説明

炭化水素油の脱硫方法及び炭化水素樹脂

【課題】比較的少ない設備コスト及び運転コストで、硫黄分を微量濃度まで低減する炭化水素油の脱硫精製方法、並びに脱硫処理を行った炭化水素油を重合処理することにより得られた炭化水素樹脂を提供する。
【解決手段】ナフサから得られた沸点100℃〜250℃の成分を主体とし、不純物として硫黄化合物を含有する炭化水素油に、(1)酸性触媒を加え、炭化水素油全体の0.01〜30重量%の範囲内で重合反応を行う工程、(2)必要に応じて得られた重合物含有炭化水素油から重合物を除去する工程を経て、(3)炭化水素油に、活性白土、酸性白土及び酸性イオン交換樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の吸着剤を接触させる工程を有することを特徴とする炭化水素油の脱硫方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油(特に、ナフサから得られた成分を主体とし、キシレン、スチレン、ビニルトルエン、ジシクロペンタジエン、インデン、ナフタレン等の芳香族炭化水素油又は当該芳香族炭化水素を含有する炭化水素油)の脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キシレン、スチレン、ビニルトルエン、ジシクロペンタジエン、インデン、ナフタレン等の芳香族炭化水素は、ナフサから分離することによって得られるが、いずれも不純物として硫黄化合物を含有している。これら芳香族炭化水素は各種石油化学製品あるいは石油化学製品の中間原料の基礎原料として使用されるが、これらの製品或いは中間原料を製造する際に、硫黄化合物は触媒毒となるので、脱硫処理が必要となる場合が多い。
【0003】
しかしながら、これら芳香族炭化水素に含まれる硫黄化合物はチオフェン類や、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類等の芳香族硫黄化合物であって、沸点その他の性状が類似していることから、蒸留で精密に分離することは容易ではない。
【0004】
そこで、炭化水素油を蒸留し、得られた蒸留留分に酸触媒を加えて重合し、脱硫を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。当該方法によれば、硫黄化合物の含有量を低減できるものの、その効果は十分ではなく、また重合成分から炭化水素油を分離するために蒸留工程が必要であり、そのための蒸留設備が必要となり、また、蒸留のために時間を要する等の問題を有していた。また、反応を伴わない物理吸着剤で硫黄化合物を吸着除去する方法(特許文献2参照)も検討されているが、その効果は十分ではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−308092号公報
【特許文献2】特開2005−330306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、容易に、炭化水素油中に含まれる硫黄化合物を微量濃度まで低減する方法を提供すること、また、硫黄化合物の含有量を低減した炭化水素油を用いて硫黄化合物の含有量が低減された炭化水素樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、不純物として硫黄化合物を含むナフサから得られた炭化水素油の一部を重合し、必要に応じて得られた重合物含有炭化水素油から重合物を除去する工程を経て、炭化水素油に特定の吸着剤を接触させることにより、硫黄化合物の含有量を低減した炭化水素油が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、ナフサから得られた沸点100℃〜250℃の成分を主体とし、不純物として硫黄化合物を含有する炭化水素油に、(1)酸性触媒を加え、炭化水素油全体の0.01〜30重量%の範囲内で重合反応を行う工程、(2)必要に応じて得られた重合物含有炭化水素油から重合物を除去する工程を経て、(3)炭化水素油に、活性白土、酸性白土及び酸性イオン交換樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の吸着剤を接触させる工程を有することを特徴とする炭化水素油の脱硫方法;当該方法で脱硫処理を行った炭化水素油を重合処理することにより得られた硫黄含有量が160ppm以下の炭化水素樹脂に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容易に炭化水素油中に含まれる硫黄化合物を微量濃度まで低減することができる。また、硫黄化合物の含有量を低減した炭化水素油を重合処理することにより硫黄化合物の含有量が低減された炭化水素樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ナフサから得られた沸点100℃〜250℃の成分を主体とし、不純物として硫黄化合物を含有する炭化水素油に、(1)酸性触媒を加え、炭化水素油全体の0.01〜30重量%の範囲内で重合反応を行う工程、(2)必要に応じて得られた重合物含有炭化水素油から重合物を除去する工程を経て、(3)炭化水素油に、活性白土、酸性白土及び酸性イオン交換樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の吸着剤を接触させる工程を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の脱硫方法が好適に適用できる炭化水素油としては、特に、ナフサから得られた沸点100℃〜250℃(好ましくは140℃〜200℃)の成分を主体とし、キシレン、スチレン、ビニルトルエン、ジシクロペンタジエン、インデン、ナフタレン等の芳香族炭化水素油又は前記芳香族炭化水素を含んだ炭化水素油が挙げられる。なお、当該硫黄を含有する炭化水素油中に含まれる硫黄分量は、限定されないが、通常、50〜500ppm程度含有する場合に、脱硫効率が向上するため、特に好ましい。なお、硫黄の含有量は、蛍光X線による値である。
【0012】
本発明で使用する酸性触媒は、炭化水素油中の硫黄化合物同士及び/又は硫黄化合物と芳香族炭化水素との反応(すなわち、チオフェン環とベンゼン環の反応など)を触媒して重質な硫黄化合物の生成を促進するものである。
【0013】
酸性触媒として具体的には、ブレンステッド酸、ルイス酸、固体酸などが用いられる。これらの具体例としては、三フッ化ホウ素及びその錯体、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、塩化アルミニウム、活性白土、酸性白土、酸性イオン交換樹脂などを挙げることができる。
【0014】
酸性触媒と炭化水素油とを接触させる方法は、特に限定されず公知の方法を採用することができる。具体的には、たとえば、回分式(バッチ式)でも流通式でも良い。流通式の場合、容器に成形された固体酸触媒を充填して炭化水素油を流通する流通式でも良い。
脱硫処理を行う温度は、固体酸触媒の場合、重質な硫黄化合物を生成する硫黄化合物同士及び/又は硫黄化合物と芳香族炭化水素との反応を伴うので若干高めが好ましく10〜200℃程度、特には30〜100℃が好ましい。遷移金属酸化物担持活性炭の場合、反応は期待できないが、物理吸着能に優れているので、物理吸着に適する150℃以下の温度が好ましく、特には0〜80℃が好ましい。なお、接触時間は特に限定されないが、通常、5分〜3時間程度である。なお、酸性触媒の使用量は特に限定されないが、通常、炭化水素油100重量部に対し、0.1〜50重量部程度である。
【0015】
重合は、通常、重合物の量が、炭化水素油全体の0.01〜30重量%となるまで行う。重合物の量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー法(GPC法)によるポリスチレン換算値により決定される。また、得られた重合物を再沈や、蒸留精製することにより重量を算出する方法等を用いることができる。
【0016】
重合反応工程を終えた炭化水素油は、そのまま、吸着剤に接触させてもよいが、必要に応じて蒸留もしくは再沈等の方法により、得られた重合物含有炭化水素油から重合物を除去する工程を設けてもよい。使用する吸着剤としては、活性白土、酸性白土及び酸性イオン交換樹脂が用いられる。なお、吸着剤は、前処理として、吸着している微量の水分を予め除去することが好ましい。水分が吸着していると、硫黄化合物の吸着を阻害するばかりか、炭化水素油の導入開始直後に吸着剤から脱離した水分が炭化水素に混入するためである。吸着剤の使用量は特に限定されないが、通常、炭化水素油100重量部に対し、0.1〜50重量部程度である。
【0017】
炭化水素油と吸着剤を接触させる方法としては特に限定されず公知の方法を採用することができる。具体的には、回分式反応器に炭化水素油と吸着剤を加え混合する方法又は固定床を使用した流通式反応器で、固定床として吸着剤を用い、炭化水素油を流通させる方法などが挙げられる。炭化水素油と吸着剤を接触させる際の温度は特に限定されないが、通常、0〜100℃程度であり、接触時間は、5分〜3時間程度である。
【0018】
前記方法で処理された炭化水素油を、公知の方法により吸着剤をろ別することにより、硫黄分の含有量が低減された炭化水素油を得ることができる。このようにして得られた炭化水素油に含まれる硫黄分は、原料として使用する炭化水素油に含まれる硫黄分の量、重合時間や吸着材の使用量を変更することにより制御することができるが、通常、120ppm程度以下にすることが好ましい。
【0019】
このようにして得られた脱硫炭化水素油は、さらに重合処理することにより炭化水素樹脂とすることができる。炭化水素樹脂は、公知の方法により得ることができる。通常は、該脱硫炭化水素油に三フッ化ホウ素等のカチオン重合性触媒を添加し、重合すればよい。たとえば、特開平1−213305号公報に記載の方法を採用できる。当該方法により得られる炭化水素樹脂は、硫黄含有量が、通常、160ppm以下である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、硫黄分の含有量は、Rigaku製波長分散型蛍光X線分析装置ZSX−100eを用い、SQX計算により決定した。
【0021】
実施例1
ナフサから得られ、硫黄を159ppm含有する沸点140℃〜200℃の炭化水素油100gに対し、活性白土0.5g(炭化水素油に対し、0.5重量%)を加え、120℃で30分間攪拌し重合反応を行った。活性白土をろ別した後に、炭化水素油の硫黄量を測定したところ150ppmであった。また、重合反応により生成した樹脂成分は炭化水素油全体の2.0%であった。このろ液20gに対し0.1g(0.5重量%)の活性白土を加え、室温で1時間攪拌し、吸着処理を行った。活性白土をろ別した後に得られた炭化水素油の硫黄量を測定したところ、115ppmであった。
【0022】
実施例2
吸着処理した活性白土の量を0.4g(2重量%)とした以外は実施例1と同様の方法で脱硫処理を行った。得られた炭化水素油の硫黄量は111ppmであった。
【0023】
比較例1
ナフサから得られ、硫黄を159ppm含有する沸点140℃〜200℃の炭化水素油100gに対し、0.5g(0.5重量%)の活性白土を加え、室温で1時間攪拌し、吸着処理を行った。活性白土をろ別した後に得られた炭化水素油の硫黄量を測定したところ、154ppmであった。
【0024】
実施例3
ナフサから得られ、硫黄を159ppm含有する沸点140℃〜200℃の炭化水素油100gに対し、活性白土0.5g(炭化水素油に対し、0.5重量%)を加え、90℃で30分間攪拌し重合反応を行った。活性白土をろ別した後に、炭化水素油の硫黄量を測定したところ134ppmであった。また、重合反応により生成した樹脂成分は炭化水素油全体の1.0重量%であった。このろ液20gに対し0.1g(0.5重量%)の活性白土を加え、1時間攪拌し、吸着処理を行った。活性白土をろ別した後に得られた炭化水素油の硫黄量を測定したところ、120ppmであった。
【0025】
実施例4
吸着処理した活性白土の量を0.4g(2重量%)とした以外は実施例3と同様の方法で脱硫処理を行った。得られた炭化水素油の硫黄量は103ppmであった。
【0026】
実施例5
ナフサから得られ、硫黄を159ppm含有する沸点140℃〜200℃の炭化水素油100gに対し、活性白土0.5g(炭化水素油に対し、0.5重量%)を加え、60℃で30分間攪拌し重合反応を行った。活性白土をろ別した後に、炭化水素油の硫黄量を測定したところ116ppmであった。重合反応により生成した樹脂成分は炭化水素油全体の0.5重量%であった。このろ液20gに対し0.1g(0.5重量%)の活性白土を加え、1時間攪拌し、吸着処理を行った。活性白土をろ別した後に得られた炭化水素油の硫黄量を測定したところ、101ppmであった。
【0027】
実施例6
吸着処理した活性白土の量を0.4g(2重量%)とした以外は実施例5と同様の方法で脱硫処理を行った。得られた炭化水素油の硫黄量は87ppmであった。
【0028】
比較例2
ナフサから得られた硫黄を159ppm含有する炭化水素油を特開平1−213305号公報に記載された方法と同様の方法で重合反応を行い、炭化水素樹脂を得た。得られた炭化水素樹脂の硫黄量を測定したところ、233ppmであった。
【0029】
実施例7
実施例1で得られた硫黄を115ppm含む炭化水素油を用いた以外は比較例2と同様の方法にて重合反応を行い、炭化水素樹脂を得た。得られた炭化水素樹脂の硫黄量を測定したところ、158ppmであった。
【0030】
実施例8
実施例2で得られた硫黄を111ppm含む炭化水素油を用いた以外は比較例2と同様の方法にて重合反応を行い、炭化水素樹脂を得た。得られた炭化水素樹脂の硫黄量を測定したところ、151ppmであった。
【0031】
比較例3
比較例1で得られた硫黄を154ppm含む炭化水素油を用いた以外は比較例2と同様の方法にて重合反応を行い、炭化水素樹脂を得た。得られた炭化水素樹脂の硫黄量を測定したところ、215ppmであった。
【0032】
実施例9
実施例3で得られた硫黄を120ppm含む炭化水素油を用いた以外は比較例2と同様の方法にて重合反応を行い、炭化水素樹脂を得た。得られた炭化水素樹脂の硫黄量を測定したところ、159ppmであった。
【0033】
実施例10
実施例4で得られた硫黄を103ppm含む炭化水素油を用いた以外は比較例2と同様の方法にて重合反応を行い、炭化水素樹脂を得た。得られた炭化水素樹脂の硫黄量を測定したところ、140ppmであった。
【0034】
実施例11
実施例5で得られた硫黄を101ppm含む炭化水素油を用いた以外は比較例2と同様の方法にて重合反応を行い、炭化水素樹脂を得た。得られた炭化水素樹脂の硫黄量を測定したところ、138ppmであった。
【0035】
実施例12
実施例6で得られた硫黄を87ppm含む炭化水素油を用いた以外は比較例2と同様の方法にて重合反応を行い、炭化水素樹脂を得た。得られた炭化水素樹脂の硫黄量を測定したところ、119ppmであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフサから得られた沸点100℃〜250℃の成分を主体とし、不純物として硫黄化合物を含有する炭化水素油に、(1)酸性触媒を加え、炭化水素油全体の0.01〜30重量%の範囲内で重合反応を行う工程、(2)必要に応じて得られた重合物含有炭化水素油から重合物を除去する工程を経て、(3)炭化水素油に、活性白土、酸性白土及び酸性イオン交換樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の吸着剤を接触させる工程を有することを特徴とする炭化水素油の脱硫方法。
【請求項2】
ナフサから得られた沸点100℃〜250℃の成分を主体とし、不純物として硫黄化合物を含有する炭化水素油が、50〜500ppmの硫黄分を含有する炭化水素油である請求項1に記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項3】
得られる脱硫炭化水素油に含まれる硫黄分の含有量が120ppm以下である請求項1又は2に記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項4】
ナフサから得られた炭化水素油が、沸点140℃〜200℃の成分を主体とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項5】
酸性触媒が、ブレンステッド酸、ルイス酸及び固体酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項6】
酸性触媒が、三フッ化ホウ素及びその錯体、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、塩化アルミニウム、活性白土、酸性白土並びに酸性イオン交換樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法で脱硫処理を行った炭化水素油を重合処理することにより得られた硫黄含有量が160ppm以下の炭化水素樹脂。



【公開番号】特開2010−77170(P2010−77170A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243604(P2008−243604)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】