説明

無人移動車の走行経路計画方法

【課題】従来の無人移動車の走行経路計画方法にあっては、駐車車両などにより道幅が局所的に変化していると、無人移動車が蛇行してしまうことから、走行速度を上げることができないという問題点があった。
【解決手段】環境認識手段Sにより取得した前方の環境データから走行可能領域Qを判断して走行する無人移動車Vにおいて走行経路Rを計画するに際し、環境認識手段Sで認識可能な前方距離及び現在の上限走行速度に基づいて決定される前方距離のうちの短い方の前方距離Lと一定の左右幅Wとを有するフィッティングエリアFAを、走行可能領域Q内で最大の曲率半径と最大の左右幅とを取るように設定し、このフィッテングエリアFAの中央線を走行経路Rとすることにより、走行可能領域Qの幅が局所的に変化するようなことがあっても、無人移動車Vを蛇行させることなく高速走行させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境認識手段により取得した前方の環境データから走行可能領域を判断して走行する無人移動車において、その走行経路を計画するのに使用される無人移動車の走行経路計画方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無人移動車の走行経路計画方法としては、例えば、特許文献1に記載されているように、無人移動車に搭載した撮像装置により前方の走行可能領域を抽出し、その領域を進行方向に分割し、各分割領域の重心を近似曲線で結んでこれを走行経路とするものがあった。そして、無人移動車は、その走行経路に沿って走行するようにステアリングや速度の制御が成されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−132343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来の無人移動車の走行経路計画方法にあっては、駐車車両などにより道幅が局所的に変化していると、これに伴って走行可能領域の幅も変化して、走行経路が大きく屈曲することとなる。その結果、無人移動車が蛇行してしまうことから、走行速度を上げることができないという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0005】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたものであって、環境認識手段により取得した前方の環境データから走行可能領域を判断して走行する無人移動車において、走行可能領域の幅が局所的に変化するようなことがあっても、無人移動車を蛇行させることなく高速走行を継続することができる無人移動車の走行経路計画方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の無人移動車の走行経路計画方法は、環境認識手段により取得した前方の環境データから走行可能領域を判断して走行する無人移動車において走行経路を計画するに際し、環境認識手段で認識可能な前方距離及び現在の上限走行速度に基づいて決定される前方距離のうちの短い方の前方距離と一定の左右幅とを有するフィッティングエリアを、走行可能領域内で最大の曲率半径と最大の左右幅とを取るように設定し、このフィッテングエリアの中央線を走行経路とする構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
なお、上記構成において、フィッティングエリアは、最大の曲率半径と最大の左右幅とを取るように走行可能領域に内接するものとなり、走行可能領域が直線的に存在する場合には、最大の曲率半径に沿った前方距離はほぼ直線距離となる。
【0008】
本発明の無人移動車の走行経路計画方法は、より好ましい実施形態として、フィッティングエリアの左右幅が減少したときのモードであって、フィッティングエリア内の左右に安全距離を設定し、安全距離を確保して走行可能である場合には、フィッティングエリアの中央線を現在の走行経路に対応する位置にシフトさせて、そのシフトラインを走行経路とし、安全距離が確保できない場合には、フィッティングエリアの中央線を走行経路とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無人移動車の走行経路計画方法によれば、環境認識手段により取得した前方の環境データから走行可能領域を判断して走行する無人移動車において、走行可能領域の幅が局所的に変化するようなことがあっても、無人移動車を蛇行させることなく高速走行を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の無人移動車の走行経路計画方法の一実施形態を説明するフローチャート(a)及びフィッティングエリアの設定を説明する平面図(b)である。
【図2】無人移動車の一例を説明する斜視図である。
【図3】走行可能領域の幅が局所的に増大している場合における無人移動車の走行状態を順次説明する各々平面図(a)〜(e)である。
【図4】走行可能領域の幅が局所的に減少している場合における無人移動車の走行状態を順次説明する各々平面図(a)〜(c)である。
【図5】走行可能領域がカーブしている場合における無人移動車の走行状態を順次説明する各々平面図(a)(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の無人移動車の走行経路計画方法の一実施形態を説明する。図2に示す無人移動車Vは、車体Bに、前後左右の四つの車輪Cを備えると共に、エンジン又はモータ等の駆動源、変速機構、ステアリング機構、及び増減速機構などを備えている。
【0012】
また、無人移動車Vは、前方の環境認識を行うための環境認識手段Sや、各種データを処理して各機構に指令を与える制御手段を備え、環境認識手段Sで取得した環境データから走行可能領域を判断して走行経路を計画し、その走行経路に沿って走行するものとなっている。環境認識手段としては、各種カメラやレーザレンジファインダなどを利用することができる。
【0013】
さらに、無人移動車Vは、各種データを送受信する手段を備え、例えば環境認識手段Sで取得した画像に基づいて遠隔操作することが可能であると共に、遠隔操作と自律走行を組み合わせた半自律的な走行も可能である。
【0014】
上記の無人移動車Vの走行経路計画方法は、環境認識手段で認識可能な前方距離及び現在の上限走行速度に基づいて決定される前方距離のうちの短い方の前方距離と一定の左右幅とを有するフィッティングエリアを、走行可能領域内で最大の曲率半径と最大の左右幅とを取るように設定し、このフィッテングエリアの中央線を走行経路とするものである。
【0015】
より具体的には、図1(a)のフローチャートに示すように、処理を開始すると、ステップS1において、現在の上限走行速度で決められた前方距離Lvを算出する。現在の上限走行速度とは、例えば、遠隔操縦者が路面状況を見て判断した速度であり、指令信号として無人移動車Vに送信する。また、前方距離Lvは、その上限走行速度で制動可能な距離である。
【0016】
次に、ステップS2において、環境認識手段Sで認識可能な前方距離すなわち環境認識手段Sで認識できる最長の前方距離Lsを算出する。そして、ステップS3において、上限走行速度による前方距離Lvと環境認識による前方距離Lsとを比較する。
【0017】
ここで、上限走行速度による前方距離Lvよりも環境認識による前方距離Lsが大きい場合(Yes)には、ステップS4において、上限走行速度による前方距離Lvを前方距離L(L=Lv)とする。また、上限走行速度による前方距離Lvよりも環境認識による前方距離Lsが小さい場合(No)には、ステップS5において、環境認識による前方距離Lsを前方距離L(L=Ls)とする。つまり、上限走行速度による前方距離Lvと環境認識による前方距離Lsのうちの短い方を前方距離Lとする。
【0018】
その後、ステップS6において、図1(b)に示すように、現在までに認識できた走行可能領域Q内で、無人移動車Vの前縁から前方距離Lで且つ一定の左右幅Wを有するフィッティングエリアFAを設定する。この際、ステップS6において、フィッティングエリアFAは、走行可能領域Qに対して最大の曲率半径に沿う前方距離Lと最大の左右幅Wを取るように、同走行可能領域Qに内接するものである。
【0019】
なお、直線的に走行している場合には、最大の曲率半径に沿う前方距離Lは、図1に示す如くほぼ直線距離である。また、図1(b)中で、走行可能領域Qは、例えば未舗装路であり、無人移動車Vの前方の扇形状のエリアAsは環境認識手段Sの認識範囲を示す。
【0020】
さらに、ステップS7において、フィッティングエリアFAの中央線CLを走行経路Rと規定し、ステップS8において、走行経路Rに沿って走行するように経路計画を行って処理の終了となる。これにより、無人移動車Vは走行経路Rに沿って走行する。
【0021】
このようにして、上記の無人移動車Vの走行経路計画方法によれば、環境認識手段Sにより取得した前方の環境データから走行可能領域Qを判断して走行する無人移動車Vにおいて、走行可能領域Qの幅が局所的に変化するようなことがあっても、無人移動車Vを蛇行させることなく高速走行を継続することができる。
【0022】
すなわち、図3に示すように、走行可能領域(未舗装路)Qの途中に、部分的に外側に広がる拡大エリアQaがある場合、従来のように、走行可能領域を進行方向に分割して各分割領域の重心を近似曲線で結んでこれを走行経路曲線とする方法では、拡大エリアQaを含めて分割領域を設定するので、拡大エリアQaの部分で走行経路曲線が一旦外側に屈曲することとなる。このため、無人移動車Vが走行経路曲線の屈曲部分で蛇行するので、高速走行が困難であり、必然的に走行速度を下げなければならない。
【0023】
これに対して、本発明の走行経路計画方法では、先述したように前方距離Lと一定の左右幅Wとを有し且つ走行可能領域Qに内接するフィッティングエリアFAを設定するので、走行可能領域Qの途中に拡大エリアQaが存在しても、拡大エリアQaを含まずにフィッティングエリアFAが設定される。これにより、拡大エリアQaの部分で走行経路Rが屈曲しないので、無人移動車Vを蛇行させずに高速走行させることができる。
【0024】
また、本発明の無人移動車Vの走行経路計画方法は、例えば駐車車両などにより、走行可能領域の幅が減少した場合にも、上記の処理により走行することが可能であるが、より好ましい実施形態として、フィッティングエリアの左右幅が減少したときに対処するモードを備えたものとすることができる。
【0025】
上記モードの走行経路計画方法は、フィッティングエリアFA内の左右に安全距離を設定し、安全距離を確保して走行可能である場合には、フィッティングエリアの中央線を現在の走行経路に対応する位置にシフトさせて、そのシフトラインを走行経路とし、安全距離が確保できない場合には、フィッティングエリアの中央線を走行経路とする。
【0026】
より具体的には、図4(a)に示すように、走行可能領域(未舗装路)Qの途中に、部分的に内側に突出する障害エリアQbがあり、これにより走行可能領域Qの幅が局所的に減少している場合には、フィッティングエリアFA内の左右に安全距離Laを設定する。
【0027】
フィッティングエリアFAは、先述の如く前方距離Lと一定の左右幅Wとを有し且つ走行可能領域Qに内接するものであるから、障害エリアQbの部分では、図4(b)に示すように、フィッティングエリアFAの左右幅Wも小さくなる。
【0028】
このとき、走行経路計画方法では、障害エリアQbとの間に安全距離Laを確保して走行可能である場合、つまり、安全距離Laの幅を有する安全帯(図4中の斜線部分SA)に入らずに走行可能である場合には、図4(b)に示すように、フィッティングエリアFAの中央線CLを現在の走行経路Rに対応する位置にシフトさせ、そのシフトラインを走行経路Rとする。なお、現在の走行経路Rに対応する位置とは、フィッティングエリアFAが障害エリアQbに到達する以前の走行経路R(図4(a)に示す走行経路R)の位置である。これにより、走行経路計画方法では、障害エリアQbの部分で走行経路Rがほとんど屈曲しないので、無人移動車Vを蛇行させずに高速走行させることができる。
【0029】
また、図4(c)に示すように、無人移動車Vが障害エリアQbを通過しつつある状態において、走行可能領域Qに内接するフィッティングエリアFAの左右幅Wに大きな変化が無い場合にも、フィッティングエリアFAの中央線CLを現在の走行経路R(図4(b)に示す走行経路R)に対応する位置にシフトさせ、そのシフトラインを走行経路Rとする。これにより、無人移動車Vは、蛇行することなく高速走行を継続することができる。
【0030】
さらに、当該走路計画方法では、無人移動車Vが障害エリアQbを通過し、フィッティングエリアFAの左右幅Wが図4(a)に示す程度に増大した場合には、上記のモードを解除すると、それ以前にシフトしていた走行経路Rと新規の走行経路Rの位置が殆ど変わらないので、この場合にも、無人移動車Vを蛇行させずに高速走行させることができる。
【0031】
なお、当該走路計画方法では、障害エリアQbとの間に安全距離Laを確保できない場合、つまり、安全距離Laの幅を有する安全帯(図4中の斜線部分SA)に入ってしまう場合には、図1に示す処理と同様に、フィッティングエリアFAの中央線CLを走行経路Rとする。
【0032】
上記の各実施形態では、フィッティングエリアFAが走行方向に直線的に設定される場合を例示した。このフィッティングエリアFAは、走行可能領域Q内で最大の曲率半径と最大の左右幅とを取るように設定されるので、図5(a)(b)に示すように、走行可能領域Qがカーブしている場合には、最大の曲率半径に沿った曲線的なものとなり、これにより走行経路Rも曲線状となる。
【0033】
本発明の無人移動車の走行経路計画方法では、上述したように、環境認識手段Sで認識可能な前方距離Ls及び現在の上限走行速度に基づいて決定される前方距離Lvのうちの短い方の前方距離を採用することにより、現在の運転状況に一層適応したフィッティングエリアFAを決定することができる。なお、走行経路計画方法としては、環境認識手段Sによる前方距離Ls及び上限走行速度による前方距離Lvのうちのいずれか一方を選択して、フィッティングエリアFAを決定することも可能であり、この場合には処理の簡略化などを図ることができる。
【0034】
本発明の無人移動車の走行経路計画方法は、その構成が上記の各実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の細部を適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
FA…フィッティングエリア、L…前方距離、La…安全距離、Q…走行可能領域、R…走行経路、S…環境認識手段、V…無人移動車、W…左右幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境認識手段により取得した前方の環境データから走行可能領域を判断して走行する無人移動車において走行経路を計画するに際し、
環境認識手段で認識可能な前方距離及び現在の上限走行速度に基づいて決定される前方距離のうちの短い方の前方距離と一定の左右幅とを有するフィッティングエリアを、走行可能領域内で最大の曲率半径と最大の左右幅とを取るように設定し、このフィッテングエリアの中央線を走行経路とすることを特徴とする無人移動車の走行経路計画方法。
【請求項2】
フィッティングエリアの左右幅が減少したときのモードであって、フィッティングエリア内の左右に安全距離を設定し、安全距離を確保して走行可能である場合には、フィッティングエリアの中央線を現在の走行経路に対応する位置にシフトさせて、そのシフトラインを走行経路とし、安全距離が確保できない場合には、フィッティングエリアの中央線を走行経路とすることを特徴とする請求項1に記載の無人移動車の走行経路計画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−3365(P2012−3365A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135720(P2010−135720)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】