説明

炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材の接合方法

【課題】少なくとも一方が炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である一対の接合物11,12を、抵抗溶着を利用して接合する。
【解決手段】接合方法は、一対の接合物11,12の間に抵抗発熱体2を配置すると共に、当該一対の接合物11,12を密着する方向に加圧する工程と、抵抗発熱体2に通電することにより一対の接合物11,12を溶着する工程と、を含む。抵抗発熱体2は、金属製発熱体に対し化学的表面処理を施すことによって絶縁層を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材の接合方法に関し、特に抵抗発熱体の電気抵抗による発熱を利用して熱可塑性樹脂複合材を溶着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化樹脂複合材を接合する方法として、ボルトやリベット等の接合金具を用いた機械的接合が知られている。また、例えば特許文献1には、薄い金属シート材を一対の繊維強化樹脂複合材の間に配置して加圧しながら金属シート材に通電をすることで、その抵抗加熱により一対の複合材を互いに溶着させる技術が記載されている。こうした抵抗発熱体の電気抵抗による発熱を利用して繊維強化樹脂複合材同士を溶着させる技術(以下、この技術を抵抗溶着ともいう)は、前記の機械的接合と比較して、重量の軽減及びコストの低下が可能であり、例えば航空機、宇宙機、自動車を含む各種車両及び船舶等の、各種の大型の構造物や建築物等、また、各種の部品や筐体等の小型の構造物に利用する上で有利になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−294128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した抵抗溶着技術は、例えばガラス繊維強化熱可塑性樹脂複合材の接合に好適であるが、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む接合物を、抵抗溶着によって接合しようとすると、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材は導電性を有するため、抵抗発熱体から炭素繊維強化樹脂複合材に漏電してしまう。その結果、接合物を加熱することができず、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む接合物は、抵抗溶着によって接合することができない。
【0005】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、少なくとも一方が炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である一対の接合物を、抵抗溶着を利用して接合することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む接合物の接合に、抵抗溶着技術を適用するにあたり、接合物と抵抗発熱体との間に例えばガラス繊維布等の絶縁体を介在させるようにした。この構成では、接合物及び抵抗発熱体の間の絶縁性を確保することができるため、接合物を抵抗溶着させることが可能であったものの、所望の高い接合強度(例えばガラス繊維強化樹脂複合材の抵抗溶着時に得られる程度の接合強度)を得ることは困難であった。これは、接合物と抵抗発熱体との間の絶縁体によって接合物と抵抗発熱体との間の距離が離れてしまうこと及び絶縁体自身が熱容量を有していることに起因して、接合物に十分な熱を与えることができずに接合物の加熱温度が比較的低くなってしまう点、抵抗溶着技術では、一対の接合物を接合した後も、抵抗発熱体及び絶縁体が内部に残ってしまうが、そこに残った絶縁体と接合物との界面や、抵抗発熱体と絶縁体との界面における接合強度が、樹脂複合材同士を溶着させた場合の接合強度と比較して低い点、及び/又は、絶縁体自身の強度もまた、接合物同士の接合強度に影響を与えてしまう点に原因があると考えられる。
【0007】
そこで、本願発明者は、接合物と抵抗発熱体との間に絶縁体を介在させることなく絶縁性を確保する点に着目して検討を重ねた結果、抵抗発熱体自身が、その表面に絶縁性を有する構成とするようにしたものである。
【0008】
具体的にここに開示する技術は、少なくとも一方が炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である一対の接合物を接合する接合方法に係る。この接合方法は、前記一対の接合物の間に抵抗発熱体を配置すると共に、当該一対の接合物を密着する方向に加圧する工程と、前記抵抗発熱体に通電することにより前記一対の接合物を溶着する工程と、を含み、前記抵抗発熱体は、金属製発熱体に対し化学的表面処理を施すことによって絶縁層を設けたものである。
【0009】
ここで、「炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である」接合物は、他方の接合物に当接して接合される接合面、換言すれば抵抗発熱体に接触して加熱溶融される面が、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材によって構成されていればよい。従って、当該接合物は、その全体が炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材によって構成されていてもよいが、例えば接合面以外の部分が繊維強化熱硬化性樹脂複合材によって構成されていてもよい。
【0010】
また、一方の接合物が炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である一方で、他方の接合物が、炭素繊維以外の、例えばガラス繊維等の他の繊維強化樹脂複合材であってもよいし、繊維強化でない熱可塑性樹脂材であってもよい。但し、抵抗溶着においては一つの抵抗発熱体が双方の接合物を加熱することで、一方の接合物の加熱温度と他方の接合物の加熱温度は同じになるため、両者の接合を良好に行う上では、各接合物に含まれる樹脂は同じ融点、又は、ほぼ同じ融点の樹脂であることが望ましい。
【0011】
この構成によると、一対の接合物の抵抗溶着を行う際に利用する抵抗発熱体が、金属製発熱体に対し化学的表面処理を施すことによって絶縁層を設けたものであるため、その抵抗発熱体を一対の接合物の間に配置したときに、抵抗発熱体と各接合物との間に絶縁体を別途介在させなくても、それらの間の絶縁性が確保される。そのため、抵抗発熱体に通電することに伴う抵抗加熱により、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む一対の接合物を溶着させることが可能になる。
【0012】
この構成では、一対の接合物と抵抗発熱体との間に絶縁体が存在せず、一対の接合物と抵抗発熱体とが直接的に接触しているため、抵抗発熱体から各接合物に、熱を、損失無く与えて、各接合物を十分に加熱することが可能になると共に、接合物と絶縁体との界面や抵抗発熱体と絶縁体との界面がそもそも存在しないことで、それらの界面における接合強度の低下の影響が予め回避される。その結果、前記の構成では、一対の接合物と抵抗発熱体との間に絶縁体を介在させる場合と比較して、接合強度を大幅に高め得る。
【0013】
ここで、一対の接合物と抵抗発熱体との間の絶縁性を確保する上では、その抵抗発熱体の表面に、例えば化学的又は物理的な各種の薄膜形成技術を応用して絶縁膜(例えばセラミックコーティング等)を形成することも考えられる。しかしながら、前述したように、抵抗溶着技術では一対の接合物を接合した後も、抵抗発熱体が内部に残ってしまうため、接合物の接合強度は、絶縁膜の剥離強度の影響を受けることになる。例えば絶縁膜を形成した抵抗発熱体を用いることによって接合物を十分に加熱して接合物同士は十分に溶着していたとしても、絶縁膜の剥離強度が低くて絶縁膜が剥離してしまったときには、接合部分が破損してしまうことになるため、結果として接合物の接合強度は低下することになる。
【0014】
これに対し、金属製発熱体に対し化学的表面処理を施すことによって、その表面組成を変化させて絶縁層を設ける前記の構成は、前述したような絶縁膜の剥離強度の影響を排除することが可能であるため、一対の接合物間の接合強度を高める上で有利になる。
【0015】
前記抵抗発熱体は、前記金属製発熱体に対し不動態化処理を施したものである、としてもよい。より具体的には、例えばステンレス鋼製発熱体に対しパシベート処理を施したものであるとしてもよい。
【0016】
また、前記抵抗発熱体は、前記金属製発熱体に対し陽極酸化処理を施したものである、としてもよい。より具体的には、アルミニウム又はアルミニウム合金製発熱体に対し陽極酸化処理を施したものであるとしてもよいし、チタン、マグネシウム、もしくはタンタル、又はそれらの合金製発熱体に対し陽極酸化処理を施したものであるとしてもよい。陽極酸化処理は、金属製発熱体に安定かつ十分な厚みの酸化皮膜を形成し得るため、高い絶縁性を確保して、接合物の接合強度を高める上でより一層有利になる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、前記の炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材の接合方法によると、金属製発熱体に対し化学的表面処理を施すことによって絶縁層を設けた抵抗発熱体を利用して一対の接合物を抵抗溶着させるため、一対の接合物と抵抗発熱体との間に介在させる絶縁体が不要になることで、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む接合物の接合強度を大幅に高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む接合物の抵抗溶着を行う場合の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】陽極酸化処理を施した抵抗発熱体を利用した場合の、接合部分の構成を示す断面説明図である。
【図3】接合物と抵抗発熱体との間に絶縁体を介在させた場合の、接合部分の構成を示す断面説明図である。
【図4】実際に抵抗溶着を行った各例の接合強度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材の接合方法を、図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む接合物11,12を、抵抗溶着により接合する場合の構成を示す斜視図である。この図では、それぞれ平板状の一対の接合物11,12の端縁部同士を互いに重ね合わせて接合する構成を示している。但し、ここに開示する接合方法は平板同士の接合に限定されない。例えば湾曲した板材等の、種々の形状の部材をその一部を重ね合わせた状態で接合する場合に広く利用することが可能である。尚、ここでいう板材は、その接合する部分(例えばフランジ部分)が板状であればよく、その他の部分を含めた接合物の全体が板形状である必要はない。また、ここに開示する接合方法は、十分な板厚を有する場合には、一対の板材同士を突き合わせて接合する場合にも利用し得る。
【0020】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である接合物11,12の成形方法は、特に限定されるものではなく、各種の公知の成形方法を適宜採用すればよい。
【0021】
また、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である接合物11,12は、少なくともその接合面が熱可塑性樹脂複合材によって構成されていればよい。接合物が例えば図1に示すような平板である場合には、接合面(符号11の接合物では上面、符号12の接合物では下面)以外の部分(例えば接合物11では下面側の部分、接合物12では上面側の部分)は、熱硬化性樹脂複合材によって構成されていてもよい。尚、ここでの熱可塑性樹脂は、特定の樹脂に限定されるものではなく、各種のエンジニアリングプラスチック、又は、各種のスーパーエンジニアリングプラスチックを採用することが可能である。
【0022】
また、一対の接合物11,12は、その双方が炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材であってもよいが、少なくとも一方が炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材であればよい。例えば炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合である接合物と、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂複合材である接合物との接合に、ここに開示する技術を適用してもよい。また、一方の接合物を、繊維強化ではない樹脂材で構成してもよい。但し、ここに開示する抵抗溶着では、後述するように、1つの抵抗発熱体2を用いて2つの接合物11,12を加熱することで、接合物11,12の加熱温度は互いに同じになることから、接合を良好に行う上では、一方の接合物を構成する熱可塑性樹脂と、他方の接合物を構成する熱可塑性樹脂とは、同じ融点、又は、ほぼ同じ融点であることが望ましい。
【0023】
図2に分解して示すように、互いに重ね合わされた一対の接合物11,12の間には、抵抗発熱体2が配置されている。図1において抵抗発熱体2は、平板状の接合物11,12における端縁部に沿うように、真っ直ぐに伸びる帯状の部材である。但し、抵抗発熱体の形状は、接合物の接合部分の形状に合わせて適宜変更される。抵抗発熱体2の両端部21,22は、重ね合わせた一対の接合物11,12から外方に突出している。この突出した両端部21,22は端子として機能し、この両端部21,22を通じて抵抗発熱体2に通電することが可能である。
【0024】
抵抗発熱体2は、その詳細な図示は省略するが、金属製のメッシュ(エキスパンドメッシュを含む)、箔、又は、シートからなる。これらを総称して金属製発熱体と呼ぶ場合がある。接合物同士の接合面積を拡大する上で、金属製発熱体は、その厚み方向に貫通する、少なくとも1の孔を有していることが好ましい。金属製発熱体には化学的表面処理が施され、それによって絶縁層が設けられている。例えば金属製発熱体に陽極酸化処理を施すことによって、その表面に酸化皮膜を設けてもよい。この場合の具体例としては、アルミニウム又はアルミニウム合金製発熱体に陽極酸化処理を施すことや、チタン又はチタン合金製発熱体に陽極酸化処理を施すことが挙げられる。その他、マグネシウム、タンタル、又はそれらの合金に陽極酸化処理を施して抵抗発熱体2を構成してもよい。ここで、陽極酸化処理は、公知の処理手順に従って行えばよく、特定の陽極酸化処理に限定されないが、例えばクロム酸浴による陽極酸化処理は、良好な絶縁性が得られる点で有利である。
【0025】
また、金属製発熱体に対する化学的表面処理として、金属製発熱体に不動態化処理を施すようにしてもよい。この場合の具体例としては、ステンレス鋼製発熱体にパシベート処理を施すことが挙げられる。パシベート処理もまた、公知の処理手順に従って行えばよく、特定のパシベート処理に限定されない。尚、陽極酸化処理を施すことによって表面に酸化皮膜を設けることも、広い意味で不動態化処理に含まれる。
【0026】
次に、接合物11,12の接合手順について説明すると、先ず、その接合部分同士が重なるように、予め準備した一対の接合物11,12を配置すると共に、その一対の接合物11,12の接合部分の間に抵抗発熱体2を配置する。ここで、接合物11,12と抵抗発熱体2との間に、絶縁体等の他の部材は介在せず、接合物11,12と抵抗発熱体2とは直接的に接触している(図2も参照)。尚、このときに、抵抗発熱体2と接合物11,12とを仮止めしておいてもよい。
【0027】
そうして、一対の接合物11,12を、互いに密着する方向に、換言すれば重ね合わせ方向に所定の力で加圧しながら、両端部21,22の端子を通じて抵抗発熱体2に通電をする。これにより、抵抗発熱体2の電気抵抗によって各接合物11,12がそれぞれ加熱される。ここで、各接合物11,12は、所定の温度で(この温度は、接合物11,12を構成する熱可塑性樹脂の融点に応じて適宜設定される)、所定時間だけ、加熱をする。
【0028】
所定時間、加熱を行った後は、抵抗発熱体2の通電を停止する一方で、接合物11,12の加圧を継続しながら自然冷却する。そうして、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む一対の接合物11,12の接合が完了する。
【0029】
接合物11,12の少なくとも一方が炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である場合、その複合材は導電性を有しているため、接合物11,12と抵抗発熱体2とを直接的に接触させた状態で抵抗発熱体2に通電したときには、抵抗発熱体2から接合物11,12に漏電することになる。
【0030】
これに対し、前記の接合方法では、金属製発熱体に化学的表面処理を施すことによって絶縁層を設けて、抵抗発熱体2を構成している。このため、接合物11,12と抵抗発熱体2とを直接的に接触させた状態でも、抵抗発熱体2から接合物11,12への漏電は回避される。その結果、抵抗発熱体2の抵抗加熱により接合物11,12を加熱して、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む一対の接合物11,12を、抵抗溶着させることが可能になる。
【0031】
接合物11,12と抵抗発熱体2とを直接的に接触させることを可能にすることは、例えば図3に示すように、接合物11,12と抵抗発熱体3との間に、例えばガラス繊維布等の絶縁体4,4を介在させる必要性を無くすため、接合物11,12の接合強度を高める上で極めて有効である。
【0032】
すなわち、図3に示すように、接合物11,12と抵抗発熱体3との間に絶縁体4,4を介在させた場合には、その絶縁体4の厚みの分だけ、接合物11,12と抵抗発熱体3との間隔が離れること、及び、絶縁体4自体が熱容量を有することから、抵抗発熱体3において発生した熱の一部が消費され、接合物11,2に与えられる熱量がその分、低下することになる。このことは、接合物11,12の溶着を不十分にして、接合強度を低下させ得る。また、抵抗溶着では、接合物11,12の接合後にも、一対の接合物11,12の間に抵抗発熱体3と絶縁体4とがそのまま残ってしまうが、接合物11,12と絶縁体4との界面、及び、絶縁体4と抵抗発熱体3との界面における接合強度は、接合物11,12同士を溶着させた場合の接合強度と比較して弱いため、接合物11,12の接合強度が低下してしまうことになる。また、絶縁体4自身の強度(絶縁体4を、例えばガラス繊維布とした場合には、そのガラス繊維布の強度)も、接合物11,12の接合強度に影響を与える、つまり、接合強度を低下させ得る。
【0033】
これに対し、抵抗発熱体2(金属性発熱体)の表面に絶縁層を設け、図2に示すように、接合物11,12と抵抗発熱体2との間の絶縁体を省略することは、前述した、接合物に与えられる熱量の低下の問題、絶縁体と接合物や抵抗発熱体との界面における接合強度の低下の問題、並びに、絶縁体自身の強度の問題を全て解消し得るため、接合強度が高まり得る。
【0034】
また、金属製発熱体に対し、例えばセラミックコーティング等の絶縁膜を形成した抵抗発熱体を用いて接合物の接合を行う場合も、図2と同様に、接合物と抵抗発熱体との間の絶縁体を省略し得る。しかしながらこの場合は、金属製発熱体に形成した絶縁膜の剥離強度が、接合物の接合強度に影響を及ぼすことになる。そのため、金属製発熱体に対して陽極酸化処理やパシベート処理等の化学的表面処理を施して、その表面の組成を変化させることにより絶縁層を設けた構成の方が、接合物11,12の接合強度を高める上では有利になり得る。
【実施例】
【0035】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。先ず、図2に示すように、陽極酸化処理を施したアルミメッシュからなる抵抗発熱体2を用いて、それぞれ炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材からなる一対の接合物11,12を接合した例1〜例9の試験片を作成した。ここで、抵抗発熱体2の材料として、Dexmet社製エキスパンドアルミメッシュ(厚み:0.15mm、目開き:2.03mm)を用い、このアルミメッシュに、SPS7211 TYPE Iに基づいて陽極酸化処理を施した。また、各接合物11,12は、炭素繊維(東レ社製 T300 3K 5H Satin 280g/m)を5層積層し、その全体をPPSにより1枚のラミネート材に成形したものである。また、加熱温度は300℃である。例1〜例9はそれぞれ、表1に示すように、その接合圧力及び加熱時間を変えて接合を行った例である。
【0036】
【表1】

【0037】
これに対し、図3に示すように、平織りのステンレスメッシュからなる抵抗発熱体3を用いて、それぞれ炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材からなる一対の接合物11,12を接合した例10〜例27の試験片を作成した。例10〜例27では、例1〜例9とは異なり、抵抗発熱体3と各接合物11,12との間に、厚さ0.089mmのPPSを含浸したガラス繊維布からなる絶縁体4を介在させている。また、例10〜例18と、例19〜例27とは、ステンレスメッシュの粗さが異なり、例10〜例18はメッシュが相対的に細かく、例19〜例27はメッシュが相対的に粗い(表1参照)。その他の構成は、前記の例1〜例9と同じである。
【0038】
こうして作成した各例の試験片に対し、ASTM D1002に基づくラップせん断(Lap Shear)試験を行い、それぞれの接合強度を測定した。ここでの評価に用いるラップせん断強度は破断荷重を接合面積で割ったものであるが、接合面積は、各試験片において実際に接合している面積値(実測値)ではなく、設計上の面積値(設計値)とする。接合強度の測定結果を、図4に示す。これによると、例1〜例9(但し、接合強度が他の例に比べて極端に低い例4を除く)は、例10〜例27(但し、接合強度が他の例に比べて極端に低い例23を除く)と比較して接合強度が、1.7倍と大幅に向上している。
【0039】
従って、接合物と抵抗発熱体との間の絶縁体を省略し得るように、金属製発熱体に化学的表面処理を施すことによって絶縁層を設けた抵抗発熱体を用いて抵抗溶着を行うことは、炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材を含む一対の接合物の接合に際し、接合強度を高める上で有利であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上説明したように、ここに開示した炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材の接合方法は、その接合強度を大幅に高めることが可能であるから、例えば航空機、宇宙機、自動車を含む各種車両及び船舶等の、各種の大型の構造物や建築物等、また、各種の部品や筐体等の小型の構造物に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 接合物
2 抵抗発熱体(金属製発熱体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が炭素繊維強化熱可塑性樹脂複合材である一対の接合物を接合する接合方法であって、
前記一対の接合物の間に抵抗発熱体を配置すると共に、当該一対の接合物を密着する方向に加圧する工程と、
前記抵抗発熱体に通電することにより前記一対の接合物を溶着する工程と、を含み、
前記抵抗発熱体は、金属製発熱体に対し化学的表面処理を施すことによって絶縁層を設けたものである接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接合方法において、
前記抵抗発熱体は、前記金属製発熱体に対し不動態化処理を施したものである接合方法。
【請求項3】
請求項1に記載の接合方法において、
前記抵抗発熱体は、前記金属製発熱体に対し陽極酸化処理を施したものである接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−16867(P2012−16867A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155048(P2010−155048)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究に係る特許出願(平成21年度日本航空機開発協会「超高速輸送機実用化開発調査」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】