説明

瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するためのペレットの形態の架橋用組成物

【課題】瀝青/エラストマーの組成物を架橋組成物とするうえで生じる硫化水素の発生量を抑えながら、瀝青/エラストマーの架橋組成物の満足のいく機械的特性、レオロジー特性および弾性特性を維持することができる、ペレットの形態の架橋用組成物、当該架橋用組成物の使用、当該架橋用組成物の製造方法、当該架橋用組成物を使用した架橋組成物ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のペレットの形態の架橋用組成物は、少なくとも1種のポリマーのマトリックス、少なくとも1種の架橋剤、および少なくとも1種の硫化水素抑制剤を含み、硫化水素抑制剤は、少なくとも1種のカルボン酸亜鉛と、少なくとも1種のトリアジン誘導体とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瀝青(ビチューメン)の分野に属し、特に、瀝青/エラストマーの組成物の分野に属する。詳細には、本発明は、瀝青/エラストマーの組成物を製造するのに用いられる、ペレット(造粒体)の形態の架橋用組成物に関する。本発明にかかる架橋用組成物(cross-linking for bitumen/elastomer compositions)により、瀝青/エラストマーの架橋組成物(cross-linked bitumen/elastomer compositions)を、硫化水素の発生量を抑えながら製造することができるようになる。
【0002】
さらに、本発明は、ペレット状の架橋用組成物を使用して瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造する方法であって、硫化水素の発生量を抑えることのできる製造方法に関する。
【0003】
最後に、本発明は、瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するための、ペレットの形態の架橋用組成物の使用であって、硫化水素の発生量を抑える使用に関する。
【背景技術】
【0004】
道路用途および産業用途の材料を製造するにあたって瀝青を使用することは、古くから知られている。瀝青は、道路工事や土木工学の分野で用いられる主要な炭化水素系バインダである。
【0005】
瀝青をこれら様々な用途でバインダとして利用するには、特定の化学的特性、物理的特性および機械特性が当該瀝青になければならない。純粋な瀝青が持つ特性を、ポリマー、特に、エラストマーを添加することによって改質できることは周知である。例えば、スチレンとブタジエンとのコポリマーの添加による改質が挙げられる。さらに、瀝青/ポリマーの組成物、特に、瀝青/エラストマーの組成物について、それらに含まれるポリマー、特に、エラストマー(例えば、スチレンとブタジエンとのコポリマー)を硫黄系架橋剤を用いて架橋結合させることにより、当該組成物の機械的応力や熱応力に対する抵抗、ならびにレオロジー性能、弾性性能および機械的性能を顕著に向上させることができるという点も周知である。
【0006】
瀝青/ポリマーの組成物、特に、瀝青/エラストマーの組成物を、硫黄を用いて架橋結合させるにあたっての硫黄の添加は、硫化水素(sulphureted hydrogenやHSとも称される)の発生を引き起こす場合がある。
【0007】
硫化水素は毒性が極めて強い無色のガスであり、低濃度でも独特の臭いを発する。そのため、瀝青/ポリマーの組成物、特に、瀝青/エラストマーの組成物を、硫黄系架橋剤を用いて架橋結合させる作業に従事する者にとって、硫化水素の発生は厄介である。したがって、瀝青/ポリマーの組成物、特に、瀝青/エラストマーの組成物を架橋組成物とするうえで生じる硫化水素の発生量を、軽減、さらには、排除できれば、作業に従事する者の快適性および安全性にとって望ましい。
【0008】
瀝青/ポリマーの組成物、特に、瀝青/エラストマーの組成物を、硫黄を用いて架橋結合させる方法の多くは、複数の種類の硫黄系架橋剤を組成物に添加する過程を含む。これら複数の種類の硫黄系架橋剤は、瀝青/ポリマーの組成物、特に、瀝青/エラストマーの組成物に対し、互いに独立して添加するため、それぞれ別々に保存および秤量される必要がある。さらに、一般的な各種硫黄系架橋剤は粉末形態の化合物なので、湿気に敏感であり、保存時に固化する可能性があるため、取扱いが難しい。さらに、これらの粉末は高揮発性なので、火事や爆発の原因にもなり得る。
【0009】
よって、瀝青/ポリマーの組成物、特に、瀝青/エラストマーの組成物を、硫黄系架橋剤を用いて架橋結合させるにあたって、従来用いられてきた粉末形態の硫黄系架橋剤の短所を有さない架橋系を使用し、硫化水素の発生量をできる限り抑えることができれば望ましい。
【0010】
特許文献1に記載の架橋用組成物は、ペレット(造粒体)または粉末の形態であってもよく、5〜50%の硫黄元素、0.5〜10%の硫黄誘導体、5〜50%の亜鉛誘導体、5〜50%の脂肪酸誘導体、および10〜85%のポリマーのマトリックスを含む。この架橋用組成物は、亜鉛を少なくとも2質量%含み、亜鉛と硫黄との質量比は0.5:1〜2:1である。このように硫黄に対して大量の亜鉛を配合することにより、特許文献1に記載の架橋用組成物は、瀝青/エラストマーの組成物を架橋組成物とするうえで生じる硫化水素の発生量を抑えることができる。しかしながら、特許文献1に記載の架橋用組成物には幾つかの短所があるため、満足のいくものではない。すなわち、特許文献1に記載の架橋用組成物は、瀝青とエラストマーとの架橋結合や硫化水素の発生量の抑制に関わらない「不活性」成分であるポリマーのマトリックスを、大量かつ過剰に含んでいる。このようにポリマーのマトリックスは瀝青の架橋結合にかかわらないし、硫化水素の発生量の抑制にも関わらない。具体的に述べると、架橋用組成物および瀝青/エラストマーの組成物における硫黄の含有量が極めて少なくなるため、エラストマーを最適に架橋結合させることができなくなる。このような場合、目的の機械的特性、レオロジー特性および弾性特性を得るには、瀝青/エラストマーの組成物に添加する架橋用組成物の量を大幅に増やすしかない。さらに、特許文献1に記載の架橋用組成物における硫黄に対する亜鉛の含有量も不必要に多すぎる。最後に、特許文献1に記載の架橋用組成物には、脂肪酸誘導体が必須の成分として含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7402619号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願の出願人である企業は、瀝青/エラストマーの組成物を架橋組成物とするうえで生じる硫化水素の発生量を抑えながら、瀝青/エラストマーの架橋組成物の満足のいく機械的特性、レオロジー特性および弾性特性を維持することができる、ペレット(造粒体)の形態の架橋用組成物の鋭意開発に取り組んだ。
【0013】
その結果、驚くべきことに、カルボン酸亜鉛とトリアジン誘導体との組合せにより、少ない亜鉛量(特に、硫黄の含有量に対して少ない亜鉛の含有量)であっても極めて効果的に架橋結合反応を引き起こすことができ、さらには、硫化水素の発生量を抑えることのできる、安定で取り扱い易く簡便に使用可能なペレットの形態の架橋用組成物が得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これを実現するにあたって、本発明は、少なくとも1種のポリマーのマトリックス、少なくとも1種の架橋剤、および少なくとも1種の硫化水素抑制剤を含み、この硫化水素抑制剤が、少なくとも1種のカルボン酸亜鉛と少なくとも1種のトリアジン誘導体を含むペレット状架橋用組成物を提案する。
【0015】
すなわち、本発明の目的の一つは、瀝青/エラストマーの組成物を架橋組成物とするうえで生じる硫化水素の発生量を抑えることができ、さらに、その架橋組成物に満足のいく機械的特性、レオロジー特性および弾性特性を付与することのできる、安定で取り扱い易く、簡便に使用可能であり、瀝青に対して可溶性を有し、かつ、素早く反応する、従来のものにとって代わるペレットの形態の架橋用組成物を提案することである。
【0016】
本発明の他の目的は、ペレットの形態の架橋用組成物を使用して、硫化水素の発生量、特に、瀝青/エラストマーの組成物を架橋結合反応させるうえで生じる硫化水素の発生量を抑えながら、満足のいく機械的特性、レオロジー特性および弾性特性を有する瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するための単純、迅速かつ確実な方法を提案することである。
【0017】
本発明の他の目的は、瀝青/エラストマーの組成物を架橋組成物とするうえで生じる硫化水素の発生量を抑えながら、満足のいく機械的特性、レオロジー特性および弾性特性を有する瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するための、ペレットの形態の架橋用組成物の使用である。
【0018】
本発明は、ペレットの形態の架橋用組成物に関する。本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物は、少なくとも1種のポリマーのマトリックス、少なくとも1種の架橋剤、および少なくとも1種の硫化水素抑制剤を含み、硫化水素抑制剤が、少なくとも1種のカルボン酸亜鉛と、少なくとも1種のトリアジン誘導体とを含む。
【0019】
好ましくは、カルボン酸亜鉛は、酢酸亜鉛、エタン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、酪酸亜鉛、ペンタン酸亜鉛、ヘキサン酸亜鉛、ヘプタン酸亜鉛、オクタン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、ノナン酸亜鉛、ドデカン酸亜鉛、ウンデカン酸亜鉛、安息香酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、およびオレイン酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0020】
好ましくは、トリアジン誘導体は、アルキル基の炭素数が1〜12、好ましくは2〜8の、トリアルキルヘキサヒドロトリアジン、およびトリヒドロキシアルキルヘキサヒドロトリアジンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0021】
好ましくは、ポリマーのマトリックスは、ポリエチレン、エチレン/プロピレンのコポリマー、エチレン/アクリルエステルのコポリマー、エチレン/モノステアリン酸グリコールのコポリマー、およびエチレン/酢酸ビニルのコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0022】
好ましくは、架橋剤は、硫黄を有しており、さらに、任意で、メルカプトベンゾチアゾール誘導体、およびジチオカルバメートからなる群から選択される少なくとも1種の加硫促進剤(硬化促進剤)が組み合わされる。
【0023】
好ましくは、カルボン酸亜鉛は、前記ペレットの形態の架橋用組成物中に、当該ペレットの形態の架橋用組成物の総質量に対して5%から50%、より好ましくは10%から40%、さらに好ましくは20%から30%含まれる。
【0024】
好ましくは、トリアジン誘導体は、前記ペレットの形態の架橋用組成物中に、当該ペレットの形態の架橋用組成物の総質量に対して5%から40%、より好ましくは10%から30%、さらに好ましくは15%から20%含まれる。
【0025】
好ましくは、カルボン酸亜鉛とトリアジン誘導体との質量比は0.5〜8、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは2〜3である。
【0026】
好ましくは、亜鉛は、前記ペレットの形態の架橋用組成物中に、当該ペレットの形態の架橋用組成物の総質量に対して1%から15%、より好ましくは2%から10%、さらに好ましくは3%から5%含まれる。
【0027】
好ましくは、硫黄は、前記ペレットの形態の架橋用組成物中に、当該ペレットの形態の架橋用組成物の総質量に対して5%から50%、より好ましくは10%から40%、さらに好ましくは20%から30%含まれる。
【0028】
好ましくは、亜鉛と硫黄との質量比は0.01〜0.3、より好ましくは0.02〜0.2、さらに好ましくは0.04〜0.1、なおいっそう好ましくは0.05〜0.08である。
【0029】
さらに、本発明は、前記ペレットの形態の架橋用組成物を製造する方法に関する。この製造方法は、前記ペレットの形態の架橋用組成物を、110℃未満の温度で押出成形によって製造することを含む。
【0030】
さらに、本発明は、前記ペレットの形態の架橋用組成物の使用であって、瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するための使用に関する。
【0031】
さらに、本発明は、前記ペレットの形態の架橋用組成物の使用であって、瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するうえで生じる硫化水素の発生量を抑えるための使用に関する。
【0032】
最後に、本発明は、少なくとも1種の瀝青、少なくとも1種のエラストマー、および少なくとも1種の前記ペレットの形態の架橋用組成物を使用する、瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法に関する。
【0033】
好ましくは、本発明にかかる瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法は、以下の段階を踏む:
(i)少なくとも1種の瀝青を、160〜200℃の温度に加熱する工程、
(ii)少なくとも1種のエラストマーを投入し、瀝青とエラストマーとの混合物を160〜200℃の温度で攪拌する工程、および
(iii)前記ペレットの形態の架橋用組成物を投入し、瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との混合物を160〜200℃の温度で攪拌する工程。
【0034】
好ましくは、瀝青は、瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との総量に対して、75質量%から98質量%、より好ましくは80質量%から96質量%、さらに好ましくは85質量%から95質量%含まれる。
【0035】
好ましくは、エラストマーは、瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との総量に対して、1質量%から15質量%、より好ましくは2質量%から10質量%、さらに好ましくは3質量%から5質量%含まれる。
【0036】
好ましくは、前記ペレットの形態の架橋用組成物は、瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との総量に対して、0.05質量%から5質量%、より好ましくは0.1質量%から2質量%、さらに好ましくは0.15質量%から1質量%、なおいっそう好ましくは0.2質量%から0.5質量%含まれる。
【0037】
好ましくは、硫黄とエラストマーとの量の比は、0.005〜0.05、より好ましくは0.01〜0.03、さらに好ましくは0.02〜0.025である。
【0038】
最後に、本発明は、上述の製造方法によって得られる瀝青/エラストマーの架橋組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明にかかる架橋用組成物は、ペレット(造粒体)の形態であり、少なくとも1種のポリマーのマトリックス、少なくとも1種の架橋剤、および少なくとも1種の硫化水素抑制剤を含み、この硫化水素抑制剤は、少なくとも1種のカルボン酸亜鉛と少なくとも1種のトリアジン誘導体とを含む。
【0040】
本発明にかかる架橋用組成物の必須の構成成分の一つは少なくとも1種の硫化水素抑制剤である。この硫化水素抑制剤は、少なくとも1種のカルボン酸亜鉛と少なくとも1種のトリアジン誘導体との組合せであり、架橋剤を瀝青/エラストマーの組成物に投入(混合)するうえで放出される硫化水素を捕捉する。少なくとも1種のカルボン酸亜鉛と少なくとも1種のトリアジン誘導体との組合せは、本発明に必要不可欠なものであって、この組合せにより、従来技術のものに比べて極めて低い亜鉛レベルおよび極めて低い亜鉛対硫黄の比であっても極めて効果的に硫化水素の発生量を抑えることのできる、取り扱い易いペレットを得ることができる。
【0041】
「カルボン酸亜鉛」とは、一般式:[RCOO]Zn(式中、Rは、炭素数1〜29、好ましくは6〜20、より好ましくは7〜17、さらに好ましくは11〜15の、直鎖状または分岐鎖状、環式または非環式の、アルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルカリール基である)で表される、あらゆる化合物を指す。
【0042】
好ましいカルボン酸亜鉛として:酢酸亜鉛、エタン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、酪酸亜鉛、ペンタン酸亜鉛、ヘキサン酸亜鉛、ヘプタン酸亜鉛、オクタン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、ノナン酸亜鉛、ドデカン酸亜鉛、ウンデカン酸亜鉛、安息香酸亜鉛、脂肪酸由来のカルボン酸亜鉛(例えば、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛)などが挙げられる。特に好ましいカルボン酸亜鉛として、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、オクタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛が挙げられ、なかでも、低コストで入手可能なカルボン酸亜鉛であるステアリン酸亜鉛が極めて好ましい。使用されるカルボン酸亜鉛の種類に関係なく、硫化水素の発生量の抑制が認められる。なお、抑制効果は、前記R基の炭素数が1〜6のカルボン酸塩、例えば、酢酸亜鉛や安息香酸亜鉛などの場合に、より優れているように思われる。なお、脂肪酸の誘導体、特に、脂肪酸由来のカルボン酸亜鉛は、必ずしも必要ではない。
【0043】
本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物には、カルボン酸亜鉛が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の質量に対して5%から50%、好ましくは10%から40%、より好ましくは20%から30%含まれている。10%から20%の範囲も好ましい。以上のようなカルボン酸亜鉛の含有量は、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物におけるポリマーのマトリックスおよび架橋剤の含有量との間で理想的なバランスを得ることができる。これにより、硫化水素を十分に捕捉することができ、瀝青/エラストマーの組成物を十分に架橋結合させることができ、さらには、安定で取り扱い易いペレットを得ることができる。放出される硫化水素を捕捉するには、一定量のカルボン酸亜鉛がペレットに含まれている必要があるので、上記の範囲を下回るカルボン酸亜鉛の含有量は好適でない。上記の範囲を上回るカルボン酸亜鉛の含有量は、架橋剤の含有量および/またはポリマーのマトリックスの含有量の減少を意味するので、優れた架橋結合反応を可能にする、取り扱い易いペレットを処方することができなくなる。
【0044】
本発明にかかるカルボン酸亜鉛には、亜鉛が、当該カルボン酸亜鉛の質量に対して好ましくは5%から30%、より好ましくは10%から20%含まれる。本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物における亜鉛の含有量は僅かである。具体的に述べると、これは、カルボン酸亜鉛に含まれる亜鉛量が少ないからである。
【0045】
好ましくは、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物には、亜鉛が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の総質量に対して1%から15%、好ましくは2%から10%、より好ましくは3%から5%含まれている。この亜鉛の含有量は、主にカルボン酸亜鉛に由来するものであるが、加硫促進剤も使用する場合には、加硫促進剤に由来する亜鉛量も含まれる。本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物における亜鉛の含有量は、従来技術において推奨されている構成とは異なりそれほど多くないものの、大量の硫化水素を捕捉することのできる十分な量である。本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物における亜鉛の含有量は僅かである。具体的に述べると、これは、カルボン酸亜鉛に含まれる亜鉛量および加硫促進剤(硬化促進剤)に含まれる亜鉛量が少ないからである。
【0046】
「トリアジン誘導体」とは、1,2,3−トリアジンの誘導体、1,2,4−トリアジンの誘導体、および1,3,5−トリアジン(s−トリアジン)の誘導体のことを指す。トリアジンの誘導体水和物が好ましい。同じく、トリアジンの窒素原子に直接的にまたは親和性を介して結合する置換基としては、炭素数1〜12、好ましくは2〜8の、アルキル基および/またはヒドロキシアルキル基が好ましい。好ましいトリアジン誘導体として、炭素数1〜12のアルキル基、好ましくは2〜8のアルキル基を有する、トリヒドロキシアルキルヘキサヒドロトリアジンが挙げられ、特に、N,N’,N’’,−トリス(2−ヒドロキシエチル)−ヘキサヒドロトリアジンが好ましい。
【0047】
本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物には、トリアジン誘導体が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の質量に対して5%から40%、好ましくは10%から30%、より好ましくは15%から20%含まれている。10%から20%の範囲も好ましい。上記の範囲を上回るトリアジン誘導体の含有量では、本発明にかかる架橋用組成物を、ペレットの形態に正確に造形(成形)することができない。事実、本発明で使用されるトリアジン誘導体は、常温で液体の化合物である。本発明にかかる架橋用組成物において、これら液体の化合物の含有量が多くなり過ぎると、当該架橋用組成物の外観は発泡体を呈し、使用不能となる。こうなると、本発明にかかる架橋用組成物は粘着性を有するようになり、ペレットの形態に切断して成形できなくなる。また、硫化水素を捕捉するには本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物に一定量のトリアジン誘導体が含まれている必要があるので、上記の範囲を下回るトリアジン誘導体の含有量は適切でない。
【0048】
つまり、カルボン酸亜鉛とトリアジン誘導体との組合せは、押出工程を経てペレットの形態に成形可能な架橋用組成物を得るとともに硫化水素を有効に捕捉するのに必要不可欠である。
【0049】
本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物には、硫化水素抑制剤が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の質量に対して10%から60%、好ましくは20%から50%、より好ましくは30%から40%含まれている。
【0050】
カルボン酸亜鉛とトリアジン誘導体との質量比は、0.5〜8、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜3である。以上のような範囲の質量比により、安定で取り扱い易いペレットの形態の架橋用組成物を得るとともに硫化水素を有効に捕捉することができる。より安定でより押出成形が容易なペレットを得るには、トリアジン誘導体よりもカルボン酸亜鉛をやや多く含む硫化水素抑制剤を配合するのが好ましい。よって、カルボン酸亜鉛とトリアジン誘導体との質量比は、1以上であるか、あるいは1を超えるのが好ましい。
【0051】
本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物は、瀝青/エラストマーの組成物を架橋結合反応させて架橋組成物とするために、さらに、少なくとも1種の架橋剤を含む。
【0052】
本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物には、架橋剤が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の質量に対して5%から50%、好ましくは10%から40%、より好ましくは20%から30%含まれている。架橋剤の含有量は、瀝青/エラストマーの組成物中で架橋結合を生じるラストマーの量に応じて調節される。架橋剤の含有量は、架橋組成物にしようとする瀝青/エラストマーの組成物に含まれた全てのエラストマーを架橋結合させるのに十分な量に設定される必要がある。
【0053】
好ましくは、架橋剤は、硫黄を有しており、さらに、任意で、加硫促進剤(硬化促進剤)と組み合わされる。
【0054】
好ましくは、使用される硫黄は、硫黄元素または粉末硫黄(硫黄華)であり、より好ましくは、α硫黄の名称で知られる斜方硫黄である。
【0055】
本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物には、硫黄が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の質量に対して5%から50%、好ましくは10%から40%、より好ましくは20%から30%含まれている。30%から40%の範囲も好ましい。硫黄の含有量は、瀝青/エラストマーの組成物中で架橋結合を生じるエラストマーの量に応じて調節される。硫黄の含有量は、架橋組成物にしようとする瀝青/エラストマーの組成物に含まれた全てのエラストマーを架橋結合させるのに十分な量に設定される必要がある。上記の硫黄の含有量は、ペレットの形態の架橋用組成物に含まれる硫黄粉末の量を表している。加硫促進剤に含まれる硫黄は考慮していない。
【0056】
好ましくは、本発明にかかるペレットにおける硫黄の量は、亜鉛(カルボン酸亜鉛に含まれる亜鉛、および任意で配合される加硫促進剤に含まれる亜鉛の総量)と硫黄との質量比が0.01〜0.3、好ましくは0.02〜0.2、より好ましくは0.04〜0.1、さらに好ましくは0.05〜0.08となるように選択される。本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物における亜鉛と硫黄との量の比は、従来技術において推奨されている構成とは異なり極めて低いものの、トリアジン誘導体と組合されることで大量の硫化水素を捕捉するのに十分な量である。
【0057】
瀝青/エラストマーの組成物の架橋結合を促進するために、加硫促進剤を添加(配合)してもよい。使用する加硫促進剤は、ヒドロカルビルポリスルフィド、チウラムポリスルフィド、チウラムモノスルフィド、メルカプトベンゾチアゾール誘導体、およびジチオカルバメート(ジチオカルバミン酸の塩およびエステル)からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。各種の加硫促進剤は、当該技術分野において周知であり、例えば、仏国特許発明第2528439号明細書、欧州特許第0360656号明細書、欧州特許第0409683号明細書などに記載されている。
【0058】
加硫促進剤としては、メルカプトベンゾチアゾール誘導体、ジチオカルバメートを使用するのが好ましく、これらを混合物として使用するのがより好ましく、メルカプトベンゾチアゾール誘導体とジチオカルバメートを50/50の混合物として使用するのがさらに好ましい。好ましいメルカプトベンゾチアゾール誘導体は、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛(ZMBT)である。好ましいジチオカルバメートは、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)である。
【0059】
好ましくは、本発明にかかるペレットにおける加硫促進剤の含有量は、当該ペレットの形態の架橋用組成物の質量に対して0%から5%、好ましくは0.1%から3%、より好ましくは0.5%から2%である。加硫促進剤は、瀝青とエラストマーとの架橋結合を促進することができるので、配合されるのが好ましい。硫黄は、エラストマーに素早く反応するので、硫化水素の発生量を抑えることができる。
【0060】
好ましくは、本発明にかかるペレットにおける加硫促進剤の量は、当該加硫促進剤と硫黄との質量比が0.02〜0.10、より好ましくは0.03〜0.08、さらに好ましくは0.05〜0.06となるように選択される。
【0061】
好ましくは、加硫促進剤には、亜鉛が、当該加硫促進剤の質量に対して5%から30%、より好ましくは10%から20%、さらに好ましくは約15%含まれている。
【0062】
本発明にかかる架橋用組成物は、ペレットの形態に造形(成形)できるように、ポリマーのマトリックスを含んでいる必要がある。ポリマーのマトリックスにより、ペレットの各種構成成分は互いに結び付くことができ、また、ペレット形状に押し出し成形することができる。好ましくは、ポリマーのマトリックスは、プラストマーを有している。好ましくは、このプラストマーは、エチレン単位を有するプラストマーである。好ましくは、ポリマーのマトリックスは、ポリエチレン(PE)、エチレン/プロピレンのコポリマー、エチレン/アクリルエステルのコポリマー、エチレン/モノステアリン酸グリコールのコポリマー、およびエチレン/酢酸ビニル(EVA)のコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0063】
本発明にかかるペレットには、ポリマーのマトリックスが、当該ペレットの形態の架橋用組成物の質量に対して5%から50%、好ましくは10%から40%、より好ましくは20%から30%含まれている。上記の範囲を上回るポリマーのマトリックスの含有量は、当該ポリマーのマトリックスがエラストマーの架橋結合反応および硫化水素の発生過程の抑制に関わらないことから望ましくない(ポリマーのマトリックスの役割は、架橋用組成物をペレットの形態に造形(成形)可能にすることだけである)。よって、ポリマーのマトリックスの下限量は、ペレットの形態に造形(成形)可能な量である。
【0064】
好ましくは、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物は、
10%から50%の架橋剤、
10%から40%の硫化水素抑制剤、および
5%から40%のポリマーのマトリックス、
を含む。
【0065】
より好ましくは、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物は、
10%から50%の硫黄、
0%から5%の加硫促進剤、
5%から20%のカルボン酸亜鉛、
5%から20%のトリアジン誘導体、および
5%から35%のポリマーのマトリックス、
を含む。
【0066】
さらに好ましくは、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物は、
10%から50%の硫黄、
1%から5%の加硫促進剤、
5%から20%のカルボン酸亜鉛、
5%から20%のトリアジン誘導体、および
5%から35%のポリマーのマトリックス、
を含む。
【0067】
本発明は、さらに、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物を製造する方法に関する。本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物は、各種成分を押出およびスクリーンにかけることによって得られる。押出温度は、110℃未満、好ましくは90℃未満である。硫化水素抑制剤に常温で粉末のものと常温で液体のものとが含まれる場合、硫化水素抑制剤の予備混合を、押出工程およびその後のスクリーンにかける工程の前に行ってもよい。
【0068】
本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物の寸法は、一般的に3mmから20mm、好ましくは5mmから15mmである。
【0069】
本発明は、さらに、瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するための、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物の使用に関する。本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物を使用することにより、瀝青/エラストマーの組成物の架橋結合反応を、硫化水素の発生量を抑えながら行うことができる。
【0070】
本発明は、さらに、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物を使用して瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造する方法に関する。この目的のため、前述のペレットの形態の架橋用組成物、少なくとも1種の瀝青、および少なくとも1種の架橋可能なエラストマーが使用される。
【0071】
本発明では、様々な由来の瀝青を使用することができる。本発明で使用可能な瀝青は、天然由来の瀝青(すなわち、天然瀝青の鉱床に含まれる瀝青、天然アスファルト、瀝青砂など)、および原油の精製から生じる瀝青(例えば、石油の常圧蒸留および/または真空蒸留によって生じる瀝青であって、任意で、ブローイング法で処理、および/またはビスブレーキング法で処理、および/または脱アスファルト処理されてもよい)から選択されてもよい。本発明で使用可能な他の瀝青として、揮発性溶剤および/または石油由来のフラックスおよび/または石炭由来のフラックスおよび/または植物由来のフラックスが添加されたフラックス添加瀝青が挙げられる。その他にも、無色瀝青(clear bitumen)、顔料添加瀝青、着色瀝青などの、合成瀝青も使用可能である。
【0072】
本発明にかかる瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との混合物には、瀝青が、当該瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との混合物の総質量に対し、75%から98%、好ましくは80%から96%、より好ましくは85%から95%含まれる。95%から98%の範囲も好ましい。
【0073】
本発明で使用可能なエラストマーとして、瀝青/エラストマーの分野、特に、瀝青/エラストマーの分野において一般的に使用可能なエラストマー、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブチルゴム、エチレン/プロペン/ジエン(EPDM)のターポリマー、スチレンとイソプレンとのコポリマー、およびスチレンとブタジエンとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0074】
好ましいエラストマーは、スチレンとブタジエンとのコポリマーであり、例えば、スチレン/ブタジエン(SB)のブロックコポリマー、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)のブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0075】
好ましくは、スチレンとブタジエンとのコポリマーには、スチレンが、5〜50重量%、より好ましくは20〜50重量%含まれる。
【0076】
好ましくは、スチレンとブタジエンとのコポリマーには、(1,2付加および1,4付加の)ブタジエンが、50〜95重量%含まれる。
【0077】
好ましくは、スチレンとブタジエンとのコポリマーには、1,2付加ブタジエンが、5〜70重量%含まれる。1,2付加ブタジエン単位とは、ブタジエン単位の1,2付加を介した重合によって生じる単位である。
【0078】
スチレンとブタジエンとのコポリマーの平均分子量は、例えば、10,000〜500,000ダルトン、好ましくは50,000〜200.000ダルトン、より好ましくは50,000〜150,000ダルトンである。
【0079】
本発明にかかる瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との混合物には、エラストマーが、当該瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との混合物の総質量に対し、1%から15%、好ましくは2%から10%、より好ましくは3%から5%含まれる。
【0080】
本発明にかかる瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との混合物には、ペレットの形態の架橋用組成物が、当該瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との混合物の総質量に対し、0.05%から5%、好ましくは0.1%から2%、より好ましくは0.15%から1%、さらに好ましくは0.2%から0.5%含まれる。0.1%から0.2%の範囲も好ましい。ペレットの形態の架橋用組成物の使用量(含有量)は、できる限り少ないほうが好ましい。そのため、ペレットの形態の架橋用組成物は、いわゆる活性添加剤(例えば、架橋剤や硫化水素抑制剤など)を、できる限り高濃度に含んでいる必要がある。
【0081】
瀝青/エラストマーの組成物に投入(混合)するペレットの形態の架橋用組成物の量は、硫黄とエラストマーとの質量比が、0.005〜0.05、好ましくは0.01〜0.03、より好ましくは0.02〜0.025となるように選択される。以上のような高い重量比の数値により、エラストマーを最適に架橋結合させることができる。0.005未満の質量比では、瀝青/エラストマーの組成物に含まれた全てのエラストマーを架橋結合させることができない。また、0.005未満の質量比では、瀝青/エラストマーの組成物の弾性特性が不十分になる。
【0082】
本発明にかかる瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法は、以下の重要な段階を踏む:
(i)少なくとも1種の瀝青を、160〜200℃の温度、好ましくは180〜190℃の温度で、好ましくは5〜120分、より好ましくは10〜60分加熱・混合する工程と、
(ii)少なくとも1種のエラストマーを投入し、得られた瀝青/エラストマーの組成物を、160〜200℃の温度、好ましくは180〜190℃の温度で、好ましくは5〜240分、より好ましくは10〜120分、さらに好ましくは30〜60分加熱・混合する工程と、
(iii)前記瀝青/エラストマーの組成物を架橋結合反応させるために、ペレットの形態の架橋用組成物を投入し、得られた瀝青/エラストマー/架橋用組成物との混合物を、160〜200℃温度、好ましくは180〜190℃の温度で、好ましくは5〜120分、より好ましくは10〜60分加熱・混合する工程。
【0083】
上記の瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法は、瀝青と、エラストマーと、必要な全構成成分をまとめて架橋反応させつつ硫化水素を捕捉する架橋用組成物との3つの成分のみで実行できるので、極めて簡便に実行することができる。
【0084】
最後に、本発明は、無水物またはエマルションの形態の瀝青質バインダとして使用可能な瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するための、前述のペレットの形態の架橋用組成物の使用に関する。この瀝青質バインダは、基礎層、バインダ層、摩耗層などの道路用途、および/または密封膜(防水膜)(sealing membrane)、メンブレン、含浸層などの産業用途に使用可能である。これら瀝青質バインダは、骨材と組み合わされることで、表面化粧、加熱混合物、常温混合物、再生常温混合物、砂利エマルジョンなどを製造することができる。
【0085】
本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物は、従来の押出法によって製造される。一般的な技術および装置を用いることができる。押出温度は、好ましくは110℃未満、より好ましくは90℃未満である。硫化水素抑制剤に常温で粉末のものと常温で液体のものとが含まれる場合、硫化水素抑制剤の予備混合を行ってもよい。
【実施例】
【0086】
以下の物質を用いる:
・EN 1426規格に従い25℃で測定される針入度が40(1/10mm単位)であり、EN 1427規格に準拠した環境法による軟化点(リングボール軟化温度)が51.6℃である直留由来の瀝青、
・粉末硫黄(硫黄華)、
・2種類の加硫促進剤:亜鉛レベル14.3%のジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)と亜鉛レベル16%の2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛(ZMBT)、
・スチレンを31重量%含む、スチレン/ブタジエン/スチレン系の直鎖状ブロックエラストマー、
・亜鉛レベル10.8%のステアリン酸亜鉛、または亜鉛レベル29%の酢酸亜鉛、
・N,N’,N’’−トリス(2−ヒドロキシエチル)ヘキサヒドロトリアジン、
・酢酸ビニルを20質量%含み、メルトインデックスが20g/10分である、エチレン/酢酸ビニル系のプラストマー、
・カーボンブラック、および
・LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)によって担持された、高い分子量を有するポリイソブチレン系の粘着付与剤。
【0087】
ペレットの形態の架橋用組成物を、対照(G、GおよびG)と、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物(G、GおよびG)とに分けて調製する。本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物G、Gは、硫化水素抑制剤として、特定の種類のカルボン酸亜鉛(ステアリン酸亜鉛)とトリアジン誘導体との組合せを含む。本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物Gは、硫化水素抑制剤として、特定の種類のカルボン酸亜鉛(酢酸亜鉛)とトリアジン誘導体との組合せを含む。対照のペレットの形態の架橋用組成物Gは、硫化水素抑制剤を含まず、対照のペレットの形態の架橋用組成物Gは、硫化水素抑制剤として、特定の種類のカルボン酸亜鉛(ステアリン酸亜鉛)のみを含み、対照のペレットの形態の架橋用組成物Gは、硫化水素抑制剤として、特定の種類のカルボン酸亜鉛(酢酸亜鉛)のみを含む。
【0088】
これらのペレットの形態の架橋用組成物は、従来の押出法によって調製する。一般的な技術および装置が用いられる。押出温度は、110℃未満、好ましくは90℃未満である。硫化水素抑制剤に常温で粉末のものと常温で液体のものとが含まれる場合、硫化水素抑制剤の予備混合を行ってもよい。
【0089】
このようにして得られたペレットの形態の架橋用組成物は、いずれも安定しており取り扱い易い。これらペレットの形態の架橋用組成物は、以下の表1に示す組成(質量%)を有する。
【0090】
【表1】

【0091】
これらの架橋用組成物において、亜鉛の含有量(質量%)は、カルボン酸亜鉛に含まれる亜鉛レベルおよび加硫促進剤に含まれる亜鉛レベルに基づき算出する。ペレットの形態の架橋用組成物G〜Gにおける亜鉛の含有量(質量%)は、それぞれ、0.56%、3.61%、9.07%、2.53%、1.45%、6.17%である。
【0092】
ペレットの形態の架橋用組成物G〜Gに含まれる亜鉛と硫黄との質量比は、それぞれ、0.009、0.090、0.226、0.063、0.036、0.154である。
【0093】
上記の表1に示すペレットの形態の加硫用組成物(架橋用組成物)G〜Gを瀝青/エラストマーの組成物と組み合わせて架橋結合反応を引き起こすことにより、各種加硫用組成物G〜Gのそれぞれに対応した、瀝青/エラストマーの架橋組成物C〜Cを調製する。詳細には、瀝青/エラストマーの架橋組成物C〜Cは以下のようにして調製する:
【0094】
まず、前述の直留由来の瀝青を2リットルの密閉反応槽に投入して185℃で10分間加熱・攪拌(300rpm(回転毎分))し、次に、前述のスチレン/ブタジエン/スチレン系のエラストマーを投入し、この瀝青とエラストマーとの混合物を185℃で4時間加熱した後、最後に、前述のペレットの形態の加硫用組成物(架橋用組成物)を、以下の表2に示す割合(質量%)になるように投入する。そして、このようにして得られた混合物を、185℃で2時間加熱・攪拌(300rpm(回転毎分))する。
【0095】
さらに、瀝青/エラストマーの架橋されていない組成物Cを調製する。なお、ペレットの形態の加硫用組成物を投入(混合)する過程を省略する以外は、他の組成物C〜Cと同じ調製方法を用いる。
【0096】
【表2】

【0097】
瀝青/エラストマーの架橋組成物C〜Cにおける硫黄とエラストマーとの質量比は、どの架橋組成物C〜Cにおいても0.02である。
【0098】
以下の表3は、ペレットの形態の対応する架橋用組成物G、G、Gを用いて架橋結合反応させた、本発明にかかる瀝青/エラストマーの架橋組成物C、C、Cの各物理的特性と、対応する架橋用組成物G、G、Gを用いて架橋結合反応させた、対照の瀝青/エラストマーの架橋組成物C、C、Cの各物理的特性と、瀝青/エラストマーの架橋されていない対照の組成物Cの物理的特性とを表したものである。
【0099】
【表3】

【0100】
上記の表3に挙げられた結果から、以下の見解を述べることができる。
【0101】
ペレットの形態の加硫用組成物(架橋用組成物)G〜Gのいずれも、瀝青/エラストマーの対応する架橋組成物C〜Cの架橋結合反応をもたらすことができる。これらの組成物に含まれた全てのエラストマーが架橋結合する。事実、瀝青/エラストマーの架橋組成物C〜Cのちょう度は、瀝青/エラストマーの架橋されていない組成物Cのちょう度よりも大きい(針入度および環境法による軟化点の数値を参照のこと)。同様に、引張試験で得られる数値から、瀝青/エラストマーの架橋組成物C〜Cの弾性が、瀝青/エラストマーの架橋されていない組成物Cの弾性よりも明らかに高いことが分かる。例えば、上記表3における伸び率の数値を参照されたい。瀝青/エラストマーの架橋組成物C〜Cの伸び率は700%であるが、瀝青/エラストマーの架橋されていない組成物Cの伸び率は180%しかない。
【0102】
さらに、ペレットの形態の架橋用組成物を瀝青とエラストマーとの混合物に投入する時点から始めて2時間のあいだに気相に放出される硫化水素の発生量を、密閉反応媒体内に配置されたプローブを用いて測定する。各架橋組成物C〜Cについて、放出される硫化水素の量を時間の関数の曲線で表現する。硫化水素抑制剤を含まないペレットを用いて架橋結合反応させた架橋組成物Cに相当する曲線を、参照曲線と見なす。参照の組成物Cが架橋反応するうえで生じる硫化水素の発生量と、瀝青/エラストマーの組成物C〜Cが架橋反応するうえで生じる硫化水素の発生量とを比較し、参照の組成物Cの場合と比べた硫化水素の発生量の減少分を、以下の表4に百分率で表す:
【0103】
【表4】

【0104】
上記の表4から、硫化水素抑制剤がカルボン酸塩とトリアジン誘導体との組合せである、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物G〜Gを使用することにより、硫化水素の発生量が大幅に抑えられることは明白である。詳細には、ステアリン酸亜鉛とトリアジン誘導体とを含む架橋用組成物G、Gにより、硫化水素の発生量はそれぞれ43%、47%減少している(ステアリン酸亜鉛のみを使用する架橋用組成物Gでは、硫化水素の発生量は20%の減少にとどまっている)。同様に、上記の表4から、酢酸亜鉛とトリアジン誘導体との組合せにより、(酢酸亜鉛のみを用いた場合の39%の減少分に比べて)硫化水素の発生量を49%減少できることが分かる。
【0105】
以上から、本発明にかかるペレットの形態の架橋用組成物により、硫化水素の発生量を大幅に抑えながら、良好な弾性を有する瀝青/エラストマーの架橋組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリマーのマトリックス、
少なくとも1種の架橋剤、および
少なくとも1種の硫化水素抑制剤、
を含む、ペレットの形態の架橋用組成物であって、
前記硫化水素抑制剤が、少なくとも1種のカルボン酸亜鉛と、少なくとも1種のトリアジン誘導体とを含む、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項2】
請求項1において、カルボン酸亜鉛が、酢酸亜鉛、エタン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、酪酸亜鉛、ペンタン酸亜鉛、ヘキサン酸亜鉛、ヘプタン酸亜鉛、オクタン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、ノナン酸亜鉛、ドデカン酸亜鉛、ウンデカン酸亜鉛、安息香酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、およびオレイン酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種である、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、トリアジン誘導体が、アルキル基の炭素数が1〜12、好ましくは2〜8の、トリアルキルヘキサヒドロトリアジン、およびトリヒドロキシアルキルヘキサヒドロトリアジンからなる群から選択される少なくとも1種である、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、ポリマーのマトリックスが、ポリエチレン、エチレン/プロピレンのコポリマー、エチレン/アクリルエステルのコポリマー、エチレン/モノステアリン酸グリコールのコポリマー、およびエチレン/酢酸ビニルのコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種である、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、架橋剤が、硫黄を有しており、
さらに、任意で、メルカプトベンゾチアゾール誘導体、およびジチオカルバメートからなる群から選択される少なくとも1種の加硫促進剤が組み合わされた、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、カルボン酸亜鉛が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の総質量に対して5%から50%、好ましくは10%から40%、より好ましくは20%から30%含まれている、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、トリアジン誘導体が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の総質量に対して5%から40%、好ましくは10%から30%、より好ましくは15%から20%含まれている、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、カルボン酸亜鉛とトリアジン誘導体との質量比が0.5〜8、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜3である、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、亜鉛が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の総質量に対して1%から15%、好ましくは2%から10%、より好ましくは3%から5%含まれている、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項10】
請求項5から9のいずれか一項において、硫黄が、当該ペレットの形態の架橋用組成物の総質量に対して5%から50%、好ましくは10%から40%、より好ましくは20%から30%含まれている、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか一項において、亜鉛と硫黄との質量比が0.01〜0.3、好ましくは0.02〜0.2、より好ましくは0.04〜0.1、さらに好ましくは0.05〜0.08である、ペレットの形態の架橋用組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載されたペレットの形態の架橋用組成物を製造する方法であって、
当該ペレットの形態の架橋用組成物を、押出成形によって、好ましくは110℃未満の温度の押出成形によって得ることを含む、ペレットの形態の架橋用組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載されたペレットの形態の架橋用組成物の使用であって、瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するための、使用。
【請求項14】
請求項13において、瀝青/エラストマーの架橋組成物を製造するうえで生じる硫化水素の発生量を抑える、使用。
【請求項15】
少なくとも1種の瀝青、少なくとも1種のエラストマー、および請求項1から11のいずれか一項に記載された少なくとも1種のペレットの形態の架橋用組成物を使用する、瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法。
【請求項16】
請求項15において、
(i)少なくとも1種の瀝青を、160〜200℃の温度に加熱する工程と、
(ii)少なくとも1種のエラストマーを投入し、瀝青とエラストマーとの混合物を160〜200℃の温度で攪拌する工程と、
(iii)請求項1から11のいずれか一項に記載されたペレットの形態の架橋用組成物を投入し、瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との混合物を160〜200℃の温度で攪拌する工程と、
を含む、瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項15または16において、瀝青が、瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との総量に対して、75質量%から98質量%、好ましくは80質量%から96質量%、より好ましくは85質量%から95質量%含まれる、瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項15から17のいずれか一項において、エラストマーが、瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との総量に対して、1質量%から15質量%、好ましくは2質量%から10質量%、より好ましくは3質量%から5質量%含まれる、瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法。
【請求項19】
請求項15から18のいずれか一項において、ペレットの形態の架橋用組成物が、瀝青とエラストマーとペレットの形態の架橋用組成物との総量に対して、0.05質量%から5質量%、好ましくは0.1質量%から2質量%、より好ましくは0.15質量%から1質量%、さらに好ましくは0.2質量%から0.5質量%含まれる、瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法。
【請求項20】
請求項15から19のいずれか一項において、硫黄とエラストマーとの量の比を、0.005〜0.05、好ましくは0.01〜0.03、より好ましくは0.02〜0.025とする、瀝青/エラストマーの架橋組成物の製造方法。
【請求項21】
請求項15から20のいずれか一項に記載された製造方法によって製造可能な瀝青/エラストマーの架橋組成物。

【公表番号】特表2012−519745(P2012−519745A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552555(P2011−552555)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国際出願番号】PCT/IB2010/050892
【国際公開番号】WO2010/100603
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】