説明

炭酸水中に有機化合物を溶解させること、および凍結乾燥させることを含む精製方法

【課題】
【解決手段】前記化合物を炭酸水に溶解させて溶液を生じること、および、前記溶液を凍結乾燥することを含む未精製の有機化合物の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化学化合物、特にある神経筋遮断薬、特に臭化ロクロニウム(rocuronium bromide)の、前記化合物を炭酸水溶液から凍結乾燥することによる精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経筋遮断薬は、筋肉弛緩薬であり、筋肉弛緩活性を有する。これらの薬は、骨格神経筋接合部において神経インパルスの伝達を中断し、骨格筋収縮を終了させることが知られている。
【0003】
神経筋遮断薬は、常に麻酔において用いられており、随意筋運動または反射筋運動に妨げられることなく、例えば、気管内挿管を可能にし、機械的呼吸を容易にし(例えば、声帯、顎筋等の弛緩)、手術を容易にし(例えば、全身の筋弛緩を生じ)、体腔(特に腹部および胸部)へ外科的接近を可能にする。前記薬はまた、電気痙攣療法治療および痙攣状況下での手術に関連する強烈な筋運動を防ぐ。典型的には、適切な剤形を注射することにより、静脈内に投与を行うことができる。
【0004】
臨床的に用いられている神経筋遮断薬の大部分は、「非脱分極性」であり、これらには、ツボクラリン、アトラクリウム、(シス)アトラクリウム、ミバクリウム、パンクロニウム、ベクロニウム、ラパクロニウムおよびロクロニウムを含む。非脱分極性神経筋遮断薬は、筋肉nAChRsへ結合するのにアセチルコリンと競合するが、脱分極性神経筋遮断薬とは異なり、チャンネルを活性化させない。むしろ、非脱分極性神経筋遮断薬は、アセチルコリンにより前記チャンネルの活性化をブロックし、故に細胞膜脱分極を予防し、その結果、筋肉は弛緩する。
【0005】
1−[(2.ベータ.,3.アルファ.,5.アルファ.,16.ベータ.,17.ベータ.)−17−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−(4−モルホリニル)−アンドロスタン−16−イル−]−1−(2−プロペニル)ピロリジウムブロマイド(または臭化ロクロニウムの名前でも知られている)は、以下のようなステロイド骨格を有する神経筋遮断薬である。
【0006】
【化1】

【0007】
臭化ロクロニウムは現在、北米において商標名ゼムロンRTM(Zemuron.RTM)で、他の場所では商標名エスメロンRTM(Esmeron.RTM.)の下、市販されており、1994年以来、非脱分極性神経筋遮断薬として臨床研修において用いられてきた。用量および中間の持続時間に応じて、著しく急速な、ただし制御可能な発現で知られている。臭化ロクロニウムは、患者には全身麻酔の添加物として示され、迅速連続的な気管挿管と常用の気管挿管の両方を容易にし、手術または機械的呼吸の間の骨格筋弛緩を生じさせる。
【0008】
米国特許第5808051(特許文献1)のように、従来技術には臭化ロクロニウムの異なる合成が多数ある。しかしながら、臭化ロクロニウムが合成するには単純な化合物である一方、精製するのが非常に困難である。有機化学者は、高度に純粋な標的物質の単離のための、標準的精製技術を種々知っている。クロマトグラフィーはしばしば用いられるが、大量スケールでは通常実用的ではなく、低生成物収量と対応している。
【0009】
おそらく、もっとも一般的に用いられている技術は、標的物質を溶媒と反溶媒の混合物から結晶化させる再結晶である。米国特許公開第2006/0058276号(特許文献2)には、臭化ロクロニウムの合成と精製の方法が説明されている。そこでは、再結晶方法が用いられている。
【0010】
この技術が臭化ロクロニウムにも適用可能である一方、前記化合物は、再結晶に用いた溶媒と溶媒和を形成する傾向がある。しかしながら、薬剤師は、溶媒和の形態の臭化ロクロニウムを望まない。さらに、残存溶媒レベルは許容できないほど高い。従って再結晶はこの場合、好ましい技術ではない。
【0011】
活性剤を精製するのに通常用いられる別の技術は、凍結乾燥である。しかしながら、臭化ロクロニウムを水に溶解させると、塩基性pHの溶液が生じ、前記化合物は塩基性溶液中で非常に不安定である。その結果、この技術は用いることができない。米国特許公開第2006/0058275号(特許文献3)には、水溶液に緩衝剤処理して、塩基性pHの生成を防ぐことが提案されている。酢酸ナトリウムが好ましい緩衝剤である。しかしながら、緩衝剤処理された溶液を凍結乾燥すると、生じる固体には受け入れ難い量の緩衝剤が含まれることになる。
【0012】
さらなる精製技術の研究において、米国特許公開第2006/0009485号(特許文献4)は、脱アルキル化生成物を精製し、その後、アルキル化臭素物に変換して戻すことを含む臭化ロクロニウムを脱アルキル化するラジカル工程を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5808051号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0058276号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0058275号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0009485号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この方法は明らかに複雑であり、費用および時間がかかり、従って、臭化ロクロニウムを高度に純粋な形態で、特に低残存溶媒レベルで、得るための、高いレベルの残留緩衝剤や溶媒和生成を生じず、また、複雑な生成物操作工程を含まない他の精製技術を考案する必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、驚いたことに、臭化ロクロニウムを炭酸水溶液に溶解させ、その後、凍結乾燥させると、含まれる残存溶媒のレベルが非常に低く、緩衝剤不純物が無く、複雑な脱アルキル化方法も無く臭化ロクロニウムを製造できることを見出した。凍結乾燥工程の間、二酸化炭素が除去され、溶媒レベルが非常に低い高純度な活性物質が残る。本発明者らは、この技術を臭化ロクロニウムから残留溶媒を除去するためにも考案したものの、適切な有機化学化合物のいずれも、特に塩基性溶液中で不安定な有機化合物または、例えば溶媒和生成のため、再結晶のような他の技術によって精製するのが困難な有機化合物を単離するのに一般的に適用可能であると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従って、一つの観点から、本発明は、未精製の有機化合物の精製方法であって、前記化合物を炭酸水に溶解させて溶液を生じること、および、前記溶液を凍結乾燥することを含む方法を提供する。
【0017】
または、本発明は、少なくとも一種類の残留溶媒を含む未精製の有機化合物中の残留溶媒を減じるかまたは、除去する方法であって、前記化合物を炭酸水に溶解させて溶液を生じること、および、前記溶液を凍結乾燥することを含む方法を提供する。
【0018】
他の観点からは、本発明は、前記に定義した方法により得られた臭化ロクロニウムを提供する。
【0019】
他の観点からは、本発明は、凍結乾燥のための溶媒としての炭酸水の使用を提供する。
【0020】
本発明は、有機化合物、特に合成有機化合物(医薬品化合物のような)を精製する方法に関する。有機化合物の合成または単離の間、所望の化合物が溶媒または溶媒混合物と共に単離されることは、ほとんど避けられない。通常の後処理方法およびその後の標準的精製技術により、しばしば、痕跡量の溶媒の大部分を除去するが、ある適用については、残存溶媒レベルは極めて低くなければならず、故に、純度は非常に高くなければならず、これらの方法により単離された化合物の幾つかは、溶媒レベルを下げるためにさらなる精製が依然として必要であった。本発明の方法は、未精製の有機化合物出発物質から、残留溶媒を減じるかまたは除去することを目的とする。溶媒は、出発物質中に、有機化合物との溶媒和の形態またはそれらの自然な溶媒形態で存在してもよい。
【0021】
従って、この明細書中で用いられる用語「精製」は、残存溶媒を減じるかまたは除去することを意味する。未精製の有機化合物は、少なくとも1つの溶媒が、前記化合物との溶媒和の形態または溶媒自体としてのいずれかで、存在するものである。
【0022】
本発明の方法を用いて精製される前記化合物は、未精製の形態、例えば、反応後処理後に単離されたが、通常の精製工程を行っていない形態、例えば再結晶前の化合物である。
【0023】
しかしながら、本発明の方法はまた、再結晶または他の通常の精製技術に付すことが可能であるが、依然として許容不可能なレベルの残存溶媒(例えば、精製される有機化合物の溶媒和の形態で)を含む、さらなる化合物(例えば臭化ロクロニウム)を精製するのにも適する。
【0024】
従って、発明の方法は、不純な出発物質、すなわち、少なくとも1種類の残存溶媒をある量含む出発物質に、作用することは明白であろう。
【0025】
本発明の方法の出発時点で存在する残存溶媒の量は、広範囲に異なっていてもよく、出発物質の性質に左右される。反応後処理から直接得られた未精製の有機化合物出発物質は、再結晶方法から得られたものより高いレベルの溶媒を含む傾向がある。重要なことは、本発明の方法により存在する溶媒のレベルを減らすことができることである。
【0026】
減少割合は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも50%、特に少なくとも100%である。典型的には、本発明の方法後の溶媒レベル(重量%で)は、1000ppmより少なく、好ましくは750ppmより少なく、より好ましくは500ppmより少なく、特に300ppmより少ない。
【0027】
未精製の有機化合物出発物質中の溶媒量は、1重量%まで、好ましくは5重量%まで、より好ましくは10重量%まで、特に15重量%までであってもよい。
【0028】
存在するかもしれず、ゆえに本発明の方法の間に除去されるかもしれない溶媒は、当該分野で通常用いられる有機溶媒のいずれであってもよい。あらゆる種類の有機溶媒が当該分野で知られており、本発明の方法を用いて除去することができる。しかしながら、前記未精製の有機化合物(除去されるべき溶媒を含有する)は、炭酸水中に溶解されて、溶液を生成することが必要である。用語「溶液」は、溶解後一つの相システムが生成する、すなわち、有機相が存在しないことを本文中で意味するよう用いられる。
【0029】
水溶性溶媒(例えばアルコール)が必ず一つの相システムを形成するであろうことは明白であるが、水溶性溶媒を控えめにしても、溶解される溶媒の量が非常に低いのであれば、本発明の要件を満たすように、1つの相システムを形成することが可能であることは、当業者に理解できるであろう。大過剰の水により、多くの溶媒は所望の一つの相システムを形成することができる。
【0030】
未精製の生成物中の溶媒の量は、典型的には15重量%またはそれ以下であり、例えば、未精製の有機化合物は、その重量の6倍の水中に溶解されるので、溶媒の量は、2.5g/Lの水のオーダーであってもよい。この少量の溶媒が、炭酸水を用いて溶解させて1つの相システムを形成するのに必要であるため、多くの溶媒が本発明の方法により除去されうる。ジクロロメタンのような溶媒は、非常に高い濃度では水と不混和性であるが、低濃度では水と混和性であり、そのため、1つの相システムを形成することができる。
【0031】
従って、ほんのわずかに水混和性な溶媒を除去するために、ほんの僅かに控えめに水溶性な溶媒を除去するためよりも添加する水の量を少なくする必要があるかもしれない。しかしながら当業者であれば、所望の溶媒について1つの相システムが確実に生じるために充分な水を添加するであろう。
【0032】
従って、溶媒の水溶性は、少なくとも水1g/L、好ましくは少なくとも2.5g/L、特に少なくとも10g/Lである。
【0033】
溶媒が極性溶媒である場合、水混和性溶媒が好ましく、水溶性溶媒が特に好ましい。除去されうる極性溶媒には、アルコール類(例えば、脂肪族アルコールまたはアリールアルコール)、ポリオール類、エステル類、ハロゲン化溶媒類、エーテル類、シアニド類/ニトリル類、ケトン類、アルデヒド類、アミン類、アミド類、ホルムアミド類、スルフィド類、スルホキシド類およびカルボン酸類が含まれる。除去されうる特定な溶媒には、ジメチルホルムアミド(DMF)、DMSO、THF、アセトン、ジクロロメタン(DCM)、クロロホルム、メチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)、ジエチルエーテル、酢酸、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ジグリム、ピリジンおよび酢酸エチルを含む。出発物質中の溶媒混合物のレベルをもちろん、低下させることも可能である。
【0034】
本発明の方法により精製される化合物の性質は、広範に異なっていてもよい。炭酸水を溶媒として用い、そこから有機化合物を凍結乾燥してその純度を向上させること、特に溶媒レベルを低下させることは、新規であり、従ってその技術は全ての種類の化合物に適用可能であると考えている。しかしながら、精製されるべき化合物は、水中に溶解し、本発明の方法を効果的にするため溶液を形成するのが必須である。化合物の溶解性は、pHによって異なっていてもよいが、精製された化合物は中性pHにおいて水溶性であるのが好ましい。前記有機化合物の水溶性は、少なくとも水10g/Lであるのが好ましい。少なくとも100gの前記化合物が1Lの水中に溶解されるのが好ましい。前記化合物は4〜8のpHにおいて少なくとも水溶性であるのが最も好ましい。加えて、4〜8のpHにおいて安定であり、任意に8より大きいpHにおいて不安定であるのが好ましい。
【0035】
もちろん、特定の化合物が、本発明の方法により利益を被ることができるのは明らかである。特に、高純度、特に低い残存溶媒レベルが、医薬品として用いられる化合物に主に関連した特徴であり、本発明の方法において用いられる前記化合物は医薬品であるのが好ましい。
【0036】
本発明の方法は、例えば溶媒和の形成のため、他の通常の技術(例えば再結晶)により精製できない化合物について、行うことができるのが最も有利である。水中に溶解して8より大きいpHの塩基性溶液を形成する化合物について本発明の方法は行われるのも好ましい。また、精製された化合物が8より低いpH、例えば4〜8において水中で安定であるのも好ましい。
【0037】
精製される化合物は、塩であるのが好ましく、アンモニウム塩および/またはハロゲン化物塩であるのが特に好ましい。化合物の混合物(例えば、塩の混合物、または塩と非塩化合物の混合物)も、この方法により精製することができるであろう。
【0038】
従って、クレームされた方法を用いて精製するのに適する化合物には、ペプチド、アミノ酸、タンパク質、ステロイド、多環式化合物が含まれる。前記化合物が医薬品であるのが好ましく、相対的に小さな医薬品(例えば、分子量(Mw)が1000より小さいもの、好ましくは750より小さいもの、例えば分子量100〜700)が特に好ましい。
【0039】
前記化合物が神経筋遮断薬、例えば、ツボクラリン、アトラクリウム、(シス)アトラクリウム、ミバクリウム、パンクロニウム、ベクロニウム、ラパクロニウムおよびロクロニウム(例えばその塩)に基づく神経遮断薬であるのが、最も好ましい実施形態である。より詳細には、前記化合物は、塩化ツボクラリン、アトラクリウムベシル酸塩(besylate)、臭化パンクロニウム、臭化ベクロニウムおよび臭化ロクロニウムである。前記化合物がロクロニウム塩(例えば臭化ロクロニウム)であるのが最も好ましい。
【0040】
炭酸水溶媒を形成するのに用いられる水は、それ自体、できるだけ純度が高いべきである。従って、精製水を用いるべきである。その後、これは、例えば、水を通じて二酸化炭素を泡立てることにより、炭酸塩化されるべきである。必要な炭酸塩化の量は、種々異なっていてもよく、二酸化炭素で飽和した水を用いることが可能である。しかしながら、必要な炭酸塩化の量は、炭酸水のpHを測定されるのが好ましい。したがって、そこに化合物を溶解させる前の炭酸水は、炭酸塩化され、その結果、炭酸水のpHが6より低く、好ましくは5.5より低く、より好ましくは5より低く、特に4.5より低くなるのを確実にするのが好ましい。
【0041】
炭酸水のpHは、4を越えて維持するのが好ましい。
【0042】
未精製の有機化合物は、その後、炭酸水に溶解させることができる。溶解を助けるために、攪拌または超音波のような技術をこの時点で用いてもよい。問題の前記化合物が熱に不安定でない限り、溶解を助けるために溶液をゆるやかに加熱することも可能である。しかしながら、炭酸水は冷たいまま、例えば10℃未満に保つのが好ましい。このことにより化合物の分解を防ぐことができるであろう。例えば、臭化ロクロニウムの酢酸塩は、高温で水に溶解させると加水分解される。この助けにより、溶解の間、炭酸水中に化合物を完全に溶解させることができる。
【0043】
有機化合物に対する炭酸水の相対的な量は重要ではないが、溶解が容易に起こるためのあまりに少量の水と、凍結乾燥の間に除去されるべき多量の水を意味するあまりに多くの水との間にバランスは存在するであろう。炭酸水に対する化合物の適切な重量比は、1:20〜1:3、好ましくは1:15〜1:5、例えば、1:10である。従って、例えば、水に溶解される物質より10倍以上の重量の水が必要である。これらの比は、水に添加される物質の重量、すなわち、未精製の化合物の重量にもあてはまる。
【0044】
溶解の間、または溶解の後、水をさらに炭酸塩化することも必要かもしれない。溶解した前記化合物は塩基性であり、炭酸水のpHを上げるかもしれない。炭酸塩化のいくつかは、溶解相の間に空気中へ二酸化炭素が逃げることにより失われるかもしれない。凍結乾燥工程は、溶液のpHが8より低いときに起こるのが好ましい。従って、溶解後にさらなる二酸化炭素を溶解の後溶液に追加する必要があるかもしれないが、pHが8を超えるのを防ぐには溶解の間が好ましい。
【0045】
化合物のいくつかは、pH不安定であり、塩基性pHに耐性が無いかもしれない。この場合、当業者は、溶解相の間、充分なCO2が水に添加され、化合物の溶解により生じるpHの向上を埋め合わせるのを確実にするよう、注意深く観察する必要がある。
【0046】
通常の技術を用いてこの溶液はその後、凍結乾燥される。従って、この溶液は凍結乾燥機に付され、短時間(例えば、1〜10時間、好ましくは5時間未満)にわたって凍結される。一旦凍結されると、真空装置が接続され、乾燥機が例えば15℃以下まで加熱される。一旦水が除去されると、固形生成物が非常に高い純度(例えば、少なくとも99%純度、特に少なくとも99.5%純度、例えば、99.9%純度またはそれ以上)で単離できる。
【0047】
従って、本発明のさらなる観点から、未精製の有機化合物を精製する方法が提供され、その方法は、
(I) 前記化合物を6より低いpHを有する炭酸水に溶解させて溶液を生じること;および
(II) 前記溶液を凍結乾燥することを含む。
【0048】
より詳細には、本発明は、未精製の有機化合物を精製する方法を提供し、その方法は、
(I) 前記化合物を6より低いpHを有する炭酸水に溶解させて溶液を生じること;
(II) 溶解の間および/または溶解後に前記水をさらに炭酸塩化して、8より低いpHを維持するか、または回復させること;および
(III) 前記溶液を凍結乾燥することを含む。
【0049】
一旦、前記化合物が炭酸水溶液に溶解されると、凍結乾燥の前に、炭酸水中に溶解している未精製の物質中に存在している残存溶媒を減らす、中間溶媒除去工程を行うのが好ましい。出発物質中の溶媒量が著しく高い(例えば10重量%より高い)場合に、特に重要である。これは、真空蒸留を用いて行うことができる。また、この方法の間、残留溶媒が除去されるにつれ、溶液のpHが8を超えて増加しないのを確実にするため、pHはモニターする必要がある。必要であれば、これが起こるのを防ぐために、さらなる炭酸塩化を行ってもよい。
【0050】
従って、本発明の別の観点から、未精製の有機化合物を精製する方法が提供され、その方法は、
(I) 前記化合物を6より低いpHを有する炭酸水に溶解させて溶液を生じること;任意に
(II) 溶解の間および/または溶解後に前記水をさらに炭酸塩化して、8より低いpHを維持するか、または回復させること;
(III) 前記炭酸水中に溶解している未精製の物質中に存在する残存溶媒を減らす中間の溶媒除去工程を行うこと、例えば真空蒸留工程;および
(IV) 前記溶液を凍結乾燥することを含む。
【0051】
凍結乾燥を行う前に、炭酸水に最初添加したときに未精製の有機化合物出発物質中に存在していた不溶性不純物を除去するために、その炭酸水溶液をろ過する必要もあるかもしれない。
【0052】
本発明の方法を用いて得られた精製化合物は、すなわち、凍結乾燥後の化合物は、その後、当該分野でよく知られているように製剤化されてもよい。典型的には、通常の医薬品賦形剤と共に医薬組成物として製剤化されるであろう。そのような組成物は、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、注射可能溶液等の通常の投薬形態であってもよい。
【0053】
本発明を以下に例をもって詳細に説明するが、本発明はこの例に限定されない。
【実施例1】
【0054】
臭化ロクロニウムの製造
臭化ロクロニウムは、1.7kgのロクロニウムと、1.21Lの臭化アリルを17LのDCM中で反応させて、通常の化学を用いて合成した。
【0055】
8時間還流させた後、反応物を通常の手法を用いて後処理し、湿った固体を得た。後処理に用いた溶媒は、DCMとMTBEであった。後処理後に生成した湿った固体中のこれらの溶媒の量は、以下の表1に示す。
【実施例2】
【0056】
凍結乾燥
精製水(12L)を5℃に冷却し、二酸化炭素をpHが4.5より低くなるまで泡立てた。実施例1の湿った生成物を加え、二酸化炭素ガスをpHが8より低くなるまで再度、泡立てた。
【0057】
固体が完全に溶解したとき、真空装置を接続し、pHが9より高い場合には二酸化炭素を泡立て、MTBEのレベルが900ppmより低くなるまで、溶液を5±3℃に保った。その溶液を0.45μmフィルターを通し、精製水で反応器をゆすいで取り出した。
【0058】
生成物の水溶液を、予め1℃に冷却していたスリーブ付の凍結乾燥機へ入れた。この溶液を約4時間の間凍結させた。一旦、溶液が完全に凍結すると、真空装置を接続し(0.10〜0.15mbar)、スリーブを26時間の間15℃に加熱した。周囲の湿度が35%より低く、温度が30℃より低いときに固体を取り出した。
【0059】
収量は1.8kg(約84%)であった。純度≧99.5%。
【0060】
[溶媒レベル]
MTBEとDCMのレベルは、工程の各ステージ後に測定し、その結果を以下に示す。
【0061】

【0062】
従って、本発明の方法により、未精製の有機化合物から残存溶媒を減らすことが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未精製の有機化合物の精製方法であって、前記化合物を炭酸水に溶解させて溶液を生じること、および、前記溶液を凍結乾燥することを含む方法。
【請求項2】
少なくとも1種の残存溶媒を含む未精製の有機化合物において、残存溶媒を減じるかまたは、除去する方法であって、前記化合物を炭酸水に溶解させて溶液を生じること、および、前記溶液を凍結乾燥することを含む方法。
【請求項3】
先行する請求項のいずれかに記載の方法であって、前記炭酸水が、溶解前に、6より低いpHを有する方法。
【請求項4】
先行する請求項のいずれかに記載の、未精製の有機化合物の精製方法であって、
(I) 前記化合物を6より低いpHを有する炭酸水に溶解させて溶液を生じること;および
(II) 前記溶液を凍結乾燥することを含む方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
(I) 前記化合物を6より低いpHを有する炭酸水に溶解させて溶液を生じること;
(II) 溶解の間および/または溶解後、 前記水をさらに炭酸塩化して、8より低いpHを維持するか、または回復させること;
(III) 前記溶液を凍結乾燥することを含む方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、
(I) 前記化合物を6より低いpHを有する炭酸水に溶解させて溶液を生じること;任意に、
(II) 溶解の間および/または溶解後、前記水をさらに炭酸塩化して、8より低いpHを維持するか、または回復させること;
(III) 前記炭酸水中に溶解している未精製の物質中に存在する残存溶媒を減じる、中間の溶媒除去工程を行うこと、例えば、真空蒸留工程;および
(IV) 前記溶液を凍結乾燥することを含む方法。
【請求項7】
精製された化合物が、医薬品である先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記化合物が塩基性である先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記化合物が、pHが8より大きい水溶液中で不安定である先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、ステロイドである先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記化合物が、神経筋遮断薬である先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が、臭化ロクロニウムである先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
ここで先に定義した方法により得られた臭化ロクロニウム。
【請求項14】
凍結乾燥のための溶媒としての炭酸水の使用。

【公表番号】特表2010−516664(P2010−516664A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545989(P2009−545989)
【出願日】平成20年1月14日(2008.1.14)
【国際出願番号】PCT/GB2008/000108
【国際公開番号】WO2008/087383
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(509203267)
【Fターム(参考)】