説明

無接触形のICタグ

【課題】金属部材などに対して好適に使用可能なICタグを提供する。
【解決手段】直方体の絶縁性の基材11の上面に無接触形の通信用のICチップ12を搭載するとともに、ICチップ12のアンテナに電磁結合するブースタコイル13を形成し、基材11の下面の全面に金属面14を形成する。ブースタコイルはリーダライタからの電波に共振する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属部材などに対しても好適に使用することができる無接触形のICタグに関する。
【背景技術】
【0002】
金属を含む任意の導電性の物品(以下、金属部材という)などに対し、無接触形のICタグを添付して使用するために、格別な工夫がなされている。
【0003】
たとえば、平板状のICタグの両面側に対し、それぞれスペーサ部材を介して導電シートを平行に設置し、各導電シートの一方をICタグの全部と重ね合わせ、他方をICタグの一部と重ね合わせると、後者側から入射する電波を効率よくICタグに到達させることができ、前者側を金属部材に接着しても、ICタグの通信距離が極端に劣化することがない(特許文献1)。また、平板状のICタグと金属層とを絶縁性の基材シートの両面に単純に対向させて配置することも知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2008−90621号公報
【特許文献2】特開2008−52668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来技術の前者によるときは、ICタグの両面にそれぞれスペーサ部材を介して導電シートを配置するので、全体厚さを含む全体サイズが大きくなり、適用用途に制限があるという問題があった。また、後者によるときは、金属層の大きさを十分大きくする必要があり、前者と同様に、全体サイズを小さくすることに限界がある。
【0005】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、作動用の電波の周波数に共振するブースタコイルを導入することによって、金属部材などに対して好適に使用することができる上、全体サイズを極端に小さくすることができる無接触形のICタグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、絶縁性の基材と、基材の上面に搭載する無接触形の通信用のICチップと、ICチップを囲むようにして基材上に形成し、ICチップのアンテナに電磁結合するブースタコイルと、基材の下面の全面に形成する金属面とを備えてなり、ブースタコイルは、基材の分布容量により、ICチップを作動させるリーダライタからの電波の周波数に共振することをその要旨とする。
【0007】
なお、ブースタコイルは、複数ターンの螺旋状に形成することができ、少なくともICチップの外形サイズ相当の開口面積に形成することができる。
【0008】
また、基材は、少なくともブースタコイルの外形サイズ相当の平面サイズに設定してもよい。
【発明の効果】
【0009】
かかる発明の構成によるときは、ブースタコイルは、ICチップのチップ本体上のアンテナと電磁結合することにより、ICチップの外部アンテナとして作動し、外部のリーダライタからの作動用の電波を受信してICチップに伝達することができ、ICチップからの応答データをリーダライタに伝達することができる。また、ブースタコイルは、基材の分布容量とともに共振回路を形成し、リーダライタからの電波の周波数に共振することにより、リーダライタとの間に十分大きな通信距離を実現することができる上、下面の金属面により、金属部材や、水分の多い導電性の物品などに添付しても、ブースタコイルの共振周波数の変動が殆どなく、通信距離の劣化を十分小さく抑えることができる。なお、この発明において、絶縁性の基材は、たとえばセラミックスなどの無機絶縁体や、たとえばガラスエポキシ樹脂などの有機絶縁体であり、リーダライタは、ICタグのデータの読取りだけを目的とするリーダを含むものとする。
【0010】
ブースタコイルは、Cu 、Al などの箔材をエッチングによって所定の導電パターンに形成してもよく、Ag ペーストなどの導電パターンを印刷によって形成してもよい。基材の下面の全面に形成する金属面についても、全く同様である。なお、基材は、上面、下面が平行に対向する直方体(立方体を含む)の他、円板状、円柱状、角柱状などに形成することができる。
【0011】
複数ターンの螺旋状に形成するブースタコイルは、小さな平面サイズの基材上において、必要なインダクタンスを容易に実現することができる。ただし、ブースタコイルは、正方形のICチップを内部に配置して全体サイズを最小にするために、正方形の導電パターンを採用することが好ましい。また、ブースタコイルは、少なくともICチップの外形サイズ相当の開口面積に形成することにより、基材の所要平面サイズを最小にすることができる。このときの基材も、少なくともブースタコイルの外形サイズの平面サイズに設定すれば足りるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0013】
無接触形のICタグ10は、絶縁性の基材11と、基材11の上面に搭載するICチップ12と、ICチップ12を囲むブースタコイル13と、基材11の下面の金属面14とを備えてなる(図1、図2)。ただし、図2(A)、(B)は、それぞれ図1の平面図、中央縦断面図である。
【0014】
基材11は、たとえばガラスエポキシ樹脂製の直方体のブロック体である。基材11の上面には、ICチップ12が搭載され、ブースタコイル13が形成されている。ICチップ12は、無接触形の通信用のICチップであって、図示しないアンテナが上面に搭載されている。ICチップ12は、基材11の上面中央部に接着されている。
【0015】
ブースタコイル13は、基材11の上面において、エッチングまたは印刷などの正方形の導電パターンにより、複数ターンの2次元の螺旋状に形成されている。ブースタコイル13は、ICチップ12を囲むようにして形成され、ICチップ12を内部に収容して配置し得るように、少なくともICチップ12の外形サイズ相当の開口面積に形成されている。また、基材11は、少なくともブースタコイル13の外形サイズ相当の平面サイズに設定されている。基材11の上面には、ICチップ12、ブースタコイル13を埋め込むようにして、保護用のレジスト膜11aが施されている。
【0016】
金属面14は、基材11の下面の全面に形成されている。
【0017】
基材11上のブースタコイル13は、螺旋状の導電パターンの全長について、基材11による分布容量Ci 、Ci …が存在する(図3(A))。そこで、ブースタコイル13は、それ自体のインダクタンスLと、分布容量Ci 、Ci …による容量Cとによって共振回路を形成する(同図(B))。また、ブースタコイル13は、内部のICチップ12のアンテナAに対し、十分密に電磁結合している。ただし、図3(B)において、ICチップ12は、チップ本体12aと、チップ本体12a上のアンテナAとに分解して図示されている。
【0018】
ブースタコイル13は、外部の図示しないリーダライタからの電波S1 が到来すると、電波S1 の周波数に共振する。そこで、ブースタコイル13は、アンテナAを介してICチップ12のチップ本体12aに高周波電力を供給し、チップ本体12aを起動するとともに、電波S1 に含まれるデータをチップ本体12aに伝送することができる。また、ICチップ12は、必要に応じてリーダライタからの電波S1 に含まれるデータに応答し、応答データに従って電波S1 を負荷変調する。負荷変調の内容は、アンテナAからブースタコイル13に伝送され、ブースタコイル13を介してリーダライタに伝達される。すなわち、ブースタコイル13は、アンテナAを介してICチップ12の外部アンテナとして作動し、ICチップ12の通信距離を大きくすることができる。
【0019】
ICタグ10の通信距離特性の試験データの一例を図4に示す。ただし、図4(A)〜(C)は、それぞれ図5(A)〜(C)の試験条件に対応している。
【0020】
図4(A)、図5(A)は、比較のために、リーダライタ21のアンテナ21aに対し、ICタグ10用のICチップ12のみを対向させたときの通信距離をx方向、y方向にプロットしたものである。また、図4(B)、図5(B)は、ICタグ10をリーダライタ21のアンテナ21aに対向させたときの通信距離を示し、図4(C)、図5(C)は、ICタグ10を金属板Mの中央部に添付したときの通信距離を示している。ここで、ICタグ10は、図4(A)〜(C)の各曲線の下側においてリーダライタ21と通信可能である。また、図4、図5において、x方向は、リーダライタ21のアンテナ21aの中心からアンテナ21aに平行なICチップ12の偏移方向であり、y方向は、アンテナ21aに垂直な偏移方向である。
【0021】
図4(B)のICタグ10は、ブースタコイル13の存在により、図4(A)のICチップ12のみの場合に比して通信距離が大幅に改善されている。また、図4(C)は、ICタグ10を金属板Mに添付しても、通信距離の劣化が極く僅かであることを示している。
【0022】
なお、図4、図5において、リーダライタ21は、外径3mmのスパイラルのアンテナ21aを介し、周波数850〜950MHz 、電力100mWの電波S1 を発生させた。また、ICタグ10は、縦横各2mm、厚さ1.8mmのガラスエポキシ樹脂製の基材11上に、縦横各0.7mm、厚さ70μmのICチップ12を搭載し、ブースタコイル13は、厚さ30μmのCu 箔により図2(A)の導電パターンを形成した。また基材11の下面の金属面14も、Cu 箔により厚さ30μmとし、図5(C)の金属板Mは、縦横各10cm、厚さ1.0mmのAl 板とした。
【他の実施の形態】
【0023】
基材11は、ガラスエポキシ樹脂製に代えて、セラミックス製としてもよい。このときの基材11のサイズは、電波S1 の周波数や、ブースタコイル13の導電パターンを同一に保つとして、たとえば縦横各2mm、厚さ1.3mmが好適である。
【0024】
なお、基材11上のICチップ12は、基材11の上面に形成する凹部11bに嵌め込むようにして搭載してもよい(図6)。ICチップ12を機械的に一層有効に保護することができる。
【0025】
また、ICタグ10は、金属板Mの表面に添付するに代えて、金属板Mを含む任意の金属部材の表面にたとえば有底円筒状の収納穴M1 を形成し、収納穴M1 の底面に固定してもよい(図7)。ただし、図7(B)は、同図(A)のX矢視相当図である。収納穴M1 内のICタグ10は、下面の金属面14側を底面側にし、上面のICチップ12側を上側にするものとし、収納穴M1 の深さ、内径は、それぞれ基材11の厚さ相当、対角線の長さ相当とすればよい。また、ICタグ10を収納した後の収納穴M1 内の隙間は、電波S1 の透過性を妨げない絶縁性、防水性の充填材を充填するものとする。このようなICタグ10の使用形態は、たとえば金属製の手術器具などを医療現場で管理する場合などの用途に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】全体構成斜視図
【図2】全体構成説明図
【図3】等価回路説明図
【図4】試験データ線図
【図5】試験条件説明図
【図6】他の実施の形態を示す図2(B)相当要部拡大断面図
【図7】使用状態説明図
【符号の説明】
【0027】
S1 …電波
A…アンテナ
Ci …分布容量
10…ICタグ
11…基材
12…ICチップ
13…ブースタコイル
14…金属面
21…リーダライタ

特許出願人 株式会社 エフ・イー・シー
代理人 弁理士 松 田 忠 秋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基材と、該基材の上面に搭載する無接触形の通信用のICチップと、該ICチップを囲むようにして前記基材上に形成し、前記ICチップのアンテナに電磁結合するブースタコイルと、前記基材の下面の全面に形成する金属面とを備えてなり、前記ブースタコイルは、前記基材の分布容量により、前記ICチップを作動させるリーダライタからの電波の周波数に共振することを特徴とする無接触形のICタグ。
【請求項2】
前記ブースタコイルは、複数ターンの螺旋状に形成することを特徴とする請求項1記載の無接触形のICタグ。
【請求項3】
前記ブースタコイルは、少なくとも前記ICチップの外形サイズ相当の開口面積に形成することを特徴とする請求項2記載の無接触形のICタグ。
【請求項4】
前記基材は、少なくとも前記ブースタコイルの外形サイズ相当の平面サイズに設定することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載の無接触形のICタグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−266145(P2009−266145A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118061(P2008−118061)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(595119486)株式会社エフ・イー・シー (18)
【Fターム(参考)】