説明

無機エレクトロルミネッセンスパネル

【課題】高輝度で長寿命化が可能な無機エレクトロルミネッセンスパネルを提供する。
【解決手段】一対の電極の間に発光体層および誘電体層が積層されてなる発光単位(選択図においては、発光面電極1a、発光体層3a、誘電体層4a、および中間電極1eから第1の発光単位が構成され、中間電極1e、発光体層3b、誘電体層4b、および中間電極1fから第2の発光単位が構成され、中間電極1f、発光体層3c、誘電体層4c、および背面電極1bから第3の発光単位が構成されている)が複数積層され、各々の単位において対をなす電極(1aと1e;1eと1f;1fと1b)の間に電圧が印加されるようになっていることを特徴とする無機エレクトロルミネッセンスパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機エレクトロルミネッセンスパネルに関し、特に、無機発光体を樹脂中に分散してなる発光体層を有する分散型無機エレクトロルミネッセンスパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
分散型無機エレクトロルミネッセンス(EL)パネル(例えば特許文献1,2参照)は、蛍光体粉末を高誘電率のバインダー中に分散してなる発光体層および誘電体層を、少なくとも一方が透明な2つの電極の間に挟み込んだ構造からなり、電極間に交流電圧を印加することにより発光する。このような発光パネルは、厚さが薄く、面状に発光し、かつ発熱が少ないなど数多くの利点が知られている。
【0003】
従来の分散型無機ELのパネル構造の一例を図1に示す。図1に示すパネルは、透明電極1aを形成したガラス基板またはフィルム基板2aの上に、発光体層3、誘電体層4、背面電極1bを順に積層させた構造である。発光体層3は、10〜30μm程度の粒径の発光体微粒子を樹脂中に分散させた構造になっており、そこで使用される発光体は、硫化亜鉛(ZnS)を母体材料とするものが市販されている。誘電体層4は、その静電容量を大きくすることにより、発光体に実効的にかかる電圧を高くする効果が期待でき、比誘電率が数千と高い値を示す強誘電体微粉末であるチタン酸バリウム(BaTiO)が良く用いられる。透明電極1aとしてはインジウムスズ酸化物(ITO)等の透明導電体が一般的である。上記の構成による無機ELパネルは、配線5a,5bを介して透明電極1aと背面電極1bとを交流電源5に接続し、交流電源5で電極1a,1bの間に交流電圧を印加することにより発光する。
【0004】
しかしながら、従来無機ELパネルはその発光の輝度が低いことが課題として挙げられている。
【0005】
その解決策として、下記イ〜ハの手法等が行われてきたが、いずれの方法によっても十分には解決できていないのが実情である。
【0006】
イ)電圧を上げて輝度を高める。この場合は高電圧による発光体層の劣化などにより寿命低下の問題がある。また、高電圧電源が必要となり、一般的に使用するためには安全性の課題がある。
ロ)荷電する交流の周波数を上げて輝度を高める。この場合は、周波数を変換するためにインバーターが必要になる。また、やはり寿命低下の問題がある。
【0007】
ハ)誘電体層の誘電率を上げる。この場合は、発光体層にかかる電圧を高める作用があるが、やはり寿命が低下する問題がある。
【特許文献1】特開2006−032100号公報
【特許文献2】特開2006−054114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑みて、本発明は、シンプルで製造しやすい構造を有し、単層のパネルと同等の電源で(同じ電圧、周波数で)、かつ寿命は単層と同等で、高輝度が得られる無機エレクトロルミネッセンスパネルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、次の構成により解決されることが見出された。即ち本発明の無機エレクトロルミネッセンスパネルは、一対の電極の間に発光体層および誘電体層が積層されてなる単位が複数積層され、各々の単位において対をなす電極の間に電圧が印加されるようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無機エレクトロルミネッセンスパネルによれば、発光体層および誘電体層が複数積層されているとともに、それぞれの発光体層に電圧を印加する電極の対が発光体層と同数だけ存在するので、印加する電圧や周波数を高くしなくても高輝度が得られ、また、寿命低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
本発明の無機エレクトロルミネッセンスパネルは、一対の電極の間に発光体層および誘電体層が積層されてなる単位(本明細書では、これを「発光単位」と呼ぶ。)が複数積層され、各々の単位において対をなす電極の間に電圧が印加されるようになっていることを特徴とするものである。
【0012】
図5は3つの発光単位を積層した本発明の無機エレクトロルミネッセンスパネルを示す。
この例では、電極1a、発光体層3a、誘電体層4a、および電極1eから第1の発光単位が構成され、電極1e、発光体層3b、誘電体層4b、および電極1fから第2の発光単位が構成され、電極1f、発光体層3c、誘電体層4c、および電極1bから第3の発光単位が構成されている。
また図5では、発光体層と誘電体層の積層順序が3つの発光単位とも同じであるが、必ずしも同じ順序とする必要は無い。例えば図6に示すように、積層体の一番外側の面の両方に発光体層を形成することもできる。
【0013】
以下、本明細書では発光体層と誘電体層の積層順序については、図5のようにすべての発光単位について同じ場合を例として説明する。
尚、本明細書において、それぞれの発光単位について、発光体層に接する電極を発光体電極と呼び、誘電体層に接する電極を誘電体電極と呼ぶ。また発光単位を複数積層する場合は、一番外側の発光体層に接する電極を発光面電極と呼び、一番外側の誘電体層に接する電極を背面電極と呼ぶ。そして複数積層した場合において、一番外側の電極(発光面電極及び背面電極)以外の、積層体の内部にある電極を中間電極と呼ぶ。
【0014】
図5に示す例では、発光面電極1a、発光体層3a、誘電体層4a、および中間電極1eから第1の発光単位が構成され、中間電極1e、発光体層3b、誘電体層4b、および中間電極1fから第2の発光単位が構成され、中間電極1f、発光体層3c、誘電体層4c、および背面電極1bから第3の発光単位が構成されている。
【0015】
即ち図5の例では中間電極1eは、第1の発光単位の誘電体電極と第2の発光単位の発光体電極とを兼ねており、中間電極1fは、第2の発光単位の誘電体電極と第3の発光単位の発光体電極とを兼ねている。このように発光単位を複数積層し、各単位の隣接する電極を共通化した場合は、表面側から順に数えてn番目の発光単位とn+1番目の発光単位との間に配置される中間電極は、n番目の発光単位の誘電体電極と、n+1番目の発光単位の発光体電極とを兼ねることになる。
【0016】
図5のように、積層された単位の隣接する電極が共通である場合は、各々の発光単位において対をなす電極の間に電圧を印加するため、電源5を次のように接続することができる。すなわち、第1の発光単位においては電極1a,1e間に電圧が印加され、第2の発光単位においては電極1e,1f間に電圧が印加され、第3の発光単位においては電極1f,1b間に電圧が印加されるように、接続することができる。
【0017】
このような無機エレクトロルミネッセンスパネルの場合、積層された発光単位の総数をNとして、発光面電極を第0電極、表面側から順に数えてn番目の発光単位とn+1番目の発光単位との間に配置される中間電極を第n電極(ただしnは1からN−1までの整数)、背面電極を第N電極と呼ぶとき、偶数番目の電極(図5の例では1aおよび1f)は、電源5の一方の極(共通配線5a側の極)に接続し、奇数番目の電極(図5の例では1eおよび1b)は、電源5の他方の極(共通配線5b側の極)に接続するようにすると、いずれの発光単位においても、その両側の電極が電源5の異なる極に接続され、各発光単位を、電源5に対して並列に接続することができる。
【0018】
上述の無機エレクトロルミネッセンスパネルにおいては、隣接する発光単位が一層の電極(中間電極)を共有するものとしたが、本発明では、前記中間電極を共通化せず、透明な中間基材を介してその両面に電極が形成される構成とすることができる。この場合、図2,図3に示すように、中間基材となる透明基材を挟んでその両側に、それぞれ中間電極が形成されることとなる。
【0019】
図2,図3に示す例では、電極1a、発光体層3a、誘電体層4a、および電極1cから第1の発光単位が構成され、電極1d、発光体層3b、誘電体層4b、および電極1bから第2の発光単位が構成されている。第1の発光単位と第2の発光単位との間には透明な中間基材2cが設けられている。
【0020】
第1の発光単位においては、一対の電極1a,1c間に電圧が印加されるように電源5が接続されている。また、第2の発光単位においても、一対の電極1b,1d間に電圧が印加されるように電源5が接続されている。また、無機エレクトロルミネッセンスパネルの表裏(図の上下)両側にもそれぞれ表面基材2aおよび背面基材2bが積層されている。
【0021】
複数の発光単位を積層する場合に、その中間電極が中間基材を挟んで形成されているならば、個々の発光単位それぞれに電源を用意して電圧を印加することも考えられる、また図2、図3に示す例のように、1個の電源5で電圧を印加できるようにすることもできる。図2、図3の例においては、1個の電源5で複数の発光単位に電圧を印加できるように、前記各々の発光単位が1つの電源5に対して並列接続されるための配線6a,6bを有する。
【0022】
交流電圧を印加する場合、個々の発光単位の電極の対について、それぞれの電極には電源5の異なる端子が接続されるようにすればよい。したがって、複数の発光単位を積層した場合には、電圧の掛け方(配線接続の仕方)は複数の方法がある。例えば2つの発光単位を積層した場合には、図2、図3に示すように、2通りの配線が考えられる。
【0023】
図2に示す例の場合、第1の発光単位の電極の1つ(電極1a)と第2の発光単位の電極の1つ(電極1d)とが、共通配線5aから分岐した配線6aによって電源5の一方の端子に接続されており、第1の発光単位の電極の他の1つ(電極1c)と第2の発光単位の電極の他の1つ(電極1b)とが、共通配線5bから分岐した配線6bによって電源5の他方の端子に接続されている。すなわち、それぞれの発光単位について、その発光体電極同士を一つの端子に接続し、また、その誘電体電極同士をもう一つの端子に接続する方法である。
【0024】
また、図3に示す例の場合、第1の発光単位の電極の1つ(電極1c)と第2の発光単位の電極の1つ(電極1d)とが、共通配線5aから分岐した配線6aによって電源5の一方の端子に接続されており、第1の発光単位の電極の他の1つ(電極1a)と第2の発光単位の電極の他の1つ(電極1b)とが、共通配線5bから分岐した配線6bによって電源5の他方の端子に接続されている。すなわち、それぞれの発光体層に対してパネルの内側の電極同士を一つの端子に接続し、また、パネルの外側の電極同士をもう一つの端子に接続する方法である。
【0025】
このような無機エレクトロルミネッセンスパネルを製造するには、表面基材2aの片面に電極1aを設けたもの、背面基材2bの片面に電極1bを設けたもの、および中間基材2cの両面にそれぞれ電極1c,1dを設けたものを用意し、発光体層3a,3bならびに誘電体層4a,4bをペーストの印刷等で成膜しながら基材を順次積層する方法が挙げられる。これにより、各層を密着して積層することが容易であり、発光単位間に隙間が生じて光散乱等による輝度の低下を抑制することができる。
【0026】
例えば図2、図3に示すように発光単位が2つ積層された無機エレクトロルミネッセンスパネルの場合、片面に電極1aを有する表面基材2aを用意し、電極1a上に発光体層3aおよび誘電体層4aを順次積層し、その上に、両面に電極1c,1dを有する中間基材2cを積層し、さらに電極1d上に発光体層3bおよび誘電体層4bを順次積層したのち、その上に、片面に電極1bを有する背面基材2bを積層する方法が挙げられる。
【0027】
同様に、発光単位が3つ以上積層された無機エレクトロルミネッセンスパネルについても、両面に電極を有する中間基材を複数枚用い、その上に発光体層および誘電体層を積層する工程を必要な回数、繰り返すことで製造することができる。例えば、発光単位が3つ積層された無機エレクトロルミネッセンスパネルの場合、片面に電極を有する表面基材の前記電極上に発光体層および誘電体層を順次積層し、その上に、両面に電極を有する第1の中間基材を積層し、さらにその上に発光体層および誘電体層を順次積層し、その上に、両面に透明電極を有する第2の透明基材を積層し、さらにその上に発光体層および誘電体層を順次積層したのち、その上に、片面に電極を有する背面基材を積層する方法が挙げられる。
【0028】
本発明においては、無機エレクトロルミネッセンスパネルを両面発光型パネルとすることも、また、片面発光型パネルとすることも可能である。
【0029】
(両面発光型パネルの構成)
本発明の無機エレクトロルミネッセンスパネルにおいて、パネル内の電極をすべて透明電極とすることにより、両面発光型パネルを構成することができる。ここで、パネル内の電極とは、発光面電極、背面電極、並びにそれぞれの発光単位の発光体電極及び誘電体電極である。これにより、それぞれの発光単位において発光体層から放出される光は、パネルの両面から放射され、パネルのいずれの面においても複数の発光単位から放出された光を合わせた光量が放射されることとなり、両面発光型パネルの輝度を向上することができる。発光単位を3つ以上積層する場合も、同様である。
【0030】
例えば、図5に示すように、発光単位間で中間電極が共有されるパネルの場合、発光体層3a側の最外層の電極(発光面電極)1a、誘電体層4c側の最外層の電極(背面電極)1b、及び中間電極1e,1fは、いずれも透明なもの(透明電極)とする。
なお、図5に示す例では、表面基材および背面基材が省略されているが、本発明は、特にこれに限定されるものではなく、基材上に形成された電極を用いることができる。両面発光型パネルにおいて、透明基材からなる表面基材を発光面電極に積層して設けても良く、また、透明基材からなる背面基材を背面電極に積層して設けても良い。
【0031】
また、図2,図3に示すように、発光単位間に中間基材が設けられるパネルの場合、表面基材2a、背面基材2b、中間基材2cはいずれも透明なもの(透明基材)とし、表面基材2a上の電極(発光面電極)1a、背面基材2b上の電極(背面電極)1b、中間基材2c上の電極(中間電極)1c,1dはいずれも透明なもの(透明電極)とする。また、発光単位間に中間基材が設けられる両面発光型パネルにおいて、発光面電極または背面電極は、基材上に形成されていなくてもよい。
【0032】
(片面発光型パネルの構成)
本発明の無機エレクトロルミネッセンスパネルにおいて、パネル内の電極は、背面電極となるものを除いていずれも透明電極であり、背面電極は不透明なものであることにより、片面発光型パネルを構成することができる。これにより、パネルの発光面電極の側から放出される光は、積層されている複数の発光単位から放出された光を合わせた光量が放射されることとなり、片面発光型パネルの輝度を向上することができる。
【0033】
また、片面発光型パネルにおいて、背面電極として、銀、アルミニウムなどの反射性を有する電極を用いた場合、発光体層からパネルの背面に向かって放出された光は反射性を有する背面電極によって反射され、発光体層からパネルの表面に向かって放出された光とともに、パネルの表面から放射されることとなり、輝度がさらに向上するので好ましい。
【0034】
例えば、図5に示すように、発光単位間で中間電極が共有されるパネルの場合、発光面電極1aと、中間電極1e,1fは、いずれも透明なもの(透明電極)とし、背面電極1bは、反射性を有しても良い不透明な電極とする。
【0035】
なお、図5に示す例では、表面基材および背面基材が省略されているが、本発明は、特にこれに限定されるものではない。片面発光型パネルにおいて、発光面電極1aは透明基材に形成されていても良く、また、背面電極1bは透明基材又は不透明基材に形成されていても良い。片面発光型パネルにおいては、不透明基材に形成された透明な背面電極を用いることもできる。
【0036】
また、図2,図3に示すように、発光単位間に中間基材が設けられるパネルの場合、表面基材2aおよび中間基材は透明なもの(透明基材)とし、表面基材上の電極(発光面電極)1aおよび中間基材上の電極(中間電極)はいずれも透明なもの(透明電極)とし、背面電極1bは不透明なものとする。背面電極2bを誘電体層の上に直接形成することにより、背面基材を省略することもできる。
【0037】
(各部の構成例)
透明電極は、例えば透明な酸化物からなる透明導電膜であり、スパッタ法、CVD法、スプレー熱分解堆積法(SPD法)などの薄膜形成方法により形成することができる。透明な酸化物の具体例としては、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化スズ(TO)、フッ素ドープ酸化亜鉛(FZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、ホウ素ドープ酸化亜鉛(BZO)、酸化亜鉛(ZO)などが挙げられる。透明導電膜の厚さは特に限定されないが、例えば厚さ5〜500nmである。
【0038】
透明電極は、透明基材の上に櫛型あるいはグリッド型などの金属および/または合金の細線を配置して、その上に透明導電膜を製膜したものであっても良く、この場合は通電性を改善することができる。金属や合金の細線としては、銅、銀、アルミニウム、ニッケルなどが好ましく用いられる。金属及び/又は合金の細線を配置すると光の透過率が減少するので、細線の間隔を狭くしすぎたり、細線の幅や高さを大きく取りすぎたりすることなく、90%以上の透過率を確保することが望ましい。
【0039】
透明電極が形成される透明基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、トリアセチルセルロース(TAC)等の可撓性ポリマーが挙げられる。透明基材の厚さは10〜250μm、特に50〜200μmが好ましい。
【0040】
片面発光型パネルに用いられる不透明な背面電極としては、例えばカーボン(C)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)などからなる背面電極を用いることができる。
また、背面電極を不透明なものとする代わりに、不透明な背面基材を透明電極からなる背面電極とともに用いるのでも良い。
また、不透明な背面基材を用いる代わりに、背面電極を透明な背面基材に形成し、かつ前記透明な背面基材の外側に不透明材料の層を併用するのでも良い。
【0041】
また、片面発光型パネルにおいて、反射性を有する背面電極を用いる代わりに、反射性を有する背面基材を、透明電極からなる背面電極とともに用いるのでもよい。反射性を有する背面基材としては、アルミニウム(Al)または銀(Ag)等の反射率の優れた金属層を有するものが挙げられる。
【0042】
また、前記の反射性を有する背面基材を用いる代わりに、背面電極を透明な背面基材に形成し、かつ前記透明な背面基材の外側に反射性の層を併用するのでも良い。透明電極からなる背面電極と、反射性の層との間に、透明基材が設けられると、反射性の層が導電性を有する場合にも、背面電極と反射性の層とを電気的に絶縁することができる。
【0043】
発光体層は、無機発光体粒子を分散媒に分散して形成された層である。発光体層に用いられる無機発光体としては、無機ELパネルに用いられている半導体の微粒子であれば任意のものが用いられ、必要な発光波長領域により適宜選択される。例えば、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、CaS、MgS、SrS、GaP、GaAs、およびそれらの混晶などが挙げられるが、ZnS、CdS、CaSなどを好ましく用いることができる。
【0044】
発光体層で無機発光体粒子を分散するために用いられる分散媒としては、例えば、シアノエチルセルロース系樹脂のような比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。
発光体層は、BaTiOやSrTiOなどの高誘電率の無機誘電体粒子を含まないものとすれば、透明度が上がり、発光単位を積層したときに内部の発光単位から放射される光の減衰を抑制できるので、好ましい。
【0045】
誘電体層としては、例えば誘電体となる樹脂層が挙げられる。このような樹脂層としては、例えば、シアノエチルセルロース系樹脂のような比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。誘電体はなるべく薄くして、その透明性の低下による輝度低下を防ぐようにすることが望ましい。誘電体樹脂としては、シアノエチルセルロース系樹脂のような比較的誘電率の高いポリマーが好ましい。
【0046】
誘電体層には、適宜、無機誘電体粒子を含有させることができる。無機誘電体は、誘電率及び絶縁性が高く、かつ高い誘電破壊電圧を有する材料であれば任意のものが用いられる。無機誘電体としては、各種の金属酸化物及び窒化物を使用でき、例えば、SiO、TiO、BaTiO、SrTiO、PbTiO、KNbO、PbNbO、Ta、BaTa、LiTaO、Y、Al、ZrO、AlONなどを用いることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0047】
無機誘電体粒子を含有する誘電体層は、上述の無機誘電体粒子を上述の誘電体樹脂中に分散含有して形成された層であることが好ましい。また、片面発光型パネルにおいては、背面電極に接する誘電体層は不透明となる程度に無機誘電体粒子を含むものとして、発光強度を高くすることができる。
【0048】
また、誘電体層の透明度を上げるために、高誘電率の無機誘電体粒子を含まない樹脂層を誘電体層として用いることもできる。片面発光型パネルの場合は、背面電極に接するもの以外の誘電体層(例えば図2,3における誘電体層4a)は高誘電率の無機誘電体粒子を含まない樹脂層を用いて透明度を上げ、背面電極に接する誘電体層(例えば図2,3における誘電体層4b)はBaTiO等の無機誘電体粒子を含むもの(不透明)として発光強度を高めることもできる。
【0049】
発光体層及び誘電体層は、スクリーン印刷法、ロールコート法、スライドコート法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレー塗布法などを用いて塗布して形成されることが好ましい。例えば、スクリーン印刷法では、発光体や誘電体の微粒子を高誘電率のポリマー溶液に分散した分散液を、スクリーンメッシュを通して塗布することにより層が形成される。スクリーンメッシュの厚さ、開口率、塗布回数を適宜選択することにより膜厚を制御でき、さらにスクリーンメッシュの大きさを変えることで大面積化が容易である。特に、透明電極が形成された透明基材がフレキシブルなフィルム基板である場合には、Roll−to−Rollによる連続プロセスの適用が容易に実現できる。
【0050】
以上説明したように、本形態例の無機エレクトロルミネッセンスパネルによれば、発光体層および誘電体層が複数、所定の順序にて積層されているとともに、それぞれの発光体層に電圧を印加する電極の対が発光体層と同数だけ存在するので、印加電圧を高くしなくても高輝度が得られ、また、寿命低下を抑制することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0052】
(実施例1)
片面に透明ITO電極を有する透明PET基材を用意し、その透明ITO電極上に発光体層および誘電体層を順次積層したのち、その上に、両面に透明ITO電極を有する透明PET基材を積層した。次いでその上に発光体層および誘電体層を順次積層したのち、その上に、両面に透明ITO電極を有する透明PET基材を積層した。次いでその上に発光体層および誘電体層を順次積層したのち、片面に透明電極を有する透明基材を積層することで、一対の透明電極の間に発光体層および誘電体層が積層されてなる単位が3つ積層された無機エレクトロルミネッセンスパネルを作製した。
【0053】
この3層積層タイプの無機エレクトロルミネッセンスパネルについて、3対ある透明電極のうち一対の透明電極の間にのみ交流電圧を印加して、1単位のみ発光させて輝度を測定したところ、第1層は107cd/m、第2層は85cd/m、第3層は113cd/mであった。また、3対ある透明電極のすべてに交流電圧を印加して、3単位とも発光させて輝度を測定したところ、283cd/mであった。1層ずつ発光させた場合の合計の輝度(305cd/m)と比べて遜色なく、高い輝度を得ることができた。また、寿命は単層と同じと考えられるので、同じ寿命・電圧で、輝度を283/(305/3)=2.8倍に上げたことに相当する。
【0054】
(比較例1,2)
片面に透明ITO電極を有する透明PET基材を用意し、その透明ITO電極上に発光体層および誘電体層を順次積層したのち、その上に、片面に透明電極を有する透明基材を積層することで、一対の透明電極の間に発光体層および誘電体層が積層されてなる無機エレクトロルミネッセンスパネルを作製した。1層タイプの無機エレクトロルミネッセンスパネルを2つ作製し、以下に示す評価試験において、1つは高電圧を印加する場合(比較例1:1層高電圧タイプ)に、もう1つは高周波数を印加する場合(比較例2:1層高周波数タイプ)に用いるものとした。
【0055】
(評価試験)
実施例1の3層積層タイプの無機エレクトロルミネッセンスパネルについては、正弦波100V(p−p)[実効値としては71V]、周波数2kHzの交流を通電した。比較例1の1層高電圧タイプの無機エレクトロルミネッセンスパネルについては、正弦波144V(p−p)[実効値としては102V]、周波数2kHzの交流を通電した。比較例2の1層高周波数タイプの無機エレクトロルミネッセンスパネルについては、正弦波100V(p−p)[実効値としては71V]、周波数10kHzの交流を通電した。
【0056】
それぞれのパネルについて、最初に点灯してから48時間継続して発光させ、最初に点灯したとき(点灯時間0h)ならびに点灯時間が0.12h、0.25h、0.5h、0.75h、1h、3h、5h、7h、24h、30h、48hのときの電圧値、電流値、色特性(x,y)、輝度を測定した。電気特性(電圧値および電流値)はデジタルメーターにより測定し、色特性(x,y)および輝度は色彩輝度計により測定した。
【0057】
以上の測定値を、実施例1については表1に、比較例1については表2に、比較例2については表3に、それぞれ表す。表1〜3において、電流値および輝度については、点灯時間0hのときの値を100%としたときの百分率(初期比)を求め、合わせて示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
また、これらの測定値について、点灯時間(1h以上)と輝度初期比との関係およびその近似曲線の測定例を示すグラフを図4に示す。
【0062】
実施例1の場合、表1に示すように、初期輝度は220cd/mであった。これに対して比較例1の場合、表2に示すように、実施例1と同程度の初期輝度を得るためには144Vの高電圧144Vをかける必要があった。比較例2の場合、電源周波数を上げて実施例1と同程度の初期輝度を得ることを試みたが10kHzまで上げても初期輝度は150cd/mであった。
【0063】
図4に示すように、48時間点灯における輝度低下については、実施例1の輝度低下が最も少なかった。なお、図4ではプロットした点の曲線近似を良くするために、点灯時間0〜0.75hのデータは除いて近似曲線を求め、グラフ中に示した。このように、積層型の無機エレクトロルミネッセンスパネルとすることにより、単層と同じ電圧、周波数で、高輝度を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の無機エレクトロルミネッセンスパネルは、各種の照明装置や表示装置、店頭販促広告(POP)、バックライト等の光源に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】従来の分散型無機ELパネル構造の一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の分散型無機ELパネルの一例を示す模式的断面図である。
【図3】図2の分散型無機ELパネルの配線を変更した例を示す模式的断面図である。
【図4】点灯時間(1h以上)と輝度初期比との関係およびその近似曲線の測定例を示すグラフである。
【図5】本発明の分散型無機ELパネルにおいて、中間基材を省略した例を示す模式的断面図である。
【図6】本発明の分散型無機ELパネルにおいて、発光体層と誘電体層の積層順序が異なる例を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1a…発光面電極、1b…背面電極、1c,1d,1e,1f…中間電極、2a…表面基材、2b…背面基材、2c…中間基材、3,3a,3b,3c…発光体層、4,4a,4b,4c…誘電体層、5…電源、5a,5b,6a,6b…配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極の間に発光体層および誘電体層が積層されてなる単位が複数積層され、各々の単位において対をなす電極の間に電圧が印加されるようになっていることを特徴とする無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項2】
電極はすべて透明電極である請求項1に記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項3】
前記電極は背面電極となるものを除いていずれも透明電極であり、前記背面電極は不透明なものである請求項1に記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項4】
前記電極は背面電極となるものを除いていずれも透明電極であり、前記背面電極が反射性を有する電極である請求項3に記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項5】
背面電極に接する誘電体層が、不透明となる程度に無機誘電体粒子を含む請求項1〜4のいずれかに記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項6】
中間電極が一層の電極を共有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項7】
中間電極が透明基材を挟んでその両側に形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項8】
発光面電極が透明基材に形成されている請求項1〜7のいずれかに記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項9】
背面電極が透明基材に形成されている請求項1〜8のいずれかに記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項10】
背面電極が不透明基材に形成されている請求項1〜8のいずれかに記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項11】
前記の不透明基材が反射性の基材である請求項10に記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項12】
前記の背面電極が形成された透明基材の外側に不透明材料の層を有する請求項9に記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。
【請求項13】
前記の不透明材料の層が反射性の層である請求項12に記載の無機エレクトロルミネッセンスパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−16297(P2009−16297A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179634(P2007−179634)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(591097964)光村印刷株式会社 (14)
【Fターム(参考)】