説明

無効電力補償装置及びその制御方法

【課題】電流検出器を必要とせず、制御の多重化における待機系側に誤差が蓄積しない無効電力補償装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】系統に接続されたリアクトル12と、リアクトル12と直列に接続されたサイリスタ13と、系統の交流電圧を検出する電圧検出手段3と、サイリスタ13の点弧角を制御する制御手段4とで構成する。制御手段4は、交流電圧から交流電圧指令値を減算して第1の電圧偏差を求める演算手段41と、第1の電圧偏差から交流電流推定値にスロープリアクタンスを乗算した値を減算して第2の電圧偏差を求める演算手段42と、第2の電圧偏差を入力とし、この第2の電圧偏差がゼロになるようにその出力である無効電力指令を調整する電圧補償手段43と、無効電力指令に応じてサイリスタ13の点弧角を制御する点弧制御手段46とを備える。交流電流推定値は、無効電力指令に交流電圧と定格電圧との比を乗算して求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力系統において交流電圧を一定範囲に維持するために使用されている、逆並列に接続したサイリスタを制御してリアクトル電流の大きさを変える無効電力補償装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統において、交流電圧を一定範囲に維持するため、逆並列に接続したサイリスタを制御してリアクトル電流の大きさを変えるサイリスタ制御リアクトル式の無効電力補償装置(以下TCR装置と呼称する。)が一般的に使用されている。
【0003】
TCR装置は変圧器を介して交流系統に接続され、逆並列に接続されたサイリスタによってこのサイリスタと直列に接続されリアクトルの通電電流位相を制御する。この結果、TCR装置は遅れ無効電力を発生することとなり、並列に設置されるフィルタコンデンサの進み無効電力を相殺し、系統に与える無効電力を制御することにより交流系統の電圧変動を抑制する。
【0004】
TCR装置の制御においては、交流電圧検出器によりTCR装置が接続される交流母線電圧を検出し、この検出電圧Vacが交流電圧指令Vrefとなるような制御を行う。このとき、TCR装置に流れる電流ItcrにスロープリアクタンスXslを乗算した電圧を補正電圧ΔVxslとして補正演算を行なう。即ち、ΔV1=(Vac−ΔVxsl−Vref)がゼロとなるようにTCR装置のサイリスタの点弧位相αを制御する。近年、この制御を安定に行うため、運転状態に応じて制御パラメータを調整する手法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−92713号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された従来のTCR装置の制御においては、電圧−電流特性(V−I特性)にスロープリアクタンスXsl相当の傾きを与えるためにTCR装置の実電流を検出し、この実電流から演算によって補正電圧を求めるようにしていた。この従来の方式では、電流検出のための電流検出器が必要となるばかりでなく、制御系を多重化した場合、実際に制御して出力電流を決定している常用系に対し、待機している待機系では、実際の出力電流と比例・積分制御される補償演算器の出力である無効電力指令値の間の誤差が蓄積し、点弧位相αが最大値に振り切ってしまうという欠点があり、常用系が異常となって制御が待機系側に切り替わったとき、大きな電圧変動が生じるという欠点があった。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するために為されたもので、その目的は、電流検出器を必要とせず、制御の多重化における待機系側に誤差が蓄積しない無効電力補償装置及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の無効電力補償装置及びその制御方法は、交流電力系統に接続されたリアクトルと、このリアクトルと直列に接続された逆並列構成のサイリスタと、前記交流電力系統の交流電圧を検出する電圧検出手段と、前記サイリスタの点弧角を制御する制御手段とを備えた無効電力補償装置において、前記制御手段は、前記交流電圧から交流電圧指令値を減算して第1の電圧偏差を求め、この第1の電圧偏差から交流電流推定値にスロープリアクタンスを乗算した補正電圧値を減算して第2の電圧偏差を求め、この第2の電圧偏差を入力とし、この第2の電圧偏差がゼロになるようにその出力である無効電力指令を調整し、この無効電力指令に応じて前記サイリスタの点弧角を制御するようにし、前記交流電流推定値は、前記無効電力指令に前記交流電圧と前記交流電力系統の定格電圧との比を乗算して求めるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電流検出器を必要とせず、制御の多重化における待機系側に誤差が蓄積しない無効電力補償装置及びその制御方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施例について図1及び図2を参照して説明する。
【0010】
図1は本発明の無効電力補償装置の回路構成図である。交流母線にはTCR装置主回路1とフィルタコンデンサ2と交流電圧検出器3が接続されている。TCR装置主回路1は交流母線に接続された入力変圧器11と、この入力変圧器11の2次側に接続されたリアクトル12と、このリアクトル12に直列に接続され、リアクトル12に流れるTCR電流を制御するためのサイリスタ13によって構成されている。サイリスタ13は正・負の電流を制御する必要があるため、正側及び負側のサイリスタが逆並列に接続されている。
【0011】
交流電圧検出器3によって検出された交流母線の電圧Vacは3台の制御ユニット4A、4B及び4Cに並列に与えられる。3台の制御ユニット4A、4B及び4Cは後述するように同一の回路構成を有しており、交流母線の電圧Vacが与えられた交流電圧指令値Vrefに追従するようにサイリスタ13の点弧位相αを演算によって求めて制御パルスをパルス選択器5に与える。そしてパルス選択器5は制御ユニット4A、4B及び4Cの何れかの制御パルスを選択し、点弧パルス生成回路6を介して点弧パルスをサイリスタ13に与える。ここでパルス選択器5は、予め常用制御系として与えられた制御ユニットの制御パルスを選択し、当該制御ユニットが異常となったとき、待機系の制御ユニットの制御パルスを選択するようにしても良いが、制御ユニット4A、4B及び4Cから与えられる制御パルスのうち、最も早く得られた制御パルスを選択するようにしても良い。また、この制御パルスで直接サイリスタ13を制御することが可能であれば、点弧パルス生成回路6は省略しても良い。
【0012】
以下制御ユニット4Aを例に、その内部構成を説明する。
【0013】
交流電圧検出器3によって検出された交流母線の電圧Vacから減算器41によって交流電圧指令値Vrefが減算され、その出力である電圧偏差ΔV1は減算器42を介して補償演算器43に与えられる。
【0014】
一方、補償演算器43の出力である無効電流指令値Itcr_refと交流母線電圧Vacを乗算器44で乗算し、TCR電流推定値Itcr*を得る。尚この乗算で用いる交流母線電圧Vacは定格電圧Voに対する比を表しているものとする。
【0015】
そして、TCR電流推定値Itcr*とスロープリアクタンスXslを乗算器45で乗算し、この乗算結果である偏差ΔVxslを上述した減算器42によって電圧偏差ΔV1から減算する。このような演算を行なうことによって、補償演算器43の入力である電圧偏差ΔV2は(ΔV1−Itcr*×Xsl)となる。
【0016】
補償演算器43には通常比例積分型の演算器が用いられ、上記電圧偏差ΔV2がゼロになるようにその出力である無効電力指令値Qtcr_refを調節する。これは、交流母線電圧Vacを(Vref+Itcr*×Xsl)となるように制御していることに他ならない。無効電力指令値Qtcr_refは位相制御器46に与えられ、位相制御器46において無効電流指令値Qtcr_refに従ってサイリスタ13の点弧位相αを演算により求めてパルス発生器47に与える。パルス発生器47は点弧位相αを有する制御パルスをパルス選択器5に与える。
【0017】
以上説明した構成における本発明の無効電力補償装置の動作について、図2を参照して以下に説明する。
【0018】
図2は本発明の無効電力補償装置の動作を説明するための制御V−I特性説明図である。この制御V−I特性は、TSR装置の出力電流または出力容量を横軸にとったときの電圧を縦軸に表示している。上述のように交流母線電圧Vacは(Vref+Itcr*×Xsl)となるように制御されるので、TCR電流Itcrがゼロのとき、交流母線電圧Vacは交流電圧指令値Vrefと等しくなり、そのときの点弧位相αは最大値となる。そしてTSR装置の出力電流が増大していくと交流母線電圧Vacは図の実線で示したように傾きがスロープリアクタンスXslの右上がりの直線上を辿り、点弧位相αが最小値となったときTCR電流が最大となる。このようなスロープリアクタンスXslを用いて制御V−I特性に傾きを持たせることによって、電圧変動の大小に拘わらず安定した制御を行うことが可能となる。そしてこのスロープリアクタンスXslは、交流電力系統における電圧検出ポイントに従って任意に設定することが可能である。
【0019】
次にTCR電流推定値Itcr*について説明する。上述したように、位相制御器46はTCR電流Itcrが無効電流指令値Qtcr_refに見合う値となるように点弧位相αを演算により求めている。この演算は、TCR装置主回路1の入力電圧が定格電圧Voであるときの演算式を用いているため、無効電流指令値Qtcr_refに交流母線電圧Vac(前述したように実際は定格電圧Voとの比)を乗算したものがTCR電流推定値Itcr*となる。
【0020】
このようにスロープリアクタンスXslに乗算すべき電流として実電流であるTCR電流Itcrを用いず、上記のTCR電流推定値Itcr*を用いることによって、電流検出器を不要とするばかりでなく、以下のような効果を生じさせる。
【0021】
図1に示したように、制御の信頼性を高めるために制御ユニットを複数台用いた場合、各々の制御ユニットには特性上のバラツキがある。例えば制御系をA系及びB系の二重系として運転し、パルス選択器5が制御系Aを選択している場合を考える。このとき、上記バラツキによって、A系における電圧偏差ΔV2が正、B系における電圧偏差ΔV2が負となっていたとすると、常用のA系の制御は交流電圧Vacを低めにしようと制御するので、常に待機しているB系の検出電圧は低くなり、B系の制御は遅れ電流を最小(発生遅れ無効電力最小)とするように制御が働く。ところが、実際の電流はA系の制御で決まっているので、誤差が蓄積して点弧位相αが最大値(180度方向)に張り付いてしまう。この状態でA系が故障等で切り離されてB系に制御が移行すると、点弧位相αの制御が大きく変動して系統の交流電圧を大きく動揺させてしまう。
【0022】
これに対して、本発明のように各々の制御系においてTCR電流推定値Itcr*を用いた制御を行えば、自らの制御動作に従って各々の制御ユニットのTCR電流推定値Itcr*が決定されるので、上記のように制御系の切換によって点弧位相αの制御が変動することはなく安定した切換を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の無効電力補償装置の回路構成図。
【図2】制御V−I特性説明図。
【符号の説明】
【0024】
1 TCR装置主回路
2 フィルタコンデンサ
3 交流電圧検出器
4A、4B、4C 制御ユニット
5 パルス選択器
6 点弧パルス発生器

11 入力変圧器
12 リアクトル
13 サイリスタ

41 減算器
42 減算器
43 補償演算器
44 乗算器
45 乗算器
46 位相制御器
47 パルス発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力系統に接続されたリアクトルと、
このリアクトルと直列に接続された逆並列構成のサイリスタと、
前記交流電力系統の交流電圧を検出する電圧検出手段と、
前記サイリスタの点弧角を制御する制御手段と
を備え、
前記制御手段は、
前記交流電圧から交流電圧指令値を減算して第1の電圧偏差を求める第1の演算手段と、
前記第1の電圧偏差から交流電流推定値にスロープリアクタンスを乗算した補正電圧値を減算して第2の電圧偏差を求める第2の演算手段と、
前記第2の電圧偏差を入力とし、この第2の電圧偏差がゼロになるようにその出力である無効電力指令を調整する電圧補償手段と、
前記無効電力指令に応じて前記サイリスタの点弧角を制御する点弧制御手段と
を有し、
前記交流電流推定値は、前記無効電力指令に前記交流電圧と前記交流電力系統の定格電圧との比を乗算して求めるようにしたことを特徴とする無効電力補償装置。
【請求項2】
前記制御手段は複数個の制御手段から成り、
前記点弧制御手段は、前記複数個の制御手段のうち何れか一つを選択して前記サイリスタの点弧角を制御するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の無効電力補償装置。
【請求項3】
交流電力系統に接続されたリアクトルと、
このリアクトルと直列に接続された逆並列構成のサイリスタと、
前記交流電力系統の交流電圧を検出する電圧検出手段と、
前記サイリスタの点弧角を制御する制御手段と
を備えた無効電力補償装置において、
前記制御手段は、
前記交流電圧から交流電圧指令値を減算して第1の電圧偏差を求め、この第1の電圧偏差から交流電流推定値にスロープリアクタンスを乗算した補正電圧値を減算して第2の電圧偏差を求め、この第2の電圧偏差を入力とし、この第2の電圧偏差がゼロになるようにその出力である無効電力指令を調整し、この無効電力指令に応じて前記サイリスタの点弧角を制御するようにし、
前記交流電流推定値は、前記無効電力指令に前記交流電圧と前記交流電力系統の定格電圧との比を乗算して求めるようにしたことを特徴とする無効電力補償装置の制御方法。
【請求項4】
前記制御手段は複数個の制御手段から成り、
前記点弧制御手段は、前記複数個の制御手段のうち何れか一つを選択して前記サイリスタの点弧角を制御するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の無効電力補償装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−312370(P2008−312370A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158528(P2007−158528)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】