説明

炭酸カルシウムスラリー、塗工液およびそれを用いた塗工紙

【課題】本発明の課題は、炭酸カルシウムスラリーを製造する方法において、塗工紙用顔料として使用可能な、分散性に優れた高濃度な炭酸カルシウムスラリー、塗工液およびそれを用いた塗工紙を提供することにある。
【解決手段】高濃度で分散性に優れた炭酸カルシウムスラリー、塗工液およびそれを用いた塗工紙の製造において、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤を使用することを特徴とした炭酸カルシウムスラリー、塗工液およびそれを用いた塗工紙である。そして、該分散剤が、メタクリル酸系ポリマー、ポリカルボン酸エーテル系ポリマーであることを特徴とした炭酸カルシウムスラリー、塗工液およびそれを用いた塗工紙である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗粒の炭酸カルシウムを、湿式粉砕を行って調製した炭酸カルシウムスラリー、塗工液およびそれを用いた塗工紙に関するものである。より詳しくは、低粘度で安定な高濃度の炭酸カルシウムスラリー、塗工液およびそれを用いた塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、塗工紙用顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、二酸化チタン、サチンホワイト、タルク、水酸化アルミニウム、プラスティックピグメント等様々なものが使用されているが、特に、炭酸カルシウム、カオリンが主流となっている。
【0003】
炭酸カルシウムとしては、天然より産出する石灰石を湿式粉砕した重質炭酸カルシウムと、化学的に合成して得られる軽質炭酸カルシウムに大別することができる。重質炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウムより安価であるだけでなく、塗工組成物に高配合してもその塗工作業に支障をきたさないため、塗工紙用顔料として多用されている。一方、軽質炭酸カルシウムは、炭酸ガス法によって製造するのが一般的であり、反応条件を変化させることによって、粒子径や形状をコントロールできる利点があるものの、重質炭酸カルシウムに比較して高価である。
【0004】
塗工用顔料スラリーを調製する場合には、高濃度で分散化することが求められており、分散剤として、従来から、ポリアクリル酸ソーダ塩、アクリル酸・マレイン酸共重合体ソーダ塩等が用いられてきている。重質炭酸カルシウムを所定の濃度、粒子径まで分散、粉砕するには多量の分散剤が必要であることから、この点において改良の余地があった。
【0005】
一方、軽質炭酸カルシウムは、紡錘状、角状、柱状、針状、凝集状等種々の形状のものが、様々の粒子径で粉体あるいはスラリーとして市販されており、これらは他の塗工用顔料と比較すると、白色度、不透明度、インキ受理性等に優れ、カオリン、重質炭酸カルシウムと併用、あるいは単独で幅広く利用されている。
【0006】
しかし、軽質炭酸カルシウムは、一般に凝集した状態で存在していることが多く、高濃度のスラリーにした場合、ホモディスパー等の分散機で分散させただけではスラリーの粘度は著しく高く、塗工用グレードの顔料として要求される液性とは言い難い。これを一次粒子の状態で分散させることができれば、塗工紙を製造する場合のエネルギーを削減することができると共に、高品質の塗工紙を提供することができる。
【0007】
軽質炭酸カルシウムは重質炭酸カルシウムに比較して高濃度の分散が困難であったが、この問題に関し、固形分濃度60質量%の軽質炭酸カルシウムスラリーに粉体の軽質炭酸カルシウムを別途添加して、固形分濃度70質量%以上のスラリーにした後、アルミナビーズを使用して軽質炭酸カルシウムスラリーの湿式粉砕処理を行うことで、塗工用グレードの軽質炭酸カルシウムを得るという方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、高濃度の軽質炭酸カルシウムスラリーは、粘度が高いだけでなく、分散安定性に劣り、すぐに沈降してしまうことがある。この方法を用いると、粉砕処理することで低粘度化のみならず、ある程度の分散安定性が得られるが、最適な分散性が得られていなければ、すぐに沈降が始まり、塗工用顔料として使用するには凝集物の発生による塗工欠陥等の支障が生じることが多かった。
【0008】
軽質炭酸カルシウムの分散性は、形状やその製造方法の影響をうけやすい。例えば、従来の炭酸ガス法以外の軽質炭酸カルシウム源として、クラフト法によるパルプ製造工程で副生される緑液を苛性化した際に生成する石灰スラッジがある。苛性化は生石灰又は生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液によって行われる。この石灰スラッジの主成分は炭酸カルシウム(以下、本発明においては、苛性化炭酸カルシウムと記す)であるが、不定形の炭酸カルシウムが凝集した塊状物であるため、塗工用顔料として使用するには苛性化炭酸カルシウムを適当な粒子径まで粉砕処理を行う必要がある。
【0009】
苛性化炭酸カルシウムを塗工用顔料として適用する場合は、従来の重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムと比較すると、分散性が著しく劣る。この原因としては、苛性化反応由来のソーダ分や未反応のカルシウム分等のイオン成分が溶出し、スラリーを増粘させるものと考えられる。よって、分散、粉砕作業に支障をきたすことから、湿式粉砕する際に、顔料分散液のpHが8.0〜12.0となるように炭酸ガスを直接吹き込むことで、少ない分散剤添加量で顔料分散液の粘度が低く、粉砕負荷の低い軽質炭酸カルシウムの湿式粉砕方法が提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、高濃度での分散性においては、充分な効果が見られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−210521号公報
【特許文献2】特開2000−239017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、分散性に優れた高濃度な炭酸カルシウムスラリーを提供すること、さらに、該炭酸カルシウムを顔料として用いた塗工液および該塗工液を用いた塗工紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記手段を見出した。すなわち、
(1)炭酸カルシウムを主鎖から分岐した側鎖を有する分散剤を用いて分散処理した後、湿式粉砕することを特徴とする炭酸カルシウムスラリーである。
【0013】
(2)好ましくは、分散時の炭酸カルシウムが、65〜78固形分質量%で分散処理される炭酸カルシウムスラリーである。
【0014】
(3)好ましくは、該分散剤が、メタクリル酸系ポリマー、ポリカルボン酸エーテル系ポリマーから選ばれる少なくとも1種の分散剤である炭酸カルシウムスラリーである。
【0015】
(4)好ましくは、該分散剤の添加量が、炭酸カルシウム固形分に対して0.05〜0.5質量%である炭酸カルシウムスラリーである。
【0016】
(5)好ましくは、該炭酸カルシウムが、パルプ製造の苛性化工程で生成された炭酸カルシウムである炭酸カルシウムスラリーである。
【0017】
(6)また、上記(1)〜(5)のいずれかの炭酸カルシウムスラリーを含む塗工液である。
【0018】
(7)好ましくは、上記(1)〜(5)のいずれかの炭酸カルシウムスラリーに、さらに、アニオン系ポリマーを添加した後、カオリンスラリーを混合せしめた塗工液である。
【0019】
(8)好ましくは、該アニオン系ポリマーがポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種のアニオン系ポリマーである塗工液である。
【0020】
(9)好ましくは、該炭酸カルシウムスラリーとカオリンスラリーの固形分の質量比が100/0〜50/50である塗工液である。
【0021】
また、上記(1)〜(9)のいずれかの炭酸カルシウムスラリーを含む塗工液を用いた塗工紙である。
【発明の効果】
【0022】
分散性に優れた高濃度な炭酸カルシウムスラリーを提供すること、さらに、少なくとも該炭酸カルシウムスラリーを用いた塗工液を塗工することで、光沢と耐印刷性に優れた塗工紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の内容について詳細に述べる。まず、本発明者は、炭酸ガス法によって製造された軽質炭酸カルシウムを高濃度で分散させる方法について検討を行った。塗工用の高濃度の炭酸カルシウムスラリーを得るためには、原料の炭酸カルシウムを高濃度で分散させる必要がある。一般に塗工用顔料に使用される重質炭酸カルシウムのスラリーは、ポリカルボン酸ソーダ塩を対炭酸カルシウムに対して、0.1〜0.7質量%添加して、65質量%以上で分散される。しかしながら、軽質炭酸カルシウムを重質炭酸カルシウムと同条件で分散させようとした場合には、高濃度で分散させることができない。
【0024】
上記炭酸ガス法とは、水酸化カルシウムスラリーに炭酸ガスを導入して製造する方法であり、製造条件を好適に制御しなければ、未反応の水酸化カルシウムが軽質炭酸カルシウムの核部分に残存してしまう。また、軽質炭酸カルシウムは凝集した状態で存在しており、一次粒子の状態で分散させるにはホモディスパー等の分散機で強力なせん断力をかける必要がある。しかし、強力なせん断力をかけると粒子そのものが破砕され、上述の軽質炭酸カルシウム中に残存する水酸化カルシウムから、カルシウムイオンが溶出する。ポリカルボン酸ソーダ塩を分散剤として使用した場合、軽質炭酸カルシウム中に存在するカルシウムイオンがポリカルボン酸のカルボン酸基に吸着し、カルボン酸基同士の静電反発力を著しく悪化させ、軽質炭酸カルシウムを高濃度で分散させることができない。
【0025】
本発明では、従来からの静電反発力によって分散させる分散剤ではなく、主鎖から分岐した側鎖を有し、該側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤を使用することにより、軽質炭酸カルシウムを65質量%以上の高濃度で分散させることが可能となった。
【0026】
次に、本発明者は、クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を苛性化する際に生成する石灰スラッジ(苛性化炭酸カルシウム)を高濃度で分散させる方法について検討を行った。しかしながら、苛性化炭酸カルシウムを重質炭酸カルシウムと同条件で分散させようとした場合には、高濃度で分散させることができない。
【0027】
苛性化炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムと比較すると、水溶性の2価陽イオン(カルシウムイオンおよびマグネシウムイオン)を多く含んでいる。ポリカルボン酸ソーダ塩を分散剤として使用した場合、苛性化炭酸カルシウム中に存在する2価陽イオンがポリカルボン酸のカルボン酸基に吸着し、カルボン酸基同士の静電反発力を著しく悪化させ、苛性化炭酸カルシウムを高濃度で分散せせることができない。
【0028】
本発明では、従来からの静電反発力によって分散させる分散剤ではなく、主鎖から分岐した側鎖を有し、該側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤を使用することにより、苛性化炭酸カルシウムを65質量%以上の高濃度で分散させることが可能となった。
【0029】
本発明における主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤としては、メタクリル酸系ポリマー、ポリカルボン酸エーテル系ポリマーが用いられる。該分散剤の添加量としては、炭酸カルシウムに対して0.05〜0.5質量%が好ましい。0.05質量%未満では分散効果を発現させるには充分ではないことがある。また、0.5質量%を超えて添加した場合には分散効果は頭打ちとなることがあり、コストも増加する。また、該分散剤の添加方法としては、炭酸カルシウムを希釈水に添加する前に、予め希釈水に添加するか、顔料を分散機内で分散する際に添加していくこともできる。また、炭酸カルシウムは、湿式粉砕機で処理し、塗工用顔料として利用するのに望ましい粒子径まで粉砕していくことになるが、粉砕工程においても添加することができる。
【0030】
本発明における炭酸カルシウムスラリーの固形分濃度としては、65質量%以上であることが好ましい。固形分濃度が65質量%未満の炭酸カルシウムスラリーを用いて塗工液を調製した場合、最終的な塗工液の濃度が低下し、このことは高速塗工時に乾燥の負荷が増大するだけでなく、製造された塗工紙の光沢が下がったり、耐印刷性に劣ったりすることがある。固形分濃度が65質量%以上の炭酸カルシウムスラリーを主体として塗工液を調製することにより、最終的な塗工液の濃度も高くなり、印刷用塗工紙を製造したときに、原紙上に塗工された塗工液が不動化する時間が短縮され、原紙への塗工液の浸み込みが少なくなる。このことによって、より厚みを持ち、均一でかつ空隙率の高い構造の塗工層が形成される。均一でかつ空隙率の高い構造の塗工層が形成されることにより、印刷されたときには、印刷インキがセットされるまでの時間が長くなり、これは印刷面の平滑化に繋がり、印刷光沢が良好になる。また、空隙率の高い構造の塗工層は、印刷後の乾燥工程における原紙水分の透気性が良好になり、耐ブリスター性が良好になる。
【0031】
上記炭酸カルシウムスラリーとしては、固形分濃度が65質量%以上であることが好ましく、その上限については特に限定はされない。実際の取り扱い性などを考慮した場合には、本発明の炭酸カルシウムの分散濃度としては、65〜78質量%が望ましい。
【0032】
本発明に係わる、炭酸カルシウムの湿式粉砕前に使用する分散装置としては、コーレスミキサー、ニーダー、ボールミル、アトライター等から選ばれる1種が用いられる。
【0033】
本発明の炭酸カルシウムスラリーは、粒子径、粒子形状を制御することを目的として、湿式粉砕処理される。炭酸カルシウムを塗工用顔料に使用するには平均粒子径を約0.8〜3.0μmに粉砕する必要があり、これには縦型サンドミル、横型サンドミル、ジェットミル、ボールミル、アトライター、振動ミルなどの各種湿式粉砕装置を用いることができる。また、メディアとしてはガラス、セラミック、アルミナ、ジルコニア等の硬質原料で製造された球状のボールが挙げられ、メディア径は0.1〜10mmであることが好ましい。メディアの充填率は高い方が好ましいが、充填率が高すぎると粉砕室内でのメディアの動きが悪くなり、粉砕効率を低下させる場合もあり、使用する粉砕機により適宜調整する必要がある。
【0034】
また、湿式粉砕工程では、粉砕工程の増粘を防止する目的、および炭酸カルシウムスラリーのpHを調節する目的で、粉砕処理前後にスルファミン酸、酢酸などの有機酸、リン酸、ポリリン酸、硫酸などの無機酸、二酸化炭素ガス、および二酸化炭素含有ガスなどの酸性物質を該分散液へ添加することも可能である。
【0035】
本発明の炭酸カルシウムスラリーは、単独で塗工用顔料として使用することもできるが、カオリンをはじめとする他の顔料と混合して使用することもできる。特に、塗工用顔料として炭酸カルシウムとともに、光沢性を付与する目的で、カオリンが使用されることが多い。しかし、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめるメタクリル酸系ポリマー、ポリカルボン酸エーテル系ポリマーを添加した苛性炭酸カルシウムとカオリンを併用した系では、通常の重質炭酸カルシウムとカオリンを併用した系に比較して塗工液の粘度が高くなる傾向にあることがわかった。粘度の上昇がひどくなると、塗工時において塗工面に筋が発生し、塗工紙の外観を著しく損ねる。このような粘度の上昇が発生する原因としては、苛性化炭酸カルシウムスラリー中に溶存する2価のカルシウムイオンが、正負に分極した平板状カオリン粒子の負の部分同士を架橋することが挙げられる。
【0036】
このような粘度の上昇を抑制するには2価のカルシウムイオンを除去又は封鎖する必要があるが、ポリアクリル酸ソーダ塩、アルギン酸ソーダ塩、カルボキシルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種のアニオン系ポリマーを該炭酸カルシウムスラリーに添加することにより2価のカルシウムイオンの封鎖が可能となり、苛性化炭酸カルシウムスラリーとカオリンを併用した塗工液の調製が可能となった。
【0037】
本発明における塗工液の炭酸カルシウムとカオリンの質量比としては、100/0〜50/50の範囲で混合するのが望ましい。カオリンの比率を上げるに従って塗工紙の白紙光沢、印刷光沢は上昇する一方、塗工紙の印刷強度が低下気味になり、塗工液の粘度も上昇し、塗工時の作業性が低下する。
【0038】
本発明の塗工液としては、塗工液に含まれる全顔料100質量部中、本発明の炭酸カルシウムスラリーが固形分換算で50質量部以上含まれるものである。また、該炭酸カルシウムスラリー以外の他の顔料を併用する場合、その他種の顔料としては、例えばクレー、二酸化チタン、サチンホワイト、タルク、水酸化アルミニウム、プラスティックピグメント等が挙げられる。また、本発明の塗工液には、接着剤、増粘剤等、一般的に塗工紙を製造する上で用いられるものは全て配合して構わない。接着剤としては、通常の澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、スチレン−ブタジエン系、アクリル系、酢酸ビニル系等の各種共重合ラテックス、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ユリア又はメラミン/ホルマリン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン/エピクロルヒドリン等の水溶性合成物、ワックス、カゼイン、大豆蛋白等の天然物およびこれらをカチオン化したもの等が挙げられる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ等の水溶性高分子、ポリアクリル酸塩、スチレンマレイン酸無水共重合体等の合成重合体、珪酸塩等が挙げられる。その他、必要に応じて、消泡剤、耐水化剤、着色剤等の通常塗工紙を作成する上で使用されている各種助剤、およびこれらの各種助剤をカチオン化したものが好適に用いられる。
【0039】
本発明の塗工紙において用いられる原紙としては、例えば、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP、CGP等の機械パルプ、および、古紙パルプ等の各種パルプを含み、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン等の各種填料、サイズ剤、定着剤、歩留り剤、紙力増強剤等の各種配合剤を好適に配合し、酸性、中性、アルカリ性のいずれでも抄造できる。該原紙としてはまた、ノーサイズプレス原紙、あるいは澱粉、ポリビニルアルコール等でサイズプレスされた原紙等を用いることができる。また、必要とする原紙の密度、平滑度を得るために各種カレンダー処理を施す場合もある。一連の操業で、塗工、乾燥された塗工紙は、必要に応じて各種カレンダー処理が施される。
【0040】
本発明において、塗工紙を製造する際の塗工方式は特に限定されるものではなく、サイズプレス、ゲートロール、シムサイザー等の各種メタードフィルムトランスファー、エアナイフ、ロッド、ダイレクトファウンテン、ブレード等各方式を適宜使用して構わないが、より良好な印刷適性を有する塗工紙を製造するにはブレード方式によって塗工されるのが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
【0042】
同様に実施例において示す「平均粒子径」とは、マイクロトラック粒度分析計(モデルMT3300、日機装社製)を使用して、分散粒子の平均粒子径(d50%値)を測定した値を示す。
【0043】
また、実施例において使用する塗工原紙は以下のような配合で調製し、坪量70g/mの塗工原紙を抄造した。
<原紙配合>
LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ、濾水度450mlcsf) 80質量部
NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ、濾水度480mlcsf) 20質量部
<内添薬品>
軽質炭酸カルシウム(原紙中灰分で表示) 6質量部
市販カチオン化澱粉 1.0質量部
市販カチオン系ポリアクリルアミド歩留り向上剤 0.03質量部
【0044】
(実施例1)
クラフト法によるパルプ製造工程で得られた緑液を苛性化した際に生成された石灰スラッジを粉砕した苛性化炭酸カルシウムを固形分80%になるようにタービン翼型攪拌機を用いて水中に分散させ、これに主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤SP8N(BASF株式会社製)を固形分換算で0.2%加え、スラリーを調製した。次いでB型粘度が300cpsになるまで水を添加し、該炭酸カルシウムスラリーの固形分濃度を測定した。さらに該炭酸カルシウムスラリーを、粉砕メディアとして粒子径が0.5mmのガラスビーズを80容量%となるように充填したベッセル容量0.6Lの横型サンドミル(ダイノーミルKDL)に供給し、回転数4500RPM、吐出量毎分300mLの運転条件のもと、湿式粉砕処理を行い、平均粒子径が1.0μmの炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤SP8N(BASF株式会社製)の添加量を固形分換算で0.05%に変更した以外は実施例1と全て同様にして、実施例2の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0046】
(実施例3)
実施例1において、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤SP8N(BASF株式会社製)の添加量を固形分換算で0.5%に変更した以外は実施例1と全て同様にして、実施例3の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0047】
(実施例4)
実施例1において、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤SP8N(BASF株式会社製)の添加量を固形分換算で0.6%に変更した以外は実施例1と全て同様にして、実施例4の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0048】
(実施例5)
実施例1において、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤をTK−1000(花王株式会社製)に変更し、添加量を固形分換算で0.5%に変更した以外は実施例1と全て同様にして、実施例5の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0049】
(実施例6)
実施例1において、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤をFC−1090(日本触媒株式会社製)に変更し、添加量を固形分換算で0.5%に変更した以外は実施例1と全て同様にして、実施例6の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0050】
(実施例7)
実施例3において、苛性化炭酸カルシウムを炭酸ガス法により製造された軽質炭酸カルシウムに変更した以外は実施例1と全て同様にして、実施例7の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0051】
(比較例1)
実施例1において、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤を、主鎖から分岐した側鎖を有さない分散剤アロンT−50(東亞合成株式会社製)に変更し、添加量を固形分換算で0.5%に変更した以外は実施例1と全て同様にして、比較例1の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0052】
(比較例2)
実施例1において、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤を、主鎖から分岐した側鎖を有さない分散剤sokalan PA30(BASF株式会社製)に変更し、添加量を固形分換算で0.5%に変更した以外は実施例1と全て同様にして、比較例2の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0053】
実施例1〜7および比較例1〜2の湿式粉砕処理前の炭酸カルシウムスラリーの評価結果を表1に示す。尚、表1中の評価項目は以下の方法で評価した。
<炭酸カルシウムスラリーの分散性の評価>
炭酸カルシウムスラリーの粘度をB型粘度計で測定した後、当該スラリーの固形分濃度を測定し、粘度と濃度の状態を以下の基準で評価した。
◎:B型粘度300mPa・s時の濃度が70%以上の状態
○:B型粘度300mPa・s時の濃度が67%以上、70%未満の状態
△:B型粘度300mPa・s時の濃度が65%以上、67%未満の状態
×:B型粘度300mPa・s時の濃度が65%未満の状態
本発明においては、△以上を発明の対象とした。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から、炭酸カルシウムの分散に、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤を使用した実施例1〜実施例7は、高濃度の炭酸カルシウムスラリーが調製でき、さらに分散性も優れていた。
【0056】
一方、比較例1および比較例2は、分岐を有さない分散剤の使用量が、実施例1で使用した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤の使用量よりも多いにもかかわらず、良好な分散性を得るためには、該炭酸カルシウムスラリーの低濃度化が余儀なくされた。
【0057】
(実施例8)
実施例3で得られた炭酸カルシウムスラリー100質量部、市販ラテックスバインダー10質量部、市販リン酸エステル化澱粉5質量部、市販カルボキシメチルセルロース系増粘剤0.1質量部、pH調整用水酸化ナトリウムを配合させ、実施例8の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。さらに、得られた塗工液を、ワイヤーバーを用いて上記原紙上に固形分30mg/m(片面15mg/m)となるように塗工処理を行い、その後、スーパーカレンダー(10m/min、2MPa、裏表2回通紙)を用いてカレンダリング処理を施し実施例8の塗工紙を得た。
【0058】
(実施例9)
実施例3で得られた炭酸カルシウムスラリーにアニオン系ポリマーであるアロンT−50(東亞合成株式会社製)を固形分換算で1%添加した後、70質量%に調製されたカオリンスラリーを固形分割合で50/50の比率で混合させた後、実施例8と同様の方法を用いて実施例9の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、実施例9の塗工紙を得た。
【0059】
(実施例10)
実施例3で得られた炭酸カルシウムスラリーにアニオン系ポリマーであるアロンT−50(東亞合成株式会社製)を固形分換算で1%添加した後、70質量%に調製されたカオリンスラリーを固形分割合で75/25の比率で混合させた後、実施例8と同様の方法を用いて実施例10の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、実施例10の塗工紙を得た。
【0060】
(実施例11)
実施例3で得られた炭酸カルシウムスラリーにアニオン系ポリマーであるアロンT−50(東亞合成株式会社製)を固形分換算で1%添加し、実施例8と同様の方法を用いて実施例11の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、実施例11の塗工紙を得た。
【0061】
(実施例12)
実施例3で得られた炭酸カルシウムスラリーにアニオン系ポリマーであるTCG1220(ダイセル化学工業株式会社製)を固形分換算で1%添加した後、70質量%に調製されたカオリンスラリーを固形分割合で50/50の比率で混合させた後、実施例8と同様の方法を用いて実施例12の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、実施例12の塗工紙を得た。
【0062】
(実施例13)
実施例3で得られた炭酸カルシウムスラリーにアニオン系ポリマーであるTCG1220(ダイセル化学工業株式会社製)を固形分換算で1%添加した後、70質量%に調製されたカオリンスラリーを固形分割合で75/25の比率で混合させた後、実施例8と同様の方法を用いて実施例13の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、実施例13の塗工紙を得た。
【0063】
(実施例14)
実施例3で得られた炭酸カルシウムスラリーにアニオン系ポリマーであるTCG1220(ダイセル化学工業株式会社製)を固形分換算で1%添加し、実施例8と同様の方法を用いて実施例14の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、実施例14の塗工紙を得た。
【0064】
(実施例15)
実施例3で得られた炭酸カルシウムスラリーに、70質量%に調製されたカオリンスラリーを固形分割合で90/10の比率で混合させた後、実施例8と同様の方法を用いて実施例15の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、実施例15の塗工紙を得た。
【0065】
(比較例3)
比較例1で得られた炭酸カルシウムスラリーと70質量%に調製されたカオリンスラリーを固形分割合で50/50の比率で混合させた後、実施例8と同様の方法を用いて比較例3の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、比較例3の塗工紙を得た。
【0066】
(比較例4)
比較例1で得られた炭酸カルシウムスラリーと70質量%に調製されたカオリンスラリーを固形分割合で75/25の比率で混合させた後、実施例8と同様の方法を用いて比較例4塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、比較例4の塗工紙を得た。
【0067】
(比較例5)
比較例1で得られた炭酸カルシウムスラリーを、実施例8と同様の方法を用いて比較例5の塗工液を調製し、B型粘度を測定した。その後、実施例8と同様の方法を用い、比較例5の塗工紙を得た。
【0068】
実施例8〜14および比較例3〜5の塗工液の評価結果を表2に示す。尚、表2中の評価項目は以下の方法で評価した。
<塗工液の評価>
塗工液濃度および塗工液粘度を測定し、以下の基準で塗工作業性を評価した。
○:全く問題なし
△:ほとんど問題なし
×:粘度の上昇が激しく塗工不可能
本発明においては、△以上を発明の対象とした。
【0069】
<白紙光沢の評価>
グロスメーターにて、光沢を75度の角度で測定し、以下の基準で評価した。
○:白紙光沢が75%以上
△:白紙光沢が70%以上75%未満
×:白紙光沢が70%未満
本発明においては、△以上を発明の対象とした。
【0070】
<印刷光沢の評価>
RI印刷適性機を用い、藍色、紅色、黄色の重色ベタ印刷を施した後、グロスメーターにて光沢を60度の角度で測定し、以下の基準で評価した。
○:印刷光沢が55%以上
△:印刷光沢が50%以上55%未満
×:印刷光沢が50%未満
本発明においては、△以上を発明の対象とした。
【0071】
<ピック強度の評価>
RI印刷適性機を用い、墨色ベタ印刷を施した後、印刷面のピッキングの程度を目視で判定した。
◎:ピッキング全くなし
○:ほとんどピッキングなし
△:すこしピッキングが見られる
×:かなりピッキングが見られる
本発明においては、△以上を発明の対象とした。
【0072】
【表2】

【0073】
表2から、実施例9、実施例10、実施例12および実施例13で作製した塗工紙はカオリンが混合されているため、白紙光沢、印刷光沢共に高い値を示した。また、実施例8、実施例11および実施例14はカオリンが混合されている塗工液を塗布した塗工紙よりも白紙光沢、印刷光沢が劣るが、高いピック強度を示した。
【0074】
実施例15は炭酸カルシウムスラリーとカオリンスラリー混合時にアニオン系ポリマーを添加しないため、最終的な塗液に粘度の上昇が見られた。白紙光沢および印刷光沢を改善するにはカオリンの混合比率を上げる必要があるが、これ以上カオリンの比率を上げるとさらに粘度が上昇し、塗工作業性が下がることがあるため、アニオン系ポリマーの添加が必要となる。
【0075】
一方、比較例3はカオリンの混合比が50:50とカオリンの混合量が多く、また主鎖から分岐した側鎖を有する分散剤を用いて調製した炭酸カルシウムスラリーを用いていないため炭酸カルシウムスラリー濃度が低くなり、このことに起因する塗工液濃度の低さがピック強度の大幅な低下を招いた。また、比較例4および比較例5はカオリンの混合比が少ないことと、主鎖から分岐した側鎖を有する分散剤を用いて調製した炭酸カルシウムスラリーを用いていないため炭酸カルシウムスラリー濃度が低くなり、このことに起因する塗工液濃度の低さが、白紙光沢、印刷光沢の低下を招いた。
【0076】
本発明により得られた炭酸カルシウムスラリーは、主鎖から分岐した側鎖による立体障害効果により顔料を分散せしめる分散剤を使用することで、高濃度で炭酸カルシウムを分散させ、且つ、分散性も優れているという特徴を有している。さらに、アニオン性ポリマーを該炭酸カルシウムスラリーに添加した後にカオリンスラリーと混合させることで、凝集物を発生させることなく、高濃度な塗工液を調製することが可能となり、該塗工液を原紙に塗布することで、白紙光沢、印刷光沢、表面強度に優れた塗工紙を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを主鎖から分岐した側鎖を有する分散剤を用いて分散処理した後、湿式粉砕を行うことを特徴とする炭酸カルシウムスラリー。
【請求項2】
分散時の炭酸カルシウムが、65〜78固形分質量%で分散処理される請求項1記載の炭酸カルシウムスラリー。
【請求項3】
該分散剤が、メタクリル酸系ポリマー、ポリカルボン酸エーテル系ポリマーから選ばれる少なくとも1種の分散剤である請求項1記載の炭酸カルシウムスラリー。
【請求項4】
該分散剤の添加量が、炭酸カルシウム固形分に対して0.05〜0.5質量%である請求項1記載の炭酸カルシウムスラリー。
【請求項5】
該炭酸カルシウムが、パルプ製造の苛性化工程で生成された炭酸カルシウムである請求項1記載の炭酸カルシウムスラリー。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の炭酸カルシウムスラリーを含む塗工液。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項記載の炭酸カルシウムスラリーに、さらに、アニオン系ポリマーを添加した後、カオリンスラリーを混合せしめた塗工液。
【請求項8】
該アニオン系ポリマーが、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種のアニオン系ポリマーである請求項7記載の塗工液。
【請求項9】
該炭酸カルシウムと該カオリンの固形分の質量比が100/0〜50/50である請求項7記載塗工液。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の炭酸カルシウムスラリーを含む塗工液を用いた塗工紙。

【公開番号】特開2010−228950(P2010−228950A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76667(P2009−76667)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】