説明

炭素基材表面への炭化珪素膜の形成方法

【課題】炭化珪素膜形成後にクラックや剥離が生じることなく、炭化珪素膜を炭素基材の表面上に効率良く形成する。
【解決手段】炭素基材1の表面1bの所定箇所を支持治具4で当接した状態で炭素基材1を支持し、炭素基材1の表面1b上に炭化珪素膜5を形成する方法であって、支持治具4が当接する所定箇所に孔1aが形成された炭素基材1を準備する工程と、炭素基材1と同種の材料からなり、孔1aに嵌入することができる寸法形状を有する嵌入部材2であって、孔1aに嵌入した際に炭素基材1の表面1bに連なる表面2a上に予め炭化珪素膜3が形成された嵌入部材2を準備する工程と、炭素基材1の孔1aに嵌入部材2が直接接するように嵌入部材2を嵌入し、炭化珪素膜3が形成された嵌入部材2の表面に支持治具4を当接して、炭素基材1を支持した状態で、炭素基材1の表面1b上に炭化珪素膜5を形成する工程とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛などの炭素基材の表面の所定箇所を支持治具で当接した状態で、炭素基材を支持して、炭素基材の表面上に炭化珪素膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
黒鉛や炭素繊維強化炭素複合材(C/C複合材)などからなる炭素基材においては、耐酸化性を付与するなどの目的で、CVD法などにより、炭化珪素膜を炭素基材の表面に形成される場合がある。
【0003】
このような場合、炭素基材の表面の所定箇所を支持治具で当接した状態で、炭素基材を支持して炭素基材の表面上に炭化珪素膜を形成している。この場合、支持治具が当接した炭素基材の表面には、炭化珪素膜が形成されないので、炭化珪素膜の形成反応を途中で中断し、炭素基材の位置をずらし、支持治具が当接する点を変更するなどの工夫が必要であった。
【0004】
特許文献1においては、このような問題を解消する方法として、支持治具が当接する箇所に、予め炭化珪素板を嵌着または貼着させておき、この部分に支持治具を当接させた状態で炭化珪素膜を形成する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、炭化珪素板を嵌着すると、炭素基材と炭化珪素板の熱膨張率が異なるため、熱膨張率差により、炭素基材の嵌着部分にクラックが発生するなどの問題を生じる。
【0006】
また、炭素基材の表面に炭化珪素板を接着させると、接着層に起因するクラックなどが発生するという問題を生じる。
【特許文献1】特開2000−129444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、炭化珪素膜形成後にクラックや剥離を生じることなく、炭化珪素膜を炭素基材の表面上に効率良く形成することができる炭素基材表面への炭化珪素膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、炭素基材の表面の所定箇所を支持治具で当接した状態で炭素基材を支持し、炭素基材の表面上に炭化珪素膜を形成する方法であって、支持治具が当接する所定箇所に孔が形成された炭素基材を準備する工程と、炭素基材と同種の材料からなり、孔に嵌入することができる寸法形状を有する嵌入部材であって、孔に嵌入した際に炭素基材の表面に連なる表面上に予め炭化珪素膜が形成された嵌入部材を準備する工程と、炭素基材の孔に嵌入部材が直接接するように嵌入部材を嵌入し、炭化珪素膜が形成された嵌入部材の表面に支持治具を当接して炭素基材を支持した状態で、炭素基材の表面上に炭化珪素膜を形成する工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
本発明においては、支持治具が当接する炭素基材の表面の所定箇所に孔を形成し、この孔に、炭素基材と同種の材料からなり、この孔に嵌入することができる寸法形状を有する嵌入部材であって、孔に嵌入した際に、炭素基材の表面に連なる表面上に予め炭化珪素膜が形成された嵌入部材を嵌入し、この嵌入部材の表面に支持治具を当接して炭素基材を支持した状態で、炭素基材の表面上に炭化珪素膜を形成する。支持治具が当接する所定箇所には、予め炭化珪素膜が形成されているので、支持治具が当接する箇所において、炭化珪素膜が形成されなくても、炭素基材の表面上に連続した状態で炭化珪素膜を形成することができる。従って、炭素基材の表面全体を連続して被覆することができる。
【0010】
また、本発明においては、炭素基材と同種の材料からなる嵌入部材を炭素基材の孔に嵌入しているので、炭素基材と嵌入部材における熱膨張率の差がなく、熱膨張率の差に基づく応力によって、嵌入部材を嵌入した箇所における炭素基材や嵌入部材にクラックなどの発生を生じることがない。このため、炭化珪素膜形成後に炭化珪素膜にクラックや剥離を生じることなく、炭素基材の表面上に炭化珪素膜を効率良く形成することができる。
【0011】
本発明における炭素基材は、炭素材料からなる基材であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは黒鉛からなる基材であり、さらに好ましくは、等方性黒鉛からなる基材である。等方性黒鉛からなる基材を用いる場合、炭素基材の孔に嵌入する嵌入部材と炭素基材の結晶方向等を合わせる必要がないので、特に本発明の方法に適している。
【0012】
本発明において、炭素基材に形成する孔の形状及び嵌入部材の形状は、特に限定されるものではないが、孔及び嵌入部材の加工のし易さや、嵌入し易さなどからは、円柱形状であることが好ましい。
【0013】
また、炭素基材に形成する孔及び嵌入部材の寸法は、支持治具が炭素基材の表面に当接する部分の面積などを考慮して設定することができる。例えば、嵌入部材の形状が円柱形状である場合、一般に直径3〜15mm程度とすることが好ましい。また、孔の深さ及び嵌入部材の高さは、炭素基材の厚みの1〜50%の範囲内とするのが一般的である。
【0014】
また、孔及び嵌入部材の形状が円柱形状である場合、嵌入部材の直径は、孔の直径よりもやや大きくすることが好ましく、直径で0.01〜0.1mm大きくすることが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.06mm大きくすることが好ましい。
【0015】
嵌入部材が大き過ぎるために、炭素基材の孔に嵌入させにくい場合には、炭素基材の孔に嵌入することができるまで、嵌入部材の外周部を徐々に薄く研磨すればよい。
【0016】
本発明においては、嵌入部材を孔に嵌入した際に炭素基材の表面に連なる嵌入部材の表面上に予め炭化珪素膜を形成する。炭化珪素膜を形成する方法は、特に限定されるものではないが、一般には、熱CVD法などのCVD法により炭化珪素膜を形成することができる。なお、炭素基材の孔の内部と接する嵌入部材の表面には、炭化珪素膜は形成しない。従って、炭素基材の孔の内部と接する嵌入部材の表面は、炭素基材と同種の材料が露出した状態とする。
【0017】
嵌入部材の所定の表面にのみ炭化珪素膜を形成する方法としては、嵌入部材の原料となる部材の表面に炭化珪素膜を形成した後、炭化珪素膜を残す部分以外の部分を切削加工する方法や、炭化珪素膜を形成しない嵌入部材の表面をレジスト膜などでマスクした状態で炭化珪素膜を形成し、炭化珪素膜形成後、レジスト膜を除去し、所定の表面にのみ炭化珪素膜を残す方法などが挙げられる。
【0018】
本発明において、炭素基材の表面に炭化珪素膜を形成する方法は、特に限定されるものではないが、一般には、熱CVD法などのCVD法が用いられる。
【0019】
本発明において、炭化珪素膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば、20〜200μmの厚みが挙げられる。嵌入部材の表面上に形成する炭化珪素膜の膜厚も同様の範囲が挙げられる。
【0020】
本発明の炭素基材は、上記本発明の方法で炭化珪素膜が形成されたことを特徴としている。
【0021】
本発明の炭素基材は、上記本発明の方法により炭化珪素膜が形成されるものであるので、炭化珪素膜形成後にクラックや剥離が生じることなく、効率良く製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、炭化珪素膜形成後にクラックや剥離を生じることなく、炭化珪素膜を炭素基材表面上に効率良く形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
図2は、本実施例において用いた炭素基材を示す斜視図である。炭素基材1は、等方性黒鉛からなる基材である。直径は200mmであり、厚みは30mmの円盤形状を有している。
【0025】
炭素基材1の表面1bに、後述するように、支持治具を当接させることにより、炭素基材1が支持され、この状態で炭素基材1の表面1b上に炭化珪素膜が形成される。
【0026】
支持治具が当接する3箇所に、本発明に従い孔1aが形成される。この孔1aには、後述するように、孔1aに嵌入することができる寸法形状の嵌入部材2が嵌入される。
【0027】
図1(a)は、炭素基材1の孔1aの近傍を示す断面図である。炭素基材1の表面1bは、f200面であり、この表面1bの3箇所に、図2に示すように、孔1aが形成されている。孔1aは、円柱形状を有しており、直径10mm、深さ10mmとなるように形成されている。
【0028】
図1(b)は、嵌入部材を示す断面図である。嵌入部材2の表面2aの上には炭化珪素膜3が形成されている。炭化珪素膜3の膜厚は、50μmである。炭化珪素膜3は、熱CVD法により形成されている。
【0029】
嵌入部材2の直径は、10.04mmであり、孔1aの直径10mmよりも、0.04mm大きい寸法で形成されている。また、嵌入部材2の厚みは、10mmである。
【0030】
図1(c)は、炭素基材1の孔1aに、嵌入部材2を嵌入した状態を示す断面図である。図1(c)に示すように、炭素基材1の孔1a内に嵌入された嵌入部材2の表面2aは、炭素基材1の表面1bと連なる表面となる。嵌入部材2は、圧力をかけて孔1a内に挿入している。圧力をかける方法としては、例えば、孔1a内に嵌入部材2を手で挿入するか、手での挿入が難しい場合は当て板をして木槌等で打ち込む方法がある。
【0031】
図1(d)は、嵌入部材2の炭化珪素膜3に、支持治具4の当接部4aを当接させて、炭素基材1を支持した状態を示す断面図である。この状態で、炭素基材1の表面1bの上に、熱CVD法により炭化珪素膜を形成する。
【0032】
図1(e)は、炭素基材1の表面1b上に、炭化珪素膜5を形成した状態を示す断面図である。炭化珪素膜5の厚みは、50μmである。
【0033】
図1(f)は、支持治具4から、炭素基材1を取り外した状態を示している。図1(f)に示すように、支持治具4の当接部4aが当接していた箇所には、炭化珪素膜5が形成されていないが、この部分には、嵌入部材2の表面に形成された炭化珪素膜3が存在しているので、炭素基材1の表面1b全体を炭化珪素膜5及び3により連続して被覆することができる。
【0034】
図3は、従来技術の一例を示す断面図である。
【0035】
図3(a)に示すように、炭素基材1の表面1bに、支持治具4の当接部4aを当接した状態で炭化珪素膜を形成すると、図3(b)に示すような状態で炭化珪素膜5が形成される。支持治具4から、炭素基材1を取り外すと、図3(c)に示すように、支持治具4の当接部4aが当接していた部分には、炭化珪素膜5が形成されておらず、炭素基材1の表面1b全体を炭化珪素膜5で連続して被覆することができない。
【0036】
本発明に従えば、図1(f)に示すように、支持治具4の当接部4aが当接していた部分には、炭化珪素膜3が存在しているので、炭素基材1の表面1b全体を炭化珪素膜5及び3で覆うことができる。
【0037】
(比較例1)
図3(a)に示すように、孔1aが形成されていない炭素基材1を用い、この炭素基材1の表面1bに、支持治具4の当接部4aを当接させて支持し、この状態で、炭化珪素膜5を膜厚25μmとなるまで形成した。その後、炭素基材1を支持治具4から取り外し、支持治具4の当接部4aが当接する箇所を移動させ、残りの膜厚25μmの炭化珪素膜を形成した。これにより、1回目の炭化珪素膜の形成で支持治具4の当接部4aが当接しているため、炭化珪素膜が形成されなかった部分に、炭化珪素膜を形成することができた。これにより、炭素基材1の表面1bの全面上に、連続して炭化珪素膜5を形成することができた。
【0038】
(比較例2)
嵌入部材2の寸法形状を、実施例1よりもやや小さくなる寸法形状で形成した。具体的には、直径9.8mm、高さ9.9mmとなるように形成した。この嵌入部材2の炭化珪素膜3が形成されていない表面上に、接着剤としてのカーボンセメントを塗布し、炭素基材1の孔1a内に挿入した。
【0039】
次に、実施例1と同様にして、嵌入部材2の炭化珪素膜3に支持治具4の当接部4aが当接するように支持治具4で炭素基材1を支持しながら、炭化珪素膜5を1回のコーティングで膜厚50μmとなるように形成した。
【0040】
(比較例3)
本比較例においては、嵌入部材2として、バルクの炭化珪素からなる嵌入部材2を作製した。炭化珪素からなる嵌入部材2は、その寸法が、直径10mm、高さ10mmとなるように形成した。この炭化珪素からなる嵌入部材2を、実施例1と同様にして、炭素基材1の孔1aに嵌入し、その後、実施例1と同様にして、支持治具4の当接部4aを嵌入部材2に当接するように炭素基材1を支持した状態で、炭化珪素膜5を、1回のコーティングで膜厚50μmとなるように形成した。
【0041】
(比較例4)
直径10mm、厚み50μmの炭化珪素からなる円板を作製した。この炭化珪素の円板は、別体の炭素基材上に熱CVD法により炭化珪素被膜を形成した後、これを切削加工することにより作製した。
【0042】
上記のようにして作製した炭化珪素板6を、図4に示すように、孔1aが形成されていない炭素基材1の表面1b上にカーボンセメントを接着剤として用いて接着し、接着した炭化珪素板6を支持治具4の当接部4aで当接することにより支持しながら、炭化珪素膜5を1度のコーティングで50μmの厚みとなるように形成した。
【0043】
〔NG数の測定〕
実施例1及び比較例1〜4において、炭化珪素膜を形成した後に、炭化珪素膜などにクラックや剥離が生じたサンプル数を測定した。なお、実施例1及び比較例1〜4においては、サンプル数を5にした。従って、サンプル数5の内のNG数について測定した。測定結果を表1に示す。また、表1には、サンプル数、及び炭化珪素膜のコート回数を併せて示す。
【0044】
なお、比較例2におけるNGは、嵌入部材と孔との間の接着層にクラックが発生したものである。比較例3におけるNGでは、炭化珪素からなる嵌入部材を嵌入した孔の周辺部からクラックが発生していた。比較例4におけるNGでは、炭化珪素板を接着した接着層の部分からクラックが生じていた。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1においては、NG数が0であり、コート回数も1回であった。これに対し、比較例1においては、NG数は0であったが、コート回数として2回必要であった。比較例2〜4においては、コート回数は1回であるが、炭化珪素膜などにクラックや剥離が生じており、炭素基材の表面全体に炭化珪素膜を連続して形成することができなかった。
【0047】
以上のように、本発明によれば、炭化珪素膜形成後にクラックや剥離が生じることなく、炭化珪素膜を炭素基材の表面上に効率良く形成することができる。
【0048】
なお、上記実施例においては、炭素基材に形成する孔の形状及びこの孔に嵌入する嵌入部材の形状を円柱形状としているが、本発明はこのような形状に限定されるものではない。また、支持治具が当接する箇所を3箇所とし、炭素基材の表面の3箇所に孔を形成しているが、本発明は3箇所で支持することに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に従う一実施例の製造工程を示す断面図。
【図2】本発明に従う一実施例における炭素基材及び嵌入部材を示す斜視図。
【図3】従来例の製造工程を示す断面図。
【図4】比較例を説明するための断面図。
【符号の説明】
【0050】
1…炭素基材
1a…炭素基材の孔
1b…炭素基材の表面
2…嵌入部材
2a…嵌入部材の表面
3…嵌入部材の表面に形成する炭素被膜
4…支持治具
4a…支持治具の当接部
5…炭化珪素膜
6…炭化珪素板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基材の表面の所定箇所を支持治具で当接した状態で前記炭素基材を支持し、前記炭素基材の前記表面上に炭化珪素膜を形成する方法であって、
前記支持治具が当接する前記所定箇所に孔が形成された前記炭素基材を準備する工程と、
前記炭素基材と同種の材料からなり、前記孔に嵌入することができる寸法形状を有する嵌入部材であって、前記孔に嵌入した際に前記炭素基材の前記表面に連なる表面上に予め炭化珪素膜が形成された嵌入部材を準備する工程と、
前記炭素基材の前記孔に前記嵌入部材が直接接するように前記嵌入部材を嵌入し、前記炭化珪素膜が形成された前記嵌入部材の表面に前記支持治具を当接して前記炭素基材を支持した状態で、前記炭素基材の前記表面上に前記炭化珪素膜を形成する工程とを備えることを特徴とする炭素基材表面への炭化珪素膜の形成方法。
【請求項2】
前記炭素基材が黒鉛から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の炭素基材表面への炭化珪素膜の形成方法。
【請求項3】
前記黒鉛が等方性黒鉛であることを特徴とする請求項2に記載の炭素基材表面への炭化珪素膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法で炭化珪素膜が形成されたことを特徴とする炭素基材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−100889(P2010−100889A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272786(P2008−272786)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】