説明

無段変速伝動機構

【課題】プーリ中心ボス部の歯が係合するようチェーンリンク板の内周縁に設けた歯溝間の尖り部が騒音防止用のチェーンガイドと接触して耐久性が悪化するのを防止する。
【解決手段】チェーンリンク1は固定シーブ3および可動シーブ4間で動力伝達を行い、可動シーブ4が固定シーブ3から離れた図示の変速比選択状態で、チェーンリンク1の幅方向に整列したリンク板11の内周縁における溝11bがプーリ中心ボス部6の歯7(歯先7b)と係合し、伝動効率を高める。リンク板11の溝11b間における尖り部11cがチェーンガイド(図示せず)と接して耐久性が悪化するのを防止するため、リンク板11のチェーンリンク幅方向両側に別のリンク板12を設け、このリンク板12は内周縁12cに、溝11bのような溝を設けないものとし、内周縁12cが全長に亘ってチェーンガイドと接するようになす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のリンク板を順次、リンクピンで数珠繋ぎに連結して成る無終端チェーンリンクと、この無終端チェーンリンクを無段変速可能に巻き掛けしたプーリとから成る無段変速伝動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の無段変速伝動機構としてはVベルト式無段変速機が良く知られており、無終端チェーンリンクをプーリのV溝に掛け渡して動力伝達可能となす一方、
この動力伝達中にプーリV溝の溝幅を変更することでプーリに対する無終端チェーンリンクの巻き掛け径を連続的に変化させることにより、無段変速が可能となるよう構成する。
【0003】
他方、無段変速伝動機構のスリップを抑制して伝動効率を高める技術として従来、例えば特許文献1に記載のごとく、プーリV溝の底面を画成するプーリの中心ボス部外周面に係合歯を設け、
無終端チェーンリンクを成すリンク板の内周に形成した歯溝がプーリ中心ボス部外周面の係合歯と噛み合う伝動比である間、プーリおよび無終端チェーンリンク間のスリップを防止して無段変速伝動機構の伝動効率を高める技術が提案されている。
【0004】
一方で特許文献2には、上記した無終端チェーンリンクのような巻き掛け手段を騒音対策用に走行方向へ案内して、巻き掛け手段の走行振動を抑制するためのガイド装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−014269号公報
【特許文献2】特表2009−519410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のような無段変速伝動機構に、特許文献2に記載のガイド装置を用いて騒音対策をなす場合、
プーリ中心ボス部外周面に設けた係合歯と噛み合う無終端チェーンリンクのリンク板内周縁における歯溝は、ガイド装置の無終端チェーンリンク内周案内面と接触せず、これら歯溝間におけるリンク板内周縁の尖り部のみが、上記ガイド装置の無終端チェーンリンク内周案内面に接触することとなる。
【0007】
このため、リンク板内周縁が全長に亘ってガイド装置の無終端チェーンリンク内周案内面に接触するものでなく、リンク板内周縁の全長の一部のみがガイド装置(無終端チェーンリンク内周案内面)に接触し、これを早期に摩耗させて耐久性の低下させるという問題を生ずる。
【0008】
この問題は、複数のリンク板と係合歯との噛み合いが同時非噛み合い状態になるのを回避すべく、リンク板の内周縁に設ける歯溝の数を多くする場合、これら歯溝間におけるリンク板内周縁の尖り部が更に先鋭になるため、益々顕著になる。
【0009】
本発明は、上記の係合歯が存在しない領域に、上記の歯溝が存在しない溝無しリンク板を追加し、この溝無しリンク板を内周縁の全長に亘ってガイド装置の無終端チェーンリンク内周案内面に接触させることにより、上記したガイド装置(無終端チェーンリンク内周案内面)の早期摩耗や、耐久性の問題を回避し得るようにした無段変速伝動機構を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明による無段変速伝動機構は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の要旨構成の基礎前提となる無段変速伝動機構を説明するに、これは、
多数のリンク板を順次、リンクピンで数珠繋ぎに連結して成る無終端チェーンリンクと、この無終端チェーンリンクを無段変速可能に巻き掛けしたプーリとから成るものである。
また基礎前提となる無段変速伝動機構は、当該プーリの中心ボス部外周に設けた係合歯と、上記リンク板の内周縁に設けた係合歯噛合溝との噛み合いにより、該噛み合いが可能な伝動比でのスリップ防止が可能であり、更に、
上記無終端チェーンリンクの少なくとも内周面を、無終端チェーンリンクの走行経路方向にガイドするチェーンガイドを設けたものである。
【0011】
本発明は、かかる無段変速伝動機構の無終端チェーンリンクを成す、当該チェーンリンクの幅方向に整列したリンク板として、上記係合歯噛合溝が設けられている溝付きリンク板の他に、上記係合歯噛合溝が設けられていない溝無しリンク板を、溝付きリンク板よりもチェーンリンク幅方向外側にあって上記係合歯が存在しない領域に設けた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明の無段変速伝動機構にあっては、溝付きリンク板よりもチェーンリンク幅方向外側にあって係合歯の存在しない領域に設けた溝無しリンク板が、溝無し故に、内周縁の全長に亘ってチェーンガイドに接触することとなり、当該チェーンガイドの早期摩耗に関する問題や、耐久性に関する問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例になる無段変速伝動機構を最ハイ変速比選択状態で示す、セカンダリプーリ側における巻き掛け伝動部の要部縦断側面図である。
【図2】図1に示した無段変速伝動機構のセカンダリプーリ側における巻き掛け伝動部のスリップ防止機構を示す詳細説明図である。
【図3】図1,2に示した無段変速伝動機構に用いるバネ手段の斜視図である。
【図4】図1,2に示した無段変速伝動機構の無終端チェーンリンクを構成する溝付きリンク板の各種諸元の説明図である。
【図5】図1,2に示した無段変速伝動機構のセカンダリプーリ側における巻き掛け伝動部のスリップ防止機構に関わる各種諸元の説明図である。
【図6】図1,2に示した無段変速伝動機構の無終端チェーンリンクを構成するリンク板の説明図で、 (a)は、溝付きリンク板の説明図、 (b)は、溝無しリンク板の説明図である。
【図7】図1,2に示した無段変速伝動機構の無終端チェーンリンクを騒音対策用に走行方向に案内するためのチェーンガイドを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例の構成>
図1〜7は、本発明の一実施例になる無段変速伝動機構を示し、この無段変速伝動機構は図1,2における無終端チェーンリンク1を、これら図における従動側のセカンダリプーリ2と、図示せざる同様な駆動側のプライマリプーリとの間に掛け渡して構成したものである。
【0015】
これらプライマリプーリ(図示せず)およびセカンダリプーリ2はそれぞれ同様なもので、セカンダリプーリ2につき図1を参照しつつ説明すると、プーリ回転軸線方向に正対する対向シーブ3,4を具え、これら対向シーブ3,4間にプーリV溝を画成したV溝プーリとする。
【0016】
無終端チェーンリンク1は図1,2に示す通り、多数のリンク板11,12を順次、その両端におけるリンクピン挿通孔11a,12a内のリンクピン13で数珠繋ぎに連結して連続円環状に構成すると共に、リンク板11,12を図1のごとく、リンクピン13に植設したリテーナピン14でリンクピン13に対して抜け止めする。
そして各リンクピン13の両端面13a,13bは、プーリV溝側壁を提供する対向シーブ3,4の内側面と面接触するよう傾斜させる。
【0017】
かくて無終端チェーンリンク1は、プーリ巻き付き領域においてリンクピン13を、プライマリプーリ(図示せず)の対向シーブ間およびセカンダリプーリ2の対向シーブ3,4間に挟圧され、これらプライマリプーリ(図示せず)およびセカンダリプーリ2間で動力伝達を行うことができる。
【0018】
プライマリプーリ(図示せず)およびセカンダリプーリ2を成す軸線方向対向シーブ3,4のうち、一方のシーブ3は、プーリ軸5に固着した固定シーブとし、他方のシーブ4は、プーリ軸5にボールスプライン(図示せず)を介して軸線方向スライド可能に回転係合させた可動シーブとする。
【0019】
プライマリプーリ(図示せず)およびセカンダリプーリ2は、固定シーブ3および可動シーブ4が軸線方向反対側に位置するよう配置する。
そして、プライマリプーリ(図示せず)の可動シーブを固定シーブに対し接近させてプーリV溝幅を狭くすると同時に、セカンダリプーリ2の可動シーブ4を図1のごとく固定シーブ3から遠ざけてプーリV溝幅を広くするにつれ、
無終端チェーンリンク1は、プライマリプーリ(図示せず)に対する巻き掛け径を増大されると共に、セカンダリプーリ2に対する巻き掛け径を図1,2のごとく小さくされ、無段変速伝動機構は図1,2に示す最ハイ変速比選択状態に向け無段変速下にアップシフト可能である。
【0020】
逆に、プライマリプーリ(図示せず)の可動シーブを固定シーブから遠ざけてプーリV溝幅を広くすると同時に、セカンダリプーリ2の可動シーブ4を図1の左方へ変位させることにより固定シーブ3に対し接近させてプーリV溝幅を狭くするにつれ、
無終端チェーンリンク1は、プライマリプーリ(図示せず)に対する巻き掛け径を小さくされると共に、セカンダリプーリ2に対する巻き掛け径を大きくされ、無段変速伝動機構は最ロー変速比選択状態に向け無段変速下にダウンシフト可能である。
【0021】
上記した図1,2の最ハイ変速比選択状態でセカンダリプーリ2に対する無終端チェーンリンク1のスリップを防止して無段変速伝動機構の伝動効率を向上させるため、以下のごときスリップ防止機構を設ける。
つまり図1,2に示すごとく、可動プーリ4がスライド可能に嵌合する、セカンダリプーリ2の中心ボス部6に複数個の可動歯(係合歯)7を、図2のごとく円周方向等間隔に配して設ける。
【0022】
セカンダリプーリ2のプーリ中心ボス部6は、図1に明示するごとくプーリ軸5の外周面により提供する。
可動歯7はそれぞれ、その基部7aが、図1に示した最ハイ変速比選択状態のシーブ3,4間を橋絡するようプーリ軸線方向へ延在させ、この基部7aを、プーリ中心ボス部6の外周面に設けた可動歯ガイド溝8内に径方向進退可能に嵌合させる。
このとき可動歯7は図1,2に示すごとく、径方向外側に張り出した歯先7bをプーリ中心ボス部6の外周面から突出させる。
【0023】
上記の可動歯7は、図3に示すようなバネ手段9により、図1,2に示すごとく径方向外方へ附勢し、径方向外方への進出限界位置(径方向限界位置)を規定するに当たっては、
可動歯基部7aの両端7c,7dをプーリ中心ボス部6の外周面よりも径方向内方に位置させ、これら可動歯基部7aの両端7c,7dがシーブ3,4の内周部に対し径方向外方へ衝接することにより、可動歯7の径方向限界位置を規定する。
可動歯7は、かかる径方向限界位置において、歯先7bがプーリ中心ボス部6の外周面から径方向外方へ突出するような径方向レベルとする。
【0024】
図3に全体を示すバネ手段9は図1に示すごとく3個一組とし、これらバネ手段9を可動歯7の長手方向、つまりプーリ中心ボス部6の軸線方向へ分散配置する。
この分散配置に当たり、好ましくはバネ手段9をできるだけ可動歯7の長手方向等分配置となるよう分散させるのが良い。
【0025】
各バネ手段9は全て、図3に示すごとき同様なものとし、線状体のU字状エレメント9aと、同じく線状体の連結エレメント9bとを交互に同一円周上に配置して一体ユニットとなす。
U字状エレメント9aは、プーリ中心ボス部6の外周条溝6aと各可動歯基部7aとの間において、該プーリ中心ボス部6の母線方向へ延在するよう介在させる。
従ってU字状エレメント9aは可動歯7と同数だけ存在し、これらU字状エレメント9aを可動歯7に着座させ、連結エレメント9bをプーリ中心ボス部6の外周条溝6aに着座させる。
かくてバネ手段9は、線状エレメント9a,9bの交互組み合わせに成る捩りバネ型式のものとなり、連結エレメント9bの捩りバネ作用によりU字状エレメント9aを介して各可動歯7を径方向外方へ附勢することができる。
【0026】
可動歯7の径方向限界位置(径方向外方への進出限界位置)を規定するため、可動歯基部7aの両端7c,7dをシーブ3,4の内周部に対し径方向外方へ衝接させる衝接構造を以下に説明する。
シーブ3は、固定シーブであっても、図1に示すごとくプーリ軸5と別体に構成し、無終端チェーンリンク1に近い該固定シーブ3の内周隅角に図1のごとく環状切り欠き3aを形成して、可動歯基部7aの端部7cが径方向外方へ衝接するための内周面3bを設定し、かように環状切り欠き3aを形成したシーブ3を図1に示すごとくプーリ軸5に固着して固定シーブとなす。
【0027】
一方で、可動シーブ4に近い側における可動歯基部7aの端部7dは、図1に示すごとくプーリ中心ボス部6の外周に嵌合する可動シーブ4の内周面4aに対し径方向外方へ衝接させる。
なお、可動歯基部7aの両端7c,7dを上記のごとくシーブ3,4の内周面3b,4aに対し径方向外方へ衝接させて規定した可動歯7の径方向限界位置で、可動歯7の歯先7bは図1,2に示すごとくプーリ中心ボス部6の外周面から径方向外方へ突出する。
【0028】
無終端チェーンリンク1を構成するリンク板11,12のうち、図1のごとく可動歯7の歯先7bと重なるよう無終端チェーンリンク1の幅方向中程位置にあるリンク板11の内側縁に、セカンダリプーリ2に対する巻き掛け領域で可動歯7の歯先7bが図1,2のごとく噛み合うための可動歯噛合溝(係合歯噛合溝)11bを設け、
図1,2の最ハイ変速比選択状態で、可動歯7(歯先7b)と可動歯噛合溝11bとの噛み合いにより、セカンダリプーリ2に対する無終端チェーンリンク1のスリップを防止し、無段変速伝動機構の伝動効率を向上させるようにする。
【0029】
しかして可動歯7(歯先7b)は、可動歯噛合溝11bと整列せずこれとの噛み合いが不能である場合、無終端チェーンリンク1(リンク板11)の内周縁によりバネ手段9のバネ力に抗しプーリ中心ボス部6の可動歯ガイド溝8内で、図1の位置よりも更に径方向内方へと押し込まれ得て、無終端チェーンリンク1が可動歯7(歯先7b)との干渉により損傷されるのを防止することができる。
【0030】
ところで上記のような無段変速伝動機構において、全ての可動歯7(歯先7b)が何れのリンク板11(可動歯噛合溝11b)とも噛み合っていない同時非噛み合い状態となる位相が存在すると、この同時非噛み合い状態位相、および、いずれかの可動歯7(歯先7b)が対応するリンク板11(可動歯噛合溝11b)と噛み合っている同時噛み合い状態位相の存在により、無終端チェーンリンク1とセカンダリプーリ2との間におけるスリップが一定でないことになり、安定したスリップ防止を期待できない。
【0031】
この問題解決のため本実施例においては、セカンダリプーリ中心ボス部6と無終端チェーンリンク1との間におけるスリップ防止機構を以下のごときものとする。
つまり、セカンダリプーリ中心ボス部6の外周に径方向進退可能に設ける可動歯7を、図2に示すように例えば18個一組として円周方向等間隔に配置する。
そして、これら18個一組の可動歯7が噛み合うよう、無終端チェーンリンク1の幅方向中程に位置するリンク板11の内側縁に設ける可動歯噛合溝11bの数および配置を以下のごとくに決定する。
【0032】
つまり、図2に示すごとく可動歯7と噛み合った状態で溝付きリンク板11の両端におけるリンクピン挿通孔11aの中心Opと、セカンダリプーリ回転中心Osとをそれぞれ結んだ半径線A1,A2(図4参照)間の角度であるリンクピッチ角θpsから、図5に示すごとく可動歯7(歯先7b)と可動歯噛合溝11bとの噛み合い接触範囲をセカンダリプーリ回転中心Os周りの角度として定義した遅れ位相角Δθsubを差し引いて得られる角度範囲θps−Δθsub(図4参照)内に、可動歯噛合溝11bを図4および図6(a)に示すように配置して設ける。
【0033】
そして、かかる角度範囲θps−Δθsub内に設ける可動歯噛合溝11bの数Zsubは、以下のように決定する。
つまり、図2に示す無終端チェーンリンク1のプーリ巻き付き範囲(噛み合い始めの第1歯から第7歯までの可動歯7歯分)内で可動歯噛合溝11bと噛み合っている可動歯7(歯先7b)の有効噛み合い歯数Zeが1以上(図2では、第1歯から第3歯までの3個の可動歯7(歯先7b)が可動歯噛合溝11bと噛み合う有効噛み合い歯であり、Ze=3)となるよう、可動歯噛合溝11bの数Zsubを図4および図6(a)に明示するようにZsub=4と決定する。
【0034】
ちなみに、プーリ巻き付き範囲内における第4歯から第7歯までの4個の可動歯7(歯先7b)は、可動歯噛合溝11bと噛み合わないため、バネ手段9のバネ力に抗して無終端チェーンリンク1により後退位置に押し込まれている。
【0035】
なお上記のごとくに定義した図5に示す遅れ位相角Δθsubは、可動歯7(歯先7b)の圧力角をαとし、可動歯7(歯先7b)の歯丈をhとし、可動歯7(歯先7b)の噛み合いピッチ径Rpとしたとき、次式
Δθsub≡{sin-1〔((h×tanα)/2)/Rp〕}×2 ‥‥(1)
で表される。
【0036】
また、上記のごとくリンクピッチ角θpsから遅れ位相角Δθsubを差し引いた角度範囲θps−Δθsub(図4参照)内に、可動歯噛合溝11bを、プーリ巻き付き範囲内における可動歯7の有効噛み合い歯数Zeが1以上となるような数Zsubだけ設けた場合、1溝分の角度であるサブピッチ角θsubは、次式で示すようなものとなる。
θsub=(θps−Δθsub)/Zsub ‥‥(2)
【0037】
本実施例においては更に、無終端チェーンリンク1を、プライマリプーリ(図示せず)およびセカンダリプーリ2間における直線走行部分において、図7に示すようなチェーンガイド21により無終端チェーンリンク1の走行方向に案内し、無終端チェーンリンク1の走行振動を抑制して騒音対策を行う。
【0038】
チェーンガイド21は図7に示すごとく、上記無終端チェーンリンク1の直線走行部分を、その内外周側において走行方向に案内する内周側ガイド部21aおよび外周側ガイド部21bを具え、これら内外周側ガイド部21a,21bをそれぞれの長手方向中程において橋絡部21c,21dにより相互に一体結合させたものとする。
【0039】
かかるチェーンガイド21の実用に当たっては、その内外周側ガイド部21a,21bおよび橋絡部21c,21dにより画成されている四角開口に上記無終端チェーンリンク1の直線走行部分を貫通させる。
そして、内周側ガイド部21aに設けた枢設部21eを、図示せざるピンを介し無段変速伝動機構のハウジング(図示せず)に揺動可能に取り付ける。
【0040】
かくして、無終端チェーンリンク1の直線走行部分が変速中に傾斜角を変化されるとき、チェーンガイド21はこれに追従して揺動しながら、無終端チェーンリンク1の直線走行部分を走行方向に案内し、これにより無終端チェーンリンク1の走行振動を抑制して騒音を防止することができる。
【0041】
ところで、当該騒音対策用のチェーンガイド21を上記した無段変速伝動機構に設けた場合、以下の問題を生ずる。
つまり、プーリ中心ボス部6の外周面に設けた可動歯7と噛み合うよう無終端チェーンリンク1(溝付きリンク板11)の内周縁に形成した可動歯噛合溝11bは、チェーンガイド21の内周側ガイド部21a(無終端チェーンリンク内周案内面21f)と接触せず、これら可動歯噛合溝11b間におけるリンク板11の内周縁尖り部11c(図4参照)のみが、上記チェーンガイド21の内周側ガイド部21a(無終端チェーンリンク内周案内面21f)に接触することとなる。
【0042】
このため溝付きリンク板11は、内周縁が全長に亘ってチェーンガイド21の内周側ガイド部21a(無終端チェーンリンク内周案内面21f)に接触するものでなく、内周縁の全長の一部のみがチェーンガイド21の内周側ガイド部21a(無終端チェーンリンク内周案内面21f)に接触し、これを早期に摩耗させて耐久性を低下させるという問題を生ずる。
【0043】
この問題は、本実施例のごとく全ての可動歯7(歯先7b)が何れのリンク板11(可動歯噛合溝11b)とも噛み合っていない同時非噛み合い状態になる位相の発生を回避すべく、溝付きリンク板11の内周縁に設ける可動歯噛合溝11bの数を多くする場合、これら可動歯噛合溝11b間におけるリンク板11の内周縁尖り部11c(図4参照)が先鋭になるため、益々顕著になる。
【0044】
本実施例においてはこの問題を解決するため、無終端チェーンリンク1の幅方向に整列するリンク板として、前記のような可動歯7の噛合する溝11bが設けられている溝付きリンク板11の他に、別のリンク板12を図1のごとく、溝付きリンク板11のチェーンリンク幅方向両側にあって可動歯7が存在しない領域に、少なくとも1個(図示例では2個)ずつ配して設ける。
【0045】
そして、かかる別のリンク板12は図6(b)に示すように、溝付きリンク板11におけるような可動歯噛合溝11bを設けない溝無しリンク板とし、この溝無しリンク板12の内周縁11dを、図6(a),(b)の比較から明らかなごとく、溝付きリンク板11における可動歯噛合溝11bの配列円弧と同じ曲率半径Rで湾曲させる。
また、同じく図6(a),(b)の比較から明らかなように、溝無しリンク板12の内周縁12cから、リンクピン挿通孔12aの中心Opに至る高さh2を、溝付きリンク板11の内周縁尖り部11cから、リンクピン挿通孔11aの中心Opに至る高さh1よりも高くする。
【0046】
<実施例の作用>
上記した無段変速伝動機構はその伝動中、セカンダリプーリ2の可動シーブ4を図1のごとく固定シーブ3から遠ざけてプーリV溝幅を広くすると、無終端チェーンリンク1がセカンダリプーリ2に対する巻き掛け径を図1のごとく小さくされ、最ハイ変速比選択状態へと無段変速(アップシフト)される。
【0047】
このとき図1,2に示すように、無終端チェーンリンク1を成すリンク板11の内周縁における可動歯噛合溝11bが可動歯7の歯先7bに噛み合うようになり、セカンダリプーリ2に対する無終端チェーンリンク1のスリップを防止し得て、最ハイ変速比選択状態での伝動効率を向上させることができる。
【0048】
ここで、リンク板11の内周縁における可動歯噛合溝11bと、可動歯7(歯先7b)とが不整列より噛み合い損なうと、可動歯7(歯先7b)が無終端チェーンリンク1の内周縁によりバネ手段9のバネ力に抗しプーリ中心ボス部6の可動歯ガイド溝8内で、図1の位置よりも更に径方向内方へと押し込まれ得るため、無終端チェーンリンク1(リンク板11)が可動歯7(歯先7b)との干渉により損傷されるのを防止することができる。
【0049】
図示しなかったが、セカンダリプーリ2の可動シーブ4を固定シーブ3に対し接近させてプーリV溝幅を狭くすると、
無終端チェーンリンク1は、セカンダリプーリ2に対する巻き掛け径を大きくされ、無段変速伝動機構は最ロー変速比選択状態へと無段変速(ダウンシフト)される。
かかる最ロー変速比選択状態へのダウンシフト中、可動シーブ4は図1においてプーリ中心ボス部6上を図の左方へスライド変位し、歯先7bを介し可動歯7を径方向内方へ押し込みながら当該変位を行うことができ、可動歯7の存在によっても上記のダウンシフトを妨げられることはない。
【0050】
無終端チェーンリンク1による伝動作用中、無終端チェーンリンク1はプーリ間直線部分を、図7に示すチェーンガイド21により走行方向に案内され、無終端チェーンリンク1の走行振動を抑制することができ、これにより騒音の発生を抑制することができる。
【0051】
<実施例の効果>
上記したごとく騒音対策用にチェーンガイド21を設置した場合、無終端チェーンリンク1を成す溝付きリンク板11の内周縁に形成した可動歯噛合溝11b間におけるリンク板11の内周縁尖り部11c(図4参照)が、チェーンガイド21の内周側ガイド部21a(無終端チェーンリンク内周案内面21f)に接触して、これを早期に摩耗させることから耐久性の点で不利になる。
【0052】
しかし本実施例おいては、チェーンリンク幅方向に整列する溝付きリンク板11のチェーンリンク幅方向両側であって可動歯7が存在しない領域に別のリンク板12を設け、これらリンク板12を、内周縁12cに溝付きリンク板11におけるような可動歯噛合溝11bが存在しない溝無しリンク板としたため、
これら溝無しリンク板12が、溝無し故に、内周縁12cの全長に亘ってチェーンガイド21の内周側ガイド部21a(無終端チェーンリンク内周案内面21f)に接触することとなり、溝付きリンク板11の内周縁尖り部11cがチェーンガイド21の内周側ガイド部21a(無終端チェーンリンク内周案内面21f)に接触してこれを早期に摩耗させるという耐久性の問題を解消することができる。
【0053】
しかも本実施例においては、溝無しリンク板12の内周縁11dを図6に示すように、溝付きリンク板11における可動歯噛合溝11bの配列円弧と同じ曲率半径Rで湾曲させたため、
変速制御のオーバーシュートにより図1,2に示す最ハイ変速比選択状態よりも更にロー側への変速が生起された場合において、溝無しリンク板12の内周縁11dは、溝付きリンク板11の内周縁尖り部11cがプーリ中心ボス部6の外周面に接してこれを損傷させるのを防止する用もなす。
【0054】
また同じく図6に示すように、溝無しリンク板12の内周縁12cから、リンクピン挿通孔12aの中心Opに至る高さh2を、溝付きリンク板11の内周縁尖り部11cから、リンクピン挿通孔11aの中心Opに至る高さh1よりも高くしたため、
溝付きリンク板11の内周縁尖り部11cが、チェーンガイド21の内周側ガイド部21a(無終端チェーンリンク内周案内面21f)に接触してこれを早期に摩耗させるという耐久性の問題を解消し得るという前者の効果を一層顕著に奏することができると共に、
変速制御のオーバーシュート時に溝付きリンク板11の内周縁尖り部11cがプーリ中心ボス部6の外周面に接してこれを損傷させるのを溝無しリンク板12の内周縁11dにより防止するという後者の効果も一層顕著に奏することができる。
【0055】
<その他の実施例>
なお上記した図示例では、最ハイ変速比選択状態で無終端チェーンリンク1とセカンダリプーリ2との間のスリップを防止すべく、これら無終端チェーンリンク1およびセカンダリプーリ2間にスリップ防止機構(可動歯7、可動歯噛合溝11b)が存在する場合について本発明の着想を適用したが、
最ロー変速比選択状態で無終端チェーンリンク1とプライマリプーリ(図示せず)との間のスリップを防止すべく、これらの間に同様なスリップ防止機構が存在する場合も本発明の上記した着想は適用可能であり、この適用によっても前記したと同様な作用効果が奏し得られのは言うまでもない。
【0056】
また図示例では、溝無しリンク板12を、チェーンリンク幅方向に整列する溝付きリンク板11のチェーンリンク幅方向両側に設けたが、一方の側のみに設けるだけでもよいし、
更に溝無しリンク板12は、チェーンリンク幅方向に整列する溝付きリンク板11のチェーンリンク幅方向両側に設けるにしても、一方の側のみに設けるにしても、図示例のごとく2個ずつ設けることが必須ではなく、溝無しリンク板12の設置個数は任意である。
【符号の説明】
【0057】
1 無終端チェーンリンク
2 プライマリプーリ
3 固定シーブ
3a 環状切り欠き
3b 環状切り欠き内周面
4 可動シーブ
4a 可動シーブ内周面
5 プーリ軸
6 プーリ中心ボス部
6a 外周条溝
7 可動歯(係合歯)
7a 基部
7b 歯先
8 可動歯ガイド溝
9 バネ手段
11 溝付きリンク板
11b 可動歯噛合溝(係合歯噛合溝)
12 溝無しリンク板
12c 内周縁
13 リンクピン
21 チェーンガイド
21a 内周側ガイド部
21b 外周側ガイド部
21c,21d 橋絡部
21e 枢設部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のリンク板を順次、リンクピンで数珠繋ぎに連結して成る無終端チェーンリンクと、この無終端チェーンリンクを無段変速可能に巻き掛けしたプーリとから成り、
該プーリの中心ボス部外周に設けた係合歯と、前記リンク板の内周縁に設けた係合歯噛合溝との噛み合いにより、該噛み合いが可能な伝動比でのスリップ防止が可能であり、
前記無終端チェーンリンクの少なくとも内周面を、無終端チェーンリンクの走行経路方向にガイドするチェーンガイドを設けた無段変速伝動機構において、
前記無終端チェーンリンクの幅方向に整列するリンク板として、前記係合歯噛合溝が設けられている溝付きリンク板の他に、前記係合歯噛合溝が設けられていない溝無しリンク板を、前記溝付きリンク板よりもチェーンリンク幅方向外側にあって前記係合歯の存在しない領域に設けたことを特徴とする無段変速伝動機構。
【請求項2】
請求項1に記載された無段変速伝動機構において、
前記溝無しリンク板の前記数珠繋ぎ用リンクピンから内周縁までの高さを、前記溝付きリンク板の前記数珠繋ぎ用リンクピンから内周縁までの高さよりも高くしたことを特徴とする無段変速伝動機構。
【請求項3】
請求項1または2に記載された無段変速伝動機構において、
前記溝無しリンク板の内周縁を、前記溝付きリンク板の内周縁に設けられた前記係合歯噛合溝の配列円弧に同径となるよう湾曲させたことを特徴とする無段変速伝動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−82929(P2012−82929A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231181(P2010−231181)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】