説明

炭酸カルシウムの製造方法

【課題】クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液に、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液を添加してこれを苛性化した際に生成する石灰スラッジから、塗被紙用顔料として使用可能な高白色度の炭酸カルシウムを取得する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液にて苛性化し生成する石灰スラッジから炭酸カルシウムを製造する方法において、石灰スラッジを、白液回収工程を経た後、高温熱風を使用したフラッシュドライヤーを通すことによって得られる乾燥した石灰スラッジと、フィルター落ち口での含水の石灰スラッジを混合し、これを乾式粉砕することを特徴とする炭酸カルシウムの製造方法。
また、用いられる高温熱風は、キルン釜尻からの排熱を利用したものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液に、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液を添加してこれを苛性化した際に生成する石灰スラッジから、塗被紙用顔料として使用可能で、スラリー分散性の良い、ハンドリングしやすく、経済的に安価な高白色度の炭酸カルシウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、塗被紙用顔料として、あるいは製紙用填料として、従前から広く使用されているが、この種の炭酸カルシウムは、化学的に合成して得られる軽質炭酸カルシウムと、天然より産出する石灰石を湿式粉砕した重質炭酸カルシウムとに大別することができる。軽質炭酸カルシウムは、炭酸ガス法によって製造するのが一般的であり、反応条件を変化させることによって、粒子径や形状をコントロールできる利点があるものの、重質炭酸カルシウムに比較して高価である。一方、重質炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウムより安価であるばかりでなく、塗被組成物に高配合してもその塗工作業に支障をきたさないため、塗被紙用顔料として多用されている。
【0003】
ところで、炭酸ガス法を代表例とする合成法や天然鉱物に頼らない炭酸カルシウム源としては、クラフト法によるパルプ製造工程で副生される緑液を、生石灰にて苛性化した際に生成する石灰スラッジがある。この石灰スラッジは、不定形の炭酸カルシウム粒子が凝集した塊状物であり、その主成分は炭酸カルシウムであるので、夾雑物を全く含まないまたはほとんど含まない石灰スラッジとして精製させることができれば、これを適宜粉砕することにより、製紙用填料として、あるいは高濃度で粉砕することにより塗被紙用顔料として使用可能な高白色度の炭酸カルシウムを得ることができる。
【0004】
緑液を生石灰で苛性化した際に生成する石灰スラッジに、夾雑物を持ち込まないようにする従来技術としては、緑液の苛性化に先立ち、当該緑液中に空気を吹き込み、夾雑する遊離カーボンなどの黒色浮遊物を凝集させて緑液を清澄化させる方法が、既に提案されている(特許文献1参照)。しかし、空気吹込みによって凝集させ得る成分は、緑液中の夾雑物の一部でしかないので、この方法では、高品質の炭酸カルシウムを回収する上で一定の限界がある。
【0005】
また、下記の特許文献2には、製紙用填料に使用できる炭酸カルシウムを、上記の石灰スラッジから製造する方法として、石灰スラッジに夾雑するシリカ及び不溶解物質含有量を所定量以下とし、シリカや不溶解物質の少ない石灰スラッジを粉砕することが開示されている。そして、シリカや不溶解物質の少ない石灰スラッジを取得する方法として、静置又はろ過手段による緑液の清澄化が記載されている。しかしながら、この公知文献は、緑液の清澄化をどの程度進めれば、着色夾雑物が少ない高品質の炭酸カルシウムからなる石灰スラッジが得られるかを、具体的に教示していない。
【0006】
さらにパルプ製造工程で得られる緑液を、緑液200gを孔径1μmのガラス繊維製ろ紙に通過させ、ろ紙上に残るろ過残渣乾燥物を分光白色度測色計で測定した明度が50以上に保持されるよう、清澄化処理する工程と小粒子化された石灰スラッジのスラリーを、アルカリ成分の除去を目的とする水洗工程に供給し、排出されるろ液のpHが11.0以下になるまで洗浄し、かつ脱水する工程を組み合わせ、塗被紙用顔料を精製しようとする方法が提案されているが、苛性化工程は複雑であり、以降の工程からも不純分は混入するため、この方法によっても塗被紙用顔料として必要とされる白色度に到達することは困難である(特許文献3参照)。
【0007】
さらに、下記の特許文献4には、緑液を65℃以上の温度でろ過して緑液に含まれる固形不純物を予め除去した後、ろ液に相当する緑液に生石灰を加えて消和を行って未反応物質を除去し、しかる後、液中の炭酸カルシウムを粉砕または粉砕することなく回収し、これを80℃以上の温水で洗浄した後、粉砕処理と酸化剤による漂白処理を施すことからなる炭酸カルシウムの回収方法が記載されている。しかし、この方法は、回収する炭酸カルシウムの粒度が微細すぎて、苛性化本来の目的つまり白液製造に大きな難点が生じてしまうという欠点がある。このようなことから、その実用化は困難である。
【0008】
さらに、下記の特許文献5には、クラフト蒸解パルプの製造に際して、苛性化工程から得られる塊状の石灰スラッジを水中に分散し、濃度20〜70質量%となるように調整後、湿式粉砕処理する記載がなされているが、水中に分散し、20〜70質量%の濃度にしてしまうと、濃度が低すぎて、塗工用に用いることは難しくなり、後工程として、脱水、乾燥工程を付加するとなると、経済的に大きな負担を要するものであった。
【0009】
さらに、工程中の消和、苛性化反応の部分で、再利用のための別ラインを形成し、反応を制御して微細な炭酸カルシウムを得て、これを填料用などに用いる記載がなされているが、苛性化工程から別ラインを作るという大きな設備投資が必要となると同時に、塗工層用の顔料として用いる場合には、その濃度を高くする必要があるために、後工程として、脱水、乾燥工程を付加する必要があり、工業的には具体性を欠いた方法であった(特許文献6〜8参照)。
【0010】
さらに、石灰スラッジを、白液回収工程を経た後、高温熱風を使用したフラッシュドライヤーを通すことによって乾燥させ、この乾燥したものを使用することも考えられるが、この方法では、乾燥したスラッジは、凝集力が通常の乾燥前の含水スラッジよりも強いため、スラリーでの分散性が悪いこと、200℃以上の高温のため、輸送や乾式粉砕処理等のハンドリングの際、ハンドリング可能な温度まで冷却する必要があり、冷却設備が必要になること、乾粉のため粉塵の飛散量が多大で、原料倉庫への直置き等ができず、貯蔵用のサイロやタンクが必要なこと等の欠点があった。
【特許文献1】特開昭61−53112号公報
【特許文献2】特開昭61−179398号公報
【特許文献3】特開2004−26639号公報
【特許文献4】特開昭61−183120号公報
【特許文献5】特開2001−98482号公報
【特許文献6】特開平10−226517号公報
【特許文献7】特開平10−226974号公報
【特許文献8】特開平10−292283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記した従来技術の問題点を考慮すると共に、乾式粉砕処理を施す際、スラリー分散性の良い、ハンドリングしやすく、経済的に安価である、塗被紙用顔料として使用可能な、高白色度の炭酸カルシウムを容易に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
クラフト法における緑液に生石灰または消和液を加えて生成される石灰スラッジは、通常、パルプ製造工程に使用される白液(水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を主成分として含む)から分離され、次いで弱液(アルカリ成分)の回収を目的として、1段の希釈脱水洗浄工程に付されるのが通常である。これまで提案されている苛性化工程から副生する石灰スラッジの精選方法は希釈、あるいは置換洗浄方法にのみによっているが、未然カーボンなどの不純分は本来不溶性であり、上記の方法では紙用填料、顔料として使用する高白色度の炭酸カルシウムは精製できない。
【0013】
本発明の炭酸カルシウムの製造方法は、これらクラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を、消和生石灰液にて苛性化し、生成する石灰スラッジを固液分離して炭酸カルシウムを製造する方法において、石灰スラッジを、白液回収工程とアルカリ成分の回収工程を経た後、キルン釜尻からの排熱を利用したフラッシュドライヤーによって乾燥した石灰スラッジと、フィルター落ち口での含水の石灰スラッジを混合し、これを乾式で粉砕することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
苛性化工程で副生する石灰スラッジから、キルン釜尻の排熱を利用したフラッシュドライヤーを通すことより、石灰スラッジを乾燥させると共に、フラッシュドライヤーを通すことによって得られる乾燥した石灰スラッジと、フィルター落ち口での含水の石灰スラッジを混合することで、ハンドリングや経済性の観点から優位な、高品質の炭酸カルシウムを得、次いで乾式にて粉砕することにより高能率の塗工を可能にする高濃度塗工用顔料として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
最初に、木材チップから紙の素材となるパルプ繊維を製造するプロセスを概説する。クラフト法によるパルプ製造プロセスでは、苛性ソーダと硫化ソーダを主成分とする蒸解薬液を収めた蒸解釜中で、木材チップが高温・高圧下にて蒸煮される。この蒸煮によって、木材に含まれるリグニンなどの成分は蒸解薬液に溶出され、目的物であるパルプ繊維は、この薬液に分散した状態で蒸解釜から取り出されるので、これを固液分離することにより、紙の素材となるパルプ繊維が取得される。そして、固液分離によりパルプ繊維から分離されたパルプ廃液(黒液と呼ばれる)は、薬品回収及び熱回収の目的で、多重効用缶などで濃縮され、黒液回収ボイラーで燃焼せしめられる。
【0016】
濃縮黒液の燃焼で生成するスメルト(炭酸ナトリウム及び硫化ナトリウムを主成分とする無機溶融物)を、後述する弱液に溶解させたものがいわゆる緑液であって、通常のパルプ製造プロセスでは、この緑液に含まれるドレッグス(不溶性夾雑物)を沈降分離し、ドレッグスが分離除去された緑液は、これに生石灰を投入する苛性化工程に供され、当該工程で生起する消和反応と苛性化反応により、石灰スラッジが生成される。通常の工程ではこの消和反応と苛性化反応は同時に行われる。
【0017】
次にこの石灰スラッジを含むスラリーを固液分離し、その液状成分に含まれる水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムは、白液として木材チップの蒸解に再利用される。一方、液状成分から分離された石灰スラッジは、ロータリーキルン、カルサイナーなどで焼成されて生石灰に転化し、その生石灰は緑液の苛性化工程に循環使用される。分離されたドレッグスや石灰スラッジを洗浄した際に得られる液状成分は弱液として、上記したスメルトの溶解に使用される。
【0018】
連続操業されている通常のパルプ製造プロセスでは、蒸解工程で消失するナトリウム分及び硫黄分を補う目的で、例えば、硫酸ナトリウムを添加することと、緑液の苛性化に使用する生石灰が不足している場合には、これを系外から補充することを除いて、蒸解に必要な薬品は、緑液の苛性化工程で回収される白液で賄い、緑液の苛性化に必要な生石灰は、当該苛性化工程で生成される石灰スラッジの焼成物で賄うのが一般的である。
【0019】
しかし、パルプ製造プロセスで副生される石灰スラッジを、炭酸カルシウムの供給源として考えた場合、特に紙用の填料、顔料として使用されるに必要な白色度が高い炭酸カルシウムの供給源として考えた場合には、ドレッグス成分にかなり含まれる有色の未燃カーボンや金属塩が炭酸カルシウムの白色度に大きく影響することから、石灰スラッジに含まれるドレッグス成分の多寡が極めて重要である。石灰スラッジよりこのドレッグス成分を洗浄などの方法により分離精選して炭酸カルシウムとして再生する提案がなされているがドレッグス成分は基本的に不溶性であり、希釈洗浄あるいは置換洗浄などの方法はドレッグス成分の分離精選には無力である。
【0020】
紙パ産業ではロングロータリーキルンに対し一般的に設備設置負荷の低いショートロータリーキルンが設置される。このショートロータリーキルンではその排ガス温度は300〜450℃の高温に達する。熱経済の上からもロングロータリーキルンと同様に排ガス温度を低下させ熱能率を上げると共にロータリーキルンの焼成能力を増加させる目的でフラッシュドライヤーが釜尻に設置される。水分35〜40質量%の石灰スラッジケーキをコンベアーにてダブルパドルミキサーに送り、この中でフラッシュドライヤーより送られる水分0〜2質量%の乾燥石灰と共に十分に混合撹拌され、水分10〜13質量%に減湿される。こうして減湿された石灰スラッジはデバイダーにて振り分けられ、一部はスクリューコンベアーにてキルンに供給焼成され、残りはケージミルに送られる。
【0021】
ケージミルは回転翼列を有する一種の破砕機で、ケージミルに送られた石灰スラッジは細かい粒子に破砕されると同時にキルンからの高温排気ガス(300〜450℃)と十分撹拌され石灰の水分は急激に除去される。この石灰は水蒸気及びガスと共にミル内より乾燥管を通りフラッシュドライヤーにて水蒸気及びガスが捕集分離される。フラッシュドライヤーにて捕集された石灰はエアーロックフィーダーを経てミキサーに帰る。フラッシュドライヤーよりの排ガスは排風機及び集塵機を通って大気へ放出される。集塵機にて回収されたダストは石灰スラッジとして再び石灰スラッジ洗浄槽に戻す。
【0022】
本発明は、キルン釜尻からの排熱を利用して運転するフラッシュドライヤーを通過することによって、石灰スラッジを乾燥させると共に、そのスラッジに含まれる未燃カーボンなどの不純物を分離、清浄化し、かつスラリー分散性の良い、ハンドリングしやすく、経済的に安価な、炭酸カルシウムの製造方法を提供することを要件とする。
【0023】
本発明でいうフラッシュドライヤーとは、いわゆる遠心力を利用した気流式サイクロン分離装置を備えた排熱回収装置のことである。本発明で用いられるフラッシュドライヤーの最大の特徴は、キルン釜尻で発生した排熱を利用し、石灰スラッジを乾燥しつつ、不純物を除去できることであるため、通常のサイクロンで、熱風を使用して、石灰スラッジを乾燥しつつ、分級を行えるサイクロンであれば、一般に使用されるものを問題なく使用できる。
【0024】
緑液の苛性化には、パルプ製造プロセスで常用されている反応条件を採用することができ、この苛性化により石灰スラッジが生成する。ここで得られた石灰スラッジの分散液(石灰乳)は、白液を回収する目的で固液分離され、次いでアルカリ成分の回収を目的として、固液分離された石灰スラッジを水に再分散して脱水し、ここで得られたろ液は弱液として再使用される。このための脱水機には、ベルトフィルター、ドラムフィルター、ディスクフィルター、フィルタープレス、シリンダープレス、デカンター、またはこれらを加圧条件下で行う装置が挙げられる。これら脱水機から適宜選択された装置の一種を単段で用いることにより、目的とする白液とアルカリ成分の回収を行うのが従来の慣行である。
【0025】
白液を分離し、清水で洗浄した苛性化処理後の石灰スラッジは通常80質量%以上の濃度を有する。清水で洗浄した苛性化処理後の石灰スラッジは、ドラムフィルターなどの減圧ろ過装置などで脱水され、80質量%以上の濃度まで濃縮されるが、塗被紙用炭酸カルシウムとして使用することを考えると、不純物の除去を行う工程で希釈する必要性があり、そうしたとすると、ある程度の濃度まで、再度濃縮しなくてはいけない。
【0026】
このような観点から、一度乾燥させ、その後、不純物を分離することが、その後の工程に有利であるが、清水などで洗浄した苛性化処理後の石灰スラッジは通常20質量%前後の水分を有しているため、十分に乾燥するにはかなりのエネルギーコストが必要になり、好ましくない。
【0027】
本発明では、このようなエネルギーコストを低減させるために、キルン釜尻から生じる排熱を利用したフラッシュドライヤーを用いることにより、石灰スラッジの乾燥を行うと共に、乾燥後の冷却のため、含水の石灰スラッジを混合することで、所定のハンドリングしやすい温度まで低減できる。また混合することにより、スラリーでの分散性が大幅に改善され、分散剤添加量の低減も図れる。この点については、フラッシュドライヤーを通すことによって得られる乾燥した石灰スラッジの場合、高温での乾燥の際、粒子表面にぼう硝等が生成して固くなっており、凝集性が強まり分散性が悪い。この乾燥した石灰スラッジに、含水の石灰スラッジを混合することで、相乗効果で著しくスラリー分散性が向上するものと推定される。さらに混合により、乾粉状の乾燥石灰スラッジがほとんど吸着され、粉塵の飛散がなくなり、原料倉庫での直置き等、取り扱いがしやすくなる。
【0028】
混合後の水分は、高めでも対応は可能であるが、その後のハンドリングや経済性を考慮すると、既出の課題を解決できる範囲内で低めの方が効率が良く、混合後の水分1質量%以内が、好ましい。
【0029】
キルン釜尻からの排熱の温度は、特に制限はないが、あまりに高温すぎると炭酸カルシウムが脱炭酸反応を生じ、酸化カルシウムに分解されてしまうので好ましくなく、逆に低温すぎても未乾燥となるし、上記のような白色度を低下させる無機化合物の分解が促進されないので好ましくない。フラッシュドライヤーで用いられるキルン釜尻の排熱の温度としては、150〜300℃の範囲が好ましい。
【0030】
このようにして得た乾燥石灰スラッジには従来の湿った石灰スラッジにはない塗被紙用顔料として利用する上で好適な性質が種々あることは上記した。しかし、このまま利用するとその利用範囲は填料用途などに限られる。なぜならこのような石灰スラッジを詳細に観察すると粒子が苛性化反応の結果形成される多孔体粒子であること、さらには石灰スラッジ中に微量に水酸化カルシウムが含まれていることなどにより水性でスラリー化しようとする場合その液の性状が悪く、つまり粘度が高くスラリー化時の希釈液を多く要し、近年、紙塗工で主流の調整水の少ない高濃度塗工用の顔料としては利用できない。
【0031】
このことを以下の様にして解消した。石灰スラッジは2μmほどの小粒子が凝集した結果30μmほどの多孔体粒子となっている。この2次凝集した石灰スラッジを2〜3μmの1次粒子に粉砕することは容易で、強い粉砕力を与えずして可能である。このようにして粉砕することによりこれをスラリー化した場合、容易に75質量%程の濃度で分散が可能になる。この濃度で分散が可能であることは紙用塗被液の高濃度化を可能にする。この粉砕に要する手段としてジェットミル、アトライター、ロールミルなど乾式で運用する既往の粉砕機により目的達成が可能である。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これら実施例は本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、例中の%表示は白色度の数値以外は質量%を示す。
【0033】
実施例1
パルプ製造プロセスにおいて、濃縮黒液の燃焼によって得られるスメルトを弱液に溶解させて緑液を調製し、ステンレスビーカーに収め、オイルバス中で104℃まで加温した。次いで生石灰を緑液1リットル当り70gの割合で緑液に混合し、104℃で2時間、消和・苛性化反応を行って石灰乳を得た。白液回収を目的として、この石灰乳をポリプロピレン製ろ布にて吸引ろ過し、ケーキ固形分濃度が80%の石灰スラッジを得た。
【0034】
次に得られた石灰スラッジを小型のラボ用気流式フラッシュドライヤーに通した。フラッシュドライヤーの処理は分離される不純分の固形分が投入した全量の2.5%が廃棄されるように実施し、この時の熱風の温度は200℃で行った。この乾燥した石灰スラッジと乾燥前の石灰スラッジを所定の水分になるように混合し、供試原料とした。
【0035】
フラッシュドライヤー処理前後の白色度と水分値、平均粒子径は、以下の方法にて測定した。
[白色度]:
得られた炭酸カルシウム粉末を真ちゅう製の型枠に入れ、鏡面処理を施した平板を型枠の上に置き、70kgf/cm2で30秒間プレスしてペレット状とし、分光白色度測色計(SC−10WN、スガ試験機社製)を用いて鏡面にあたっていた側のペレットの白色度を測定した。なお、白色度の測定に際しては、D65光源、10度視野の条件を用いた。
[水分値]:
得られた炭酸カルシウム10gを100℃の乾燥機で30分乾燥させ、乾燥前後の質量差から、炭酸カルシウムの水分値を測定した。
[平均粒子径]:
粒度はマイクロトラック社製MT3000にて50%平均粒子径を計測した。
【0036】
次にこの乾燥石灰スラッジをジェットミルにて、4μmの平均粒子径に粉砕した。この石灰スラッジを200g採取し、一方、分散剤(アロンT40)0.16%加えた上で、全体が75%濃度となるように調節した水媒体にこの石灰スラッジを投入し、これを攪拌機にて撹拌分散後B型粘度計にて粘度を計測した。この結果粘度は190cpsであった。
【0037】
実施例2
ジェットミルによる粉砕で平均粒子径を10μmにしたこと以外は、実施例1と同様に行った。この結果分散後の粘度は250cpsとなった。
【0038】
実施例3
原料水分を1%にしたこと以外は、実施例1と同様に行った。この結果分散後の粘度は150cpsとなった。
【0039】
比較例1
原料として、乾燥した石灰スラッジのみを使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。この結果分散後の粘度は380cpsとなった。
【0040】
上記した各実施例並びに比較例において、得られた石灰スラッジの白色度、水分、これを乾式にて粉砕した後の平均粒子径、それを分散する時の石灰スラッジ濃度、分散後の粘度をまとめて表1に示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の方法は苛性化工程で副生する石灰スラッジを、キルン釜尻の排熱を利用したフラッシュドライヤーに通すことにより、石灰スラッジを乾燥させると共に、ハンドリングや経済性の観点から優位な高品質の炭酸カルシウムを得、次いで乾式にて粉砕することにより高能率の塗工を可能にする高濃度塗工用顔料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液にて苛性化し生成する石灰スラッジから炭酸カルシウムを製造する方法において、石灰スラッジを、白液回収工程を経た後、高温熱風を使用したフラッシュドライヤーを通すことによって得られる乾燥した石灰スラッジと、フィルター落ち口での含水の石灰スラッジを混合し、これを乾式粉砕することを特徴とする炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
乾燥した石灰スラッジと、フィルター落ち口での含水の石灰スラッジを、混合後の水分1質量%以内の条件で混合することを特徴とする請求項1記載の炭酸カルシウムの製造方法。

【公開番号】特開2009−179520(P2009−179520A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20205(P2008−20205)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】