説明

無機材料、デバイスおよび有機電界発光素子

【課題】無機材料、デバイス及び有機電界発光素子に関する。特に、効率に優れ、素子寿命の長いデバイス及び有機電界発光素子及び該デバイス及び有機電界発光素子に用いる電極材料として有用な無機材料を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるホスフェート化合物で修飾されたことを特徴とする無機材料。
T−OPO(OH)・・・・・・(1)
〔式中、Tはフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基、アリール基を含む基、又はヘテロアリール基を含む基を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料、デバイスおよび有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料を利用したデバイスとして、有機電界発光素子(以下、OLEDともいう)、有機半導体を利用したトランジスタなどの研究が活発に行われている。特に、有機電界発光素子は、固体発光型の大面積フルカラー表示素子や安価な大面積な面光源としての照明用途としての発展が期待されている。一般に有機電界発光素子は発光層を含む有機層及び該有機層を挟んだ一対の対向電極から構成される。このような有機電界発光素子に電圧を印加すると、有機層に陰極から電子が注入され陽極から正孔が注入される。この電子と正孔が発光層において再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際にエネルギーを光として放出することにより発光が得られる。
【0003】
このような有機材料を用いたデバイスにおいては、電極から効率的に正孔もしくは電子を注入させる必要があり、これまでにも有機電界発光素子の長寿命化、安定性の向上を目的として多くの研究がなされてきた。
特許文献1には、長鎖アルキル基を有するリン酸化合物を用いて電極と有機層の密着性を向上させることで、長寿命の有機電界発光素子に関する記載がある。
また、特許文献2には透明電極の表面に長鎖アルキル基を有する亜リン酸化合物を化学的に結合させることにより電極上の薄膜に剥離や構造変化が生じることなく、安定性の良い光有機薄膜素子に関する記載がある。非特許文献1には芳香族基を有するリン酸化合物を用いた有機電界発光素子に関する記載がある。しかし、これらの技術によってはまだ効率及び寿命の面で満足できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−47176号公報
【特許文献2】特許第3115040号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Advanced Functional Materials、第18巻、第3464ページ、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機電界発光素子の効率を上げるため、電極表面上を修飾した有機電界発光素子に関し研究されてきたが、まだ満足できるレベルにはない。
本発明の目的は、無機材料、デバイス及び有機電界発光素子に関する。特に、効率に優れ、素子寿命の長いデバイス及び有機電界発光素子及び該デバイス及び有機電界発光素子に用いる電極材料として有用な無機材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記状況を鑑み、本発明者は、鋭意研究を行なったところ、特定の置換基を有するリン酸化合物により表面修飾することで非常に高い効率と素子寿命を与える有機デバイスを提供し得る無機材料が得られるという知見を得、この知見に基づいてさらに検討して本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
〔1〕
下記一般式(1)で表されるホスフェート化合物で修飾されたことを特徴とする無機材料。
T−OPO(OH)・・・・・・(1)
〔式中、Tはフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基、アリール基を含む基、又はヘテロアリール基を含む基を表す。〕
〔2〕
前記一般式(1)中、Tがフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基を表すことを特徴とする〔1〕に記載の無機材料。
〔3〕
前記フッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基が、下記式(A)で表される基であることを特徴とする〔2〕に記載の無機材料。
−L−L−R (A)
(式(A)中、Lは単結合又はアルキレンを表す。Lは単結合、−O−、−(C=O)NH−、−N(R10)SO−、−(C=O)O−、のいずれかを表す。Rはフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を表す。R10はアルキル基を表す。)
〔4〕
前記一般式(1)中、Tがアリール基を含む基であることを特徴とする〔1〕に記載の無機材料。
〔5〕
前記アリール基がフェニル基を含む基であるであることを特徴とする〔4〕に記載の無機材料。
〔6〕
前記一般式(1)中、Tが電荷輸送部位を有することを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の無機材料。
〔7〕
前記無機材料が、金属酸化物であることを特徴とする〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の無機材料。
〔8〕
前記無機材料が、電極であることを特徴とする〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の無機材料。
〔9〕
前記無機材料が、透明電極であることを特徴とする〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の無機材料。
〔10〕
前記無機材料が、インジウムスズオキサイド(ITO)であることを特徴とする〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の無機材料。
〔11〕
前記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の無機材料を用いたことを特徴とするデバイス。
〔12〕
前記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の無機材料を用いたことを特徴とする有機電界発光素子。
〔13〕
前記〔1〕〜〔10〕に記載の無機材料がインジウムスズオキサイド(ITO)であることを特徴とする〔12〕に記載の有機電界発光素子。
〔14〕
前記〔1〕〜〔10〕に記載の無機材料が陽極であることを特徴とする〔12〕又は〔13〕に記載の有機電界発光素子。
〔15〕
前記〔1〕〜〔10〕に記載の無機材料を用いた有機電界発光素子において、該有機電界発光素子が少なくとも1つ以上の塗布プロセスにより作製されていることを特徴とする〔12〕〜〔14〕のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効率に優れ、素子寿命の長いデバイス及び有機電界発光素子及び該デバイス及び有機電界発光素子に用いる電極材料として有用な無機材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】は本発明の発光素子の一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0012】
〔無機材料〕
本発明の無機材料は、下記一般式(1)で表されるホスフェート化合物で修飾されたことを特徴とする。
一般式(1)
T−OPO(OH)
〔式中、Tはフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基、アリール基を含む基、又はヘテロアリール基を含む基を表す。〕
本発明の無機材料としては、シリコーン、ガラス、金属、無機酸化物(シリカ)、金属酸化物(アルミナ、酸化チタン、酸化スズ、インジウムスズオキサイドなど)などが挙げられ、ガラス、無機酸化物、金属酸化物が好ましく、金属酸化物がより好適に用いられる。無機材料として好ましい用途は、電極であり、特に好ましくは透明電極である。無機材料は陽極に用いることも好ましい。透明電極としては、インジウムスズオキサイド(ITO)、酸化亜鉛、酸化スズなどが好適に用いられる。より好ましくはITOである。詳細は、「最新透明導電性膜大全集、情報機構、2007年」に記載されている。
【0013】
一般式(1)において、水酸基を二つ有することで、無機材料への結合力が強くできるため、得られたデバイス及び有機電界発光素子の安定性を高めることができ、好ましい。
【0014】
Tはフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基、アリールを含む基、又はヘテロアリール基を含む基を表す。
【0015】
本発明における一態様としてTがフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基を表す場合を挙げることができる。
フッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基は下記式(A)で表されることが好ましい。
【0016】
−L−L−R (A)
【0017】
(式(A)中、Lは単結合又はアルキレンを表す。Lは単結合、−O−、−(C=O)NH−、−N(R10)SO−、−(C=O)O−のいずれかを表す。Rはフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を表す。R10はアルキル基を表す。)
【0018】
が表すフッ素原子を含む長鎖アルキル基としては、無置換であっても置換基を有していてもよく、炭素数5〜60、好ましくは炭素数5〜30、更に好ましくは炭素数5〜20のフッ素原子を含むアルキル基であることが好ましい。具体的にはフルオロヘキシル、フルオロヘプチル、フルオロオクチル、フルオロノニル、フルオロドデシル、パーフルオロヘキシル、パーフルオロヘプチル、パーフルオロオクチル、パーフルオロノニル、パーフルオロドデシルを挙げることができる。
【0019】
10が表すアルキル基としては、無置換であっても置換基を有していてもよく、炭素数1〜18、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜5の無置換のアルキル基が好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を挙げることができる。
【0020】
式(A)で表される基としては具体的には、−C13、−C17、−C15、−(CH13、−(CH17、−CN(CH)SO13、−CN(CH)SO17、−(C=O)NHC13、−(C=O)NHC17、−(C=O)OC13、−CN(C)SO13、−CO C17、−(CH13等を挙げることができ、好ましくは、−C17、−(CH13、−CN(CH)SO17、−(C=O)NHC13、である。より好ましくは、−(CH13、−CN(CH)SO17である。
【0021】
本発明における一態様としてTがアリール基を含む基を表す場合を挙げることができる。
アリール基としては、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜15、更に好ましくは炭素数6〜10の置換又は無置換のアリール基(例えばフェニル、ナフチル、p−カルボキシフェニル、p−ニトロフェニル、3,5−ジクロロフェニル、p−シアノフェニル、m−フルオロフェニル、p−トリル、4−プロピルシクロヘキシル−4’−ビフェニル、4−ブチルシクロヘキシル−4’−ビフェニル、4−ペンチルシクロヘキシル−4’−ビフェニル、4−プロピルフェニル−2−エチニル−4’−ビフェニル)が挙げられる。好ましくはフェニルである。置換基を有する場合の置換基としては、後述の置換基群Vに表される置換基が挙げられる。
【0022】
本発明における一態様としてTがヘテロアリール基を含む基を表す場合を挙げることができる。
ヘテロアリール基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数2〜10、更に好ましくは炭素数4〜6の置換又は無置換のヘテロアリール基(例えばピリジル、5−メチルピリジル、チエニル、フリル、モルホリノ、テトラヒドロフルフリル)が挙げられる。置換基を有する場合の置換基としては、後述の置換基群Vに表される置換基が挙げられる。
【0023】
Tがフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基であることにより、デバイス及び有機電界発光素子とした場合の密着性向上、素子耐久性の向上を図ることができる。
特にフッ素原子を含むことで、素子耐久性の向上の観点から好ましい。また、長鎖アルキル基の炭素数が5個以上であれば密着性が向上し、素子耐久性の観点からより好ましい。
【0024】
本発明において、無機材料は、例えば電極基板上に、本発明の化合物を修飾させた場合、その仕事関数が、未修飾の場合と比較して、正の方向に大きくなる(シフトする)ものが好ましい。そのシフト幅としては、0.01〜10eVの範囲が好ましく、0.05〜5eVの範囲がさらに好ましく、0.1〜2eVの範囲が特に好ましい。
本発明の化合物を修飾させた無機材料の仕事関数は5.0〜5.5eVの範囲が好ましく、5.1〜5.5eVの範囲がより好ましい。仕事関数がこの範囲内であれば、電極から有機半導体化合物への電荷注入を効率的に行うことができるため好ましい。
【0025】
また、本発明の化合物を修飾させた無機材料の水との接触角は60°〜120°の範囲が好ましく、70〜110°の範囲がより好ましい。接触角がこの範囲であれば、親疎水性を有機デバイス及び有機電界発光素子で一般的に用いられる有機半導体化合物と同程度の範囲とすることができ、デバイス及び有機電界発光素子とした場合の密着性向上、素子耐久性の向上に寄与できる。
【0026】
Tはさらに置換基を有していてもよい。ただし、置換基として−OPO(OH)を含むことはない。一般式(1)の1分子中に複数の−OPO(OH)が存在すると、吸着部位が複数存在することとなり、無機材料の表面に密に存在することが難しく、デバイスを作成した場合、高い効率と耐久性が得にくくなるためである。
置換基としては、下記の置換基群Vが挙げられる。
<置換基群V>
ハロゲン原子(例えば塩素、臭素、沃素、フッ素);メルカプト基;シアノ基;カルボキシル基;リン酸基;スルホ基;ヒドロキシ基;炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜8、更に好ましくは炭素数2〜5のカルバモイル基(例えばメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、モルホリノカルバモイル基);炭素数0〜10、好ましくは炭素数2〜8、更に好ましくは炭素数2〜5のスルファモイル基(例えばメチルスルファモイル基、エチルスルファモイル基、ピペリジノスルファモイル基);ニトロ基;炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜8のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−フェニルエトキシ基);炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜12、更に好ましくは炭素数6〜10のアリールオキシ基(例えばフェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、ナフトキシ基);炭素数1〜20、好ましくは炭素数2〜12、更に好ましくは炭素数2〜8のアシル基(例えばアセチル基、ベンゾイル基、トリクロロアセチル基);炭素数1〜20、好ましくは炭素数2〜12、更に好ましくは炭素数2〜8のアシルオキシ基(例えばアセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基);炭素数1〜20、好ましくは炭素数2〜12、更に好ましくは炭素数2〜8のアシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基);炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜8のスルホニル基(例えばメタンスルホニル基、エタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基);炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜8のスルフィニル基(例えばメタンスルフィニル基、エタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基);炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜8のスルホニルアミノ基(例えばメタンスルホニルアミノ基、エタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基);
【0027】
炭素数0〜20、好ましくは炭素数0〜12、更に好ましくは炭素数0〜8の置換もしくは無置換のアミノ基(例えば、無置換のアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ベンジルアミノ基、アニリノ基、ジフェニルアミノ基);炭素数0〜15、好ましくは炭素数3〜10、更に好ましくは炭素数3〜6のアンモニウム基(例えばトリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基);炭素数0〜15、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜6のヒドラジノ基(例えばトリメチルヒドラジノ基);炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜6のウレイド基(例えばウレイド基、N,N−ジメチルウレイド基);炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜6のイミド基(例えばスクシンイミド基);炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12、更に好ましくは炭素数1〜8のアルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基);炭素数6〜80、好ましくは炭素数6〜40、更に好ましくは炭素数6〜30のアリールチオ基(例えばフェニルチオ基、p−メチルフェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、2−ピリジルチオ基、1−ナフチルチオ基、2−ナフチルチオ基、4−プロピルシクロヘキシル−4’−ビフェニルチオ基、4−ブチルシクロヘキシル−4’−ビフェニルチオ基、4−ペンチルシクロヘキシル−4’−ビフェニルチオ基、4−プロピルフェニル−2−エチニル−4’−ビフェニルチオ基);炭素数1〜80、好ましくは炭素数1〜40、更に好ましくは炭素数1〜30のヘテロアリールチオ基(例えば2−ピリジルチオ基、3−ピリジルチオ基、4−ピリジルチオ基、2−キノリルチオ基、2−フリルチオ基、2−ピロリルチオ基);
【0028】
炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜12、更に好ましくは炭素数2〜8のアルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、2−ベンジルオキシカルボニル基);炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜12、更に好ましくは炭素数6〜10のアリーロキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル基);炭素数1〜18、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜5の無置換のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基);炭素数1〜18、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜5の置換アルキル基{例えばヒドロキシメチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、カルボキシエチル基、エトキシカルボニルメチル基、アセチルアミノメチル基、またここでは炭素数2〜18、好ましくは炭素数3〜10、更に好ましくは炭素数3〜5の不飽和炭化水素基(例えばビニル基、エチニル基1−シクロヘキセニル基、ベンジリジン基、ベンジリデン基)も置換アルキル基に含まれることにする};炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜15、更に好ましくは炭素数6〜10の置換もしくは無置換のアリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、p−カルボキシフェニル基、p−ニトロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、p−シアノフェニル基、m−フルオロフェニル基、p−トリル基、4−プロピルシクロヘキシル−4’−ビフェニル、4−ブチルシクロヘキシル−4’−ビフェニル、4−ペンチルシクロヘキシル−4’−ビフェニル、4−プロピルフェニル−2−エチニル−4’−ビフェニル);炭素数1〜20、好ましくは炭素数2〜10、更に好ましくは炭素数4〜6の置換もしくは無置換のヘテロ環基(例えばピリジル基、5−メチルピリジル基、チエニル基、フリル基、モルホリノ基、テトラヒドロフルフリル基);が挙げられる。これら置換基群Vはベンゼン環やナフタレン環が縮合した構造もとることができる。さらに、これらの置換基上にさらに置換基群Vから選ばれるいずれかの置換基が置換していてもよい。
【0029】
置換基群Vとして好ましいものは、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、フッ素原子である。なお、Tは重水素置換されていてもよい。
【0030】
また、Tは電荷輸送部位を有していてもよい。電荷とは、正または負に帯電した状態を意味し、いわゆる、ホールならびに電子を表す。輸送とは、電荷が物質中を移動することを意味し、定量的には移動度によって表される。具体的には、移動度が10−12cm/Vs〜10cm/Vsの範囲が好ましく、さらに好ましくは10−10cm/Vs〜10cm/Vsの範囲である。特に、好ましくは10−8cm/Vs〜1cm/Vsの範囲である。
電荷輸送部位としてホールを輸送する材料としては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができる。
ピロール、カルバゾール、アゼピン、カルベン、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ピラゾール、イミダゾール、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、ヒドラゾン、スチリルアミン化合物、ポルフィリン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体の導電性高分子オリゴマー、及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの複数の骨格が含まれていても良い。好ましくは、アリールアミンであり、特に好ましくはトリアリールアミンである。
ホール輸送部位としては、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、Ipが5.1eV以上6.3eV以下であることが好ましく、5.4eV以上6.1eV以下であることがより好ましく、5.6eV以上5.8eV以下であることが更に好ましい。また、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、電子親和力Eaが1.2eV以上3.1eV以下であることが好ましく、1.4eV以上3.0eV以下であることがより好ましく、1.8eV以上2.8eV以下であることが更に好ましい。
電荷輸送部位として電子を輸送する材料としては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができる。
ピリジン、ピリミジン、トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾ−ル、オキサゾ−ル、オキサジアゾ−ル、カルボジイミド、ジスチリルピラジン、フタロシアニン、およびそれらの誘導体(他の環と縮合環を形成してもよい)、8−キノリノ−ル誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾ−ルやベンゾチアゾ−ルを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体等を挙げることができる。
電子輸送部位としては、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、電子親和力Eaが2.5eV以上3.5eV以下であることが好ましく、2.6eV以上3.2eV以下であることがより好ましく、2.8eV以上3.1eV以下であることが更に好ましい。また、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、イオン化ポテンシャルIpが5.7eV以上7.5eV以下であることが好ましく、5.8eV以上7.0eV以下であることがより好ましく、5.9eV以上6.5eV以下であることが更に好ましい。
電子輸送部位の例としては、例えば特開2002−235076、特開2004−214179、特開2004−221062、特開2004−221065、特開2004−221068、特開2004−327313等に記載の化合物が挙げられる。
なお、これらの電荷輸送部位は重水素置換されていてもよい。
一般式(1)で表されるホスフェート化合物は、公知の方法を用いて合成することができる。たとえば、Tetrahedron, 第42巻, 第5591ページ、1986年、Phosphorus Sulfur, 第27巻, 第1ページ、1986年、Bioorganic Medical Chemistry Letter, 第9巻, 第1295ページ、2002年、Journal Indian Chemical Society, 第39巻, 第5ページ、1962年などが挙げられる。
【0031】
以下に、本発明に使用可能なホスフェート化合物の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によってなんら限定されるものではない。
【0032】
【化1】

【0033】
【化2】

【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
【化8】

【0040】
〔デバイス〕
本発明のデバイスは、前記一般式(1)で表される化合物で修飾されたことを特徴とする無機材料を用いる。
本発明の無機材料は、電極として用いることが好ましく、各種デバイスに適用することが可能である。デバイスとしては、トランジスタ、発光ダイオード、無機電界発光素子、有機電界発光素子、メモリー、液晶表示材料、太陽電池などが挙げられる。
【0041】
〔有機電界発光素子〕
以下、本発明に用いられる有機電界発光素子について説明する。
本発明の有機電界発光素子は、前記一般式(1)で表される化合物で修飾された無機材料を用いる。無機材料がインジウムスズオキサイド(ITO)であることが好ましい。また、無機材料が陽極であることが好ましい。
本発明の有機電界発光素子は基材上に透明電極(本発明の化合物が修飾されている無機材料を用いる)、一層以上の有機層及び背面電極を積層してなる発光積層体を有する。有機層は発光層を含み、発光層は燐光発光性化合物を含有する。必要に応じて発光層以外の有機層や保護層、封止層等を有していてもよい。
【0042】
素子中における酸素濃度は低いほど好ましく、100ppm以下であればよく、好ましくは50ppm以下である。酸素濃度が100ppm以下の雰囲気を得るための方法は特に限定されない。例えば、酸素濃度100ppm以下の不活性ガス雰囲気下で封止工程を行えばよい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等がコスト及び取り扱い易さの観点から好ましい。
【0043】
封止部材としては、封止キャップ、封止カバー等が使用できる。封止部材をなす材料は水分透過性及び酸素透過性の低い材料であればよく、その具体例としてはガラス、セラミック等の無機材料、ステンレス、鉄、アルミ等の金属、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルやポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)、テフロン(登録商標)、ポリテトラフルオロエチレン−ポリエチレン共重合体等の高分子材料等が挙げられる。中でも、フレキシブルな発光素子や塗布型発光素子を形成するためには高分子材料が好ましい。
【0044】
封止部材を発光積層体に設置する際には、適宜封止剤(接着剤)を用いてよい。封止剤としては紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、二液型硬化樹脂、水分硬化樹脂、嫌気性硬化樹脂、ホットメルト型樹脂等が使用可能である。
【0045】
図1は各々、本発明の発光素子の一実施形態を示す概略断面図である。図1に示す発光素子は、基材1の上に透明電極2、有機層3及び背面電極4を積層してなる発光積層体7、並びに有機層3を封止する封止部材9を有する。これらの実施形態においては、封止部材9を封止剤(接着剤)8によって基材1、透明電極リード5、背面電極リード6等に接着し、発光積層体7に設置される。空間10には、水分吸収剤又は不活性液体を挿入してよい。水分吸収剤は特に限定されず、具体例としては酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化リン、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化銅、フッ化セシウム、フッ化ニオブ、臭化カルシウム、臭化バナジウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、酸化マグネシウム等が挙げられる。不活性液体としてはパラフィン類、流動パラフィン類、フッ素系溶剤(パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等)、塩素系溶剤、シリコーンオイル類等が使用可能である。
【0046】
本発明の発光素子において、発光積層体の構成は、基材上に透明電極/発光層/背面電極、透明電極/発光層/電子輸送層/背面電極、透明電極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/背面電極、透明電極/正孔輸送層/発光層/背面電極、透明電極/発光層/電子輸送層/電子注入層/背面電極、透明電極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/背面電極等をこの順に積層した構成、これらを逆に積層した構成等であってよい。発光層は燐光発光性化合物を含有し、通常、透明電極から発光が取り出される。各層に用いる化合物の具体例については、例えば「月刊ディスプレイ」1998年10月号別冊の「有機ELディスプレイ」(テクノタイムズ社)等に記載されている。
【0047】
有機層の形成位置は特に制限されず、発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができるが、透明電極又は背面電極上に形成するのが好ましい。このとき有機層は透明電極又は背面電極の全面又は一部に形成してよい。有機層の形状、大きさ及び厚みも目的に応じて適宜選択することができる。
【0048】
有機層は乾式製膜法又は湿式製膜法(塗布プロセス)により製膜してよいが、湿式製膜法を用いると有機層を容易に大面積化することができ、高輝度で発光効率に優れた発光素子が低コストで効率よく得られ、好ましい。乾式製膜法としては蒸着法、スパッタ法等が使用でき、湿式製膜法としてはディッピング法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法、グラビアコート法等が使用可能である。これらの製膜法は有機層の材料に応じて適宜選択できる。湿式製膜法により製膜した場合は製膜した後に乾燥してよい。乾燥は塗布層が損傷しないように温度、圧力等の条件を選択して行う。
【0049】
前記一般式(1)で表される化合物で修飾された無機材料を用いた有機電界発光素子において、該有機電界発光素子が少なくとも1つ以上の塗布プロセスにより作製されていることが好ましい。
【0050】
上記湿式製膜法で用いる塗布液は通常、有機層の材料と、それを溶解又は分散するための溶剤からなる。溶剤は特に限定されず、有機層に用いる材料に応じて選択すればよい。溶剤の具体例としては、ハロゲン系溶剤(クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、n−プロピルメチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族系溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸 n−プロピル、酢酸 n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、炭酸ジエチル等)、エーテル系溶剤(テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、アミド系溶剤(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。なお、塗布液中の溶剤に対する固形分量は特に制限はなく、塗布液の粘度も製膜方法に応じて任意に選択することができる。
【0051】
本発明の発光素子は通常、その透明電極と背面電極との間に2〜40ボルト程度の直流電圧(交流成分を含んでもよい)又は直流電流を印加すると発光する。また、本発明の発光素子を駆動する際には、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号、米国特許5828429号、同6023308号、日本特許第2784615号等に記載の駆動方法を利用することができる。以下、本発明で用いる発光積層体をなす各層について詳述するが、本発明はそれらにより限定されない。
【0052】
(A)基材
本発明で使用する基材は、水分を透過させない材料又は水分透過率が極めて低い材料からなるのが好ましい。該材料は、好ましくは有機層から発せられる光を散乱又は減衰させない。その具体例としては、ジルコニア安定化イットリウム(YSZ)、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルやポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料等が挙げられる。中でも、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性及び加工性に優れ、且つ低通気性及び低吸湿性である有機材料が特に好ましく使用できる。基材は単一材料で形成しても、2種以上の材料で形成してもよい。基材の材料は透明電極材料に応じて適宜選択してよく、例えば透明電極が酸化インジウムスズ(ITO)である場合には、ITOとの格子定数の差が小さい材料を用いるのが好ましい。
【0053】
基材の形状、構造、大きさ等は発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができる。形状は板状とするのが一般的である。構造は単層構造であっても積層構造であってもよい。基材は無色透明であっても有色透明であってもよいが、発光層から発せられる光を散乱又は減衰させることがない点で無色透明であるのが好ましい。
【0054】
基材の電極側の面、電極と反対側の面又はその両方に透湿防止層(ガスバリア層)を設けてもよい。透湿防止層を構成する材料としては窒化ケイ素、酸化ケイ素等の無機物を用いるのが好ましい。透湿防止層は高周波スパッタリング法等により成膜できる。また、基材には必要に応じてハードコート層やアンダーコート層を設けてもよい。
【0055】
(B)透明電極
通常、透明電極は有機層に正孔を供給する陽極としての機能を有するが、陰極として機能させることもでき、この場合背面電極を陽極として機能させる。以下、透明電極を陽極とする場合について説明する。
【0056】
透明電極の形状、構造、大きさ等は特に制限されず、発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができる。透明電極を形成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等を用いることができ、好ましくは仕事関数が4eV以上の材料を用いる。具体例としては、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、半導性金属酸化物(酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等)、金属(金、銀、クロム、ニッケル等)、これら金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、無機導電性物質(ヨウ化銅、硫化銅等)、有機導電性材料(ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等)及びこれとITOとの積層物等が挙げられる。
【0057】
透明電極は印刷法、コーティング法等の湿式方法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方法、CVD、プラズマCVD法等の化学的方法等によって基材上に形成することができる。形成方法は透明電極材料との適性を考慮して適宜選択すればよい。例えば、透明電極の材料としてITOを用いる場合には、直流又は高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等を用いればよい。また透明電極の材料として有機導電性材料を用いる場合には、湿式製膜法を用いてよい。
【0058】
透明電極のパターニングはフォトリソグラフィー等による化学的エッチング、レーザー等を用いた物理的エッチング等により行うことができる。また、マスクを用いた真空蒸着やスパッタリング、リフトオフ法、印刷法等によりパターニングしてもよい。
【0059】
透明電極の形成位置は発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択してよいが、基材上に形成するのが好ましい。このとき透明電極は基材の表面全体に形成しても一部のみに形成してもよい。
【0060】
透明電極の厚みはその材料に応じて適宜選択すればよいが、通常10nm〜50μmであり、好ましくは50nm〜20μmである。透明電極の抵抗値は10Ω/□以下とするのが好ましく、10Ω/□以下とするのがより好ましい。透明電極は無色透明であっても有色透明であってもよい。透明電極側から発光を取り出すためには、その透過率は60%以上とするのが好ましく、70%以上とするのがより好ましい。透過率は分光光度計を用いた公知の方法に従って測定することができる。
【0061】
また、「透明導電膜の新展開」(沢田豊監修、シーエムシー刊、1999年)等に詳細に記載されている電極も本発明に適用できる。特に耐熱性の低いプラスチック基材を用いる場合は、透明電極材料としてITO又はIZOを使用し、150℃以下の低温で製膜するのが好ましい。
【0062】
(C)背面電極
通常、背面電極は有機層に電子を注入する陰極としての機能を有するが、陽極として機能させることもでき、この場合上記透明電極を陰極として機能させる。以下、背面電極を陰極とする場合について説明する。
【0063】
背面電極の形状、構造、大きさ等は特に制限されず、発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択することができる。背面電極を形成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等を用いることができ、好ましくは仕事関数が4.5eV以下の材料を用いる。具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Mg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、希土類金属(イッテルビウム等)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させるためには2種以上を併用するのが好ましい。これら材料の中で、電子注入性の観点からはアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、保存安定性の観点からはアルミニウムを主体とする材料が好ましい。ここでアルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01〜10質量%のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との合金又は混合物(リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金等)を指す。背面電極の材料としては、特開平2−15595号、特開平5−121172号等に詳述されているものも使用できる。
【0064】
背面電極は印刷法、コーティング法等の湿式方法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方法、CVD、プラズマCVD法等の化学的方法等によって形成することができる。形成方法は背面電極材料との適性を考慮して適宜選択すればよい。例えば、背面電極の材料として2種以上の金属等を用いる場合には、その材料を同時又は順次にスパッタして形成できる。
【0065】
背面電極のパターニングはフォトリソグラフィー等による化学的エッチング、レーザー等を用いた物理的エッチング等により行うことができる。また、マスクを用いた真空蒸着やスパッタリング、リフトオフ法、印刷法等によりパターニングしてもよい。
【0066】
背面電極の形成位置は発光素子の用途及び目的に応じて適宜選択してよいが、有機層上に形成するのが好ましい。このとき背面電極は有機層の表面全体に形成しても一部のみに形成してもよい。また、背面電極と有機層との間にアルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物等からなる誘電体層を0.1〜5nmの厚みで設置してもよい。誘電体層は真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により形成することができる。
【0067】
背面電極の厚みはその材料に応じて適宜選択すればよいが、通常10nm〜5μmであり、好ましくは50nm〜1μmである。背面電極は透明であっても不透明であってもよい。透明背面電極は、上述した材料の層を1〜10nmの厚みに薄く製膜し、更にITOやIZO等の透明導電性材料を積層して形成してよい。
【0068】
(D)発光層
本発明の発光素子において、発光層は燐光発光性化合物を含有する。本発明で用いる燐光発光性化合物は、三重項励起子から発光することができる化合物であれば特に限定されることはない。燐光発光性化合物としては、オルトメタル化錯体又はポルフィリン錯体を用いるのが好ましく、オルトメタル化錯体を用いるのがより好ましい。ポルフィリン錯体の中ではポルフィリン白金錯体が好ましい。燐光発光性化合物は単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0069】
本発明でいうオルトメタル化錯体とは、山本明夫著「有機金属化学 基礎と応用」, 150頁及び232頁, 裳華房社(1982年)、H. Yersin著「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」, 71〜77頁及び135〜146頁, Springer−Verlag社(1987年)等に記載されている化合物群の総称である。オルトメタル化錯体を形成する配位子は特に限定されないが、2−フェニルピリジン誘導体、7,8−ベンゾキノリン誘導体、2−(2−チエニル)ピリジン誘導体、2−(1−ナフチル)ピリジン誘導体又は2−フェニルキノリン誘導体であるのが好ましい。これら誘導体は置換基を有してもよい。また、これらのオルトメタル化錯体形成に必須の配位子以外に他の配位子を有していてもよい。オルトメタル化錯体を形成する中心金属としては、遷移金属であればいずれも使用可能であり、本発明ではロジウム、白金、金、イリジウム、ルテニウム、パラジウム等を好ましく用いることができる。中でもイリジウムが特に好ましい。このようなオルトメタル化錯体を含む有機層は、発光輝度及び発光効率に優れている。オルトメタル化錯体については、特願2000−254171号の段落番号0152〜0180にもその具体例が記載されている。
【0070】
本発明で用いるオルトメタル化錯体は、Inorg. Chem., 30, 1685, 1991、Inorg. Chem., 27, 3464, 1988、Inorg. Chem., 33, 545, 1994、Inorg. Chim. Acta, 181, 245, 1991、J. Organomet. Chem., 335, 293, 1987、J. Am. Chem. Soc., 107, 1431, 1985 等に記載の公知の手法で合成することができる。
【0071】
発光層中の燐光発光性化合物の含有量は特に制限されないが、例えば0.1〜70質量%であり、1〜20質量%であるのが好ましい。燐光発光性化合物の含有量が0.1質量%未満であるか、又は70質量%を超えると、その効果が十分に発揮されない場合がある。
【0072】
本発明において、発光層は必要に応じてホスト化合物、正孔輸送材料、電子輸送材料、電気的に不活性なポリマーバインダー等を含有してもよい。
ホスト化合物、正孔輸送材料、電子輸送材料、電気的に不活性なポリマーバインダーについては特開2002−246172号公報の段落番号〔0044〕〜〔0048〕の記載を適用することができる。
【0073】
発光層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nmを超えると駆動電圧が上昇する場合があり、10nm未満であると発光素子が短絡する場合がある。
【0074】
(E)電子輸送層
本発明の発光素子は、必要に応じて上述した電子輸送材料からなる電子輸送層を有してよい。電子輸送層は上述のポリマーバインダーを含有してもよい。電子輸送層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nmを越えると駆動電圧が上昇する場合があり、10nm未満であると発光素子が短絡する場合がある。
【0075】
(F)正孔輸送層
本発明の発光素子は、必要に応じて上述した正孔輸送材料からなる正孔輸送層を有してよい。正孔輸送層は上述のポリマーバインダーを含有してもよい。正孔輸送層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nmを越えると駆動電圧が上昇する場合があり、10nm未満であると発光素子が短絡する場合がある。
【0076】
(G)その他
本発明の発光素子は、特開平7−85974号、同7−192866号、同8−22891号、同10−275682号、同10−106746号等に記載の保護層を有していてもよい。保護層は発光素子の最上面に形成する。ここで最上面とは、基材、透明電極、有機層及び背面電極をこの順に積層する場合には背面電極の外側表面を指し、基材、背面電極、有機層及び透明電極をこの順に積層する場合には透明電極の外側表面を指す。保護層の形状、大きさ、厚み等は特に限定されない。保護層をなす材料は、水分や酸素等の発光素子を劣化させ得るものが素子内に侵入又は透過するのを抑制する機能を有しているものであれば特に限定されず、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、二酸化ゲルマニウム等が使用できる。
【0077】
保護層の形成方法は特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子センエピタキシ法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等が適用できる。
【0078】
また、発光素子には水分や酸素の侵入を防止するための封止層を設けるのが好ましい。封止層を形成する材料としては、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとの共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリユリア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン又はジクロロジフルオロエチレンと他のコモノマーとの共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質、金属(In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Tl、Ni等)、金属酸化物(MgO、SiO、SiO、Al、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe、Y、TiO等)、金属フッ化物(MgF、LiF、AlF、CaF等)、液状フッ素化炭素(パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等)、該液状フッ素化炭素に水分や酸素の吸着剤を分散させたもの等が使用可能である。
【0079】
<用途>
本発明の無機材料は、電極として用いたときに、高い効率と素子寿命を与えることができるため、デバイスとして好適に利用することができる。特に、本発明の無機材料は、有機電界発光素子として用いたときに、高い効率と素子寿命を与えることができるため、フルカラーディスプレイ、バックライト、照明光源等の面光源、プリンター等の光源アレイ等に好適に用いられる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の主旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0081】
〔合成例1〕
(化合物2−8の合成)
下記スキームにしたがって、化合物2−8を合成した。
【0082】
【化9】

【0083】
〔合成例2〕
(化合物2−13の合成)
下記スキームにしたがって、化合物2−13を合成した。
【0084】
【化10】

【0085】
〔合成例3〕
(化合物1−7の合成)
化合物1−7はDE1493944号公報記載の方法に準じて合成した。
【0086】
〔実施例1〕
(無機材料の修飾)
下表1に示した本発明の化合物50mgのトルエン溶液50mlを、透明電極としてインジウムスズオキサイド(ITO)の薄膜が形成されたガラス基板(10cm×10cm)(IGC社製、なお使用前にUVオゾン処理を施した)上にスピンコートにてwet膜厚1μmとなるように塗布した。基板を100℃で1時間加熱した後に、酢酸1%のイソプロパノール90wt%水溶液に10分間浸漬させ、その後、イソプロパノールおよびアセトンにて洗浄したのち、乾燥した。
(性能評価)
得られた無機材料基板の親疎水性は接触角測定にて評価した。仕事関数は大気中光電子分光装置(理研製AC−2/AC−3)にて評価した。評価結果を以下に記す。
【0087】
【表1】

【0088】
H−1 Advenced Functional Materials、第18巻、第3964ページ、2008年記載の化合物:
【0089】
【化11】

【0090】
H−2 特開平5−62523号記載の化合物:
【0091】
【化12】

【0092】
H−3 Advenced Functional Materials、第18巻、第3964ページ、2008年記載の化合物:
【0093】
【化13】

【0094】
評価の結果、本発明の化合物で修飾された無機材料基板は、65°から114°までの接触角を示し、仕事関数が5.0〜5.5eVの範囲であることがわかった。60°から120°までの接触角であれば、有機デバイスで一般的に用いられる有機半導体化合物と同じ親疎水性の範囲であり、デバイスとした場合の密着性向上、素子耐久性の向上に寄与できる。仕事関数が5.2〜5.5の範囲であることは、電極から有機半導体化合物への電荷注入を効率的に行うことに寄与できる。
【0095】
〔実施例2〕
(有機EL素子の作製)
上記で作製した本発明の化合物で修飾された基板に真空蒸着法にて以下の層を蒸着した。本発明の実施例における蒸着速度は特に断りのない場合は0.2nm/秒である。蒸着速度は水晶振動子を用いて測定した。本発明の実施例における膜厚も水晶振動子を用いて測定したものである。
−正孔輸送層−
正孔注入層の上に、α−NPDを蒸着した。膜厚は20nmであった。
−発光層−
発光材料としてIr(ppy)を用いて、ホスト材料としてCBPを用いて、発光材料:ホスト材料=32:68質量比で厚み30nmに共蒸着した。
−電子輸送層−
発光層の上にBAlqを膜厚39nmに蒸着した。
−陰極−
この上にパタ−ニングしたマスク(発光領域が2mm×2mmとなるマスク)を設置し、フッ化リチウムを0.5nm蒸着し、更に金属アルミニウムを100nm蒸着し、陰極とした。
作製した積層体を、アルゴンガスで置換したグロ−ブボックス内に入れ、ステンレス製の封止缶および紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて封止した。
【0096】
(性能評価)
(1)発光効率
発光素子の外部量子効率は、発光輝度、発光スペクトル、電流密度を測定し、その結果と比視感度曲線から算出した。外部量子効率(%)は、「(発光したフォトン数/素子に入力した電子数)×100」で計算を行った。
(2)駆動電圧
照度300cd/mにおける駆動電圧(V)を測定した。
(3)駆動耐久性
初期輝度300cd/mの条件で連続駆動試験をおこない、輝度が半減した時間を駆動耐久性(h)として求めた。
(評価結果)
得られた結果を表2に示した。
【0097】
【表2】

【0098】
評価の結果、本発明の化合物で修飾された無機材料基板を用いた有機EL素子は、高い外部量子収率、低い駆動電圧、高い駆動耐久性を有することがわかった。
〔実施例3〕
(塗布型有機EL素子の作製)
上記で作製した本発明の化合物で修飾された基板に、発光層としてポリカルバゾール、CBP、Ir(ppy)を32:63:5の質量比の組成物のジクロロエタン溶液を乾燥膜厚50nmとなるようにスピンコート塗布した。そのうえに、真空蒸着法にて以下の層を蒸着した。
−電子輸送層−
発光層の上にBAlqを膜厚39nmに蒸着した。
−陰極−
この上にパタ−ニングしたマスク(発光領域が2mm×2mmとなるマスク)を設置し、フッ化リチウムを0.5nm蒸着し、更に金属アルミニウムを100nm蒸着し、陰極とした。
作製した積層体を、アルゴンガスで置換したグロ−ブボックス内に入れ、ステンレス製の封止缶および紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて封止した。
【0099】
(性能評価)
上記実施例2における性能評価と同様にして評価した。得られた結果を表3に示した。
【0100】
【表3】

【0101】
評価の結果、本発明の化合物で修飾された無機材料基板を用いた有機EL素子は、高い外部量子収率、低い駆動電圧、高い駆動耐久性を有することが判った。
【0102】
実施例に用いた化合物の構造を下記に示す。
【0103】
【化14】

【符号の説明】
【0104】
1・・・基材
2・・・透明電極
3・・・有機層
4・・・背面電極
5・・・透明電極リード
6・・・背面電極リード
7・・・発光積層体
8・・・封止剤(接着剤)
9・・・封止部材
10・・・空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるホスフェート化合物で修飾されたことを特徴とする無機材料。
T−OPO(OH)・・・・・・(1)
〔式中、Tはフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基、アリール基を含む基、又はヘテロアリール基を含む基を表す。〕
【請求項2】
前記一般式(1)中、Tがフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基を表すことを特徴とする請求項1に記載の無機材料。
【請求項3】
前記フッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を含む基が、下記式(A)で表される基であることを特徴とする請求項2に記載の無機材料。
−L−L−R (A)
(式(A)中、Lは単結合又はアルキレンを表す。Lは単結合、−O−、−(C=O)NH−、−N(R10)SO−、−(C=O)O−、のいずれかを表す。Rはフッ素原子を含む炭素数5個以上の長鎖アルキル基を表す。R10はアルキル基を表す。)
【請求項4】
前記一般式(1)中、Tがアリール基を含む基であることを特徴とする請求項1に記載の無機材料。
【請求項5】
前記アリール基がフェニル基を含む基であるであることを特徴とする請求項4に記載の無機材料。
【請求項6】
前記一般式(1)中、Tが電荷輸送部位を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の無機材料。
【請求項7】
前記無機材料が、金属酸化物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無機材料。
【請求項8】
前記無機材料が、電極であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の無機材料。
【請求項9】
前記無機材料が、透明電極であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の無機材料。
【請求項10】
前記無機材料が、インジウムスズオキサイド(ITO)であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の無機材料。
【請求項11】
前記請求項1〜10のいずれかに記載の無機材料を用いたことを特徴とするデバイス。
【請求項12】
前記請求項1〜10のいずれかに記載の無機材料を用いたことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項13】
前記請求項1〜10に記載の無機材料がインジウムスズオキサイド(ITO)であることを特徴とする請求項12に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
前記請求項1〜10に記載の無機材料が陽極であることを特徴とする請求項12又は13に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
前記請求項1〜10に記載の無機材料を用いた有機電界発光素子において、該有機電界発光素子が少なくとも1つ以上の塗布プロセスにより作製されていることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−222198(P2010−222198A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72926(P2009−72926)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】