圧ホモゲナイザーを用いて20MPaの圧力で均質化を行った。甘藷均質化液に、デキストリン(マックス1000;松谷化学工業製)150gと水300gを混合溶解した後、熱風温度150℃、実効温度105℃の条件で噴霧乾燥し、甘藷粉末を得た。得られた甘藷粉末は、粒径10〜150μmの粒子が95重量%であった。水100gに甘藷粉末10gを添加したところ、容易に分散し、ペースト様になった。風味は、使用した甘藷ペーストと同等の匂いであり、甘味がやや増していた。
【0040】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で得られた甘藷ペースト500gに水500gを混合し、高圧ホモゲナイザーを用いて20MPaの圧力で均質化を行ったところ、粘度が高く、液送できなくなった為、検討を中止した。
【0041】
[実施例2]
馬鈴薯を洗浄、剥皮後、ハンマーミルで粉砕し、マスコロイダーにて磨砕した馬鈴薯ペースト1000gに水250gを混合し、高圧ホモゲナイザーを用いて30MPaの圧力で均質化を行った。得られた馬鈴薯均質化液を55℃に加温後、α−アミラーゼ(アミラーゼAD「アマノ」1;天野エンザイム株式会社)0.6g、セルラーゼ(セルロシンAC40;エイチビィアイ株式会社)0.1gを添加し、55℃で30分間反応させた。プレートヒーターにて90℃で30秒間保持することで酵素を失活させた後、熱風温度150℃、実効温度105℃の条件で噴霧乾燥し、馬鈴薯粉末を得た。得られた馬鈴薯粉末を水100gに添加したところ、容易に分散し、滑らかな食感であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉貯蔵植物加工物に、澱粉分解酵素を添加、反応させた後、噴霧乾燥することを特徴とする澱粉貯蔵植物粉末の製造方法
【請求項2】
噴霧乾燥の前に植物組織崩壊酵素を添加、反応させることを特徴とする請求項1記載の澱粉貯蔵植物粉末の製造方法
【請求項3】
酵素反応の前又は後に、均質化を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の澱粉貯蔵植物粉末の製造方法
【請求項4】
澱粉貯蔵植物粉末100重量部中に、粒径10〜150μmの粉末が50〜100重量部であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の澱粉貯蔵植物粉末の製造方法
【請求項5】
澱粉貯蔵植物が、馬鈴薯、甘藷、里芋、トウモロコシ、かぼちゃ、栗、バナナ及び豆類で構成される群から選ばれた1種以上で構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の澱粉貯蔵植物粉末の製造方法
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法によって製造された澱粉貯蔵植物粉末
【請求項7】
請求項6記載の澱粉貯蔵植物粉末を使用した食品又は飲料

【公開番号】特開2010−4866(P2010−4866A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191462(P2008−191462)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(596076698)佐藤食品工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】