説明

無作為に配向した部分面を有する光識別子

本発明は、入射放射線ビームに応答して識別信号を発生させる光識別子、及びそれに対応する方法に関する。単純化された方法での製造が可能にもかかわらず、周囲の干渉に対して十分な安定性を有する、すなわち安定性が改善された光識別子を供するため、担体層(32)を有する前記識別子であって、担体層(32)は前記放射線ビーム(12)に対して少なくとも部分的に透明でかつ前記放射線ビーム(12)の少なくとも一部を散乱する複数の無作為に配向した部分面を有する第1散乱面を有し、前記識別信号が前記放射線ビーム(12)の散乱部分によって生成される、光識別子が提案されている。さらに、前記識別子を有する装置及び前記識別子を識別する読み取り装置が提案されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射放射線ビームに応答して識別信号を発生させる光識別子、特に複製不可能な光識別子、該光識別子を有する装置、前記光識別子を識別する読み取り装置、及び放射線ビームに応答して識別信号を発生させる方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
安全保障目的の“物理的に複製不可能な関数”(PUFs)は、特許文献1から既知である。PUFを、たとえばスマートカード、チップ又は記憶媒体のような装置に組み込むことによって、装置の“複製品”を作製するのが極端に難しくなる。“複製品”とは、その装置の物理的なコピー、又は、その装置入出力動作を十分な信頼性で予測する能力を有するモデルの物理的なコピーのいずれかを意味する。物理的なコピーが困難になるのは、PUFの製造は制御されないプロセスであり、かつPUFが非常に複雑な対象物だからである。正確なモデル化は極端に難しい。その理由は、PUFが複雑なために、わずかに入力が変化する結果、広範にわたって出力が異なってしまうためである。PUFsは、一意性及び複雑性を有するため、識別、認証、又は鍵生成の目的に十分適したものである。
【0003】
既知の光PUFsは、たとえばガラス球、気泡、又は如何なる種類の散乱粒子を含むエポキシの要素から構成されて良い。そのエポキシはまた、複数存在する他の透明手段によって置き換えられても良い。通常通り、以降ではPUFsを識別子と呼ぶことにする。PUFへ放射線、具体的にはレーザーを照射することによってスペックルパターンが生成される。そのスペックルパターンは、入射波面及びPUFの内部構造に強く依存する。入力(波面)は、入射ビームをシフトさせる若しくは傾けることによって、又は焦点を変化させることによって、変化させて良い。わずかな入力の変化さえも、出力(スペックルパターン)に大きく影響すると考えられる。出力はたとえば、ある距離に設けられている適切な読み取り手段によって検出されて良い。適切な読み取り手段とはたとえば、CCD又はCMOSカメラである。
【0004】
特定の測定条件(識別要求)で生成されるスペックルパターンは、時間的にも、考えられ得る全ての外部環境の下でも安定でなければならない。
【0005】
ガラス球、気泡、又は他の散乱粒子を識別子に含めることで、たとえば熱膨張のような物理的特性の差異に起因して安定性が減少する恐れがある。さらにプラスチック等で作られたPUFsにとっては、安定性の要求を満足することは難しい。この材料の機械的安定性及び温度に対する安定性が貧弱だからである。
【0006】
プラスチックPUFよりも安定性を改善させるには、ガラスからPUFを製造することによって実現される。ガラスPUFsに係る問題は、そのガラスに埋め込まれなければならない粒子が、そのガラスよりもはるかに高い融点を有しなければならないことである。さらにその粒子は、ほとんどの粒子と同様に、ガラスに溶解できない。このことに対する既知の解決法は、気泡をそのガラスに入れることである。これはかなり複雑なプロセスである。
【0007】
上述の処理すべては、PUFのバルク材料を製造するための、ある特別な方法を必要としている。PUFにはまた、装置を反射性及び/又は読み取りを‘遅くする’特定のコーティングが供されても良い。
【特許文献1】米国特許第6584214号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、「背景技術」で説明されたような光識別子、すなわち光PUFであって、単純化された方法での製造が可能にもかかわらず、その識別子の利用中に起こる周囲の干渉に対して十分な安定性を有する、すなわち安定性が改善された光PUFの提供である。他の目的は、前記識別子を有する装置、前記識別子を識別する読み取り装置、及び、これらに対応する、放射線ビームに応答して識別信号を発生させる方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、本発明に従った、請求項1に記載の光識別子、請求項10に記載の識別信号の発生方法、請求項13に記載の装置、及び請求項15に記載の読み取り装置によって実現される。
【0010】
好適には複製不可能である本発明に従った光識別子は、前記放射線ビームに対して少なくとも部分的に透明である担体層を有する。前記担体層は、前記放射線ビームの少なくとも一部を散乱する複数の無作為に配向した部分面を有する第1散乱面を有する。前記識別信号は前記放射線ビームの散乱部分によって生成される。前記放射線ビームの前記散乱部分は前記担体層を通り抜ける。
【0011】
粗い面を有する光識別子は容易に製造可能であり、かつ、その部分面で散乱が生じるため、及びその部分面の製造に用いられるプロセスが無作為であるため、その光識別子はほぼ一意の識別信号を発生させるのに利用できる、という知見に本発明は基づいている。部分面は、散乱中に複数の部分ビームを発生させる。その複数の部分ビームは、担体層を透過した後、結合されることで識別信号を生成する。担体層は散乱面を有する。2次元面は、識別信号が検出できるように、入射放射線ビームを散乱することができる。識別信号の発生は、入射放射線としてレーザー放射線を用いることによってさらに改善できる。その理由は、レーザー放射線がコヒーレントなため、識別信号発生中に干渉効果が引き起こされるからである。
【0012】
“部分面”という語は、互いの区別が可能な、かなり明確な平坦面のみならず、波状面部分も意味することに留意すべきである。各異なる部分面は、端部で分離していても良いし、分離していなくても良い。
【0013】
“無作為配向”という語は、確率論的(又は無秩序)配向に加え、ほぼ確率論的となるほどに複雑又は任意である所定の配向をも意味する。
【0014】
光識別子の実施例では、前記担体層は、前記第1散乱面によって散乱された前記放射線ビームの一部を、前記第1散乱面へ、少なくとも部分的に反射する反射面をさらに有する。前記反射面は、前記散乱された前記放射線ビームの一部を散乱面へ反射する。その散乱面では、そのビームのこの反射部分は2回散乱されて良い。識別信号を発生させるのに用いられるそのビームの散乱部分を反射させることによって、前記識別信号は、その識別子の同一面上で検出可能となる。その識別子から、その放射線は、放射線源それ自体又はミラー若しくは他の適切な手段によって前記識別子へ導光される。これは、識別子を透過できず、入射面の反対面での検出ができない条件下では有利になりうる。
【0015】
このような例には、装置上に識別子を供すること、又はラベルのように識別子が上に取り付けられているアイテムを供することがある。粗い散乱面に入射する放射線ビームは散乱され、その散乱ビームの一部は反射面によって反射され、たとえばスペックルパターンのような識別信号を発生させる散乱表面によって再度散乱されて良い。散乱面の特性に依存して、入射ビームの一部もまた反射されるように散乱されて良い。この反射されるように散乱される部分は、反射面によって反射される部分と結合されることによって、より複雑な識別信号を生成する。レーザービームであって良い入射ビームの方向が変化することで、入射角度の関数として、そのビームに係る2つの反射部分が変化するだけではなく、ビームに係る2つの部分が相互に対してシフトする。反射面はまた、相互に対して無作為に配向して良い複数の部分面をも有して良い。
【0016】
識別子の別な実施例に従うと、前記担体層は、前記放射線ビームの少なくとも一部を散乱する複数の無作為配向した部分面を有する第2散乱面をさらに有する。第2散乱面が存在する結果、より複雑な識別信号を生じさせるさらに別な散乱が生じる。しかし本発明は2つの散乱面のみに限定されない。なぜなら識別子には複数の散乱面を供しても良いからである。
【0017】
本発明の好適実施例では、前記担体層は実質的にガラスで作られている。ガラスは、ほとんどのプラスチック材料と比較して優れた特性を有している。優れた特性とはたとえば、機械的特性又は熱安定性に関する特性である。
【0018】
本発明の有利な実施例に従うと、前記第1散乱面、前記反射面、及び/又は前記第2散乱面は、前記担体層の表面である。たとえば研磨又は傷をつけることによって、複数の無作為に配向する部分面を有する粗い表面を作製することは特に容易である。担体層がガラスで作られている場合には、識別子を複製するにはさらに別な障害が存在する。その理由は、たとえ表面の金属スタンプを作製することが原理上可能であるとしても、ガラス成形は常に、表面粗さをある程度の滑らかさにしてしまうので、その形状が変化してしまうからである。反射表面を供するのはさらに容易である。
【0019】
本発明に従った光識別子は、保護層で覆われている担体層を有して良い。保護層は、外界からの影響から担体層を保護する。保護層が供されることで、たとえば傷又は埃に敏感又は非常に敏感な、担体層用に適切な材料を用いることができる。保護層は、担体層が変化すること又は損傷を受けることを防止する。特に担体層表面が散乱面又は反射面として用いられるとき、前記表面は保護されなければならない。
【0020】
本発明の別な実施例では、複製不可能な光識別子は、前記担体層と前記保護層との間の界面に半透明コーティングを有する。半透明コーティングは、識別子を透過する放射線の量を調節するように備えられている。さらに、保護層の屈折率とガラスの屈折率とがほぼ等しい場合には、界面での散乱量はかなり小さくなる。粗い界面に半反射性/半透明コーティングを供することによって、散乱量は、コーティングによる反射の増大に起因して増大可能である。散乱量が増大することは有利になりうる。
【0021】
本発明のさらに別な実施例では、前記半反射性/半透明コーティングは、前記第1散乱面によって反射するように散乱される前記入射放射線の一部について適合している。前記反射するように散乱される入射放射線の一部は、前記担体層を通過し、前記反射面又は前記第2散乱面によって反射され、かつ前記担体層を再度通過する前記放射線ビームの一部の強度と実質的に等しい強度を有する。前記コーティングの反射率及び透過率を適切に調節することで、最初に反射し、続いて透過する量は、識別信号及びその角度依存性が改善されるように調節することができる。散乱表面で反射されるビームの強度と、透過し、反射し、かつ再度透過するビームの強度とがほぼ等しい場合、これらのビームは識別信号に匹敵する量の寄与となる。
【0022】
本発明の他の実施例では、前記保護層は、前記放射線ビームの偏光状態を変化させるように備えられている。前記層は具体的には複屈折性である。保護層それ自体が傷を受ける、保護層に親指が触れる、又は保護層が埃に取り囲まれる場合、発生した識別信号が変化してしまう恐れがある。円偏光子、具体的には1/4波長板と組み合わせられた直線偏光子が、入射放射線ビーム及び検出器へ向かう散乱ビームの経路中に設けられている場合、偏光状態が適切に変化する放射線部分のみが、偏光子を透過し、適切な検出器によって検出可能となる。前記偏光子はたとえば、左回りの円偏光を生成する。ほとんどの如何なる表面に対する反射において、左回り円偏光は、右回り円偏光に変換される。この状態の偏光は、円偏光子によってブロック(吸収)される。よって反射率つまりたとえば表面での傷に起因する散乱を小さくすることができる。なぜなら、そのような外乱に起因して反射又は散乱される入射ビームの一部の偏光状態は変化しないからである。この変化を実現する適切な方法は、保護層の材料を複屈折性材料にすることである。これは全般的に、光識別子の読み取りに有利に適用されて良いし、必ずしも本発明に従った光識別子のみに適用可能なものでもない。
【0023】
本発明に従った、入射放射線ビームに応答して識別信号を発生させる方法は、
複数の無作為に配向した部分面を有する光識別子の散乱面によって前記放射線ビームを散乱する手順;
前記光識別子の担体層を介して前記放射線ビームの少なくとも一部を透過させる手順;及び
前記放射線ビームの少なくとも散乱部分を結合させることによって前記識別信号を生成する手順;
を有する。
【0024】
入射放射線ビームは、たとえば屈折又は回折の結果として、散乱面によって散乱される。本明細書では、たとえばビーム又はビームの一部の方向が散乱によって変化するというのは、その変化が実質的に無作為又は予測不能なものであることを意味することに留意すべきである。散乱はまた、たとえば周波数(すなわち波長)又は偏光のような、放射線に係る他の特性の変化をも含んで良い。散乱面は必ずしも担体層表面である必要がないので、放射線ビーム(の一部)を透過させる手順は、散乱手順前及び/又は後に行われても良い。当該方法は、放射線ビームが担体層を透過した後に、識別信号を発生させることを可能にする。
【0025】
別な実施例では、本発明に従った方法は、前記放射線ビームの前記散乱部分の少なくとも一部を反射する手順を有する。反射手順は、入射ビームの一般方向での識別信号の検出のみならず、たとえば識別子から入射ビームが入射した面上の識別信号の検出をも可能にする。
【0026】
有利な実施例では、本発明に従った方法は、前記散乱面で前記放射線ビームの一部を反射する手順をさらに有する。前記識別信号は、前記放射線ビームの前記反射部分を結合することによって生成される。前記散乱面で反射された前記ビームの一部と前記散乱面によって散乱され、その後反射した前記ビームの一部とが結合した結果、発生した識別信号はより複雑となるために、偽造が困難となる。検出器によって検出された識別信号は、様々な散乱事象で構成されている。第1に、第1散乱面では散乱が生じる。透過した散乱光と透過した屈折光の両方は、第2面によって屈折し、かつ前記散乱面に再度入射する。その光は部分的に散乱され、部分的に屈折し、かつ部分的に鏡面反射する。透過した散乱光及び屈折光は、前記散乱面で先に反射するように散乱された光と結合する。レーザー又は他の十分コヒーレントな放射線が用いられる場合、その結合はコヒーレントな干渉を含む。よって新たに発生する放射線ビームは、多少無作為の振幅分布及び無作為の相分布を有し、PUFに入射した元の放射線ビームよりもわずかに大きな直径を有して良い。この新たに発生する光ビームは、識別子の上に位置する空間へ回折され、その一部は検出器に到達する。このとき、たとえばスペックルパターンのような識別信号を観測することができる。
【0027】
本発明に従った識別子を有する装置は、入射放射線ビームに応答して識別信号を発生させる光識別子を有する。前記識別子は、入射放射線ビームに対して少なくとも部分的に透明な担体層を有する。前記担体層は、前記放射線ビームの少なくとも一部を散乱する複数の無作為に配向した部分面を有する第1散乱面を有する。前記識別信号は前記放射線ビームの散乱部分によって生成される。前記放射線ビームの前記散乱部分は前記担体層を通り抜ける。前記光識別子は、前記装置を実質的に一意に識別する。前記装置は具体的には、スマートカード、クレジットカード、IDカード又はデータキャリアであって良い。
【0028】
本発明はさらに、入射放射線ビームに応答して識別信号を発生させる光識別子を識別する読み取り装置に関する。前記識別子は、入射放射線ビームに対して少なくとも部分的に透明な担体層を有する。前記担体層は、前記放射線ビームの少なくとも一部を散乱する複数の無作為に配向した部分面を有する第1散乱面を有する。前記識別信号は前記放射線ビームの散乱部分によって生成される。前記放射線ビームの前記散乱部分は前記担体層を通り抜ける。前記担体層は、前記放射線ビームの偏光状態を変化させるように備えられている保護層で覆われている。前記層は具体的には複屈折性である。前記読み取り装置は、前記放射線ビームを発生させる放射線源、前記識別信号を検出する画像化装置、並びに前記放射線ビーム及び前記識別信号の経路中に備えられている円偏光子を有する。この読み取り装置は、上述したように偏光状態を変化させる保護層を有する光識別子の利点をうまく生かすように備えられている。
【0029】
以降では、図を参照しながら、本発明に係る実施例を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、放射線ビーム12によって照射される、本発明に従った複製不可能な光識別子10の第1実施例に係る概略的断面図を図示している。識別子10は担体層14を有し、担体層14は無作為に配向した複数の部分面を有する散乱面16を有する。前記担体層14は、前記放射線に対して少なくとも部分的に透明である。前記担体層14及び後述の担体層に係る好適材料はガラスだが、少なくとも部分的に透明な材料も適している。前記放射線ビーム12は、放射線源18によって発生し、かつ前記散乱面16へ導光される。具体的には前記複数の部分面である前記散乱面16は前記放射線ビーム12を散乱し、無作為に配向した方向を有する複数の部分ビーム22を有する前記ビーム12の散乱部分20が発生する。前記散乱部分20は前記担体層14を通り抜け、前記識別子10から射出される。部分ビーム22は、たとえばカメラ24のような適切な検出手段によって検出されて良い。その検出手段は、前記識別子10の面のうちの前記放射線源の反対を向く面の側に設けられている。前記カメラ24によって検出される識別信号は、前記放射線ビーム12の前記散乱部分20によって生成される。前記散乱面16又は前記散乱面とは反対側である前記担体層14の表面26で反射が起こることは考えられる。さらに前記表面26で前記部分ビーム22の屈折が起こることもあり得る。しかし簡明を期すため、反射の結果及び屈折による方向変化は図示されていない。
【実施例1】
【0031】
図2は、放射線ビーム12によって照射される、本発明に従った複製不可能な光識別子30の第2実施例に係る概略的断面図を図示している。識別子30は図1に図示された識別子10と同様で、散乱面34を有する担体層32を有し、散乱層34は無作為に配向する複数の部分面を有する。さらに前記担体層32には、前記散乱面34の反対側である表面38上に反射コーティング36が供される。よって前記担体は反射面38を有する。前記放射線ビーム12は、放射線源18によって発生し、かつ前記散乱面34へ導光される。前記放射線ビーム12は部分的に散乱される。前記放射線ビーム12の一部は前記担体層に入射し、また前記放射線ビーム12の一部は反射される。よって複数の散乱された部分ビーム40は少なくとも部分的に透明な担体層32を通り抜け、前記反射面38で反射されて前記散乱面34へ向かい、かつ前記散乱面34で再度散乱される。識別信号は、前記散乱面34の前方に設けられているカメラ24によって検出されて良い。前記識別信号は、前記放射線ビーム12のうちの前記の2度散乱されて反射される部分42によって生成される。別な寄与が、前記散乱面34によって反射される前記放射線ビーム12の一部44によって与えられて良い。
【0032】
前記反射コーティング36は約85%の反射率を有する厚さ約100nmのアルミニウムコーティングだが、如何なる他の適切な手段及び厚さの値が、反射面を供するのに用いられても良い。反射が概ね検出手段に向かうように起こる限り反射の厳密な方向は重要ではないので、前記反射面38は滑らかな面又は研磨されている面である必要はない。
【実施例2】
【0033】
図3は、放射線ビーム12によって照射される、本発明に従った複製不可能な光識別子50の第3実施例に係る概略的断面図を図示している。前記光識別子50は、第1散乱面54に加えて第2散乱面56が担体層52に供されている点で、図1に図示されている識別子10とは異なる。上述したように、放射線源18によって発生する放射線ビーム12は前記第1散乱面54に入射して散乱される。前記担体層52を通り抜けた後、前記放射線ビームの前記散乱部分58は、前記第2散乱面56に入射し、再度散乱されることで、複数の散乱された部分ビーム60を生成する。複数の散乱された部分ビーム60は、識別信号としてカメラ24によって検出されて良い。
【0034】
図示されてきた散乱面及び反射面が各対応する担体層の表面に存在するが、内部に備えられる適切な面を有する担体層を用いることも可能である。
【実施例3】
【0035】
図4-図6は、本発明に従った複製不可能な光識別子70,80及び100の第4、第5及び第6実施例に係る概略的断面図を図示している。
【0036】
図4に図示された識別子70は、図1に図示された識別子10と一致する。しかし識別子70には保護層72がさらに供され、保護層72は、複数の無作為に配向する担体層76の部分面を有する散乱面74を覆う。前記保護層は傷に対する耐性を有し、たとえばブルーレイディスクのように約10μmから100μmの厚さを有する。前記保護層は傷に対する高い耐性を有することが好ましい。保護層72は、クレジットカード用の被覆層として用いられるのにも適していると考えられる。
【実施例4】
【0037】
図5は、図2に図示された識別子30と同様の識別子80を図示している。担体層82には、散乱面84及び反射面86が供される。反射面86は、前記散乱面84とは反対側である前記担体層82の表面上に設けられる反射コーティング88によって供される。前記識別子は、前記担体層82の表面である散乱面84上に供される保護層90をさらに有する。前記担体層82と前記保護層90との間には、約25%の反射率及び約50%の透過率を有するたとえば厚さ約4nmのアルミニウムコーティングのような半透明コーティング92が備えられている。前記半透明コーティング92は、前記散乱面84で散乱され、担体層82を通り抜け、前記反射面86で反射され、担体層82を再度通り抜け、散乱面84で再度散乱され、かつたとえばカメラへ向かって識別子80から射出される放射線の一部に係る出力に対して適合している。前記出力は、散乱面84によって反射され、かつ担体層82へは入射しない放射線の一部に係る出力とほぼ等しい。
【実施例5】
【0038】
図6は、図3に図示されたのと同様である、本発明に従った複製不可能な光識別子100の別な実施例を図示している。前記識別子100は、第1散乱面104及び第2散乱面106を有する担体層102を有する。第1散乱面104及び第2散乱面106は、互いが反対方向を向いている前記担体層102の表面である。前記散乱面104及び前記散乱面106には、図5で説明した散乱面と同様、半透明コーティング108及び半透明コーティング110が供される。識別子100には、保護層112及び保護層114がさらに供される。保護層112及び保護層114は、前記担体層102に対して相互に反対を向いている、前記半透明コーティング108の面上及び前記半透明コーティング110の面上に備えられる。
【実施例6】
【0039】
図7は、本発明に従った読み取り装置134によって読み取られる、本発明に従った複製不可能な光識別子120の第7実施例に係る概略的断面図を図示している。図5に図示された識別子80と同様な前記識別子120は担体層122を有する。担体層122には、散乱面124及び反射面126が供される。反射面126は、前記散乱面124とは反対側である前記担体層122の表面上に設けられる反射コーティング128によって供される。前記識別子は、前記担体層122の表面である散乱面124上に供される保護層130をさらに有する。前記担体層122と前記保護層130との間には、半透明コーティング132が備えられている。保護層130は、該保護層130を通り抜ける放射線の偏光状態を変化させる材料で作られる。具体的に保護層130は、複屈折性材料で作られる。
【0040】
読み取り装置134は、放射線ビーム12を発生させ、かつその放射線ビーム12を前記光識別子120へ導光する放射線源18、その放射線ビーム12に応答する前記光識別子120によって発生する識別信号を検出するカメラ24、及びその放射線の経路中に備えられている円偏光子、を有する。前記放射線ビーム12は前記識別子120へ入射する。前記放射線ビーム120の一部138は、保護層130外部表面又は前記表面上の埃によって反射される。この部分138の円偏光部分は変化しない。その理由は、この部分138は前記複屈折性保護層へ入射しないためである。ただし、層130の前方表面に対する反射による回転方向については除く。よって放射線ビームの一部138は遮断され、カメラ24へ到達しないため、前記識別信号の検出を変化させない、すなわち妨害しない。保護層130を通り抜け、かつ偏光状態の変化を受けた放射線ビーム12の一部及びその結果生じた部分ビームのみが、偏光子136をも部分的に通り抜け、前記カメラ24によって検出されて良い。1つだけの偏光子の代わりに、適切な対応する偏光子を多数用いても良い。たとえば、1つを入射放射線の経路中に、1つを識別子と検出器との間の散乱ビームの経路中に設けるなどが考えられる。
【0041】
散乱面の粗さRaは、最大100μmで良く、具体的には0.01μmから10μmの間で、好適には0.05μmから1μmの間である。担体層、保護層及びコーティングの厚さの値は均一である必要はない。担体層及び識別子は曲面を有する、すなわち曲がっていても良い。
【実施例7】
【0042】
図8は、本発明に従った複製不可能な光識別子80を有する装置140の第1実施例に係る概略的断面図を図示している。本発明はこの型の埋め込みに限定されず、他多くの適切な方法で前記装置に光識別子を取り付けることも可能である。
【実施例8】
【0043】
図9は、本発明に従った複製不可能な光識別子100を有する装置150の第2実施例に係る概略的断面図を図示している。前記光識別子100は、放射線ビームが前記識別子100を通り抜け、前記識別子100によって散乱され、かつ前記装置150をも通り抜けることが可能なように、前記装置150に埋め込まれている。本発明はこの型の埋め込みに限定されず、他多くの適切な方法で前記装置に光識別子を取り付けることも可能である。
【実施例9】
【0044】
図10-図12は、本発明に従った、識別信号を発生させる方法の実施例を表すダイヤグラムを図示している。
【0045】
図10は、識別信号を発生させる方法の第1実施例を図示している。手順160では、複製不可能な光識別子の散乱面に入射する放射線ビームは、無作為に配向する複数の部分面を有する前記散乱面によって散乱される。前記放射線ビームの少なくとも一部は、前記複製不可能な光識別子の担体層を透過する(手順162)。前記識別信号は、前記放射線ビームの少なくとも散乱部分を結合することによって生成される(手順164)。
【実施例10】
【0046】
識別信号を発生させる方法の第1実施例が図11に図示されている。手順170では、複製不可能な光識別子の散乱面に入射する放射線ビームは、無作為に配向する複数の部分面を有する前記散乱面によって散乱される。前記放射線ビームの少なくとも一部は、前記複製不可能な光識別子の担体層を透過(手順172)して、前記識別子の反射面に到達する。前記放射線ビームの一部反射(手順174)され、前記担体層を再度透過する(手順176)。前記識別信号は、前記放射線ビームの少なくとも散乱部分を結合することによって生成される(手順178)。
【実施例11】
【0047】
図12では、図11に図示された方法と同様な、識別信号を発生させる方法の別な実施例が図示されている。入射放射線ビームは、識別子の散乱面によって散乱される(手順180)。このとき、前記ビームの一部は前記散乱面で反射され(手順182)、かつ前記ビームの他の一部は前記識別子の担体層を透過する(手順184)。前記ビームの前記透過部分は、前記識別子の反射面で少なくとも部分的に反射され(手順186)、かつ前記担体層を再度透過する(手順188)。識別信号は、前記放射線ビームの反射部分を結合することによって生成される(手順190)。
【0048】
本方法の効果を変化させないように上述の手順の順序を変更することは複数の方法で可能である。たとえば、最初に識別子の担体層に放射線ビームを透過させ、続いて前記識別子の散乱面で前記放射線ビームを散乱させることも可能である。
【0049】
入射放射線ビームに応答して識別信号を発生させる(複製不可能な)光識別子、該光識別子を有する装置、前記(複製不可能な)光識別子を識別する読み取り装置、及び放射線ビームに応答して識別信号を発生させる方法が提案された。その識別子は容易に製造され、かつ機械的応力、熱変化、埃などの外界からの影響に対する、十分なすなわち改善された耐性を示す。散乱粒子又は流体又は気泡を供するような、係る識別子を製造する既知の方法は、本発明に従った担体層が入射ビームをさらに散乱するように、併用されて良い。本発明に従った光識別子を有する装置は、その識別子によって発生する識別信号を用いて適切に識別されて良い。本発明に従った読み取り装置は、生じうる傷又は識別子の固体表面による他の障害に関係なく光識別子を高い信頼性で識別できる。さらに、光識別子へ容易に実装できる、識別信号を発生させる方法が供される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】放射線ビームによって照射される、本発明に従った複製不可能な光識別子の第1実施例に係る概略的断面図を図示している。
【図2】放射線ビームによって照射される、本発明に従った複製不可能な光識別子の第2実施例に係る概略的断面図を図示している。
【図3】放射線ビームによって照射される、本発明に従った複製不可能な光識別子の第3実施例に係る概略的断面図を図示している。
【図4】本発明に従った複製不可能な光識別子の第4実施例に係る概略的断面図を図示している。
【図5】本発明に従った複製不可能な光識別子の第5実施例に係る概略的断面図を図示している。
【図6】本発明に従った複製不可能な光識別子の第6実施例に係る概略的断面図を図示している。
【図7】本発明に従った読み取り装置によって読み取られる、本発明に従った複製不可能な光識別子の第7実施例に係る概略的断面図を図示している。
【図8】本発明に従った複製不可能な光識別子を有する装置の第1実施例に係る概略的断面図を図示している。
【図9】本発明に従った複製不可能な光識別子を有する装置の第2実施例に係る概略的断面図を図示している。
【図10】本発明に従った、識別信号を発生させる方法の実施例を表すダイヤグラムを図示している。
【図11】本発明に従った、識別信号を発生させる方法の実施例を表すダイヤグラムを図示している。
【図12】本発明に従った、識別信号を発生させる方法の実施例を表すダイヤグラムを図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射放射線ビームに応答して識別信号を発生させる光識別子であって、
当該識別子は、前記放射線ビームに対して少なくとも部分的に透明な担体層を有し、
前記担体層は、前記放射線ビームの少なくとも一部を散乱する複数の無作為に配向した部分面を有する第1散乱面を有し、
前記識別信号が、前記担体層を通り抜けて散乱される前記放射線ビームの少なくとも一部によって生成される、
光識別子。
【請求項2】
前記担体層が反射面をさらに有し、
前記反射面は、前記第1散乱面によって散乱された前記放射線ビームの一部を、前記第1散乱面へ向けて少なくとも部分的に反射する、
請求項1に記載の光識別子。
【請求項3】
前記担体層が第2散乱面をさらに有し、
前記第2散乱面は、前記放射線ビームの少なくとも一部を散乱する複数の無作為に配向する部分面を有する、
請求項1に記載の光識別子。
【請求項4】
前記担体層が実質的にガラスで作られている、請求項1に記載の光識別子。
【請求項5】
前記第1散乱面、前記反射面、及び/又は前記第2散乱面が、前記担体層の表面である、請求項1,2又は3に記載の光識別子。
【請求項6】
前記担体層が保護層で覆われている、請求項1に記載の光識別子。
【請求項7】
前記担体層と前記保護層との間の界面に半透明コーティングをさらに有する、請求項6に記載の光識別子。
【請求項8】
前記半透明コーティングが、前記第1散乱面で反射するように散乱される前記放射線ビームの一部に適合し、
前記放射線ビームの前記一部は、前記担体層を通り抜け、前記反射面又は前記第2散乱面で反射され、かつ前記担体層を再度通り抜ける前記放射線ビームの一部に係る強度にほぼ等しい、
請求項2,3又は7に記載の光識別子。
【請求項9】
前記保護層が、前記放射線ビームの偏光状態を変化させるように備えられている、具体的には複屈折性である、請求項6に記載の光識別子。
【請求項10】
入射放射線ビームに応答して識別信号を発生させる方法であって:
複数の無作為に配向した部分面を有する光識別子の散乱面によって前記放射線ビームを散乱する手順;
前記光識別子の担体層を介して前記放射線ビームの少なくとも一部を透過させる手順;及び
前記放射線ビームの少なくとも散乱部分を結合させることによって前記識別信号を生成する手順;
を有する方法。
【請求項11】
前記放射線ビームの前記散乱部分の少なくとも一部を反射する手順をさらに有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記散乱面で前記放射線ビームの一部を反射する手順をさらに有する方法であって、前記識別信号が前記放射線ビームの前記散乱部分を結合することによって生成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の光識別子を有する装置であって、前記光識別子が前記装置を一意に識別する装置。
【請求項14】
前記装置が、スマートカード、クレジットカード、IDカード又はデータ記憶媒体である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
入射放射線ビームに応答して識別信号を発生する光識別子を識別する読み取り装置であって、
前記識別子は前記放射線ビームに対して少なくとも部分的に透明な担体層を有し、
前記担体層は、前記放射線ビームの少なくとも一部を散乱する無作為に配向する複数の部分面を有する第1散乱面を有し、
前記識別信号は前記担体層を通り抜ける、散乱された前記放射線の前記一部によって生成され、
前記担体層は、前記放射線ビームの偏光状態を変化させるように備えられている、具体的には複屈折性の保護層によって覆われる、
ことを特徴とし、
前記放射線ビームを発生させる放射線源、前記識別信号を検出する画像化装置、並びに前記放射線ビーム及び前記識別信号の経路中に備えられている円偏光子、
を有する読み取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−524689(P2008−524689A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546262(P2007−546262)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【国際出願番号】PCT/IB2005/054181
【国際公開番号】WO2006/064448
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】