説明

無機蛍光体

【課題】低抵抗かつ高輝度で発光する無機蛍光体、およびそれを用いた発光素子の提供。
【解決手段】周期律表の第12−16族化合物から選ばれる少なくとも一種、またはそれらの混晶を母体材料とする無機蛍光体であって、結晶構造が母体材料からなるウルツ鉱構造と母体材料からなる岩塩型構造を含み、かつ母体材料中のウルツ鉱構造に対する岩塩型構造の比率が0.1%〜10%であること、を特徴とする、無機蛍光体、それを用いた発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流薄膜型無機EL素子に有用な無機蛍光体(以下、無機蛍光体材料ともいう)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光体とは、外部から光、電気、圧力、熱、電子線等のエネルギーが与えられることによって発光する材料のことであり、中でも無機材料から成る蛍光体は、その発光特性や安定性などからブラウン管、蛍光ランプ、エレクトロルミネッセンス(EL)素子、LED用の色変換材料、プラズマディスプレイパネルなどに応用されている。中でも、無機蛍光体を用いたEL素子は、薄型で耐久性の高い面発光デバイスとして、次世代のディスプレイ用バックライトや照明装置などへの応用が期待され、盛んに研究されている。
【0003】
無機蛍光体を用いたEL素子は、駆動方法によって交流駆動型と直流駆動型に大別される。交流駆動型としては、高誘電性バインダーに蛍光体粒子を分散してなる交流分散型EL素子と、誘電体層間に蛍光体薄膜を挟んでなる交流薄膜型EL素子の2種類が知られている。一方、直流駆動型としては、透明電極と金属電極で蛍光体薄膜を挟んで低電圧直流駆動する直流薄膜型EL素子が知られている。
【0004】
交流分散型EL素子は、高誘電性バインダーに無機蛍光体粒子を分散した分散物を、支持体上に塗布して作製できることから、大面積化に有利であるが、発光のために高電圧が必要である、輝度が低い、EL素子としての寿命が短いなどの理由から、応用分野が限られていた。また、交流薄膜型EL素子は長寿命で安定した発光が得られるものの、やはり発光に高電圧が必要であることと輝度が低いこと、また安定して発光する材料系が限られていたため、得られる発光色が限定されるという課題があった。
【0005】
次に直流駆動型無機EL素子を取り上げて説明する。
直流駆動型無機EL素子は、1970〜80年代に研究が盛んになされており、例えば非特許文献1では、GaAs基板上にZnSe:Mnを成膜し、Au電極と挟む構成の素子が報告されている。駆動電圧は約4Vと低電圧で発光が得られている。発光のメカニズムとしては、電圧を印加することで電極からトンネル効果で電子が注入され、発光中心であるMnを励起し、発光するという機構が想定されている。しかしながら、この素子は発光効率が低いこと(〜0.05lm/W)、再現性が低いことから、以後実用化はもとより学術的な研究もなされていない。
【0006】
近年、新たな直流駆動型無機EL素子が報告された(特許文献1)。発光材料としては、CuやClといった従来から知られている発光中心を含有するZnS系であり、これを透明電極であるITO電極と背面電極であるAg電極とで挟みこんだ構成である。発光機構については記載されていないが、想定される機構としては、Cuとともに含有するClとでDAペア対の発光中心を形成し、発光層に注入された電子と正孔が、発光中心において再結合することで発光が得られると考えられる。
【0007】
電子と正孔の再結合により発光する素子としては、有機EL素子やLEDなどがある。有機EL素子と比較すると、直流駆動の薄膜型EL素子はすべて無機材料で構成されているため、耐久性が高く、照明やディスプレイなど様々な分野での活用が可能となる。さらに、LEDはすべて無機材料で構成されているという点で類似しているが、発光面積が極微小で点発光であるため、単位面積あたりの輝度は高いものの、絶対光量(光束)は少なく、用途が限られる。一方、直流駆動の無機ELは面発光であるため、多くの光束を得ることが可能であるという点で有利である。
【0008】
直流駆動で電子と正孔の再結合による高効率な発光を得るためには、発光層において高いキャリア移動度が求められる。一般的に、物質内でのキャリア移動度は物質の抵抗率に反比例することから、キャリア移動度を高めるためには発光層を低抵抗化する必要がある。特許文献2および特許文献3では、ZnSの伝導帯下端に比較的近い位置にドナー準位を形成するドーパントを添加することにより低抵抗化した発光材料が報告されている。
【0009】
【特許文献1】国際公開第07/043676号パンフレット
【特許文献2】特開昭57−11824号公報
【特許文献3】特開2008−7755号公報
【非特許文献1】Journal of Applied Physics,52(9),5797,1981.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の直流駆動型無機EL素子は発光効率が低く、発光波長領域が限られていた。また、特許文献2および特許文献3に記載の蛍光体は、抵抗値は低いものの、十分な発光輝度が得られていないという問題があった。
また、特許文献1〜3のいずれの蛍光体も、照明用途などで十分な輝度を有するものではなく、特に青色で高輝度に発光するものはなかった。
【0011】
以上のことから、低電圧の直流駆動が可能な発光素子に適用でき、かつ照明用途などで十分な輝度を有し、特に青色で高輝度に発光する無機蛍光体の開発が望まれていた。
従って、本願発明は、低電圧の直流駆動が可能な発光素子に適用でき、かつ照明用途などで十分な輝度を有し、特に青色で高輝度に発光する無機蛍光体、それを用いる発光素子および薄膜型無機EL素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、鋭意検討の結果、従来から知られているドナー準位を形成させるドーパントを添加せずに、母体材料の結晶構造を制御することによって、低抵抗値を示す新規な蛍光体を見出し、本発明を成すに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下の要件により達成される。
(1)周期律表の第12−16族化合物から選ばれる少なくとも一種、またはそれらの混晶を母体材料とする無機蛍光体であって、結晶構造が母体材料からなるウルツ鉱構造と母体材料からなる岩塩型構造を含むことを特徴とする、無機蛍光体。
(2)
母体材料中の結晶構造における、ウルツ鉱構造に対する岩塩型構造の比率が0.1%〜10%であることを特徴とする、(1)に記載の無機蛍光体。
(3)周期律表の第12−16族化合物から選ばれる少なくとも一種、またはそれらの混晶の母体材料に対して、周期表表上の第2−16族化合物を添加し、加熱加圧処理を施すことによって得られた事を特徴とする、(1)または(2)に記載の無機蛍光体。
(4)周期律表の第6〜第11族の第二遷移系列に属する元素および第三遷移系列に属する元素のうち、少なくとも一種を含有すること、を特徴とする、(1)に記載の無機蛍光体。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の無機蛍光体を有する発光素子。
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の無機蛍光体を有する直流薄膜型無機EL素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明の無機蛍光体は、抵抗が低くかつ強度の高い青色発光を示すことから、電荷注入により発光させる無機エレクトロルミネッセンス素子用の蛍光体として有用であり、発光輝度に優れ長寿命を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の無機蛍光体は、周期律表の第12−16族化合物から選ばれる少なくとも1種、またはそれらの混晶を母体材料とし、結晶構造が母体材料からなるウルツ鉱構造と母体材料からなる岩塩型構造を含むこと、を特徴とする。
【0016】
なお、本発明の無機蛍光体の母体材料として用いられる、周期表上の第2族元素と第16族元素からなる化合物または第12族元素と第16族元素からなる化合物を、第2−16族化合物または第12−16族化合物と標記・表現する場合があるが、これは本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が通常使用している標記・表現である。
【0017】
該母体材料として用いられる化合物の例としては、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnSSe、CdS、CdSe、CdTe、であり、好ましくは、ZnS、ZnSe、ZnSSeである。
【0018】
本発明の無機蛍光体は、母体材料に対して第二成分として岩塩型構造をとりうる周期律表の第2−16族化合物を少量添加し、高温高圧を印加することで形成することができる。例えば、母体材料にZnSを用いる場合、当業界で広く用いられる焼成法ではウルツ鉱構造または閃亜鉛鉱構造となるが、岩塩型構造をとるMgSを第二成分として添加して高温高圧処理を施すことにより、岩塩型構造が誘発されたZnSを得ることができる。母体材料が周期律表上の第16族元素を含むことから、第二成分として添加する化合物も周期律表上第16族元素を含む化合物を用いることが好ましい。このような化合物としては、MgS、CaS、SrS、BaS、MnS、PbSなどを用いることができ、好ましくはMgS、CaS、SrSである。
【0019】
母体材料中に岩塩型構造成分が発生したことは、X線回折法で確認することができる。例えば、ZnSの岩塩型構造の(200)面に対応するピークは34°付近に出現するが、このピークはZnSのウルツ鉱構造の回折ピークと重なりを持たないため、(200)面に相当するピークの出現を持って岩塩型構造成分が発生したと考えられる。また、母体材料中のウルツ鉱構造成分と岩塩型構造成分の比率は、それぞれのX線回折のピーク強度比によって求めることができる。ピーク強度比の計算においては、それぞれの結晶系で回折強度の高いピークを用いることが望ましく、ウルツ鉱構造においては、(100)面に対応するピークを用い、岩塩型構造においては前記(200)面に対応するピークを用いることができる。
上記ピーク強度比から求めた、母体材料中のウルツ鉱構造に対する岩塩型構造の比率としては、0.1%〜10%が望ましい。0.1%以上とすることで抵抗を下げる効果が得られ、10%以下とすることで結晶系全体の歪みが大きくなることにより欠陥が生じ、逆に抵抗が高くなってしまうことを防ぐことが出来る。
【0020】
第二成分の添加量は、母体材料1モルに対して1×10−6〜1×10−1モルが好ましく、より好ましくは1×10−4〜1×10−2モルである。
高温高圧処理を施すには、例えば熱間等方圧加圧装置(HIP)などを用いることができる。
処理を行う温度範囲としては、700〜2000℃であり、より好ましくは900〜1600℃である。
印加圧力としては、70〜200MPaであり、より好ましくは100〜190MPaである。
【0021】
本発明の無機蛍光体は、更に、周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素を含有していることが好ましい。周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素の例としては、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Pt、Auがあるが、中でもRu、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、Auが好ましいが、さらにはOs、Ir、Pt、Auが好ましい。これらの金属は単独で含有していてもよいし、複数で含有していてもよい。
【0022】
上記の周期律表の第6族〜第11族の第2遷移系列に属する金属元素および第3遷移系列に属する金属元素の母体材料への含有のさせ方、すなわちドープ方法は、いかなる方法にも限定するものではないが、たとえば、母体材料の高温高圧処理時に金属塩の形で混入させても良いし、化合物結晶の形で混入させても良い。これらの金属は母体材料の結晶内に取り込まれた部分以外の結晶表面への析出分や、結晶表面への吸着分は、エッチングや洗浄等で除去することが好ましい。金属塩としては、酸化物、硫化物、硫酸化物、シュウ酸化物、ハロゲン化物、硝酸化物、窒化物等、いかなる化合物でも良いが、中でも酸化物、硫化物、ハロゲン化物が好ましく用いられる。それぞれ単独で用いても良いが、複数種の金属塩を用いても良い。ドープ量としては、母体材料1モルに対して1×10−7〜1×10−1モルが好ましく、さらに好ましくは1×10−5〜1×10−2モルである。
【0023】
上記製法により無機蛍光体を得ることができるが、直流駆動型無機EL素子に用いる場合には、上記製法により得られた蛍光体を成型し、電子ビーム蒸着等の物理蒸着によってEL素子を得ることができる。
【0024】
次に、本発明の発光素子について詳しく説明する。
【0025】
無機蛍光体を用いた発光素子、すなわち無機EL素子には、直流駆動で発光するものと交流駆動で発光するものがある。直流駆動で発光する無機EL素子は、電極上に電子ビーム蒸着などで蛍光体発光層を形成し、さらにその上に電極層を形成させた構造のものが知られている。電極の一方はITOなどの透明電極であり、他方はAlなどの金属電極である。素子を形成する順序としては、透明電極上に蛍光体薄膜を形成し、金属電極層を形成させてもよく、金属電極上に蛍光体薄膜を形成した後に、透明電極層を形成してもよい。このような構造の無機EL素子は、薄膜型無機EL素子と呼ばれる。また、交流駆動で発光する無機EL素子は、無機蛍光体粒子を高誘電率のバインダー中に分散させ、透明電極と金属からなる背面電極とでサンドイッチした構造のものが知られている。このような構造の無機EL素子は、分散型EL素子と呼ばれる。一般に交流駆動の無機EL素子は電圧50〜300V、周波数50〜5000Hzで駆動するが、直流駆動の無機EL素子は0.1〜20Vと低電圧で駆動できることが特徴として挙げられる。本発明の無機蛍光体は、直流駆動型無機EL素子に有用である。
【0026】
薄膜型の直流駆動型無機EL素子は、少なくとも透明電極(透明導電膜とも称する)と蛍光体層(発光層とも称する)と背面電極とから構成される。発光層の厚みは、厚くなりすぎると発光に必要な電界強度を得るために両電極間の電圧が上昇するので、低電圧駆動を実現するためには50μm以下が好ましく、さらに好ましくは30μm以下である。また厚みが薄くなりすぎると、蛍光体層の両面にある電極が短絡しやすくなるため、短絡を避けるために厚みは50nm以上が好ましく、さらに好ましくは100nm以上である。
【0027】
蛍光体層の成膜方法としては、物理的蒸着法である抵抗加熱蒸着法や電子ビーム蒸着、スパッタリングやイオンプレーティング、CVD(Chemical Vapor Deposition)など無機材料を一般的に成膜する方法が用いられる。本発明に用いられる蛍光体は高温でも安定で高融点であることから、高融点材料を蒸着するのに適した電子ビーム蒸着法や、蒸着源をターゲット化できる場合はスパッタリング法が好適に用いられる。さらに電子ビーム蒸着の場合、蛍光体中に含有する金属の蒸気圧が、母体材料の蒸気圧と大幅に異なる場合には、それぞれ単独の蒸着源として複数の蒸着源を利用した蒸着方法も有用である。また結晶性を高めるという意味で、基板との格子マッチングを考慮したMBE(Molecular Beam Epitaxiy)法も好適である。
【0028】
本発明に好ましく用いられる透明導電膜の表面抵抗率は、10Ω/□以下であることが好ましく、0.01Ω/□〜10Ω/□が更に好ましい。特に0.01Ω/□〜1Ω/□が好ましい。透明導電膜の表面抵抗率は、JIS K6911に記載の方法に準じて測定することができる。また、透明導電膜は、ガラス又はプラスチック基板上に形成されており、かつ酸化錫を含有していることが好ましい。
【0029】
透明導電膜を形成させる基板としては、ガラス基板としては無アルカリガラス、ソーダライムガラスなど、一般的なガラスが用いられる。この場合、耐熱性が高く平坦性の高いガラスを用いることが好ましい。また、プラスチック基板としてはポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロースベース等の透明フィルムが好適に用いられる。これらの基板表面上に、インジウム・錫酸化物(ITO)や錫酸化物、酸化亜鉛等の透明導電性物質を蒸着、塗布、印刷等の方法で付着、成膜することができる。この場合、耐久性を上げる目的で透明導電膜表面を酸化錫主体の層とすることが好ましい。
【0030】
透明導電膜を構成する透明導電性物質の好ましい付着量は、透明導電膜に対して、100質量%〜1質量%、より好ましくは、70質量%〜5質量%、さらに好ましくは、40質量%〜10質量%である。
透明導電膜の調製法はスパッター、真空蒸着等の気相法であっても良い。ペースト状のITOや酸化錫を塗布やスクリーン印刷で作成したり、膜全体を加熱したりレーザーにて加熱して成膜しても良い。
本発明のEL素子において、透明導電膜には一般的に用いられる任意の透明電極材料が用いられる。例えば錫ドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、亜鉛ドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化錫、酸化亜鉛などの酸化物、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造、ポリアニリン、ポリピロールなどの共役系高分子などが挙げられる。
【0031】
更に素子を低抵抗化するには、例えば櫛型あるいはグリッド型等の網目状ないしストライプ状金属細線を配置して通電性を改善することが好ましい。金属や合金の細線としては、銅や銀、アルミニウム、ニッケル等が好ましく用いられる。この金属細線の太さは、任意であるが、0.5μm程度から20μmの間が好ましい。金属細線は、50μm〜400μmの間隔のピッチで配置されていることが好ましく、特に100μm〜300μmピッチが好ましい。金属細線を配置することで、光の透過率が減少するが、この減少は出来るだけ小さいことが重要で、80%以上100未満の透過率を確保することが好ましい。
【0032】
金属細線は、メッシュを透明導電性フィルムに張り合わせてもよいし、予めマスク蒸着ないしエッチングによりフィルム上に形成した金属細線上に金属酸化物等を塗布、蒸着しても良い。また、予め形成した金属酸化物薄膜上に上記の金属細線を形成してもよい。
【0033】
これとは、異なる方法となるが、金属細線の代わりに、100nm以下の平均厚みを有する金属薄膜を金属酸化物と積層して本発明に適した透明導電膜とすることができる。金属薄膜に用いられる金属としては、AuやIn、Sn、Cu、Niなど耐腐食性が高く、展延性等に優れたものが好ましいが、特にこの限りではない。
【0034】
これらの複層膜は、高い光透過率を実現することが好ましく、具体的には70%以上の光透過率を有することが好ましく、80%以上の光透過率を有することが特に好ましい。光透過率を規定する波長は、550nmである。光の透過率に関しては、干渉フィルターを用いて550nmの単色光を取り出し、一般に用いられる白色光源を用いた積分型光量測定やスペクトル測定装置を用いて測定することが出来る。
【0035】
(背面電極)
光を取り出さない側の背面電極は、導電性の有る任意の材料が使用出来る。金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどの中から、作製する素子の形態、作製工程の温度等により適時選択されるが、その中でも熱伝導率が高いことが重要で、2.0W/cm・deg以上であることが好ましい。
また、EL素子の周辺部に高い放熱性と通電性を確保するために、金属シートや金属メッシュを用いることも好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
〔実施例1〕
ZnS 100gに対して、表1に記載した第二成分の化合物およびIrClをIr元素量としてZnに対して下記表1に示す量になるように秤量する。秤量したZnSと、第二成分の化合物およびIrClとを乳鉢に入れ20分以上混合した後、金型を使用して直径20mm、高さ10mmのペレット状に成型した。このペレットを圧力印加容器内に入れ、アルゴンなどの不活性ガスで下記印加圧力で加圧しながら下記処理温度で加熱処理を施し、蛍光体材料を得た。
得られた蛍光体材料の一部を削り取り、X線回折による結晶構造評価を行い、母体材料中のウルツ鉱構造の(100)に相当するピークと岩塩型構造の(200)面に相当するピークの強度比から、岩塩型構造の存在比率を算出した結果を下記表1にまとめる。また、励起光として波長330nmの光を照射した際の、フォトルミネッセンス発光波長および発光強度を下記表1にまとめる。
得られた蛍光体材料の電気抵抗を測定するために、ペレットをダイヤモンドカッターで4mm×2mm×0.5mm程度の大きさに切り出し、サンドペーパーで表面を研磨し、さらに氷酢酸で表面をエッチングした後に、焼付け銀ペーストを塗り、不活性雰囲気下400℃で加熱した。その後、銀ペースト上に銅線をはんだ付けし、電気抵抗を測定した結果を、下記表1にまとめる。
【0038】
【表1】

【0039】
サンプル1では何も添加していないため、殆ど発光せず、抵抗値も高い。
IrClのみを添加したサンプル2では445nmをピークとする発光が見られるが、抵抗値は高い。サンプル1、2とも、高温高圧処理後の結晶構造はウルツ鉱構造であり岩塩型構造は含まない。
一方、本発明のサンプル3〜9、11〜13、15〜19では発光が見られ、かつ抵抗値の低い蛍光体が得られている。また、これらの結晶構造は、岩塩型構造を含んでいることが分かる。
【0040】
サンプル3〜9では、第二成分として添加するMgSの量を変えているが、サンプル3〜7まではMgSの量が増えるに伴い、抵抗値は下がっている。サンプル8、9では、サンプル7よりも抵抗が高くなっている。これは、岩塩型構造の比率が高くなるにつれて結晶構造全体の歪みが大きくなり、欠陥の発生が増えることで抵抗が上がってしまったと考えられる。
【0041】
サンプル10〜13では、圧力を一定にして処理温度を変えている。加熱していないサンプル10では、処理後の発光は見られず、抵抗値も高い。一方、加熱したサンプル11〜13では、発光を示し、抵抗値も低いが、サンプル7と比較すると発光強度は低く、抵抗値は高い。これについては、処理温度が低い場合は結晶の相変化が不十分であり(表中のZBはZnSの低温相である閃亜鉛構造を示す)、温度が高い場合は母体材料の分解が起こっていることが原因として考えられる。
【0042】
サンプル14〜17では、温度を一定にして印加圧力を変えている。圧力を印加していないサンプル14では、発光は示したものの、抵抗値は高く、結晶構造は母体材料の岩塩型構造を含んでいない。一方、圧力を印加したサンプル15〜17では、抵抗値が低くなっていることが分かる。
【0043】
サンプル18、19では、第二成分として添加する化合物を変えているが、いずれの化合物でもMgSと同様の効果が得られている。
本発明により、フォトルミネッセンスで波長445nmの青色発光を示し、抵抗値の低い新たな蛍光体が得られる。
【0044】
〔実施例2〕
実施例1のサンプル3〜8の無機蛍光体を用いて直流駆動型無機EL素子を作製した。該直流駆動型無機EL素子の構造の概略を図1に示す。
第1電極2として厚さ200nmのITO層が形成されたガラス基板1に対して、ITO層の上に実施例1で得られた本発明の蛍光体(サンプルD〜P)をエレクトロンビーム蒸着法により蒸着成膜することで発光層3を形成した。
具体的には、実施例1で得られた本発明の蛍光体を第1の蒸着源に、セレンを第2蒸着源に配置し、第1の蒸着源からは一定の成膜レートで、第2の蒸着源からは蛍光体に対するセレンの重量比が0.5%以下となる第1段階と、1%程度となる第2段階とで発光層3を積層した。第1段階と第2段階の成膜時間比は1:1とした。形成した発光層3の総厚みは合計で2μmであった。そのときの蒸着チャンバー内の真空度は1×10−6Torr、基板1温度は200℃に設定した。さらに、結晶性を向上させるために、成膜した発光層3に対して同一チャンバー内で600℃、1時間熱処理を施した後、発光層3の上に抵抗加熱蒸着法により第2電極4としてAgを蒸着し、発光素子を得た。
得られた発光素子に、Agを正極、ITOを負極として直流電流を流したところ、発光が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例2の直流駆動型無機EL素子の構造の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ガラス基板
2 第1電極
3 発光層
4 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表の第12−16族化合物から選ばれる少なくとも一種、またはそれらの混晶を母体材料とする無機蛍光体であって、結晶構造が母体材料からなるウルツ鉱構造と母体材料からなる岩塩型構造を含むことを特徴とする、無機蛍光体。
【請求項2】
母体材料中の結晶構造における、ウルツ鉱構造に対する岩塩型構造の比率が0.1%〜10%であることを特徴とする、請求項1に記載の無機蛍光体。
【請求項3】
周期律表の第12−16族化合物から選ばれる少なくとも一種、またはそれらの混晶の母体材料に対して、周期表表上の第2−16族化合物を添加し、加熱加圧処理を施すことによって得られたことを特徴とする、請求項1または2に記載の無機蛍光体。
【請求項4】
周期律表の第6〜第11族の第二遷移系列に属する元素および第三遷移系列に属する元素のうち、少なくとも一種を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の無機蛍光体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の無機蛍光体を有する発光素子。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の無機蛍光体を有する薄膜型EL素子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−31154(P2010−31154A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195355(P2008−195355)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】