説明

炎症性疾患の治療のためのブプロピオン代謝産物の使用

T細胞増殖に関係する病状、または前炎症性サイトカインによって媒介される病状の治療または予防のために用いることのできる化合物は、式(I)の化合物またはその塩である。
〔化1〕


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患の治療のためのブプロピオン代謝産物の使用に関する。
【0002】
(発明の背景)
免疫主導型の炎症性事象は、多くの慢性炎症性疾患の重大な原因であり、長期の炎症が、組織破壊を引き起こし、侵された臓器の広範な損傷および最終的な不全をもたらす。これらの疾患の原因は未知であり、したがって多くの場合、自己免疫性と呼ばれるが、これは、これらの疾患が、自己を攻撃する個体の免疫系に由来すると思われるためである。病状には、多臓器が関与するもの、例えば、全身性紅斑性狼瘡(SLE)および強皮症などが含まれる。他の種類の自己免疫疾患は、特定の組織または臓器、例えば、筋骨格組織(関節リウマチ、強直性脊椎炎)、消化管(クローン病および潰瘍性大腸炎)、中枢神経系(アルツハイマー病、多発性硬化症、運動ニューロン疾患、パーキンソン病および慢性疲労症候群)、膵β細胞(インスリン依存性糖尿病)、副腎(アジソン病)、腎臓(グッドパスチャー症候群、IgA腎症、間質性腎炎)、外分泌腺(シェーグレン症候群および自己免疫性膵炎)、ならびに皮膚(乾癬およびアトピー性皮膚炎)などに関与しうる。
【0003】
さらに、病因は大体分かってはいるが、その炎症が慢性的かつ間断のない慢性炎症性疾患が存在する。これらは、大規模な組織/臓器破壊を示し、例えば、変形性関節症、歯周病、糖尿病性腎症、慢性閉塞性肺疾患、動脈硬化症、移植片対宿主病、慢性骨盤内炎症性疾患、子宮内膜症、慢性肝炎、および結核などの病状を含む。これらの疾患では、組織破壊により、多くの場合、臓器機能が損傷し、生活の質の低下および臓器不全がもたらされる。これらの病状は、発展途上国において、疾病の主原因であり、現在の療法によっては十分に治療されていない。
【0004】
皮膚構造の炎症(皮膚炎)は、一般的な一連の病状であり、これには、光線性角化症、酒さ性ざ瘡、尋常性ざ瘡、アレルギー性接触皮膚炎、血管性浮腫、アトピー性皮膚炎、類天疱瘡、皮膚薬剤反応、多形性紅斑、紅斑性狼瘡、光線皮膚炎、乾癬、乾癬性関節炎、強皮症、および蕁麻疹が含まれる。これらの疾患は、多様な療法を用いて治療され、その多くは、非常に重篤な副作用を有する。
【0005】
免疫主導型病状のための現在の疾患修飾性治療薬(もしあれば)として、中和抗体、細胞毒、コルチコステロイド、免疫抑制剤、抗ヒスタミン剤、および抗ムスカリン剤が挙げられる。これらの治療薬は、多くの場合、投与経路の不便さおよび重篤な副作用に関係しており、このことが服薬遵守問題を引き起こす。さらに、ある特定の種類の薬物は、ある特定の種類の炎症性疾患にのみ有効であり、例えば、鼻炎用の抗ヒスタミン剤である。
【0006】
ブプロピオンは、その中心となる作用機構としてセロトニンおよびノルアドレナリンの再取込み阻害を伴う、市販されている抗うつ薬である。ブプロピオンの代謝産物は、種々の中枢神経系の疾患において治療有用性を有することが、文献に記載されている。
【0007】
(発明の概要)
驚いたことに、選択されたブプロピオン代謝産物は、サイトカイン調節因子であり、抗炎症特性を有することが見出された。本発明によれば、炎症性疾患、例えば上述したものは、一般式(I)
【化1】

【0008】
の化合物、またはその塩を用いることによって治療される。
【0009】
(発明の説明)
ブプロピオン自体は、サイトカイン放出のLPS誘発性モデルにおいて、非常に弱いサイトカイン調節活性しか有さないが、式(I)の化合物は、驚いたことに、強力なサイトカイン調節因子である。ブプロピオンは、非立体選択的に代謝されて、式(I)の4種のすべてのエナンチオマーを生成するが、これらの化合物は、親薬物の全代謝の比較的小さな部分に相当する。
【0010】
本発明で用いるための化合物はキラルであり、本発明は、(I)の任意のジアステレオマーおよびエナンチオマーを含むことが理解されよう。(I)の好ましいジアステレオマーまたはエナンチオマーは、モノアミン再取込み活性をほとんどまたは全く有さないが、強力なサイトカイン調節活性を示す。これらの活性は、適切なin vitroおよびin vivoアッセイを用いることによって判定することができる。特に好ましい化合物として、エリトロ対(erythro-pair)のジアステレオマーおよび個々のエリトロ(erythro)エナンチオマーが挙げられる。これらの特に好ましい化合物は、(1S,2R)−erythro−2−(1,1−ジメチルエチル)アミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オールおよび(1R,2S)−erythro−2−(1,1−ジメチルエチル)アミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オールである。本発明で用いるための化合物には、医薬として活性な塩、例えば塩酸塩が含まれることが理解される。
【0011】
本発明による式(I)の化合物は、多臓器(例えば、全身性紅斑性狼瘡(SLE)および強皮症など)、特定の組織または臓器(例えば、筋骨格組織(関節リウマチ、強直性脊椎炎))、消化管(クローン病および潰瘍性大腸炎)、中枢神経系(アルツハイマー病、多発性硬化症、運動ニューロン疾患、パーキンソン病、および慢性疲労症候群)、膵β細胞(インスリン依存性糖尿病)、副腎(アジソン病)、腎臓(グッドパスチャー症候群、IgA腎症、間質性腎炎)、外分泌腺(シェーグレン症候群および自己免疫性膵炎)、ならびに皮膚(乾癬およびアトピー性皮膚炎)などに関連する自己免疫疾患;慢性炎症性疾患(例えば、変形性関節症、歯周病、糖尿病性腎症、慢性閉塞性肺疾患、動脈硬化症、移植片対宿主病、慢性骨盤内炎症性疾患、子宮内膜症、慢性肝炎および結核など);IgE媒介性(1型)過敏症(例えば、鼻炎、喘息、アナフィラキシー、および皮膚炎など)を含むが、これらに限られない、炎症性疾患を治療するのに用いられる。皮膚炎の病状としては、光線性角化症、酒さ性ざ瘡、尋常性ざ瘡、アレルギー性接触皮膚炎、血管性浮腫、アトピー性皮膚炎、類天疱瘡、皮膚薬剤反応、多形性紅斑、紅斑性狼瘡、光線皮膚炎、乾癬、乾癬性関節炎、強皮症および蕁麻疹が挙げられる。眼の病状としては、例えば、糖尿病性網膜症、黄斑変性症、脈絡膜新生血管膜、類嚢胞黄斑浮腫、網膜上膜、黄斑円孔、ドライアイ、ブドウ膜炎、および結膜炎も治療することができる。
【0012】
これらの化合物は、患者が、コルチコステロイド(例えば、コルチゾール、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、ジヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、デフラザコルト、フルニソリド、ベコナーゼ、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、およびデキサメタゾンを含む)、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)(例えば、アザルフィジン、金チオリンゴ酸塩、ブシラミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、レフルノミド、メトトレキサート、ミゾリビン、ペニシラミン、およびスルファサラジンを含む)、免疫抑制剤(例えば、アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノレートを含む)、COX阻害剤(例えば、アセクロフェナク、アセメタシン、アルクロフェナク(alcofenac)、アルミノプロフェン、アロキシプリン(aloxipirin)、アンフェナク、アミノフェナゾン、アントラフェニン(antraphenine)、アスピリン、アザプロパゾン、ベノリラート、ベノキサプロフェン、ベンジダミン、ブチブフェン、セレコキシブ、クロルテノキサジン(chlorthenoxacine)、コリンサリチラート、クロメタシン(chlometacin)、デキスケトプロフェン、ジクロフェナク、ジフルニサル、エモルファゾン、エピリゾール、エトドラク、フェクロブゾン、フェルビナク、フェンブフェン、フェンクロフェナク、フルルビプロフェン、グラフェニン、ヒドロキシルエチルサリチラート、イブプロフェン、インドメタシン、インドプロフェン、ケトプロフェン、ケトロラック、ラクチルフェネチジン、ロキソプロフェン、メフェナム酸、メタミゾール、モフェブタゾン、モフェゾラク、ナブメトン、ナプロキセン、ニフェナゾン、オキサメタシン、フェナセチン、ピペブゾン、プラノプロフェン、プロピフェナゾン、プロクアゾン、ロフェコキシブ、サリチルアミド、サルサレート、スリンダク、スプロフェン、チアラミド、チノリジン、トルフェナム酸、ゾメピラクを含む)、中和抗体(例えば、エタネルセプトおよびインフリキシマブを含む)、抗生物質(例えば、ドキシサイクリンおよびミノサイクリンを含む)から選択される治療剤もまた投与される場合か、またはこれらの治療剤と組み合わせて投与される場合に、本発明に従って用いることができる。
【0013】
任意の適切な投与経路を用いることができる。例えば、経口、局所的、非経口、眼内、直腸、膣内、吸入、口腔、舌下、および鼻腔内の送達経路のいずれもが、適切となり得る。活性薬剤の用量は、病状の性質および程度、患者の年齢および状態、ならびに当業者に知られている他の要因に依存することになる。典型的な用量は、0.1から、例えば10〜100mgであり、1日当たり1回から3回投与される。
【0014】
以下のスキームおよび合成は、式Iの化合物の調製を例示する。
【化2】

【0015】
2−ブロモ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オン(2)
滴下漏斗を備えた3口の2L丸底フラスコに、3−クロロプロピオフェノン(1)(110g、0.65mol)および770mlのCHCNを入れた。得られる反応混合物を、窒素下で0℃に冷却した。臭素(33.4ml、0.65mol)を、最初は0℃で、この溶液に液滴で加えたが、添加の間に(約1/4の臭素を加えた際に)、氷浴を取り除いた[注:反応物は、メタ重亜硫酸ナトリウムの30%水溶液によって洗浄した]。反応混合物を、反応が開始するまで(ガス発生および脱色)、30℃に加温した。全体の添加は、1.5時間かかった。添加を完了した後、次いで反応混合物を0℃に冷却し、重炭酸ナトリウムの飽和溶液(約550ml)を慎重に加えた。層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した(3×440ml)。合わせた有機層を、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮することによって、淡黄色固体を得た(152g、定量的収率)。これは、いずれのさらなる精製も必要とせず、次のステップに直接用いた。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ 7.99(s,1H)、7.88(d,1H)、7.55(d,1H)、7.41(m,1H)、5.20(m,1H)、1.89(d,3H)。
【0016】
2−tert−ブチルアミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オン(3)
冷却器および滴下漏斗を装着した3口の2L丸底フラスコ中で、粗製物の2−ブロモ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オン(2)(152g、0.65mol)を、600mlのアセトニトリル(HPLCグレード)中に溶解させた。室温および窒素下で、得られる混合物に、tert−ブチルアミン(172.5ml、1.63mol)を液滴で加えた。次いでこの反応混合物を、約5時間加熱還流した。この間に、反応の進行を、TLC分析(シリカ、ヘキサン:酢酸エチル、90:10)によってモニターした。出発材料が消失し次第、反応混合物を室温に冷却し、セライト濾過し、セライトを約250mlの酢酸エチルで洗浄した。濾液を、2MのKOH溶液(350ml)で洗浄した。層を分離し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濃縮して乾燥することによって、淡橙色油状物質を得た(147g、定量的収率)。これは、いずれのさらなる精製も必要としなかった。
H−NMR(500MHz,CDCl)δ 7.98(s,1H)、7.87(d,1H)、7.56(d,1H)、7.43(m,1H)、4.29(m,1H)、2.04(bs,1H)、1.35(d,3H)、1.05(s,9H)。
【0017】
2−tert−ブチルアミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オール(4)
2L丸底フラスコ中で、147g(0.65mol)の粗製物の2−ブロモ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オン(3)を、1500mlのエタノール中に溶解させた。得られた溶液を、窒素下で0℃に冷却し、NaBH(27.1g、0.72mol)を、攪拌しながら少しずつ加えた。添加の間、温度は5℃未満に維持した。最後の添加を完了した後、反応混合物を室温にし、TLC分析(シリカ、ヘキサン:酢酸エチル、50:50)によってモニターした。出発材料が完全に消失し次第(約1時間)、147mlのHCl(37%)を、pH1が観測されるまで加えた。次いで、pHが7〜8に調節されるまで、最小量の水中の固体KOH(約25g)を加えた。この混合物を、減圧下で濃縮した。得られる残渣を、最小量の水中の固体KOH(約25g)でさらに塩基性化し、pHを10〜11に調節した。この混合物を、TBME中に抽出した(2×500mL)。有機層を合わせ、ブラインで洗浄し、無水MgSOで乾燥させ、濃縮することによって、粗製物の褐色油状物質を得た。
【0018】
精製:粗製物質(127g)を、シリカゲルでの勾配溶出クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル、90/10→ヘキサン:酢酸エチル、5:95)によって精製した。単一スポット画分を合わせ、減圧下で一定重量まで減量した。これにより、低融点固体が、ジアステレオマーの混合物として得られた(90.6g、収率58%)。
【0019】
H−NMR(500MHz,CDCl)δ 7.16〜7.37(m,10H,両ジアステレオマー)、4.55(d,1H,主異性体)、3.84(d,1H,副異性体)、3.08(m,1H,主異性体)、2.61(m,1H,副異性体)、1.15(s,9H,主異性体)、1.14(s,9H,副異性体)、1.01(d,3H,副異性体)、0.77(d,3H,主異性体)。
【0020】
13C−NMR(125MHz,CDCl)δ 145.16、144.19、134.12、134.00、129.63、129.42、129.22、127.65、127.25、126.97、126.30、125.57、125.14、124.35、74.24、71.95、54.54、51.84、51.32、51.29、30.34、30.18、30.04、20.39、18.83、17.81。
【0021】
質量スペクトル:+ve ESIで242
HPLC分析:erythro異性体 72.85%、threo異性体 25.51%
2−tert−ブチルアミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オールの別々のエリトロ(erythro)異性体およびトレオ(threo)ジアステレオマー対は、25℃の温度で、330×50 CHIRALPAK(登録商標)AD 20μmカラム、90/10 CO/エタノール+1%のジエチルアミンの移動相、60ml/分の流速、および230nmでのUV検出を用いて、分取Chiral HPLCによって得た。99gの粗製物の2−tert−ブチルアミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オールを、この方法を用いて分離することによって、以下の化合物を得た。
【0022】
(−)−(erythro)−2−tert−ブチルアミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オール(5)
30.3gの薄褐色油状物質
保持時間:10.1分
HPLC分析(230nmでの面積%)>98
異性体純度>99
(+)−(erythro)−2−tert−ブチルアミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オール(6)
29.6gの暗褐色油状物質
保持時間:11.7分
HPLC分析(230nmでの面積%)>97
異性体純度>99
(+/−)−(threo)−2−tert−ブチルアミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オール(7)
18.5gの淡褐色油状物質
保持時間 12.4分および14.6分
HPLC分析(230nmでの面積%)>98.5
ジアステレオマー純度>99
(+/−)−(erythro)−2−tert−ブチルアミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オール(8)
【0023】
以下のアッセイは、本発明の証拠を提供する。
【0024】
LPSマウスアッセイ
生後7週間のBalb C ByJマウス(24〜28g)に、腹腔内(5ml/kg)または経口(10ml/kg)投与のいずれかによって、ベヒクルまたは試験物質を投与した。30分後、これらの動物に、1mg/kgのLPSの腹腔内注射を行った。LPSを投与して2時間後、軽度のイソフルラン麻酔下で、眼窩後穿刺によって血液試料を、通常の管に採取した。試料を室温で凝血させ、次いで4℃で3分間、6000gで遠心分離した。血清は、使用するまで−20℃で保管した。血清TNFα濃度および血清IL−10濃度を、ELISA技法によって二連で分析した。
【0025】
ブプロピオン(3)は、投与した最高の用量で、LPSによって誘発されるTNFα分泌に対して低い効果を示したが、IL−10分泌に対する効果は示さなかった。還元型のブプロピオン(7)(トレオラセミ体)および(8)(エリトロラセミ体)は、両方ともサイトカイン調節作用を有した。(7)は、最も強力な作用因子であり、投与したすべての用量でTNFαを阻害し、高用量でIL−10分泌を増強した。(7)は、相当に作用の弱いサイトカイン調節因子であり、最高用量でTNFαに対して低い阻害作用を有し、いずれの用量でもIL−10に対して実際の効果を示さなかった。
【0026】
エリトロエナンチオマー(5)および(6)は両方とも、良好なサイトカイン調節特性を有した。(5)は、LPS刺激後にTNFαの産生を阻害したが、IL−10濃度に対しては効果を示さなかった。しかし、(6)は、TNFαを阻害し、IL−10の分泌を増強した。両分子は、サイトカイン調節特性を有し、これは、その抗炎症治療および免疫調節治療としてのその可能性を強調するものである。
【0027】
カラギーナン肢アッセイ(Carrageenan Paw Assay)
絶食させた(18時間)オスのWistarラット(105〜130g)を計量し、足を脛骨足根骨関節まで水銀中に浸すことによって、水銀足容積測定装置での基礎測定値を、右後肢について測定した。引き続いて、ベヒクル、参照物質および試験物質を、強制経口投与(10ml/kg)によって投与した。処置から30分後に、0.9%生理食塩水中2%のカラギーナン0.1mlを、右後肢の足底部に注射した。カラギーナン投与から1、2、3、4、および5時間後に、足容積測定装置で右肢を再び測定した。足体積の影響は、時間にわたる足体積についての曲線下面積として表した。活性(足体積の阻害)は、%抗炎症活性対ビヒクル対照として表した。
【0028】
化合物(5)および(6)はそれぞれ、足底内(intraplantar)カラギーナン誘発性足浮腫に対する、用量依存性抗炎症作用を示した。
【0029】
ラットアジュバントアッセイ(Rat Adjuvant Assay)
0日目に、オスのWistarラット(180〜200g)に、フロイントアジュバント(鉱油中のマイコバクテリウム ブチリカム(Mycobacterium butyricum)の懸濁液)を右肢への足底部注射によって接種した。同等の(matched)オスのWistarラットに、0.9%の生理食塩水で同様に偽接種を行った。2日目に、動物を計量した。3、4、7、9および11日目に、動物を計量し、脛骨足根骨関節まで足を浸すことにより、足容積測定によって、右後肢および左後肢の両方を測定した。11日目に、左後肢の体積が20%増加したラットを、研究の継続のために選択した。同日に、継続ラットに、試験物質を経口的に(蒸留水中10ml/kg)投与し、その時から研究が完了するまで1日1回投与した。左後肢および右後肢の体積を、11、14、15、16、18および21日目に測定した。
【0030】
化合物(5)および(6)の両方は、アジュバント関節炎に対して保護作用を有した。(5)は、上位2つの用量で足浮腫を軽減し、一方(6)は、すべての用量(3、10および30mg/kg)で足炎症を阻害した。
【0031】
DSS誘発大腸炎
8〜10週齢のオスのBDF1マウス(約30g)を、通常の条件で収容した。研究の開始時に、通常の水を、3%のデキストラン硫酸溶液と交換することによって、結腸炎症を誘発した。同時に、アクタリットおよび陽性対照のブデソニドを1日に2回、7日間直腸内に投与した。8日目に、動物を屠殺し、大腸を取り出した。下部の3分の2を、組織学的重症度について評価した(スコアシステム;1の軽度から4の重度)。マウスを、累積的直腸出血スコア、下痢スコア、および累積的潜血測定について評価した。
【0032】
最高用量での化合物(5)および(6)は両方とも、経口デキストラン硫酸によって誘発される組織学的スコアに対して顕著な作用を有した。(6)は、わずかにより有効であり、より低用量で高い改善作用が見られた。これは、両方とも炎症性腸疾患を治療することにおいて有用性を有する可能性があることを示す。
【0033】
実験的自己免疫性脳炎
順化したSJLマウスを、脳炎誘発性接種原として作用する、フロイント完全アジュバント(CFA)中のプロテオリピドタンパク質(PLP)の皮下注射によって感作した。接種原は、200μlの容積中125μgのPLP/300μgのCFAの濃度で、皮下に投与した。48時間後、百日咳毒素(PTX)の腹腔内注射を、20μg/kgの用量で投与することによって、血液脳関門透過性を増大させた。
【0034】
化合物(6)を、実験の第1日から終了まで1日1回、10mg/kgの用量で経口的に投与した。コパキソン(copaxone)を25mg/kgの用量で腹腔内に投与した。実験全体を通して、慎重な臨床検査および体重を利用することによって、動物の健康を観察した。
【0035】
化合物(6)は、SJLマウスEAEモデルの2回目の再発を完全に回復させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性疾患の治療または予防のための化合物の使用であって、前記化合物が、式(I)の化合物
【化1】

またはその塩である使用。
【請求項2】
前記疾患が、慢性変性疾患、例えば、関節リウマチ、変形性関節症または骨粗鬆症などである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記疾患が、慢性脱髄性疾患、例えば、多発性硬化症などである、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記疾患が、呼吸器疾患、例えば、喘息または慢性閉塞性肺疾患などである、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記疾患が、炎症性腸疾患、例えば、潰瘍性大腸炎またはクローン病などである、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記疾患が、皮膚疾患、例えば、乾癬、強皮症またはアトピー性皮膚炎などである、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記疾患が、歯の疾患、例えば、歯周病または歯肉炎などである、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記疾患が、糖尿病性腎症、ループス腎炎、IgA腎症または糸球体腎炎である、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記疾患が全身性紅斑性狼瘡である、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記疾患が移植片対宿主病である、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
前記疾患が眼病状である、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
前記眼病状が加齢黄斑変性症である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記眼病状が糖尿病性網膜症である、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記眼病状が、脈絡膜新生血管膜、類嚢胞黄斑浮腫、網膜上膜または黄斑円孔である、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
前記眼病状がドライアイである、請求項11に記載の使用。
【請求項16】
前記眼病状がブドウ膜炎である、請求項11に記載の使用。
【請求項17】
前記化合物が、一対のジアステレオマーのラセミ混合物または非ラセミ混合物である、請求項1から16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記化合物が、エリトロ対のジアステレオマーのラセミ混合物または非ラセミ混合物である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記化合物が、(1S,2R)−erythro−2−(1,1−ジメチルエチル)アミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オールまたは(1R,2S)−erythro−2−(1,1−ジメチルエチル)アミノ−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オールである、請求項1から18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
治療の対象が、コルチコステロイド、細胞毒、抗生物質、免疫抑制剤、または非ステロイド性抗炎症薬から選択される別の治療剤もまた投与される、請求項1から19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記化合物(I)および前記別の治療剤が、組み合わせて提供される、請求項20に記載の使用。

【公表番号】特表2009−529520(P2009−529520A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557829(P2008−557829)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000868
【国際公開番号】WO2007/102019
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(507303376)ソーセイ アールアンドディ リミテッド (16)
【Fターム(参考)】