説明

炎症性腸疾患を治療するための方法および組成物

【課題】炎症性腸疾患を治療するために用いられる薬物療法の方法および組成物を提供する。
【解決手段】非定型マイコバクテリアに対して有効な抗非定型マイコバクテリア薬の組み合わせ、好ましくは、リファブチン、クラリスロマイシンおよびクロファジミンの投与、少なくとも1つの5−アミノサリチル酸化合物または4−アミノサリチル酸化合物をさらに含む。また、非病原性マイコバクテリアの抽出物を用いて患者を免疫することによって、炎症性腸疾患の治療における抗非定型マイコバクテリア薬の効力を高める方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローン(Crohn's)病などの炎症性腸疾患の治療のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
炎症性腸疾患(IBD)は、下痢、痙攣、腹痛、体重減少および直腸出血を典型的な特徴とする原因不明の疾患である。これには、クローン病、潰瘍性大腸炎、分類不能大腸炎(indeterminate colitis)、顕微鏡的大腸炎およびコラーゲン蓄積大腸炎などの疾患が含まれる。その原因は不明である。しかし、パラ結核菌(Mycobacterium paratuberculosis)(Mp)およびおそらくはその種々の亜系(sub-strain)が、腸壁を構成する細胞内に侵入することによって、感染の役割を果たすと思われることを示す一定の証拠がこれまでに得られている。この細菌の由来は不明であるが、ヒツジ、ウシ、ウサギ、さらには他にヒトなどの他の動物の体内に存在する可能性がある。それはおそらくミルク、汚染された水道水、加熱が不十分な肉などを介して人々に伝染するものと思われる。クローン病の原因としてのMpの関与については長年議論があるが、近年PCR法が適用されるようになってクローン病の大部分の症例が実際にこの生物体に感染されていることが確認されはじめており、これが原因となる感染性病原体である可能性が高い。これまでのところ、INH、ピラチナミド、ストレプトマイシン、エタンブトール、リファンピシンおよびPASなどの抗結核薬の併用によるMp除菌を目指した治療法は、一般にほとんど患者の役に立っていない。すなわち、一定の割合の患者で一過的な改善はみられるものの、治癒する患者はない。実際には、Mpが仮に本症の原因であるとしても、これは「非定型マイコバクテリア」であり、非定型マイコバクテリアに対する既知の治療法はないため、Mpに対して行いうる有効な治療法は存在しない。さらに、パラ結核菌の分裂時間は長いため、感染症の治療には多数の抗菌薬が必要であり、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の治療法で用いられる治療と同じく、治療は長期的に行わなければならない。さらに、現行の薬物による結核菌の治療は、耐性株の出現をもたらす。このような耐性株は、既知の抗菌薬で除去することができない。このため、薬剤耐性結核に対する有効な治療法は知られていない。
【0003】
このため、炎症性腸疾患、特にクローン病の効果的な治療が必要とされている。本発明の目的は、このような治療を提供することである。
【0004】
驚くべきことに、本発明者らは、抗非定型マイコバクテリア薬および/または免疫化量(immunising amount)のマイコバクテリア産物の組み合わせを患者に投与することによって、炎症性腸疾患の症状の原因と考えられているマイコバクテリアの代謝を感染の治癒に十分な程度に抑制しうること、およびこのために症状を緩和しうることを見いだした。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明は、クローン病および大腸炎を含む炎症性腸疾患の治療に用いられる薬物療法の方法および組成物を提供する。本発明の方法は、感染症の治癒および臨床的状態の好転をもたらす。本発明はさらに、非定型マイコバクテリア株に対して有効な抗非定型マイコバクテリア薬の組み合わせを提供する。また、非病原性マイコバクテリアの抽出物を用いて患者を免疫することによって、炎症性腸疾患の治療における抗非定型マイコバクテリア薬の効力を高める方法も提供する。
【0006】
したがって、第1の態様において、本発明は、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬を含む、炎症性腸疾患の治療のための組成物を提供する。
【0007】
第2の態様において、本発明は、前記治療を必要とする患者に対して少なくとも3種の有効量の抗非定型マイコバクテリア薬を投与することを含む、炎症性腸疾患の治療のための方法を提供する。
【0008】
第3の態様において、本発明は、前記治療を必要とする患者に対して少なくとも3種の有効量の抗非定型マイコバクテリア薬を投与すること、および免疫化量のマイコバクテリア抽出物または生成物を用いて患者を免疫することを含む、炎症性腸疾患の治療のための方法を提供する。
【0009】
第4の態様において、本発明は、前記治療を必要とする患者に対して免疫化量のマイコバクテリア抽出物または生成物を投与することを含む、炎症性腸疾患の治療のための方法を提供する。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、(a)炎症性腸疾患の治療のための医薬品の製造を目的とする、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬を含む組成物の使用、(b)炎症性腸疾患の治療のための医薬品の製造を目的とする、少なくとも3種の抗非定型マイコバクテリア薬およびマイコバクテリア抽出物もしくは生成物を含む組成物の使用、ならびに(c)炎症性腸疾患の治療のための医薬品の製造を目的とする、マイコバクテリア抽出物または生成物の使用、を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の説明
本発明は、種々の抗非定型マイコバクテリア薬の組み合わせを用いる、クローン病および大腸炎ならびに他の炎症性腸疾患の治療に有用な使用方法および組成物を開示する。
【0012】
本発明の第1の態様の組成物、または第2もしくは第3の態様の方法において、抗非定型マイコバクテリア薬の妥当な組み合わせには、抗非定型マイコバクテリア薬の3剤(3つの薬物の)配合が含まれ、または耐性株の出現などの例外的な状況ではさらに多くの組み合わせが含まれる。パラ結核菌の耐性株をもつ患者には4種、5種さらには6種もの薬物の併用が必要なこともある。適した抗非定型マイコバクテリア薬には、クラリスロマイシン、リファブチン、リファンピシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、アミカシン、クロファジミン、エタンブトール、オフロキサシン、シプロフロキサシンおよびオキサゾリジノンが含まれるが、これらに制限されない。これらを、メサラジン、オルザラジン、サラゾピリンまたはパラアミノサリチル酸などの、1つまたは複数の5-アミノサリチル酸化合物または4-アミノサリチル酸化合物と併用してもよい。典型的には、抗非定型マイコバクテリア薬の少なくとも1つはリファブチンまたはクラリスロマイシンである。より典型的には、第1の態様の組成物は、リファブチン、クラリスロマイシンおよびクロファジミンを含む。同様に、第2および第3の態様の方法は、通常、有効量のリファブチン、クラリスロマイシンおよびクロファジミンの組み合わせの患者への投与を含む。
【0013】
驚くべきことに、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬の併用は、炎症性疾患に対して、それぞれの単独の抗非定型マイコバクテリア薬のみの効果から予想されるよりも実質的に高い効果を生じる。
【0014】
典型的には、本発明の組成物は、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬をそれぞれ10〜500mgの範囲で含みうる。より典型的には、本発明の組成物は、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬をそれぞれ10〜250mgの範囲で含みうる。さらにより典型的には、本発明の組成物は、リファンブチンを50〜250mgの範囲、より典型的には約150mg含み、クラリスロマイシンを200〜300mgの範囲、より典型的には約250mg含み、およびクロファジミンを10〜150mgの範囲、より典型的には約50mg含む。さらに、その他の抗非定型マイコバクテリア薬が、既知の投与量に準拠した量で存在してもよい。
【0015】
典型的には、本発明の組成物を、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬のそれぞれを圧縮粉末の形態で含む錠剤の形態として使用できる。または、本発明の組成物を、1種または複数種の抗非定型マイコバクテリア薬をマイクロカプセル化された形態で含む錠剤/カプセル剤の形態で使用することもできる。もう1つの可能性としては、本発明の組成物を、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬のうち1つを圧縮粉末の形態として含み、残りの抗非定型マイコバクテリア薬をマイクロカプセル化された形態として含む錠剤/カプセル剤の形態として使用することもできる。さらなる可能性としては、本発明の組成物を、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬のそれぞれを微粒子化された形態で含む錠剤/カプセル剤の形態として使用することもできる。その上にさらなる可能性として、本発明の組成物を、1つもしくは複数の抗非定型マイコバクテリア薬をカプセル内に含む錠剤、1つもしくは複数の抗非定型マイコバクテリア薬を錠剤内に含むカプセル剤、他の抗非定型マイコバクテリア薬を含む外部カプセル内に1つもしくは複数の抗非定型マイコバクテリア薬を含むカプセル剤、または以上の任意の組み合わせの形態として使用することもできる。
【0016】
好ましい形態において、本発明の組成物は、クラリスロマイシンおよびクロファジミンを含む外部カプセル内にあるリファブチンを含む内部カプセルからなり、クラリスロマイシンおよびクロファジミンは粉末化、マイクロカプセル化または微粒子化された形態として存在しうる。
【0017】
典型的には、本発明の方法は、直前の段落で説明したような、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬のそれぞれを含む1つまたは複数の錠剤/カプセル剤を投与すること、または3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬のそれぞれを別々に投与することを通して実施しうる。
【0018】
第4の態様の方法では、これまでに治療を受けていない、または抗炎症療法を現在受けている患者が、免疫された患者における白血球を刺激する免疫化物質(immunising agent)としてのマイコバクテリア抽出物または生成物(生菌もしくは死菌、またはその抽出された細胞壁およびDNA成分)による免疫化によって治療される。このような免疫化物質は、M.バッケー(M. vaccae)またはチモテ菌(M. phlei)などの既知の非病原性マイコバクテリア由来の抽出物または生成物でありうる。本明細書で用いる「マイコバクテリア抽出物または生成物」という表現は、アジュバントを含むか含まないかにかかわらず、マイコバクテリア死菌またはマイコバクテリア抽出物の全体を意味する。適したマイコバクテリア抽出物または生成物の例には、カナダのオンタリオ州ロンドンのバイオニシェ(Bioniche)社から購入しうるレグレッシン(Regressin)がある。
【0019】
マイコバクテリア生成物は、免疫刺激物質として患者に反復的に免疫化を施すために用いることもできる。マイコバクテリア生成物は、経口、静脈内、筋肉内または皮下などのいくつかの経路のうちいずれかを介して投与することができる。このような免疫化には、患者をMp感染から脱却させ、疾患を治癒させたり、または患者に長期的な寛解をもたらしたりする能力がある。マイコバクテリア抽出物または生成物の投与は、典型的には週1回から月1回の範囲で行われるが、頻度はそれより多くても少なくてもよい。本明細書の開示により、開業医は、任意の個々の症例に対する適切な治療計画を容易に立てられる。
【0020】
チモテ菌(Mycobacterium phlei)抽出物(例えばRegressin)による好ましい治療法には、患者が発熱、悪寒および吐気を生じるまで毎週50μgずつ抽出物の投与量を増やしていく週1回の免疫化プログラムが含まれる。その後は用量を50μg減らしてより低いレベルにし、患者は月1回のペースで維持的な免疫化を続ける。治療は6週間から、月1回の免疫化プログラムでは2年またはそれ以上継続することができる。
【0021】
もう1つの治療形式では、標準的な抗炎症療法を反復的なレグレッシン免疫化と組み合わせることができる。
【0022】
第3の態様の方法では、少なくとも3種の抗非定型マイコバクテリア薬が、免疫化物質としてのマイコバクテリア抽出物または生成物と併用される。第3の態様の方法で用いるためのマイコバクテリア抽出物または生成物は、第3の態様に関する上記のマイコバクテリア抽出物または生成物であってよい。例えば、治療法においてリファブチンをクラリスロマイシンおよびクロファジミンと組み合わせ、さらにチモテ菌抽出物(例えばRegressin)を用いる免疫化手順と組み合わせてもよい。
【0023】
本発明の方法において、抗非定型マイコバクテリア薬は通常、3〜36カ月の期間にわたって連続的に用いられる。抗非定型マイコバクテリア薬の投与量は一般に既知の投与量の範囲に準拠したものである。例えば、クラリスロマイシンの典型的な投与量は1日250mgから1.5gの範囲、より典型的には1日約750mgであり、リファブチンの典型的な投与量は1日150mgから750mgの範囲、より典型的には1日約450mgであり、クロファジミンの典型的な投与量は1mg/kgから約6mg/kgの範囲、より典型的には約2mg/kgであり、エタンブトールの典型的な投与量は最大約15mg/kgであり、アジスロマイシンの典型的な投与量は1日250mgから1000mgの範囲、より典型的には1日約500mgである。
【0024】
炎症過程は、本発明に係る治療の経過中に大腸内視鏡検査および生検、ならびに種々の血液パラメーターによってモニタリングすることができる。
好ましくは、本発明の第3の態様の方法は、上記の投与量によるクラリスロマイシンと、リファブチンおよびクロファジミンとの24カ月間にわたる1日1回の治療からなる。より好ましい方法では、患者は、チモテ菌のマイコバクテリア抽出物(Regressin)を用いて、期間をおいて反復的に免疫化を受ける。これは経口、静脈内、皮下または以上の組み合わせによって投与しうる。マイコバクテリア抽出物の投与は、任意の回数で、25μgから500μgの範囲、より典型的には50μgから500μgの範囲で行いうる。しかし、免疫刺激を維持するには、週1回から月1回の範囲、典型的には週1回または月1回で通常は十分である。
【0025】
また、本発明の方法を、サラゾピリン、オルザラジンまたはメサラジンなどの、1つまたは複数の比較的穏やかに作用する抗結核薬のほか、その他のこれより知られていないアミノサリチル酸と組み合わせることもできる。4-アミノサリチル酸または5-アミノサリチル酸を、上記の任意の3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬と組み合わせることもできる。これらの薬剤の投与量は一般に知られている。例えば、サラゾピリンの典型的な用量の範囲は1日約500mgから4gの範囲であり、オルザラジンまたはメサラジンについては1日約500mgから約3gの範囲である。したがって、第1の態様の組成物は結核に対して有効な薬剤をさらに含みうる。同様に、第2および第3の態様の方法は、結核に対して有効な有効量の薬剤の投与をさらに含みうる。
【0026】
本発明の投与のための組成物は、抗非定型マイコバクテリア薬と選択された賦形剤、希釈剤、担体およびアジュバントとのブレンディング、粉砕、均質化、懸濁化、溶解、乳化、分散ならびに適当な場合には混合を含む、組成物の調製に関する当技術分野(薬学的組成物の技術分野など)で知られた手段によって調製しうる。
【0027】
経口投与のための薬学的組成物は、凍結乾燥粉末、液剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、シロップおよびチンキ剤を含む、錠剤、薬用ドロップ、丸剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、散剤の形態でありうる。例えばコーティングされた粒子、多層錠、または微粒子剤などの形態にある徐放性または遅延放出性の剤形も調製しうる。
【0028】
経口投与用の固体剤形は、薬学的に許容される結合剤、甘味料、崩壊剤、希釈剤、着香料、コーティング剤、保存料、潤滑剤および/または時間遅延剤(time delay agent)を含みうる。適した結合剤には、アラビアゴム、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム 、カルボキシメチルセルロースまたはポリエチレングリコールが含まれる。適した甘味料には、ショ糖、乳糖、ブドウ糖、アスパルテームまたはサッカリンが含まれる。適した崩壊剤には、コーンスターチ、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム(xanthan gum)、ベントナイト、アルギン酸または寒天が含まれる。適した希釈剤には、乳糖、ソルビトール、マンニトール、デキストロース、カオリン、セルロース、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムまたはリン酸二カルシウムが含まれる。適した着香料には、ハッカ油、冬緑油、サクランボ、オレンジまたはラズベリー着香料が含まれる。適したコーティング剤には、アクリル酸および/もしくはメタクリル酸ならびに/またはそれらのエステルの重合体または共重合体、ロウ、脂肪アルコール、ゼイン(zein)、シェラック(shellac)またはグルテンが含まれる。適した保存料には、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、α-トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベンまたは重亜硫酸ナトリウムが含まれる。適した潤滑剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはタルクが含まれる。適した時間遅延剤には、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンが含まれる。
【0029】
経口投与用の液体剤形は、上記の作用物質に加えて液体担体を含みうる。適した液体担体には、水、オリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、落花生油、ヤシ油などの油、流動パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、脂肪アルコール、トリグリセリドまたはこれらの混合物が含まれる。
【0030】
経口投与用の懸濁液は、分散剤および/または懸濁剤をさらに含みうる。適した懸濁剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウムまたはセチルアルコールが含まれる。適した分散剤には、レシチン、ステアリン酸などの脂肪酸などのポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビトールモノ-またはジ-オレエート、-ステアレート-または-ラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノ-またはジ-オレエート、-ステアレート-または-ラウレートなどが含まれる。
【0031】
経口投与用の乳濁液は、1つまたは複数の乳化剤をさらに含みうる。適した乳化剤には、上記に例を挙げた分散剤、またはアラビアゴムもしくはトラガカントゴムなどの天然ゴムが含まれる。
【実施例】
【0032】
実施例1:抗非定型マイコバクテリア薬の組み合わせを用いる炎症性腸疾患患者の治療
年齢13から58歳までの患者15例を、種々のプロトコールにより抗マイコバクテリア薬によって治療した。12例にクローン病があり、3例に潰瘍性大腸炎があった。これらの患者のうち9例でパラ結核菌の存在が同定された。クラリスロマイシン(1日250mgから1.5g)、リファブチン(1日150mgから750mg)およびクロファジミン(3mg/kgから10mg/kg)の組み合わせを用いた。これらの患者では急速な臨床的寛解が得られ、プレドニゾン、アザチオプリンおよび5ASA化合物が中止され、彼らの炎症性腸疾患は臨床的に沈静化した。
【0033】
治療4ヶ月後に患者5例が大腸内視鏡検査を受けた。これらの患者のうち2例では結腸および終末回腸部の粘膜が正常化していたが、3例では斑状の炎症性変化および若干の好酸球を伴うごく軽度の炎症性浸潤を示す組織像が依然として認められた。
【0034】
これらの3例の患者では、クラリスロマイシンおよびリファブチンの組み合わせ(上記と同じ投与量)にクロファジミン2mg/kgをさらに加えることが、好ましい治療法となった。患者の70%は8カ月の時点で劇的に改善され、抗炎症性腸疾患剤の必要性はなくなった。プレドニゾン、アザチオプリンおよび5ASA化合物はいずれも用いなかった。これらの患者における炎症過程はもはや検出不能であり、顕微鏡による観察でも組織学的にIBDの所見はみられなかった。しかし、リファブチンに対する過敏性がみられた患者1例(顕著な頭痛および発熱)では、リファブチンをエタンブトールに切り替え、2日毎に400mgの用量とした。この用量は炎症過程を好転させるためにある段階で50mg/kgに増量し、その後10mg/kgに戻した。この患者でも炎症過程の好転が得られ、下痢および出血が消失し、最終的には緊急的ではなくなった。さらにもう1人の患者には、クラリスロマイシンに対する耐性がみられたため、4種の薬物を同時に用いた。アジスロマイシン、毎朝500mg(250〜1,500mgの範囲)を、リファブチン、クロファジミンおよびエタンブトールと併用した。
【0035】
実施例2:微生物抽出物を用いての炎症性腸疾患患者の治療
2箇所の腸切除および狭窄切開術を受け、アゾピアスリン(azopiathrin)、プレドニゾンおよびメサラジンからなる標準的なクローン病治療を受けている34歳の患者に対して、レグレッシン(Regressin)の免疫刺激注射を行った。これは開始用量500μgとして筋肉内投与、後に経口投与とし、続いて4週間にわたり週1回500μg、以降は月1回投与した。
【0036】
反復的な経口免疫化処置を週1回および後には月1回のペースで行った2年後も、患者は無症状ですべての治療を要しない状態が持続しており、このことはクローン病が好転および消失したことを示唆する。大腸内視鏡検査では吻合部にクローン病は認められなかった。
【0037】
実施例3:リファブチン- マクロライド-クロファジミンの組み合わせを用いての重症クローン病の治療
最大限の従来治療が奏効しない患者に対して、リファブチン(450mg/日)、クラリスロマイシン(750mg/日)およびクロファジミン(2mg/kg)の併用を将来的な事を考慮し開始した。アザチオプリンは中止し、5-ASAおよびステロイド剤は徐々に減量した後に中止した。大腸内視鏡検査、断層超音波検査、血液学検査値およびハーベイ・ブラッドショウ活動指数(Harvey-Bradshaw activity index)によって経過をモニタリングした。8〜12カ月後に、患者10例では併用療法のみによってクローン病のほぼ完全なコントロールが得られた。検査を行った患者5例全員で回腸狭窄は拡張し、超音波でみた壁厚は正常化した。本症の患者において広範な偽ポリープ群は結腸から消失し、本症の患者において機能を損う回腸フィステルは11カ月の時点で閉鎖され、本症の患者12例のうち5例では回腸および結腸粘膜は炎症性から組織学的に非炎症性に好転した。治療8〜12カ月後には、すべての患者で血液学検査値が本質的に正常化した。患者2例ではステロイド中止後2〜3カ月にわたりクローン病が進行し、本発明の併用療法を続けながらも後にステロイドを再開した。ハーベイ・ブラッドショウ活動指数は15.5から2.5に低下した。
【0038】
実施例4:炎症性腸疾患の患者に対する経口投与用の組成物
リファブチン150mg、クラリスロマイシン250mgおよびクロファジミン50mgを含む組成物を調製した。本組成物は、抗非定型マイコバクテリア薬のそれぞれをマイクロカプセル化された形態として含むカプセルの形態で提供された。
【0039】
実施例5:炎症性腸疾患の患者に対する経口投与用の組成物
リファブチン150mg、クラリスロマイシン250mgおよびクロファジミン50mgを含む組成物を調製した。本組成物は、クラリスロマイシンおよびクロファジミンを含む外部カプセルの内部にリファブチンを含む内部カプセルがあり、クラリスロマイシンおよびクロファジミンが粉末形態にあるという形態で提供された。
【0040】
実施例6:炎症性腸疾患の患者に対する経口投与用の組成物
リファブチン150mg、クラリスロマイシン250mgおよびクロファジミン50mgを含む組成物を調製した。本組成物は、クラリスロマイシンおよびクロファジミンを含む外部カプセルの内部にリファブチンを含む内部カプセルがあり、クラリスロマイシンおよびクロファジミンがマイクロカプセル化された形態にあるという形態で提供された。
【0041】
実施例7:炎症性腸疾患の患者に対する経口投与用の組成物
リファブチン150mg、クラリスロマイシン250mgおよびクロファジミン50mgを含む組成物を調製した。本組成物は、クラリスロマイシンおよびクロファジミンを含む外部カプセルの内部にリファブチンを含む内部カプセルがあり、クラリスロマイシンおよびクロファジミンが微粒子化された形態にあるという形態で提供された。
【0042】
産業への適用可能性
本発明は、炎症性腸疾患の治療のために用いられる薬物療法の方法および組成物を提供する。本発明はさらに、非定型マイコバクテリアに対して有効な抗非定型マイコバクテリア薬の組み合わせを提供する。また、非病原性マイコバクテリアの抽出物を用いて患者を免疫することによって、炎症性腸疾患の治療における抗非定型マイコバクテリア薬の効力を高める方法も提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬を含む、炎症性腸疾患の治療のための組成物。
【請求項2】
抗非定型マイコバクテリア薬が、クラリスロマイシン、リファブチン、リファンピシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、アミカシン、クロファジミン、エタンブトール、オフロキサシン、シプロフロキサシンおよびオキサゾリジノンからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
リファブチンおよびクラリスロマイシンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
リファブチン、クラリスロマイシンおよびクロファジミンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの5-アミノサリチル酸化合物または4-アミノサリチル酸化合物をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
5-アミノサリチル酸化合物または4-アミノサリチル酸化合物が、メサラジン、オルザラジン、サラゾピリンおよびパラアミノサリチル酸からなる群より選択される、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記治療を必要とする患者に対して少なくとも3種の有効量の抗非定型マイコバクテリア薬を投与することを含む、炎症性腸疾患の治療のための方法。
【請求項8】
前記治療を必要とする患者に対して少なくとも3種の有効量の抗非定型マイコバクテリア薬を投与すること、および免疫化量のマイコバクテリア抽出物または生成物を用いて患者を免疫することを含む、炎症性腸疾患の治療のための方法。
【請求項9】
抗非定型マイコバクテリア薬が、クラリスロマイシン、リファブチン、リファンピシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、アミカシン、クロファジミン、エタンブトール、オフロキサシン、シプロフロキサシンおよびオキサゾリジノンからなる群より選択される、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
患者へのリファブチンおよびクラリスロマイシンの投与を含む、請求項7または8記載の方法。
【請求項11】
患者へのリファブチン、クラリスロマイシンおよびクロファジミンの投与を含む、請求項7または8記載の方法。
【請求項12】
患者への5-アミノサリチル酸化合物または4-アミノサリチル酸化合物の少なくとも1つを投与することを含む、請求項7または8記載の方法。
【請求項13】
5-アミノサリチル酸化合物または4-アミノサリチル酸化合物が、 メサラジン、オルザラジン、サラゾピリンおよびパラアミノサリチル酸 からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記治療を必要とする患者に対して有効量のマイコバクテリア抽出物または生成物を投与することを含む、炎症性腸疾患の治療のための方法。
【請求項15】
マイコバクテリア抽出物または生成物が非病原性マイコバクテリア由来の抽出物または生成物を含む、請求項8または14記載の方法。
【請求項16】
非病原性細菌がM.バッケー(M. vaccae)またはチモテ菌(M. phlei)を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
マイコバクテリア抽出物または生成物の前記有効量が約25μgから約500μgの範囲である、請求項8または14記載の方法。
【請求項18】
該マイコバクテリア抽出物または生成物が経口、静脈内、筋肉内、皮下またはそれらの任意の組み合わせによって投与される、請求項8または14記載の方法。
【請求項19】
免疫化量のマイコバクテリア抽出物または生成物が週1回から月1回投与される、請求項8または14記載の方法。
【請求項20】
免疫化量のマイコバクテリア抽出物または生成物が週1回投与される、請求項8または14記載の方法。
【請求項21】
マイコバクテリア抽出物または生成物がレグレッシン(Regressin)である、請求項8または14記載の方法。。
【請求項22】
炎症性腸疾患の治療のための医薬品の製造を目的とする、3種またはそれ以上の抗非定型マイコバクテリア薬を含む組成物の使用。
【請求項23】
炎症性腸疾患の治療のための医薬品の製造を目的とする、少なくとも3種の抗非定型マイコバクテリア薬およびマイコバクテリア抽出物または生成物を含む組成物の使用。
【請求項24】
抗非定型マイコバクテリア薬が、クラリスロマイシン、リファブチン、リファンピシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、アミカシン、クロファジミン、エタンブトール、オフロキサシン、シプロフロキサシンおよびオキサゾリジノンからなる群より選択される、請求項22または23記載の組成物の使用。
【請求項25】
リファブチンおよびクラリスロマイシンを含む、請求項22または23記載の組成物の使用。
【請求項26】
リファブチン、クラリスロマイシンおよびクロファジミンを含む、請求項22または23記載の組成物の使用。
【請求項27】
5- アミノサリチル酸化合物または4-アミノサリチル酸化合物の少なくとも1つをさらに含む、請求項22または23記載の組成物の使用。
【請求項28】
5-アミノサリチル酸化合物または4-アミノサリチル酸化合物が、メサラジン、オルザラジン、サラゾピリンおよびパラアミノサリチル酸からなる群より選択される、請求項22または23記載の組成物の使用 。
【請求項29】
炎症性腸疾患の治療のための医薬品の製造を目的とする、マイコバクテリア抽出物または生成物の使用。
【請求項30】
マイコバクテリア抽出物または生成物が非病原性マイコバクテリア由来の抽出物または生成物を含む、請求項23または29記載の使用。
【請求項31】
非病原性細菌がM.バッケーまたはチモテ菌を含む、請求項30記載の使用。
【請求項32】
マイコバクテリア抽出物または生成物が約25μgから約500μgの間の量で用いられる、請求項23または29記載の使用。
【請求項33】
マイコバクテリア抽出物または生成物がレグレッシン(Regressin)である、請求項23または29記載の使用。

【公開番号】特開2012−126736(P2012−126736A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−62968(P2012−62968)
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【分割の表示】特願2007−232402(P2007−232402)の分割
【原出願日】平成10年4月1日(1998.4.1)
【出願人】(510302054)レッド ヒル バイオファーマ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】