説明

炊飯器

【課題】炊飯器において、保温工程中に、水分の蒸発と保温臭の発生を抑制し、さらに、炊きたてのにおいが維持された状態で、ご飯を保温することは難しい。
【解決手段】鍋内に水分を含む気体を投入することができる気体投入手段として、ミスト発生手段と、水を貯水する水タンクと、水タンクの水をミスト発生手段に供給する給水手段と、ミスト温度を測定するミスト温度測定手段を備えることにより、保温中に、鍋内に、自動的に、一定の温度に調整されたミストを投入することができるので、水分の蒸発だけでなく、保温臭も抑制することができる。そしてさらに、においが発生するにおい発生手段を備えることにより、鍋内に投入されるミストにご飯のにおいを添加することが可能となり、保温工程においても、より炊きたてに近い状態のご飯を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ご飯の保温を効果的に行う炊飯器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の炊飯器においては、炊飯終了後、炊き上がったご飯を保温する保温工程で生じる水分の蒸発を抑制するため、鍋内のご飯の保温温度を老化しない温度まで、できるだけ低下させて、保温中の熱による乾燥を抑制し、さらに定期的に加熱を行うことにより、菌の増殖を抑制させるとともに、鍋内に蒸気を投入できるような構成にすることで、さらに水分の蒸発を抑制できるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−57545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記従来の構成では、保温中の水分の蒸発は抑制できるが、保温工程におけるもう一つの主な劣化反応である保温臭(ご飯を保温したときに生じる好ましくないにおい)を抑制することはできない。
【0004】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、保温工程における水分の蒸発を抑制するとともに、保温臭も抑制し、さらに炊きたてのにおいも発生させ、保温工程中も、できるだけ炊きたてに近い状態のご飯を食べることができる炊飯器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の炊飯器は、鍋内に水分を含む気体を投入することができる気体投入手段として、ミスト発生手段と、水を貯水する水タンクと、水タンクの水をミスト発生手段に供給する給水手段と、ミスト温度を測定するミスト温度測定手段を備えることにより、保温中に、鍋内に、自動的に、一定の温度に調整されたミストを投入することができるので、水分の蒸発だけでなく、保温臭も抑制することができる。
【0006】
また、ミストの温度を60℃以上100℃以下で調整することにより、水分の蒸発と保温臭を効果的に抑制することができ、重量測定手段を備えることにより、ご飯の重量に応じてミスト投入時間を制御することができる。
【0007】
また、水タンクの水を加熱する水タンク加熱手段を備えることにより、水を予め必要な温度に加熱し、ミスト発生手段に供給することができるので、短時間で最適なミスト温度に調整し、タイミングよく鍋内に投入することが可能となり、さらに効果的に水分の蒸発と保温臭を抑制することができる。
【0008】
また、気体投入手段に、におい発生手段を備えることにより、鍋内に投入されるミストにご飯のにおいを添加することが可能となり、保温工程において、より炊きたてに近い状態のご飯を実現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の炊飯器は、保温工程中に、気体発生手段により、鍋内に、水分を含む気体として、ミストを投入することで、水分の蒸発抑制に加えて、保温臭の抑制も実現することができ、さらににおい発生手段を備えることにより、ご飯のにおいの添加も可能となったので、保温工程中も炊きたてに近い状態のご飯を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の発明は、鍋開口部を覆う開閉自在な蓋と、蓋を加熱する蓋加熱手段と、鍋を加熱する鍋加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、鍋の温度に基づいて加熱手段に与える加熱量を制御する制御手段と、鍋内に水分を含む気体を投入することができる気体投入手段を備えた炊飯器とすることにより、鍋内に水分を含む気体を投入することができる。
【0011】
第2の発明は、特に第1の発明において、気体投入手段として、ミスト発生手段と、ミスト水を貯水する水タンクと、水タンクの水をミスト発生手段に供給する給水手段と、発生させたミスト温度を測定するミスト温度測定手段を備え、鍋内部に一定温度に調整されたミストを投入することにより、保温工程中の水分の蒸発だけでなく、保温臭も抑制することができる。
【0012】
第3の発明は、特に第2の発明において、ミストを、60℃以上100℃以下で維持できるように、制御手段で制御することにより、効果的に水分の蒸発と保温臭を抑制することができる。
【0013】
第4の発明は、特に第3の発明において、ご飯の重量を測定する重量測定手段を備え、保温工程中のご飯の重量に対応して、ミスト投入時間を制御することができるので、最適なミスト量に調整することができる。
【0014】
第5の発明は、水タンクの水を加熱する水タンク加熱手段を備えることにより、予めミスト発生手段に供給する水を加熱することができるので、より最適なタイミングで鍋内にミストを投入することができ、さらに効果的に水分の蒸発と保温臭を抑制することができる。
【0015】
第6の発明は、特に第2から第5の発明において、気体投入手段に、においが発生するにおい発生手段を備えることにより、鍋内に投入されるミストにご飯のにおいを添加することができるので、保温工程中のご飯を、より炊きたてに近い状態にすることができる。
【0016】
第7の発明は、特に、第6の発明において、ミスト発生手段が、超音波振動子からなる構成にすることで、鍋内部にミストを発生させることが可能になる。
【0017】
以下、本実施の形態について、図を用いて説明する。尚、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における炊飯器を示すものである。
【0019】
図に示すように本実施の形態における炊飯器は、調理物(米類や水)を収容する鍋10と、この鍋10を加熱して、調理物の調理を行う電磁加熱コイルなどからなる加熱手段11と、鍋10の温度を測定する温度センサーからなる温度測定手段12と、鍋内の調理物の重量を測定する重量測定手段13と、温度測定手段12が測定した鍋10の温度に基づいて、炊飯及び保温ができるように、加熱手段11に与える電力を制御する制御部14とを備えている。
【0020】
また、鍋10とは別に、水を貯蔵しておく水タンク15と水タンク15を加熱する水タンク加熱手段16を備え、この水タンク15からポンプ17により、ミスト発生室18に水が供給され、ミスト発生手段19により、ミストが生成される。
【0021】
この水タンクとミスト発生室が、一体となった構成の場合もある。
【0022】
ミスト発生室18に供給される水量は、制御部14で制御され、流量は、流量調節器20にて調節される。このミスト発生手段19は、主に超音波振動子で構成されており、生成されたミストは、ミスト通路パイプ21にて、鍋10上部のミスト加熱室22に送られ、ミスト加熱手段を兼ねた蓋加熱手段23により加熱され、その後鍋10内部に投入される。
【0023】
蓋加熱手段23に与える電力は、ミストの温度を測定する温度センサーからなるミスト温度測定手段24が測定したミストの温度に基づいて、制御部14にて制御される。
【0024】
さらに、ミスト加熱室22は、におい発生手段25を備え、加熱されたミストの作用によりにおいを発生させ、鍋内に、においを投入することができる。
【0025】
このにおい発生手段の設置は、ミスト加熱室に限定されるものではない。
【0026】
ここで、米3合(450g)を炊飯し、そのまま保温した場合を例にとって、本実施の形態1における炊飯器の保温工程を説明する。
【0027】
まず、鍋10に米と、米に対応した重量の水を収容し、図には示していないが、炊飯器筐体の一部に設けた炊飯開始ボタンを押すことにより炊飯が開始され、炊飯終了後、自動的に保温工程に移行し、保温ランプが点灯する。
【0028】
この保温工程においては、温度測定手段12の情報に基づいて、鍋10の温度が保温温度である60℃で維持されるように制御部14にて制御される。つまり、炊飯直後100℃近くあった鍋温度は、60℃まで冷却され、それにともないご飯の温度も冷却される。また保温5時間ごとに、鍋10は100℃に加熱され、菌の増殖が抑制される。
【0029】
まず、水タンク15の水は、鍋10の温度が、保温温度である60℃に到達したときに、保温温度と同じ60℃になるように、水タンク加熱手段16により予め加熱され、ミスト発生室18に、必要量だけ供給されることから、ミスト発生手段(超音波振動子)19を用いて、効率よく、60℃のミストが生成され、生成されたミストは、ミスト通路パイプ21を通過して、ミスト加熱室22に送られ、ミスト加熱室22では、ミスト温度測定手段24の情報に基づいて、ミスト温度が、60℃で維持されるように蓋加熱手段(ミスト加熱手段)23が、制御部14にて制御される。また、ミスト投入時間は、重量測定手段13の情報に基づいて、鍋10内のご飯の重量に対応して、制御部14にて制御される。
【0030】
次に、保温5時間ごとに行われる加熱では、鍋10の温度が設定された100℃で制御される。この鍋10の温度が、設定された100℃に到達したときに、調度100℃になるように、水タンク加熱手段16により、予め加熱された水タンク15の水は、ミスト発生室18に、必要量供給され、ミスト発生手段(超音波振動子)19を用いて、100℃のミストが生成され、生成されたミストは、ミスト通路パイプ21を通過して、ミスト加熱室22に送られ、ミスト加熱室22では、ミスト温度測定手段24の情報に基づいて、ミスト温度が、100℃で維持されるように、制御部14にて、蓋加熱手段(ミスト加熱手段)23が制御される。このとき100℃のミストの作用により、におい発生手段25からにおいが生成され、におい成分もミストと同時に、重量測定手段13の情報に基づいて、鍋10内のご飯の重量に対応して、一定時間投入される。
【0031】
仮に、保温工程中にご飯が減量したときでも、重量測定手段13の情報に基づいて、残されたご飯の重量に対応して、保温工程中、一定時間ミストが投入される。
【0032】
(表1)は、ご飯に関するデータである。
【0033】
【表1】

【0034】
(表1)に示したように、本実施の形態1の炊飯器において、保温6時間後、保温12時間後のご飯は、軟らかく、炊飯直後のご飯と比較してほぼ同等の食感が維持できていた。一方、従来の炊飯器において、保温6時間後、保温12時間後のご飯は、硬くなり、食味が低下していた。
【0035】
また、本実施の形態1の炊飯器において、保温6時間後、保温12時間後のご飯の保温臭は、従来の炊飯器と比較して抑制されており、さらに炊きたてのにおいは増加していた。
【0036】
これは、次の理由によるものである。
【0037】
(表2)は、ご飯の含水率に関するデータである。
【0038】
【表2】

【0039】
(表2)に示したように、本実施の形態1の炊飯器において、保温6時間後、保温12時間後のご飯の含水率は、63%と、従来の炊飯器を用いて保温したご飯と比較して、含水率が高く、水分の蒸発が抑制されていた。よって、食べたとき、ご飯が軟らかく、炊飯直後のご飯と比較してほぼ同等の食感が維持できたと考えられる。
【0040】
また(表3)は、ご飯のにおいに含まれる有機酸に関するデータである。
【0041】
【表3】

【0042】
ご飯を保温したときのにおいには、炊飯直後と比較して、主にアルデヒド類、ケトン類、有機酸類が増加する。これは、保温中に、ご飯の内部に含まれる脂質由来の遊離不飽和脂肪酸が、酸化分解して生成されたと考えられ、さらに生成されたアルデヒド類は、酸化されることにより有機酸を生成したと考えられる。特に、この有機酸は、官能による保温臭、いわゆる、保温臭に含まれる酸っぱいにおいの原因であると考えられることから、保温臭の指標とした。
【0043】
(表3)に示したように、本実施の形態1において、保温6時間後、保温12時間後のご飯のにおいに含まれる有機酸の濃度(%)は、従来の炊飯器と比較して約30%抑制されていた。これは、炊飯終了後、鍋温度が、保温温度の60℃まで冷却されたときに、鍋内の温度に近い60℃のミストを投入することにより、保温初期に鍋内部に滞留する凝縮されたアルデヒド等のにおい成分を追い出し、これにより、保温中の、アルデヒド類の酸化が引き起こす有機酸の増量を抑制し、保温臭の増加を抑制することができたと考えられる。
【0044】
また、鍋内の温度に近い60℃のミストを投入することにより、ご飯の水分が温度差で蒸発されることなく、さらに鍋内でミストの水分が温度差で結露されることなく、ご飯の水分を適度に維持することができたと考えられる。
【0045】
また、保温5時間ごとに、鍋10が100℃に加熱されることから、ご飯内部の遊離不飽和脂肪酸の酸化分解が促進され、アルデヒド類、ケトン類、有機酸類等のにおい成分が増加すると考えられるが、この加熱されるタイミングで、鍋温度と同じ100℃のミストを投入することにより、ここでも、水分の蒸発を抑制しつつ、鍋内部の有機酸を含むにおい成分を追い出すことにより、保温臭を抑制することができたと考えられる。
【0046】
(表4)は、ご飯のにおいに含まれる含硫化合物に関するデータである。
【0047】
【表4】

【0048】
ご飯のにおいには、含硫化合物が含まれ、炊飯直後の含硫化合物が占める割合は約20%と保温のときの1%と比較すると多く、炊飯直後の炊きたてのご飯の特徴的なにおいの一つであると考えられる。これは、ご飯の内部に含まれる蛋白質由来の遊離アミノ酸が分解されて生成すると考えられ、沸点が低く揮発しやすい成分のため、生成されると短時間で揮発し、分解してしまう。
【0049】
(表4)に示したように、本実施の形態1において、保温6時間後と保温12時間後の含硫化合物の濃度は、従来の炊飯器と比較して増加していた。これは、保温5時間ごとに行われる加熱のタイミングで、100℃のミストを投入するとき、この100℃のミストの作用により、におい発生手段からにおいを発生させ、鍋内に投入したためである。におい発生手段には、含硫化合物の前駆物質が内蔵されており、前駆物質としては、たとえばジメチルスルフィドの前駆物質であるS−メチルメチオニンスルフォニウムがあり、この前駆物質が100℃のミストの作用により、分解され、炊きたてのにおいに変化し、鍋内に投入することができたと考えられる。
【0050】
ミスト投入時間は、重量測定手段により測定された重量に基づき、最適な時間に調整されている。
【0051】
以上述べたところから明らかなように、本実施の形態1の炊飯器は、保温工程中に、気体投入手段により、鍋内に、水分を含む気体として、ミストを投入させることにより、水分の蒸発抑制に加えて、保温臭の抑制も実現することができた。また、におい発生手段により、ご飯の炊きたてのにおいの添加も可能となったので、保温中も炊きたてに近い状態のご飯を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明にかかる炊飯器は、鍋と、鍋開口部を覆う開閉自在な蓋と、蓋を加熱する蓋加熱手段と、鍋を加熱する鍋加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、鍋の温度に基づいて加熱手段に与える加熱量を制御する制御手段と、鍋内に水分を含む気体を投入する気体発生手段を備えることにより、食品以外の有機物を加熱するとき、鍋内に水分を含む気体を投入するしながら加熱反応を行う用途にも適用できる。
【0053】
また、におい発生手段を備えることにより、におい以外の成分を鍋内に添加しながら、加熱反応を行う用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施の形態1の炊飯器の断面図
【符号の説明】
【0055】
10 鍋
11 加熱手段
12 温度測定手段
13 重量測定手段
14 制御部
15 水タンク
16 水タンク加熱手段
17 ポンプ
18 ミスト発生室
19 ミスト発生手段(超音波振動子)
20 流量調節器
21 ミスト通路パイプ
22 ミスト加熱室
23 蓋加熱手段(ミスト加熱手段)
24 ミスト温度測定手段
25 におい発生手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋と、前記鍋開口部を覆う開閉自在な蓋と、前記蓋を加熱する蓋加熱手段と前記鍋を加熱する鍋加熱手段と、前記鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、前記鍋の温度に基づいて前記加熱手段に与える加熱量を制御する制御手段と、鍋内に水分を含む気体を投入することができる気体投入手段を備えた炊飯器。
【請求項2】
前記気体投入手段として、ミスト発生手段と、水を貯水する水タンクと前記水タンクの水を前記ミスト発生手段に供給する給水手段と、発生させたミスト温度を測定するミスト温度測定手段を備え、前記鍋内部に、ミストを投入することを特徴とする請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
前記ミストを、60℃以上100℃以下で維持できるように、前記制御手段で制御することを特徴とする請求項2記載の炊飯器。
【請求項4】
鍋内のご飯の重量を測定する重量測定手段を備え、前記重量測定手段の重量に基づいて、ミスト投入時間を前記制御手段で制御することを特徴とする請求項3記載の炊飯器。
【請求項5】
前記水タンクの水を加熱する水タンク加熱手段を備えた請求項2から4いずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項6】
前記気体投入手段に、におい発生手段を備えた請求項2から5のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項7】
前記ミスト発生手段は、超音波振動子からなる請求項6に記載の炊飯器。

【図1】
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