説明

炭素繊維の連続製造法

高周波電磁波を利用して安定化前駆体繊維を炭化および黒鉛化する、炭素繊維の連続製造法であって、
前記安定化前駆体繊維を、外部導体と内部導体とから成る同軸導体の前記内部導体として、前記同軸導体内および処理帯内を通って連続して運搬し;
前記処理帯において、前記安定化前駆体繊維に高周波電磁波を照射し、前記前駆体繊維に前記電磁波を吸収させることによって前記前駆体繊維を加熱し且つ炭素繊維へと変換し;そして
前記安定化前駆体繊維または炭素繊維を、不活性ガス雰囲気下において、前記同軸導体内および前記処理帯内を通って運搬する、
ことを特徴とする炭素繊維の連続製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電磁波を利用して安定化前駆体繊維を炭化および黒鉛化する、炭素繊維の連続製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
安定化前駆体繊維は、それ自体が周知である処理技術によって不溶融性繊維に変換された繊維である。この種の不溶融性繊維のみが、炭素繊維の製造に必要なその後の炭化工程に適している。
マイクロ波を利用してピッチから炭素繊維を製造するこの種の方法は、特許文献1で知られている。しかしながら、この方法について、マイクロ波処理は予備熱処理の後でしか行うことができないと言われている。特許文献1によれば、熱処理は、前駆体繊維がマイクロ波の高周波によって活性化される程度に前記前駆体繊維を改質する。(初期材料がピッチである場合、この改質は、中間相への変化を伴う。)前記特許明細書は、安定化前駆体繊維に対するマイクロ波の作用のメカニズムを示していない。
安定化前駆体繊維のファイバー、ヤーンおよびストランドは、電気伝導性が低い導体であり、マイクロ波のごとき高周波電磁波の吸収性が適度に良い吸収体である。高周波電磁波を照射することによって、完全なる炭化および更なる黒鉛化への移行が始まり、結果として、処理された繊維の電気伝導性が著しく高まる。
【0003】
黒鉛化が完了すると、繊維は、導波管のワイヤーのように動作し、導波管または共振器セットアップにおける電界に強い歪みおよび障害をもたらす。これらの歪みおよび障害を制御しなければ、これらは、黒鉛化の均一性および処理安定性に影響を及ぼす不均一性および障害をもたらし、極端な場合には、放電またはアーク放電を引き起こすことさえあり、若しくは繊維の熱蒸発を引き起こすこともある。
これまで、マイクロ波エネルギーによる繊維の均一かつ連続した処理のプロセス制御には、複雑な測定装置および制御工学が必要とされていた。これが、前記方法がこれまで工業規模で利用されてこなかった理由となり得る。
【特許文献1】米国特許第4,197,282号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高周波電磁波を利用して安定化前駆体繊維を炭化および黒鉛化する、炭素繊維の簡易な連続製造法を提供することである。前記方法は、それ自体経済的であり、プロセス制御に費やされる労力の点から見ると実行可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、安定化前駆体繊維を、外部導体と内部導体とから成る同軸導体の前記内部導体として、前記同軸導体内および処理帯内を通って連続して運搬し;前記処理帯において、前記安定化前駆体繊維に高周波電磁波を照射し、前記前駆体繊維に前記電磁波を吸収させることによって前記前駆体繊維を加熱し且つ炭素繊維へと変換し;そして前記安定化前駆体繊維または炭素繊維を、不活性ガス雰囲気下において、前記同軸導体内および前記処理帯内を通って運搬することを特徴とする、前記序文において述べた種類の方法によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
前記高周波電磁波は、マイクロ波であることが好ましい。
本発明の方法を実行しているときに、高周波電磁波またはマイクロ波のエネルギーが供給される供給領域において、通常は長さが数センチである短反応帯が形成され、前記短反応帯において、少なくとも炭素繊維の変換反応の大部分が起こっていることが驚くべきことに分かった。
方形導波管からのマイクロ波エネルギーの供給は、例えばDE102004021016A1で知られている。この文献において、外部導体および内部導体は、共に同軸導体の固定要素である。この種のカップリングは、マイクロ波エネルギーをホットプロセス区域に供給するのに使用される。なぜならば、マイクロ波エネルギーは、同軸導体によって、高出力密度で伝達することができるからである。導波管から供給されるマイクロ波エネルギーは、カップリングコーンのごとき好適な装置によって同軸導体へと供給される。
不活性ガス雰囲気は、例えば、同軸導体の外部導体の内部および処理帯の内部に高周波電磁またはマイクロ波放射に対して透過性があるチューブを配置し、このチューブの内部に内部導体として安定化前駆体繊維、さらに不活性ガス、を通すことによって、供給領域内および同軸導体内において安定化前駆体繊維の周りに容易に維持することができる。
【0007】
驚くべきことに、炭化されるべき且つ同軸導体内を移動する安定化前駆体繊維で同軸導体の内部導体を置き換えた種類のカップリング装置を用いることによって、これらの安定化前駆体繊維を容易に炭素繊維に変換させることができることが分かった。安定化前駆体繊維の伝導性は非常に低いので、供給領域におけるマイクロ波エネルギーの吸収によって、前記前駆体繊維は加熱されることになる。さらに加熱されると、前記安定化前駆体繊維は、初めはより良く吸収し、従ってより良く加熱され、加熱され続けた結果として炭化および黒鉛化して炭素繊維となる材料に変換される。この変換の結果、形成される炭素繊維の伝導性が増加し続けて、マイクロ波エネルギーを同軸接合部にますます供給させ、炭素繊維のさらなる処理を妨げる。供給されたマイクロ波エネルギーは、同軸導体内の安定化前駆体繊維の処理を開始し、その結果、同軸導体内を通って安定化前駆体繊維を運搬する際の自己調節システムが確立される。
【0008】
本発明の方法は、安定化前駆体繊維を、前記安定化前駆体繊維が同軸導体を離れるときには炭化または黒鉛化されており、従って炭素繊維になっているような速度で、前記同軸導体内を通って運搬するという点で特に区別される。
予備炭化された前駆体繊維を使用して本発明の方法を実施することも有利となり得る。実質的に、本発明の方法には任意の周知の安定化前駆体繊維を用いることができるが、この目的には、ポリアクリロニトリルでできた安定化前駆体繊維がことさら好適である。安定化前駆体繊維を同軸導体内を運搬する際の前記不活性雰囲気を作るためのガスとして窒素を使用することが有利であることも分かっている。
【0009】
前記安定化前駆体繊維を前記同軸導体内を通って運搬する前記速度が、形成される炭素繊維の電気抵抗の測定によって制御されれば特に好ましい。前記電気抵抗の値によって炭素繊維の品質を推定することができることが分かっている。本発明の方法を実施する際に、すでに予備炭化された前駆体繊維が30MΩの電気抵抗を有するのに対し、強度、伸長および弾性率が良好である炭素繊維は、数オーム程度、例えば10〜50Ωの電気抵抗を有することが分かった。この場合、電気抵抗は、繊維上に50cmの間隔を空けて設置された2つの銅電極によって測定する。
前記不活性ガス雰囲気に少量の酸素が添加されれば特に有利である。これにより、通常は炭化または黒鉛化が完了した後に実施される処理の酸化工程を、本発明の方法において炭化の最中に直接行うことができるようになる。酸素の添加は、例えば、前駆体繊維を同軸導体内に導入する前に前駆体繊維の間に含まれている空気を取り除かないことによって達成することができる。しかしながら、酸素を特定の均一な量で不活性ガス雰囲気中に導入することも容易にできる。
本発明の方法は、安定化前駆体繊維が、各々が同軸導体と処理帯とから成る2つ以上の連続した反応器内を通って運搬される場合に、特に好ましく実行される。
以下、本発明の方法を実施するのに好適である装置を詳しく説明する。
【0010】
本発明の方法を実行するには、安定化前駆体繊維1を、外部導体3を有する同軸導体内を、内部導体2として運搬する。内部導体2の周り、および外部導体3および共振器9の内部には、高周波電磁波またはマイクロ波に対して透過性があるチューブ4が配置されており、不活性ガス雰囲気の生成のための不活性ガスがこのチューブに注入される。導波管5に供給されるマイクロ波エネルギーは、カップリングコーン6(図1)または空洞共振器9(図2)を通って、形成される処理帯10において内部導体2と外部導体3とから成る同軸導体へと送られ、炭素繊維への変換の結果、前記同軸導体2、3へと供給される。図3において、マイクロ波は、内部導体11がT字形であり且つ導電性である同軸導体を通って、処理帯10へと送られる。この内部導体11は、例えば、チューブの形でもよい。分岐点12において内部導体11を離れるときに、安定化前駆体繊維は、外部導体に番号「3」が振られている同軸導体の内部導体2の機能を引き継ぐ。
処理帯10を離れるとき、安定化前駆体繊維1は、すでに炭素繊維7に変換されている。定在波の形のマイクロ波エネルギーの界分布は、同軸終端装置8によって、同軸導体内で達成される。本発明の方法を実施するのに好適である他の実施態様は、例えば、DE2616217、EP0508867およびWO00/075955に記載されている。
【実施例】
【0011】
次に、本発明を下記実施例を用いて詳しく説明する。
【0012】
使用した安定化前駆体繊維は、予備炭化された、12,000本のフィラメントから成るストランドに束ねられた安定化ポリアクリロニトリル前駆体繊維であった。
Muegge Electronics GmbH社製の、図2に示したものと同様の、アルミニウム壁を備えた円筒共振器を用いて、マイクロ波エネルギーを結合させた。この共振器は、100mmの直径を有し、かつ、R26方形導波管を、マイクロ波出力が3kWであるマイクロ波発振器に接続するようにデザインされている。生成されたマイクロ波エネルギーは、外部ケーシングの内径が100mmである同軸導体へ供給される。
前記予備炭化された安定化前駆体繊維を、窒素を用いた不活性ガス雰囲気下において、前述の装置内を運搬し、得られた炭素繊維を、様々な速度で前記装置から取り出した。使用されたマイクロ波エネルギーは、2kWに設定されていた。得られた炭素繊維は、以下の特性を有していた。
【0013】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】マイクロ波エネルギーの供給がカップリングコーンを介して生じる装置の概略図である。
【図2】マイクロ波エネルギーの供給に空洞共振器が用いられている装置の概略図である。
【図3】マイクロ波の供給に同軸マイクロ波供給器が用いられている装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電磁波を利用して安定化前駆体繊維を炭化および黒鉛化する、炭素繊維の連続製造法であって、
前記安定化前駆体繊維を、外部導体と内部導体とから成る同軸導体の前記内部導体として、前記同軸導体内および処理帯内を通って連続して運搬し;
前記処理帯において、前記安定化前駆体繊維に高周波電磁波を照射し、前記前駆体繊維に前記電磁波を吸収させることによって前記前駆体繊維を加熱し且つ炭素繊維へと変換し;そして
前記安定化前駆体繊維または炭素繊維を、不活性ガス雰囲気下において、前記同軸導体内および前記処理帯内を通って運搬する、
ことを特徴とする前記製造法。
【請求項2】
前記高周波電磁波としてマイクロ波を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記安定化前駆体繊維を、前記安定化前駆体繊維が前記同軸導体を離れるときには炭化または黒鉛化されており、従って炭素繊維になっているような速度で、前記同軸導体内を通って運搬することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
予備炭化された前駆体繊維を使用することを特徴とする、請求項1〜3のうちの1つ以上に記載の方法。
【請求項5】
前記安定化前駆体繊維はポリアクリロニトリルからできていることを特徴とする、請求項1〜4のうちの1つ以上に記載の方法。
【請求項6】
前記安定化前駆体繊維を運搬する際の前記不活性雰囲気を作るのに使用されるガスは窒素であることを特徴とする、請求項1〜5のうちの1つ以上に記載の方法。
【請求項7】
前記安定化前駆体繊維を前記同軸導体内を通って運搬する前記速度を、形成される炭素繊維の電気抵抗の測定によって制御することを特徴とする、請求項1〜6のうちの1つ以上に記載の方法。
【請求項8】
前記不活性ガス雰囲気に少量の酸素を添加することを特徴とする、請求項1〜7のうちの1つ以上に記載の方法。
【請求項9】
前記安定化前駆体繊維を、各々が同軸導体と処理帯とから成る2つ以上の連続した反応器内を通って運搬することを特徴とする、請求項1〜8のうちの1つ以上に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−533562(P2009−533562A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504606(P2009−504606)
【出願日】平成19年3月31日(2007.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2007/002909
【国際公開番号】WO2007/118596
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(508307827)東邦テナックス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】