説明

無機塩ゲル組成物

本発明は、塩ゲル組成物、同組成物の製造の方法及び同組成物の使用に関する。特に、マグネシウム塩を含むゲル、及びその化粧料用、治療用、及び工業用使用に関する。少なくとも50重量%のMgCl・6HO(ビスコファイト)及びゲル化剤の塩ゲル組成物が提供される。好ましいゲル化剤は、デンプンまたはセルロースのヒドロキシプロピル誘導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩ゲル組成物、その製造及び使用の方法に関する。特に、MgCl2・6H2O(ビスコファイト)に基づくゲル組成物及びその化粧用及び治療用の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
無機塩は広い範囲の治療用及び化粧用の特性を有することが知られている。それらは、ざ瘡、湿疹及び乾癬のような皮膚病を軽減しうる。さらに、それらは、軟化性、水和性及び炎症抑制性の作用のような、明白な化粧用の効果を有する。死海産の自然塩結晶の使用が特に良く知られている。死海塩は免疫システムの強化、解毒、循環の改善、うずき及び痛みの緩和、皮膚の軟化及び治療、疲労の減少、緊張の解放、若返り、並びに活力再付与を助けうる。皮膚病の治療として死海に入浴することは、何百年もの間知られている。海洋の平均塩分35g/kgと比較して、死海は平均塩分280g/kgを有する。それは、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン及び臭素イオンに富み、そしてナトリウムイオン、硫酸塩イオン及び炭酸塩イオンが枯渇している。マグネシウム塩は死海水の中で、量的にかつ質的に最も重要である。実際の塩の含有量は、地域の位置(水がヨルダン川を通って流入している)、水深及び様々な付加的要因に依存する。死海産の塩は多くの国で販売されている。
【0003】
マグネシウム塩治療の生化学的効果はインビトロ及びインビボで明示されている。インビトロ研究は、臭化マグネシウム及び塩化マグネシウムが乾癬表皮細胞の周知の過剰増殖を抑制することを示した。細胞の増殖及び分化において役割を果たしうるマグネシウム及びカルシウムのイオンの増加された水準が、乾癬表皮細胞において及びラウリル硫酸ナトリウム誘発の刺激後において記載された。
【0004】
Spasovら(Bull Exp Biol Med.2001;131(2):132-5)は、95%までのMgCl・6HOを伴うビスコファイト含有性薬剤(polykatan(商標))による局所的な治療が、ラットの感染した皮膚の創傷の治療を促進したことを報告した。10%polykatan溶液による創傷の洗浄は、様々な日和見性微生物に対する静菌効果を示した。更に、polykatan溶液と等浸透圧のNaCl溶液又は治療されなかった対照に比べて、マグネシウム塩溶液により創傷が治療されたときは、創傷治療の速度が高められた。マグネシウムイオンは抗炎症性の特性も示す;マグネシウムイオン含有性軟膏は、クロトン油誘発の皮膚の炎症を有意に抑制した。さらに、接触性皮膚炎を伴う患者の皮膚に局所的に塗られたマグネシウムイオンの有益な効果が報告されている(Greiner J, Diezel W. Entzundungshemmende Wirkung von Magnesium-Ionen bei der Kontaktekzem-Reaktion.Hautarzt 1990; 41: 602-605. 12)。
【0005】
マグネシウムイオンは、アレルギー反応の感作及び誘導にとって最も重要であるランゲルハンス細胞の抗原提示能力を阻害し、炎症性の皮膚疾患の治療における死海塩の効能に寄与する。死海では、塩水への入浴は通常は紫外線(UV)照射と組み合わせられる。そのような組み合わせは効果的であるが、入浴の点での利益がEven-Pazらにより強調されている(Dead Sea sun versus Dead Sea water in the treatment of psoriasis. J Dermatol Treat 1996; 7: 83-86)。著者らは、死海水中へ入浴しただけの乾癬の患者の改善を発見した。Prokschら(Int J Dermatol. 2005; 44(2): 151-7)は、アトピー性乾燥肌における、生物物理学的特徴に関する、特にマグネシウムイオンに富む死海塩溶液中に入浴することの効果を試験した。マグネシウムに富む死海塩溶液中に入浴することは、皮膚の障壁機能を改善し、皮膚の水和を増し、そしてアトピー性乾燥肌の炎症を減少することが発見された。
【0006】
他の一般的な入浴塩はエプソム塩であり、水和した硫酸マグネシウムで構成される。エプソム塩バスは、ストレスと戦うこと及び筋肉のうずき及び痛みを緩和することのために用いられる。エプソム塩バス中の高いマグネシウム含有量は、皮膚を通じた酸の除去も促進する。
【0007】
治療用の無機塩は概して結晶状の粒状又は薄片状産物の形態で提供される。有益な又は治療用の無機塩による治療は、今までのところでは主として、病に冒された体又は皮膚の部分を塩の水溶液中に入浴させること又は浸すことを伴った。粒状形態は、水への迅速な溶解にとって都合が良い。塩の顆粒のサイズが小さいほど、それはバス中により早く溶解する。しかしながら、溶解された塩を用いた場合は、塩は著しく希釈されることになり、そして治療されるべき(皮膚)表面は有益な塩の少量にさらされるだけである。塩溶液は従って、皮膚表面の単位当たりの大量の塩を塗ることを許容しない。結果として、溶液中で用いられる場合、塩の化粧用及び/又は治療用の有効性は比較的低い。さらに、水への粒状無機塩の迅速な溶解の故に、これら塩は、シャワーの応用のために取り扱うことは能率が悪くかつやっかいであり、そしてシャワー下での使用に適していない。体への塩顆粒の塗布後に、塩はシャワーから出てくる水に容易に溶解する。さらに、体と接触させられる前に、相当な割合の顆粒が落ち、そしてすすぎ落とされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それ故に、本発明の目的は、濃厚な形態における治療用又は化粧用の無機塩、特にマグネシウム塩の簡便な塗布を許す塩の製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、少なくとも50重量%(w%)の量のMgCl・6HO、及びゲル化剤を含む塩ゲル組成物の提供により本目的一式が達成されることが発見された。そのような塩ゲルは長期間にわたり化学的及び物理的に安定である。それは、長期間にわたり、高濃度の有益なマグネシウム塩に体の一部をさらすことを許す。さらに、いずれもユーザーフレンドリーでありかつ吸湿性のマグネシウム塩を過剰の湿気に対して保護するチューブ、容器、又はポンプディスペンサーに塩ゲルは詰められうる。
【0010】
MgCl・6HO(塩化マグネシウム六水和物)はビスコファイトとしても知られている塩水和物である。ビスコファイトは古代海水の蒸発後に残る透明な塩水和物である。ビスコファイトは極度に吸湿性であり、外気中で融解する。鉱物としては、ビスコファイトはグロメロブラスティックな(glomeroblastic)塩岩として遭遇される。純粋なビスコファイト結晶は水状透明であるが、不純物に依存して白色、バラ色、及び淡黄褐色でもありうる。ビスコファイトは、現代も含めて年代により異なる形態で、多くの大陸で遭遇される。西ウクライナ、ベラルーシ及びカザフスタンにおいて、わずかな埋蔵物の発見があった。発見はいずれも、薄く(3から7m)広がりの無い層により表される。最も注目に値するナトリウム及びマグネシウムの塩の埋蔵物はニューメキシコ州カールズバッド、コロラド州及びユタ州のパラドックスベイスン(Paradox Basin)、ドイツのストラスフルトの鉱床、ロシアのペルムベイスン(Perm Basin)及びカナダのサスカチュワン州のウィリストンベイスン(Williston Basin)で発見された。他のビスコファイトの天然資源は、オランダのフェーンダム周辺の領域である。NEDMAG INDUSTRIES Mining and Manufacturing B.V.は、独特な溶液採掘方法を用いて、フェーンダム付近でツェヒシュタイン塩からビスコファイト塩を採掘する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
50%のマグネシウム塩を含むゲルは十分な化粧用又は治療用の効果を得るために十分に濃厚であるが、より高い塩濃度が好まれる。特に良い結果は、少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%のMgCl・6HOを含有する組成物を用いて得られる。例えば、本発明は85重量%のMgCl・6HOを含む安定な塩ゲル組成物を提供する。
【0012】
粘性のビスコファイトゲル組成物を調剤するために用いられるゲル化剤は、組成物のビスコファイト含有量に基づき好ましくは少なくとも0.5重量%、より好ましくは少なくとも1重量%の量で存在する。例えば、本発明の組成物は約60%のビスコファイト及び約3%のゲル化剤を含み、両方のパーセンテージは塩ゲル組成物の総重量に対して表される。他の実施態様では、例えば85%のビスコファイト及び1%のゲル化剤を伴う濃厚な塩ゲル組成物において、ビスコファイト含有量に対して約1重量%ゲル化剤が用いられる。塩の含有量が高いほど、より少ない自由水が存在する故に、より少ないゲル化剤が所望の安定化させられた塩濃厚物を達成するために必要とされるだろう。おおまかな一般的原則として、1体積%の“自由”水を伴う組成物から安定なゲル組成物を調製するために、おおよそ0.06%のゲル化剤が必要とされる。例えば、64%MgCl・HO(30%MgCl)の塩水は、46%の水を含有する。従って、おおよそ2.8〜3.0%のゲル化剤が用いられるべきである。同様に、僅か15%の自由水を伴う85%ビスコファイト塩水は、わずかに約0.9〜1.0%のゲル化剤を必要とする。従って、本発明に従い、ゲル化剤は、組成物中に存在するゲル化されるべき液体の夫々1%に対して少なくとも約0.06%の量で組成物中に存在する。しかしながら、用いられるべきゲル化剤の量は組成物の塩含有量に依存するだけでなく、ゲル化剤の種類及び所望の粘度のような、他の要因にも依存する。例えば、ゲル化剤は0.1%、0.2%、0.4%、1%、2%、3%又はそれ以上、例えば5%、の量で存在する。ゲル化剤の量は用いられるゲル化剤の種類に依存しうるが、ゲル化剤は好ましくはゲル化されるべき液体の夫々のパーセンテージに対して8〜10%までの量で存在する。自由水の1パーセンテージに対しておおよそ0.3重量%超のゲル化剤濃度で、パッド状で半透明の外観を有する高度に粘性の組成物が入手されうる。一つの実施態様では、パッド状ゲル組成物を得るために、50%ビスコファイト組成物が少なくとも15%のゲル化剤を伴って提供される。他の実施態様では、80%ビスコファイト組成物が少なくとも6%ゲル化剤を用いて調製される。本明細書中で用いられる語”塩ゲル組成物”は、従って、半固形、ペースト状の特性を伴う組成物に限定されず、ゲルパッドも包含する。
【0013】
いくつかの種類のゲル化剤(ときどき結合剤とも呼ばれる)は、塩ゲル組成物を調製するために用いられうる。もし組成物が化粧用又は治療用の組成物として用いられるならば、天然の、すなわち非毒性の、ゲル化剤がもちろん好まれる。特に高濃度の塩では、非イオン性ゲル化剤は塩により最小限度でだけ影響されるため、非イオン性ゲル化剤の使用が好まれる。ビスコファイトゲルを調剤するための有用なゲル化剤の例は、デンプン及びセルロースの誘導体、例えばヒドロキシエチル誘導体、ヒドロキシプロピルメチル誘導体及びヒドロキシプロピル誘導体である。ヒドロキシプロピル誘導体は特に有用であると発見された。
【0014】
一つの実施態様では、ゲル化剤はヒドロキシプロピルセルロース(HPC)である。他の実施態様では、好ましくは塩水和物に基づき1〜5重量%の量で、ヒドロキシプロピルデンプンを使用する。ヒドロキシプロピルデンプンは、天然のデンプンの誘導体であり、主に掘削泥、掘削、仕上げ及び改修の流体における流損失調節のために用いられる。非イオン性であることにより、流体中の塩分及び硬度により、ヒドロキシプロピルデンプンはわずかに影響されるだけである。天然のデンプン中の線状及び枝分かれした炭水化物ポリマーは、夫々のグルコース単位に3つの反応性OH基を有する。製造の間、これらポリマーはプロピレンオキシドと反応させられ、エーテル結合によってOH位置でヒドロキシプロピル(CH(OH)CHCH)基が付加する。
【0015】
他の好ましいゲル化剤はリン酸ヒドロキシプロピルデンプンであり、商標名Structure(商標)XLの下にも知られている。Structure XLはICIグループの構成員であるNational Starch and Chemical Companyから商業的に入手可能である。それはパーソナルケア乳剤中に用いられてきており、乳化安定化、美的増強、及び粘性構築を助ける。STRUCTURE XLを含む乳剤は広い温度範囲(−30℃から50℃まで)にわたり良い安定性を有する。それは、製剤の皮膚への塗布を容易にもする。STRUCTURE XLは容易に冷水に分散できるため、事前混合は必要とされない。その非イオン的特性及び広い相容性の故に、STRUCTURE XLは大量の塩及び種々さまざまの原料とともに、広いpH範囲にわたって調剤することを許す。供給者によると、STRUCTURE XLは20%までの1価及び2価の塩の存在下において安定である。乳化の安定性を改善するための供給者により推奨される濃度は約3%から7.5%までの範囲に及ぶが、有意な粘性効果は7.5%超の濃度で観察されたと報告された。本発明者らは驚くべきことに、STRUCTURE XLははるかにより高い濃度のビスコファイトを含有する安定なゲルを調剤するために用いられうることを観察した。すなわち、1重量%のSTRUCTURE XLは、80重量%のMgCl・6HOを含有する塩ゲルを安定化することができた。
【0016】
本発明の高濃度塩化マグネシウムゲルは、(化粧用又は治療用の用途のような)パーソナルケア用途から工業的及び農業的応用に及ぶ、いくつかの目的のために用いられうる。例えば、本発明はほこり吸着剤又はほこり抑制剤としてのビスコファイトゲルの使用も包含する。塩組成物中のゲル化剤の存在の故に、抑制的な作用が改善され得、かつより良く調節され得る。ゲル化剤はビスコファイトの吸湿性作用を幾分減少し(塩は本剤により包まれる)、長期のほこり抑制効果を生じる。また、ゲル化剤はビスコファイトを砂又はほこり粒子につける。他の面では、本明細書で提供される無機塩ゲル組成物は動物飼料におけるその用途も見いだす。ゲルは、既存のMgCl源、例えば純粋ビスコファイトと比較して、より容易に動物飼料の他の構成成分と混合される。加えて、もしゲルとして食料中に組み込まれるならば、純粋ビスコファイトの苦い味が幾分隠される。
【0017】
全ての応用において、高濃度塩ゲルは基本を構成する。応用に依存して1以上の追加的成分が塩ゲル中にもちろん存在してよい。
【0018】
一つの実施態様では、塩ゲルは化粧用組成物である。高濃度塩化マグネシウム六水和物の存在は皮膚に有益な効果を有しうる。塩ゲル組成物は、組成物の魅力及び/又は化粧用特性に寄与する他の物質をさらに含みうる。塩組成物に追加されうる物質の例は、香料、例えばエーテル油、色素、並びにティー・ツリー、ニーム、アロエベラ、カレンジュラ、ホホバ及び同様物の植物抽出物である。特定の面では、本発明は、ビスコファイトに基づく無機スクラブゲルを提供する。そのためには、剥離性物質、例えば粗い海塩結晶、糖、挽いた杏又はさくらんぼの種、あるいは粉砕されたオリーブの種、あるいは既知の治療用及び/又は化粧用特性を伴う塩、例えば(死)海塩結晶がゲル中に含まれる。有用な剥離性塩添加物は本発明の無機ゲルに溶解しないこれら塩の粒子、例えば塩化ナトリウム、カーナライト及び硫酸マグネシウムを含む。無機スクラブゲルは例えば70〜85%ビスコファイト及び1〜2.5%のゲル化剤Structure XLを含有しうる。
【0019】
本発明の他の面は、外部寄生虫性の感染、特にはシラミ(シラミ感染)の処置に関する。これらの感染は子供の間でよく起こる問題である。それらは学校において、共有された帽子、くし、ロッカー、クローゼット及び他の回避不可能な接触からしばしば広がる。感染は接触により又は共有された衣類を介して他の子供及び家族構成員に容易に広がりうる。シラミ感染と戦うための従来の取り組みは概して、DDT、ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)、マラチオン、ピレトリン、ペルメトリン、及び同様物のような化学的殺虫剤の使用を伴う。これら毒性を有しかつ不快な化学的殺虫剤の使用は非常に望ましくないだけでなく、それらは対象有害小動物に殺虫剤に対する耐性も誘導する。DDT及びHCHに対するシラミの耐性がカナダ、米国及びヨーロッパで観察されている。
【0020】
本発明者らは驚くべきことに、高濃度のビスコファイトゲルがシラミ、ノミ、及び同様の外部寄生動物の寄生虫感染を処置するために有利に用いられることを観察した。本発明の塩組成物は、その強力な吸湿特性により対象有害小動物を殺す。もちろん、この殺害の方式は耐性を全く誘導しそうにない。さらに、該活性成分は有毒性でない。それどころか、塩ゲル組成物は簡便に、長期間にわたり、いかなる害又は炎症も引き起こさずに頭皮(又は他のいずれかの寄生された領域)に適用されうる。塩ゲルは、髪を完全に覆うために髪中にマッサージされうる。長期間にわたってさえ、ゲル製剤は髪にくっつき、そして過剰な滴り又はこぼしを回避する。次に、頭の上にプラスチックの帽子が着用されうる。典型的に外部寄生動物を殺すのにかかる最大の時間である約1時間の後、塩ペーストは単に髪及び頭皮から水で洗い流されうる。死んだ寄生動物及びもし存在するならばそれらの卵は特別なくしを用いて除去されうる。この処置は、シラミに対してだけでなく、発生の全ての段階にあるシラミの幼虫及びまだ孵化していない卵に対しても、90%超で効果的であることが発見された。塩は、髪に対して柔軟にする及びなめらかにする効果を有し、それにより髪からのシラミの幼虫の脱離をさらに増す。さらに、処置される領域に存在しうる小さな感染又は小さい創傷がビスコファイトの有益な効果にさらされるだろう。
【0021】
このように、本発明の塩ゲル組成物は外部寄生動物、すなわちその宿主の外部表面に生息する寄生動物と戦うために有利に用いられる。本処置は最初の処置に続き、少しの時間(例えば7〜10日)の後に繰り返されうる。宿主は、ヒト及び畜牛を含め、外部寄生動物感染に悩まされるいずれの生物であってよい。主要な畜牛外部寄生動物は、ダニ及びバイティングフライ(biting flies)である。それらの噛みつきは炎症を引き起こし、畜牛が食べることを妨げ、そして二次的な感染及び寄生虫感染ももたらしうる。吸血動物のように、これら寄生動物は、多数が存在するときは、貧血も引き起こし、動物を弱らせ、そして若い動物を殺しうる。さらにより重要なことは、これら吸血寄生動物のいくつかは媒介動物としても行動し、それらは様々な非常に消耗性の又は致死性の病気をそれらの宿主に伝染させることとなる。
【0022】
本発明に基づく抗寄生虫性ゲル組成物中の無機塩及びゲル化剤の含有量はさまざまであってよく、適用の方式、ゲル化剤の種類、処置されるべき対象(ヒト又は動物)、及び殺されるべき外部寄生動物のようないくつかの要因に依存する。一つの実施態様では、それは少なくとも60%のビスコファイト、好ましくは少なくとも70%のビスコファイトを含有する。例えば、約85%のビスコファイト及び1.5%のヒドロキシプロピルデンプンゲル化剤(例えばStructure XL)を含む抗寄生虫性塩ゲル組成物が提供される。他の実施態様では、より低粘性の(たとえば、70〜85%のビスコファイト及び約1%のゲル化剤を含む)無機塩ゲル組成物が提供され、スプレーの方式により治療されるべき対象への適用を許容する。この適用の形態は特に畜牛の処置に対して有利である。
【0023】
塩を含有するシラミ駆除用組成物は米国特許第6,607,716号明細書に記載されている。示された有効な塩の量は1から50重量%に及び、5から20重量%の好ましい範囲を伴い、より好ましくは10重量%である。米国特許第6,607,716号明細書における好ましい塩は塩化ナトリウムである。本明細書で提供されるような少なくとも50重量%のMgCl・6HOを伴う高濃度の塩組成物は開示されなかった。
【0024】
さらに、本発明の追加的な面は、本発明の塩ゲルパッドの治療的な使用に関する。上述されたように、マグネシウム塩は抗炎症性の及び静菌性の効果を有し、そして創傷の速い自然閉鎖を刺激する。湿った塩パッドは創傷又は傷跡を湿潤にかつ柔軟に維持しながら、塩化マグネシウムがその広い範囲の有益な効果を発揮しうる。本発明の、塩化マグネシウムを含む柔軟性のある塩ゲルパッドは、従って、慢性創傷及び火傷を含む創傷に対する包帯剤として、並びに乾癬のような(炎症性)皮膚疾患に関連する症状の局所的な処置のために、有利に用いられる。塩ゲルパッドは形成的及び再建的手術の領域においても用いられうる。塩ゲルパッドは好ましくは患部に直接的に接触させられる。もし塩に長期にわたりさらされることが望まれるならば、パッドを固定化することが実用的である。これは絆創膏、包帯又は同様物によりなされうる。絆創膏又は包帯は別の品目として用いられてよく、又はパッドの不可分な部分であってよい。後者は、まだ液体の形態にある間に、塩ゲル組成物を絆創膏、包帯又は同様物に接触させることにより、パッドの製造の間に達成されうる。パッドの大きさ及び形状は様々であってよい。それは一般的に0.3乃至2センチメーターの間の厚さを有するだろう。塩ゲルはマグネシウム塩に基づくそれ自身の有益な効果を有するのみでなく、他の治療用又は化粧用物質の放出のためのすぐれたマトリックスをも提供する。従って、ゲルパッドはユーザーに対して有益である追加的な成分、例えば追加的な抗炎症性の又は抗微生物性の化合物、及び/又は創傷治療を促進する要素、例えばアロエベラ、をも含んでよい。
【0025】
本発明の無機ゲル組成物は、典型的には2つの主要な段階において調製される。第1の段階では、塩濃厚物が得られる。第2の段階の間で、塩濃厚物はゲル化剤により安定化される。塩濃厚物は、固体又は液体いずれかの出発物質の、又はそれらの混合物を用いて調製されうる。
【0026】
固体の出発物質は、MgCl・6HOを含む塩の薄片、例えばビスコファイト塩薄片であってよい。一つの実施態様では、水と塩薄片が容器中で組み合わせられ、混合物は、全ての塩薄片が溶解されるまで攪拌しながら加熱される。一つの実施態様では、85%ビスコファイトの混合物が約109℃に加熱される。より低い又はより高いビスコファイト濃度を伴う混合物は塩薄片の融解を引き起こす他の温度に加熱されうる。これらの温度は容易に実験的に決定されうる。塩/水混合物の加熱はいずれかの手段により、例えば電気的に、蒸気を用いて、又は高温の油を用いて、実行されうる。その後、混合物は一定の攪拌のもと、40℃未満の温度に冷却されることが許される。容器は冷水を伴う浴槽中に配置されて良い。攪拌は、冷却の際に容器の壁に形成する結晶が壁からこすり落とされることを確保し、冷たい壁に新たな結晶が形成することを許す。また、これは、最終ゲル組成物が細かい構造を有するように大きな塩結晶の形成を回避する。
【0027】
塩濃厚物を調製するための液体の出発物質は、塩融解物又は塩融解物が加えられた塩溶液の混合物であってよい。一つの実施態様では、例えば薄片から又は濃厚な塩水から調製された、既知の濃度のビスコファイト溶液が、攪拌容器中に、好ましくは積極的に冷却されうる二重壁の金属製容器中にもたらされる。均一な融解物が得られる温度にビスコファイトを加熱することにより調製され、固体のビスコファイトを含有しないビスコファイト融解物が、混合物を攪拌及び冷却しながら、管理された様式で溶液に加えられる。融解物が溶液に加えられる速度は、混合物の沸騰を回避するのに十分なほど低く、かつ早すぎる結晶化が発生することを防ぐのに十分なほど高い必要がある。この点において、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも65重量%のビスコファイトを伴う塩溶液の使用が好まれる。なぜなら、これは混合物が沸点に到達することを回避するとともに、加えられた融解物との、管理されかつ効率的な混合を確保するからである。
【0028】
上記方法の変形では、過剰な水を蒸発するためかつ所望の塩濃度を持つ塩融解物を調製するための管理された方法で加熱される塩水溶液により開始することも可能である。一つの実施態様では、該水溶液は溶解採掘を用いて土壌から得られた粗製ビスコファイトの塩水である。溶解採掘では、塩を抽出するために水が地下の塩空洞にポンプで送り込まれる。ここで、塩は水と混ざり合い、塩水溶液を形成する。この溶液はその後、容易に地表へポンプで送られる。塩水溶液は、水を蒸発させるためかつ濃縮された(例えば85重量%)ビスコファイト融解物を得るため、エバポレーター中で過熱される。塩融解物はその後、晶析装置(例えば二重壁の金属製攪拌容器)に移され、そこで結晶性塩濃厚物を形成するために冷却される。この結晶性塩濃厚物は、そのままさらにゲル化剤と混合できる。この変法は、例えば採掘されたばかりのビスコファイト塩水から出発する大規模調製にとって特に魅力的である。
【0029】
40℃未満への冷却及び結晶化を用いた塩濃厚物の調製に続き、ゲル化剤が攪拌しながら加えられる。ゲル化剤は、好ましくは粉として塩濃厚物に加えられる。安定な塩ゲル組成物を得るために、塩/ゲル化剤混合物は少なくとも数時間、例えば12時間又はさらに長く、熟成することが許されることが好ましい。これは、ゲル化剤が自由水分子と最大限接触することを確保する。例えば、もしデンプンに基づくゲル化剤が用いられるならば、熟成期間の間、デンプン成分の最大限の膨潤が達成される。熟成期間に続き、均一かつ安定な塩ゲル組成物を得るために、組成物は概して再度攪拌される。手順のこの時点で1以上の添加物(前記参照)が組成物に添加されうる。このようにして、本発明は、
a)溶解された及び/又は融解された形態のMgCl・6HOを含む出発組成物を用意すること、
b)攪拌しながらゲル化剤が十分なゲル化特性を有する温度に該出発組成物を冷却して、所望の量のMgCl・6HOを含む塩濃厚物を得ること、
c)該塩濃厚物を適当な量のゲル化剤と混合すること、
d)工程c)で得られた混合物を熟成させること、及び
e)任意的に1以上の追加成分を添加しながら、工程d)で得られた熟成した混合物を均一にすること、
の工程を含み、請求項のいずれかに従う塩ゲル組成物を調製する方法を提供する。ゲル化剤が十分なゲル化特性を有する温度は、様々な要因、特に用いられるゲル化剤の種類に依存する。例えば、ゲル化剤Structure XLは、−30℃から50℃の範囲でゲル化剤として用いられうる。その場合、混合物は好ましくは、例えば40℃以下のように、50℃未満の温度に冷却される。他の種類のゲル化剤では、他の温度が適当でありうる。これらは、当技術分野の当業者により実験的に決定されうる。
【0030】
塩ゲル組成物はそのまま、所望のパッケージ材料中に詰めることができる。様々な種類のパッケージ材料が用いられうる。好ましくは、パッケージ材は再封可能な密閉を備えられる。これは、ユーザーフレンドリーであり、かつ非常に吸湿性である塩濃厚物への望ましくない湿気の接触も防ぐ。ペースト状の塩ゲル組成物のために有用なパッケージ材料の例は、スクリューキャップ又はクリックオンキャップを伴うチューブ(例えば100〜500ml)を含む。チューブは好ましくは柔軟性のあるプラスチックで作られる。他の例は、スクリューキャップ又はクリックオンキャップを伴う任意の種類又は形状の容器である。大規模の応用では、ディスペンサーシステムを伴うパッケージ材料が好まれる。ゲルパッドは、湿気に耐性のある、例えばプラスチック製の、包装材料中に密封されうる。
【0031】
さらに、本発明は、本発明に従うビスコファイトに基づく塩ゲル組成物を含む、外部寄生虫性感染の処置のためのキットを提供する。組成物は、任意のタイプの容器又はチューブの中に存在して良い。本発明のキットは、例えばシラミ感染の処置のためのキットである。キットは、例えばプラスチック製のヘアーキャップ、くし、及び/又は使用説明書などの、追加の有用な品目を含みうる。
【0032】
本発明は、以下の実施例により説明される。
【0033】
実施例1:65%ビスコファイト及びゲル化剤として3%Structure XLを含む、皮膚の消毒のための無機ゲル
無機ゲルのこの形態は、粘度及び適用の幅の点で従来の消毒用石鹸ゲルと同等である。しかしながら、無機塩ゲルでは、消毒の特性がビスコファイトに属するものとみなされうる。比較的低い粘度の塩ゲルにより皮膚(例えば手)を洗浄することは、皮膚を消毒しうる。塩ゲルによる処置に続き、それは水で肌から容易に洗い流されうる。無機塩ゲルは、ゲルの魅力を増加させるために香料及び色素も含みうる。
【0034】
実施例2:85%ビスコファイト及び1〜2%Structure XLを含む、皮膚疾患の処置のための無機ゲル
この種類のゲル製剤中の無機塩は、皮膚への塩の非常に簡便な適用を許す。無機物はゲルのパッキングとして適用されうる。ゲルは、皮膚上で軽くマッサージされうる。用いられるべきゲルの量は様々であってよい。一般的に云うと、数ミリメーターの層が、ビスコファイトの有益な治療上の効果を発揮するのに十分だろう。無機ゲルは、皮膚を剥離するスクラブ様特性は有さないが、死んだ皮膚細胞を落としうる。それによって、皮膚は、ビスコファイトの保護、治療及び洗浄特性に対しより影響を受けやすくなる。
この種類のゲルはざ瘡の処置に適当に用いられる。ビスコファイト無機物は感染した皮膚を清潔にし、毛穴を脱水し及び廃水する。従って、新たなにきびが形成することを防ぐ。炎症による起こりうる傷跡はより効果的に治癒するだろう。
無機塩ゲルによる皮膚の長期間の処置が望まれる場合、塩ゲルは、皮膚への塗布に続き、サランラップにより覆われてよい。
【0035】
実施例3:85%ビスコファイト及び3〜5%Structure XLを含む無機塩パッド(ゲルパッド)
無機塩パッドにおいては、無機塩が、適用部分に貼り付く、厚く、非常に粘性のある適用形態に製剤化される。所望の部分へのパッドの貼り付けの後に、パッドは皮膚に対して押圧されて、薄いパッドとなり、長い期間さえ貼り付けられる。パッドは包帯又は絆創膏で、例えば無機塩が皮膚上でのそれらの効果を発揮できる間に、より多い移動の自由度を許容するために、覆われうる。ゲルパッドは、小さな創傷の治療又はざ瘡と戦うために適当に用いられる。無機塩は、処置の完了後に水で容易に洗い流されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50重量%のMgCl・6HO(ビスコファイト)及びゲル化剤を含む塩ゲル組成物。
【請求項2】
該ゲル化剤が、該組成物中のゲル化されるべき液体の夫々1%に対して、少なくとも0.05重量%の量で存在する、請求項1に従う塩ゲル組成物。
【請求項3】
該ゲル化剤がデンプン又はセルロースの非イオン性誘導体である、請求項1又は2に従う塩ゲル組成物。
【請求項4】
該ゲル化剤がヒドロキシプロピルデンプンである、請求項3に従う塩ゲル組成物。
【請求項5】
該ゲル化剤がリン酸ヒドロキシプロピルデンプン(Structure(商標) XL)である、請求項4に従う塩ゲル組成物。
【請求項6】
更に、少なくとも1の添加物、好ましくは化粧用又は治療用の添加物を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の塩ゲル組成物。
【請求項7】
該添加物が、剥離性物質、香料、色素、塩、抗微生物性物質、抗炎症性物質、植物抽出物、発泡剤、及びエーテル油のような油からなる群から選択される、請求項6に従う塩ゲル組成物。
【請求項8】
ゲル化剤が、該組成物がゲルパッドの形態を有するように、該組成物中のゲル化されるべき液体の夫々1%に対して、少なくとも0.3重量%の量で存在する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の塩ゲル組成物。
【請求項9】
a)溶解された及び/又は融解された形態のMgCl・6HOを含む出発組成物を用意すること、
b)攪拌しながらゲル化剤がゲル化特性を表す温度に該出発組成物を冷却して、所望の量のMgCl・6HOを含む塩濃厚物を得ること、
c)該塩濃厚物を適当な量のゲル化剤と混合すること、
d)工程c)で得られた混合物を熟成させること、及び
e)任意的に1以上の追加成分を添加しながら、工程d)で得られた熟成した混合物を均一にすること、
の工程を含む、請求項1〜8のいずれか1項に従う塩ゲル組成物を調製する方法。
【請求項10】
該ゲル化剤が、該濃厚物中のゲル化されるべき液体の夫々1%に対して少なくとも0.3重量%の量で塩濃厚物に添加される、請求項9に記載の方法を含む、ゲルパッドの形態の塩ゲル組成物を調製する方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか1項に従う塩ゲル組成物を、化粧用の物質として使用する方法。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか1項に従う塩ゲル組成物を、治療用、好ましくは抗炎症性、創傷治療用、皮膚病用、又は外部寄生虫用の物質として使用する方法。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか1項に従う塩ゲル組成物を感染した領域に接触させることを含む、ヒトを含む動物の外部寄生虫性感染を処置する方法。
【請求項14】
該外部寄生虫性感染がシラミ感染である、請求項13に従う方法。
【請求項15】
請求項1から8のいずれか1項に従う塩ゲル組成物を含む、外部寄生虫性感染の処置のためのキット。
【請求項16】
さらにプラスチック製のヘアキャップ、くし、及び/又は使用説明書を含む、シラミ感染の処置のための請求項15に従うキット。

【公表番号】特表2008−538558(P2008−538558A)
【公表日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507570(P2008−507570)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000299
【国際公開番号】WO2006/112690
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
【出願人】(507348218)アール アンド エイチ ミネラルズ ビー.ブイ. (1)
【Fターム(参考)】