説明

無機塩含有廃液の処理方法および装置

【課題】 無機塩含有廃液に含まれる不純物を十分に除去し、高品質の酸及びアルカリを低コストで回収する。
【解決手段】 無機塩を含有する廃液から不純物を除去する不純物除去装置10と、前処理後の廃液を電気透析により酸溶液およびアルカリ溶液に分離して回収する電気透析装置20とを備える無機塩含有廃液の処理装置であって、不純物除去装置10は、廃液に含まれる無機塩を析出させる晶析装置12と、析出した無機塩をろ液と分離する塩分離装置13と、分離された無機塩の溶液を生成する溶解槽14と、塩分離装置で生成されたろ液を蒸発濃縮する濃縮装置15とを備えており、濃縮装置15で生成された濃縮後のろ液を晶析装置12に供給するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水や浸出水などの無機塩含有廃液を処理するための無機塩含有廃液の処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸ナトリウム(ボウ硝)や塩化ナトリウムなど種々の無機塩を含む廃液を処理する方法として、電気透析装置を用いて廃液から酸およびアルカリを回収する方法が従来から知られている。例えば、特許文献1には、硫酸塩のアルカリ性廃液を脱アルカリ処理してから、イオン交換膜電気透析装置に供給することにより、電気透析装置の陰イオン交換膜の劣化を抑制することが開示されている。
【特許文献1】特許第3015486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、特許文献1に開示された処理方法は、電気透析装置に廃液を供給するための前処理が、やはりイオン交換膜電気透析装置を用いた脱アルカリ処理によって行われるので、前処理で用いるイオン交換膜の劣化が避けられないという問題があった。
【0004】
また、塩素イオン、硝酸イオン、フッ酸イオンなど従来の前処理によっては除去が困難な不純物によって、回収される硫酸中に塩酸、硝酸、フッ酸などが混入し、腐食性の高い酸となり易いため、耐食性を維持する観点から設備の材料コストやランニングコストが高くなるという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明は、無機塩含有廃液に含まれる不純物を十分に除去し、高品質の酸及びアルカリを低コストで回収することができる無機塩含有廃液の処理方法および装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、無機塩を含有する廃液から不純物を除去する不純物除去ステップと、前処理後の廃液を電気透析により酸溶液およびアルカリ溶液に分離して回収する回収ステップとを備える無機塩含有廃液の処理方法であって、前記不純物除去ステップは、廃液に含まれる無機塩を晶析分離する塩分離ステップと、分離された無機塩の溶液を生成する溶解ステップとを備え、前記回収ステップは、前記溶解ステップで生成された溶液に対して電気透析を行う無機塩含有廃液の処理方法により達成される。
【0007】
この無機塩含有廃液の処理方法は、前記塩分離ステップで生成されたろ液を蒸発濃縮する濃縮ステップを更に備えることが好ましく、前記塩分離ステップは、濃縮後のろ液に残留する無機塩を晶析分離するステップを含むことが好ましい。更に、前記濃縮ステップは、前記回収ステップで酸溶液およびアルカリ溶液が分離された希薄塩溶液を蒸発濃縮するステップを備えることが好ましい。
【0008】
また、本発明の前記目的は、無機塩を含有する廃液から不純物を除去する不純物除去装置と、前処理後の廃液を電気透析により酸溶液およびアルカリ溶液に分離して回収する電気透析装置とを備える無機塩含有廃液の処理装置であって、前記不純物除去装置は、廃液に含まれる無機塩を析出させる晶析装置と、析出した無機塩をろ液と分離する塩分離装置と、分離された無機塩の溶液を生成する溶解槽と、前記塩分離装置で生成されたろ液を蒸発濃縮する濃縮装置とを備えており、前記濃縮装置で生成された濃縮後のろ液を前記晶析装置に供給するように構成されている無機塩含有廃液の処理装置により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無機塩含有廃液に含まれる不純物を十分に除去し、高品質の酸及びアルカリを低コストで回収することができる無機塩含有廃液の処理方法および装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る無機塩含有廃液の処理装置を示す概略構成図である。この処理装置1は、無機塩を含有する廃液から不純物を除去する不純物除去装置10と、前処理後の廃液を電気透析により酸溶液およびアルカリ溶液に分離して回収する電気透析装置20とを備えている。
【0011】
不純物除去装置10は、廃液中に含まれる懸濁物質(SS成分)を捕捉するろ過フィルタを備えて中和やろ過などの操作を行う前処理装置11と、前処理装置を通過した廃液を晶析して無機塩の結晶を析出させる晶析装置12と、析出した無機塩をろ液と分離する塩分離装置13と、分離された無機塩の溶液を生成する溶解槽14と、塩分離装置13で生成されたろ液を蒸発濃縮する濃縮装置15とを備えており、濃縮装置15で濃縮されたろ液は、再び晶析装置12に供給されるように構成されている。
【0012】
晶析装置12は本実施形態では、供給された廃液を冷却晶析缶で冷却して、目的とする無機塩の結晶を析出させる冷却晶析装置を使用しているが、純度の高い結晶が析出される晶析方法であれば良く、例えば蒸発晶析装置、再結晶装置などを用いることができる。
【0013】
塩分離装置13は、無機塩が析出した廃液のスラリーから結晶を遠心分離するように構成されている。無機塩の結晶は溶解槽14に供給される。溶解槽14は、供給された無機塩の結晶を、所望の濃度となるように水に溶解して無機塩の溶液を生成し、電気透析装置20に供給する。
【0014】
一方、塩分離装置13で無機塩が分離されたろ液は濃縮装置15に供給される。濃縮装置15は、内部を加熱流体が通過する複数の伝熱管の表面に、ろ液を減圧下で散布して加熱蒸発させる公知の蒸発濃縮装置を用いることができ、ろ液中に僅かに含まれる無機塩を濃縮する。濃縮後のろ液は晶析装置12に再び供給されるが、不純物が含まれる為、一部をブロー液として排出する。この排出割合は、弁開度の調整により所望の値に設定可能である。
【0015】
電気透析装置20は、陽極と陰極との間に、陽イオン交換膜、バイポーラ膜および陰イオン交換膜を備えるセルが複数積層された三室セル方式のバイポーラ膜電気透析装置など公知のものを使用することができ、陽イオン交換膜および陰イオン交換膜により形成される脱塩室に無機塩の溶液が導入される。また、陽イオン交換膜およびバイポーラ膜により形成されるアルカリ室と、バイポーラ膜および陰イオン交換膜により形成される酸室に、それぞれ水が導入され、アルカリ室および酸室からアルカリ溶液および酸溶液がそれぞれ回収される。脱塩室における脱塩後の希薄塩溶液は、濃縮装置15に供給される。
【0016】
次に、上記の構成を備える無機塩含有廃液の処理装置1の作用を説明する。
本実施形態の処理装置1は、塩酸、硫酸、フッ酸、リン酸などの強酸と、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属との無機塩を含む工場排水や浸出水などの廃液を処理するのに好適に用いることができ、以下においては、硫酸ナトリウム(ボウ硝)を無機塩として含む廃液の処理を例として説明する。
【0017】
不純物除去装置10に供給された廃液は、前処理装置11を通過する際に懸濁物質(SS成分)が除去された後、晶析装置12に導入される。晶析装置12においては、塩によって飽和溶解度や溶解度の温度依存性が異なることを利用して、目的の塩の結晶のみを析出させる。本実施形態においては、塩化ナトリウムの溶解度の温度依存性が含水ボウ硝のそれに比べて小さいことを利用している。すなわち、供給濃度における塩化ナトリウムの析出温度以上であって含水ボウ硝の析出温度以下に冷却することによって含水ボウ硝のみを析出させる。またその他の微量不純物は溶液側に溶解することによって、結晶純度を上げることが可能である。こうして、硫酸ナトリウムの結晶が析出されて廃液がスラリー状となり、この廃液が塩分離装置13において固液分離される。
【0018】
塩分離装置13で分離された硫酸ナトリウムの結晶は、溶解槽14において純水に溶解されて溶液となり、電気透析装置20に供給される。この溶液は、晶析装置12及び塩分離装置13を経ることで溶解塩の純度が高められているため、生成される酸溶液及びアルカリ溶液(すなわち、硫酸溶液および苛性ソーダ溶液)を高品質なものとすることができ、濃度を十分高めた有価な酸およびアルカリを回収することができる。また、溶液中に含まれる塩素イオン、硝酸イオン、フッ素イオンなどの不純物が十分低減されていることにより、材料腐食の問題が抑制され、回収設備のイニシャルコスト、ランニングコストを大幅に改善することができるので、酸およびアルカリの回収メリットが大きくなる。
【0019】
一方、塩分離装置13で生成されたろ液は、濃縮装置15に供給されて蒸発濃縮された後、再び晶析装置12に供給される。これにより、ろ液中に僅かに残留する硫酸ナトリウムが濃縮されて、析出し易い状態で再び晶析されるため、電気透析装置20における酸溶液およびアルカリ溶液の回収率を高めることができる。濃縮装置15で生成された蒸気は、凝縮水として回収することができる。
【0020】
濃縮装置15でろ液を繰り返し濃縮することにより、硫酸ナトリウム(含水ボウ硝)と共に不純物も濃縮されるため、塩分離装置13で生成される結晶塩に不純物が混入し易くなり、回収する酸・アルカリの品質が低下するおそれがある。このような場合には、晶析装置12への廃液の供給を連続的に行いつつ、濃縮装置15で生成された濃縮液の一部をブロー液として外部に連続的に排出することにより、晶析装置12に供給される濃縮液の不純物濃度の増加を抑制することができる。ブロー液の排出量を多くするほど、回収される酸・アルカリの品質が高まる一方で回収率は低下することから、ろ液中の不純物濃度をモニタリングする等して、ブロー液の排出量を適宜調整することが好ましい。
【0021】
電気透析装置20に供給された硫酸ナトリウムの溶液は、脱塩室を通過する際に大部分が酸溶液およびアルカリ溶液として回収されるが、脱塩室から排出された液中にも硫酸ナトリウムが僅かに含まれている。この希薄塩の溶液は、塩分離装置13で生成されたろ液と共に濃縮装置15に供給されて蒸発濃縮されることにより、硫酸ナトリウムを塩分離装置13で再び析出することができ、酸およびアルカリの回収率を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る無機塩含有廃液の処理装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0023】
1 処理装置
10 不純物除去装置
11 前処理装置
12 晶析装置
13 塩分離装置
14 溶解槽
15 濃縮装置
20 電気透析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機塩を含有する廃液から不純物を除去する不純物除去ステップと、前処理後の廃液を電気透析により酸溶液およびアルカリ溶液に分離して回収する回収ステップとを備える無機塩含有廃液の処理方法であって、
前記不純物除去ステップは、廃液に含まれる無機塩を晶析分離する塩分離ステップと、分離された無機塩の溶液を生成する溶解ステップとを備え、
前記回収ステップは、前記溶解ステップで生成された溶液に対して電気透析を行う無機塩含有廃液の処理方法。
【請求項2】
前記塩分離ステップで生成されたろ液を蒸発濃縮する濃縮ステップを更に備え、
前記塩分離ステップは、濃縮後のろ液に残留する無機塩を晶析分離するステップを含む請求項1に記載の無機塩含有廃液の処理方法。
【請求項3】
前記濃縮ステップは、前記回収ステップで酸溶液およびアルカリ溶液が分離された希薄塩溶液を蒸発濃縮するステップを含む請求項2に記載の無機塩含有廃液の処理方法。
【請求項4】
無機塩を含有する廃液から不純物を除去する不純物除去装置と、前処理後の廃液を電気透析により酸溶液およびアルカリ溶液に分離して回収する電気透析装置とを備える無機塩含有廃液の処理装置であって、
前記不純物除去装置は、廃液に含まれる無機塩を析出させる晶析装置と、析出した無機塩をろ液と分離する塩分離装置と、分離された無機塩の溶液を生成する溶解槽と、前記塩分離装置で生成されたろ液を蒸発濃縮する濃縮装置とを備えており、前記濃縮装置で生成された濃縮後のろ液を前記晶析装置に供給するように構成されている無機塩含有廃液の処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−165987(P2009−165987A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8711(P2008−8711)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000143972)株式会社ササクラ (138)
【Fターム(参考)】