説明

無呼吸/呼吸低下検出装置及び無呼吸/呼吸低下検出法

患者呼吸気体流量を監視する無呼吸/呼吸低下検出装置(30)及び方法では、(a)患者呼吸気体流量に基づく長期RMSエネルギと、(b)長期RMSエネルギに基づく長期閾値と、(c)患者呼吸気体流量に基づく短期RMSエネルギとを決定する。患者が無呼吸/呼吸低下を体験しているか否かの判定は、短期RMSエネルギと長期閾値とを比較して完了する。この無呼吸/呼吸低下検出技術は、閉塞性睡眠時無呼吸症等の呼吸障害を伴う患者を診断する及び/又は自動タイトレーション圧力支援装置を制御する際に有効である。

【発明の詳細な説明】
【優先権主張】
【0001】
本願は、米国特許法第119条(e)の規定により、2003年7月25日に出願された米国仮出願番号第60/490,173号の利益及び米国特許法第120条(e)の規定により、2004年7月21日に出願された米国出願番号第____号の利益を主張し、各開示内容を本明細書に組み込むものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、無呼吸/呼吸低下事象を検出する装置及びその方法、特に、患者の呼吸気体流量の二乗平均平方根(平方二乗平均、RMS又は実効値)と目標値との比較に基づく無呼吸/呼吸低下検出技術に関する。
【背景技術】
【0003】
睡眠中の呼吸不全に多くの人が苦しんでいる。睡眠無呼吸は、世界中で数百万人が患う通常の呼吸障害症例である。睡眠無呼吸の一種である閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)は、通常、上気道又は咽頭付近の気道が閉塞して呼吸不能により反復して睡眠が中断される状態をいう。気道の閉塞は、上気道体節を安定化させる少なくとも一部の筋肉が全体的に弛緩して、組織が気道を虚脱させ崩壊させる現象であると一般に認められている。睡眠時無呼吸症候群の別種である中枢性無呼吸は、脳の呼吸中枢からの呼吸信号の不足による呼吸の停止である。閉塞性睡眠時無呼吸症、中枢性無呼吸又は閉塞性睡眠時無呼吸症と中枢性無呼吸とが複合する合併症の何れでも、無呼吸状態は、例えば、ピーク時の呼吸気流よりも90%以上低下する完全な又はほぼ完全な呼吸停止として特徴付けられる。
【0004】
睡眠時無呼吸症に苦しむ人々は、オキシヘモグロビンが潜在的に危険な程度に不飽和化して睡眠中に間欠的に完全又はほぼ完全な呼吸停止を体験する。この症例は、臨床上極度の昼間眠気、心不整脈、肺動脈高血圧、鬱血性心不全及び/又は認知障害を招来することがある。睡眠時無呼吸症の他の弊害には、右心室機能障害と、覚醒時及び睡眠時の二酸化炭素蓄積と、動脈酸素圧の連続的減少とがある。睡眠時無呼吸症患者は、前記要因により死亡率が上昇する危険性と共に、潜在的に危険な装置を運転し及び/又は操作する間に事故を発生する危険性も増大する。
【0005】
患者は、完全な又はほぼ完全な気道閉塞でなく、部分的な気道閉塞のみでも睡眠が阻害され覚醒する等の障害のあることが知られている。部分的な気道閉塞は、呼吸低下と称する浅呼吸を通常招来する。ピーク時の呼吸気流より50%以上減少すると、呼吸低下とされる。他種の呼吸障害は、上気道抵抗症候群(UARS)と、通常、鼾と言われる咽頭壁振動等の気道内振動とを含む。このように、閉塞性睡眠時無呼吸症、中枢性無呼吸又は上気道抵抗症候群等の呼吸障害を伴う患者を診断する際に、患者の無呼吸及び呼吸低下の発生を正確に検出することが重要である。
【0006】
無呼吸及び呼吸低下を検出して、患者が睡眠時無呼吸症候群か否かをリアルタイム(実時間)で判定する装置は、公知である。従来の無呼吸/呼吸低下検出装置の例は、ドダキアン名義の下記特許文献1、リン名義の下記特許文献2、カラカソグルその他名義の下記特許文献3、ラビブその他名義の下記特許文献4、アレンその他名義の下記特許文献5、ラパポートその他名義の下記特許文献6及びハダス名義の下記特許文献7に教示される。
【0007】
更に、持続気道陽圧(CPAP)を患者の気道に供給して呼吸障害を治療することは、公知である。持続気道陽圧は、気道を「加圧力で開放状態に保持」することにより、肺に開放する気体流路を保持するのに効果的である。また、患者の呼吸周期と共に患者に供給する気体圧力を変化させ又は患者の動きと共に変動させて、患者への快適性を向上する陽圧治療を提供することは、公知である。この圧力支援技術は、患者に供給される吸気気道陽圧(IPAP)が呼気気道陽圧(EPAP)より高い2段階(バイレベル)圧力支援と指称される。
【0008】
更に、患者が無呼吸又は呼吸低下を体験しているか否か等の患者の状態を検出することにより、陽圧を自動的に調整する陽圧治療法を提供することは、公知である。圧力支援装置により患者に呼吸障害の治療に必要な高さの圧力のみを付与するこの圧力支援法は、自動タイトレーション(滴定)型圧力支援法と指称される。従って、自動タイトレーション型圧力支援装置により患者を治療する効果は、無呼吸及び/又は呼吸低下を正確に検出できる広い範囲に依存する。
【0009】
従来の自動タイトレーション圧力支援装置の例は、サリヴァンその他名義の下記特許文献8、何れもグレンケその他名義の下記特許文献9〜11、何れもアックスその他名義の下記特許文献12及び13、何れもベルトン−ジョーンズ名義の下記特許文献14〜16、ルマースその他名義の下記特許文献17、何れもラパポートその他名義の下記特許文献18〜21に開示される。前記従来の圧力支援装置は、ルマースその他名義の特許文献17の可能性を除き、監視する患者の状態に対応する。即ち、一旦異常な呼吸を示す状態が発生すると、圧力支援装置は、圧力支援法を変更して、この状態を治療する。
【特許文献1】米国特許第5,295,490号公報
【特許文献2】米国特許第5,605,151号公報
【特許文献3】米国特許第5,797,852号公報
【特許文献4】米国特許第5,961,447号公報
【特許文献5】米国特許第6,142,950号公報
【特許文献6】米国特許第6,165,133号公報
【特許文献7】米国特許第6,368,287号公報
【特許文献8】米国特許第5,245,995号公報
【特許文献9】米国特許第5,259,373号公報
【特許文献10】米国特許第5,549,106号公報
【特許文献11】米国特許第5,845,636号公報
【特許文献12】米国特許第5,458,137号公報
【特許文献13】米国特許第6,058,747号公報
【特許文献14】米国特許第5,704,345号公報
【特許文献15】米国特許第6,029,665号公報
【特許文献16】米国特許第6,138,675号公報
【特許文献17】米国特許第5,645,053号公報
【特許文献18】米国特許第5,335,654号公報
【特許文献19】米国特許第5,490,502号公報
【特許文献20】米国特許第5,535,739号公報
【特許文献21】米国特許第5,803,066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の無呼吸/呼吸低下検出法及び自動タイトレーション圧力支援装置は、異なる無数の技術を使用して、無呼吸及び呼吸低下を検出する。従来の無呼吸/呼吸低下検出法は、患者からの気体流を測定する過程と、患者からの気体流を監視して、無呼吸又は呼吸低下を示す吸気段階間の気体流の低下を監視する過程とを必要とする。従来の無呼吸/呼吸低下検出法は、多くの場合正確に気体流を検出する必要があるが、例えば、鼻カニューレにより気体流を測定しかつ患者が口呼吸を体験する状態では、気体流の検出は困難である。従来の無呼吸/呼吸低下検出法では、無呼吸/呼吸低下の発生時に吸気状態の間に発生する患者流量又は圧力の変化に集中するため、患者の吸気状態と呼気状態とを通常識別する必要がある。患者の吸気状態と呼気状態とを識別する方法は、存在するが、複雑な未解決課題があり、誤認を生じやすい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明の目的は、従来の無呼吸/呼吸低下検出法の前記欠点を解決する無呼吸/呼吸低下検出装置を提供することにある。患者呼吸気体流量の検出に適する流量センサ及び処理装置を備える無呼吸/呼吸低下検出装置を提供することにより、本発明の一実施の形態により、この目的を達成できる。処理装置は、(a)流量センサにより監視する流量に基づく長期RMS(患者の呼吸気体流量の二乗平均平方根)エネルギと、(b)長期RMSエネルギに基づいて決定した長期閾値と、(c)(a)と同様の流量センサの出力に基づく短期RMSエネルギとを含むパラメータを算出する。処理装置は、短期RMSエネルギを長期閾値と比較して、患者が無呼吸/呼吸低下事象を体験しているか否かを判定する。本発明は、患者の呼吸気体流量のRMSエネルギを使用して、呼吸周期の吸気段階と呼気段階とを識別する必要がなくかつ患者の呼吸気体流量を高精度に測定せずに、無呼吸/呼吸低下を比較的正確に検出できる。
【0012】
更に、本発明の別の目的は、従来の無呼吸/呼吸低下検出法に伴う不利益を受けない無呼吸/呼吸低下検出法を提供することにある。患者の呼吸気体流量を監視する過程と、呼吸気体流量に基づいて長期RMSエネルギを決定する過程と、長期RMSエネルギに基づいて長期閾値を決定する過程と、呼吸気体流量に基づいて短期RMSエネルギを決定する過程と、短期RMSエネルギを長期閾値と比較して、前記患者が無呼吸/呼吸低下を体験しているか否かを判定する過程とを含む無呼吸/呼吸低下検出法により、この目的を達成できる。
【0013】
更に、本発明の別の目的は、自動タイトレーション圧力支援装置に本発明の無呼吸/呼吸低下検出装置及び/又は無呼吸/呼吸低下検出法を使用し、患者が無呼吸/呼吸低下を体験しているか否かに基づいて患者に供給する圧力を制御することにある。
【0014】
参照符号により各図の対応する部分を示す添付図面に関する以下の説明、特許請求の範囲及び本明細書の全構成部分により、本発明の前記目的及び他の目的、特徴及び特性、構造の関連要素の操作法及び機能、部品の組み合わせ並びに製造経済性は、明らかとなろう。しかしながら、図面が図示及び説明の目的に過ぎず、発明の範囲を制限するものではないことは、明確に理解できよう。明細書及び特許請求の範囲に使用するように、別途明記しない限り、「a」、「an」及び「the」の単数形は、複数の対象を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の原理による無呼吸/呼吸低下(A/H)検出装置30の例示的な実施の形態を略示する。最も基本的な型の無呼吸/呼吸低下検出装置30は、患者(被験者)34の気道に連絡しかつ呼吸気体流量と称する患者34から出入する気体の流量を測定するセンサ32を備える。図示の実施の形態では、センサ32は、鼻カニューレ36を通じて患者34の気道に連絡する差圧センサ等の従来の流量センサである。
【0016】
本発明では、患者34の呼吸気体流量を検出する如何なる従来技術を使用できることを理解できよう。例えば、本発明は、何れもスターその他名義の米国特許第6,017,315号、米国特許第6,342,040号及び米国特許第6,554,192号に教示される流量検出技術を使用することを企図する。また、本発明は、鼻又は鼻/口マスク等の患者界面材装置を通じて患者34の気道に連絡する気流計(ニューモタッチ)等の従来の流量センサを使用することを企図する。
【0017】
流量センサ32からの出力を受信して、記憶されたアルゴリズム(計算の手順)を実行できるマイクロプロセッサである処理装置38を無呼吸/呼吸低下検出装置30に設けることが好ましい。勿論、処理装置38は、本発明の特徴を実行するのに必要なメモリ及び処理機能を備える。
【0018】
更に、本発明は、利用者と処理装置38との間で「データ」と総称する情報、データ及び/又は命令並びにあらゆる他の通信可能な事項を通信する入力/出力インタフェース40を無呼吸/呼吸低下検出装置30に設けることを企図する。この目的に適する通常の入力/出力インタフェース40の例は、キーパッド及びディスプレイを備える。有線又は無線による他の通信技術も本発明は、企図する。例えば、本発明は、スマートカード(ICカード)から処理装置38に転送するデータ又は制御装置からスマートカードに転送されるデータを使用可能にするスマートカード端子を設けることを企図する。圧力支援装置と共に使用できるインターフェース装置及びインターフェース技術の他の例は、RS-232ポート、CDリーダ/ライタ、DVDリーダ/ライタ、無線周波数リンク、モデム(電話、ケーブル又はその他)であが、これらに限定されないる。約言すれば、制御装置にデータを供給し、受信し、変換する従来の如何なる技術も入力/出力インタフェース40として本発明は、企図する。
【0019】
図示の例示的な実施の形態では、流量センサ32、処理装置38及び入力/出力インタフェース40は、図1の点線42により概略示される単一のハウジング内に全て配置される。しかしながら、本発明が個別のハウジング42に前記構成部材を配置できることも企図することは、理解できよう。また、ハウジング42内に明示しない他の構成部材を加えてもよい。例えば、カニューレ36にバクテリア除去フィルタを備えてもよい。
【0020】
流量センサ32からの出力信号をフィルタで濾波し、調整することが好ましい。即ち、流量センサ32からの出力信号は、最初に500Hz等の比較的高い周波数で処理装置38によりサンプリングされる。その後、アンチエイリアシングフィルタリング(ノイズ除去を目的として所定周波数以上の信号を除去する)を実行することにより、捕集した信号は、フィルタ処理され、帯域幅が除去されかつ調整される。少なくとも20サンプル/秒の速度で得られる出力信号をサンプリングして、本発明の無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムに使用される。本発明は、他のサンプリング速度も企図することに留意すべきである。本目的に適切なサンプリング速度は、例えば、10サンプル/秒〜50サンプル/秒の範囲である。この範囲は、対象となる気道信号の特徴を正確に捕集するのに有効である。
【0021】
無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムを処理装置38により実行して、後述の信号形態基準を満たす事例の終期に無呼吸/呼吸低下事象の発生を招来し、示し又は表す流量波形が検知される。前記信号形態基準は、患者流量波形の「エネルギ」減少範囲、患者流量波形の以後の「エネルギ」回復範囲及び全事例継続時間を含む。
【0022】
処理装置38により実行するアルゴリズムは、気体流波形の「エネルギ含有量」に厳密に依存する点で、従来の無呼吸/呼吸低下検出法とは顕著に相違し、従来の無呼吸/呼吸低下検出装置に使用される最大振幅、I/E時間、波形の形状、平坦度、真円度の変化又は他の単一呼吸基準の観点から個々の呼吸を検出し又は分類する必要がない。これにより、従来のアルゴリズムより極めて優れかつ多様な複数の信号獲得装置に適合して調整できる非常に緻密で豊富なアルゴリズムを作成することができる。
【0023】
無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムは、患者呼吸気体流量信号50のRMS「エネルギ」を使用して、リアルタイムで患者34が体験する無呼吸及び/又は呼吸低下事象を判定できる着想に基づく。特定の呼吸又は呼吸の一部を分析せずに流量信号の全「エネルギ」を分析するので、本発明は、無呼吸/呼吸低下検出方式の一部として呼吸検出法に依存する点において従来の無呼吸/呼吸低下検出法より有利である。
【0024】
次に、本発明の無呼吸/呼吸低下検出法を図2〜図3Cについて説明する。図2は、無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムの全体操作を示すフローチャートで、図3A〜図3Cは、無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムを実行する間の種々の過程で発生する波形を例示する。無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムの入力信号は、サンプル採取速度「f」でサンプリングした患者呼吸気体流量信号50であり、本実施の形態では、前記のように、20Hzのサンプリング速度が好ましい。図3Aに例示する患者呼吸気体流量信号50は、図2のステップ52に入力される。現行処理周期「n」中の患者呼吸気体流量信号50をQ(n)として示す。例えば、fを20Hzのサンプリング周波数とすると、図2の無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムは、1秒間にf回実行される。無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムを実行する度に、患者呼吸気体流量信号Q(n)は、ステップ52に入力される。
【0025】
ステップ52では、アルゴリズムにアクセスしてこれを実行する毎、即ち、1/f秒毎に、次の5つのパラメータが算出される。短期RMSエネルギSRMS(n)(図3B波形54)、長期RMSエネルギLRMS(n)、患者流量の短期積分値SI(n)(図3C波形58)、患者流量の長期積分値LI(n)(図3C波形60)及び長期閾値LT(n)(図3B波形56)。各パラメータを以下に詳述する。
【0026】
短期RMSエネルギSRMS(n)の波形54は、最終TS秒にわたり計算される患者呼吸気体流量信号50の二乗平均平方根(RMS)である。短期RMSエネルギSRMS(n)54は、下式(1)で算出される。
【0027】
【数9】

但し、NS = TS * f、TSは、算出する短期RMSエネルギにわたる秒単位の時間で、fは、サンプリング周波数である。NSは、対象となる時間TSにわたるサンプル数を示すことが理解できよう。
【0028】
無呼吸/呼吸低下状態を決定するまでに臨床上認識される最小持続時間は、10秒であるため、本発明の例示的な実施の形態では、TSを10秒に設定する。即ち、無呼吸/呼吸低下を揺らぎ(摂動又は変動)と考えると、この短期RMSエネルギ内の検出可能な揺らぎは、先の10秒を含まなければならない。
【0029】
本発明では、TSが10秒の持続時間に限定されないことは、理解できよう。しかしながら、より長期の持続時間TSでは、別の方法でなければ、無呼吸/呼吸低下と決定する流量限界を検出できないこともある。逆に、より短期の持続時間TSでは、アルゴリズムが無呼吸/呼吸低下と決定すべきでない流量限界を検出することもある。
【0030】
図3Bの波形54は、図3Aの波形50に基づく短期RMSエネルギSRMS(n)の波形を示す。図3Aの患者呼吸気体流量信号50と比較して波形54を観察すると、例えば、図3Aの矢印Aで示す位置で、患者34が無呼吸又は呼吸低下を体験し始めると、短期RMSエネルギSRMS(n)54の波形が下降し始めることを理解できよう。これは、患者34の呼吸波形中のRMSエネルギが小さい程、無呼吸段階がより長く継続することを意味する。逆に、患者34が無呼吸又は呼吸低下段階から回復し始めるとき、短期RMSエネルギSRMS(n)54の波形が上昇する。
【0031】
長期RMSエネルギLRMS(n)は、最終TL秒間にわたり計算される患者呼吸気体流量信号50の二乗平均平方根である。長期RMSエネルギLRMS(n)は、下式(2)で算出される。
【0032】
【数10】

但し、NL = TL * f、TLは、算出する長期RMSエネルギにわたる秒単位の時間、fは、サンプリング周波数である。NLは、対象となる時間TSにわたるサンプル数を示すことが理解できよう。図3A〜図3Cに長期RMSエネルギLRMS(n)を示さないことに留意すべきである。
【0033】
本発明の例示的な実施の形態では、TLに95秒を選択する。複数の異なる呼吸速度、呼吸の種類、呼吸振幅及び呼吸障害を含む患者データの実験的研究にから、95秒の持続時間が選択された。本発明では、TLが95秒の持続時間に限定されないことは、理解できよう。気体流データを考察する睡眠専門医により使用される通常の基準時間長さに基づいて、TLの数値範囲を選択することができる。前記「考察」に基づいて、睡眠専門医は、最大流量の「長期」数値又は「基準線」数値を視覚的に推定する。通常の基準時間は、1分〜2分である。2分より長い持続時間は、無呼吸/呼吸低下の検出とは生理学的に無関係となる。1分より短い時間でも、「基準線」の確定には不十分である。
【0034】
長期RMSエネルギLRMS(n)を使用して、下式(3)により長期閾値LT(n)56を算出する。
【0035】
LT(n) = LRMS(n) × (entry threshold fraction) (3)
但し、入力閾値分数(entry threshold fraction)は、実験的に導き出される他の定数である。本発明の例示的な実施の形態では、長期閾値LT(n)56(図3B)は、LRMS(n)の56%に等しいから、入力閾値分数は、0.56に設定される。図3Bの波形56は、長期閾値LT(n)を示す。図3Bに示すように、長期閾値LT(n)56は、非常に小規模なものを除き、短期RMSエネルギSRMS(n)54(図3B)と全く同一の特徴で上昇及び下降する。
【0036】
本発明では、入力閾値分数が特定の数値に限定されないことを理解できよう。RMSエネルギは、最大流量に比例する傾向にある。従って、呼吸低下(最大流量に対して50%減少)の定義及び所与の経験的実験では、「入力閾値分数」は、長期RMSエネルギLRMS(n)の50%の範囲内の例えば、10%とするべきである。
【0037】
ステップ52で決定される患者呼吸気体流量信号50の短期積分値SI(n)58(図3C)は、最終TS秒間にわたる患者呼吸気体流量信号50の総量である。短期積分値SI(n)58は、下式(4)で算出される。
【0038】
【数11】

図3Cの波形58は、短期積分値SI(n)を示す。患者34が無呼吸/呼吸低下を体験し始めるとき、短期積分値SI(n)58が下降し、患者34が無呼吸/呼吸低下から回復するとき、短期積分値SI(n)58が上昇することは、図3Cから理解できよう。
【0039】
患者呼吸気体流量信号50の長期積分値LI(n)60(図3C)は、最終TS秒にわたる患者呼吸気体流量信号50の総量であり、下式(5)で算出される。
【0040】
【数12】

図3Cの波形60は、長期積分値LI(n)を示す。図3Cに示すように、長期積分値LI(n)60は、非常に小規模なものを除き、短期積分値SI(n)58と全く同一の特徴で上昇し下降する。
【0041】
前記パラメータ(現行処理周期(n)で更新された)を算出したが、下記により完全に説明するように、ステップ62では、アルゴリズムは、患者34が現在無呼吸/呼吸低下状態であるか否かを判定する。患者34が現在無呼吸/呼吸低下状態ではない、即ち、患者34が現在無呼吸/呼吸低下を体験していると判断しないとき、アルゴリズムは、ステップ64に進み、患者34が無呼吸/呼吸低下を体験しているか否かの判定を開始する。
【0042】
ステップ64では、短期RMSエネルギSRMS(n)54は、長期閾値LT(n)56と比較される。詳細には、図3Bのポイント66a、66b及び66cで発生するように、短期RMSエネルギSRMS(n)54が長期閾値LT(n)56よりも低下するとき、アルゴリズムは、ステップ68に移行する。短期RMSエネルギ54が長期閾値LT(n)56より高いとき、処理手順は、ステップ70で終了してステップ52に戻り、次の処理周期を再開する。
【0043】
ステップ68では、長期積分値LI(n)60と短期積分値SI(n)58との絶対差を差分閾値(図2に「DIFF_THRESH」として示す)と比較する。図3Cの時点74a及び74bで発生するように、長期積分値LI(n)60と短期積分値SI(n)58との絶対差がこの差分閾値(DIFF_THRESH)未満のとき、ステップ72で無呼吸/呼吸低下状態に移行する。図3Cの時点76で発生するように、長期積分値LI(n)60と短期積分値SI(n)58との絶対差がこの差分閾値(DIFF_THRESH)より少なくないとき、処理手順は、ステップ70で終了してステップ52に戻り、次の処理周期を再開する。従って、本発明による無呼吸/呼吸低下検出法は、(1)短期RMSエネルギSRMS(n)54が長期閾値LT(n)56よりも低下し(ステップ64)かつ(2)長期積分値LI(n)60と短期積分値SI(n)58との絶対差が差分閾値(DIFF_THRESH)より低い(ステップ68)とき、患者34が無呼吸/呼吸低下状態に移行したと単に判断する。
【0044】
差分閾値(DIFF_THRESH)は、実験により決定される閾値である。ステップ68での比較を行うことにより、本発明のアルゴリズムでは、自動タイトレーション圧力支援装置内で無呼吸/呼吸低下検出装置30から気体が漏出して、呼吸気体流量が急激に変化し又は患者34の動作により全ての患者呼吸気体流量信号50が破壊されるときに、検出する患者流量が突然変化して、無呼吸/呼吸低下の誤検出を防止できる。
【0045】
差分閾値(DIFF_THRESH)が患者に固有の排他的基準値であることは、理解できよう。装置/信号が安定すれば、長期積分値LI(n)60と短期積分値SI(n)58との偏差は、何れの方向にも大き過ぎないことが期待される。例えば、サンプリング速度20サンプル/秒、TL = 95秒、TS = 10秒とし、5秒間の純粋な正弦波気体流波形を仮定すると、長期積分値LI(n)60は、平坦でより小さな正弦波揺らぎを有するほぼ安定な直流信号であるが、短期積分値SI(n)58は、非常に小さな正弦波揺らぎである。この安定な状態では、絶対差 |SI(n) - LI(n)| は、最初の正弦波の振幅に依存する。どのような振幅でも、全信号/装置が安定するので、患者に固有の「排他的」ステップが事実上ない。しかしながら、例えば、患者34の動作又は気体の漏洩等に起因する大きなアーチファクト(人為的ノイズ)が存在するとき、絶対差 |SI(n) - LI(n)| の変動数値は、より複雑となり、非常に大きな数値を必要とする。従って、振幅範囲全体に安定な信号に関連する絶対差 |SI(n) - LI(n)| に「正常」な数値に適応させるのに十分に大きい差分閾値(DIFF_THRESH)を選択すべきである。他方、差分閾値(DIFF_THRESH)を十分小さい値に設定して、患者34の動作又は気体の漏洩等のアーチファクトに起因するより大きな偏差を有効に検知すべきである。
【0046】
本発明者は、短期積分値SI(n)58及び長期積分値LI(n)60が短期RMSエネルギSRMS(n)54及び長期RMSエネルギLRMS(n)に関して、異なる位相の関係になることにも留意した。即ち、短期積分値SI(n)58及び長期積分値LI(n)60の応答は、短期RMSエネルギSRMS(n)54及び長期RMSエネルギLRMS(n)より早い。従って、患者34の動作、気体の漏洩又はその他のアーチファクトに起因する絶対差 |SI(n) - LI(n)| の最大揺らぎを良好に検知するため、本発明は、無呼吸/呼吸低下状態と決定する判断を行う(前記RMSエネルギ基準に基づき)時点nより前に、絶対差 |SI(n) - LI(n)| の挙動を利用するときもある。無呼吸/呼吸低下状態と決定する判断を行う時点nより前の時間は、実験上決定される他の一定の「時差ラグ(時間差)」又はDLである。この場合、関係式 |SI(n-DL) - LI(n-DL)| をステップ68で使用する。
【0047】
本発明の例示的な実施の形態では、正常状態と突然のアーチファクトを受けた状態との異なる患者息振幅の研究から実験的に差分閾値(DIFF_THRESH)の選択値を、例えば3.1リットル/分(LPM)に決定する。絶対的な気体流測定値のない鼻カニューレ等の他の装置では、差分閾値(DIFF_THRESH)は、大幅に変化するであろう。また、23サンプルに設定し選択した同一患者データに基づき差分ラグを選択し、即ち、1秒を僅かに超えて選択した。また、患者34の気体流から濾波及び調整される気体流の「波形」まで、何らかの段階で異なる転送機能を有する装置により、差分ラグは、変化するであろう。
【0048】
ステップ72で無呼吸/呼吸低下状態に移行するとき、TSを10秒に設定するため、患者34が無呼吸/呼吸低下状態になって既に10秒経過している。従って、ステップ78では、無呼吸/呼吸低下持続時間カウンタを10秒に初期化する。無呼吸/呼吸低下状態が停止するか又はアルゴリズムが終了するまで、無呼吸/呼吸低下持続時間カウンタは、この時点から毎秒増加する。
【0049】
ステップ80では、長期閾値LT(n)56に基づいて出口閾値ET(n)が算出される。詳細には、出口閾値ET(n)は、下式(6)で算出される。
【0050】
ET(n) =LT(n) × (exit_threshold_fraction) (6)
但し、出口閾値分数(exit_threshold_fraction)は、実験上誘導される他の定数である。出口閾値ET(n)の目的は、患者34の無呼吸/呼吸低下状態からの事実上の回復を検知することである。即ち、無呼吸/呼吸低下状態が終了したと判断する前に、短期RMSエネルギSRMS(n)54は、長期閾値LT(n)56を十分な量だけ超えて上昇しなければならない。
【0051】
急激な呼気が行われ最大流量の基準線振幅に完全に又は部分的に復帰すれば、無呼吸/呼吸低下状態、特に閉塞性無呼吸/呼吸低下状態からの回復と記録される。従って、無呼吸/呼吸低下状態から回復する基準は、無呼吸/呼吸低下状態となったとき、出口閾値を1度算出する必要がある。無呼吸/呼吸低下状態の開始時の基準線長期RMSエネルギLRMS(n)の70%〜100%に出口閾値ET(n)を設定することが好ましい。本実施の形態では、出口閾値ET(n)は、入口閾値(入口閾値は、基準線の約50%である)の約2倍値が選択される。ステップ80で出口閾値ET(n)を算出した後、アルゴリズムは、出口ステップ70を経てステップ52に戻る。
【0052】
次回のアルゴリズムの実行時、即ち、次の演算処理周期の間に、短期RMSエネルギSRMS(n)54、長期RMSエネルギLRMS(n)、短期積分値SI(n)58、長期積分値LI(n)60及び長期閾値LT(n)56のパラメータをその演算処理周期間に再計算する。しかしながら、患者34が既に無呼吸/呼吸低下状態にあると判断すれば、実行すべき唯一の変数値である短期RMSエネルギSRMS(n)54のみの再計算が必要であることは、理解できよう。このように、患者34が無呼吸/呼吸低下状態であると判断すれば、パラメータの長期RMSエネルギLRMS(n)、短期積分値SI(n)58、長期積分値LI(n)60及び長期閾値LT(n)56の再計算は、必要ない。
【0053】
ステップ62では、アルゴリズムは、患者34が現在無呼吸/呼吸低下状態であるか否か、即ち、ステップ72に移行するまでには無呼吸/呼吸低下状態にとなっていたか否かを判断する。患者34が現在無呼吸/呼吸低下状態であれば、ステップ82で持続時間カウンタが増加累進される。処理速度に基づく処理周期毎に持続時間カウンタを増加でき又は起動可能なタイマを持続時間カウンタに使用してもよい。
【0054】
ステップ84では、アルゴリズムは、持続時間カウンタに累積される時間量に基づき、75秒を超えた時に、患者34が無呼吸/呼吸低下状態であるか否かを判定する。75秒を超えて人間が無呼吸/呼吸低下状態を継続できないことは、臨床上確定している。従って、持続時間カウンタが75秒を超えて計数しかつアルゴリズムがステップ86を終えてステップ88で終了すれば、アルゴリズムは、誤作動により無呼吸/呼吸低下状態に入ったと判断する。その時、持続時間カウンタをリセットし、処理手順は、ステップ52に戻る。
【0055】
持続時間カウンタが75秒よりも長く計数しなければ、処理手順は、ステップ90に進み、そこで、短期RMSエネルギSRMS(n)54が出口閾値ET(n)と比較される。ステップ90でアルゴリズムの実行する間に、無呼吸/呼吸低下段階の中頃を過ぎて短期RMSエネルギSRMS(n)54が出口閾値ET(n)より大きくなければ、処理手順は、ステップ70で終了してステップ52の始まりに戻る。しかしながら、ステップ90で短期RMSエネルギSRMS(n)54が出口閾値ET(n)よりも大きければ、最終的に患者34が無呼吸/呼吸低下段階から回復し、処理手順は、ステップ92に進み、そこで、患者34が無呼吸/呼吸低下状態を脱し又は終了したかが判定される。図3Aの矢印Bは、短期RMSエネルギSRMS(n)54が出口閾値ET(n)を超えて、無呼吸/呼吸低下状態が終了したと判断される位置を示す。従って、本発明では、アルゴリズムにより無呼吸/呼吸低下状態の発症を検出し、無呼吸/呼吸低下段階を通じて患者34を監視し、患者34が無呼吸/呼吸低下状態を終了したことを判定できることを理解できよう。
【0056】
患者34が無呼吸/呼吸低下を経験したとの判定及び無呼吸/呼吸低下段階との判定には、如何なる従来の方法も使用することができる。例えば、所定期間にわたり患者34が無呼吸/呼吸低下を経験する回数を簡単な患者監視装置により計数して、睡眠無呼吸を患う患者34を診断する臨床上承認された基準である患者34の無呼吸/呼吸低下指数を決定してもよい。自動タイトレーション圧力支援装置で無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムを実施するとき、無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムの出力を使用して、患者34に供給する圧力を調整してもよい。
【0057】
図4は、本発明の前記無呼吸/呼吸低下検出法を実施する自動タイトレーション圧力支援装置100の例を略示する。自動タイトレーション圧力支援装置100は、102で全体を示す圧力発生装置と、導管106及び患者界面材装置108を含む患者回路104とを備える。図示の実施の形態では、圧力発生装置102は、圧力発生器110と、圧力発生器110の出口として圧力制御弁112とを備える。
【0058】
圧力発生器110は、矢印Cに示すように、呼吸用気体の供給源から呼吸用気体を受容し、矢印Dに示すように、大気より高い圧力で呼吸用気体を患者回路104に排出して、患者34の気道(図示せず)に供給する。圧力発生器110は、例えば、送風装置(ブロワ)、送風機(ベローズ)又はピストン等の気体供給源から外気を入口に導入する機械的圧力発生器である。圧力制御弁112は、矢印Dに示すように、患者回路104から気体流を分岐させ又は流量制限と分岐とを組み合わせて、患者34への流量を制限することにより患者回路104を通じて患者34に供給する呼吸用気体流の圧力を制御する。
【0059】
圧力発生器110の動作速度を単独で制御し又は圧力制御弁112と組み合せて制御することにより、患者34に供給する呼吸用気体流の圧力が調整される。圧力発生器110の動作速度を単独で制御して、患者34に供給する呼吸用気体流の圧力を制御する場合、勿論圧力制御弁112を省略することができる。前記圧力発生器110単独で又は圧力制御弁112の制御と組み合せて、自動タイトレーション圧力支援装置100内で患者34に供給される呼吸用気体流の圧力を制御する他の方法を実施できることは、当業者には理解できよう。例えば、圧力発生器110の上流に流量制限弁(図示せず)を設けて、圧力発生器110への気体流量(矢印C)と患者34に送出する気体流の供給圧力とを制御してもよい。
【0060】
圧力発生装置102により連続的に加圧して患者34に供給する呼吸用気体の供給源は、通常周辺大気である。酸素供給源からの酸素又は酸素混合気体等の呼吸用気体の他の供給源も本発明により企図する。更に、空気圧力を増加する送風装置、送風機又はピストン等の圧力発生器110を使用せずに、患者回路104を通じて加圧空気タンクから加圧空気を直接患者34の気道に供給できることを本発明により企図することは、理解できよう。勿論、患者34に供給する気体圧力を制御するのに圧力制御弁112等の圧力調整装置が必要となろう。呼吸用加圧気体を患者回路104に供給して患者34に送出することが本発明に関する重要な特徴であり、呼吸用加圧気体を発生する供給源又は加圧法は、必ずしも重要ではない。
【0061】
図4に図示しないが、本発明は、大気からの一次気体流(矢印C)単独で又はこれと組み合される二次気体流を供給することも企図する。例えば、圧力発生器110の上流側、患者回路104内の圧力発生装置102の下流側又は患者界面装置108に、適当な供給源から酸素気体流を供給して、患者34に供給される吸気酸素の一部を制御してもよい。
【0062】
図示の実施の形態では、患者回路104の導管106は、圧力発生器110の出口に連結される一端と、患者界面装置108に連結される他端とを備える。導管106は、圧力発生器110から患者34の気道まで気体流を搬送できる如何なる管でもよい。圧力発生器110に関連する導管106の末端部は、患者34が自由に動けるように通常可撓性を有する。様々な構成要素を患者回路104内に設け又は患者回路104に連結できることは、理解できよう。例えば、バクテリア除去フィルタ、圧力制御弁、流量制御弁、センサ、メータ、圧力フィルタ、加湿器及び/若しくは加熱器を患者回路104内に設け又は患者回路104に取り付けてもよい。同様に、消音器及びフィルタ等の他の構成要素を圧力発生器110の入口及び圧力制御弁112の出口に設けてもよい。
【0063】
患者回路104内の患者界面装置108は、導管106の端部を患者34の気道に連絡するのに適する装置である。適切な患者界面装置108の例は、鼻マスク、口マスク又はマウスピース、鼻/口マスク、鼻カニューレ、気管チューブ、挿管チューブ、被覆体又は全面型面体(マスク)を含む。適切な患者界面装置108の前記リストが限定列挙でもなく全ての網羅したものでもないことは、理解できよう。
【0064】
図示の単一アーム型患者回路104では、患者34が吐出した気体は、矢印Eに示すように、導管106の末端部に備えられる排気口114を通じて患者回路104から通常排出される。排気口114は、通常導管106に設けられかつ導管106の内部と大気とを連絡する開口部(オリフィス)であり、自動タイトレーション圧力支援装置100からの気体流を積極的に制御しない。しかしながら、本発明では、圧力発生装置102と共に様々な排気装置及び排気の形態を使用できることを企図することを理解できよう。例えば、ツドロコウスキその他名義の米国特許第5,685,296号は、患者回路内の全圧力範囲を通じて呼気装置を通過する呼気流量をほぼ一定に維持する呼気装置及び呼気法を開示する。一般に定圧呼気弁又はPEVと指称されるこの呼気装置は、本発明の自動タイトレーション圧力支援装置100への使用に適する。
【0065】
図4に示すように、自動タイトレーション圧力支援装置100は、患者34に供給される気体流量及び気体圧力を監視する全般的に116で示す監視装置を含む。図示の実施の形態では、監視装置116は、患者回路104内を流れる呼吸用気体の流量を測定する流量センサ118を含む。流量センサ118は、前記流量センサ32と同等の機能を有する。本発明は、従来の気流計等の如何なる適切なセンサも流量センサ118に使用できることを企図する。
【0066】
更に、流量センサ118を導管106に直接連結する必要がないことは、理解できよう。これに対し、本発明は、患者回路104内の気体流量を量的に測定できる如何なる単一の又は複数のセンサも企図する。例えば、自動タイトレーション圧力支援装置100内の気体流量を患者界面装置108で測定でき又は圧力発生器110による加圧に使用するモータ若しくはピストンの速度若しくはトルクから気体流量を測定し又は推定することができる。約言すれば、本発明は、患者34に供給する気体流量を測定する如何なる従来技術も企図する。
【0067】
監視装置116は、患者34に対する気体圧力を検出する圧力センサ120も含む。図示の実施の形態では、圧力センサ120は、導管106を介して患者界面装置108に流体接続される。本実施の形態では、患者34に対する気体圧力は、導管106内に発生する公知の圧力降下に基づいて算定される。しかしながら、患者34に対する気体圧力は、患者界面装置108で直接測定できることも理解できよう。
【0068】
自動タイトレーション圧力支援装置100は、制御装置122を備え、制御装置122は、好ましくは、記憶されたアルゴリズムを実行するマイクロプロセッサであり、通常、圧力センサ118からの信号である監視変数を受信し、これらの信号に基づいて圧力発生装置102を制御することができる。勿論、制御装置122は、本発明の特性を実施するのに必要な記憶能力と演算処理能力を備える。制御装置122は、前記処理装置38と同等の機能を有する。
【0069】
自動タイトレーション圧力支援装置100は、利用者と制御装置122との間で「データ」と総称される情報、データ及び/又は命令並びにあらゆる他の通信可能な項目を通信するための入力/出力インタフェース124を備える。入力/出力インタフェース124は、前記入力/出力インタフェース40と同等の機能を有する。従って、入力/出力インタフェース124に関する更なる詳述は、必要ない。
【0070】
制御装置122は、従来の漏洩判断技術及び呼吸周期監視技術等の自動タイトレーション圧力支援を実施するのに必要な他の機能と同様に、本発明の無呼吸/呼吸低下検出技術を実行する。このように、流量センサ118及び制御装置122は、前記無呼吸/呼吸低下検出装置30の基本構成要素を備える。制御装置122は、無呼吸/呼吸低下判定の出力、即ち、患者34が無呼吸/呼吸低下を体験しているか否かの出力を使用して、従来方式により患者34に供給される気体圧力を制御する。例えば、特定期間にわたり特定量の無呼吸を検出すれば、制御装置122は、患者34に供給される気体圧力を無呼吸状態を治療する所定量に増加することができる。逆に、特定期間を通じて無呼吸が殆ど検出されなければ、制御装置122は、患者34に供給される気体圧力を減少させて、患者34に供給される圧力を最小限にすることができる。
【0071】
本発明は、従来技術を使用して算出する圧力支援装置からの気体漏洩量Qleakが、例えば、排気口114(矢印E)からの意図的な漏洩及びマスク−被験者界面からの非意図的な漏洩を含むことを企図する。本発明は、患者34の気道での気体流量でありかつ無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムに入力されるQ(n)に相当する患者流量Qpatientと、流量センサ46により代表的に測定される気体流量である全流量Qtotalとを決定する時に、決定に漏洩量も考慮する従来技術を使用することも企図する。例えば、サンダースその他名義の米国特許第5,148,802号、ツドロコウスキその他名義の第5,313,937号、サンダースその他名義の米国特許第5,433,193号、ツドロコウスキその他名義の米国特許第5,632,269号、第5,803,065号及び第6,029,664号、ツルーシェル名義の米国特許第6,360,741号、フランクその他名義の米国特許出願第09/586,054号及びジャファリその他名義の米国特許出願第09/970,383号の各内容を本発明への参考文献として本明細書の一部とし、前記参考文献は、全て漏洩を検出しかつ推定し更に漏洩の存在の下で患者に供給する呼吸気体を管理する方法を開示する。
【0072】
本発明の無呼吸/呼吸低下検出技術を実施するのに必要ないが、患者34の呼吸周期の吸気段階と呼気段階とを検出する如何なる従来の技術も制御装置122により実行することができる。例えば、サンダースその他名義の米国特許第5,148,802号、ツドロコウスキその他名義の第5,313,937号、サンダースその他名義の米国特許第5,433,193号、ツドロコウスキその他名義の米国特許第5,632,269号、第5,803,065号及び第6,029,664号並びにジャファリその他名義の米国特許出願第09/970,383号は、一呼吸周期の吸気段階と呼気段階とを識別する技術を開示する。患者34の呼吸周期の吸気段階と呼気段階との検出は、自動タイトレーション圧力支援技術の特定の形態を実施するために、本発明の無呼吸/呼吸低下検出技術以外で使用してもよい。
【0073】
前記本発明の実施の形態では、無呼吸/呼吸低下検出アルゴリズムに使用されるパラメータ(短期RMSエネルギSRMS(n)54、長期RMSエネルギLRMS(n)、短期積分値SI(n)58、長期積分値LI(n)60、長期閾値LT(n)56及び出口閾値ET(n))の決定を、離散時間領域(デジタル的時間領域)の観点から、即ち、サンプリング数(n)に基づいて示した。当業者は、前記パラメータ(短期RMSエネルギSRMS(n)54、長期RMSエネルギLRMS(n)、短期積分値SI(n)58、長期積分値LI(n)60、長期閾値LT(n)56及び出口閾値ET(n))を連続時間領域(アナログ的時間領域)で表示できることを理解できよう。以下の式(7)〜(12)は、式(1)〜(6)と各々同等の連続時間領域を示す。
【0074】
【数13】

【0075】
【数14】

【0076】
LT(t) = LRMS(t) × (entry threshold fraction) (9)
【0077】
【数15】

【0078】
【数16】

【0079】
ET(t) = LT(t) × (exit_threshold_fraction) (12)
【0080】
図4に示す実施の形態では、無呼吸/呼吸低下検出装置30及び患者治療装置、即ち、自動タイトレーション圧力支援装置100は、従来の自動タイトレーション装置の場合でも単一のハウジング内に物理的に組み込まれる。しかしながら、本発明は、患者治療装置から無呼吸/呼吸低下検出装置30を物理的に分離できることも企図する。例えば、自動タイトレーション圧力支援機能のない従来の圧力支援装置の頂部に装着(ピギーバック)できるユニット(モジュール)式構成要素として無呼吸/呼吸低下装置30を設けてもよい。本実施の形態では、自動タイトレーション圧力支援機能を備えれば、ホスト自動タイトレーション圧力支援装置100から無呼吸/呼吸低下検出装置30への入力、即ち、患者流量が得られるか又は例えば、患者回路104内に流量センサを設けて独立して圧力を監視してもよい。ホスト自動タイトレーション圧力支援装置100内の制御装置122に無呼吸/呼吸低下検出装置30の出力を付与し、その出力情報を使用して、患者34に供給される圧力を調整することができる。従って、ユニット式無呼吸/呼吸低下検出構成要素を使用する比較的高度な自動タイトレーション圧力支援装置100に比較的安価な従来の持続気道陽圧装置を調整することができる。
【0081】
現在最も実用的かつ好適と思われる実施の形態を図示して詳述したが、前記記載は単に説明の便宜に過ぎず、本発明を開示した実施の形態に限定されず、本発明は、特許請求の範囲内に該当すると共に特許請求の範囲と同趣旨の変更態様及び同等の装置を包含することを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の原理による無呼吸/呼吸低下検出装置の概略図
【図2】本発明の無呼吸/呼吸低下検出法を示すフローチャート
【図3A】図2のフローチャートにより実行される処理を示す患者流量の波形図
【図3B】図2のフローチャートにより実行される処理を示すRMSエネルギの波形図
【図3C】図2のフローチャートにより実行される処理を示す積分エネルギの波形図
【図4】本発明の無呼吸/呼吸低下検出装置を組み込む自動タイトレーション圧力支援装置の概略図
【符号の説明】
【0083】
(30)・・無呼吸/呼吸低下検出装置、 (32)・・流量センサ、 (38)・・処理手段、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者呼吸気体流量を検出する流量センサ(32)と、処理手段(38)とを備え、
処理手段(38)は、
(1)(a)患者呼吸気体流量に基づく長期二乗平均平方根エネルギと、(b)長期二乗平均平方根エネルギに基づいて決定される長期閾値と、(c)患者呼吸気体流量に基づく短期二乗平均平方根エネルギとを決定し、
(2)短期二乗平均平方根エネルギと長期閾値と比較することにより、患者が無呼吸/呼吸低下事象を体験しているか否かを判定することを特徴とする無呼吸/呼吸低下検出装置(30)。
【請求項2】
長期閾値の決定は、長期二乗平均平方根エネルギに入力閾値分数を乗ずる過程を含む請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項3】
患者が無呼吸/呼吸低下事象を経験しているか否かの決定は、短期二乗平均平方根エネルギが長期閾値よりも低いか否かの判定する過程を含む請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項4】
処理手段は、患者呼吸気体流量の短期積分値と長期積分値とを算出して、短期積分値と長期積分値との絶対差を決定し、
患者が無呼吸/呼吸低下事象を経験しているか否かの決定は、絶対差と差分閾値とを比較する過程を含む請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項5】
差分閾値は、実験上決定される値である請求項4に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項6】
処理手段は、前記患者が無呼吸/呼吸低下事象の経験を終了したか否かも決定する請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項7】
前記患者が無呼吸/呼吸低下事象の経験を終了したか否かの決定は、出口閾値を算出する過程と、短期二乗平均平方根エネルギと出口閾値とを比較する過程とを含む請求項6に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項8】
処理手段は、長期閾値に基づいて出口閾値を決定する請求項7に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項9】
短期二乗平均平方根エネルギSRMS(n)は、下式:
【数1】

により決定され、
NS = TS - f、Q(n)は、患者呼吸気体流量、nは、処理周期、fは、サンプリング周波数、TSは、短期二乗平均平方根エネルギ値を算出する間の時間である請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項10】
長期二乗平均平方根エネルギLRMS(n)は、下式:
【数2】

により決定され、
NL = TS - f、Q(n)は、患者呼吸気体流量、nは、処理周期、fは、サンプリング周波数、TLは、長期二乗平均平方根エネルギ値を算出する間の時間である請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項11】
長期積分エネルギLI(n)は、下式:
【数3】

により決定され、
NL = TS - f、Q(n)は、患者呼吸気体流量、nは、処理周期、fは、サンプリング周波数、TLは、長期二乗平均平方根エネルギ値を算出する間の時間である請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項12】
短期積分エネルギSI(n)は、下式:
【数4】

により決定され、
NS = TS - f、Q(n)は、患者呼吸気体流量、nは、処理周期、fは、サンプリング周波数、TSは、短期二乗平均平方根エネルギ値を算出する間の時間である請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項13】
前記患者の気道に連絡される導管を更に備え、流量センサは、導管に連絡される請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項14】
気体流を発生する圧力発生装置を更に備え、処理手段は、前記患者が無呼吸/呼吸低下事象を経験しているか否かに基づいて、圧力発生装置からの気体流の供給圧力を制御する請求項1に記載の無呼吸/呼吸低下検出装置。
【請求項15】
患者呼吸気体流量を監視する過程と、
患者呼吸気体流量に基づいて長期二乗平均平方根エネルギを決定する過程と、
長期二乗平均平方根エネルギに基づいて長期閾値を決定する過程と、
患者呼吸気体流量に基づいて短期二乗平均平方根エネルギを決定する過程と、
短期二乗平均平方根エネルギと長期閾値とを比較して、前記患者が無呼吸/呼吸低下を体験しているか否かを判断する過程とを含むことを特徴とする無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項16】
長期閾値を決定する過程は、長期二乗平均平方根エネルギに入力閾値分数を乗ずる過程を含む請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項17】
患者が無呼吸/呼吸低下事象を体験しているか否かを判定する過程は、短期二乗平均平方根エネルギが長期閾値よりも低いか否かを判定する過程を含む請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項18】
患者呼吸気体流量の短期積分値を決定する過程と、
患者呼吸気体流量の長期積分値を決定する過程と、
患者呼吸気体流量の短期積分値と患者呼吸気体流量の長期積分値との絶対差を決定する過程とを更に含み、
患者が無呼吸/呼吸低下事象を体験しているか否かを判断する過程は、絶対差と差分閾値とを比較する過程を含む請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項19】
前記患者が無呼吸/呼吸低下事象を体験するのを終了したか否かを決定する過程を更に含む請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項20】
前記患者が無呼吸/呼吸低下事象の経験を終了したか否かを決定する過程は、出口閾値を算出する過程と、短期二乗平均平方根エネルギと出口閾値とを比較する過程とを含む請求項19に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項21】
長期閾値に基づいて、出口閾値を決定する請求項20に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項22】
短期二乗平均平方根エネルギSRMS(n)は、下式:
【数5】

により決定され、
NS = TS - f、Q(n)は、患者呼吸気体流量、nは、処理周期、fは、サンプリング周波数、TSは、短期二乗平均平方根エネルギ値を算出する間の時間である請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項23】
長期二乗平均平方根エネルギLRMS(n)は、下式:
【数6】

により決定され、
NL = TS - f、Q(n)は、患者呼吸気体流量、nは、処理周期、fは、サンプリング周波数、TLは、長期二乗平均平方根エネルギ値を算出する間の時間である請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項24】
長期積分エネルギLI(n)は、下式:
【数7】

により決定され、
NL = TS - f、Q(n)は、患者呼吸気体流量、nは、処理周期、fは、サンプリング周波数、TLは、長期二乗平均平方根エネルギ値を算出する間の時間である請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項25】
短期積分エネルギSI(n)は、下式:
【数8】

により決定され、
NS = TS - f、Q(n)は、患者呼吸気体流量、nは、処理周期、fは、サンプリング周波数、TSは、短期二乗平均平方根エネルギ値を算出する間の時間である請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項26】
患者呼吸気体流量を監視する過程は、
前記患者の気道に連結される導管を設ける過程と、
導管に連結される流量センサを設ける過程とを含む請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。
【請求項27】
気体流を発生する圧力発生装置を設ける過程と、
前記患者が無呼吸/呼吸低下事象を体験しているか否かに基づいて、圧力発生装置からの気体流の供給圧力を制御する過程とを更に含む請求項15に記載の無呼吸/呼吸低下検出法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−500046(P2007−500046A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521956(P2006−521956)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2004/023897
【国際公開番号】WO2005/011469
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(505338497)アールアイシー・インベストメンツ・エルエルシー (81)
【Fターム(参考)】