説明

濾過部材及びその製造方法

フィルタ(15)は筒状体(15a)を備えている。筒状体(15a)は、素線(16)により編目状に形成される複数のパターン層を径方向に積層することにより形成されている。素線(16)のトラバースと、一方の巻端部(L1)及び他方の巻端部(L2)でのトラバース方向の反転とを繰り返すことにより、各巻端部(L1,L2)には、複数の折返点が一様に設定されている。他方の巻端部(L2)上の複数の折返点の内、第1の折返点(B1)と、前記トラバース方向が第1の折返点(B1)で反転した直後に反転する第3の折返点(B3)との間の周方向における最短距離(X)は、第1の折返点(B1)と、該第1の折返点(B1)の最も近傍に位置する第5の折返点(B5)との間の周方向における最短距離(Y)よりも長い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素線の巻回により形成された筒状体よりなる濾過部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両には、衝突等による車両の急激な減速に伴って、バック内にガスを瞬時に放出してそのバックを膨張させるエアバッグ装置が搭載されている。前記エアバッグ装置は、ガスを瞬時に放出する機能をもつインフレータと、該インフレータから放出するガスにより膨張して乗員を保護するためのバックとを備えている。前記インフレータは、熱を発生させる点火器と、該点火器の熱によって爆発的に燃焼してガスを発生させるガス発生剤と、発生したガスを濾過及び冷却するためのインフレータ用フィルタとを備えている。前記インフレータ用フィルタとして、巻線型フィルタが主に採用されている(例えば、特許文献1参照)。この巻線型フィルタは、金属製の丸線や角線等の異形線からなる素線を、編目を有する筒状体に編み上げたものである。
【0003】
前記素線は通常、クロス巻きにより編み上げられる。即ち、素線の送り出し案内具を、外周面に素線が巻き付けられながら一方向に回転する円筒状の治具の軸方向に沿って往復移動させることにより、素線は、前記治具の軸方向に対する一定の巻き付け角度をもって治具にクロス巻きされる。クロス巻きとは一般に、素線間に一様の隙間(ピッチ)を設けて編目を形成しながら素線を巻き付けることをいう。
【0004】
より詳しく説明すると、図11に示すように、素線6は、治具の軸方向における一方の巻端部L11から他方の巻端部L12まで一様に送られながら前記治具に巻き付けられる。図11において、素線6が一方の巻端部L11から他方の巻端部L12に到達するまでに、前記治具はほぼ1周半回転する。このとき、前記治具の周方向において、一方の巻端部L11の素線6を巻き始める位置を開始点A10とすると、他方の巻端部L12に素線6が到達する位置、即ち折返点B11は、治具が開始点A10から180度回転した位置から所定角度(図11では、2度)更に回転した位置に相当する。
【0005】
そして、前記折返点B11に素線6が到達した時点で、当該素線6の送り方向(トラバース方向)が反転される。続いて、素線6は、前記他方の巻端部L12から一方の巻端部L11まで前記と同様にして巻き付けられ、一方の巻端部L11の折返点A12に到達する。この折返点A12は、治具が折返点B11から180度回転した位置から所定角度(図11では、2度)更に回転した位置、即ち、開始点A10から4度回転した位置に相当する。尚、治具の周方向における開始点A10と折返点A12との間の距離をズレ量という。
【0006】
前記トラバース方向の反転により、治具に巻き付けられた素線6同士は互いに交差する。次いで、図11に破線で示すように、素線6は前記と同様にして更に巻き付けられる。以上の動作が繰り返し行われることで、前記治具の外周面の全体にわたって、一様な編目を有する1層目のパターン層が形成される。そして、トラバース方向の反転を伴う前記素線6の巻き付けの繰り返し作業によって、前記パターン層が複数形成され、その結果、複数のパターン層が積層されて筒状体が形成される。
【0007】
ところで、図11において一点鎖線1で囲んだ箇所では、図12(a)に示すように、巻線型フィルタの内方に位置する素線6a上を素線6bが通過している。素線6a及び素線6bの交差箇所の近傍において、素線6b上には素線6cが通過している。このとき、素線6bには、その巻き付けの際に治具の周方向、即ち図12(a)の左右方向に張力が加えられていることから、素線6cは、素線6bに持ち上げられて巻線型フィルタの外方に僅かに浮き上がる。その結果、素線6b及び素線6cの交差箇所の厚さは、図12(b)に示すように、理想的な状態であれば素線6の厚さtの2倍と等しくなるが、図12(a)に示すように、実際には素線6cが素線6bに持ち上げられた高さαに起因して、厚さtの2倍に比べて僅かに大きくなる。
【0008】
素線6が巻線型フィルタの外方に浮き上がる箇所は、図13に一点鎖線1で示すように、巻線型フィルタの軸に対して直交する方向に延びる所定の基準線O,P上にほぼ集中する。前記高さαは、パターン層8の積層に伴って累積される。このため、パターン層8の積層数の増加に伴い、素線6の浮き上がりは大きくなる。一方、基準線O,P以外の箇所、例えば、基準線Oと基準線Pとの中間、又は巻端部L1,L2の近傍では、素線6は浮き上がらない。その結果、巻線型フィルタの外周面には素線6の浮き上がりが顕著に現れ、該外周面に凹凸状のうねりが形成される。
【0009】
インフレータの性能を確保するためには、インフレータのケースとフィルタとの間に所定以上の大きさの隙間を形成する必要がある。しかしながら、前記巻線型フィルタを用いたときには、ケースと巻線型フィルタとの間の隙間が前記うねりによって小さくなり、インフレータの性能が低下するという問題があった。前記うねりの発生は、素線6のトラバース量を小さくする、前記ズレ量を大きくする、又は素線6の巻数を減らす等の調整によって抑制されるものの、該調整によって巻線型フィルタの性能が低下する。このため、巻線型フィルタの性能を確保しつつ前記うねりの発生を抑制することは困難であった。
【特許文献1】特開2002−306914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、外周面に凹凸状のうねりが発生することを抑制することができる濾過部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様では、素線の巻回により形成された筒状体よりなり、径方向の内方から外方へガスを通過させることにより、そのガスを濾過及び冷却する濾過部材が提供される。前記筒状体は、複数のパターン層を径方向に積層することにより形成される。前記パターン層は、前記筒状体の軸方向における一方の巻端部と他方の巻端部とにおいて、前記素線のトラバース方向を反転させながら前記素線を一方の巻端部と他方の巻端部との間でトラバースさせることによって、編目状に形成される。前記他方の巻端部には、前記素線のトラバース方向を反転するために複数の反転位置が設定され、該複数の反転位置の内、第1の反転位置と、前記トラバース方向が第1の反転位置で反転した直後に反転する第2の反転位置との間の周方向における最短距離は、前記第1の反転位置と、該第1の反転位置の最も近傍に位置する第3の反転位置との間の周方向における最短距離よりも長い。
【0012】
本発明の別の態様では、素線の巻回により形成された筒状体よりなる濾過部材を製造する方法が提供される。該方法は、軸部材の外周面に素線を巻き付けることにより、前記軸部材の外周面に編目状をなすパターン層を形成し、且つ該パターン層を前記軸部材の径方向に複数積層する工程を備える。前記工程では、前記軸部材の軸方向における一方の巻端部と他方の巻端部との間において、前記素線のトラバース方向を反転させながら前記素線を一方の巻端部と他方の巻端部との間でトラバースさせることによって、パターン層を形成するとともに、他方の巻端部において素線のトラバース方向を反転するための複数の反転位置を設定する。更に、前記工程は、前記複数の反転位置の内、第1の反転位置と、前記トラバース方向が第1の反転位置で反転した直後に反転する第2の反転位置との間の周方向における最短距離が、前記第1の反転位置と、該第1の反転位置の最も近傍に位置する第3の反転位置との間の周方向における最短距離よりも長くなるように素線を巻き付ける。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るインフレータを示す断面図。
【図2】(a)はフィルタを示す斜視図、(b)はフィルタの部分拡大図。
【図3】素線の巻き付け方法を説明するための図。
【図4】素線の巻き付け方法を説明するための図。
【図5】素線の巻き付け方法を説明するための図。
【図6】素線の巻き付け方法を説明するための図。
【図7】素線の巻き付け方法を説明するための図。
【図8】(a)〜(c)は、パターン層の一部を示す断面図。
【図9】素線の交差状態を示す図。
【図10】別例に係る素線の巻き付け方法を説明するための図。
【図11】従来に係る素線の巻き付け方法を説明するための図。
【図12】(a)及び(b)は、素線の浮き上がりを説明するための断面図。
【図13】パターン層を示す概略図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をエアバッグ装置のインフレータに装着される濾過部材及びその製造方法に具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係るエアバッグ装置(図示略)のインフレータ10の中央部分には、センサ(図示略)からの作動信号に基づいて点火を行う点火器11と、可燃性の助燃剤12とが装備されている。助燃剤12は、点火器11により点火されて熱の発生を補助する。前記点火器11及び前記助燃剤12の外周部には、前記点火器11及び前記助燃剤12により発生する熱が流れ込むチャンバー13が設けられている。前記チャンバー13内には、ガス発生剤14が収容されている。ガス発生剤14は、前記点火器11及び前記助燃剤12の作動によって発生した熱により爆発的に燃焼してガスを大量に発生する。発生したガスは、インフレータ10と共にエアバッグ装置に装備されたバック(図示略)内へと供給される。
【0016】
前記インフレータ10内には、前記チャンバー13を取り囲むように濾過部材としてのフィルタ15が配置されている。当該フィルタ15は、前記ガス発生剤14から発生した高温のガスを冷却する冷却機能と、前記ガス中に含まれる残渣を濾過する濾過機能とを有している。図1には、発生したガスが流れる方向を示す矢印が示されている。
【0017】
フィルタ15は、図2(a),(b)に示すように、金属製の角線や丸線等の素線16を、軸部材としての円筒状のボビン19(図3〜図7参照)に巻き付けた後、そのボビン19を取り除くことにより製造され、編目を有する円筒状の筒状体15aとして形成されている。筒状体15aの編目の隙間を、前記ガス発生剤14から発生した高温のガスが通過する。このとき、前記ガスが冷却されるとともに、該ガスに含まれる残渣が濾過される。本実施形態に係る巻線型の筒状体15は、鉄を主成分とした線材を素線16とし、当該素線16を前記ボビン19の外周面に500回巻き付けることにより、外径60mm、内径50mmの円筒状に形成されている。
【0018】
ここで、図2(a),(b)に示すように、巻き付け時の素線16の間隔をピッチC、交差した素線16同士の交わる角度を交差角度γ、筒状体15aの軸方向における素線16の巻き付け幅を巻幅Lとする。
【0019】
次に、フィルタ15の製造方法を図3〜図7に従って詳しく説明する。
フィルタ15の筒状体15aを製造する際には、まず、一本の素線16を送り出し案内具(図示略)から送り出した後、該素線16の始端をボビン19の軸方向における一方の巻端部L1上に固定する。次いで、素線16を送り出し案内具から送り出しながら、その送り出し案内具を、一方向に回転するボビン19の軸方向に沿って、一方の巻端部L1から他方の巻端部L2まで一様な速度で移動させる。これにより、図3に示すように、素線16は、ボビン19の周方向に対して所定の巻き付け角度θで傾斜するように、ボビン19の外周に巻き付けられる。尚、前記送り出し案内具がボビン19の軸方向へ移動することに伴う「素線16の軸方向への移動」のことを、以下では、「素線16の送り」又は「素線16のトラバース」と記載する。また、一方の巻端部L1において素線16を巻き始めた位置を、開始点A0とする。
【0020】
前記ボビン19の周方向において、他方の巻端部L2に素線16が到達する位置、即ち第1の折返点B1は、ボビン19が開始点A0から90度回転した位置より所定角度(本実施形態では、1度)更に回転した位置に相当する。尚、本実施形態において、素線16が、一方の巻端部L1から他方の巻端部L2、及び他方の巻端部L2から一方の巻端部L1に到達するまでに、毎回、前記ボビン19がほぼ1回転及び1/4回転する。そして、図4に示すように、第1の折返点B1に素線16が到達した時点で、送り出し案内具による素線16の送り方向(トラバース方向)を反転させる。従って、第1の折返点B1は、素線16のトラバース方向が反転する反転位置である。
【0021】
続いて、素線16を、前記他方の巻端部L2から一方の巻端部L1まで前記と同様にして巻き付ける。このとき、一方の巻端部L1に素線16が到達する位置、即ち第2の折返点A2は、ボビン19が第1の折返点B1から90度回転した位置より所定角度(本実施形態では、1度)更に回転した位置に相当する。即ち、第2の折返点A2は、ボビン19が開始点A0から182度回転した位置に相当し、第1の折返点B1は第1の反転位置である。尚、図4では、開始点A0から第1の折返点B1までの素線16、即ち第1の素線16aを破線で示し、第1の折返点B1から第2の折返点A2までの素線16、即ち第2の素線16bを実線で示す。
【0022】
このようにして素線16を前記ボビン19に巻き付けると、図7に示すように、前記ボビン19の周方向に沿って延びる、即ちボビン19の軸に対して直交する方向に延びる基準線F及び基準線H上で、第1の素線16aと第2の素線16bとが交差する。尚、図7に示すように、一方の巻端部L1と他方の巻端部L2との間の距離は、前記ボビン19の軸に対して直交する方向に延びる4本の基準線F,G,H,Jによりほぼ5等分される。基準線F,G,H,Jは、一方の巻端部L1から他方の巻端部L2に向かって順に配置されている。
【0023】
そして、図5に示すように、第2の折返点A2に素線16が到達した時点で、当該素線16のトラバース方向を反転させる。続いて、素線16を、前記一方の巻端部L1から他方の巻端部L2まで前記と同様にして巻き付ける。このとき、他方の巻端部L2に素線16が到達する位置、即ち第3の折返点B3は、ボビン19が前記第2の折返点A2から90度回転した位置より所定角度(本実施形態では、1度)更に回転した位置に相当する。即ち、第3の折返点B3は、ボビン19が開始点A0から273度回転した位置に相当する。尚、図5では、第1の素線16a及び第2の素線16bを破線で示し、第2の折返点A2から第3の折返点B3までの素線16、即ち第3の素線16cを実線で示す。このようにして素線16を前記ボビン19に巻き付けると、図7に示すように、基準線G及び基準線J上で、第2の素線16bと第3の素線16cとが交差する。
【0024】
そして、図6に示すように、第3の折返点B3に素線16が到達した時点で、当該素線16のトラバース方向を反転させる。続いて、素線16を、前記他方の巻端部L2から一方の巻端部L1まで前記と同様にして巻き付ける。このとき、一方の巻端部L1に素線16が到達する位置、即ち第4の折返点A4は、ボビン19が第3の折返点B3から90度回転した位置より所定角度(本実施形態では、1度)更に回転した位置に相当する。即ち、第4の折返点A4は、ボビン19が開始点A0から364度(即ち、4度)回転した位置に相当し、第3の折返点B3は第2の反転位置である。尚、図6では、第1の素線16a、第2の素線16b及び第3の素線16cを破線で示し、第3の折返点B3から第4の折返点A4までの素線16、即ち第4の素線16dを実線で示す。このようにして素線16を前記ボビン19に巻き付けると、図7に示すように、基準線G及び基準線J上で、第4の素線16dと第1の素線16aとが交差し、基準線F及び基準線H上で、第4の素線16dと第3の素線16cとが交差する。
【0025】
そして、図7に示すように、第4の折返点A4に素線16が到達した時点で、当該素線16のトラバース方向を反転させる。続いて、素線16を、一方の巻端部L1から他方の巻端部L2まで前記と同様にして巻き付ける。このとき、他方の巻端部L2に素線16が到達する位置、即ち第5の折返点B5は、ボビン19が第4の折返点A4から90度回転した位置より所定角度(本実施形態では、1度)更に回転した位置に相当する。即ち、第5の折返点B5は、ボビン19が第1の折返点B1から4度回転した位置に相当し、第5の折返点B5は第3の反転位置である。尚、図7では、第1の素線16a、第2の素線16b、第3の素線16c及び第4の素線16dを破線で示し、第4の折返点A4から第5の折返点B5までの素線16、即ち第5の素線16eを実線で示す。
【0026】
このとき、基準線Fにおいて、第1の素線16a上を第2の素線16bが通過する箇所の近傍を、前記第1の素線16aと並行して延びる第5の素線16eが第2の素線16b上を通過する。従って、図8(a)に示すように、第2の素線16bには、ボビン19の周方向、即ち図8(a)の左右方向に張力が加えられていることから、当該第2の素線16b上の第5の素線16eは、第2の素線16bに持ち上げられて、ボビン19の径方向の外方に高さβだけ浮き上がる。その結果、第2の素線16b及び第5の素線16eの交差箇所の厚さは、素線16の厚さtの2倍よりも大きくなる。
【0027】
基準線Gにおいても同様に、第1の素線16a上を第4の素線16dが通過する箇所の近傍を、前記第1の素線16aと並行して延びる第5の素線16eが第4の素線16d上を通過する。このとき、第4の素線16dにはボビン19の周方向に張力が加えられていることから、当該第4の素線16d上の第5の素線16eは、第4の素線16dに持ち上げられて、ボビン19の径方向の外方に高さβだけ浮き上がる。その結果、第4の素線16d及び第5の素線16eの交差箇所の厚さは、素線16の厚さtの2倍よりも大きくなる。
【0028】
基準線Hにおいても同様に、第5の素線16eは、第2の素線16bとの交差箇所において第2の素線16bに持ち上げられて、ボビン19の径方向の外方に高さβだけ浮き上がる。その結果、第2の素線16b及び第5の素線16eの交差箇所の厚さは、素線16の厚さtの2倍よりも大きくなる。更に、基準線Jにおいても同様に、第5の素線16eは、第4の素線16dとの交差箇所において第4の素線16dに持ち上げられて、ボビン19の径方向の外方に高さβだけ浮き上がる。その結果、第4の素線16d及び第5の素線16eの交差箇所の厚さは、素線16の厚さtの2倍よりも大きくなる。
【0029】
以後、このような素線16のトラバースと、巻端部L1,L2でのトラバース方向の反転とを繰り返すことにより、各巻端部L1,L2に複数の折返点が一様に設定され、ボビン19の外周面の全体にわたって一様な編目を有する1層目のパターン層が形成される。ここで、前記複数の折返点は、ボビン19の周方向において所定角度(本実施形態では、4度)ずつ離れている。そして、1層目のパターン層が形成された後、素線16のトラバースと、巻端部L1,L2でのトラバース方向の反転とを更に繰り返すことにより、前記1層目のパターン層の上に2層目以降のパターン層が順次積層され、筒状体15aが形成される。即ち、ボビン19の径方向にパターン層が順次積層され、筒状体15aが形成される。そして、素線16の巻き終わり時に、当該素線16の終端(図示略)を、例えば溶接によりパターン層上に固定する。次に、筒状体15aからボビン19を引き抜くことにより、中空円筒状の筒状体15aが得られる。尚、素線16をボビン19に巻き始める際、一方の巻端部L1に固定された素線16の始端は、素線16の巻き終わり時に送り出し案内具から送り出されている素線16から切断され、例えば溶接によりパターン層上に固定される。その後、交差する素線16同士の接触部分を接合するために焼結等の熱処理を行い、フィルタ15を製造する。
【0030】
このように製造されたフィルタ15の各パターン層の厚さは、基準線F,G,H,J上において、素線16の厚さtの倍数よりも大きい。一方、基準線F,G,H,J以外の箇所におけるパターン層の厚さは、素線16の厚さtの倍数と等しい。つまり、パターン層は、基準線F,G,H,J上に位置する箇所が他の箇所に比べて厚くなっている。前記倍数は、パターン層の積層数に相当する。
【0031】
パターン層において、基準線F,G,H,J上に位置する箇所が他の箇所に比べて厚くなる理由について、以下に詳述する。
例えば、第5の素線16eと並行して延びる素線16のうち、第5の素線16eが巻き付けられた後に巻き付けられる素線16、即ち第6の素線16jは、図8(b)に示すように、第2の素線16bと交差しても、該第2の素線16bに持ち上げられて浮き上がることはない。つまり、第2の素線16bは、第5の素線16eによりボビン19に向かって押し付けられることから、第6の素線16jは第2の素線16bにより持ち上げられない。その結果、第2の素線16b及び第6の素線16jの交差箇所の厚さは、素線16の厚さtの2倍と等しくなる。一方、図8(c)に示すように、第2の素線16bと並行して延びる素線16のうち、第2の素線16bが巻き付けられた後に巻き付けられる素線16、即ち第7の素線16kは、第6の素線16jと交差する際、第5の素線16e上を通過してから、第6の素線16jの下を通過する。このため、第6の素線16jは、第7の素線16kにより外方に向かってボビン19から持ち上げられる。
【0032】
そして、図9に示すように、第6の素線16jは、第5の素線16eをボビン19の軸方向に沿って並行に移動させた軌道上に位置し、第7の素線16kは、第2の素線16bをボビン19の軸方向に沿って並行に移動させた軌道上に位置する。従って、第6の素線16jと第7の素線16kとの交差位置は基準線F上に位置し、第6の素線16jと第2の素線16bとの交差位置は、基準線Fよりも一方の巻端部L1側に位置する。その結果、素線16が余分に浮き上がる箇所は、基準線F上に集中する。そして、同様のことが他の基準線G,H,J上で素線16同士が交差する際にも起こることから、パターン層の厚さは、基準線F,G,H,Jにおいて、素線16の厚さtの倍数よりも大きくなる。
【0033】
素線16が浮き上がる箇所が集中する基準線の数は、巻端部L1,L2にて素線16のトラバース方向が反転する折返点と、当該巻端部L1,L2にて再び素線16のトラバース方向が反転する折返点との間の筒状体15aの周方向における距離に左右される。つまり、図7においては、ボビン19の周方向において、例えば第1の折返点B1と第3の折返点B3との間の距離により、基準線の数が左右される。そこで、他方の巻端部L2において、第1の折返点B1と、第3の折返点B3との間の周方向における最短距離Xを、第1の折返点B1と、該第1の折返点B1の最も近傍に位置する第5の折返点B5との間の周方向における最短距離Yよりも長く設定する。
【0034】
その結果、実施形態のフィルタ15は、基準線の数が2本である前記従来のフィルタに比べて、基準線の数が4本に増加する。基準線F,G,H,Jは、巻幅Lに沿って等間隔で配置されている。このため、パターン層は巻幅Lの全体にわたってほぼ均等の厚さで積層され、フィルタ15の厚さはその軸方向においてほぼ等しくなる。
【0035】
以上詳述したように、本実施形態は、以下の特徴を有する。
本実施形態に係るフィルタ15は、前記最短距離Xを前記最短距離Yよりも長く設定することにより、従来のフィルタに比べて基準線の数を増加させることができる。素線16が持ち上げられる箇所は、基準線上に均等に分散される。従って、本実施形態のフィルタ15は、従来のフィルタに比べて、パターン層を巻幅Lの全体にわたってほぼ均等の厚さで積層することができ、素線16の浮き上がりが外周面に現れることを抑制して該外周面に凹凸状のうねりが発生することを抑制することができる。更に、本実施形態のフィルタ15は、基準線の数を増加させることで、巻幅L、素線16の巻数、ピッチC、交差角度γ等を殆ど変更させずに、即ち、フィルタ15の濾過性能を殆ど変更せずに、基準線の数を増加させることができ、うねりの発生を抑制することができる。
【0036】
尚、上記実施形態は、次のような別の実施形態にて具体化できる。
前記素線16がボビン19の軸方向に対して所定の巻き付け角度となるように、ボビン19をその軸方向へ往復移動させながら素線6を巻き付けてもよい。
前記フィルタ15の材料や大きさを、装備されるインフレータ10の形状や大きさに応じて適宜変更してもよい。また、素線16の材質を、例えば軟鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金、又は銅合金に任意に変更してもよい。
【0037】
前記一方の巻端部L1から他方の巻端部L2、及び他方の巻端部L2から一方の巻端部L1に素線16が到達するまでに、該素線16が巻き付けられる長さを、例えば1周及び3/4周のように、任意に変更してもよい。
【0038】
前記ボビン19の回転角度に関して、素線16のトラバース方向を反転させる間隔を任意に変更してもよい。例えば、図10に示すように、素線16のトラバース方向を反転させる間隔を上記実施形態に比べて短くしてもよい。素線16のトラバース方向を反転させる間隔は、例えば、素線16の巻数、ピッチC、又はトラバース量を考慮して決定される。
【0039】
前記素線16の始端及び終端を、例えば、カシメ固定、接着、又は溶接によりパターン層上に固定してもよい。また、素線16を巻き付ける際に、素線16の始端の上に素線16を巻き付けることにより、素線16の始端をパターン層上に固定してもよい。加えて、パターン層を形成する各素線16で、該素線16の終端を挟むことにより、素線16の終端をパターン層上に固定してもよい。
【0040】
前記他方の巻端部L2において、素線16のトラバース方向を、第3の折返点B3で反転させた後、更に1回以上反転させた後に、第5の折返点B5で反転させてもよい。このとき、第3の折返点B3以降に設定された各折返点と、第1の折返点B1との間の周方向における最短距離を、前記最短距離Yよりも長く設定する。この場合にも、従来に係るフィルタに比べて基準線の数を増加させることができ、素線16の浮き上がりが外周面に現れることを抑制して該外周面に凹凸状のうねりが発生することを抑制することができる。
【0041】
前記最短距離Xを前記最短距離Yよりも長く設定する代わりに、一方の巻端部L1において、第2の折返点A2と、第4の折返点A4との間の周方向における最短距離を、第2の折返点A2と、該第2の折返点A2の最も近傍に位置する折返点との間の周方向における最短距離よりも長く設定してもよい。この場合にも、従来に係るフィルタに比べて基準線の数を増加させることができ、素線16の浮き上がりが外周面に現れることを抑制して該外周面に凹凸状のうねりが発生することを抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線の巻回により形成された筒状体よりなり、径方向の内方から外方へガスを通過させることにより、そのガスを濾過及び冷却する濾過部材であって、前記筒状体は、複数のパターン層を径方向に積層することにより形成され、前記パターン層は、前記筒状体の軸方向における一方の巻端部と他方の巻端部とにおいて、前記素線のトラバース方向を反転させながら前記素線を一方の巻端部と他方の巻端部との間でトラバースさせることによって編目状に形成され、前記他方の巻端部には、前記素線のトラバース方向を反転するために複数の反転位置が設定され、該複数の反転位置の内、第1の反転位置と、前記トラバース方向が第1の反転位置で反転した直後に反転する第2の反転位置との間の周方向における最短距離は、前記第1の反転位置と、該第1の反転位置の最も近傍に位置する第3の反転位置との間の周方向における最短距離よりも長いことを特徴とする濾過部材。
【請求項2】
前記トラバース方向は、前記第1の反転位置にて反転された後に前記第2の反転位置にて反転され、更に前記第3の反転位置にて反転される請求項1に記載の濾過部材。
【請求項3】
前記トラバース方向は、前記第1の反転位置にて反転された後に、前記他方の巻端部において1回以上反転され、更に前記第3の反転位置にて反転され、第1の反転位置と、他方の巻端部において、トラバース方向が第1の反転位置で反転された後に第3の反転位置で反転されるまでの間に設定される反転位置との間の周方向における最短距離は、第1の反転位置と第3の反転位置との間の周方向における最短距離よりも長い請求項1又は請求項2に記載の濾過部材。
【請求項4】
素線の巻回により形成された筒状体よりなる濾過部材を製造する方法であって、該方法は、軸部材の外周面に素線を巻き付けることにより、前記軸部材の外周面に編目状をなすパターン層を形成し、且つ該パターン層を前記軸部材の径方向に複数積層する工程を備え、前記工程では、前記軸部材の軸方向における一方の巻端部と他方の巻端部との間で前記素線のトラバース方向を反転させながら、前記素線を一方の巻端部と他方の巻端部との間でトラバースさせることによりパターン層を形成するとともに、他方の巻端部において素線のトラバース方向を反転するために複数の反転位置を設定し、前記複数の反転位置の内、第1の反転位置と、前記トラバース方向が第1の反転位置で反転した直後に反転する第2の反転位置との間の周方向における最短距離が、前記第1の反転位置と、該第1の反転位置の最も近傍に位置する第3の反転位置との間の周方向における最短距離よりも長くなるように素線を巻き付けることを特徴とする濾過部材の製造方法。
【請求項5】
前記トラバース方向を、前記第1の反転位置にて反転させた後に前記第2の反転位置にて反転させ、更に前記第3の反転位置にて反転させる請求項4に記載の濾過部材の製造方法。
【請求項6】
前記トラバース方向を、前記第1の反転位置にて反転させた後に、前記他方の巻端部において1回以上反転させ、更に前記第3の反転位置にて反転させ、前記第1の反転位置と、前記他方の巻端部において、前記トラバース方向が第1の反転位置で反転された後に第3の反転位置で反転されるまでの間に設定される反転位置との間の周方向における最短距離が、第1の反転位置と第3の反転位置との間の周方向における最短距離よりも長くなるように素線を巻き付ける請求項4又は請求項5に記載の濾過部材の製造方法。
【請求項7】
素線の巻回により形成された筒状体よりなる濾過部材を製造する方法であって、該方法は、軸部材の外周面に素線を巻き付けることにより、前記軸部材の外周面に編目状をなすパターン層を形成し、且つ該パターン層を前記軸部材の径方向に複数積層する工程を備え、前記工程では、前記軸部材の一方の巻端部に素線の始端を固定し、軸部材を一方向に回転させて、素線を軸部材の一方の巻端部から他方の巻端部に向かってトラバースさせながら素線を軸部材の外周面に巻回し、素線が軸部材の他方の巻端部に到達した時に、素線のトラバース方向を反転させ、引き続き素線を軸部材の外周面に巻回することにより、編目状をなすパターン層を形成するとともに、他方の巻端部において素線のトラバース方向を反転するために複数の反転位置を設定し、前記複数の反転位置の内、第1の反転位置と、前記トラバース方向が第1の反転位置で反転した直後に反転する第2の反転位置との間の周方向における最短距離が、前記第1の反転位置と、該第1の反転位置の最も近傍に位置する第3の反転位置との間の周方向における最短距離よりも長くなるように素線を巻き付けることを特徴とする濾過部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【国際公開番号】WO2005/075050
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517813(P2005−517813)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001969
【国際出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000210986)中央発條株式会社 (173)
【Fターム(参考)】