説明

炭酸ガスパルスアーク溶接方法

【課題】消耗電極式炭酸ガスパルスアーク溶接において、溶滴の形成及び離脱状態を安定化して、スパッタの少ない高品質溶接を可能とすること。
【解決手段】ピーク電流Ipを通電するピーク期間Tpとベース電流Ibを通電するベース期間Tbとを1パルス周期Tpbとして繰り返して溶接を行う炭酸ガスパルスアーク溶接方法において、ピーク期間Tp中はピーク電流Ipを振幅Ws及び振動周期Tsによって振動させることによって溶接ワイヤの先端に所望サイズの溶滴を形成し、ベース期間Tb中はこの形成された溶滴を短絡移行によって溶融池へと円滑に移行させる。これにより、ピーク期間Tp中に形成された溶滴が、ベース期間Tb中に短絡移行するので、1パルス周期1溶滴移行状態が実現できる。このために、スパッタの少ない溶接が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスを主成分とするシールドガスを使用する消耗電極式パルスアーク溶接において、安定した溶滴移行を行わせるための炭酸ガスパルスアーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルゴンガスを主成分とするシールドガスを用いる消耗電極式パルスアーク溶接が、広く使用されている。このアルゴンガスを主成分とするシールドガスとしては、母材が鉄鋼材料であるときは20体積%炭酸ガス+80体積%アルゴンガスが使用されており(マグパルス溶接)、母材がアルミニウム材料であるときは100体積%アルゴンガスが使用されている(ミグパルス溶接)。このようなアルゴンガスを主成分とするシールドガスを用いるパルスアーク溶接では、溶滴移行は溶接ワイヤの直径ほどの細粒となって周期的に安定して行われるスプレー移行状態となるために、スパッタ発生が少ない良好な溶接を行うことができる。以下に、アルゴンガスを主成分とするシールドガスを用いるパルスアーク溶接について説明する。
【0003】
図4は、アルゴンガスを主成分とするシールドガスを用いるパルスアーク溶接の一般的な電流・電圧波形図である。同図(A)はアークを通電する溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接ワイヤと母材との間の溶接電圧Vwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0004】
時刻t1〜t2のピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶接ワイヤ先端に溶滴を形成し移行させるために臨界電流値以上のピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、溶接ワイヤと母材との間にアーク長に比例したピーク電圧Vpが印加する。
【0005】
時刻t2〜t3のベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶滴を形成しないようにするために小電流値のベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが印加する。時刻t1〜t3までの期間をパルス周期Tpbとして繰り返して溶接が行われる。
【0006】
良好なパルスアーク溶接を行うためには、アーク長を適正値に維持することが重要である。アーク長を適正値に維持するために以下のような出力制御(アーク長制御)が行われる。アーク長は、同図(B)で破線で示す溶接電圧平均値Vavと略比例関係にある。このために、溶接電圧平均値Vavを検出し、この検出値が適正アーク長に相当する溶接電圧設定値と等しくなるように同図(A)の破線で示す溶接電流平均値Iavを変化させる出力制御を行う。溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値よりも大きいときはアーク長が適正値よりも長いときであるので、溶接電流平均値Iavを小さくしてワイヤ溶融速度を小さくしアーク長が短くなるようにする。逆に、溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値よりも小さいときはアーク長が適正値よりも短いときであるので、溶接電流平均値Iavを大きくしてワイヤ溶融速度を大きくしアーク長が長くなるようにする。上記の溶接電圧平均値Vavとしては、一般的に溶接電圧Vwを平滑した値が使用されることが多い。
【0007】
上記において、溶接電流平均値Iavを変化させるための溶接電源の出力制御としては、周波数変調制御及びパルス幅変調制御が主に使用されている。周波数変調制御では、ピーク電流Ip、ベース電流Ib及びピーク期間Tpを所定値に固定して、溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値と等しくなるようにベース期間Tbの長さが制御される。ベース期間Tbが変化することはパルス周期Tpbが変化することになるので、この方式は周波数変調制御と呼ばれる。また、パルス幅変調制御では、ピーク電流Ip、ベース電流Ib及びパルス周期Tpbを所定値に固定し、溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値と等しくなるようにピーク期間Tpの長さが制御される。
【0008】
次に、同図を参照して、溶滴移行について説明する。ピーク電流Ipの通電によって溶接ワイヤ先端が溶融されて溶滴が形成される。このときに、アルゴンガスを主成分とするシールドガスを使用しているので、アークの陽極点は溶滴下部に集中することなく溶滴全体に広く分布して形成される。このために、溶滴には押し上げ力が作用しない。形成された溶滴にピーク電流Ipが通電すると、溶滴上部に電磁的ピンチ力が作用してくびれが発生する。そして、ピーク期間Tpの終了前後(終了直前、終了時又は終了直後)において、溶滴は離脱して溶融池へと移行する。上記のピーク電流Ip及びピーク期間Tpの組み合わせはユニットパルス条件と呼ばれ、溶接ワイヤの直径ほどの溶滴が形成されて離脱する値に設定される。したがって、溶滴は溶接ワイヤの直径ほどの細粒としてピーク期間Tpごとにスプレー移行することになる。この状態を1パルス1溶滴移行状態と呼ぶ。このようにして、スパッタ発生が非常に少ない溶接が可能となる。
【0009】
上述したように、アルゴンガスを主成分とするシールドガスを用いるパルスアーク溶接では、1パルス1溶滴移行の安定したスプレー移行状態となる。ここで、アルゴンガスは炭酸ガスに比べてコスト高になるために、アルゴンガスの比率を少なくして炭酸ガスの比率を大きくすることによって、シールドガスのコストを削減する試みが従来からなされている。しかし、炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガスにおいて、炭酸ガスの比率が30体積%を超えると、以下に説明する理由によって安定したスプレー移行が次第に困難になる。特に、炭酸ガスの比率が50体積%を超える炭酸ガスを主成分とするシールドガスを使用する場合には、安定したスプレー移行状態にはならず、大粒のスパッタが発生することになる。これ以降の説明において、炭酸ガスを主成分とするシールドガスと記載したときは、炭酸ガスの比率が50体積%を超える混合ガスを意味している。炭酸ガスを主成分とするシールドガスを使用した場合、ピーク電流Ipの通電時にアークの陽極点は溶滴の最下部に集中して形成されることになる。これは、アルゴンガスに比べて炭酸ガスの電位傾度が大きいために、アーク長を最短にする作用が働くためである。この結果、陽極点の温度が著しく高い状態となり、金属蒸気が吹き出す状態となり、溶滴には押し上げ力として作用することになる。すなわち、ピーク電流Ipの通電によって、溶滴が形成されると共に、この押し上げ力が作用することになり、溶滴は簡単には離脱しない状態となる。この状態で、溶滴を強引に離脱させるためには、ピーク期間Tpを通常値よりも3〜5倍程度長くして、溶滴を大きく成長させて、重力によって離脱するようにする必要がある。しかし、このようにすると、溶滴は溶接ワイヤの直径の数倍程度の大きな塊になって離脱することになり、大粒のスパッタが発生することになる。さらに、この大きな溶滴は、ピーク電流Ipの通電とは同期することなくランダムに移行することになり、溶接状態が不安定状態になり、溶接品質も悪くなる。炭酸ガスを主成分とするシールドガスを用いるパルスアーク溶接(以下、炭酸ガスパルスアーク溶接という)における上記のような問題を解決するために、以下のような従来技術が提案されている。
【0010】
特許文献1の発明では、ピーク電流Ipの前半期間を後半期間よりも大きな値とし、右肩下がりのステップ状にしている。このようにすることによって、ピーク電流Ipの後半期間で溶滴を形成し、続くベース期間Tbによって溶滴を整形し、続くピーク電流Ipの前半期間によって溶滴を移行させるものである。また、特許文献2〜4の発明では、ピーク電流Ipを複数のピーク電流群として通電し、溶滴の形成を安定化して移行しやすくするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60−56486号公報
【特許文献2】特開昭61−17369号公報
【特許文献3】特開平1−254385号公報
【特許文献4】特開2007−237270号公報
【特許文献5】特開2006−116546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、炭酸ガスパルスアーク溶接において、溶滴の形成及び離脱を改善するために、特許文献1〜4で示すような様々な提案がなされてきた。しかしながら、現時点においても、炭酸ガスパルスアーク溶接は実用化されているとは言えず、炭酸ガスパルスアーク溶接用の溶接装置も販売されていない。このことは、特許文献1〜4で提案されている改善を実施しても、なお課題が存在することを示している。
【0013】
特許文献1の発明によれば、前半期間のピーク電流によって溶滴の移行確率は高くはなるが、依然として溶滴の移行はピーク電流と同期することなくランダムに発生することが多い。これは、前半期間のピーク電流の値を大きくすることによって、溶滴上部にくびれを形成して離脱を促進するが、他方、押し上げ力も大きくなるために溶滴が確実に離脱することにはならないためである。また、特許文献2〜4の発明によれば、ピーク電流を複数のピーク電流群として通電することによって、溶滴の形成を円滑にすることができる。これは、連続したピーク電流を通電するよりも、複数のピーク電流群にして通電する方が、溶滴に作用する押し上げ力を分散することができるために、溶滴の形成は円滑になる。しかしながら、この形成された溶滴をピーク電流によって離脱させるためには、溶滴の上部にくびれを形成する必要があり、このときに同時に押し上げ力も作用することになる。この結果、複数のピーク電流群の通電によっても溶滴を確実に離脱させることは困難である。したがって、特許文献2〜4の発明では、溶滴の形成は改善されるが、確実な溶滴の離脱に課題を残している。
【0014】
ここで、鉄鋼材料の直流炭酸ガスアーク溶接について考えると、平均溶接電流値が約200A未満の電流域では、溶滴は短絡移行となる。すなわち、周期的にアーク期間と短絡期間とが繰り返されることになり、アーク期間中に形成された溶滴が短絡期間中に移行することになる。この短絡期間中の溶接電流を精密に制御することによって、スパッタの発生を少ない状態にすることができる。但し、アルゴンガスを主成分とするシールドガスを用いるパルスアーク溶接(マグパルス溶接又はミグパルス溶接)の方が、さらにスパッタの発生を少なくすることができる。しかしながら、この電流域においては、炭酸ガスアーク溶接のスパッタの発生量は実用上問題とはならないレベルであると言える。平均溶接電流値が約200A以上の電流域になると、アーク長が長いときはグロビュール移行となり、溶滴は重力によって短絡を伴うことなく自由落下によって移行する。このために、スパッタの発生は少ない。この電流域において、溶接速度が80cm/min以上の高速溶接を行うためには、アンダーカット等の溶接欠陥を防ぐために、アーク長を短く設定して溶接を行う必要がある。アーク長を短くすると、溶滴が短絡を伴って移行する状態となる。しかも、短絡が生じるタイミングがランダムであるために、溶滴のサイズも大小様々な大きさになり、不規則な溶滴移行状態になるために大粒のスパッタが多く発生することになる。したがって、200A以上の電流域において、高速溶接を行う場合には、アルゴンガスを主成分とするシールドガスを用いるパルスアーク溶接を行うことによって、スパッタの発生を少なくすることができる。
【0015】
上記のことから、炭酸ガスを主成分とするシールドガスを用いて溶接を行い、スパッタの発生を少なくしたい溶接条件とは、特に、200A以上の電流域において高速溶接を行う場合であることになる。そこで、本発明の目的は、200A以上の電流域での高速溶接において、炭酸ガスパルスアーク溶接の溶滴移行状態を改善することによって、炭酸ガスアーク溶接時よりもスパッタ発生量を少なくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、炭酸ガスを主成分とするシールドガスを使用し、溶接ワイヤを送給すると共に、ピーク電流を通電するピーク期間とベース電流を通電するベース期間とを1パルス周期として繰り返して溶接を行う炭酸ガスパルスアーク溶接方法において、
前記ピーク期間中は前記ピーク電流を定電流制御し、かつ、前記ピーク電流を振動させることによって溶接ワイヤの先端に溶滴を形成し、
前記ベース期間中はこの形成された溶滴を短絡移行によって溶融池へと移行させ、
前記ベース期間中の溶接電圧を定電圧制御することによってアーク長制御を行う、
ことを特徴とする炭酸ガスパルスアーク溶接方法である。
【0017】
請求項2の発明は、前記振動するピーク電流の振幅及び振動周期は、溶滴の過熱を抑制して形成中の溶滴からスパッタが飛散しない値に設定される、
ことを特徴とする請求項1記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法である。
【0018】
請求項3の発明は、前記振動するピーク電流の波形が、矩形波状である、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法である。
【0019】
請求項4の発明は、前記ピーク期間は溶接ワイヤの送給速度に応じて設定される期間である、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法である。
【0020】
請求項5の発明は、前記ベース期間は、短絡移行が行われるまで継続される期間である、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法である。
【0021】
請求項6の発明は、前記ベース期間は、短絡が発生するまでの短絡待機期間と、それに続く溶滴が短絡移行する短絡期間と、から形成され、
前記短絡待機期間中はアーク負荷によって定まる第1ベース電流を通電し、前記短絡期間中は前記第1ベース電流の値から時間経過に伴って次第に増加する第2ベース電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法である。
【0022】
請求項7の発明は、前記ベース期間は、短絡が発生するまでの短絡待機期間と、それに続く溶滴が短絡移行する短絡期間と、それに続くアークが再発生した後に再び短絡が発生することを防止する予め定めた再短絡防止期間と、から形成され、
前記短絡待機期間中はアーク負荷によって定まる第1ベース電流を通電し、前記短絡期間中は前記第1ベース電流の値から時間経過に伴って次第に増加する第2ベース電流を通電し、前記再短絡防止期間中は前記第1ベース電流の値よりも大きな値の第3ベース電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法である。
【0023】
請求項8の発明は、前記ベース期間は、短絡が発生するまでの短絡待機期間と、それに続く溶滴が短絡移行する短絡期間と、それに続く予め定めた遅延期間と、から形成され、
前記短絡待機期間中はアーク負荷によって定まる第1ベース電流を通電し、前記短絡期間中は前記第1ベース電流の値から時間経過に伴って次第に増加する第2ベース電流を通電し、前記遅延期間中は前記短絡期間の終了時点での前記第2ベース電流の値よりも小さな値の第4ベース電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法である。
【0024】
請求項9の発明は、前記ベース期間は、短絡が発生するまでの短絡待機期間と、それに続く溶滴が短絡移行する短絡期間と、それに続くアークが再発生した後に再び短絡が発生することを防止する予め定めた再短絡防止期間と、それに続く予め定めた遅延期間と、から形成され、
前記短絡待機期間中はアーク負荷によって定まる第1ベース電流を通電し、前記短絡期間中は前記第1ベース電流の値から時間経過に伴って次第に増加する第2ベース電流を通電し、前記再短絡防止期間中は前記第1ベース電流の値よりも大きな値の第3ベース電流を通電し、前記遅延期間中は前記短絡期間の終了時点での前記第2ベース電流の値よりも小さな値の第4ベース電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、炭酸ガスを主成分とするシールドガスを用いる炭酸ガスパルスアーク溶接方法において、ピーク期間とベース期間とを設け、ピーク期間中のピーク電流を振動させることによって溶滴を略所望サイズに形成し、この形成された溶滴をベース期間において短絡移行させることができる。このために、1パルス周期1溶滴移行状態を実現することができるので、スパッタの発生の少ない高品質な溶接が可能となる。特に、200A以上の電流域での高速溶接時において、直流の炭酸ガスアーク溶接方法よりもスパッタの発生を抑制することができ、ビード外観も改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る炭酸ガスパルスアーク溶接方法を示す電流・電圧波形図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る送給速度に対するピーク期間Tpの適正値を例示する図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る炭酸ガスパルスアーク溶接方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【図4】従来のパルスアーク溶接方法の電流・電圧波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施の形態に係る炭酸ガスパルスアーク溶接方法を示す電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。同図は、炭酸ガスを主成分とするシールドガスを用いる炭酸ガスパルスアーク溶接方法の場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0029】
本発明の実施の形態に係る炭酸ガスパルスアーク溶接方法では、時刻t1〜t3のパルス周期Tpbが2つの期間から形成されている。1つ目は時刻t1〜t2のベース期間Tbであり、2つ目は時刻t2〜t3のピーク期間Tpである。したがって、ベース期間Tbとピーク期間Tpとを1パルス周期Tpbとして、繰り返して溶接が行われる。ベース期間Tbにおいて溶滴は短絡移行し、ピーク期間Tpにおいて溶滴が形成される。ピーク期間Tpは、略一定サイズの溶滴を形成するように予め適正値に設定される。このピーク期間Tp中は、溶接電源の出力は定電流制御されるために、ピーク電流Ipの値を直接制御することができる。ベース期間Tb中は、ピーク期間Tp中に形成された溶滴が短絡移行するまで継続する期間であり、毎周期ごとに異なる値となる。このベース期間Tb中の溶接電源の出力は定電圧制御される。これは、一般的な消耗電極アーク溶接のときと同様に、出力を定電圧制御することでアーク長制御を行うためである。したがって、ベース電流Ibの値は、直接制御することはできず、アーク負荷によって定まる値となる。以下、各期間について詳細に説明する。
【0030】
(1)ベース期間Tb(短絡移行期間)
前の期間のピーク期間Tp中に溶滴が形成された状態にある。そして、同図(A)に示すように、時刻t1からアーク負荷によって定まる第1ベース電流Ib1が通電する。溶接ワイヤの送給速度に対応して定常状態での溶接電流平均値は定まるので、送給速度が一定値であれば溶接電流平均値も一定値と見なすことができる。ピーク電流Ipは大きな値に設定されるので、溶接電流平均値が一定値であるためには、相対的にベース電流Ibは小さな値となる。したがって、上記の第1ベース電流Ib1の値もピーク電流Ipの平均値よりも小さな値となる。溶接電圧Vwは、同図(B)に示すように、ベース電圧値Vbとなる。この状態で、溶接ワイヤは所定の一定速度で溶融池へと送給されており、上記の第1ベース電流Ib1が小電流値であるので、送給速度が溶融速度よりも速くなり、ワイヤ先端は次第に溶融池へと近づくことになる。そして、時刻t11において、ワイヤ先端の溶滴が溶融池と接触して短絡状態になると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値に急降下する。この短絡状態を溶接電圧Vwの変化によって判別すると、同図(A)に示すように、上記の第1ベース電流Ib1の値から時間経過に伴って次第に増加する第2ベース電流(短絡電流)Ib2を通電して短絡状態が解除されるようにする。時刻t11〜t12の短絡期間において、溶滴は短絡移行し、時刻t12において、アークが再発生する。アークが再発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数十V程度のアーク電圧値に急上昇する。アークの再発生を溶接電圧Vwの変化によって判別すると、同図(A)に示すように、時刻t12〜t13の予め定めた再短絡防止期間Th中は上記の第1ベース電流Ib1の値よりも大きな値の第3ベース電流Ib3を通電する。この第3ベース電流Ib3の通電によって、アーク再発生直後に再び短絡が発生することを防止している。すなわち、アーク再発生時点では、ワイヤ先端と溶融池とは接近した距離にあるために、溶接条件(溶接ワイヤの種類、送給速度、開先計上、溶接速度等)によっては溶融池の少しの振動によって、再短絡が発生しやすい状態にある。再短絡が発生すると、スパッタが発生し、かつ、溶接状態も不安定になる。この再短絡の発生を防止するために、アークが再発生すると大きな値の第3ベース電流Ib3を通電することによって、溶融池へのアーク力を強くして溶融池を押し下げて、ワイヤ先端と溶融池との距離を長くすることで再短絡を防止している。第3ベース電流Ib3は、時刻t12においてアークが再発生した時点での電流から緩やかに減少するように制御することで、大きな値を維持するようにしている。上記の再短絡防止期間Thは、0.5〜3ms程度の範囲に設定される。溶接条件に応じてこの再短絡防止期間Thは、適正化することが望ましい。
【0031】
そして、同図(A)に示すように、上記の再短絡防止期間Thが終了する時刻t13から予め定めた遅延期間Tdが経過した時刻t2においてピーク期間Tpへと遷移する。この時刻t13〜t2の遅延期間Td中は、同図(A)に示すように、上記短絡期間の終了時点での上記の第2ベース電流の値よりも小さな値の第4ベース電流Ib4が通電し、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはベース電圧Vbとなる。この遅延期間Tdは、0.5〜3ms程度の範囲で設定される。この遅延期間Tdを設ける理由は、アーク再発生後に小電流値の第4ベース電流Ib4を通電することによって、溶融池へのアーク力を弱くして溶融池表面を平坦にするためである。これにより、大電流値のピーク電流Ipが通電を開始したときの溶融池からのスパッタを減少させることができる。
【0032】
このベース期間Tb中の溶滴移行について説明すると、以下のようになる。前のピーク期間Tp中において、溶滴は後述するように略一定サイズに形成される。そして、時刻t1〜t11の短絡待機期間中は小電流値の第1ベース電流Ib1を通電するので、溶滴には持ち上げ力はあまり作用せず重力及び表面張力が作用してその形状が球形状に整形される。また、小電流値の第1ベース電流Ib1が通電した状態で、時刻11において短絡が発生するために、短絡発生時のスパッタの発生は少なくなる。同時に、溶滴は整形された状態で溶融池に接触するので、円滑に溶融池と一体となる。したがって、溶滴は短絡移行状態になるために、短絡期間中の第2ベース電流Ib2の値をそれほど大きくするまでもなく、円滑に移行してアークが再発生する。このアーク再発生時に少しのスパッタが発生するが、円滑な短絡移行であるために、その量は多くなく、実用的に問題になるレベルではない。
【0033】
上記の短絡待機期間は溶滴が溶融池に短絡するまでの期間であるので、一定値ではなく溶接状態によって刻々と変化する値である。同様に、上記の短絡期間は溶滴が溶融池と短絡してから移行を完了してアークが再発生するまでの期間であるので、一定値ではなく溶滴移行状態によって変化する値である。但し、安定した溶接状態にある場合には、この短絡期間のバラツキは小さい。上記の再短絡防止期間Th及び上記の遅延期間Tdは、予め定められた一定値である。したがって、これらの期間の合算期間であるベース期間Tbは、一定値ではなく溶接状態によって変化する値である。但し、安定した溶接状態においては、ベース期間Tbは略一定値と見なすことができる。ベース期間Tb中のベース電流Ibは、上記の第1ベース電流Ib1〜第4ベース電流Ib4から形成されることになる。上記の再短絡防止期間Th及び遅延期間Tdは、溶接条件に応じて設けるか否かを設定することができる。これは、溶接条件によっては、それぞれの期間を設けた方がスパッタの減少等の効果を奏する場合があるためである。逆に、これらの期間を設けてもスパッタの減少等の効果を奏しない溶接条件も存在する。したがって、溶接条件に応じて、以下のような4つのパターンから1つのパターンを選択して、ベース期間Tbを形成するようにすれば良い。
(a)短絡待機期間+短絡期間
(b)短絡待機期間+短絡期間+再短絡防止期間Th
(c)短絡待機期間+短絡期間+遅延期間Td
(d)短絡待機期間+短絡期間+再短絡防止期間Th+遅延期間Td
【0034】
(2)時刻t2〜t3のピーク期間Tp(溶滴形成期間)
時刻t2〜t3のピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、振動するピーク電流Ipを通電し、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwはそれに対応した振動するピーク電圧Vpとなる。ピーク電流Ipの振動波形は、同図(A)に示すように、時刻t2〜t21に示す高ピーク期間HTp中は高ピーク電流HIpとなり、続く時刻t21〜t22の低ピーク期間LTp中は低ピーク電流LIpとなる。高ピーク期間HTpと低ピーク期間LTpとの合算期間が振動周期Tsとなる。また、高ピーク電流HIpと低ピーク電流LIpとの差(HIp−LIp)が振幅Wsとなる。さらに、デューティDs=HTp/Tsとなる。したがって、ピーク電流Ipは、振幅Ws及び振動周期Tsで振動していることになる。溶接ワイヤが直径1.2mmの軟鋼ワイヤであるときの各値の範囲の例は、以下のとおりである。高ピーク電流HIp:350〜500A、振幅Ws:200〜400A、振動周期Ts:1.5〜3.0ms、デューティDs:0.5〜0.75である。同図においては、ピーク電流Ipは矩形波状に振動している場合を例示したが、台形波状、三角波状、正弦波状、ノコギリ波状等に振動しても良い。ピーク電流Ipを振動させる理由は、以下のとおりである。すなわち、ピーク電流Ipを振動させずに連続して通電すると、溶滴の形成と共に溶滴の温度が過熱されることになり、溶滴に含まれるガスが膨張して溶滴が破裂する現象が生じるようになる。この破裂現象が生じると、溶滴からスパッタが飛散するようになり、かつ、溶滴の形成も阻害されることになる。ピーク電流Ipを適正な振幅Ws及び振動周期Tsで振動させると、溶滴の過熱を抑制することができ、所望サイズの溶滴を形成することができる。所望サイズの溶滴とは、溶接ワイヤの直径の1.5〜2.5倍程度のサイズである。したがって、振幅Ws及び振動周期Tsは、溶滴が過熱されずに、溶滴からスパッタが飛散しない値に設定される。両値は、溶接ワイヤの材質、直径、シールドガスの種類、送給速度等に応じて適正値に設定される。このピーク期間Tpによって、略所望サイズの溶滴が形成されることになる。
【0035】
ピーク期間Tpの長さは、上述したように、溶接条件(溶接ワイヤの材質、直径及び送給速度)に応じて適正値に設定される。この適正値は、各溶接条件において溶接実験を行い、ピーク期間Tp中に形成される溶滴が安定して略同一サイズになるように選定される。図2は、送給速度に対するピーク期間Tpの適正値を例示する図である。同図の横軸は送給速度(m/min)を示し、縦軸はピーク期間Tp(ms)を示す。同図は、溶接ワイヤに直径1.2mmの軟鋼ワイヤを使用した場合である。同図に示すように、送給速度が速くなるのに伴い、ピーク期間Tpも長くなっている。これは、送給速度が速くなると、ピーク期間Tp中に形成する溶滴サイズが大きくなるようにピーク期間Tpを長くして、送給速度と溶融速度とのバランスを取っているからである。
【0036】
上述した本発明の実施の形態に係る炭酸ガスパルスアーク溶接方法の溶滴移行について整理すると、以下のようになる。
(1)ピーク期間Tp中は、ピーク電流Ipを振動させることによって、溶滴への過熱を抑制して溶滴からのスパッタの発生を防止することができる。ピーク期間Tpの長さは、溶接条件に応じて適正値に設定されている。このために、所望サイズの溶滴を安定して形成することができる。
(2)ベース期間Tb中は、小電流値の第1ベース電流Ib1を通電することによって、溶接ワイヤ先端の溶滴を溶融池との短絡に導く。そして、溶滴は短絡移行することになる。小電流値の第1ベース電流Ib1で短絡が発生するために、短絡発生時のスパッタの発生は少ない。また、略一定サイズの溶滴が短絡移行するので、円滑に移行が行われることになり、アーク再発生時のスパッタの発生も実用上問題になるほどの量ではない。
(3)上記(1)及び(2)の動作によって、パルス周期Tpbごとに同期して1つの溶滴が移行することになる。すなわち、1パルス周期1溶滴移行状態が実現していることになり、安定した溶接状態になる。このために、溶接状態が不安定になりやすい200A以上の電流域での高速溶接時においても、スパッタの発生が少ない高品質な溶接を行うことが可能となる。
【0037】
図1の波形における各パラメータの数値例を以下に示す。溶接ワイヤ:直径1.2mmの軟鋼ワイヤ、平均溶接電流値:220A、送給速度(設定値):7m/min、短絡待機期間の第1ベース電流Ib1:100A、再短絡防止期間Th(設定値):1ms、遅延期間Td(設定値):1ms、第4ベース電流Ib4:100A、高ピーク電流値HIp(設定値):450A、振幅Ws(設定値):350A、振動周期Ts(設定値):2.0ms、デューティDs(設定値):1.5/2.0=0.75、ピーク期間Tp(設定値):9.5msとなる。(設定値)との記載は、予め適正値に設定される値であることを示している。逆に、(設定値)と記載していない値は、測定値であり、変化する値であることを示している。
【0038】
図3は、図1で上述した本発明の実施の形態に係る炭酸ガスパルスアーク溶接方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0039】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御による出力制御を行い、アーク溶接に適した溶接電流Iw及び出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、例えば、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流器、上記の誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行いこの結果に基づいて上記のインバータ回路を駆動する駆動回路から成る。リアクトルWLは、鉄芯にケーブルを巻いたものであり、Lw(μH)のインダクタンス値を有しており、上記の電源主回路PMの出力を平滑する。電源主回路PMから出力される電圧が出力電圧Eとなり、リアクトルWLを通った後の電圧が溶接電圧Vwとなる。したがって、溶接電圧Vwは、溶接ワイヤ1と母材2との間の電圧となる。溶接ワイヤ1はワイヤ送給装置(図示は省略)の送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給され、母材2との間にアーク3が発生する。
【0040】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、この溶接電圧検出信号Vdを入力として、その値によって短絡状態を判別してHighレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。ピーク期間設定回路TPRは、予め定めたピーク期間設定信号Tprを出力する。このピーク期間設定信号Tprは、上述したように、溶接条件に応じて適正値に設定される。再短絡防止期間設定回路THRは、予め定めた再短絡防止期間設定信号Thrを出力する。遅延期間設定回路TDRは、予め定めた遅延期間設定信号Tdrを出力する。期間切換制御回路STは、上記のピーク期間設定信号Tpr、上記の再短絡防止期間設定信号Thr、上記の遅延期間設定信号Tdr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、ピーク期間設定信号Tprによって定まる期間が終了するとその値が1(短絡待機期間)に変化し、この期間中に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡状態)になるとその値が2(短絡期間)になり、その後に短絡判別信号SdがLowレベル(アーク発生状態)になるとその時点から再短絡防止期間設定信号Thrによって定まる期間中はその値が3(再短絡防止期間Th)となり、続いて遅延期間設定信号Tdrによって定まる期間中はその値が4(遅延期間Td)となり、続いてピーク期間設定信号Tprによって定まる期間中はその値が5(ピーク期間Tp)になる、期間切換制御信号Stを出力する。この期間切換制御信号Stは、図1において、時刻t1〜t2の短絡待機期間中は1となり、時刻t11〜t12の短絡期間中は2となり、時刻t12〜t13の再短絡防止期間Th中は3となり、時刻t13〜t2の遅延期間Td中は4となり、時刻t2〜t3のピーク期間Tp中は5となる。
【0041】
電子リアクトル制御回路ERCは、上記の期間切換制御信号St及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、期間切換制御信号Stが2(短絡期間)又は3(再短絡防止期間)のときは溶接電流検出信号Idを微分して予め定めた増幅率Lrを乗じて電流微分信号Bi=Lr・dId/dtを出力し、期間切換制御信号Stがそれ以外の値のときは電流微分信号Bi=0として出力する。この増幅率Lrは正の値であり、電子制御によって形成されるリアクトルのインダクタンス値を決める定数である。したがって、この増幅率Lrは、後述するように、短絡期間の溶接電流の増加率及び再短絡防止期間Th中の溶接電流の減少率を決めることになる。出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。減算回路SUBは、この出力電圧設定信号Erから上記の電流微分信号Biを減算して、電圧制御設定信号Ecr=Er−Biを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出して出力電圧検出信号Edを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧制御設定信号Ecrとこの出力電圧検出信号Edとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。この電子リアクトル制御は、特許文献5に示すように、従来から広く使用されている技術である。その概要は、以下のとおりである。図1に示す時刻t11〜t12の短絡期間になると、負荷状態が短絡負荷になり定電圧制御されているために、溶接電流Iwは急速に増加する。このときに、増幅率Lr>0、dId/dt>0であるので、電流微分信号Bi>0となる。この結果、電圧制御設定信号Ecr=Er−Biは、出力電圧設定信号Erよりも電流微分信号Biの値だけ小さな値となり、溶接電流Iwの増加速度を緩やかにすることになる。時刻t12〜t13の再短絡防止期間Thになると、負荷状態がアーク負荷になるので、溶接電流Iwは減少する。このときも、電子リアクトル制御によって溶接電流Iwは緩やかに減少することになる。この結果、再短絡防止期間Th中の上記の第3ベース電流Ib3は、アーク再発生時の大きな値の電流を略維持することになる。時刻t13の遅延期間Tdになると、電子リアクトル制御の動作は禁止されるので、溶接電流Iwは急減して小さな値の第4ベース電流Ib4となる。この電子リアクトル制御では、電子的にLr(μH)のインダクタンス値を有するリアクトルを形成することになる。したがって、上記のリアクトルWLのインダクタンス値Lwと合算して、溶接電源はLw+Lrのインダクタンス値を有する等価リアクトルを内蔵していることになる。例えば、Lw=30μH、Lr=200μHに設定される。Lwが小さな値であるのは、ピーク電流Ipの変化を速くした方が溶接状態を安定化できるためである。他方、短絡期間及び再短絡防止期間Th中は、溶接電流Iwの変化を緩やかにした方が溶接状態を安定化させることができるので、大きな値のLrを形成するための電子リアクトル制御を動作させている。
【0042】
高ピーク電流設定回路HIPRは、予め定めた高ピーク電流設定信号HIprを出力する。振幅設定回路WSRは、予め定めた振幅設定信号Wsrを出力する。振動周期設定回路TSRは、予め定めた振動周期設定信号Tsrを出力する。デューティ設定回路DSRは、予め定めたデューティ設定信号Dsrを出力する。ピーク電流設定回路IPRは、上記の高ピーク電流設定信号HIpr、上記の振幅設定信号Wsr、上記の振動周期設定信号Tsr、上記のデューティ設定信号Dsr及び上記の期間切換制御信号Stを入力として、期間切換制御信号St=5(ピーク期間Tp)に変化した時点から同期して振動を開始する図1に示すような矩形波状のピーク電流設定信号Iprを出力する。電流誤差増幅回路EIは、このピーク電流設定信号Iprと上記の溶接電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。切換回路SWは、上記の期間切換制御信号St、上記の電流誤差増幅信号Ei及び上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、期間切換制御信号St=1〜4(ベース期間Tb)のときはa側に切り換わり電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力し、St=5(ピーク期間Tp)のときはb側に切り換わり電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。これにより、ピーク期間Tp中は定電流制御となり、ベース期間Tb中は定電圧制御となる。そして、上述した回路構成によって、図1の溶接電流Iwが通電し、溶接電圧Vwが出力される。
【0043】
上述した実施の形態によれば、炭酸ガスを主成分とするシールドガスを用いる炭酸ガスパルスアーク溶接方法において、ピーク期間とベース期間とを設け、ピーク期間中のピーク電流を振動させることによって溶滴を略所望サイズに形成し、この形成された溶滴をベース期間において短絡移行させることができる。このために、1パルス周期1溶滴移行状態を実現することができるので、スパッタの発生の少ない高品質な溶接が可能となる。特に、200A以上の電流域での高速溶接時において、直流の炭酸ガスアーク溶接方法よりもスパッタの発生を抑制することができ、ビード外観も改善することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
Bi 電流微分信号
E 出力電圧
Ecr 電圧制御設定信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ERC 電子リアクトル制御回路
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
HIp 高ピーク電流
HIPR 高ピーク電流設定回路
HIpr 高ピーク電流設定信号
HTp 高ピーク期間
Iav 溶接電流平均値
Ib ベース電流
Ib1 第1ベース電流
Ib2 第2ベース電流
Ib3 第3ベース電流
Ib4 第4ベース電流
ID 電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Ip ピーク電流
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
Iw 溶接電流
LIp 低ピーク電流
LTp 低ピーク期間
PM 電源主回路
Sd 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
Spb パルス周期信号
ST 期間切換制御回路
St 期間切換制御信号
SUB 減算回路
SW 切換回路
Tb ベース期間
Td 遅延期間
TDR 遅延期間設定回路
Tdr 遅延期間設定信号
Th 再短絡防止期間
THR 再短絡防止期間設定回路
Thr 再短絡防止期間設定信号
Tp ピーク期間
Tpb パルス周期
Ts 振動周期
TSR 振動周期設定回路
Tsr 振動周期設定信号
Vb ベース電圧
VD 電圧検出回路
vd 溶接電圧検出信号
Vp ピーク電圧
Vw 溶接電圧
Ws 振幅
WSR 振幅設定回路
Wsr 振幅設定信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスを主成分とするシールドガスを使用し、溶接ワイヤを送給すると共に、ピーク電流を通電するピーク期間とベース電流を通電するベース期間とを1パルス周期として繰り返して溶接を行う炭酸ガスパルスアーク溶接方法において、
前記ピーク期間中は前記ピーク電流を定電流制御し、かつ、前記ピーク電流を振動させることによって溶接ワイヤの先端に溶滴を形成し、
前記ベース期間中はこの形成された溶滴を短絡移行によって溶融池へと移行させ、
前記ベース期間中の溶接電圧を定電圧制御することによってアーク長制御を行う、
ことを特徴とする炭酸ガスパルスアーク溶接方法。
【請求項2】
前記振動するピーク電流の振幅及び振動周期は、溶滴の過熱を抑制して形成中の溶滴からスパッタが飛散しない値に設定される、
ことを特徴とする請求項1記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法。
【請求項3】
前記振動するピーク電流の波形が、矩形波状である、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法。
【請求項4】
前記ピーク期間は溶接ワイヤの送給速度に応じて設定される期間である、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法。
【請求項5】
前記ベース期間は、短絡移行が行われるまで継続される期間である、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法。
【請求項6】
前記ベース期間は、短絡が発生するまでの短絡待機期間と、それに続く溶滴が短絡移行する短絡期間と、から形成され、
前記短絡待機期間中はアーク負荷によって定まる第1ベース電流を通電し、前記短絡期間中は前記第1ベース電流の値から時間経過に伴って次第に増加する第2ベース電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法。
【請求項7】
前記ベース期間は、短絡が発生するまでの短絡待機期間と、それに続く溶滴が短絡移行する短絡期間と、それに続くアークが再発生した後に再び短絡が発生することを防止する予め定めた再短絡防止期間と、から形成され、
前記短絡待機期間中はアーク負荷によって定まる第1ベース電流を通電し、前記短絡期間中は前記第1ベース電流の値から時間経過に伴って次第に増加する第2ベース電流を通電し、前記再短絡防止期間中は前記第1ベース電流の値よりも大きな値の第3ベース電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法。
【請求項8】
前記ベース期間は、短絡が発生するまでの短絡待機期間と、それに続く溶滴が短絡移行する短絡期間と、それに続く予め定めた遅延期間と、から形成され、
前記短絡待機期間中はアーク負荷によって定まる第1ベース電流を通電し、前記短絡期間中は前記第1ベース電流の値から時間経過に伴って次第に増加する第2ベース電流を通電し、前記遅延期間中は前記短絡期間の終了時点での前記第2ベース電流の値よりも小さな値の第4ベース電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法。
【請求項9】
前記ベース期間は、短絡が発生するまでの短絡待機期間と、それに続く溶滴が短絡移行する短絡期間と、それに続くアークが再発生した後に再び短絡が発生することを防止する予め定めた再短絡防止期間と、それに続く予め定めた遅延期間と、から形成され、
前記短絡待機期間中はアーク負荷によって定まる第1ベース電流を通電し、前記短絡期間中は前記第1ベース電流の値から時間経過に伴って次第に増加する第2ベース電流を通電し、前記再短絡防止期間中は前記第1ベース電流の値よりも大きな値の第3ベース電流を通電し、前記遅延期間中は前記短絡期間の終了時点での前記第2ベース電流の値よりも小さな値の第4ベース電流を通電する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73022(P2011−73022A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225699(P2009−225699)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】