説明

焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法

【課題】クロロゲン酸類量及び焙煎コーヒー豆抽出物本来の風味を保持しつつ、クロロゲン酸ラクトン類を選択的に低減して苦味を抑えた焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法を提供すること。
【解決手段】原料焙煎コーヒー豆抽出物を、Brix10〜40、及びpH5.5〜6.5に調整し、100℃以上にて加熱処理する、焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料は嗜好飲料として広く愛好されており、通常焙煎コーヒー豆抽出物を配合して製造されている。コーヒー飲料の風味には苦味、甘味、酸味、ボディ感、コク、雑味等がある。これら風味は焙煎コーヒー豆抽出物の製造に使用する生コーヒー豆の種類や焙煎方法によって特徴付けられる。
【0003】
生コーヒー豆の焙煎においては、熱処理により、生コーヒー豆には元々存在しなかった多数の香味成分が生成する。例えば、クロロゲン酸類は焙煎時に変性してクロロゲン酸ラクトン類を生成することが知られている。このクロロゲン酸ラクトン類は苦味を呈する物質であるが、閾値が低いため、僅かに存在するだけで強い苦味を感じてしまう。
【0004】
そこで、苦味を与えるクロロゲン酸ラクトン類を低減すべく様々な試みが報告されている。その方法として、例えば、焙煎コーヒー豆抽出物をアルカリで処理してクロロゲン酸ラクトン類をクロロゲン酸に転化させる方法(特許文献1)、焙煎コーヒー豆抽出物を酵素処理してクロロゲン酸ラクトン類を加水分解するか、あるいは焙煎コーヒー豆抽出物を固形吸着剤と接触させることにより、クロロゲン酸ラクトン類を低減する方法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−215771号公報
【特許文献2】特表2008−541712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、クロロゲン酸ラクトン類を低減できるものの、アルカリ処理により、焙煎コーヒー豆抽出物本来の風味が損なわれてしまうことが判明した。また、特許文献2に記載の方法においては、クロロゲン酸ラクトン類量を低減できるものの、酵素由来の異味異臭や固形吸着剤による香味成分の除去により、焙煎コーヒー豆抽出物本来の風味が損なわれてしまうことが判明した。
【0007】
したがって、本発明の課題は、クロロゲン酸類量及び焙煎コーヒー豆抽出物本来の風味を保持しつつ、クロロゲン酸ラクトン類を選択的に低減して苦味を抑えた焙煎コーヒー豆抽出物及びその製造方法を提供することにある。
本発明はまた、当該焙煎コーヒー豆抽出物を用いたインスタントコーヒー、濃縮コーヒー組成物及び容器詰コーヒー飲料を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、上記課題を解決すべく種々研究した結果、原料焙煎コーヒー豆抽出物のBrix及びpHを特定範囲内に制御しかつ特定条件で加熱処理することで、クロロゲン酸類量を維持しつつ、クロロゲン酸ラクトン類を選択的に低減して苦味を抑え、かつ焙煎コーヒー豆抽出物本来の風味を保持した焙煎コーヒー豆抽出物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、原料焙煎コーヒー豆抽出物を、Brix10〜40、及びpH5.5〜6.5に調整し、100℃以上にて加熱処理する、焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明はまた、次の成分(A)及び(B);
(A)クロロゲン酸類、及び
(B)クロロゲン酸ラクトン類
を含み、
(A)クロロゲン酸類と、(B)クロロゲン酸ラクトン類との質量比[(A)/(B)]が45〜100000であり、
(A)クロロゲン酸類中の(A1)ジカフェオイルキナ酸の含有量が3〜13質量%であり、
Brixが10〜40である、焙煎コーヒー豆抽出物を提供するものである。
【0011】
本発明は更に、上記焙煎コーヒー豆抽出物を乾燥して得られるインスタントコーヒー、上記焙煎コーヒー豆抽出物を濃縮して得られる濃縮コーヒー組成物、及び上記焙煎コーヒー豆抽出物を容器に充填してなる容器詰コーヒー飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クロロゲン酸類量を保持しつつ、クロロゲン酸ラクトン類を選択的に低減して苦味を抑え、かつ焙煎コーヒー豆抽出物本来の風味を保持した焙煎コーヒー豆抽出物を提供することができる。したがって、本発明の方法により製造された焙煎コーヒー豆抽出物は、苦味が抑制されているため、インスタントコーヒー、濃縮コーヒー組成物及び容器詰コーヒー飲料の原料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本明細書で使用する用語について説明する。
「(A)クロロゲン酸類」とは、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸のモノカフェオイルキナ酸;3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸及び5−フェルラキナ酸のモノフェルラキナ酸;3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸のジカフェオイルキナ酸(A1)を併せての総称であり、「クロロゲン酸類の含有量」はこれら9種の合計量に基づいて定義される。また、「(A1)ジカフェオイルキナ酸の含有量」は上記3種の合計量に基づいて定義される。
「(B)クロロゲン酸ラクトン類」とは、3−カフェオイルキナ酸ラクトン、4−カフェオイルキナ酸ラクトン及び5−カフェオイルキナ酸ラクトンを併せての総称であり、「(B)クロロゲン酸ラクトン類の含有量」はこれら3種の合計量に基づいて定義される。
【0014】
〔焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法〕
本発明の焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法は、原料焙煎コーヒー豆抽出物を、Brix10〜40、及びpH5.5〜6.5に調整し、100℃以上にて加熱処理することを特徴とするものである。
【0015】
原料焙煎コーヒー豆抽出物としては、例えば、焙煎コーヒー豆から抽出した焙煎コーヒー豆抽出物、インスタントコーヒーの水溶液等を用いることができる。
本発明で使用する原料焙煎コーヒー豆抽出物は、当該原料焙煎コーヒー豆抽出物100g当たり焙煎コーヒー豆を生豆換算で1g以上、更に2.5g以上、更に5g以上使用しているものが好ましい。
【0016】
抽出に使用するコーヒー豆種としては、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種が例示される。コーヒー豆の産地は特に限定されないが、例えば、ブラジル、コロンビア、タンザニア、モカ、キリマンジェロ、マンデリン、ブルーマウンテンが例示される。また、コーヒー豆は1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。
【0017】
コーヒー豆の焙煎方法としては、例えば、直火式、熱風式、半熱風式等の公知の方法を適宜選択することが可能であり、これらの焙煎方式に回転ドラムを有するものが好ましい。また、焙煎温度も特に限定されないが、100〜300℃、更に150〜250℃であることが好ましい。
焙煎コーヒー豆の焙煎度としては、例えば、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアンが例示される。中でも、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティがクロロゲン酸類を多く含み、飲用しやすい点で好ましい。
【0018】
焙煎度を色差計で測定したL値としては、得られる焙煎コーヒー豆抽出物の風味の観点から、L値の上限は29、更に28、更に27、更に25、更に24であることが好ましく、他方下限は19、更に21、更に22であることが好ましい。かかるL値の範囲としては、19〜29、更に19〜28、更に19〜27、更に19〜25、更に19〜24、更に21〜25、更に21〜24、更に22〜25、更に22〜24が好ましい。なお、本発明においては、焙煎度の異なるコーヒー豆を混合して使用しても良く、前記範囲外のL値のものを用いても良いが、使用する焙煎コーヒー豆全体としてL値が前記範囲内となっていることが好ましい。なお、焙煎度の異なるものを用いた場合は、それぞれの焙煎コーヒー豆の全体中の質量比にその焙煎コーヒー豆のL値を乗じた値の総和をL値とする。また。焙煎コーヒー豆を粉砕したものを使用してもよい。
ここで、「L値」とは、黒をL値0とし、また白をL値100として、焙煎コーヒー豆の明度を色差計で測定したものである。すなわち、L値はコーヒー豆の焙煎の程度を表す指標であり、コーヒー豆の焙煎が深いものほどコーヒー豆の色は黒っぽくなるためL値は低い値となり、逆に焙煎度が浅いほどL値は高い値となる。
【0019】
抽出方法としては特に限定されず、例えば、ドリップ式、連続多塔式、ニーダー式、向流式等の公知の方法を採用することができる。なお、抽出条件は抽出方法により適宜選択することが可能である。
抽出溶媒としては、水、アルコール水溶液、ミルク、炭酸水等が例示される。中でも、風味の観点から、水が好ましい。抽出溶媒のpH(20℃、以下同じ)は通常4〜10であるが、風味の観点から、5〜7が好ましい。
【0020】
このようにして得られた原料焙煎コーヒー豆抽出物を、必要により濃縮又は水希釈等することにより、Brix(糖用屈折計示度をいう。以下同じ。)を10〜40の範囲に設定する。原料焙煎コーヒー豆抽出物のBrixの範囲は、クロロゲン酸類含有量の保持、クロロゲン酸ラクトン類含有量を低減し、苦味を抑制する観点から、下限値を13とすることが好ましく、他方上限値を35、更に30とすることが好ましい。かかるBrixの範囲としては、10〜35、更に13〜30が好ましい。なお、本明細書において「Brix」とは、後掲の実施例に記載の方法により測定された値をいう。
【0021】
また、原料焙煎コーヒー豆抽出物のpHを調整する。本発明で使用する原料焙煎コーヒー豆抽出物のpHは5.5〜6.5であるが、クロロゲン酸類量の保持、クロロゲン酸ラクトン類量を低減し、苦味を抑制する観点から、上限は6.2、更に6が好ましく、他方下限は5.6、更に5.7が好ましい。かかるpHの範囲としては、5.6〜6.2、更に5.7〜6が好ましい。なお、pH調整には、無機酸、有機酸又はそれらの塩を使用することが可能である。具体的には、重炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、L−アルコルビン酸ナトリウム等が例示されるが、中でも、風味及びpH調整のしやすさから、炭酸水素ナトリウムが好ましい。
【0022】
本発明においては、Brix及びpHを調整した原料焙煎コーヒー豆抽出物を加熱処理する。
加熱温度は100℃以上であるが、クロロゲン酸類量の保持、クロロゲン酸ラクトン類量を低減し、苦味を抑制する観点から、上限は145℃、更に130℃、更に125℃であることが好ましく、他方下限は105℃、更に110℃、更に115℃であることが好ましい。かかる加熱温度の範囲としては、100〜145℃、更に105〜130℃、更に115〜125℃が好ましい。
処理時間は、クロロゲン酸類量の保持、クロロゲン酸ラクトン類量を低減し、苦味を抑制する観点から、1〜60分が好ましく、更に3〜40分、更に5〜30分が好ましい。
【0023】
本発明においては、上記加熱処理を行う際に加圧下で行うのが好ましいが、圧力は焙煎コーヒー豆抽出物中の水分が蒸発しないだけの充分な圧力であれば特に限定されるものではない。具体的には、絶対圧として400kPa以下、更に300kPa以下、更に290kPa以下であることが好ましく、下限値は150kPa、更に180kPa、更に220kPaであることが好ましい。かかる圧力の範囲としては、絶対圧として150〜400kPa、更に180〜300kPa、更に220〜290kPaが好ましい。なお、圧力の測定方法としては、例えば、内圧測定用圧力計による測定が挙げられる。
加圧条件とする際に、不活性ガスにより希釈した低酸素雰囲気としてもよい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、水蒸気等が挙げられ、中でも窒素が好ましい。
【0024】
加熱処理を施す装置としては特に制限はなく、例えば、管式熱交換機等を使用することができる。
【0025】
〔焙煎コーヒー豆抽出物〕
以下、本発明の製造方法により得られる焙煎コーヒー豆抽出物(以下、単に「本発明の焙煎コーヒー豆抽出物」とも称する)の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明の焙煎コーヒー豆抽出物は、(A)クロロゲン酸類を含有するが、風味及び生理効果の観点から、Brix10〜40において、下限値が0.1質量%、更に0.5質量%、更に1質量%であることが好ましく、他方上限値は12%、更に10質量%、更に8質量%、更に5質量%、殊更に3.5質量%であることが好ましい。かかる(A)クロロゲン酸類の含有量の範囲としては、0.1〜12質量%、更に0.5〜8質量%、更に1〜5質量%、更に1〜3.5質量%が好ましい。
【0027】
また、固形分中のクロロゲン酸類の含有量は、風味及び生理効果の観点から、下限値が5質量%、更に8質量%、更に9質量%、更に10質量%であることが好ましく、他方上限値は30質量%、更に28質量%、更に25質量%、更に15質量%であることが好ましい。かかる固形分中の(A)クロロゲン酸類の含有量の範囲としては、5〜30質量%、更に8〜28質量%、更に9〜28質量%、更に10〜25質量%、更に10〜15質量%が好ましい。ここで、本明細書において「固形分」とは、試料を105℃の電気恒温乾燥機で3時間乾燥して揮発物質を除いた残分をいう。
【0028】
本発明の焙煎コーヒー豆抽出物は、(A)クロロゲン酸類を豊富に含む一方、(B)クロロゲン酸ラクトン類の含有量が低減されている。そのため、(A)クロロゲン酸類に対する(B)クロロゲン酸ラクトン類の相対的な存在比率が低下し、その結果焙煎コーヒー豆抽出物の苦味が抑制される。
(A)クロロゲン酸類と、(B)クロロゲン酸ラクトン類との質量比[(A)/(B)]は45〜100000であるが、苦味抑制の観点から、50〜10000、更に63〜1000、更に100〜500であることが好ましい。
【0029】
また、本発明の焙煎コーヒー豆抽出物は、(A)クロロゲン酸類中の(A1)ジカフェオイルキナ酸の含有量は3〜13質量%であるが、酸味とコクの味覚バランス及び生理効果の観点から、上限は12.5質量%、更に12質量%、更に11.5質量%、更に11質量%、更に10質量%、殊更に9質量%であることが好ましく、他方下限は3.5質量%、更に4質量%、更に4.5質量%、更に5質量%、更に6質量%、殊更に7質量%であることが好ましい。かかる(A)クロロゲン酸類中の(A1)ジカフェオイルキナ酸の含有量の範囲としては、3.5〜12.5質量%、更に4〜12質量%、更に4.5〜11.5質量%、更に5〜11質量%、更に6〜10質量%、殊更に7〜9質量%が好ましい。
【0030】
本発明の焙煎コーヒー豆抽出物のBrixは10〜40であるが、クロロゲン酸ラクトン類が低減され、苦味が抑制された状態で維持される観点から、下限値は13であることが好ましく、他方上限値は35、更に31、更に30であることが好ましい。かかるBrixの範囲としては、10〜35、更に13〜31、更に13〜30が好ましい。
【0031】
本発明の焙煎コーヒー豆抽出物は、クロロゲン酸ラクトン類が低減されているため、苦味が抑制されている。また、加熱処理してもクロロゲン酸類が殆ど損なわれないため、クロロゲン酸類による生理効果を十分に期待できる。
【0032】
〔インスタントコーヒー、濃縮コーヒー組成物〕
本発明の焙煎コーヒー豆抽出物は、苦味が抑制されているため、インスタントコーヒー、濃縮コーヒー組成物とするのに有用である。
本発明のインスタントコーヒーは、本発明の焙煎コーヒー豆抽出物を乾燥して得ることが可能であり、乾燥方法としては、噴霧乾燥、凍結乾燥等が例示される。ここで、本明細書において「インスタントコーヒー」とは、水分量3質量%以下であって、飲用時に水、熱水、ミルク等の液体で還元される多孔質粒状コーヒー濃縮組成物をいう。インスタントコーヒーの形態としては、例えば、スプーンで計量して調製するもの、透過性浸出パッケージ又はカップ1杯分毎に小分けしたスティックタイプが挙げられる。
また、本発明の濃縮コーヒー組成物は、本発明の焙煎コーヒー豆抽出物を濃縮して得ることが可能であり、濃縮条件は適宜選択することができる。ここで、本明細書において「濃縮コーヒー組成物」とは、固形分量が10質量%超から97質量%未満であるものをいう。濃縮コーヒー組成物の形態としては、液状、ゲル状、スラリー状であってもよく、例えば、濃縮コーヒー組成物が液体の場合、ポーションタイプの希釈飲料とすることができる。
【0033】
本発明のインスタントコーヒー及び濃縮コーヒー組成物は、固形分中にクロロゲン酸類を下限値として5質量%、更に8質量%、更に9質量%、更に10質量%含有することが好ましく、他方上限値として30質量%、更に28質量%、更に25質量%、更に15質量%含有することが好ましい。かかる固形分中の(A)クロロゲン酸類の含有量の範囲としては、5〜30質量%、更に8〜28質量%、更に9〜28質量%、更に10〜25質量%、更に10〜15質量%が好ましい。
【0034】
〔容器詰コーヒー飲料〕
本発明の容器詰コーヒー飲料は、本発明の焙煎コーヒー豆抽出物を必要により水希釈して容器に充填することで得ることができる。ここで、本明細書において「容器詰コーヒー飲料」とは、固形分量が10質量%以下であるものをいう。
【0035】
本発明の容器詰コーヒー飲料には、必要により、乳成分、甘味料、苦味抑制剤、酸化防止剤、香料、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、酸味料、ビタミン、アミノ酸、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を1種又は2種以上配合してもよい。
【0036】
本発明の容器詰コーヒー飲料は、容器詰ブラックコーヒー飲料でも、容器詰ミルクコーヒー飲料でもよいが、実質的に乳成分を含まない容器詰ブラックコーヒー飲料が好ましい。また、容器詰コーヒー飲料は、シングルストレングスであることが好ましい。ここで、「シングルストレングス」とは、容器詰コーヒー飲料を開封した後、薄めずにそのまま飲めるものをいう。
【0037】
本発明の容器詰コーヒー飲料は、Brixは0.5〜5であることが好ましく、更に0.8〜4、更に1〜3であることが、風味、長期保存時の沈澱抑制の点から好ましい。
【0038】
本発明の容器詰コーヒー飲料は、クロロゲン酸類を0.01〜8質量%、更に0.05〜6質量%、更に0.1〜4質量%、更に0.1〜2質量%、更に0.1〜1質量%含有することが、風味、生理効果の点から好ましい。
【0039】
本発明の容器詰コーヒー飲料のpH(20℃)は、安定性及び風味の観点から、5〜7、更に5.4〜6.5、更に5.6〜6.3であることが好ましい。
【0040】
本発明の容器詰コーヒー飲料は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の包装容器に充填して提供することができる。
また、容器詰飲料は、例えば、金属缶のような容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件で製造できる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。
【0041】
本発明のインスタントコーヒー、濃縮コーヒー組成物及び容器詰コーヒー飲料は、本発明の焙煎コーヒー豆抽出物を原料として調製されるため、上記焙煎コーヒー豆抽出物の組成、例えば、固形分中のクロロゲン酸類の含有量、質量比[(A)/(B)]、成分(A)中の成分(A1)含有量において上記焙煎コーヒー豆抽出物と同様の構成を具備することができる。
【実施例】
【0042】
1.クロロゲン酸類の分析
分析機器はHPLCを使用した。装置の構成ユニットの型番は次の通りである。
UV−VIS検出器:L−2420((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラムオーブン:L−2300((株)日立ハイテクノロジーズ)、
ポンプ:L−2130((株)日立ハイテクノロジーズ)、
オートサンプラー:L−2200((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラム:Cadenza CD−C18 内径4.6mm×長さ150mm、粒子径3μm(インタクト(株))。
【0043】
分析条件は次の通りである。
サンプル注入量:10μL、
流量:1.0mL/min、
UV−VIS検出器設定波長:325nm、
カラムオーブン設定温度:35℃、
溶離液A:0.05M 酢酸、0.1mM ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDPO)、10mM 酢酸ナトリウム、5(V/V)%アセトニトリル溶液、
溶離液B:アセトニトリル。
【0044】
濃度勾配条件
時間 溶離液A 溶離液B
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
15.0分 95% 5%
20.0分 95% 5%
22.0分 92% 8%
50.0分 92% 8%
52.0分 10% 90%
60.0分 10% 90%
60.1分 100% 0%
70.0分 100% 0%
【0045】
HPLCでは、コーヒー抽出物を10mLにメスアップし、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A、孔径0.45μm、ジーエルサイエンス(株))にて濾過後、分析に供した。
クロロゲン酸類の保持時間(単位:分)
・モノカフェオイルキナ酸:5.3、8.8、11.6の計3点
・モノフェルロイルキナ酸:13.0、19.9、21.0の計3点
・ジカフェオイルキナ酸(A1):36.6、37.4、44.2の計3点。
ここで求めた9種のクロロゲン酸類の面積値から5−カフェオイルキナ酸を標準物質とし、クロロゲン酸類含量(g/100g)を求めた。
【0046】
2.クロロゲン酸ラクトン類の分析
クロロゲン酸類の分析と同じ分析機器及び分析条件を用い、分析を行った。
クロロゲン酸ラクトン類の保持時間(単位:分)
(B)カフェオイルキナ酸ラクトン:26.8、28.2、30.6の計3点。
ここで求めた3種のクロロゲン酸ラクトン類の面積値から5−カフェオイルキナ酸を標準物質とし、クロロゲン酸ラクトン類含有量(g/100g)を求めた。
【0047】
3.Brixの測定
20℃における試料のBrixを、糖度計(Atago RX-5000、Atago社製)を用いて測定した。
【0048】
4.L値の測定
試料を、色差計((株)日本電色社製 スペクトロフォトメーター SE2000)を用いて測定した。
【0049】
5.官能評価
各実施例及び比較例で得られた焙煎コーヒー豆抽出物をBrix2に調整し、その苦味、劣化臭及び酸味とコクの味覚バランスについて、パネル3名が下記の基準に基づいて評価し、その平均値をもって最終スコアを決定した。なお、「劣化臭」は、焙煎コーヒー豆抽出物本来の風味が損なわれているかどうかの観点から評価した。
【0050】
評価基準(苦味と劣化臭)
4:弱い
3:やや弱い
2:やや強い
1:強い
【0051】
評価基準(酸味とコクの味覚バランス)
5:非常に良い
4:良い
3:やや良い
2:悪い
1:非常に悪い
【0052】
製造例1
原料焙煎コーヒー豆抽出物(1)の製造
金属メッシュを備えたカラム形状抽出機に、焙煎度L22のコロンビア豆を0.4kg仕込み、温度95℃のイオン交換水(pH5.7)を700mL流通して、Brix15の原料焙煎コーヒー豆抽出物(1)を得た。この抽出物のpHは4.6、(A)クロロゲン酸類の含有量は1335mg/100mL、(B)クロロゲン酸ラクトン類の含有量は45mg/100mL、(A)中の(A1)ジカフェオイルキナ酸の含有量は4.9質量%であった。
【0053】
製造例2
原料焙煎コーヒー豆抽出物(2)の製造
金属メッシュを備えたカラム形状抽出機に焙煎度L16.5とL30のブレンド豆(50/50)を0.4kg仕込み、温度95℃のイオン交換水(pH5.7)を700mL流通して、Brix15%のコーヒー抽出液を得た。得られた抽出液を濃縮機によりBrix32まで濃縮して原料焙煎コーヒー豆抽出物(2)を得た。この抽出物のpHは5.3、クロロゲン酸類の含有量は3672mg/100mL、クロロゲン酸ラクトン類の含有量は77mg/100mL、(A)中の(A1)ジカフェオイルキナ酸の含有量は9.6質量%であった。
【0054】
実施例1〜6及び比較例1〜3
表1に示した原料焙煎コーヒー豆抽出物100mLを用い、イオン交換水にてBrixを、10%炭酸水素ナトリウムにてpHをそれぞれ調整し(比較例1はpH調整なし)、次いで表1に示した加熱、加圧処理条件にて処理し、焙煎コーヒー豆抽出物を得た。得られた焙煎コーヒー豆抽出物の分析結果を表1に示す。
【0055】
製造例3
原料焙煎コーヒー豆抽出物(3)の製造
金属メッシュを備えたカラム形状抽出機に焙煎度L16.5のコロンビア豆を0.4kg仕込み、温度95℃のイオン交換水(pH5.7)600mLを流通して、Brix18の原料焙煎コーヒー豆抽出物(3)を得た。この抽出物のpHは4.86、クロロゲン酸類の含有量は273mg/100mL、クロロゲン酸ラクトン類の含有量は26mg/100mLであった。
【0056】
比較例4
(アルカリ処理)
製造例3で得られた原料焙煎コーヒー豆抽出物(3)100mLをイオン交換水でBrix8.5に調整した。この際の原料焙煎コーヒー豆抽出物中のクロロゲン酸類の含有量は119mg/100mL、クロロゲン酸ラクトン類の含有量は11.3mg/100mL、(A)中の(A1)ジカフェオイルキナ酸の含有量は1.9質量%であった。この液を、1時間、25℃でpH11に保たれるように、攪拌しながら、1M水酸化カリウム水溶液で処理した。次に、その液に85%リン酸を加え、pHを4.8に調整して焙煎コーヒー豆抽出物を得た。得られた焙煎コーヒー豆抽出物の分析結果を表1に示す。
【0057】
比較例5
(酵素処理)
製造例3で得られた原料焙煎コーヒー豆抽出物(3)100mLをイオン交換水でBrix2.9に調整した。この際の原料焙煎コーヒー豆抽出物中のクロロゲン酸類の含有量は43mg/100mL、クロロゲン酸ラクトン類の含有量は4.5mg/100mL、(A)中の(A1)ジカフェオイルキナ酸の含有量は1.9質量%であった。この液のpHを4.8に調整し、この液に加水分解酵素であるエステラーゼ(セルロシンGM5(エイチビィアイ(株))、1U/mgコーヒー固形分)を加えて、スクリュー管に入れた。このスクリュー管を40℃の水槽で攪拌(100rpm)し、2時間の反応時間の後にスクリュー管をから取り出し、焙煎コーヒー豆抽出物を得た。得られた焙煎コーヒー豆抽出物の分析結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の結果から、原料焙煎コーヒー豆抽出物のBrix及びpHを特定範囲に調整し、100℃以上にて加熱処理することで、クロロゲン酸ラクトン類を選択的に除去することが可能となり、従来の方法に比べてクロロゲン酸類及びジカフェオイルキナ酸を減少させることなく、苦味が抑制された焙煎コーヒー豆抽出物を得ることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料焙煎コーヒー豆抽出物を、Brix10〜40、及びpH5.5〜6.5に調整し、100℃以上にて加熱処理する、焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法。
【請求項2】
原料焙煎コーヒー豆抽出物が、L値19〜29の焙煎コーヒー豆から得られたものである、請求項1記載の焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法。
【請求項3】
加熱処理温度が100〜145℃である、請求項1又は2記載の焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法。
【請求項4】
加熱処理時間が1〜60分である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法。
【請求項5】
加熱処理を加圧下で行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法。
【請求項6】
加熱処理を150〜400kPaの加圧下で行う、請求項1〜5のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法。
【請求項7】
加熱処理の際のBrixが13〜40である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の焙煎コーヒー豆抽出物の製造方法。

【公開番号】特開2013−46641(P2013−46641A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−266301(P2012−266301)
【出願日】平成24年12月5日(2012.12.5)
【分割の表示】特願2011−254858(P2011−254858)の分割
【原出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】