説明

炎症性疾患予防改善剤

【課題】 抗炎症作用と免疫調整作用に由来して、炎症性疾患に対する優れた抑制及び治療効果を有し、副作用を生じる可能性が低い炎症性疾患予防改善剤を提供する。
【解決手段】 有効成分としてPleurotus nebrodensis及び/又はその抽出物を含むことを特徴とする炎症性疾患予防改善剤。
前記炎症性疾患予防改善剤において、Pleurotus nebrodensisが受託番号FERM P−19370のPleurotus nebrodensis株であることが好適である。
特に、Pleurotus nebrodensisの水又はメタノール抽出物を有効成分とすることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炎症性疾患予防改善剤、特に機能性食品を用いた炎症性疾患予防改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に何らかの外的・内的刺激が加わる際、生体防御反応として炎症反応が生じる。これの炎症反応は、複雑な過程を経て様々な炎症性疾患を発症させる。例えば、関節炎は、アラキドン酸の代謝に関連するホスホリパーゼAの過剰な活性化や、血小板凝集、活性酸素やラジカルの生成等に起因して生じることが報告されている。
また、自己免疫疾患は、免疫異常により、生体防御機構である免疫系が自己細胞を攻撃し、炎症性疾患を発症させる現象である。
【0003】
これまで炎症性疾患の薬物療法としては、非ステロイド性消炎鎮痛剤が長く使われてきたが、胃粘膜障害等の副作用がある上、効果の面でも不十分なため、その役割は縮小されつつある。一方、ステロイド剤や免疫抑制剤は、一定の効果はあるものの、いずれも強い副作用のため長期にわたる使用は困難である。このため、副作用を生じる可能性が低い機能性食品に対する関心も高まっている。
例えば、乳酸菌とサッカロミセス・セレビシエとの混合培養物を用いた炎症性疾患改善剤(特許文献1)や、ケールを用いた炎症性疾患予防治療剤(特許文献2)等が開発されている。
【特許文献1】特開2004−91433号公報
【特許文献2】特開2004−43381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術においては、炎症性疾患に対する予防あるいは治療効果が十分ではなく、より優れた機能性食品が要望されていた。
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、抗炎症作用と免疫調整作用に由来して、炎症性疾患に対する優れた抑制及び治療効果を有し、副作用を生じる可能性が低い炎症性疾患予防改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記事情を鑑み、本発明者等が鋭意検討を行った結果、Pleurotus nebrodensis及び/又はその抽出物が、炎症性疾患の抑制及び治療効果に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の炎症性疾患予防改善剤は、有効成分としてPleurotus nebrodensis及び/又はその抽出物を含むことを特徴とする。
前記炎症性疾患予防改善剤において、Pleurotus nebrodensisが受託番号FERM P−19370のPleurotus nebrodensis株であることが好適である。
特に、Pleurotus nebrodensisの水又はメタノール抽出物を有効成分とすることが好適である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の炎症性疾患予防改善剤は、Pleurotus nebrodensis及び/又はその抽出物を用いることにより、副作用がなく、且つ優れた炎症性疾患予防及び治療効果を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
本発明の炎症性疾患予防改善剤は、有効成分としてPleurotus nebrodensis及び/又はその抽出物を含むことを特徴とする。
本発明おいて、特に好適に用いられるPleurotus nebrodensisは、受託番号FERM P−19370であるPleurotus nebrodensis株であり、本株は平成15年5月22日付で、本特許出願人の一人である江口文陽により、産業技術総合研究所に寄託されている。
科学的性質等は以下の通りである。
1.科学的性質…菌の特徴:炭素源と窒素源を含む栄養培地下において、白色のコロニーを形成する。また、光学顕微鏡下において、クランプコネクション(かすがい連結)が観察される。
【0008】
2.分類学上の位置
担子菌
3.培養条件
<培地名>
SMYA培地
(S:サッカロース、M:マルトエキストラクト、Y:イーストエキストラクト、A:寒天)
S,A→市販品 M,Y→ディフコ社製(Difco)
<培地の組成>
培地1000ml当たり
1% サッカロース 10g
1% マルトエキストラクト 10g
0.4% イーストエキストラクト 4g
2% 寒天 20g
【0009】
<培地のpH>
5.0〜7.0(最適pH5.5)
<培地の殺菌条件>
121℃ 20分
<培地温度>
28℃
<培養期間>
10日間
<酸素要求性>
好気性
【0010】
4.保管条件
凍結法にて保管できる。
<凍結条件>
−80℃
<保護剤>
10〜20%グリセリン水溶液(最適は20%)
<凍結後の復元率>
1年で100%、3年で99%
【0011】
5.生存試験の条件
<微生物の復元>
40℃
<接種・培養・確認法>
培養条件と同一条件による。
【0012】
Pleurotus nebrodensisの抽出物を用いる場合、その抽出方法としては特に制限はないが、好適な方法について以下に詳述する。
本発明では、Pleurotus nebrodensisの子実体を用いる。子実体は生のままあるいは乾燥したもののいずれでもよいが、取り扱い性、保存性および抽出効率等の点から乾燥子実体が望ましい。
抽出物を得るに先立ち、Pleurotus nebrodensisの組織を破壊処理することが好適である。これによって効率よく抽出することが出来る。Pleurotus nebrodensisの組織を破壊する手段としては、ビーズミル、ワーリングブレンダー、ホモジナイザー等の各種粉砕混合機による粉砕処理、爆砕機等による衝撃破砕処理、凍結処理、超音波処理等の物理的処理、水酸化ナトリウム等の水溶液によるアルカリ処理、セルラーゼやペクチナーゼ等の細胞壁分解作用のある酵素による処理、浸透圧処理等の化学的処理があり、これらを単独であるいは適宜に組み合わせて行うことができる。これらの組織破壊処理のうち、特に粉砕処理が好適である。
【0013】
本発明のPleurotus nebrodensis抽出物を得るためには、前述のように組織を破壊処理したPleurotus nebrodensisに、水、低級アルコール等の抽出溶媒を加え適宜攪拌し、抽出処理すればよい。ここで、抽出溶媒としては、特に水又はメタノールが好適である。また、抽出操作は常圧下、常温下で行ってもよいが、1〜5気圧、60〜150℃の加圧、加熱下で抽出することもできる。
なお、熱水抽出による回収率は、乾燥粉末に対し、固形分で60%程度である。
このようにして得られる抽出液を、減圧濃縮、凍結乾燥、スプレードライ等の処理に供して抽出溶媒を除去し、Pleurotus nebrodensis抽出物を得ることができる。
【0014】
炎症性疾患予防改善剤として用いる際の摂取量としては、症状等により異なり特に限定されないが、成人1日当たりPleurotus nebrodensis乾燥粉末に換算して1〜30g、特に10〜20gを摂取すれば十分に効果が期待できる。
【0015】
本発明の炎症性疾患予防改善剤は、通常内服薬として投与される。
内服薬の場合には、常法により散剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、茶剤、懸濁化剤、流エキス剤、液剤、シロップ剤等とすることができる。なお、製剤化の際には、通常の製剤化担体、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、賦香剤等を必要に応じて用いることができる。また、必要に応じて適当なコーティング剤等で剤皮を施すこともできる。
また、皮膚疾患に対しては、皮膚への外用も有効であると考えられる。
【0016】
本発明において炎症性疾患としては、例えば、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、無症筋無力症、交感性眼炎、糸球体腎炎、橋本病等の自己免疫疾患の他、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、強皮症、皮膚筋炎、じんま疹、鼻炎、花粉症、結膜炎、腎炎、肝炎、甲状腺炎等が挙げられる。
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される系に対する質量%で示す。
【実施例】
【0017】
(1)試料(Pleurotus nebrodensis抽出物)の調製方法(図1)
I. 熱水抽出物
受託番号FERM P−19370のPleurotus nebrodensisの子実体乾燥粉末5gに、水100mLを加え、85℃で2時間抽出を行い、濾過により抽出液と残渣に分離し、該抽出液を凍結乾燥した。
II. エタノール抽出物
受託番号FERM P−19370のPleurotus nebrodensisの子実体乾燥粉末5gに、エタノール100mLを加えて抽出を行い、濾過により抽出液と残渣に分離し、該抽出液を凍結乾燥した。
III. メタノール抽出物
IIと同様にして、エタノールの代わりにメタノールを使用して抽出物を得た。
IV. 熱水抽出物のエタノール可溶分
Iと同様にして、熱水抽出物を得た後、5倍量のエタノールを加えて抽出を行い、濾過により抽出液と残渣に分離し、該抽出液を凍結乾燥した。
V. 熱水抽出物のエタノール不溶分
Iと同様にして、熱水抽出物を得た後、5倍量のエタノールを加えて抽出を行い、濾過により抽出液と残渣に分離し、該残渣を凍結乾燥した。
【0018】
(2)血小板凝集抑制試験
種々の炎症性皮膚疾患の発症には、アラキドン酸やその代謝物が関与していることが明らかにされている。そこで、上記各抽出物について、PAF(血小板活性因子)及びアラキドン酸ナトリウム惹起血小板凝集抑制効果を調べた。
【0019】
(試験方法)
ヒト血液を室温にて1100rpmで20分間遠心し、多血小板血漿(PRP)を分取した後、さらに3000rpmで5分間遠心して乏血小板血漿(PPP)を分取した。PRP 223μLを37℃にて予備加温した後、被験試料として上記抽出物の2%DMSO溶液、又は対照としてイオン交換水をそれぞれ2μL添加し、さらに3分間37℃でインキュベートした後、凝集誘発物質であるPAF水溶液(500nM)を25μL添加した。
惹起された凝集は、アグリゴメーター(MCMヘマトレーサー MCMメディカル株式会社製)を用いて測定し、被験試料の最大凝集率(PPPの値を100として被験試料の凝集曲線より求められた最大値)を対照の最大凝集率と比較することにより、PAF惹起血小板凝集に対する抑制作用を評価した。
また、アラキドン酸に対する血小板凝集に対する抑制作用も、上記のPAF水溶液のかわりにアラキドン酸ナトリウム水溶液(500μM)を用いることにより、同様に評価した(図2)。
【0020】
図3の右側はPAF惹起、左側はアラキドン酸惹起による血小板凝集に対する抑制効果を示している。いずれの抽出物も血小板凝集抑制効果を有することが確認されたが、特に、熱水抽出物(A群)、メタノール抽出物(C群)、及び熱水抽出物のエタノール可溶部(D群)に優れた血小板凝集抑制作用が認められた。
以上のことから、Pleurotus nebrodensis及び/又はその抽出物を摂取することにより、血小板凝集を抑制でき、炎症性疾患の改善・予防効果が発揮されるものと考えられる。また、皮膚疾患に対しては、皮膚への外用も有効であると考えられる。
【0021】
(3)ケモカイン遺伝子発現抑制試験
種々の炎症性皮膚疾患の発症には、インターロイキン−8(IL−8)等のケモカインが強く関与することが明らかにされている。従って、ケモカインの発現の抑制は、これらの炎症性疾患症状の改善や予防に有効であると考えられる。
そこで、上記各抽出物についてケモカイン遺伝子発現抑制作用を調べた。
(試験方法)
ヒト皮膚線維芽細胞を直径6cmの培養皿で、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(ダルベッコ変法イーグル培地)でコンフルエントになるまで培養し、被験培地として実験に供した。
被験培地に、被検試料として上記各抽出物、又は陽性対照としてハイドロコルチゾン()を添加した。上記抽出物及びハイドロコルチゾンの終濃度はそれぞれ0.01%(乾燥質量)及び10−7Mとした。
【0022】
さらに、ケモカイン遺伝子発現を促進することが知られている腫瘍壊死因子TNF−α(1ng/ml)を添加し、37℃で6時間培養した。
次に常法に従って、細胞からRNAを単離し、cDNAを合成したのち、定量的PCR法(TaqMan PCR法)により、IL−8遺伝子の発現量を測定し、被験培地に何も添加しない場合の発現量との比を算出した。内部標準遺伝子としてGAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素)遺伝子を用い、得られたデータを補正した(図4)。
なお、ヒト皮膚線維芽細胞は市販品として、例えば倉敷紡績株式会社から入手可能である。また、ヒト線維芽細胞の培養は、動物細胞を培養するための常法に従って行えばよいが、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地が特に好ましい。
【0023】
結果を図5に示す。いずれの抽出物もケモカイン遺伝子発現の抑制作用を有することが確認されたが、特に、熱水抽出物(A群)、メタノール抽出物(C群)、及び熱水抽出物のエタノール可溶部(D群)に優れた抑制作用が認められた。
陽性対象であるハイドロコルチゾンは、抑制効果が強かったが、ステロイドホルモンであるため、組織障害、潰瘍形成等の副作用が引き起こされる可能性がある。これに対して、本発明のPleurotus nebrodensis抽出物は、抑制効果はハイドロコルチゾンには及ばないが十分であり、副作用の心配がないので長期連用が可能である。
以上のことから、Pleurotus nebrodensis及び/又はその抽出物を摂取することにより、ケモカイン遺伝子発現を抑制でき、副作用なしに、炎症性疾患の改善・予防効果が発揮されるものと考えられる。
【0024】
(4)in vivo試験
MRL/Mp−lpr/lpマウス(MRLマウス)は、急性及び慢性炎症が同時に生じ、糸球体腎炎、肉芽腫性血管炎、多発性関節炎、リンパ腫、自己抗体の産生を自然発症する。この発症はヒト全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチに類似しており、炎症性疾患の病態の解析や薬効開発に有用なモデル動物として汎用されている。
そこで、このMRLマウスと、比較として正常なICRマウスを用いて、上記各抽出物のうち特に効果のあった抽出物I,III,IVについて、抗炎症効果及び免疫調整効果を試験した。
【0025】
(1)試験マウスの予備飼育(4〜7週齢)
日本チャールスリバー(株)より購入した4週齢の雄性MRLマウス、及び雄性ICRマウスを、室温22±1℃、湿度60±10%に調節された飼育室において、白色蛍光灯で1日12時間(7〜19時明期)の光調節を行い、飼料及び水道水を自由摂取させ3週間予備飼育した。
予備飼育後、各個体の体重測定を行い、1群10頭とし、体重の平均値がほぼ等しくなるようにMRLマウスをA〜D群に分類し、ICRマウスをE群とした。
【0026】
2.試料の投与方法(7〜19週齢)
下記の要領で、各群のマウスに抽出物を投与し、さらに12週間、19週齢まで飼育した。投与量は、体重60kgの成人が、子実体換算で1日20g接種することに相当するように調整した。各抽出物はすべて経口投与とし、毎日午前10時より施行した。投与後は滅菌水を自由摂取させた。
固形飼料(MF:オリエンタル酵母工業株式会社製)と水道水は、各群とも自由摂取させた。飼育室の環境は、温度20±2℃、湿度60±10%、白色蛍光灯で1日12時間の採光下(7〜19時明期)とした。
【0027】
(MRLマウス)
A群:I.熱水抽出物投与
B群:III.メタノール抽出物投与
C群:IV.熱水抽出物のエタノール可溶分投与
D群:無投与
(ICRマウス)
E群:無投与
【0028】
3.血液検査
実験最終日の前日に全マウスを絶食させ、翌日に深麻酔(ネンブタール,45mg/kg,i.p.)し、左心室から20G採血針で可能な限り採血を行った。
採取した血液を用いて、下記の項目において生化学的検査を行った。得られた成績は、群間比較をWilcoxon U-testで解析し、5%以内の危険率を持って有意な差があると判定した(p<0.05)。なお、すべての値は平均値と標準誤差値で表示した。
【0029】
<抗炎症作用について>
乳酸脱水素酵素(LDH)は、心筋、骨格筋、肝臓、腎臓、赤血球等、生体に広く分布し、組織の細胞膜の透過性亢進あるいは細胞破壊によって血中に遊出してくる逸脱酵素である。その活性値上昇から、炎症の程度を知ることができる。
試験方法:LDHは、ピルビン酸を基質として乳酸を生成すると同時に、補酵素である還元型ニコチンアミドアデノシンジヌクレオチド(NADH)は酸化型に変化する。NADHは340nmに吸収極大を持つので、吸光度の減少速度を測定して、LDHの活性値を算定した。
【0030】
C−反応性蛋白(CRP)は、代表的な急性期反応蛋白であり、体内に炎症や組織の壊死がある場合に増加する血漿蛋白である。その活性値上昇から、炎症の程度を知ることができる。
試験方法:CRP値は、分光光度計を用いた免疫比濁法(ピュアオートSCRPTM:第一化学薬品)で測定した。CRPに対する特異抗体とマウス血清を加えた抗原抗体複合物は濁度を生じるため、その濁度の強さを吸光度変化として測定した。
【0031】
リウマトノイド因子(RF)は、リウマチ性多発性関節炎患者の血中に見られ、免疫グロブリンに対する自己抗体群である。慢性関節リウマチ(RA)では、末梢血や罹患部に存在するBリンパ球がRFを産生すると考えられている。よってRF値上昇から、炎症の程度を知ることができる。
試験方法:RF値は、熱変性γ−グロブリンと反応するRFを免疫比濁法(日本製薬)によって測定した。複合物は濁度を生じるため、その濁度の強さを吸光度変化として測定した。
【0032】
図6に、LDH、CRP及びRFの測定結果(抗炎症作用)を示す。
ICRマウスにおいては、LDH値は低く、CRP及びRF値は0であった。
これに対し、MRLマウスでは、これらの値が高かった。しかしながら、MRLマウスにおいては、無投与群(D群)と比較して、抽出物投与群(A〜C群)では、これらのパラメーターの低下が見られた。
このように、LDH、CRP及びRFの値から、Pleurotus nebrodensisの抗炎症効果が確認された。
【0033】
<免疫調整作用について>
CD4及びCD8は、リンパ球上に存在する表面抗原分子の一つである。CD4は、主要組織適合抗原クラスII(MHC-II)抗原と複合体を形成し、抗原認識を指示する機能があり、CD8は、主要組織適合抗原クラスI(MHC-I)抗原と複合体を形成し、抗原認識を補助する機能がある。そのバランス(CD4/CD8)は、免疫不全状態で低下し、自己免疫性疾患などで上昇が認められる。
試験方法:CD4/CD8は、以下のようにして測定した。
脾組織よりT細胞を単離して、Lysing Regentで溶解させ、ナイロンメッシュを通した。OKT4(CD4)、OKT8(CD8)を用いて、ヘルパー/インデューサーT細胞、サプレッサー/細胞障害型Tリンパ球と反応させた。実験はOKT4(FITCラベル)、OKT8(PEラベル)標識モノクロナール抗体の組み合わせでT細胞と反応させ、フローサイトメーター(Profile;Coulter, Hialeah,FL,USA)で解析した。
【0034】
RF−IgGは、IgG(最も多く血中に存在し、抗原抗体反応の中心となっている免疫グロブリン)に対する自己抗体群である。RF−IgGは、関節外症状の強いRAで認められることが多く、関節炎よりも血管炎に関連しており、その値から、免疫の異常を予測することができる。
試験方法:RF−IgG値は、熱変性γ−グロブリンと反応するRFを免疫比濁法(日本製薬)によって測定した。複合物は濁度を生じるため、その濁度の強さを吸光度変化として測定した。
【0035】
図7に、CD4/CD8、RF−IgGの測定結果(免疫調整作用)を示す。
前述のように、CD4/CD8は、自己免疫性疾患等で上昇が認められる値である。正常のICRマウスと比較して、MRLマウスでは、この値が高かった。しかしながら、MRLマウスにおいては、無投与群(D群)と比較して、抽出物投与群(A〜C群)では、低下が見られた。
また、RF−IgGは自己抗体群であるが、ICRマウスにおいては、この値が0であった。これに対し、MRLマウスでは、RF−IgGの値が高かった。しかしながら、MRLマウスにおいては、無投与群(D群)と比較して、抽出物投与群(A〜C群)では、低下が見られた。
このように、CD4/CD8、RF−IgGから、Pleurotus nebrodensisの免疫調整効果が確認された。
【0036】
<血中タンパクへの影響について>
総タンパクは、約100種類に及ぶ血中蛋白質の総称であり、糖質や脂質と結合し複合蛋白を形成している。
A/G比は、血漿タンパクであるアルブミン(Alb)と総グロブリン(Glob)の比率であり、その値はAlbとGlobの相対的変動に依存する。
総タンパク値及びA/G比は、体内のタンパク代謝の指標として利用され、全身の一般状態を推測することができる。
試験方法:これらの値は、自動化学分析装置(Auto Lab, Radio lmmuno Assay 法)にて分析を行った。
【0037】
図8に、総タンパク、A/Gの測定結果(血中タンパクへの影響について)を示す。
正常のICRマウスと比較して、MRLマウスでは、総タンパク値が高く、A/G値が低かった。しかしながら、MRLマウスにおいては、無投与群(D群)と比較して、抽出物投与群(A〜C群)では、これらのパラメーターにおいて改善が見られ、正常ラット(E群)の値とほぼ等しくなった。
このことから、抗炎症効果及び免疫調整効果に加えて、タンパク代謝も改善されることが確認された。
【0038】
<腎機能への影響について>
尿素窒素は、蛋白の最終代謝産物である尿素中の窒素のことである。尿素は肝で尿素サイクルを経て生成する窒素成分で、血中に放出され腎臓から排泄される。
クレアチニンは、血中非蛋白性窒素化合物の1つであり、尿素や尿酸等と同様に腎を介して尿中に排泄される。
尿酸は、肝臓、筋肉、骨髄で生成される核酸構成成分であるプリン体の最終代謝産物である。尿酸は組織で分解され、少量は胆汁・腸に、大部分(60〜80%)は尿中に排泄される。
尿素窒素、クレアチニン、及び尿酸の測定は、腎機能の指標に用いられる。
試験方法:これらの値は、自動化学分析装置(Auto Lab, Radio lmmuno Assay 法)にて分析を行った。
【0039】
図9に、尿素窒素、クレアチニン、尿酸の測定結果(腎機能への影響について)を示す。
正常のICRマウスと比較して、MRLマウスでは、尿酸値が高く、尿素窒素値及びクレアチニン値が低かった。しかしながら、MRLマウスにおいては、無投与群(D群)と比較して、抽出物投与群(A〜C群)では、これらのパラメーターにおいて改善が見られ、正常ラット(E群)の値に近づく傾向が見られた。
このことから、抗炎症効果及び免疫調整効果に加えて、腎機能も改善されることが確認された。
【0040】
以上のように、in vivo試験においても、Pleurotus nebrodensis及び/又はその抽出物には、抗炎症作用と免疫調整作用の両方に由来する炎症性疾患発症の抑制及び治療効果があることが確認された。
なお、特に効果が高かった抽出部分は、熱水抽出物(及びそのエタノール可溶部)と、メタノール抽出物であった。今回の試験においては、有効成分の解明には至らなかったが、メタノール抽出物とエタノール抽出物とでは、活性に明らかな差が見られたこと、及び熱水抽出物の有機溶剤可溶部に活性が見られたことから、有効成分と作用機序解明に有効であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に用いた抽出物の調製方法を示す図である。
【図2】本発明における血小板凝集抑制作用の試験方法を示す図である。
【図3】本発明における血小板凝集抑制作用の試験結果を示す図である。
【図4】本発明におけるケモカイン遺伝子発現抑制作用の試験方法を示す図である。
【図5】本発明におけるケモカイン遺伝子発現抑制作用の試験結果を示す図である。
【図6】本発明における血液検査の結果(抗炎症作用)を示す図である。
【図7】本発明における血液検査の結果(免疫調整作用)を示す図である。
【図8】本発明における血液検査の結果(血中タンパクへの影響)を示す図である。
【図9】本発明における血液検査の結果(腎機能への影響)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてPleurotus nebrodensis及び/又はその抽出物を含むことを特徴とする炎症性疾患予防改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の予防改善剤において、Pleurotus nebrodensisが受託番号FERM P−19370のPleurotus nebrodensis株であることを特徴とする炎症性疾患予防改善剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の予防改善剤において、Pleurotus nebrodensisの水又はメタノール抽出物を有効成分とすることを特徴とする炎症性疾患予防改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−241115(P2006−241115A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62027(P2005−62027)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(599119363)
【出願人】(503190453)
【出願人】(503008860)農事組合法人ネオプランツ (1)
【出願人】(592003371)有限会社柄澤産業 (5)
【Fターム(参考)】