説明

炭酸ガスの処理方法

【課題】生成する炭酸カルシウムの粒成長を制御できる炭酸ガスの処理方法を提供する。
【解決手段】pH7以上のカルシウム溶液に炭酸ガスを接触させて、炭酸カルシウムを生成させる炭酸ガスの処理方法において、カルシウム溶液を、炭酸カルシウムの粒成長の促進・抑制がpHに依存するカルシウム濃度に維持すると共に、カルシウム溶液のpHを所定の範囲に維持して、炭酸カルシウムの粒成長を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム溶液に炭酸ガスを接触させて、炭酸カルシウムを生成させる炭酸ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭酸ガスを処理する方法として、炭酸ガスを含む気体を、水と、アルカリ土類金属含有物質と、弱塩基と強酸との塩とから得られる水溶液に、接触させてアルカリ土類金属の炭酸塩を生成させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、安価で簡便に炭酸ガスを処理するために、アルカリ土類金属含有物質として、天然鉱物、廃材、製造工程で排出される副産物、セメント水和固形物で固化させたコンクリート、コンクリートを含む建築廃材または粉砕物、鉄鋼スラグ、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、石炭灰、焼却灰、煤塵等を用いることが検討されている。また、この方法により生成する炭酸塩は、例えば炭酸カルシウムの場合では、製鉄用の副原料、セメント用原料、耐火物原料、製紙填料、地盤改良材、肥料、環境浄化プロセル用原料、充填材、工業用原料等に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−97072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の炭酸ガスの処理方法では、これまで、前記特許文献1に記載された方法のようにアルカリ土類金属等の原料を供給・確保することや生成する炭酸塩を再利用することについては検討されてきた。しかし、炭酸ガスの処理方法において、生成する炭酸塩自体に注目されることはなかった。
【0005】
本発明は上記問題に鑑み案出されたものであり、炭酸塩として炭酸カルシウムが生成する炭酸ガスの処理方法において、生成する炭酸カルシウムの粒成長を制御できる炭酸ガスの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る炭酸ガスの処理方法の第1特徴手段は、pH7以上のカルシウム溶液に炭酸ガスを接触させて、炭酸カルシウムを生成させる炭酸ガスの処理方法において、前記カルシウム溶液を、前記炭酸カルシウムの粒成長の促進・抑制がpHに依存するカルシウム濃度に維持すると共に、前記カルシウム溶液のpHを所定の範囲に維持して、前記炭酸カルシウムの粒成長を制御する点にある。
【0007】
本手段によれば、カルシウム溶液のカルシウム濃度(以下、[Ca2+]と記載する場合がある)とpHとを調整するだけで、生成する炭酸カルシウムの粒径を容易に制御することができる。また、炭酸ガスを処理すると共に、利用用途に応じた粒径の炭酸カルシウムを提供することができるため、炭酸カルシウムの付加価値が高まり、全体として処理コストを下げることができる。
【0008】
本発明に係る炭酸ガスの処理方法の第2特徴手段は、前記カルシウム溶液に水酸化カルシウムを添加して、前記カルシウム溶液のpHを前記所定の範囲に維持する点にある。
【0009】
炭酸カルシウムの生成により、カルシウム溶液のpHは低下する。また、水酸化カルシウムは安価で取り扱い易い。このため、カルシウム溶液のpHが低下した場合に、本手段のように水酸化カルシウムを添加すれば、簡便にpHを上昇させて所定の範囲に維持することができる。
【0010】
本発明に係る炭酸ガスの処理方法の第3特徴手段は、前記カルシウム溶液のカルシウム濃度を1.0×10−8.3≦[Ca2+](mol/L)に維持する点にある。
【0011】
本手段のように、カルシウム溶液を1.0×10−8.3≦[Ca2+](mol/L)に維持すれば、炭酸カルシウムを確実に析出させて生成させることができる。このため、カルシウム溶液のpHを調整することにより、炭酸カルシウムの粒径を制御し易くなる。
【0012】
本発明に係る炭酸ガスの処理方法の第4特徴手段は、前記カルシウム溶液のpHを10〜12.8の範囲に維持する点にある。
【0013】
本手段によれば、カルシウム溶液のpHを10〜12.8の範囲に維持することにより、生成する炭酸カルシウムの粒成長を抑制し、炭酸カルシウムの生成を促進させて、炭酸カルシウムの粒径を容易に制御することができる。
【0014】
本発明に係る炭酸ガスの処理方法の第5特徴手段は、前記カルシウム溶液のpHを7〜9の範囲に維持する点にある。
【0015】
本手段によれば、カルシウム溶液のpHを7〜9の範囲に維持することにより、生成する炭酸カルシウムの粒成長を促進させて、炭酸カルシウムの粒径を容易に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例で使用した炭酸ガス処理装置の概略図である。
【図2】カルシウム溶液のカルシウム濃度と炭酸カルシウムの粒径との関係を示すグラフである。
【図3】カルシウム溶液のpHとカルシウム濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る炭酸ガスの処理方法は、pH7以上のカルシウム溶液に炭酸ガスを接触させて、炭酸カルシウムを生成させる炭酸ガスの処理方法において、前記カルシウム溶液を、前記炭酸カルシウムの粒成長の促進・抑制がpHに依存するカルシウム濃度に維持すると共に、前記カルシウム溶液のpHを所定の範囲に維持して、前記炭酸カルシウムの粒成長を制御する。すなわち、本発明者らは、炭酸ガスを接触させるカルシウム溶液に着目し、カルシウム溶液のカルシウム濃度とpHとによって、生成する炭酸カルシウムの粒径が変化することを見出した。この方法によれば、カルシウム溶液のカルシウム濃度とpHとをそれぞれ所定の範囲に維持しながら炭酸ガスを接触させることにより、生成する炭酸カルシウムの粒径を制御することができる。また、炭酸ガスを処理すると共に、利用用途に応じた粒径の炭酸カルシウムを提供することができるため、炭酸カルシウムの付加価値が高まり、全体として処理コストを下げることができる。
【0018】
本発明における炭酸ガスは、純粋な炭酸ガスに限らず、炭酸ガスを含む気体であれば適用できる。例えば、液化天然ガス(LNG)・液化石油ガス(LP)等の気体燃料、ガソリン・軽油等の液体燃料、石炭等の固体燃料等を燃焼させて発生する燃焼排ガス等を炭酸ガスとして用いることができる。
【0019】
本発明に用いるカルシウム溶液は、特に限定されないが、例えば、キュポラスラグや高炉スラグ等のスラグを20〜500μm程度に粉砕し、酸または水に溶解させることで調製可能である。スラグは20〜100μmに粉砕して使用することが特に好ましい。スラグをこの程度まで粉砕するとカルシウム分が粉砕物の表面に現れるため、酸を用いなくても水によって好ましく溶解可能となる。もちろん、従来公知の水酸化カルシウム等のカルシウム化合物を添加することによってもカルシウム溶液は調製可能である。
【0020】
カルシウム溶液は、生成する炭酸カルシウムの粒成長にpH依存性が生じるカルシウム濃度に設定する。例えば、カルシウム溶液のカルシウム濃度は、1.0×10−8.3≦[Ca2+](mol/L)となるように設定することが好ましい。[Ca2+][CO2−]=Ksp=5.4×10−9であることから、カルシウム濃度を上記の濃度に設定すれば、CO2−の濃度に関わらず、炭酸カルシウムを析出させて生成させることができる。そして、この濃度において、カルシウム溶液のpHを調整すれば、炭酸カルシウムの粒径が制御し易くなる。尚、カルシウム濃度はスラグ等の溶解量によって調整することができる。
【0021】
カルシウム溶液のpHは、炭酸カルシウムの生成により低下するため、7以上の所定の範囲に維持する。例えば、生成する炭酸カルシウムの粒成長を抑え、粒子の生成を促進させる場合には、pHを10〜12.8の範囲に維持することが好ましい。炭酸カルシウムの粒成長を促進させる場合には、pHを7〜9の範囲に維持することが好ましい。また、カルシウム溶液のpHを10〜12.8の範囲から7〜9の範囲に変動させながら炭酸ガスを接触させれば、pHが10〜12.8の範囲では炭酸カルシウムの粒子の生成が促進され、pHが7〜9の範囲になると生成した炭酸カルシウムの粒成長が促進される。このため、pHを変動させる範囲を調整して炭酸カルシウムの粒成長を制御することで、求める粒径の炭酸カルシウムを生成させることができる。カルシウム溶液のpHは、スラグを溶解させることでpH7以上のアルカリ性となるため、スラグの溶解量を変えることで任意に調整可能である。もちろん、酸、アルカリ等の従来公知のpH調整剤を添加することによってpHを調製することもできる。炭酸カルシウムの生成に伴い、カルシウム溶液のpHが低下した場合には、スラグやカルシウム含有塩基性物質またはカルシウム含有物と塩基とを成分とする溶液(水酸化カルシウム等が例示される)等を添加することにより、pHを所定に範囲に維持することができる。pH調整剤を添加することによってもpHを所定の範囲に維持することはできるが、スラグやカルシウム含有塩基性物質またはカルシウム含有物と塩基とを成分とする溶液を添加すれば、同時にカルシウムを補充することもできる。尚、カルシウム溶液には、その他の各種添加剤や不純物等が混合されていても何ら構わない。
【0022】
炭酸ガスのカルシウム溶液への接触は、従来公知の方法により行うことができ、特に制限はない。例えば、カルシウム溶液に炭酸ガスをバブリングする(吹き込む)方法、カルシウム溶液と炭酸ガスとを同一容器に封入して振とうする方法等が挙げられる。また、炭酸ガスとして燃焼排ガス等を用いる場合には、カルシウム溶液と接触させる前に吸着フィルタ等を通過させて、塵埃、炭酸ガス以外のガス等を除去することもできる。尚。カルシウム溶液は、任意の温度で使用できるが、温度は高いほど炭酸ガスが溶け込み難くなるため、常温(5〜35℃)で使用することが好ましく、5〜25℃で使用することがより好ましい。
【0023】
本発明の炭酸ガスの処理方法により生成した炭酸カルシウムは、ろ過等の従来公知の方法によって回収することができる。回収した炭酸カルシウムは、例えば、製紙、顔料、塗料、プラスチック、ゴム、織編物等の産業において充填材として利用することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
炭酸ガスの処理は、図1に示す装置で行った。すなわち、反応容器1にカルシウム溶液を入れ、攪拌機2を用いて400rpmで攪拌しながら、炭酸ガスとして模擬燃焼排ガスをカルシウム溶液液中に導入してバブリングし、析出した炭酸カルシウムを調べた。炭酸ガスとカルシウム溶液との反応状況は、計測計7でカルシウム溶液の酸化還元電位及びpHを測定することにより調べた。導入後のカルシウム溶液に吸収されなかった炭酸ガスの濃度は、ガスクロマトグラフ8によって測定した。尚、9は逆流防止装置、3はカルシウム溶液の温度を調整する水浴槽である。
【0026】
カルシウム溶液は、蒸留水500mlに水酸化カルシウム(Ca(OH))を添加し、カルシウム(Ca)濃度、pHを調整し、室温で用いた。
【0027】
模擬燃焼排ガスは、炭酸ガス(CO)と窒素(N)ガスとの混合ガスを用いた。模擬燃焼排ガスは、炭酸ガスと窒素ガスとを、それぞれ流量調整器4,5で流量を調整し、混合装置6において所定の混合比で混合して供給する。
本実施例では、模擬燃焼排ガスを10vol%CO−90vol%Nに調整し、1リットル/分でカルシウム溶液に導入した。
【0028】
カルシウム溶液のpHを7〜9の範囲に維持した場合(以下、pH8と示す場合がある)とpHを10〜12.8(12.8は水酸化カルシウムの飽和溶解度に相当するpH)の範囲に維持した場合(以下、pH11と示す場合がある)とにおいて、カルシウム濃度(水酸化カルシウムの投入量)を変えて模擬燃焼排ガスを導入し、生成する炭酸カルシウムの粒径を調べた。その結果、図2に示すように、カルシウム濃度が0.001≦[Ca2+](mol/500mL)≦0.04においては、炭酸カルシウムの粒径は、それぞれのpHでカルシウム濃度に関わらず略一定であったが、pH8の方がpH11に比べて大きくなっていた。また、カルシウム濃度が0.04<[Ca2+](mol/500mL)≦0.2においては、いずれのpHもカルシウム濃度の増加に伴い、炭酸カルシウムの粒径が大きくなっており、カルシウム濃度が0.1mol/500mLの付近以降では、炭酸カルシウムの粒径はpH11の方がpH8よりも大きくなっていた。
したがって、カルシウム濃度が0.001≦[Ca2+](mol/500mL)≦0.04の時に炭酸カルシウムの粒成長の促進・抑制がpHに依存しており、pH8では粒成長が促進され、pH11では粒成長が抑制されて粒子の生成が優先されることが分かった。また、0.04<[Ca2+](mol/500mL)≦0.2の時には、炭酸カルシウムの粒成長の促進・抑制にpH依存性はなく、いずれのpHの場合も粒成長が促進されることが分かった。
【0029】
以上により、本実施例においては、カルシウム溶液のカルシウム濃度及びpHと、生成する炭酸カルシウムの粒径との関係は、図3に示す通りである。すなわち、炭酸カルシウムの粒成長の促進・抑制がpHに依存するカルシウム濃度は0.04mol/500mL以下であり、pH10を境に、pHが10〜12.8の場合のように大きくなると粒成長が抑制されると共に粒子の生成が優先され、pHが7〜9の場合のように小さくなると粒成長が促進される。尚、カルシウム濃度が0.04mol/500mLを越えた場合には、pHに関わらず粒成長が促進される。
このため、本実施例の条件においては、カルシウム濃度は、0.5×10−8.3≦[Ca2+](mol/500mL)≦0.04の範囲に維持することが好ましく、0.001≦[Ca2+](mol/500mL)≦0.04の範囲に維持することがより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の炭酸ガスの処理方法は、燃焼排ガス中の炭酸ガス等の処理に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH7以上のカルシウム溶液に炭酸ガスを接触させて、炭酸カルシウムを生成させる炭酸ガスの処理方法において、
前記カルシウム溶液を、前記炭酸カルシウムの粒成長の促進・抑制がpHに依存するカルシウム濃度に維持すると共に、前記カルシウム溶液のpHを所定の範囲に維持して、前記炭酸カルシウムの粒成長を制御する炭酸ガスの処理方法。
【請求項2】
前記カルシウム溶液に水酸化カルシウムを添加して、前記カルシウム溶液のpHを前記所定の範囲に維持する請求項1に記載の炭酸ガスの処理方法。
【請求項3】
前記カルシウム溶液のカルシウム濃度を1.0×10−8.3≦[Ca2+](mol/L)に維持する請求項1または2に記載の炭酸ガスの処理方法。
【請求項4】
前記カルシウム溶液のpHを10〜12.8の範囲に維持する請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭酸ガスの処理方法。
【請求項5】
前記カルシウム溶液のpHを7〜9の範囲に維持する請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭酸ガスの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−214303(P2010−214303A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64843(P2009−64843)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】