説明

無接触で物体または材料を輸送および保持する装置

本発明は、接触に敏感な構造部品または材料を輸送および保持する装置に関し、次の特徴を有する。すなわち、被輸送物体または被保持物体を受け載せるための少なくとも1つの振動可能なプレート状の受け載せ体(2)を有し、この受け載せ体(2)に、少なくとも1つの発振器(3)が固定されること、および、少なくとも2つの支持要素(4)を有すること、という特徴を備える。さらに、その発振器(3)は、プレート状の受け載せ体(2)に曲げ振動を発生させるために、プレート状の受け載せ体(2)の所定位置に配置され、また、支持要素(4)は、曲げ振動の振幅が最大振幅よりも少なくとも50%小さい位置に配置され、かつ、発振器(3)は、構造部品または材料が無接触で浮揚するような振動を、プレート状の受け載せ体(2)に発生させる周波数で運転される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触に敏感な物体または材料を無接触で輸送および保持する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造部品、容器または材料のような平面状の物体を、輸送径路に沿って無接触で輸送するか、あるいは、規定される位置に保持する方式として、現行の技術から種々の技術が知られる。広く普及している例は、エアクッションを使用する輸送装置である。この場合、エアクッションは多数の空気ノズルによって生成される。しかし、このいわゆる空気支持装置はさまざまな欠点を有する。ノズルからは空気または他の気体が常に噴出している。すなわち空気が消費される。この空気は、多くの場合、予め清浄化しなければならないので、付加的なコストが発生する。さらに、空気支持装置は、その制御性に関して相対的に動きが遅く、また、粒子の巻き上がりが生じるが、これは、例えば、クリーンルームで使用する場合、好ましくない。
【0003】
この欠点は、他の技術を用いることによって、原理的には取り除くことができる。米国特許第5,810,155号から、音圧の原理に従って作動する輸送装置が知られる。発振器が連結される搬送路が記載されている。搬送路が励振され、その結果、搬送路上に載っている平坦な構造部品は、発生するエアクッションのために浮揚する、すなわち搬送路に接触することはない。構造部品を完全に浮揚させる定在波が形成されることが知られている。さらに、構造部品が搬送路に沿って動く現象を惹起する進行波が形成されることが知られている。
【0004】
この現行の技術に関する別の構造は、独国特許出願公開第19916922号、独国特許出願公開第19916923号、独国特許出願公開第19916859号および独国特許出願公開第19916872号に見ることができる。
【0005】
これまでに開示されかつ実験室レベルで構築されたこのタイプの装置は、部品の無接触の輸送および保持が、振動する輸送路上において原理的に可能であることを示している。
【0006】
しかし、この場合、実際の使用試験においては、輸送される構造部品が、例えばシリコンウェーハまたは類似の軽量材料よりも重い場合には重大な問題が生じる。これについて以下に説明する。搬送路は固有の重量および特定の振動特性を有する。搬送路が空で運転されている場合、すなわち、構造部品がその上に浮揚していない場合には、その振動挙動を正確に計算できる。しかし、搬送路に被輸送部品がさまざまな態様で載せられると、共振条件、従って搬送路の振動挙動が常時変化する。これは、搬送路の特定部分においてエアクッションが十分な密度に形成されず、従って構造部品が搬送路に接触することがあり得る結果をもたらす。接触を確実に回避するためには、負荷が大きい場合にも、搬送路が輸送径路のあらゆる位置において常に十分に強く振動するように、搬送路および発振器を構成しなければならない。しかし、このためには、より強力な発振器の使用が必要になり、その結果、設備コストおよび同様にエネルギーコストが嵩むことになる。
【0007】
上記の原理に基づく輸送設備の構築および運転は、大きな平面状の重量構造部品、例えば平方メートルレベルの大きさのガラス板を輸送する必要がある場合には、あまりに厄介でかつ高価になることが判明した。これを実現するには、輸送路の下に、多数の発振器を順次に、場合によっては互いに並べた形でも配置することが必要になるであろう。これによって設備コストは著しく上昇する。さらに、輸送路の望ましい最適の振動挙動を発生させ得るように、これらの発振器を相互に正確に調整しなければならないという点が別の問題点となる。発振器そのものについては、振動挙動における僅かな変化をもたらす一定の時効変化が避けられないので、搬送路の振動挙動を、制御によって調整しなければならない。この制御は、輸送路の振動を常時測定する場合にのみ可能になるので、この技術は、その極端に高い技術的経費のために受け入れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,810,155号
【特許文献2】独国特許出願公開第19916922号
【特許文献3】独国特許出願公開第19916923号
【特許文献4】独国特許出願公開第19916859号
【特許文献5】独国特許出願公開第19916872号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、小さい平面状の軽量構造部品のみならず、大型の重量構造部品の輸送および保持にも適した音響振動による技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は請求項1に基づく装置によって解決される。本発明による構造部品の輸送および保持用の装置は、少なくとも1つの振動可能なプレート状の受け載せ体を有する。この受け載せ体は、被輸送または被保持物体を担持搬送する機能を果たす。
【0011】
振動可能なプレート状の受け載せ体には、少なくとも1つ発振器と、少なくとも2つの支持要素とが固定され、この場合、発振器は、受け載せ体に曲げ振動を発生させるために、受け載せ体の所定位置に配置される。支持要素は、曲げ振動の振幅が最大振幅よりも少なくとも50%小さい位置に配置される。発振器は、プレート状の受け載せ体の上に載っている物体または材料が気体または空気の膜上に浮揚するような振動を、プレート状の受け載せ体に発生させる周波数で運転される。気体の膜はクッションとして作用し、構造部品が受け載せ体上に直接載るのを防止する。
【0012】
本発明によって、設定された課題は完全に解決される。従って、例えば、100kg/mまでの面積重量を有する重いガラス板を輸送するための1メートルの幅および長さの輸送路部分を、単一の発振器によって構築することが可能である。受動的な支持点は、例えばネジ止めのような単に機械的な固定結合であるので、この輸送径路の構築コストは現行技術に比べて大幅に低い。同様に設備の重量も顕著に低下する。単一のネジ止めは、ネジ止めの代わりに設けなければならない振動支持器よりも、およそ何倍も軽いからである。従って、本発明によって、幅広い実際の用途用の超音波浮揚技術を提供することが初めて可能になる。
【0013】
請求項2によれば、支持要素が、受動的な振動減衰器を有するか、あるいはそのようなものとして構成される。この振動減衰器は、場合によっては支持点における好ましくない騒音源になる可能性がある残留振動を減衰させる。当該分野の計測技術に関する関連知識を有する機械振動技術の専門家は、計測に基づいて、どの位置に振動減衰器を設置するべきかを決定できる。
【0014】
請求項3によれば、支持要素が能動的な発振器を有する。この発振器は、好ましくない残留振動を相殺するような周波数で振動する。この手段は、少数の支持位置に、受動的な減衰が困難になる可能性がある残留振動が出現する場合に必要になることがある。
【0015】
請求項4によれば、受動的な振動減衰器が調節可能または制御可能である。これによって、さらに良好な減衰特性を得ることができる。調節可能または制御可能な受動的振動減衰器の構造は既知であり、従って詳細に言及する必要はない。
【0016】
請求項5によれば、能動的な振動減衰器が調節可能または制御可能である。これによって、さらに良好な相殺特性を得ることができる。調節可能または制御可能な能動的振動減衰器の構造は同様に既知であり、従って詳細に言及する必要はない。
【0017】
請求項6によれば、プレート状の受け載せ体が2次元に湾曲される。これは、例えば、紙のようなウェブ形状の材料を無接触で方向転換する必要がある場合に有利である。
【0018】
請求項7によれば、プレート状の受け載せ体が3次元に湾曲される。これは、例えば、3次元に成形された薄い箔のような材料を、箔の表面に加工処理を施すことができるように受け載せ体の上部に無接触で保持しなければならない場合に有利である。
【0019】
請求項8によれば、発振器がプレート状の受け載せ体の表面上に配置され、支持要素がプレート状の受け載せ体の下側に配置される。これは、下側に十分な構築空間を利用し得ない場合に有利である。1個または複数の発振器を、例えば、構造部品または材料の輸送を妨げないような位置に固定しなければならないことは、専門家には自明のことである。これについては、例においてさらに詳述する。
【0020】
以下、本発明を例および概略図に基づいて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態の概略平面図を示す。
【図2】第1の実施形態を下から見た斜視図を示す。
【図3】主たる構成要素を含めた図2の斜視図を示す。
【図4】本発明の第2の実施形態の概略斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜3は、本発明の第1の実施形態の概略図を示す。寸法が980mm×980mmのアルミニウム合金AlMg4.5Mn0.7製のプレート2は、厚さが15mmであり、位置3'において、20KHzの周波数で発振器3によって励振される。この場合、プレートの表面全域に、所定の位置に最大振動点および最小振動点を有する定在的な振動パターンが形成される。符号4'で示す4つの位置は最小振動点である。プレート2は、この位置において、プラスチック製のネジ4によって固くネジ止めされる。このプラスチックのネジ4は受動的な振動減衰器として作用する。
【0023】
図4は、本発明の第2の実施形態の概略斜視図を示す。曲げられたプレート状の受け載せ体2が、2つの箔のウェブ1aおよび1bを方向転換させる。符号3'によって2つの励振点が示されており、その位置に発振器3(図示されていない)が外から配置される。符号4によって、2つの支持要素4が模式的に示されており、その支持要素4に、曲げられた薄板2が当てがわれて支持される。薄板2が所定の周波数で励振されると、薄板の表面と箔のウェブとの間に空気の膜が形成され、それによって、箔のウェブ1a、1bは薄板の表面に接触しない。
【0024】
適切な励振点の選定、その個数および適切な支持点の選定を、専門家が既知の方法によって定めることができる技術的パラメータに応じて決定できることは、専門家には自明である。同様に、専門家は、装置の振動特性に影響する他のパラメータ、例えば周囲の気体(例えば空気)の特性をも考慮するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な物体および材料(1)を輸送および保持する装置であって、次の特徴:
・ 被輸送物体または被保持物体を受け載せるための少なくとも1つの振動可能なプレート状の受け載せ体(2)を有し、この受け載せ体(2)に、
・ 少なくとも1つの発振器(3)が固定されること、および、
・ 少なくとも2つの支持要素(4)を有すること、
を備え、さらに、
・ 前記発振器(3)は、前記プレート状の受け載せ体(2)に曲げ振動を発生させるために、前記プレート状の受け載せ体(2)の所定位置に配置され、前記支持要素(4)は、前記曲げ振動の振幅が最大振幅よりも少なくとも50%小さい位置に配置され、かつ、
・ 前記発振器(3)は、前記プレート状の受け載せ体(2)の上に載っている物体または材料(1)が気体または空気の膜上に浮揚するような振動を、前記プレート状の受け載せ体(2)に発生させる周波数で運転される、
装置。
【請求項2】
前記支持要素(4)が受動的な振動減衰器を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記支持要素(4)が能動的な振動減衰器を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記受動的な振動減衰器が調節可能または制御可能であることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記能動的な振動減衰器が調節可能または制御可能であることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項6】
前記プレート状の受け載せ体(2)が2次元に湾曲されることを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記プレート状の受け載せ体(2)が3次元に湾曲されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記発振器(3)が前記プレート状の受け載せ体(2)の表面上に配置され、前記支持要素(4)が前記プレート状の受け載せ体(2)の下側に配置されることを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−523436(P2010−523436A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502412(P2010−502412)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【国際出願番号】PCT/DE2008/000595
【国際公開番号】WO2008/122283
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(509282413)ジメルマン アンド シルプ アンダバングステクニック ゲーエムベーハー (3)
【氏名又は名称原語表記】ZIMMERMANN & SCHILP HANDHABUNGSTECHNIK GMBH
【住所又は居所原語表記】Budapester Strasse 2 93055 Regensburg (DE)
【Fターム(参考)】