説明

無機シート積層体

5〜25ミルの全厚さおよび横方向と縦方向との両方において少なくとも25%の破断点伸びを有する、無機シートとポリエステル樹脂との積層体。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、無機シートとポリエステルポリマーとの改良された積層体、好ましくは、ポリエステルポリマー層によって隔てられた2つの無機シートの積層体に関する。かかる積層体は、積層体が誘電絶縁材として役立つトランスおよび他の電気デバイスにおいて有用である。かかる積層体は、耐折強さおよび靭性を有することが必要である。積層体の内部接着力またはかかる積層体の引き裂きまたは破断点伸び性質の如何なる改良も望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明は、5〜25ミルの全厚さおよび横方向と縦方向との両方において少なくとも25%の破断点伸びを有する、無機シートとポリエステル樹脂との積層体に関する。好ましくは、横方向において破断点伸びが少なくとも30%である。本発明の1つの実施態様において、積層体中の樹脂層の厚さは、積層体中のどの単一不織シートの厚さよりも大きい場合がある。不織無機シートが紙であることが好ましく、紙がケイ酸アルミニウムなどの無機鉱物、ガラス繊維などの無機強化材、およびアクリロニトリルラテックスなどのバインダーを含むことが好ましい。積層体において有用な好ましいポリエステル樹脂は、ポリ(エチレンテレフタレート)およびポリ(エチレンナフタレート)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0003】
無機シートまたは紙およびポリエステル樹脂フィルムから製造された積層体は、積層体が誘電絶縁材として役立つトランスおよび他の電気デバイスにおいて用いられている。かかる絶縁積層体は、トランスの製造業者の要求に特に適している物理的性質の組合せを有することが望ましい。これらの性質には、絶縁性質の他に、(破断点伸びによって測定した時の)初期耐引き裂き性および(平均引き裂き荷重よって測定した時の)高い耐引き裂き伝播性などの他の機械的性質がある。これらの性質は、トランスの製造において絶縁積層体が集成の間に損傷される可能性があるので、絶縁積層体を評価するときに特に有用である。
【0004】
無機絶縁積層体の伸びおよび引き裂き性質が、積層体中で用いられるポリエステルの形状を取り替えることによって改良され得ることがわかった。特に、溶融ポリエステル樹脂で製造された積層体が、フィルムで製造された積層体よりも伸びおよび引き裂き性質を改良したことがわかった。
【0005】
典型的に、電気絶縁のために先行技術において用いられた積層体は、ポリエステルフィルムを利用している。ポリエステルフィルム自体は無機シートに対する十分な接着力を有さないので、フィルムを無機シートに付着させるために接着剤が用いられている。フィルムを無機シートに付着させるために、最初に、接着剤をフィルム上にコートし、次いで、コートされたフィルムを高温において無機シート上に積層した。積層体中でフィルムの形状のポリエステルを使用することは、固体フィルムを形成するための代表的な方法が結晶度および配向をポリエステル層に与えることから、最終積層体の伸びおよび引き裂き性質を制限すると考えられる。これは、最終積層体の可撓性、靭性、および耐引き裂き性を低減すると考えられる。
【0006】
本発明の積層体は、本明細書中で交換可能に用いられることを意図された用語である、無機シートまたは紙を利用する。本発明において利用されるシートまたは紙を従来の製紙方法ならびに装置および方法を用いて製造することができる。用語「横方向」および「縦方向」は当該技術分野において公知であり、物理的性質が測定されるシートの直交した方向を指す。縦方向は、抄紙機の巻取方向と平行であり、横方向は抄紙機を横断する。本発明の無機紙は鉱物成分、無機強化成分、およびバインダーを含有することができる。これらの成分は、水スラリー中で配合され、それらを脱水するスクリーン上にキャストされ、場合により加圧され、乾燥される。これらのシートの層を組合わせて紙の特定の厚さを形成することができ、カレンダリングまたは他の高密度化方法によってかかる紙をさらに圧密することができる。本発明において用いられる無機紙およびシートの製造に有用な鉱物および/または無機材料には、ガラス、ケイ酸アルミニウム、および/またはこれらと他の無機充填剤との混合物などがあるがそれらに限定されない。かかる無機材料は、繊維の形で存在してもよい。有用なバインダーにはアクリロニトリルラテックスなどがあるがそれらに限定されない。本発明の好ましい積層体は、ニューハンプシャー州、ティルトンのクイン・Tコーポレーション(Quin−T Corporation,Tilton,NH)から入手可能なセクイン(CeQuin)(登録商標)およびタフクイン(TufQuin)(登録商標)無機シートから製造される。
【0007】
無機シートの厚さは重要ではなく、積層体の最終用途ならびに最終積層体において使用された無機層の数に依存する。本発明は2つの層、すなわち1つの無機層および1つのポリマー層を使用してもよいが、好ましくは3つの層、すなわち2つの無機シート層および1つのポリマー層を使用し、最終物品中に存在し得る層または他の材料の数に上限がないことが理解される。
【0008】
本明細書中で使用されるとき用語「無機」は、主要成分が、非炭化水素粘土、繊維、フレーク、プレートリットまたは他の構造体、特にケイ酸アルミニウムなどの天然鉱物、およびガラス繊維などの加工無機材料であることを意味する。
【0009】
本発明において無機シートに適用された好ましいポリマーは、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)である。これらのポリマーは、ジエチレングリコール、シクロへキサンジメタノール、ポリ(エチレングリコール)、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、イソフタル酸等の様々なコモノマーを含んでいてもよい。これらのコモノマーのほかに、トリメシン酸、ピロメリト酸、トリメチロールプロパンおよびトリメチロールエタン、およびペンタエリトリトールのような分岐剤を用いてもよい。PETは、テレフタル酸またはその低級アルキルエステル(例えばジメチルテレフタレート)のいずれかおよびエチレングリコールあるいはこれらのブレンドまたは混合物から公知の重合技術によって得られる。PENは、公知の重合技術によって2,6−ナフタレンジカルボン酸およびエチレングリコールから得られる。
【0010】
本発明の積層体の製造方法の1つは、溶融ポリマーを2つの無機シートの間に押出し、その後に、加圧および急冷して積層体を形成することによる。任意の数の方法で溶融樹脂を無機シート上に押出すことができる。例えば、樹脂を1つの無機シート上に押出し、次いで第2の無機シートで覆い、次にプレスまたは積層ロールを用いて積層してもよい。図1を参照すると、好ましい方法において、溶融樹脂を押出機からスロットダイ1に供給する。スロットダイは、溶融樹脂のシートが一組の水平積層ロール2に下方へ押出されるように方向付けられる。無機シート3の2つの供給ロールが、無機シートの2つの別個のウェブ4を積層ロールに供給し、両方のウェブおよび溶融樹脂のシートが全て積層ロールのニップに集まり、前記樹脂は2つのウェブの間に配置される。ロールがウェブと樹脂とを一緒に圧密し、次に、圧密積層体を一組の冷却ロール5を用いて急冷する。次いで、積層体を、適用のために必要とされる適切な寸法に切断してもよい。
【0011】
本発明の別の実施態様において、溶融ポリマーの組合せが、異なったポリマーを2つの無機シートの間に層にするように押出されてもよい。例えば、ポリマー層が、順に、第1の固有粘度を有するPETポリマーの層、第2の固有粘度を有するPETポリマーの層、および第1の層と同じ固有粘度を有するPETポリマーの第3の層などの3つの層からなってもよい。このように、無機シートに対する比較的大きな親和性を有するPETポリマーが、無機シートに対する比較的小さな親和性を有するPETポリマーを積層体に混入するために使用されてもよい。
【0012】
本発明の積層体は、5〜25ミルの厚さを有し、横方向と縦方向との両方において少なくとも25%の破断点伸びを有する。本発明の好ましい積層体は、横方向において少なくとも30%の破断点伸びおよび縦方向において少なくとも25%の破断点伸びを有する。概してかかる積層体は、積層体中のどの無機シートよりも大きい樹脂の厚さを有する。
【0013】
以下の実施例において、特に記載しない限り、全ての部およびパーセンテージは重量に基づいている。初期耐引き裂き性をASTM D1004によって破断点伸びによって測定した。耐引き裂き伝播性をASTM D1938によって平均引き裂き荷重によって測定した。
【実施例】
【0014】
実施例1
この実施例は、無機紙をポリエステルポリマーに接着剤を用いずに積層する際にみられる問題のいくつかおよび本発明によって達成された接着力を示す。2つのタイプのシート、すなわち、購入したままの条件の無機紙(具体的に、クイン・Tコーポレーションによって製造されたタフクイン(登録商標))、および溶融ポリエステルポリマーがそれに付着しないように高度にカレンダリングされたメタ−アラミド紙のキャリアシートをこの実施例において使用する。
【0015】
加熱プレスを用いて、以下のように2つの紙のシートの組合せの間に0.60dl/gの固有粘度を有するポリ(エチレンテレフタレート)ポリエステルを積層した。ポリエステルポリマーが無機紙に付着するために紙の表面の接着剤、化学物質、火炎、熱、またはコロナ処理または同様な活性化は必要とされない。加熱プレス条件を表1に示す。
【0016】
試験A−ポリエステルポリマーの小さなペレットを2つの無機シートの間に配置し、その組合せを加熱プレスに配置した。ポリエステルのペレットが前記シートの間で溶融および流動した。無機シート中で用いられたバインダーもまた溶融および流動し、シートとポリマーとの組合せを、使用に適さない積層体に溶解した。
【0017】
試験B−ポリエステルポリマーの小さなペレットを2つの無機シートの間に配置し、その組合せを加熱プレスに配置したが、試験Aの場合よりも短い時間、保持した。ポリエステルのペレットが前記シートの間で溶融および流動した。無機シート中で用いられたバインダーもまた溶融および流動したが、シートとポリマーとの組合せはその結合性を保持した。しかしながら、積層体は脆く、有効に使用に適さなかった。
【0018】
試験C−ポリエステルポリマーの小さなペレットを、加熱された非閉鎖プレス内の1つのメタ−アラミドシート上に置いた。加熱された非閉鎖プレス内で5分後、ポリマーのペレットは、アラミドシートの表面で溶融および流動した。アラミドシートおよび溶融ポリエステルポリマーをプレスから除去した後、ポリマーがまだ溶融している間、1つの無機紙のシートを手動で溶融ポリエステルポリマーの表面に押圧した。積層体をただちに急冷し、無機シート中で用いられたバインダーの溶融を防いだ。無機シートの脆化がなく、無機シートとポリエステルポリマーとの十分な接着が指摘される。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例2
この実施例は、接着剤積層によって製造された積層体に対して、押出積層によって製造された本発明の積層体の性質を示す。押出積層体を以下のように製造した。無機紙(具体的にクイン・Tコーポレーションよって製造されたセクイン(登録商標))を、購入したまま使用した。それぞれ0.65/0.85/0.65dl/gの固有粘度を有するPETポリマーの3層の組合せまたは同時押出の形の溶融ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)ポリマーを紙の表面に適用するために、2つの紙の間にポリエステルポリマーを押出積層した。ポリエステルポリマーが無機紙に付着するために紙の表面の接着剤、化学物質、火炎、熱、またはコロナ処理または同様な活性化は必要とされない。これらの押出積層体を、2つの無機紙の間に接着剤で積層されたポリエステルフィルムを含有する電気絶縁に使用された市販の接着剤積層体(クイン・Tによって製造および市販されたセクイン(登録商標)積層体)と比較した。
【0021】
このようにして製造された積層体の試料を、ASTM D1004(「プラスチックフィルムおよびシート材料の初期耐引き裂き性の試験方法(Test Method for Initial Tear Resistance in Plastic Film and Sheeting)」)およびASTM D1938(「単引き裂き方法によるプラスチックフィルムおよびシート材料の耐引き裂き伝播性の試験方法(Test Method for Tear Propagation Resistance of Plastic Film and Sheeting by a Single−Tear Method)」)によって試験し、達成された引き裂き性質を評価した。
【0022】
全ての試験において、ポリエステルポリマーと無機紙との間の接着剤結合は、紙の内部強度よりも大きかった。表2の得られたデータは、押出積層によって製造された本発明の積層体が、改良された耐引き裂き伝播性と共に、横方向において30%より大きく、縦方向において25%より大きい破断点伸びを有すると測定されたように両方の改良された初期耐引き裂き性を有したことを示す。以下に用いるとき、ELは押出積層を表し、ALは接着剤積層を表し、MDは縦方向を表し、XDが横方向すなわち横断方向を表す。図2は、これらの積層体の破断点伸びの改良を示し、線10および15が、押出積層体のMDおよびXDの値を表し、線20および25が接着剤積層体のMDおよびXDの値を表す。
【0023】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の積層体の製造に有用な押出積層方法の簡略図である。
【図2】先行技術の接着積層体を上回る本発明の押出積層体の初期耐引き裂き性の改良を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜25ミルの全厚さおよび横方向と縦方向との両方において少なくとも25%の破断点伸びを有する、無機シートとポリエステル樹脂との積層体。
【請求項2】
横方向において破断点伸びが少なくとも30%である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
積層体中の樹脂の厚さが、積層体中のどの単一無機シートの厚さよりも大きい請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
無機シートが、無機鉱物と、無機強化材と、バインダーとを含んでなる紙である請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
無機鉱物がケイ酸アルミニウムを含む請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
無機強化材がガラス繊維を含む請求項4に記載の積層体。
【請求項7】
バインダーがアクリロニトリルラテックスを含む請求項4に記載の積層体。
【請求項8】
ポリエステル樹脂がポリ(エチレンテレフタレート)である請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
ポリ(エチレンテレフタレート)が、ジエチレングリコール、シクロへキサンジメタノール、ポリ(エチレングリコール)、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびイソフタル酸よりなる群から選択されるコモノマーを含む請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
ポリ(エチレンテレフタレート)が、トリメシン酸、ピロメリト酸、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、およびペンタエリトリトールよりなる群から選択される分岐剤を含む請求項8に記載の積層体。
【請求項11】
ポリエステル樹脂がポリ(エチレンナフタレート)である請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
ポリエステル樹脂が2つの無機シートの間に挟まれる請求項1に記載の積層体。
【請求項13】
2つの無機シートの間に挟まれたポリエステル樹脂が、樹脂の層の組合せを含む請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
a)2つの無機シートを一対のロールの間のニップに供給し、
b)溶融ポリエステルポリマーを無機シートの間で、一対のロールの間のニップの前または中に押出し、
c)無機シートおよび溶融ポリマーを圧密ロールの間で圧密して、未急冷積層体を形成し、そして
d)未急冷積層体を冷却する
ことを含んでなる、電気絶縁に有用な積層体の製造方法。
【請求項15】
積層体が5〜25ミルの全厚さに圧密および急冷される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
溶融ポリエステルポリマーがスロットダイを通して押出される請求項14に記載の方法。
【請求項17】
溶融ポリエステルポリマーがポリエステルポリマーの層の組合せを含む請求項14に記載の方法。
【請求項18】
電気導体と、5〜25ミルの全厚さおよび横方向と縦方向との両方において少なくとも25%の破断点伸びを有する、無機シートとポリエステル樹脂とを含んでなる絶縁積層体と、を含有する電気デバイス。
【請求項19】
積層体が、横方向において少なくとも30%の破断点伸びを有する請求項18に記載の電気デバイス。
【請求項20】
トランスである請求項18に記載の電気デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2006−520280(P2006−520280A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507040(P2006−507040)
【出願日】平成16年3月10日(2004.3.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/007317
【国際公開番号】WO2004/082937
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】