炭素材料およびその製造方法
【課題】電極活物質等として有用な炭素材料、該炭素材料に転化し得る酸素含有炭素質物質、およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】
炭素源有機物、酸素源有機物(水酸基を有する化合物および加水分解により水酸基を形成する化合物の少なくともいずれかを使用する。)、過酸化水素および水を含む混合物を、温度300℃〜600℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持することにより、該混合物から酸素含有炭素質物質を生じさせる。この炭素質物質に熱処理を施して、該炭素質物質の酸素含有量を低下させるとともにラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比(ID/IG)を低下させることにより、上記炭素材料を得る。
【解決手段】
炭素源有機物、酸素源有機物(水酸基を有する化合物および加水分解により水酸基を形成する化合物の少なくともいずれかを使用する。)、過酸化水素および水を含む混合物を、温度300℃〜600℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持することにより、該混合物から酸素含有炭素質物質を生じさせる。この炭素質物質に熱処理を施して、該炭素質物質の酸素含有量を低下させるとともにラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比(ID/IG)を低下させることにより、上記炭素材料を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を含む炭素質物質および該炭素質物質から形成された炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質炭素は、電極活物質や活性炭として各種分野において利用されている。かかる多孔質炭素の原料(前駆体)として、種々の炭素質物質が知られている。かかる多孔質炭素およびその原料となり得る炭素質物質に関連する技術文献として、特許文献1〜3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−254513号公報
【特許文献2】特開2006−83486号公報
【特許文献3】国際公開第2007/40007号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔質炭素(Porous Carbon)の原料としては、不融化したピッチ類または耐炎化した熱硬化性樹脂等の炭素質物質(Carbonaceous Substance)を用いることが一般的である。しかし、これら炭素質物質を炭素化させて多孔質炭素を生成するためには、通常、不活性ガス雰囲気下で1000℃から1500℃程度の高温にて該炭素質物質を長時間焼成しなければならない。そこで、より穏やかな条件(より低温または短時間、あるいはより低温かつ短時間等)で各種用途に適した多孔度および結晶度の炭素に転化し得る炭素質物質が提供されれば有用である。かかる炭素質物質を用い、より穏やかな条件下で、例えば、電極活物質として優れた性能(例えば、容量)を有する炭素材料を形成することができれば有意義である。
【0005】
本発明は、より穏やかな条件であっても電極活物質等として有用な炭素材料に転化し得る炭素質物質の提供、およびかかる炭素質物質を製造する方法の提供を目的とする。本発明の他の目的は、上記炭素質物質を用いて形成された炭素材料およびその製造方法、ならびに該炭素材料を電極活物質として有する二次電池の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、酸素を含む炭素質物質を製造する方法が提供される。その製造方法は、炭素源有機物、酸素源有機物、過酸化水素および水を含む混合物を、温度300℃〜600℃かつ圧力22MPa以上(例えば22MPa〜100MPa)の条件下に保持することにより、該混合物から酸素含有炭素質物質を生じさせる炭素質物質生成工程を包含する。ここで、前記酸素源有機物としては、水酸基を有する化合物および加水分解により水酸基を形成する化合物(好ましくは、フェノール性水酸基を有する化合物および加水分解によりフェノール性水酸基を形成し得る化合物)の少なくともいずれかを使用する。かかる製造方法によると、多孔質の炭素材料への転化に適した(例えば、二次電池の電極活物質として用いられて、より高性能(高容量等)の電池を実現する炭素材料を提供し得る)炭素質物質を生成させることができる。前記炭素源有機物としては、炭化水素を好ましく採用し得る。前記酸素源有機物の一好適例として、フェニルホウ酸(C6H5−B(OH)2)が例示される。
【0007】
好ましい一態様では、前記炭素質物質生成工程において、原子数基準の酸素含有量が10〜25%(以下、これを10〜25At%と表すこともある。)の範囲にある前記炭素質物質を生じさせる。ここで原子数基準の酸素含有率とは、上記炭素質物質の化学構造中に含まれる原子の合計数(モル)を100%としたとき、当該炭素質物質に含まれる酸素原子(O)の割合を指す。かかる態様によると、上記炭素材料への転化により適した炭素質材料が製造され得る。
【0008】
好ましい他の一態様では、前記炭素質物質生成工程において、励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおいて、Gピーク(1580cm−1近傍に現れるラマンピーク)の強度IGに対するDピーク(1360cm−1近傍に現れるラマンピーク)の強度IDの比の値(ID/IG値)が8.0以下の範囲にある前記炭素質物質を生じさせる。炭素質物質のラマンスペクトルにおいて、Gピークはグラファイトに由来し、Dピークはグラファイトの欠陥に由来する。したがって、上記ID/IG値(R値ともいう。)は、炭素質物質の結晶性の度合いを示す指針となる。すなわち、炭素質物質のID/IG値がより大きいことは、その炭素質物質の結晶性がより低いことを示す。ここで、各ピーク(DピークおよびGピーク)の強度IG,IDとしては、ベースラインを補正した各ピークの面積強度の値を採用するものとする。かかる態様によると、上記炭素材料への転化により適した炭素質材料が製造され得る。
【0009】
好ましい他の一態様では、前記炭素質物質生成工程において、平均一次粒径が0.02μm〜1.0μmの範囲にある前記炭素質物質を生じさせる。かかる態様によると、上記炭素材料への転化により適した炭素質材料が製造され得る。上記酸素含有量、ID/IG値および平均一次粒径のうち二つ以上(例えば全部)を満たす炭素質物質は、上記炭素材料への転化に特に適したものとなり得る。
【0010】
本発明によると、以下の特性:
酸素含有量が10〜25At%の範囲にある;
ID/IG値が8.0以下(典型的には5.0以上8.0以下、例えば5.5以上7.5以下)の範囲にある;および、
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μm(典型的には0.1μm〜1.0μm)の範囲にある;
を満たす炭素質物質が提供される。
【0011】
かかる特性を有する炭素質物質は、上記炭素材料への転化に適した(したがって、電極活物質等の用途に好適な)ものとなり得る。例えば、上記炭素質物質(ここに開示されるいずれかの方法により製造された炭素質物質であり得る。)は、酸素含有率が上記のとおり高いので、該炭素質物質を炭素化する際(典型的には、後述する熱処理のように、該炭素質物質から酸素含有量を減らす処理を施す際)、系外への酸素脱離量に応じて、異なる多孔度および結晶度(グラフェン構造の発達度合いとしても把握され得る。)の炭素材料を形成し得る。すなわち、炭素化する際の加熱条件(温度、時間、圧力等)を変えることによって、幅広い範囲で多孔度(例えば、比表面積)および結晶度(例えば、ID/IG値)の異なる炭素材料を形成し得る。すなわち、ここに開示される酸素含有炭素質物質によると、各種用途に適した多孔度および結晶度を有する炭素材料が提供され得る。そして、ここに開示される酸素含有炭素質物質は、かかる高い酸素含有率にも拘わらず比較的低いID/IG値を有する(換言すれば、酸素含有率が高い割にはグラフェン構造が発達している)ので、該炭素質物質を炭素化することにより、電極活物質としての用途に特に適した特性バランス(例えば、多孔度と結晶度のバランス)を有する炭素材料を形成し得る。例えば、リチウム二次電池用の電極活物質(典型的には、リチウムイオン二次電池の負極活物質)等として好適な炭素材料を形成する炭素質物質であり得る。
【0012】
なお、本明細書においては、混同を避けるため、上記熱処理が施されていない炭素質材料(すなわち、多孔質の炭素材料を製造するための原料としての酸素含有炭素質材料)を「酸素含有炭素質物質」または「炭素質物質」と称し、該炭素質物質を熱処理して形成された炭素質材料を「炭素材料」と称している。
また、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン二次電池と称される電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【0013】
本発明によると、また、炭素材料の製造方法が提供される。その方法は、ここに開示されるいずれかの炭素質物質を用意する工程と、該炭素質物質を加熱(典型的には、前記炭素質物質の生成温度と同等またはより高い温度に加熱)する熱処理工程とを包含する。ここで、前記熱処理工程では、前記炭素質物質の酸素含有量を低下させるとともに、励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGを低下させる。上記炭素質物質を用意する工程は、ここに開示されるいずれかの方法で上記炭素質物質を製造する工程であり得る。あるいは、予め調製された上記炭素質物質を入手する工程であり得る。かかる製造方法によると、上記炭素質物質を原料とすることにより、比較的穏やかな条件でも(例えば、500℃〜800℃程度の熱処理温度でも)、電極活物質等の用途に好適な炭素材料を製造することができる。すなわち、ここに開示される炭素材料製造方法は、前記熱処理工程において前記炭素質物質を500℃〜800℃に保持する態様で好ましく実施され得る。前記熱処理工程は、典型的には非酸化性ガス中で行われる。例えば、常圧(典型的には、概ね100kPa程度)の非酸化性ガス雰囲気下(アルゴンガス中、窒素ガス中等)で実施することができる。
【0014】
好ましい一態様では、前記熱処理工程において、前記炭素質物質の酸素含有量を6〜13%の範囲に低下させる。また、該熱処理工程において、前記炭素質物質のID/IGを3.0〜7.0(例えば3.5〜6.5)の範囲に低下させるとよい。好ましい他の一態様では、前記炭素質物質として比表面積は1〜10m2/gのものを用意し、前記熱処理により該炭素質物質の比表面積を100m2/g以上(典型的には500m2/g以下)に増大させる。上記酸素含有量および比表面積の少なくとも一方(好ましくは両方)を満たす炭素材料は、電極活物質等の用途に特に適したものとなり得る。
なお、本明細書中における比表面積は、特記しない限り、窒素吸着法(BET法)により測定される比表面積をいうものとする。
【0015】
本発明によると、以下の特性:
酸素含有量が6〜12At%(例えば7〜11At%程度)の範囲にある;、
ID/IG値が3.0〜7.0(典型的には4.0〜7.0、例えば4.0より大きく6.5以下)の範囲にある;
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μm(典型的には0.1μm〜1.0μm)の範囲にある;および、
比表面積が100m2/g以上(典型的には200〜500m2/g)である;
を満たす炭素材料が提供される。
かかる特性を有する炭素材料は、電極活物質等(リチウム二次電池の負極活物質)として好適に利用され得る。
【0016】
ここに開示される炭素質物質を用いて形成されたいずれかの炭素材料(ここに開示されるいずれかの方法により製造された炭素材料であり得る。以下同じ。)は、多孔度と結晶度とのバランスにより、細孔に物質(イオン等)が出入しやすく、電気化学反応が効率的に起こりやすいものであり得る。したがって、かかる炭素材料は、例えば、二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)や電気二重層キャパシタの活物質等として有用なものとなり得る。
【0017】
本発明によると、また、ここに開示される炭素質物質を用いて形成された炭素材料を電極活物質として含む二次電池が提供される。かかる二次電池を動力源として備えた車両(ハイブリッド車両、電気車両等)もまた本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】例1に係る炭素質物質Aおよび例2〜例7に係る炭素材料B(500)〜B(1500)のラマンスペクトルである。
【図2】例1に係る炭素質物質Aおよび例2〜例9に係る炭素材料B(500)〜B(2800)のXPSスペクトル(ワイドスキャン測定スペクトル)である。
【図3】例1に係る炭素質物質AのSEM画像である。
【図4】例9に係る炭素材料B(2800)のSEM画像である。
【図5】例1に係る炭素質物質AのTEM画像である。
【図6】例2に係る炭素材料B(500)のTEM画像である。
【図7】例3に係る炭素材料B(600)のTEM画像である。
【図8】例4に係る炭素材料B(700)のTEM画像である。
【図9】例5に係る炭素材料B(800)のTEM画像である。
【図10】例7に係る炭素材料B(1500)のTEM画像である。
【図11】例8に係る炭素材料B(2200)のTEM画像である。
【図12】例1に係る炭素質物質Aおよび例2〜例7に係る炭素材料B(500)〜B(1500)の粉体抵抗率を密度に対してプロットした特性図である。
【図13】リチウムイオン二次電池の一構成例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
ここに開示される技術では、炭素源有機物と酸素源有機物と過酸化水素と水とを含む反応液を、温度300℃〜600℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持して炭素質物質を合成する(炭素質物質生成工程)。この反応条件(温度および圧力)に到達すると、水は液相から超臨界相または亜臨界相に転移する(水の臨界点は374℃、22.1MPaである。)。上記反応液をかかる状態(超臨界または亜臨界の状態)に保持することにより、酸素を高い割合で含み、かつ比較的結晶度の高い炭素質物質が生成し得る。上記圧力は、例えば22MPa〜100MPaの範囲とすることができ、70MPa〜100MPaの範囲とすることが好ましい。上記反応液を上記反応条件に保持する時間は、反応の進行度に応じて適宜選択すればよく、例えば0.5〜5時間程度とすることができる。
【0021】
上記方法によって得られる炭素質物質は、酸素を10〜25At%程度(好ましくは12〜22At%程度;例えば、15〜21At%程度)の割合で含み得る。当該炭素質物質に含まれる酸素(O)は、芳香族エーテル基または脂肪族エーテル基を構成するものであり得る。ここに開示される炭素質物質は、当該炭素質物質に含まれる酸素の凡そ50At%以上、典型的には凡そ60At%以上が芳香族エーテル基または脂肪族エーテル基を構成するものであり得る。上記当該炭素質物質に含まれる酸素のうち芳香族エーテル基または脂肪族エーテル基を構成する酸素は、凡そ85At%以下(典型的には80At%以下、例えば70At%以下)であり得る。残りの酸素は、上記炭素質物質において、カルボニル基またはカルボキシル基を構成するものであり得る。上記炭素質物質の酸素含有率および由来官能基の割合は、例えば、XPS(X−Ray Photoelectron Spectroscopy)分析から求めることができる。
【0022】
なお、上記反応条件下での炭素質物質生成のメカニズムとしては、次のようなことが考えられる:昇温時に過酸化水素(H2O2)の熱分解により発生した酸素分子(O2)が、超臨界相または亜臨界相の水と反応し、高反応性のラジカル種(ヒドロキシルラジカル(HO・)、ハイドロパーオキサイドラジカル(HO2・)等)を形成する。これら高反応性ラジカル種は、さらに上記炭素源有機物や上記酸素源有機物と反応してこれらに由来するラジカル種を形成する。これらラジカル種が互いに反応して環化や縮合が繰り返し起こり、酸素を含む縮合多環炭化水素(芳香族炭化水素および脂肪族炭化水素が酸素含有官能基(エーテル基、カルボニル基等)により架橋態様の炭化水素マトリックス;典型的には、芳香族炭化水素がエーテル基により架橋された化学構造を有する縮合多環芳香族炭化水素を主体とする酸素含有炭化水素中間体)から、さらには炭素質物質へと変化する。なお、炭素質物質に含まれる酸素は、酸素源有機物由来の酸素の他に、過酸化水素由来の酸素を含み得る。
【0023】
上記炭素源有機物としては、一種または二種以上の炭化水素を使用することができる。該炭化水素は、酸素元素を導入しながら環化し得る構造を有することが好ましい。不飽和基を含むまたは含まない脂肪族炭化水素(例えばn−ヘキサン)、不飽和基を含むまたは含まない脂環式炭化水素、置換基を含むまたは含まない芳香族炭化水素(例えば、ベンゼンのような単環の芳香族炭化水素、ナフタレンやアントラセンのように縮合環を有する芳香族炭化水素)、等のいずれも使用可能である。実質的に一種類の化合物からなる炭素源有機物を使用してもよく、二種以上の化合物を含む炭素源有機物(例えば軽油)を使用してもよい。好ましく使用され得る炭素源有機物の一例として、不飽和基を含まない脂肪族炭化水素(例えばn−ヘキサン)が挙げられる。
【0024】
上記酸素源有機物としては、水酸基を含む化合物および加水分解等により水酸基を形成し得る化合物から選択される一種または二種以上の化合物を使用することができる。好ましい一態様では、フェノール性水酸基を含む化合物および加水分解等によりフェノール性水酸基を形成し得る化合物から選択される一種または二種以上の化合物を使用する。好ましい酸素源有機物として、例えば、フェニルホウ酸、クロロフェニルホウ酸、ジメトキシフェニルホウ酸等のベンゼンボロン酸誘導体類;フェノール、カテコール、レゾルシノール等のヒドロキシル基含有芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化ベンゼン類;ベンゼンスルホン酸等のスルホン化ベンゼン類;メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル等のフェニルエーテル類、およびベンゾフラン、ベンゾピラン等の芳香族環状エーテル類;等が挙げられる。特に好ましい酸素源有機物として、フェニルホウ酸が例示される。
【0025】
酸素源有機物の添加量は、使用する炭素源有機物の種類、量等に応じて、所望の酸素含有率を有する炭素質物質が実現されるように適宜選択すればよい。好ましい一態様では、酸素源有機物(例えばフェニルホウ酸)に含まれる有効酸素原子数(すなわち、フェノール性水酸基またはフェノール性水酸基前駆体の数)Xの、炭素源有機物(例えばn−ヘキサン)に含まれる炭素原子の数Yに対する比(X/Y)が概ね1/30以下となるように、酸素源有機物の添加量を選択する。上記X/Yが1/30よりも大きすぎると、生成する炭素質物質の結晶度が低くなりすぎて、該炭素質物質を熱処理してなる炭素材料の電極活物質としての性能が低下傾向となることがあり得る。上記X/Yの下限は特に限定されないが、酸素源有機物の使用量が少なすぎると炭素質物質への酸素導入量が少なくなりがちであるため、通常はX/Yを1/500以上(例えば1/100以上)とすることが適当である。
【0026】
上記炭素質物質生成工程において使用する過酸化水素の量は、上記炭素源有機物の使用量に応じて、該炭素源有機物を完全に酸化分解する(例えば、該炭素源有機物として炭化水素を用いる場合、該炭化水素を二酸化炭素および水にまで酸化分解する)際に必要とされるモル数MPの1/2以下(典型的には1/2〜1/50、例えば1/5〜1/20;好ましくは1/12〜1/15程度)とすることが好ましい。このように過酸化水素の使用量を制限することにより上記炭素源有機物を完全酸化ではなく部分酸化させて、炭素質物質の骨格構成に寄与するラジカル種を効率よく生じさせることができる。
上記炭素質物質生成工程により得られる炭素質物質の酸素含有率は、当該工程における反応条件(例えば、過酸化水素の使用量、反応時の圧力、および反応時の温度、の少なくとも一つの条件)を調節することにより調整し得る。より具体的には、過酸化水素の使用量をより多くすると、上記炭素質物質の酸素含有率はより高くなる傾向にある。反応時の圧力をより高くすると、上記炭素質物質の酸素含有率はより高くなる傾向にある。反応時の温度をより低くすると、上記炭素質物質の酸素含有率はより高くなる傾向にある。これらの条件は、単独で、あるいは適宜組み合わせて調節することができる。
【0027】
ここに開示される炭素質物質は、上記所定の酸素含有率を有する他に、以下の特性:
ID/IG値が8.0以下(典型的には5.0以上8.0以下、例えば5.5以上7.5以下)の範囲にある;および、
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μm(典型的には0.1μm〜1.0μm)の範囲にある;
の一方または両方を満たすものであり得る。かかる炭素質物質は、例えば、ここに開示される技術を適用して炭素化することにより(例えば、後述する熱処理を施すことにより)、二次電池用電極活物質等として好適な炭素材料を形成するものであり得る。
【0028】
なお、本明細書において、炭素質物質または炭素材料の平均一次粒径の値は、特記しない限り、透過型電子顕微鏡観察により少なくとも50個(通常は100個以上、好ましくは200個以上、より好ましくは400個以上)の粒子の直径を測定した値の算術平均値を指すものとする。
【0029】
上記炭素質物質は、典型的には、測定温度が25℃のとき、密度1.0g/cm3における粉体抵抗率が100Ωcmを超えるものである。かかる抵抗率の高さは、酸素を構造中に多く含むためと考えられる。後述するように、この炭素質物質に熱処理を施すと、上記粉体抵抗率の値が顕著に低下する。
【0030】
ここに開示される炭素質物質は、特に不融化等の処理を加えなくても、そのままガス中(典型的には非酸化性ガス雰囲気中)において熱処理を施すことで炭素化が進み、所望の多孔度および結晶度を有する炭素材料に転化し得る。得られる炭素材料の多孔度(比表面積、細孔体積等により把握され得る。)および結晶度(ID/IG値により把握され得る。)は、熱処理条件により異なり得る。上記炭素質物質は、熱処理温度が高くなるほど、系外へ脱離する酸素量が大きくなり、多孔度が高く、より発達した結晶構造(例えばグラフェン構造)を有する(ID/IG値がより小さい)炭素材料が形成され得る。すなわち、該炭素材料は、かかる熱処理により、酸素含有率およびID/IG値が、その原料である炭素質物質よりも低い値となる。上記熱処理における加熱温度は、目的物たる炭素材料における所望の多孔度および結晶度に応じて、例えば、凡そ300℃〜3000℃(典型的には350℃〜1000℃)の範囲で適宜選択することができる。上記炭素質物質の熱処理により得られる炭素材料は、熱処理条件に応じて、例えば、熱処理前の炭素質物質よりも低く(典型的には1At%以上、好ましくは2At%以上、例えば5At%以上低く)、かつ5〜20At%程度の割合で酸素を含み得る。当該炭素材料のID/IG値は、熱処理前の炭素質物質よりも低く(典型的には0.5以上、好ましくは1.0以上低く)、かつ7.0以下(例えば6.5以下)であり得る。上記熱処理により得られる炭素材料は、より酸素含有量の高い炭素質物質(例えば、酸素含有量が上記10〜25At%の上限に近い炭素質物質)を出発材料として用いることにより、より酸素含有率の高いものとなり得る。
【0031】
ここに開示される技術によると、例えば、上記炭素質物質を、常圧(100kPa程度)の不活性ガス雰囲気下で500℃〜800℃の温度に保持し、酸素含有量およびID/IG値をそれぞれ所望のレベルに低下させることで、電極活物質として好ましく使用され得る炭素材料を得ることができる。この方法では、上記炭素質物質を原料として用いるので、常圧かつ500℃〜800℃という穏やかな条件であっても、優れた容量の二次電池を構築し得る炭素材料(該電池用の電極活物質)を製造することができる。熱処理温度が高すぎると、ID/IG値が低くなりすぎて(換言すれば、グラフェン構造が発達しすぎて)、上記炭素材料に電荷担体イオン(例えば、リチウム二次電池の場合にはリチウムイオン)が出入りしにくくなることがあり得る。したがって、二次電池の電極活物質用の炭素材料を製造する場合には、熱処理温度を1000℃以下(典型的には900℃以下、例えば800℃以下)とすることが好ましい。
【0032】
上記炭素材料は、典型的には、例えば、6〜13At%程度(好ましくは7〜11At%程度)の割合で酸素を含み得る。該電極活物質は、さらに、以下の特性:
ID/IG値が3.0〜7.0(典型的には4.0〜7.0、例えば4.0より大きく6.5以下であり4.0より大きく6.0以下であってもよい。)の範囲にある;
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μm(典型的には0.1μm〜1.0μm)の範囲にある;および、
比表面積が100m2/g以上(典型的には200〜500m2/g)である;
のうち一つまたは二つ以上を満たすものであり得る。かかる特性を有する炭素材料は、二次電池の電極活物質等の用途に好適である。上記炭素材料の平均一次粒径が大きすぎると、電極活物質等として用いる場合の充填性が小さくなり、粉体抵抗率が上昇したり、電池のエネルギー密度が低下したりする場合がある。上記炭素材料の平均一次粒径が小さすぎると、該炭素材料の取扱性が低下しやすくなることがある。上記炭素材料の比表面積が小さすぎると、該炭素材料を電極活物質に用いてなる二次電池の容量が小さくなりがちである。比表面積の上限は特に限定されないが、通常は、比表面積が例えば1000m2/g以下(典型的には500m2/g以下)の炭素材料を好ましく使用し得る。
【0033】
上記炭素材料は、上記ラマンスペクトルにおけるGピークの半値幅が70〜100cm−1(例えば75〜91cm−1)の範囲にあるものであり得る。このようにGピーク半値幅が大きく、ピークが幅広であることは、上記炭素材料の黒鉛化度(グラフェン構造の発達度)が低いことを意味する。このようにグラフェン構造が発達しすぎない炭素材料は、電荷担体イオンが出入りしやすいので、二次電池の電極活物質等の用途に好適である。
【0034】
上記炭素材料は、一般に高容量として知られる黒鉛系電極活物質が実質的に酸素を含まず発達したグラフェン構造を有するのに対し、酸素を上記所定の割合で含み、かつ、透過型電子顕微鏡(TEM)観察において明確なグラフェン構造を示さないものであり得る。通常、かかる低結晶性炭素はエネルギー密度が小さくなりがちであるが、当該炭素材料は、黒鉛系電極活物質(理論容量372mAh/g;実効容量300〜360mAh/g程度)に匹敵する容量を有するものであり得る。また、当該炭素材料は、測定温度25℃のとき、密度1.0g/cm3における粉体抵抗率(体積抵抗率)が10Ωcm以下のものであり得る。かかる炭素材料は、上記二次電池や電気二重層キャパシタの電極活物質として好適である。なお、この明細書中における粉体抵抗率は、特記しない場合には、二端子法による値を指すものとする。かかる二端子法による粉体抵抗率は、例えば、アドバンテスト(ADVANTEST)社の直流電圧/電流発生器(Programmable DC voltage/current generator、型名「R6144」)および同社のデジタルマルチメータ(Digital Multimeter、型名「AD7461A」)を用いて、定電流(例えば100mA程度)での二端子法計測により算出することができる。
なお、上記粉体抵抗率の測定に四端子法を用いることも可能である。かかる四端子法による測定は、市販の抵抗率計(例えば、三菱化学アナリテック社の商品名「ロレスタ(Loresta)GP MCP−T610型」またはその相当品)を用いて、JIS K7194「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準拠して行うことができる。ここで、一般に二端子法では、接触抵抗の影響により、四端子法に比べて抵抗値が高く測定される。したがって、例えば、ある試料について二端子法により測定された粉体抵抗率が10Ωcmであれば、これを四端子法で測定して得られる粉体抵抗率は10Ωcm以下であるといえる。
【0035】
以下、ここに開示される炭素材料を負極活物質に用いたリチウムイオン二次電池の構成例につき説明するが、上記炭素材料の使用態様をこれらに限定する意図ではない。
【0036】
ここに開示されるリチウムイオン二次電池は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な電極活物質をそれぞれ有する正極および負極が非水電解質とともに容器に収容された形態を有する。上記負極は、ここに開示されるいずれかの炭素材料を活物質(負極活物質)として備える。例えば、上記炭素材料を、バインダおよび必要に応じて使用される導電材等とともに所望の形状(例えばペレット状)に成形するか、あるいは導電性部材(集電体)に付着させた形態の負極を好ましく採用することができる。上記バインダの例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。なお、負極活物質として、ここに開示されるいずれかの炭素材料とともに、一般的なリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用し得ることが知られている公知材料を使用してもよい。
【0037】
正極としては、適当な正極活物質を、バインダおよび必要に応じて使用される導電材等とともに所望の形状に成形するか、あるいは導電製部材(集電体)に付着させた形態のものを好ましく使用し得る。正極活物質としては、一般的なリチウムイオン二次電池の正極に用いられる層状構造の酸化物系活物質、スピネル構造の酸化物系活物質等を好ましく用いることができる。かかる活物質の代表例として、リチウムコバルト系酸化物、リチウムニッケル系酸化物、リチウムマンガン系酸化物等のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。導電材としては、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、グラファイト粉末等のカーボン材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末が例示される。バインダとしては、負極用のバインダと同様のもの等を使用することができる。
【0038】
正極と負極との間に介在される電解質としては、非水溶媒と、該溶媒に溶解可能なリチウム塩(支持電解質)とを含む液状電解質(電解液)を好ましく用いることができる。かかる液状電解質にポリマーが添加された固体状(ゲル状)の電解質であってもよい。上記非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の、一般にリチウムイオン二次電池の電解質に使用し得るものとして知られている非水溶媒から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0039】
上記支持電解質としては、LiPF6,LiBF4,LiN(SO2CF3)2,LiN(SO2C2F5)2,LiCF3SO3,LiC4F9SO3,LiC(SO2CF3)3,LiClO4等の、リチウムイオン二次電池の電解液において支持電解質として機能し得ることが知られている各種のリチウム塩から選択される一種または二種以上を用いることができる。支持電解質(支持塩)の濃度は特に制限されず、例えば従来のリチウムイオン二次電池で使用される電解質と同様とすることができる。通常は、支持電解質を凡そ0.1mol/L〜5mol/L(例えば凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含有する非水電解質を好ましく使用することができる。
【0040】
上記正極および負極を電解質とともに適当な容器(金属または樹脂製の筐体、ラミネートフィルムからなる袋体等)に収容してリチウムイオン二次電池が構築される。ここに開示されるリチウムイオン二次電池の代表的な構成では、正極と負極との間にセパレータが介在される。セパレータとしては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられるセパレータと同様のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート、不織布等を用いることができる。なお、固体状の電解質を用いたリチウムイオン二次電池では、該電解質がセパレータを兼ねる構成としてもよい。リチウムイオン二次電池の形状(容器の外形)は特に限定されず、例えば、円筒型、角型、コイン型等の形状であり得る。
【0041】
本発明により提供されるリチウムイオン二次電池の一構成例を図13に示す。このリチウムイオン二次電池10は、正極12および負極14を具備する電極体11が、該電極体を収容し得る形状の電池ケース15に収容された構成を有する。電池ケース15には非水電解液20も収容されており、その少なくとも一部は電極体11に含浸している。電極体11は、長尺シート状の正極集電体122上に正極活物質層124を有する正極12と、長尺シート状の負極集電体(例えば電解銅箔)142上に負極活物質層144が設けられた構成の負極14とを、二枚の長尺シート状セパレータ13とともに捲回することにより形成される。電池ケース15は、有底円筒状のケース本体152と、上記開口部を塞ぐ蓋体154とを備える。蓋体154およびケース本体152はいずれも金属製であって相互に絶縁されており、それぞれ正負極の集電体122,142と電気的に接続されている。すなわち、このリチウムイオン二次電池10では、蓋体154が正極端子、ケース本体152が負極端子を兼ねている。
【0042】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0043】
<例1>
内容量10.8mLのニッケル合金(商品名:ハステロイC−22)から構成される超臨界水反応容器(耐圧硝子工業株式会社製)に、炭素源有機物としてのn−ヘキサン1.30g(15.1mmol)、H2O2の30%水溶液2.00g(18.2mmolH2O2)、酸素源有機物としてのフェニルホウ酸0.33g(2.7mmol)および蒸留水3.00gを入れた。この反応容器内を昇温および昇圧させて、温度400℃、圧力71MPaの条件(水の超臨界条件)下に3時間保持した。反応容器内を室温および常圧に戻した後、該容器を開けて内容物を濾過し、エタノールおよび蒸留水により洗浄した後、減圧乾燥させることにより、黒色の粉末として炭素質物質A(炭素質物質)を得た。この炭素質物質Aの平均粒径(一次粒径)は0.568μmであった。
【0044】
炭素質物質Aをラマン分光分析装置(Renishaw社製の顕微ラマン分光測定装置、inVia Reflex 785S、励起波長785nm、Arレーザー)で分析して得られたラマンスペクトルにつきDピークとGピークとの強度比(ID/IG値)およびGピークの半値幅をそれぞれ求めた。詳しくは、測定装置に装備されている解析ソフトであるGRAMS/AI(7.02)を使用し、1000cm−1から1800cm−1までの範囲をベースライン補正機能により補正し、ローレンツカンスウフィッティングを行うことにより各ピークの面積強度およびピーク半値幅を算出した。得られた面積強度からID/IG値を算出した。炭素質物質AのID/IG値は7.09であった。Gピークの半値幅は91.2cm−1であった。得られたラマンスペクトルを図1に示す。
【0045】
炭素質物質AをXPS分析装置(Kratos社製のAXIS ULTRA DLD)で分析して酸素含有率を求めた。詳しくは、上記XPS分析装置により得られたワイドスキャン測定スペクトル(図2)のC1Sピーク(結合エネルギーが284eVのピーク)およびO1Sピーク(結合エネルギーが530eVのピーク)のピーク強度および相対感度から元素の組成比(原子%)を決定した。ピーク強度決定の際のバックグランドタイプにはSherley法を採用し、デジタルデータマネジメント社のデータ解析ソフトCASAXPS Ver.2.3.14wを用いて元素組成比を算出した。各元素の化学的存在状態については、ナロースキャン測定されたスペクトルを同ソフトによるローレンツ・ガウス関数による多重ピークフィッティングを行うことにより、存在率とともに決定した。その結果、炭素物質Aの酸素含有率は15.6%であった。なお、上記と同様の条件にて生成された炭素質粒子の酸素含有率は概ね12〜21%の範囲にあることがわかった。
【0046】
炭素質物質Aにつき、比表面積測定装置(Micrometrics社製、型式「ASAP2020」)を用いて窒素吸着法による比表面積および細孔径分布を測定した。炭素質物質Aの比表面積は、4.56m2/gであった。細孔径分布から算出された全細孔容積Vtotalは0.0053cm3/g、ミクロ細孔容積Vmicroは0.0011cm3/g、メゾ細孔容積Vmesoは0.0042cm3/gであった。ミクロ細孔容積の前細孔容積に対する比の値Vmicro/Vtotalは0.21であった。
【0047】
<例2>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質に対し、これを常圧のArガス雰囲気中(Arガス流量:500mL/min)にて500℃に30分間保持する熱処理を施して、炭素材料B(500)を得た。炭素材料B(500)のID/IG値は5.15、Gピークの半値幅は83.4cm−1、酸素含有率は8.60%であった。
【0048】
<例3>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて600℃に30分間保持して、炭素材料B(600)を得た。炭素材料B(600)のID/IG値は5.92、Gピークの半値幅は76.9cm−1、酸素含有率は11.0%であった。
炭素材料B(600)の比表面積は、295.58m2/gであった。Vtotalは0.1142cm3/g、ミクロ細孔容積Vmicroは0.0529cm3/g、メゾ細孔容積Vmesoは0.0613cm3/gであった。Vmicro/Vtotalは、0.46であった。原料である炭素質物質A(例1)と比べると、比表面積は102のオーダーの倍率で増加し、全細孔容積も20倍以上、中でもミクロ細孔は50倍近く、またメゾ細孔は15倍程度増加した。すなわち、上記で合成した炭素質物質は、600℃という比較的穏やかな温度条件でも、酸素の脱離が起こり、多孔度が顕著に増加することが確認された。また、加熱処理によりミクロ細孔の割合が増加することも確認された。
【0049】
<例4>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて700℃に30分間保持して、炭素材料B(700)を得た。炭素材料B(700)のID/IG値は4.06、Gピークの半値幅は90.2cm−1、酸素含有率は7.30%であった。
【0050】
<例5>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて800℃に30分間保持して、炭素材料B(800)を得た。炭素材料B(800)のID/IG値は4.65、Gピークの半値幅は88.1cm−1、酸素含有率は9.51%であった。
<例6>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて1000℃に30分間保持して、炭素材料B(1000)を得た。炭素材料B(1000)のID/IG値は4.00、Gピークの半値幅は78.8cm−1、酸素含有率は8.86%であった。
【0051】
<例7>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて1500℃に30分間保持して、炭素材料B(1500)を得た。炭素材料B(1500)のID/IG値は2.55、Gピークの半値幅は73.3cm−1、酸素含有率は7.20%であった。
<例8>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて2200℃に30分間保持して、炭素材料B(2200)を得た。炭素材料B(2200)のID/IG値は1.58、Gピークの半値幅は59.4cm−1、酸素含有率は16.0%であった。
【0052】
<例9>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて2800℃に30分間保持して、炭素材料B(2800)を得た。炭素材料B(2800)のID/IG値は0.95、Gピークの半値幅は40.3cm−1、酸素含有率は11.3%であった。
【0053】
[SEM分析]
例1の炭素質物質A、および例2〜9に係る炭素材料B(500)〜B(2800)を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製品、型式「JSM−7000F/IV」)で観察した。得られた画像のうち、炭素質物質Aの画像および炭素材料B(2800)の画像をそれぞれ図3および図4に示す。これらの画像から明らかなように、炭素質物質Aは、不活性ガス雰囲気中においてかかる高温に保持されても、溶融を起こすことなく、粒子形状を概ね維持したまま更に炭素化されて炭素材料Bを形成した。
【0054】
[TEM分析]
例1の炭素質物質A、および例2〜9に係る炭素材料B(500)〜B(2800)を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製品、型式「JEM2100F」)で観察した。得られた画像のうち、炭素質物質A、炭素材料B(500)、B(600)、B(700)、B(800)、B(1500)、B(2200)の画像をそれぞれ図5〜図11に示す。これらの画像から明らかなように、加熱処理前の炭素質物質A(図5)、炭素質物質を500℃で熱処理してなる炭素材料B(500)(図6)600℃で熱処理してなる炭素材料B(600)(図7)、および800℃で熱処理してなる炭素材料B(800)(図9)においては、明確な結晶構造は認められなかった。炭素質物質を700℃で熱処理してなる炭素材料B(700)は、小さなグラフェンの存在が認められた(図8)。炭素質物質を1500℃で熱処理してなる炭素材料B(1500)は、より成長したグラフェンの存在が認められた(図10)。炭素質物質を2200℃で加熱してなる炭素材料B(2200)は、さらに小さなグラフェン積層体が集合したような構造を有することが認められた(図11)。このように、炭素質物質は、加熱する際の温度が高くなると、より結晶度の高い炭素粒子に転化することがわかった。
【0055】
[二次電池性能評価]
例1の炭素質物質Aを電極活物質として含む作用極と、対極としての金属リチウムと、参照極としての金属リチウムと、プロピレンカーボネート中にLiClO4を1Mの濃度で含む電解液とを用いて、性能評価用のRC2032型コインセル(直径20mm、厚さ3.2mm)を構築した。例2〜9に係る各炭素材料Bについても、同様にしてコインセルを構築した。各コインセルに対し、30mA/gの充放電レートにて、上限・下限電圧を2.8V〜0Vとして充放電サイクルを繰り返した。5回目の放電容量を、対応するコインセルの作用極に含まれる活物質の質量で除して比容量(mAh/g)を算出した。
各例に係る三極セルに具備される炭素質物質または炭素材料につき、アドバンテスト社の直流電圧/電流発生器「R6144」およびデジタルマルチメータ「AD7461A」)を用いて、100mA程度の定電流での二端子法計測により粉体抵抗率(Ωcm)を算出した。炭素質粒子Aおよび炭素材料B(500)〜B(1500)について、結果を表すグラフを図12に示す。
【0056】
例1の炭素質物質A、および例2〜9に係る炭素材料B(500)〜B(2800)の特性、ならびに各例に係るコインセルの容量を表1に示す。また、例1の炭素質物質A、および例2〜7に係る炭素材料B(1500)についての粉体抵抗率の測定結果を図12に、密度1.0g/cm3のときの粉体抵抗率の値を表1に示す。ただし、例5については密度0.81g/cm3のときの粉体抵抗率(注1)、例6については密度0.89g/cm3のときの粉体抵抗率の値(注2)を表1に示している。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すラマンスペクトルにおけるID/IG値およびGピーク半値幅から明らかなように、例1に係る炭素質物質Aから形成される炭素粒子Bは、炭素質物質Aを不活性ガス雰囲気下で加熱する際の温度が高いほど、ID/IG値が概して小さくなり、Gピーク半値幅が概して小さくなる傾向にあることが認められた。すなわち、加熱温度の上昇に伴って、得られる炭素材料の黒鉛化度がより高くなることがわかった。したがって、同じ炭素質物質Aを用いても、加熱温度を異ならせるだけで種々の結晶度を有する炭素材料が実現され得ることがわかった。このことはGピーク半値幅の傾向にも表れている。
【0059】
表1に記載の粉体抵抗率および図12から明らかなとおり、原料である炭素質物質と比べ、該炭素質物質から生成された炭素材料は、粉体抵抗率が顕著に小さいことが認められた。また、例2〜4に係る炭素材料を作用極活物質として含む各三極セルについて測定された放電容量(mAh/g)は約400〜500mAh/gと、二次電池の電極活物質として好ましく使用することができる程度の高い容量を示した。このことは、炭素質物質Aを500℃〜800℃の不活性ガス雰囲気下で熱処理することにより、該炭素質物質Aを優れた性能の電極活物質に転化し得ることを支持するものである。また、例1の炭素質物質Aの比表面積に比べて、600℃で熱処理した例3の炭素材料(600)の比表面積は約300m2/g(炭素質物質Aの50倍以上)と、著しく増大した。これは、熱処理前の炭素質物質において炭素骨格に多量の酸素原子が組み込まれているため、該炭素質物質を熱処理することにより、上記酸素原子が脱離する際に一酸化炭素や二酸化炭素として(すなわち、炭素原子を伴って)脱離し、炭素材料に微細な細孔が多く形成されたものと考えられる。このように、ここに開示される技術を適用して酸素含有率の多い(例えば10〜25At%の範囲にある)炭素質物質を熱処理することにより、二次電池の電極活物質等として好適な炭素材料を効果的に製造し得ることが確認された。
【0060】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10 リチウムイオン二次電池(二次電池)
11 電極体
12 正極
13 セパレータ
14 負極
15 電池ケース
20 非水電解液
122 正極集電体
124 正極活物質層
142 負極集電体
144 負極活物質層
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を含む炭素質物質および該炭素質物質から形成された炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質炭素は、電極活物質や活性炭として各種分野において利用されている。かかる多孔質炭素の原料(前駆体)として、種々の炭素質物質が知られている。かかる多孔質炭素およびその原料となり得る炭素質物質に関連する技術文献として、特許文献1〜3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−254513号公報
【特許文献2】特開2006−83486号公報
【特許文献3】国際公開第2007/40007号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔質炭素(Porous Carbon)の原料としては、不融化したピッチ類または耐炎化した熱硬化性樹脂等の炭素質物質(Carbonaceous Substance)を用いることが一般的である。しかし、これら炭素質物質を炭素化させて多孔質炭素を生成するためには、通常、不活性ガス雰囲気下で1000℃から1500℃程度の高温にて該炭素質物質を長時間焼成しなければならない。そこで、より穏やかな条件(より低温または短時間、あるいはより低温かつ短時間等)で各種用途に適した多孔度および結晶度の炭素に転化し得る炭素質物質が提供されれば有用である。かかる炭素質物質を用い、より穏やかな条件下で、例えば、電極活物質として優れた性能(例えば、容量)を有する炭素材料を形成することができれば有意義である。
【0005】
本発明は、より穏やかな条件であっても電極活物質等として有用な炭素材料に転化し得る炭素質物質の提供、およびかかる炭素質物質を製造する方法の提供を目的とする。本発明の他の目的は、上記炭素質物質を用いて形成された炭素材料およびその製造方法、ならびに該炭素材料を電極活物質として有する二次電池の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、酸素を含む炭素質物質を製造する方法が提供される。その製造方法は、炭素源有機物、酸素源有機物、過酸化水素および水を含む混合物を、温度300℃〜600℃かつ圧力22MPa以上(例えば22MPa〜100MPa)の条件下に保持することにより、該混合物から酸素含有炭素質物質を生じさせる炭素質物質生成工程を包含する。ここで、前記酸素源有機物としては、水酸基を有する化合物および加水分解により水酸基を形成する化合物(好ましくは、フェノール性水酸基を有する化合物および加水分解によりフェノール性水酸基を形成し得る化合物)の少なくともいずれかを使用する。かかる製造方法によると、多孔質の炭素材料への転化に適した(例えば、二次電池の電極活物質として用いられて、より高性能(高容量等)の電池を実現する炭素材料を提供し得る)炭素質物質を生成させることができる。前記炭素源有機物としては、炭化水素を好ましく採用し得る。前記酸素源有機物の一好適例として、フェニルホウ酸(C6H5−B(OH)2)が例示される。
【0007】
好ましい一態様では、前記炭素質物質生成工程において、原子数基準の酸素含有量が10〜25%(以下、これを10〜25At%と表すこともある。)の範囲にある前記炭素質物質を生じさせる。ここで原子数基準の酸素含有率とは、上記炭素質物質の化学構造中に含まれる原子の合計数(モル)を100%としたとき、当該炭素質物質に含まれる酸素原子(O)の割合を指す。かかる態様によると、上記炭素材料への転化により適した炭素質材料が製造され得る。
【0008】
好ましい他の一態様では、前記炭素質物質生成工程において、励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおいて、Gピーク(1580cm−1近傍に現れるラマンピーク)の強度IGに対するDピーク(1360cm−1近傍に現れるラマンピーク)の強度IDの比の値(ID/IG値)が8.0以下の範囲にある前記炭素質物質を生じさせる。炭素質物質のラマンスペクトルにおいて、Gピークはグラファイトに由来し、Dピークはグラファイトの欠陥に由来する。したがって、上記ID/IG値(R値ともいう。)は、炭素質物質の結晶性の度合いを示す指針となる。すなわち、炭素質物質のID/IG値がより大きいことは、その炭素質物質の結晶性がより低いことを示す。ここで、各ピーク(DピークおよびGピーク)の強度IG,IDとしては、ベースラインを補正した各ピークの面積強度の値を採用するものとする。かかる態様によると、上記炭素材料への転化により適した炭素質材料が製造され得る。
【0009】
好ましい他の一態様では、前記炭素質物質生成工程において、平均一次粒径が0.02μm〜1.0μmの範囲にある前記炭素質物質を生じさせる。かかる態様によると、上記炭素材料への転化により適した炭素質材料が製造され得る。上記酸素含有量、ID/IG値および平均一次粒径のうち二つ以上(例えば全部)を満たす炭素質物質は、上記炭素材料への転化に特に適したものとなり得る。
【0010】
本発明によると、以下の特性:
酸素含有量が10〜25At%の範囲にある;
ID/IG値が8.0以下(典型的には5.0以上8.0以下、例えば5.5以上7.5以下)の範囲にある;および、
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μm(典型的には0.1μm〜1.0μm)の範囲にある;
を満たす炭素質物質が提供される。
【0011】
かかる特性を有する炭素質物質は、上記炭素材料への転化に適した(したがって、電極活物質等の用途に好適な)ものとなり得る。例えば、上記炭素質物質(ここに開示されるいずれかの方法により製造された炭素質物質であり得る。)は、酸素含有率が上記のとおり高いので、該炭素質物質を炭素化する際(典型的には、後述する熱処理のように、該炭素質物質から酸素含有量を減らす処理を施す際)、系外への酸素脱離量に応じて、異なる多孔度および結晶度(グラフェン構造の発達度合いとしても把握され得る。)の炭素材料を形成し得る。すなわち、炭素化する際の加熱条件(温度、時間、圧力等)を変えることによって、幅広い範囲で多孔度(例えば、比表面積)および結晶度(例えば、ID/IG値)の異なる炭素材料を形成し得る。すなわち、ここに開示される酸素含有炭素質物質によると、各種用途に適した多孔度および結晶度を有する炭素材料が提供され得る。そして、ここに開示される酸素含有炭素質物質は、かかる高い酸素含有率にも拘わらず比較的低いID/IG値を有する(換言すれば、酸素含有率が高い割にはグラフェン構造が発達している)ので、該炭素質物質を炭素化することにより、電極活物質としての用途に特に適した特性バランス(例えば、多孔度と結晶度のバランス)を有する炭素材料を形成し得る。例えば、リチウム二次電池用の電極活物質(典型的には、リチウムイオン二次電池の負極活物質)等として好適な炭素材料を形成する炭素質物質であり得る。
【0012】
なお、本明細書においては、混同を避けるため、上記熱処理が施されていない炭素質材料(すなわち、多孔質の炭素材料を製造するための原料としての酸素含有炭素質材料)を「酸素含有炭素質物質」または「炭素質物質」と称し、該炭素質物質を熱処理して形成された炭素質材料を「炭素材料」と称している。
また、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン二次電池と称される電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【0013】
本発明によると、また、炭素材料の製造方法が提供される。その方法は、ここに開示されるいずれかの炭素質物質を用意する工程と、該炭素質物質を加熱(典型的には、前記炭素質物質の生成温度と同等またはより高い温度に加熱)する熱処理工程とを包含する。ここで、前記熱処理工程では、前記炭素質物質の酸素含有量を低下させるとともに、励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGを低下させる。上記炭素質物質を用意する工程は、ここに開示されるいずれかの方法で上記炭素質物質を製造する工程であり得る。あるいは、予め調製された上記炭素質物質を入手する工程であり得る。かかる製造方法によると、上記炭素質物質を原料とすることにより、比較的穏やかな条件でも(例えば、500℃〜800℃程度の熱処理温度でも)、電極活物質等の用途に好適な炭素材料を製造することができる。すなわち、ここに開示される炭素材料製造方法は、前記熱処理工程において前記炭素質物質を500℃〜800℃に保持する態様で好ましく実施され得る。前記熱処理工程は、典型的には非酸化性ガス中で行われる。例えば、常圧(典型的には、概ね100kPa程度)の非酸化性ガス雰囲気下(アルゴンガス中、窒素ガス中等)で実施することができる。
【0014】
好ましい一態様では、前記熱処理工程において、前記炭素質物質の酸素含有量を6〜13%の範囲に低下させる。また、該熱処理工程において、前記炭素質物質のID/IGを3.0〜7.0(例えば3.5〜6.5)の範囲に低下させるとよい。好ましい他の一態様では、前記炭素質物質として比表面積は1〜10m2/gのものを用意し、前記熱処理により該炭素質物質の比表面積を100m2/g以上(典型的には500m2/g以下)に増大させる。上記酸素含有量および比表面積の少なくとも一方(好ましくは両方)を満たす炭素材料は、電極活物質等の用途に特に適したものとなり得る。
なお、本明細書中における比表面積は、特記しない限り、窒素吸着法(BET法)により測定される比表面積をいうものとする。
【0015】
本発明によると、以下の特性:
酸素含有量が6〜12At%(例えば7〜11At%程度)の範囲にある;、
ID/IG値が3.0〜7.0(典型的には4.0〜7.0、例えば4.0より大きく6.5以下)の範囲にある;
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μm(典型的には0.1μm〜1.0μm)の範囲にある;および、
比表面積が100m2/g以上(典型的には200〜500m2/g)である;
を満たす炭素材料が提供される。
かかる特性を有する炭素材料は、電極活物質等(リチウム二次電池の負極活物質)として好適に利用され得る。
【0016】
ここに開示される炭素質物質を用いて形成されたいずれかの炭素材料(ここに開示されるいずれかの方法により製造された炭素材料であり得る。以下同じ。)は、多孔度と結晶度とのバランスにより、細孔に物質(イオン等)が出入しやすく、電気化学反応が効率的に起こりやすいものであり得る。したがって、かかる炭素材料は、例えば、二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)や電気二重層キャパシタの活物質等として有用なものとなり得る。
【0017】
本発明によると、また、ここに開示される炭素質物質を用いて形成された炭素材料を電極活物質として含む二次電池が提供される。かかる二次電池を動力源として備えた車両(ハイブリッド車両、電気車両等)もまた本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】例1に係る炭素質物質Aおよび例2〜例7に係る炭素材料B(500)〜B(1500)のラマンスペクトルである。
【図2】例1に係る炭素質物質Aおよび例2〜例9に係る炭素材料B(500)〜B(2800)のXPSスペクトル(ワイドスキャン測定スペクトル)である。
【図3】例1に係る炭素質物質AのSEM画像である。
【図4】例9に係る炭素材料B(2800)のSEM画像である。
【図5】例1に係る炭素質物質AのTEM画像である。
【図6】例2に係る炭素材料B(500)のTEM画像である。
【図7】例3に係る炭素材料B(600)のTEM画像である。
【図8】例4に係る炭素材料B(700)のTEM画像である。
【図9】例5に係る炭素材料B(800)のTEM画像である。
【図10】例7に係る炭素材料B(1500)のTEM画像である。
【図11】例8に係る炭素材料B(2200)のTEM画像である。
【図12】例1に係る炭素質物質Aおよび例2〜例7に係る炭素材料B(500)〜B(1500)の粉体抵抗率を密度に対してプロットした特性図である。
【図13】リチウムイオン二次電池の一構成例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
ここに開示される技術では、炭素源有機物と酸素源有機物と過酸化水素と水とを含む反応液を、温度300℃〜600℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持して炭素質物質を合成する(炭素質物質生成工程)。この反応条件(温度および圧力)に到達すると、水は液相から超臨界相または亜臨界相に転移する(水の臨界点は374℃、22.1MPaである。)。上記反応液をかかる状態(超臨界または亜臨界の状態)に保持することにより、酸素を高い割合で含み、かつ比較的結晶度の高い炭素質物質が生成し得る。上記圧力は、例えば22MPa〜100MPaの範囲とすることができ、70MPa〜100MPaの範囲とすることが好ましい。上記反応液を上記反応条件に保持する時間は、反応の進行度に応じて適宜選択すればよく、例えば0.5〜5時間程度とすることができる。
【0021】
上記方法によって得られる炭素質物質は、酸素を10〜25At%程度(好ましくは12〜22At%程度;例えば、15〜21At%程度)の割合で含み得る。当該炭素質物質に含まれる酸素(O)は、芳香族エーテル基または脂肪族エーテル基を構成するものであり得る。ここに開示される炭素質物質は、当該炭素質物質に含まれる酸素の凡そ50At%以上、典型的には凡そ60At%以上が芳香族エーテル基または脂肪族エーテル基を構成するものであり得る。上記当該炭素質物質に含まれる酸素のうち芳香族エーテル基または脂肪族エーテル基を構成する酸素は、凡そ85At%以下(典型的には80At%以下、例えば70At%以下)であり得る。残りの酸素は、上記炭素質物質において、カルボニル基またはカルボキシル基を構成するものであり得る。上記炭素質物質の酸素含有率および由来官能基の割合は、例えば、XPS(X−Ray Photoelectron Spectroscopy)分析から求めることができる。
【0022】
なお、上記反応条件下での炭素質物質生成のメカニズムとしては、次のようなことが考えられる:昇温時に過酸化水素(H2O2)の熱分解により発生した酸素分子(O2)が、超臨界相または亜臨界相の水と反応し、高反応性のラジカル種(ヒドロキシルラジカル(HO・)、ハイドロパーオキサイドラジカル(HO2・)等)を形成する。これら高反応性ラジカル種は、さらに上記炭素源有機物や上記酸素源有機物と反応してこれらに由来するラジカル種を形成する。これらラジカル種が互いに反応して環化や縮合が繰り返し起こり、酸素を含む縮合多環炭化水素(芳香族炭化水素および脂肪族炭化水素が酸素含有官能基(エーテル基、カルボニル基等)により架橋態様の炭化水素マトリックス;典型的には、芳香族炭化水素がエーテル基により架橋された化学構造を有する縮合多環芳香族炭化水素を主体とする酸素含有炭化水素中間体)から、さらには炭素質物質へと変化する。なお、炭素質物質に含まれる酸素は、酸素源有機物由来の酸素の他に、過酸化水素由来の酸素を含み得る。
【0023】
上記炭素源有機物としては、一種または二種以上の炭化水素を使用することができる。該炭化水素は、酸素元素を導入しながら環化し得る構造を有することが好ましい。不飽和基を含むまたは含まない脂肪族炭化水素(例えばn−ヘキサン)、不飽和基を含むまたは含まない脂環式炭化水素、置換基を含むまたは含まない芳香族炭化水素(例えば、ベンゼンのような単環の芳香族炭化水素、ナフタレンやアントラセンのように縮合環を有する芳香族炭化水素)、等のいずれも使用可能である。実質的に一種類の化合物からなる炭素源有機物を使用してもよく、二種以上の化合物を含む炭素源有機物(例えば軽油)を使用してもよい。好ましく使用され得る炭素源有機物の一例として、不飽和基を含まない脂肪族炭化水素(例えばn−ヘキサン)が挙げられる。
【0024】
上記酸素源有機物としては、水酸基を含む化合物および加水分解等により水酸基を形成し得る化合物から選択される一種または二種以上の化合物を使用することができる。好ましい一態様では、フェノール性水酸基を含む化合物および加水分解等によりフェノール性水酸基を形成し得る化合物から選択される一種または二種以上の化合物を使用する。好ましい酸素源有機物として、例えば、フェニルホウ酸、クロロフェニルホウ酸、ジメトキシフェニルホウ酸等のベンゼンボロン酸誘導体類;フェノール、カテコール、レゾルシノール等のヒドロキシル基含有芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化ベンゼン類;ベンゼンスルホン酸等のスルホン化ベンゼン類;メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル等のフェニルエーテル類、およびベンゾフラン、ベンゾピラン等の芳香族環状エーテル類;等が挙げられる。特に好ましい酸素源有機物として、フェニルホウ酸が例示される。
【0025】
酸素源有機物の添加量は、使用する炭素源有機物の種類、量等に応じて、所望の酸素含有率を有する炭素質物質が実現されるように適宜選択すればよい。好ましい一態様では、酸素源有機物(例えばフェニルホウ酸)に含まれる有効酸素原子数(すなわち、フェノール性水酸基またはフェノール性水酸基前駆体の数)Xの、炭素源有機物(例えばn−ヘキサン)に含まれる炭素原子の数Yに対する比(X/Y)が概ね1/30以下となるように、酸素源有機物の添加量を選択する。上記X/Yが1/30よりも大きすぎると、生成する炭素質物質の結晶度が低くなりすぎて、該炭素質物質を熱処理してなる炭素材料の電極活物質としての性能が低下傾向となることがあり得る。上記X/Yの下限は特に限定されないが、酸素源有機物の使用量が少なすぎると炭素質物質への酸素導入量が少なくなりがちであるため、通常はX/Yを1/500以上(例えば1/100以上)とすることが適当である。
【0026】
上記炭素質物質生成工程において使用する過酸化水素の量は、上記炭素源有機物の使用量に応じて、該炭素源有機物を完全に酸化分解する(例えば、該炭素源有機物として炭化水素を用いる場合、該炭化水素を二酸化炭素および水にまで酸化分解する)際に必要とされるモル数MPの1/2以下(典型的には1/2〜1/50、例えば1/5〜1/20;好ましくは1/12〜1/15程度)とすることが好ましい。このように過酸化水素の使用量を制限することにより上記炭素源有機物を完全酸化ではなく部分酸化させて、炭素質物質の骨格構成に寄与するラジカル種を効率よく生じさせることができる。
上記炭素質物質生成工程により得られる炭素質物質の酸素含有率は、当該工程における反応条件(例えば、過酸化水素の使用量、反応時の圧力、および反応時の温度、の少なくとも一つの条件)を調節することにより調整し得る。より具体的には、過酸化水素の使用量をより多くすると、上記炭素質物質の酸素含有率はより高くなる傾向にある。反応時の圧力をより高くすると、上記炭素質物質の酸素含有率はより高くなる傾向にある。反応時の温度をより低くすると、上記炭素質物質の酸素含有率はより高くなる傾向にある。これらの条件は、単独で、あるいは適宜組み合わせて調節することができる。
【0027】
ここに開示される炭素質物質は、上記所定の酸素含有率を有する他に、以下の特性:
ID/IG値が8.0以下(典型的には5.0以上8.0以下、例えば5.5以上7.5以下)の範囲にある;および、
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μm(典型的には0.1μm〜1.0μm)の範囲にある;
の一方または両方を満たすものであり得る。かかる炭素質物質は、例えば、ここに開示される技術を適用して炭素化することにより(例えば、後述する熱処理を施すことにより)、二次電池用電極活物質等として好適な炭素材料を形成するものであり得る。
【0028】
なお、本明細書において、炭素質物質または炭素材料の平均一次粒径の値は、特記しない限り、透過型電子顕微鏡観察により少なくとも50個(通常は100個以上、好ましくは200個以上、より好ましくは400個以上)の粒子の直径を測定した値の算術平均値を指すものとする。
【0029】
上記炭素質物質は、典型的には、測定温度が25℃のとき、密度1.0g/cm3における粉体抵抗率が100Ωcmを超えるものである。かかる抵抗率の高さは、酸素を構造中に多く含むためと考えられる。後述するように、この炭素質物質に熱処理を施すと、上記粉体抵抗率の値が顕著に低下する。
【0030】
ここに開示される炭素質物質は、特に不融化等の処理を加えなくても、そのままガス中(典型的には非酸化性ガス雰囲気中)において熱処理を施すことで炭素化が進み、所望の多孔度および結晶度を有する炭素材料に転化し得る。得られる炭素材料の多孔度(比表面積、細孔体積等により把握され得る。)および結晶度(ID/IG値により把握され得る。)は、熱処理条件により異なり得る。上記炭素質物質は、熱処理温度が高くなるほど、系外へ脱離する酸素量が大きくなり、多孔度が高く、より発達した結晶構造(例えばグラフェン構造)を有する(ID/IG値がより小さい)炭素材料が形成され得る。すなわち、該炭素材料は、かかる熱処理により、酸素含有率およびID/IG値が、その原料である炭素質物質よりも低い値となる。上記熱処理における加熱温度は、目的物たる炭素材料における所望の多孔度および結晶度に応じて、例えば、凡そ300℃〜3000℃(典型的には350℃〜1000℃)の範囲で適宜選択することができる。上記炭素質物質の熱処理により得られる炭素材料は、熱処理条件に応じて、例えば、熱処理前の炭素質物質よりも低く(典型的には1At%以上、好ましくは2At%以上、例えば5At%以上低く)、かつ5〜20At%程度の割合で酸素を含み得る。当該炭素材料のID/IG値は、熱処理前の炭素質物質よりも低く(典型的には0.5以上、好ましくは1.0以上低く)、かつ7.0以下(例えば6.5以下)であり得る。上記熱処理により得られる炭素材料は、より酸素含有量の高い炭素質物質(例えば、酸素含有量が上記10〜25At%の上限に近い炭素質物質)を出発材料として用いることにより、より酸素含有率の高いものとなり得る。
【0031】
ここに開示される技術によると、例えば、上記炭素質物質を、常圧(100kPa程度)の不活性ガス雰囲気下で500℃〜800℃の温度に保持し、酸素含有量およびID/IG値をそれぞれ所望のレベルに低下させることで、電極活物質として好ましく使用され得る炭素材料を得ることができる。この方法では、上記炭素質物質を原料として用いるので、常圧かつ500℃〜800℃という穏やかな条件であっても、優れた容量の二次電池を構築し得る炭素材料(該電池用の電極活物質)を製造することができる。熱処理温度が高すぎると、ID/IG値が低くなりすぎて(換言すれば、グラフェン構造が発達しすぎて)、上記炭素材料に電荷担体イオン(例えば、リチウム二次電池の場合にはリチウムイオン)が出入りしにくくなることがあり得る。したがって、二次電池の電極活物質用の炭素材料を製造する場合には、熱処理温度を1000℃以下(典型的には900℃以下、例えば800℃以下)とすることが好ましい。
【0032】
上記炭素材料は、典型的には、例えば、6〜13At%程度(好ましくは7〜11At%程度)の割合で酸素を含み得る。該電極活物質は、さらに、以下の特性:
ID/IG値が3.0〜7.0(典型的には4.0〜7.0、例えば4.0より大きく6.5以下であり4.0より大きく6.0以下であってもよい。)の範囲にある;
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μm(典型的には0.1μm〜1.0μm)の範囲にある;および、
比表面積が100m2/g以上(典型的には200〜500m2/g)である;
のうち一つまたは二つ以上を満たすものであり得る。かかる特性を有する炭素材料は、二次電池の電極活物質等の用途に好適である。上記炭素材料の平均一次粒径が大きすぎると、電極活物質等として用いる場合の充填性が小さくなり、粉体抵抗率が上昇したり、電池のエネルギー密度が低下したりする場合がある。上記炭素材料の平均一次粒径が小さすぎると、該炭素材料の取扱性が低下しやすくなることがある。上記炭素材料の比表面積が小さすぎると、該炭素材料を電極活物質に用いてなる二次電池の容量が小さくなりがちである。比表面積の上限は特に限定されないが、通常は、比表面積が例えば1000m2/g以下(典型的には500m2/g以下)の炭素材料を好ましく使用し得る。
【0033】
上記炭素材料は、上記ラマンスペクトルにおけるGピークの半値幅が70〜100cm−1(例えば75〜91cm−1)の範囲にあるものであり得る。このようにGピーク半値幅が大きく、ピークが幅広であることは、上記炭素材料の黒鉛化度(グラフェン構造の発達度)が低いことを意味する。このようにグラフェン構造が発達しすぎない炭素材料は、電荷担体イオンが出入りしやすいので、二次電池の電極活物質等の用途に好適である。
【0034】
上記炭素材料は、一般に高容量として知られる黒鉛系電極活物質が実質的に酸素を含まず発達したグラフェン構造を有するのに対し、酸素を上記所定の割合で含み、かつ、透過型電子顕微鏡(TEM)観察において明確なグラフェン構造を示さないものであり得る。通常、かかる低結晶性炭素はエネルギー密度が小さくなりがちであるが、当該炭素材料は、黒鉛系電極活物質(理論容量372mAh/g;実効容量300〜360mAh/g程度)に匹敵する容量を有するものであり得る。また、当該炭素材料は、測定温度25℃のとき、密度1.0g/cm3における粉体抵抗率(体積抵抗率)が10Ωcm以下のものであり得る。かかる炭素材料は、上記二次電池や電気二重層キャパシタの電極活物質として好適である。なお、この明細書中における粉体抵抗率は、特記しない場合には、二端子法による値を指すものとする。かかる二端子法による粉体抵抗率は、例えば、アドバンテスト(ADVANTEST)社の直流電圧/電流発生器(Programmable DC voltage/current generator、型名「R6144」)および同社のデジタルマルチメータ(Digital Multimeter、型名「AD7461A」)を用いて、定電流(例えば100mA程度)での二端子法計測により算出することができる。
なお、上記粉体抵抗率の測定に四端子法を用いることも可能である。かかる四端子法による測定は、市販の抵抗率計(例えば、三菱化学アナリテック社の商品名「ロレスタ(Loresta)GP MCP−T610型」またはその相当品)を用いて、JIS K7194「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準拠して行うことができる。ここで、一般に二端子法では、接触抵抗の影響により、四端子法に比べて抵抗値が高く測定される。したがって、例えば、ある試料について二端子法により測定された粉体抵抗率が10Ωcmであれば、これを四端子法で測定して得られる粉体抵抗率は10Ωcm以下であるといえる。
【0035】
以下、ここに開示される炭素材料を負極活物質に用いたリチウムイオン二次電池の構成例につき説明するが、上記炭素材料の使用態様をこれらに限定する意図ではない。
【0036】
ここに開示されるリチウムイオン二次電池は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な電極活物質をそれぞれ有する正極および負極が非水電解質とともに容器に収容された形態を有する。上記負極は、ここに開示されるいずれかの炭素材料を活物質(負極活物質)として備える。例えば、上記炭素材料を、バインダおよび必要に応じて使用される導電材等とともに所望の形状(例えばペレット状)に成形するか、あるいは導電性部材(集電体)に付着させた形態の負極を好ましく採用することができる。上記バインダの例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。なお、負極活物質として、ここに開示されるいずれかの炭素材料とともに、一般的なリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用し得ることが知られている公知材料を使用してもよい。
【0037】
正極としては、適当な正極活物質を、バインダおよび必要に応じて使用される導電材等とともに所望の形状に成形するか、あるいは導電製部材(集電体)に付着させた形態のものを好ましく使用し得る。正極活物質としては、一般的なリチウムイオン二次電池の正極に用いられる層状構造の酸化物系活物質、スピネル構造の酸化物系活物質等を好ましく用いることができる。かかる活物質の代表例として、リチウムコバルト系酸化物、リチウムニッケル系酸化物、リチウムマンガン系酸化物等のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。導電材としては、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、グラファイト粉末等のカーボン材料、ニッケル粉末等の導電性金属粉末が例示される。バインダとしては、負極用のバインダと同様のもの等を使用することができる。
【0038】
正極と負極との間に介在される電解質としては、非水溶媒と、該溶媒に溶解可能なリチウム塩(支持電解質)とを含む液状電解質(電解液)を好ましく用いることができる。かかる液状電解質にポリマーが添加された固体状(ゲル状)の電解質であってもよい。上記非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の、一般にリチウムイオン二次電池の電解質に使用し得るものとして知られている非水溶媒から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0039】
上記支持電解質としては、LiPF6,LiBF4,LiN(SO2CF3)2,LiN(SO2C2F5)2,LiCF3SO3,LiC4F9SO3,LiC(SO2CF3)3,LiClO4等の、リチウムイオン二次電池の電解液において支持電解質として機能し得ることが知られている各種のリチウム塩から選択される一種または二種以上を用いることができる。支持電解質(支持塩)の濃度は特に制限されず、例えば従来のリチウムイオン二次電池で使用される電解質と同様とすることができる。通常は、支持電解質を凡そ0.1mol/L〜5mol/L(例えば凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含有する非水電解質を好ましく使用することができる。
【0040】
上記正極および負極を電解質とともに適当な容器(金属または樹脂製の筐体、ラミネートフィルムからなる袋体等)に収容してリチウムイオン二次電池が構築される。ここに開示されるリチウムイオン二次電池の代表的な構成では、正極と負極との間にセパレータが介在される。セパレータとしては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられるセパレータと同様のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート、不織布等を用いることができる。なお、固体状の電解質を用いたリチウムイオン二次電池では、該電解質がセパレータを兼ねる構成としてもよい。リチウムイオン二次電池の形状(容器の外形)は特に限定されず、例えば、円筒型、角型、コイン型等の形状であり得る。
【0041】
本発明により提供されるリチウムイオン二次電池の一構成例を図13に示す。このリチウムイオン二次電池10は、正極12および負極14を具備する電極体11が、該電極体を収容し得る形状の電池ケース15に収容された構成を有する。電池ケース15には非水電解液20も収容されており、その少なくとも一部は電極体11に含浸している。電極体11は、長尺シート状の正極集電体122上に正極活物質層124を有する正極12と、長尺シート状の負極集電体(例えば電解銅箔)142上に負極活物質層144が設けられた構成の負極14とを、二枚の長尺シート状セパレータ13とともに捲回することにより形成される。電池ケース15は、有底円筒状のケース本体152と、上記開口部を塞ぐ蓋体154とを備える。蓋体154およびケース本体152はいずれも金属製であって相互に絶縁されており、それぞれ正負極の集電体122,142と電気的に接続されている。すなわち、このリチウムイオン二次電池10では、蓋体154が正極端子、ケース本体152が負極端子を兼ねている。
【0042】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0043】
<例1>
内容量10.8mLのニッケル合金(商品名:ハステロイC−22)から構成される超臨界水反応容器(耐圧硝子工業株式会社製)に、炭素源有機物としてのn−ヘキサン1.30g(15.1mmol)、H2O2の30%水溶液2.00g(18.2mmolH2O2)、酸素源有機物としてのフェニルホウ酸0.33g(2.7mmol)および蒸留水3.00gを入れた。この反応容器内を昇温および昇圧させて、温度400℃、圧力71MPaの条件(水の超臨界条件)下に3時間保持した。反応容器内を室温および常圧に戻した後、該容器を開けて内容物を濾過し、エタノールおよび蒸留水により洗浄した後、減圧乾燥させることにより、黒色の粉末として炭素質物質A(炭素質物質)を得た。この炭素質物質Aの平均粒径(一次粒径)は0.568μmであった。
【0044】
炭素質物質Aをラマン分光分析装置(Renishaw社製の顕微ラマン分光測定装置、inVia Reflex 785S、励起波長785nm、Arレーザー)で分析して得られたラマンスペクトルにつきDピークとGピークとの強度比(ID/IG値)およびGピークの半値幅をそれぞれ求めた。詳しくは、測定装置に装備されている解析ソフトであるGRAMS/AI(7.02)を使用し、1000cm−1から1800cm−1までの範囲をベースライン補正機能により補正し、ローレンツカンスウフィッティングを行うことにより各ピークの面積強度およびピーク半値幅を算出した。得られた面積強度からID/IG値を算出した。炭素質物質AのID/IG値は7.09であった。Gピークの半値幅は91.2cm−1であった。得られたラマンスペクトルを図1に示す。
【0045】
炭素質物質AをXPS分析装置(Kratos社製のAXIS ULTRA DLD)で分析して酸素含有率を求めた。詳しくは、上記XPS分析装置により得られたワイドスキャン測定スペクトル(図2)のC1Sピーク(結合エネルギーが284eVのピーク)およびO1Sピーク(結合エネルギーが530eVのピーク)のピーク強度および相対感度から元素の組成比(原子%)を決定した。ピーク強度決定の際のバックグランドタイプにはSherley法を採用し、デジタルデータマネジメント社のデータ解析ソフトCASAXPS Ver.2.3.14wを用いて元素組成比を算出した。各元素の化学的存在状態については、ナロースキャン測定されたスペクトルを同ソフトによるローレンツ・ガウス関数による多重ピークフィッティングを行うことにより、存在率とともに決定した。その結果、炭素物質Aの酸素含有率は15.6%であった。なお、上記と同様の条件にて生成された炭素質粒子の酸素含有率は概ね12〜21%の範囲にあることがわかった。
【0046】
炭素質物質Aにつき、比表面積測定装置(Micrometrics社製、型式「ASAP2020」)を用いて窒素吸着法による比表面積および細孔径分布を測定した。炭素質物質Aの比表面積は、4.56m2/gであった。細孔径分布から算出された全細孔容積Vtotalは0.0053cm3/g、ミクロ細孔容積Vmicroは0.0011cm3/g、メゾ細孔容積Vmesoは0.0042cm3/gであった。ミクロ細孔容積の前細孔容積に対する比の値Vmicro/Vtotalは0.21であった。
【0047】
<例2>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質に対し、これを常圧のArガス雰囲気中(Arガス流量:500mL/min)にて500℃に30分間保持する熱処理を施して、炭素材料B(500)を得た。炭素材料B(500)のID/IG値は5.15、Gピークの半値幅は83.4cm−1、酸素含有率は8.60%であった。
【0048】
<例3>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて600℃に30分間保持して、炭素材料B(600)を得た。炭素材料B(600)のID/IG値は5.92、Gピークの半値幅は76.9cm−1、酸素含有率は11.0%であった。
炭素材料B(600)の比表面積は、295.58m2/gであった。Vtotalは0.1142cm3/g、ミクロ細孔容積Vmicroは0.0529cm3/g、メゾ細孔容積Vmesoは0.0613cm3/gであった。Vmicro/Vtotalは、0.46であった。原料である炭素質物質A(例1)と比べると、比表面積は102のオーダーの倍率で増加し、全細孔容積も20倍以上、中でもミクロ細孔は50倍近く、またメゾ細孔は15倍程度増加した。すなわち、上記で合成した炭素質物質は、600℃という比較的穏やかな温度条件でも、酸素の脱離が起こり、多孔度が顕著に増加することが確認された。また、加熱処理によりミクロ細孔の割合が増加することも確認された。
【0049】
<例4>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて700℃に30分間保持して、炭素材料B(700)を得た。炭素材料B(700)のID/IG値は4.06、Gピークの半値幅は90.2cm−1、酸素含有率は7.30%であった。
【0050】
<例5>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて800℃に30分間保持して、炭素材料B(800)を得た。炭素材料B(800)のID/IG値は4.65、Gピークの半値幅は88.1cm−1、酸素含有率は9.51%であった。
<例6>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて1000℃に30分間保持して、炭素材料B(1000)を得た。炭素材料B(1000)のID/IG値は4.00、Gピークの半値幅は78.8cm−1、酸素含有率は8.86%であった。
【0051】
<例7>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて1500℃に30分間保持して、炭素材料B(1500)を得た。炭素材料B(1500)のID/IG値は2.55、Gピークの半値幅は73.3cm−1、酸素含有率は7.20%であった。
<例8>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて2200℃に30分間保持して、炭素材料B(2200)を得た。炭素材料B(2200)のID/IG値は1.58、Gピークの半値幅は59.4cm−1、酸素含有率は16.0%であった。
【0052】
<例9>
例1と同様の条件で合成した炭素質物質を常圧のArガス雰囲気中にて2800℃に30分間保持して、炭素材料B(2800)を得た。炭素材料B(2800)のID/IG値は0.95、Gピークの半値幅は40.3cm−1、酸素含有率は11.3%であった。
【0053】
[SEM分析]
例1の炭素質物質A、および例2〜9に係る炭素材料B(500)〜B(2800)を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製品、型式「JSM−7000F/IV」)で観察した。得られた画像のうち、炭素質物質Aの画像および炭素材料B(2800)の画像をそれぞれ図3および図4に示す。これらの画像から明らかなように、炭素質物質Aは、不活性ガス雰囲気中においてかかる高温に保持されても、溶融を起こすことなく、粒子形状を概ね維持したまま更に炭素化されて炭素材料Bを形成した。
【0054】
[TEM分析]
例1の炭素質物質A、および例2〜9に係る炭素材料B(500)〜B(2800)を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製品、型式「JEM2100F」)で観察した。得られた画像のうち、炭素質物質A、炭素材料B(500)、B(600)、B(700)、B(800)、B(1500)、B(2200)の画像をそれぞれ図5〜図11に示す。これらの画像から明らかなように、加熱処理前の炭素質物質A(図5)、炭素質物質を500℃で熱処理してなる炭素材料B(500)(図6)600℃で熱処理してなる炭素材料B(600)(図7)、および800℃で熱処理してなる炭素材料B(800)(図9)においては、明確な結晶構造は認められなかった。炭素質物質を700℃で熱処理してなる炭素材料B(700)は、小さなグラフェンの存在が認められた(図8)。炭素質物質を1500℃で熱処理してなる炭素材料B(1500)は、より成長したグラフェンの存在が認められた(図10)。炭素質物質を2200℃で加熱してなる炭素材料B(2200)は、さらに小さなグラフェン積層体が集合したような構造を有することが認められた(図11)。このように、炭素質物質は、加熱する際の温度が高くなると、より結晶度の高い炭素粒子に転化することがわかった。
【0055】
[二次電池性能評価]
例1の炭素質物質Aを電極活物質として含む作用極と、対極としての金属リチウムと、参照極としての金属リチウムと、プロピレンカーボネート中にLiClO4を1Mの濃度で含む電解液とを用いて、性能評価用のRC2032型コインセル(直径20mm、厚さ3.2mm)を構築した。例2〜9に係る各炭素材料Bについても、同様にしてコインセルを構築した。各コインセルに対し、30mA/gの充放電レートにて、上限・下限電圧を2.8V〜0Vとして充放電サイクルを繰り返した。5回目の放電容量を、対応するコインセルの作用極に含まれる活物質の質量で除して比容量(mAh/g)を算出した。
各例に係る三極セルに具備される炭素質物質または炭素材料につき、アドバンテスト社の直流電圧/電流発生器「R6144」およびデジタルマルチメータ「AD7461A」)を用いて、100mA程度の定電流での二端子法計測により粉体抵抗率(Ωcm)を算出した。炭素質粒子Aおよび炭素材料B(500)〜B(1500)について、結果を表すグラフを図12に示す。
【0056】
例1の炭素質物質A、および例2〜9に係る炭素材料B(500)〜B(2800)の特性、ならびに各例に係るコインセルの容量を表1に示す。また、例1の炭素質物質A、および例2〜7に係る炭素材料B(1500)についての粉体抵抗率の測定結果を図12に、密度1.0g/cm3のときの粉体抵抗率の値を表1に示す。ただし、例5については密度0.81g/cm3のときの粉体抵抗率(注1)、例6については密度0.89g/cm3のときの粉体抵抗率の値(注2)を表1に示している。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すラマンスペクトルにおけるID/IG値およびGピーク半値幅から明らかなように、例1に係る炭素質物質Aから形成される炭素粒子Bは、炭素質物質Aを不活性ガス雰囲気下で加熱する際の温度が高いほど、ID/IG値が概して小さくなり、Gピーク半値幅が概して小さくなる傾向にあることが認められた。すなわち、加熱温度の上昇に伴って、得られる炭素材料の黒鉛化度がより高くなることがわかった。したがって、同じ炭素質物質Aを用いても、加熱温度を異ならせるだけで種々の結晶度を有する炭素材料が実現され得ることがわかった。このことはGピーク半値幅の傾向にも表れている。
【0059】
表1に記載の粉体抵抗率および図12から明らかなとおり、原料である炭素質物質と比べ、該炭素質物質から生成された炭素材料は、粉体抵抗率が顕著に小さいことが認められた。また、例2〜4に係る炭素材料を作用極活物質として含む各三極セルについて測定された放電容量(mAh/g)は約400〜500mAh/gと、二次電池の電極活物質として好ましく使用することができる程度の高い容量を示した。このことは、炭素質物質Aを500℃〜800℃の不活性ガス雰囲気下で熱処理することにより、該炭素質物質Aを優れた性能の電極活物質に転化し得ることを支持するものである。また、例1の炭素質物質Aの比表面積に比べて、600℃で熱処理した例3の炭素材料(600)の比表面積は約300m2/g(炭素質物質Aの50倍以上)と、著しく増大した。これは、熱処理前の炭素質物質において炭素骨格に多量の酸素原子が組み込まれているため、該炭素質物質を熱処理することにより、上記酸素原子が脱離する際に一酸化炭素や二酸化炭素として(すなわち、炭素原子を伴って)脱離し、炭素材料に微細な細孔が多く形成されたものと考えられる。このように、ここに開示される技術を適用して酸素含有率の多い(例えば10〜25At%の範囲にある)炭素質物質を熱処理することにより、二次電池の電極活物質等として好適な炭素材料を効果的に製造し得ることが確認された。
【0060】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10 リチウムイオン二次電池(二次電池)
11 電極体
12 正極
13 セパレータ
14 負極
15 電池ケース
20 非水電解液
122 正極集電体
124 正極活物質層
142 負極集電体
144 負極活物質層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含む炭素質物質の製造方法であって、
炭素源有機物、酸素源有機物、過酸化水素および水を含む混合物を、温度300℃〜600℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持することにより、該混合物から酸素含有炭素質物質を生じさせる炭素質物質生成工程を包含し、
ここで、前記酸素源有機物として、水酸基を有する化合物および加水分解により水酸基を形成する化合物の少なくともいずれかを使用する、酸素含有炭素質物質の製造方法。
【請求項2】
前記酸素源有機物として、フェノール性水酸基を含む化合物および加水分解によりフェノール性水酸基を形成し得る化合物の少なくともいずれかを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素源有機物として炭化水素を使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記炭素質物質生成工程では、原子数基準の酸素含有量が10〜25%の範囲にある前記炭素質物質を生じさせる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記炭素質物質生成工程では、励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGが8.0以下の範囲にある前記炭素質物質を生じさせる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素質物質生成工程では、平均一次粒径が0.02μm〜1.0μmの範囲にある前記炭素質物質を生じさせる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法により製造された、炭素質物質。
【請求項8】
以下の特性:
原子数基準の酸素含有量が10〜25%の範囲にある;
励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGが8.0以下の範囲にある;および、
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μmの範囲にある;
を満たす、炭素質物質。
【請求項9】
炭素材料の製造方法であって:
請求項7または8に記載の炭素質物質を用意する工程;および、
前記炭素質物質を加熱する熱処理工程、ここで、該熱処理工程では、該炭素質物質の酸素含有量を低下させるとともに、励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGを低下させる;
を包含する、炭素材料製造方法。
【請求項10】
前記熱処理工程は、前記炭素質物質を非酸化性ガス雰囲気下で500℃〜800℃に保持することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理工程では、前記炭素質物質の酸素含有量を6〜13%の範囲に低下させ、かつ前記炭素質物質のID/IGを3.0〜7.0の範囲に低下させる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記熱処理前における前記炭素質物質の比表面積は1〜10m2/gの範囲にあり、前記熱処理により該比表面積を100m2/g以上に増大させる、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項に記載の方法により製造された、炭素材料。
【請求項14】
以下の特性:
原子数基準の酸素含有量が6〜13%の範囲にある;、
励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGが3.0〜7.0の範囲にある;
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μmの範囲にある;および、
比表面積が100m2/g以上である;
を満たす、炭素材料。
【請求項15】
請求項14に記載の炭素材料を電極活物質として有する、二次電池。
【請求項1】
酸素を含む炭素質物質の製造方法であって、
炭素源有機物、酸素源有機物、過酸化水素および水を含む混合物を、温度300℃〜600℃かつ圧力22MPa以上の条件下に保持することにより、該混合物から酸素含有炭素質物質を生じさせる炭素質物質生成工程を包含し、
ここで、前記酸素源有機物として、水酸基を有する化合物および加水分解により水酸基を形成する化合物の少なくともいずれかを使用する、酸素含有炭素質物質の製造方法。
【請求項2】
前記酸素源有機物として、フェノール性水酸基を含む化合物および加水分解によりフェノール性水酸基を形成し得る化合物の少なくともいずれかを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素源有機物として炭化水素を使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記炭素質物質生成工程では、原子数基準の酸素含有量が10〜25%の範囲にある前記炭素質物質を生じさせる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記炭素質物質生成工程では、励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGが8.0以下の範囲にある前記炭素質物質を生じさせる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素質物質生成工程では、平均一次粒径が0.02μm〜1.0μmの範囲にある前記炭素質物質を生じさせる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法により製造された、炭素質物質。
【請求項8】
以下の特性:
原子数基準の酸素含有量が10〜25%の範囲にある;
励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGが8.0以下の範囲にある;および、
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μmの範囲にある;
を満たす、炭素質物質。
【請求項9】
炭素材料の製造方法であって:
請求項7または8に記載の炭素質物質を用意する工程;および、
前記炭素質物質を加熱する熱処理工程、ここで、該熱処理工程では、該炭素質物質の酸素含有量を低下させるとともに、励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGを低下させる;
を包含する、炭素材料製造方法。
【請求項10】
前記熱処理工程は、前記炭素質物質を非酸化性ガス雰囲気下で500℃〜800℃に保持することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理工程では、前記炭素質物質の酸素含有量を6〜13%の範囲に低下させ、かつ前記炭素質物質のID/IGを3.0〜7.0の範囲に低下させる、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記熱処理前における前記炭素質物質の比表面積は1〜10m2/gの範囲にあり、前記熱処理により該比表面積を100m2/g以上に増大させる、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項に記載の方法により製造された、炭素材料。
【請求項14】
以下の特性:
原子数基準の酸素含有量が6〜13%の範囲にある;、
励起波長785nmのアルゴンレーザーを用いたラマン分光法によって得られるラマンスペクトルにおけるDピークの強度IDとGピークの強度IGとの比の値ID/IGが3.0〜7.0の範囲にある;
平均一次粒径が0.02μm〜1.0μmの範囲にある;および、
比表面積が100m2/g以上である;
を満たす、炭素材料。
【請求項15】
請求項14に記載の炭素材料を電極活物質として有する、二次電池。
【図1】
【図2】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−43807(P2013−43807A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183162(P2011−183162)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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