説明

無接触通信を行う通信パートナ装置用の信号処理回路

無接触通信を行う通信パートナ装置(1)用の信号処理回路(3)において、送信信号経路(9)と受信信号経路(10)とが設けられ、受信信号経路(10)は、送信信号経路(9)上に存在する分岐点(AP)から分岐し、フィルタ・ステージ(11)と、フィルタ・ステージ(11)の下流に接続されたマッチング・ステージ(12)とが、送信信号経路(9)上に設けられ、フィルタ・ステージ(11)は、中心周波数値が上側波帯周波数と一致する周波数範囲内にある共振周波数を有し、分岐点(AP)は、フィルタ・ステージ(11)とマッチング・ステージ(12)の間に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無接触通信を行う通信パートナ装置用の信号処理回路に関し、前記通信パートナ装置を用いて、送信モード動作と受信モード動作の両方が可能であり、与えられた動作周波数の搬送波信号は、受信モードにおいて、少なくとも1つの与えられた変調周波数で変調を施され、その結果、上側波帯周波数および下側波帯周波数を有する周波数スペクトルを動作周波数およびその周辺に生成し、前記信号処理回路は、少なくとも1つの送信信号入力と、少なくとも1つの受信信号出力と、少なくとも1つの送信コイル接続とを有し、前記信号処理回路は、少なくとも1つの送信信号入力と少なくとも1つの送信コイル接続との間に送信信号経路を、少なくとも1つの送信コイル接続と受信信号出力との間に受信信号経路を有し、前記受信信号経路は、送信信号経路上に配置される分岐点から受信信号出力へと分岐し、前記信号処理回路は、送信信号経路上に、送信信号入力に接続された、与えられた値の共振周波数を有するフィルタ・ステージと、フィルタ・ステージの下流に接続されたマッチング・ステージとを有する。
【0002】
本発明はさらに、トランシーバ回路と、送信コイルと、トランシーバ回路と送信コイルの間に設けられた信号処理回路とを有する通信パートナ装置に関し、前記通信パートナ装置を用いて、送信モード動作と受信モード動作の両方が可能である。
【背景技術】
【0003】
上記の第1段落で詳述された種類の信号処理回路を有する、上記の第2段落で詳述された種類の通信パートナ装置が、多くの様々な設計により、出願人によって市場に出荷されており、したがって、当該の装置および回路が知られている。知られた通信パートナ装置では、トランシーバ回路が、集積回路すなわちICによって形成され、前記ICは、MF RC500という型番の下、出願人によって市場に出荷されている。トランシーバ回路として使用されるICは、2つの送信信号出力と、1つの受信信号入力とを有する。2つの送信信号出力の各々には、信号処理回路の送信信号入力が接続される。ICの受信信号入力には、信号処理回路の受信信号出力が接続される。信号処理回路は、送信信号経路上に、当局によって規定された電磁適合性を保証するよう意図された、EMCフィルタと呼ばれるものを形成するフィルタ・ステージを含む。フィルタ・ステージには、2つの直列キャパシタと2つの並列キャパシタの組み合わせを備えるマッチング・ステージが接続され、それを用いて、信号処理経路に接続された送信コイルのインピーダンスは、与えられた所望値に設定されることができる。マッチング・ステージには、2つの抵抗を用いて形成されるダンピング・ステージが接続され、上述の送信コイルは、ダンピング・ステージに接続される。送信コイルの品質ファクタは、ダンピング・ステージを用いて、必要とされる所望値に設定されることができる。
【0004】
知られた設計では、フィルタ・ステージは、許容誤差が無視された場合には、前記フィルタ・ステージの共振周波数の値、すなわち共振周波数の公称値が、動作周波数に一致するようにサイジングされ、前記動作周波数は、例えば13.56MHzである。また、知られた設計では、マッチング・ステージとダンピング・ステージの間に分岐点が設けられ、これは、送信コイルによって放出される受信信号が、ダンピング・ステージ内の抵抗の下流で即座にピック・オフ(pick off)されることを意味する。
【0005】
知られた信号処理回路用の説明された設計の結果は、フィルタ・ステージが、インダクタンスが相対的に高いインダクタを含み、その結果、約1μHの十分に高いインダクタンスが獲得され得るように、相対的に大きなインダクタが設けられなければならないというものである。1μHのインダクタンスに適したキャパシタンスを獲得し、したがって、所望の共振周波数値を獲得するため、並列に接続された2つのキャパシタが設けられなければならず、これは相対的に高いコストをもたらす。また、パルス形の信号が送信されたときに起こる、急峻な信号エッジが生じたときに、クリティカルなオーバーシュート現象が生じるという問題も知られた設計には存在し、これは不都合である。知られた設計について述べられなければならない別のことは、受信モードにおいて存在する周波数特性は相対的に狭帯域であり、これは多くの応用例で特に不都合であることが分かっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、単純な手段を使用し、構造的に単純な方法によって、知られた設計で生じる困難および問題を克服すること、ならびに改良された信号処理回路および通信パートナ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的が達成され得るように、本発明による特徴が、本発明による信号処理回路に提供され、その結果、本発明による信号処理回路が、以下で詳述される方法によって特徴付けられることが可能になる。
【0008】
すなわち、無接触通信を行う通信パートナ装置用の信号処理回路であって、前記通信パートナ装置を用いて、送信モード動作と受信モード動作の両方が可能であり、与えられた動作周波数の搬送波信号は、受信モードにおいて、少なくとも1つの与えられた変調周波数で変調を施され、その結果、上側波帯周波数および下側波帯周波数を有する周波数スペクトルを動作周波数およびその周辺に生成し、前記信号処理回路は、少なくとも1つの送信信号入力と、少なくとも1つの受信信号出力と、少なくとも1つの送信コイル接続とを有し、前記信号処理回路は、少なくとも1つの送信信号入力と少なくとも1つの送信コイル接続との間に送信信号経路を、少なくとも1つの送信コイル接続と受信信号出力との間に受信信号経路を有し、前記受信信号経路は、送信信号経路上に配置される分岐点から受信信号出力へと分岐し、前記信号処理回路は、送信信号経路上に、送信信号入力に接続された、与えられた周波数値の共振周波数を有するフィルタ・ステージと、フィルタ・ステージの下流に接続されたマッチング・ステージとを有し、フィルタ・ステージの共振周波数の値は、中心周波数値が動作周波数の値と変調周波数の値の和によって定義される、周波数値の範囲内にあり、前記範囲の上限値は、中心周波数値に最高変調周波数の実質的に半分の値を加えた値によって定義され、下限値は、中心周波数値から最高変調周波数の実質的に半分の値を減じた値によって定義され、送信信号経路上に存在する分岐点は、フィルタ・ステージの少なくとも1つの構成要素によってフィルタ・ステージの入力側から分離され、マッチング・ステージの少なくとも1つの構成要素によってマッチング・ステージの出力側から分離される、送信信号経路の領域内に配置される。
【0009】
上述の目的が達成され得るように、本発明による特徴が、本発明による通信パートナ装置に提供され、その結果、本発明による通信パートナ装置が、以下で詳述される方法によって特徴付けられることが可能になる。
【0010】
すなわち、トランシーバ回路と、送信コイルと、トランシーバ回路と送信コイルの間に設けられた信号処理回路とを有する通信パートナ装置であって、前記通信パートナ装置を用いて、送信モード動作と受信モード動作の両方が可能であり、通信パートナ装置は、上で特徴付けられた本発明による信号処理回路を含む。
【0011】
本発明による特徴の提供によって、特に構造的に単純な方法により、追加コストなしに達成されることは、本文書のこれ以前の箇所で説明された解決策において生じる困難および問題が克服されることである。有利な方法によってまた達成されることは、受信モード動作が行われているときに、広帯域送信特性が保証されることであり、これは、高いデータ送信速度でデータ送信が行われることを可能にする目的で有利である。送信モード動作が行われているとき、有利な方法によってまた保証されることは、送信コイルによって発生させることのできる磁界が特に速やかに強まり、同時にオーバーシュート特性が良好になり、これは、したがって、望ましくない高いオーバーシュート振幅が存在せず、できるだけ迅速かつ満足できるデータ送信の目的で同様に有利な何かが存在することを意味する。フィルタ・ステージの共振周波数の値が存在する周波数値の範囲のために本発明の範囲内でまだ許容可能な下限に関して、下限値は、上側波帯周波数の値に対し、動作周波数の値の方向に移動させられるが、周波数に関して動作周波数から大きな距離の所にあり、そのため、本発明による利点は、最適な程度では作用し得ないにしても、これまで知られている解決策よりも改善されたことを認め得る程度でまだ作用することも言及されるべきである。
【0012】
本発明による信号処理回路では、信号処理回路が、13.56MHzの動作周波数と、106kHz、212kHz、424kHz、および848kHzを含む変調周波数のグループからの少なくとも1つの変調周波数のために設計され、フィルタ・ステージの共振周波数の値が、中心周波数値プラス500kHzと中心周波数値マイナス500kHzによって2つの限界値が定義される周波数値の範囲内にある場合に有利であると分かった。この種類の設計は、ISO18092標準に準拠したRFID通信システムで使用する目的で有利であることが分かった。
【0013】
これまでの段落で説明された本発明による信号処理回路では、フィルタ・ステージの共振周波数の値が、中心周波数値プラス100kHzと中心周波数値マイナス100kHzによって2つの限界値が定義される周波数範囲内にある場合に特に有利であると分かった。この種類の設計を用いると、受信の場合に、特に広帯域の周波数特性が保証される。当該の設計は、特に良好なオーバーシュート特性を有する点でも有利である。
【0014】
本発明による提供は、その他の無接触RFID通信システムに導入されることもでき、本発明による提供が導入された場合、上述の利点が得られることが言及されるべきである。この種類のRFID通信システムは、例えば125kHzまたは6.78MHzの動作周波数で動作する。
【0015】
フィルタ・ステージの共振周波数の値が上側波帯周波数の値と実質的に同じである場合に特に有利であることも言及されるべきである。この種類の解決策を用いると、上述された本発明による利点が、特に際立った程度で得られる。しかし、フィルタ・ステージの共振周波数についてのこの種類の値を生み出すのに利用可能な標準的な市販のフィルタ構成要素は存在せず、代わりに、その目的に特に適した構成要素は製造されなければならないので、これらの特に際立った利点を達成するためには、フィルタ・ステージ用に使用される構成要素に関して、相対的に高いコストが払われなければならない。
【0016】
本発明の上記およびその他の態様は、これ以降で説明される実施形態から明らかであり、それらを参照して明瞭にされるが、本発明はそれらの実施形態に限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、知られた従来技術に準拠する知られた通信パートナ装置1を示している。通信パートナ装置1は、その他の通信パートナ装置との無接触通信用に意図され、構成される。この場合、別の通信パートナ装置は、図1に示された通信パートナ装置1と少なくとも実質的に同じ設計とすることができるが、別の通信パートナ装置は、認め得るほど異なる設計とすることもできる。送信モード動作と受信モード動作の両方が、通信パートナ装置1を用いて可能である。送信モードでは、通信パートナ装置1は、少なくとも1つの別の通信パートナ装置にデータを送信する。受信モードでは、通信パートナ装置は、少なくとも1つの他の通信パートナ装置によって放出されたデータを受信する。
【0018】
専門家集団において長いこと知られており、様々な標準、例えばISO14443またはISO15693またはISO18092標準にも規定されているように、通信パートナ装置が受信モードにあるとき、与えられた動作周波数の搬送波信号は、他の通信パートナ装置によって、少なくとも1つの与えられた変調周波数で振幅変調を施される。変調は好ましくは、振幅変調(負荷変調)であり、様々な程度の変調が使用される。今の場合、100%ASKと呼ばれるものが使用される。しかし、10%ASKと呼ばれるものが使用されることも知られている。振幅変調ばかりでなく、周波数変調または位相変調も使用され得ることも言及されるべきである。与えられた変調周波数で変調された与えられた動作周波数の搬送波信号の結果として、上側波帯周波数と下側波帯周波数を有する周波数スペクトルが、動作周波数およびその周辺に生じる。もちろん、その他の側波帯も同様に生じるが、今の場合、重要ではない。
【0019】
通信パートナ装置1は、今の場合、ブロックによって概略的に表されるトランシーバ回路2を含む。トランシーバ回路2は、実際には集積回路(IC)であり、ICは、今の場合、マイクロプロセッサ、暗号回路、ステータス/制御回路、データ処理回路、およびアナログ信号処理回路を含む。今の場合、トランシーバ回路2として提供されるものは、MF RC500という型番の下、出願人によって市場に出荷されているICである。しかし、その他の市販のICと、まだ市販されていないが出願人が開発中であるICも、通信パートナ装置1でまた使用されることができる。
【0020】
トランシーバ回路2は、2つの送信信号出力TX1およびTX2と、2つの送信信号出力TX1およびTX2と関連付けられた第1のICポートTVSSとを有する。トランシーバ回路2は、第2のICポートVMIDが関連付けられた受信信号入力RXも有する。
【0021】
信号処理回路3が、トランシーバ回路2の下流に接続される。信号処理回路3は、アナログ信号を処理するために意図され、構成される。信号処理回路3の設計は、以下でより正確に説明される。信号処理回路3には、送信コイル4が接続される。
【0022】
送信コイル4は、第1のコイル接続5と、第2のコイル接続6と、第3のコイル接続7とを有する。第3のコイル接続7は、グランド端子と呼ばれるものである。今の場合、送信コイル4は、2つの側があり(two−sided)、第3のコイル接続7に関して対称でもあり、そのため、送信コイル4には交差8が設けられる。送信モードにおいて、送信コイル4を用いて、磁界が発生させられることができる。別の通信パートナ装置の送信コイルが、通信パートナ装置1の送信コイル4と誘導、すなわち変圧器タイプ、結合にある場合、または誘導結合にされた場合、これは信号が他方の送信コイルで生成されることをもたらす。このようにして、通信パートナ装置1から他方の通信パートナ装置にデータが送信されることが可能になる。同様にして、データが反対方向に送信されることが、すなわち通信パートナ装置1が受信モードにある場合に、可能になる。
【0023】
今の場合、信号処理回路3は、2つの送信信号入力E1およびE2と、2つの送信信号入力E1およびE2と関連付けられた第1の回路接続A1とを有する。2つの送信信号入力E1およびE2は、トランシーバ回路2の2つの送信信号出力TX1およびTX2に接続される。第1の回路接続A1は、トランシーバ回路2の第1のICポートTVSSに接続される。信号処理回路3はまた、受信信号出力K1と、受信信号出力K1と関連付けられた第2の回路接続A2とを有する。受信信号出力K1は、トランシーバ回路2の受信信号入力RXに接続される。第2の回路接続A2は、トランシーバ回路2の第2のICポートVMIDに接続される。信号処理回路3はまた、第1の送信コイル接続M1と、第2の送信コイル接続M2と、第3の送信コイル接続M3とを有する。3つの送信コイル接続M1、M2、およびM3は、3つのコイル接続5、6、および7に接続される。
【0024】
2つの送信信号入力E1およびE2、第1の回路接続A1と、3つの送信コイル接続M1、M2、およびM3との間に、信号処理回路3は、送信信号経路9を有する。また、第1の送信コイル接続M1と、受信信号出力K1および第2の回路接続A2との間に、信号処理回路3は、受信信号経路10を有する。今の場合、受信信号経路10は、送信信号経路9上に配置された分岐点APから受信信号出力K1へと分岐する。
【0025】
送信信号経路9上に、信号処理回路3は、送信信号入力E1およびE2と第1の回路接続A1とに接続され、与えられた値の共振周波数を有するフィルタ・ステージ11と、フィルタ・ステージ11の下流に接続されたマッチング・ステージ12とを含む。今の場合、分岐点APは、マッチング・ステージ12の下流に設けられる。送信信号経路9上の分岐点の下流に、マッチング・ステージ12の下流に接続されたダンピング・ステージ13が設けられ、前記ダンピング・ステージ13は、3つの送信コイル接続M1、M2、およびM3のすぐ上流に設けられる。
【0026】
フィルタ・ステージ11は、2つの直列インダクタL1およびL1’と、各々が並列接続された2つのキャパシタC1、C2およびC1’、C2’を備える2つの並列キャパシタ構成とを含む。それらの値に関して、フィルタ・ステージ11の構成要素は、フィルタ・ステージ11が動作周波数に一致する共振周波数を有するように選択される。今の場合、動作周波数の値は、13.56MHzに選択される。上述の変調周波数の値は、今の場合、以下の値のグループ、すなわち106kHz、212kHz、424kHz、および848kHzのうちの1つである。周波数のこれらの値は、ISO18092標準に準拠している。フィルタ・ステージ11は、EMCステージと呼ばれるものとして意図され、略語EMCは「電磁適合性(electromagnetic compatibility)」を意味する。
【0027】
マッチング・ステージ12は、2つの直列キャパシタC3、C3’と、2つの並列キャパシタC4、C4’とを有する。マッチング・ステージ12によって達成されることは、送信コイル4のインピーダンスが、マッチング・ステージ12の入力側で必要とされる与えられた所望値に変換され、その結果、できるだけ最適に近い信号処理回路3に対する送信コイル4の整合、したがって、できるだけ最適に近いエネルギー送信を保証することである。
【0028】
ダンピング・ステージ13は、2つの直列抵抗R1、R1’を含む。送信コイル4の品質ファクタは、2つの直列抵抗R1、R1’を用いて、適切な所望値まで引き下げられる。今の場合、所望値として、値30が選択される。
【0029】
受信信号経路10には、分岐点APの下流に接続され、場合によっては分岐点APで発生し得るDC電圧をブロックすることを意図された、直列キャパシタC5が設けられる。直列キャパシタC2の下流には、電圧ドライバ14が接続される。電圧ドライバ14は、第1の抵抗R2と第2の抵抗R3とを備え、それらは接続点15で互いに接続される。接続点15は、受信信号出力K1に接続される。電圧ドライバ14を用いて、所望レベルの変調搬送波信号が、受信信号出力K1において、したがって、トランシーバ回路2の受信信号入力RXにおいて、獲得されることができる。さらなる接続点16において、並列キャパシタC6が、電圧ドライバ14の第2の抵抗R3に接続される。接続点16は、第2の回路接続A2に接続される。並列キャパシタC6は、受信された高周波RF信号を阻止して、前記高周波RF信号をトランシーバ回路2の第2のICポートVMIDから離しておくことを意図されている。
【0030】
フィルタ・ステージ11用の上述の共振周波数を得るには、インダクタンスが各々約1μHと相対的に高い、2つの直列インダクタL1、Ll’が、十分に高い品質ファクタを与えるために信号処理回路3において必要とされ、これは、これらの直列インダクタが相対的に高コストで、相対的に大きいことを意味し、これは不都合である。所望値の共振周波数を得るには、フィルタ・ステージ11において、並列接続された2つのキャパシタを備えるキャパシタ構成も必要とされる。
【0031】
フィルタ・ステージ用に選択される共振周波数のため、また分岐点AP用に選択される位置のため、図1に示された通信パートナ装置1は、受信モードにあるとき、相対的に狭帯域の送信特性を有し、これは、帯域の狭さが原因でデータ送信速度の引き上げが可能でないので、不都合であることが見出されている。送信特性が、図4に破線で示されている。
【0032】
図2は、本発明による通信パートナ装置1を示している。本発明による通信パートナ装置1は、本発明による信号処理回路3を有する。本発明による信号処理回路3は、従来技術の信号処理回路3と構造は同様であるが、従来技術に準拠する信号処理回路3と比較して、2つの非常に本質的な相違が存在し、その2つの相違が、本発明による利点を生み出す。
【0033】
第1の相違は、信号処理回路3のフィルタ・ステージ11は、動作周波数で共振するように調整されず、前記フィルタ・ステージ11は、与えられた値の共振周波数を有し、フィルタ・ステージ11の共振周波数の値は、周波数値の周囲の周波数範囲内にあり、前記周波数値は、動作周波数、すなわち搬送波信号の周波数の値と、可能な変調周波数の1つの値、好ましくは最高変調周波数の値との和に一致するという事実にある。後者の場合、和は、13.56MHz+848kHz=14.408MHzである。今の場合、この後者の周波数は、フィルタ・ステージ11の共振周波数が存在する周波数範囲の中心周波数を形成する。この場合、フィルタ・ステージの共振周波数の値が存在する周波数範囲の限界が、上限値と下限値とによって設定され、上限値は、上側波帯周波数の値に変調周波数の値の実質的に半分を加えた値によって定義され、下限値は、上側波帯周波数の値から変調周波数の値の実質的に半分を減じた値によって定義される。上限値および下限値と上側波帯周波数の値との間の距離は、正確に変調周波数の値の半分である必要はなく、変調周波数の値の半分の±10%の変調周波数の半分でよく、これが、上で「実質的に」という語によって意味されたことである。
【0034】
図2に示された信号処理回路3に存在する第2の本質的な相違は、この場合、分岐点APがフィルタ・ステージ11とマッチング・ステージ12の間に配置されるという事実にある。したがって、分岐点APは、フィルタ・ステージ11のインダクタL1によってフィルタ・ステージ11の入力側から分離され、マッチング・ステージ12の直列キャパシタC3によってマッチング・ステージ12の出力側から分離された、送信信号経路9の領域内に配置される。
【0035】
上述の提供を行うことによって、すなわち、特に、知られた従来技術に準拠する信号処理回路3と比較して、本発明の信号処理回路3に存在する上述の2つの本質的な相違によって、非常に容易なやり方で達成されることは、第1に、フィルタ・ステージ11がより少ない構成要素で製造され、それがコストに関して有益であり、またスペースを節約すること、第2に、受信モードにおいて広帯域送信特性が得られ、得られた広帯域のためにより高いデータ送信速度が何ら問題なく達成され得るので、それが高いデータ送信速度でのできるだけ速いデータ送信の目的で特に有利であること、および第3に、信号の立ち上がりが非常に急峻なときも、穏やかなオーバーシュートが生じるに過ぎず、それが満足できるエラーのないデータ送信にとって有利であることである。図4は、本発明に従って設計された信号処理回路3の送信特性を実線の形で示している。したがって、本発明に従って設計された信号処理回路3の場合、かなりより広帯域の送信特性が存在することが、図4から理解され得る。
【0036】
図3は、図2に示された本発明による信号処理回路3がグランド電位に関して両側構成からなるのに対して、送信信号経路9がグランド電位に関して片側構成だけからなる点で、図2に示された設計とは異なる、本発明によるさらなる解決策を示している。したがって、図2に示された解決策では対称構成が存在するのに対して、図3に示された解決策では非対称構成が存在する。
【0037】
図5は、ただ1つの並列キャパシタC1がフィルタ・ステージ11に設けられるのではなく、並列キャパシタC1に直列接続されたさらなるキャパシタCXが並列キャパシタC1に加えて設けられる点で、図3に示された設計とは異なる、本発明によるさらなる解決策の部分を示している。図3に示された設計とのさらなる相違は、ただ1つの直列キャパシタC3がマッチング・ステージ12に設けられるのではなく、直列キャパシタC3に直列接続されたさらなるキャパシタCYが直列キャパシタC3に加えて設けられる点で、マッチング・ステージ12に存在する。したがって、2つのさらなるキャパシタCXおよびCYが、それぞれの場合に並列キャパシタC1および直列キャパシタC3が単独で存在するとしたら得られることができないキャパシタンスの値を与えるために、それぞれ並列キャパシタC1および直列キャパシタC3に加えて設けられる。今の場合、2つのさらなるキャパシタCXおよびCYのキャパシタンスの値は、それぞれ並列キャパシタC1および直列キャパシタC3のものよりもかなり高い。しかし、さらなるキャパシタCXおよびCYのキャパシタンスの値は、キャパシタC1およびキャパシタC3のものと同じオーダであることもできるので、必ずしもかなり高い必要はない。
【0038】
今の場合、図3に示された設計でもそうであるように、分岐点APは、フィルタ・ステージ11とマッチング・ステージ12の間に配置される。したがって、送信信号経路9上に存在する分岐点APは、フィルタ・ステージ11のインダクタL1によってフィルタ・ステージ11の入力側から分離され、マッチング・ステージ12の2つのキャパシタC3およびCYによってマッチング・ステージ12の出力側から分離された、送信信号経路9の領域内に配置される。
【0039】
図6は、この場合、分岐点APがフィルタ・ステージ11の並列キャパシタC1とさらなるキャパシタCXの間に配置される点で、図5に示された設計とは異なる、本発明によるさらなる解決策を示している。したがって、送信信号経路9上に存在する分岐点APは、インダクタL1およびさらなるキャパシタCXによってフィルタ・ステージ11の入力側から分離され、マッチング・ステージ12の直列キャパシタC3およびさらなるキャパシタCYと、フィルタ・ステージ11のさらなるキャパシタCXとによってマッチング・ステージ12の出力側から分離された、送信信号経路9の領域内に配置される。
【0040】
図7は、送信信号経路9上に存在する分岐点APがマッチング・ステージ12の直列キャパシタC3とさらなるキャパシタCYの間に配置される点で、図5および図6に示された設計とは異なる、本発明によるさらなる解決策を示している。したがって、この場合、送信信号経路9上に存在する分岐点APは、フィルタ・ステージ11のインダクタL1と、マッチング・ステージ12のさらなるキャパシタCYとによってフィルタ・ステージ11の入力側から分離され、マッチング・ステージ12の直列キャパシタC3によってマッチング・ステージ12の出力側から分離された、領域内に配置される。
【0041】
図5、図6、および図7に示された本発明による解決策も、図3に示された設計を参照してすでに説明された利点が存在し、それが達成され得ることを保証する。
【0042】
本発明による信号処理回路を有する本発明による通信パートナ装置では、フィルタ・ステージ内に、ただ1つのインダクタではなく、2つの直列インダクタが設けられることもできる。フィルタ・ステージにおいて、およびマッチング・ステージにおいても、望ましいキャパシタンスの値は、複数のキャパシタを並列および/または直列に接続することによって獲得されることもできる。同様のことが、フィルタ・ステージにおけるキャパシタンスの望ましい値の獲得にも適用される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】知られた従来技術に準拠した信号処理回路を含む知られた従来技術に準拠した通信パートナ装置を回路図の形で部分的、概略的に示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による信号処理回路を含む本発明の第1の実施形態による通信パートナ装置を図1と同様のやり方で示す図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による信号処理回路を含む本発明の第2の実施形態による通信パートナ装置を図1および図2と同様のやり方で示す図である。
【図4】図2に示された通信パートナ装置の信号処理回路において生じる送信周波数応答を示すグラフである。
【図5】信号処理回路が図3に示された信号処理回路の変形である、本発明の第3の実施形態による信号処理回路を含む本発明の第3の実施形態による通信パートナ装置の部分を示す図である。
【図6】信号処理回路が図3および図5に示された信号処理回路の変形である、本発明の第4の実施形態による信号処理回路を含む本発明の第4の実施形態による通信パートナ装置の部分を示す図である。
【図7】信号処理回路が図3、図5、および図6に示された信号処理回路の変形である、本発明の第5の実施形態による信号処理回路を含む本発明の第5の実施形態による通信パートナ装置の部分を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無接触通信を行う通信パートナ装置用の信号処理回路であって、前記通信パートナ装置を用いて、送信モード動作と受信モード動作の両方が可能であり、与えられた動作周波数の搬送波信号は、受信モードにおいて、少なくとも1つの与えられた変調周波数で変調を施され、その結果、上側波帯周波数および下側波帯周波数を有する周波数スペクトルを前記動作周波数およびその周辺に生成し、前記信号処理回路は、少なくとも1つの送信信号入力と、少なくとも1つの受信信号出力と、少なくとも1つの送信コイル接続とを有し、前記信号処理回路は、前記少なくとも1つの送信信号入力と前記少なくとも1つの送信コイル接続との間に送信信号経路を、前記少なくとも1つの送信コイル接続と前記受信信号出力との間に受信信号経路を有し、前記受信信号経路は、前記送信信号経路上に配置される分岐点から前記受信信号出力へと分岐し、前記信号処理回路は、前記送信信号経路上に、前記送信信号入力に接続された、与えられた周波数値の共振周波数を有するフィルタ・ステージと、前記フィルタ・ステージの下流に接続されたマッチング・ステージとを有し、前記フィルタ・ステージの前記共振周波数の値は、中心周波数値が前記動作周波数の値と変調周波数の値の和によって定義される、周波数値の範囲内にあり、前記範囲の上限値は、前記中心周波数値に最高変調周波数の実質的に半分の値を加えた値によって定義され、下限値は、前記中心周波数値から最高変調周波数の実質的に半分の値を減じた値によって定義され、前記送信信号経路上に存在する前記分岐点は、前記フィルタ・ステージの少なくとも1つの構成要素によって前記フィルタ・ステージの入力側から分離され、前記マッチング・ステージの少なくとも1つの構成要素によって前記マッチング・ステージの出力側から分離される、前記送信信号経路の領域内に配置される、信号処理回路。
【請求項2】
前記信号処理回路が、13.56MHzの動作周波数と、106kHz、212kHz、424kHz、および848kHzを含む変調周波数のグループからの少なくとも1つの変調周波数のために設計され、前記フィルタ・ステージの前記共振周波数の値が、前記中心周波数値プラス500kHzと前記中心周波数値マイナス500kHzによって2つの限界値が定義される周波数値の範囲内にある、請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項3】
前記フィルタ・ステージの前記共振周波数の値が、前記中心周波数値プラス100kHzと前記中心周波数値マイナス100kHzによって2つの限界値が定義される周波数値の範囲内にある、請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項4】
トランシーバ回路と、送信コイルと、前記トランシーバ回路と前記送信コイルの間に設けられた信号処理回路とを有する通信パートナ装置であって、前記通信パートナ装置を用いて、送信モード動作と受信モード動作の両方が可能であり、前記通信パートナ装置が、請求項1から3のいずれかに記載の信号処理回路を含む、通信パートナ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2008−506177(P2008−506177A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519934(P2007−519934)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/IB2005/052179
【国際公開番号】WO2006/006103
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】